HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

何を守り、捨てるか。

2020-03-25 04:12:47 | Weblog
 3月14日、「新型コロナウイルスの感染拡大に備える新型インフルエンザ等対策特別措置法(コロナ特措法)」が施行された。この法律により、時の首相がウイルスの全国的かつ急速なまん延で、国民生活や経済に甚大な影響を及ぼすと判断すれば「緊急事態宣言」を出せる。それを受けて「都道府県知事」は外出の自粛や休校の措置、イベントの自粛を要請できるようになった。また、緊急事態宣言が出されると、興行施設の利用制限の要請、指示、土地や建物を臨時医療施設に強制使用、緊急物資の輸送の要請、指示も可能となる。

 ただ、状況は刻々と変化している。政府の専門家会議は3月19日、「大規模イベントは感染リスクに対応できないなら、中止をしてもらう必要がある」としたが、裏を返せば「対応できれば、可能」とも解釈できる。これを受けて、安倍首相も「大規模イベント等について、専門家会議から主催者がリスクを判断して慎重な対応が求められるとの見解が示されたことから、今後は主催者がこれを踏まえた判断を行う場合には、感染対策のあり方の例も参考にしてください」と、事実上は主催者側の判断に委ねることとした。

 新型コロナウイルス禍の問題は人の移動が制限され、モノやサービスが動かないことによる「経済損失」に置き換わっている。個人所得が減少し不要不急の購買が控えられて、消費が減退しているのだ。国内では倒産する企業もあり、収入が全くない個人事業主もいる。政府は新型コロナウイルスの影響で学校が一斉休校した措置として、一定の要件を満たしたフリーランス(個人事業主)や自営業の人たちに対し、1日あたり4100円の休業補償を緊急対応策に盛り込んだ。

 そんな中、芸能関係の団体からはこの休業額は雇用者向けに出す助成金の上限日額8330円により少ないため、金額を補償を倍増させ、なおかつ休校以外で休んだ場合も対象にするように求められていた。政府の措置は、あくまで「学校の休校に伴うの休業補償」だが、4月以降も感染者が発生すると、地域によってはイベントが中止され、芸能人などの仕事のキャンセルが相次ぐかもしれない。そこで、厚生労働省はフリーランスを対象とした貸付制度に特例を設け、臨時休校と関係がなくても生活資金として最大で20万円まで借りられるようにした。

 福岡市では3月6日から29日まで開催予定だったイベント、ファッションマンス福岡アジアでは、全ての事業が中止となった。また、ファッションマンスに組み込まれた福岡アジアコレクション(FACo)も同日、中止が発表された。そのため、ファッションマンス関連ではショーを予定していたデザイナー、ARAKI SHIROのショーがキャンセル。また、FACoに出演するはずだったモデルの宮本茉由、江野沢愛美や松川菜々花、DJKOOやエグザイルのMAKIDAI、他に数団体のバンドも、すべて出番がなくなった。

 疫病でイベントが中止になるケースは、タレントらの病気や怪我による欠席ではないため、興行保険では担保されず、損害は補償されない。大規模イベントになると、タレント以外に多くのスタッフが関わっており、休業が相次げば経済損失にもつながりかねない。政府が新型コロナウイルスの感染リスクに対応できるなら、大規模イベントの開催を主催者側に委ねる決定をしたのは、刻一刻と変化する状況を見ての判断からだ。

 では、4月以降、大規模イベントは開催されるのだろうか。それには、別の問題が関わって来る。タレントらの感染リスクと損害・休業補償の問題である。FACoやTGC(東京ガールズコレクション)のようなファッションイベントは、ホールやアリーナといった屋内会場になる。ショーに出演するモデル、タレント、ミュージシャンらは、ステージやランウエイで繰り広げるパフォーマンスの他に、バックステージでのヘアメイク、フィッティング、音合わせなどでスタッフと濃厚接触する。もし、ウイルスのキャリアが会場等にいた場合、感染リスクは来場者よりはるかに高いと考えられる。

 万一、イベント終了後にタレントらの感染が判明すると、どうなるのか。医療機関でPCR検査を受けてのことだから、医師によって「イベント会場」で感染したと判断されることもあり得る。そうなると、タレントらは回復するまですべてのスケジュールをキャンセルしなければならず、損害、休業補償などの問題が生じるわけだ。その場合、補償について話し合う場合、当事者の一方が誰なのかである。イベント会社やイベントを業務委託した諸官庁、自治体、経済団体などが推定される。


補償リスクから、TGC東京は無観客開催

 ファッションイベントの場合、主催者自らがイベントを企画・制作するわけではない。ほとんどが外部のイベント会社や代理店などと契約を結んで業務委託する。TGCの場合では、主催は「東京ガールズコレクション実行委員会」で、共催・後援に諸官庁自治体経済団体などが名を連ねている。これらの委託を受けたW TOKYOが企画制作を行い、プログラム内容に合わせてゲストを選考し、契約を結んでいるモデル事務所や芸能プロダクション、音楽事務所から所属するモデルやタレント、ミュージシャンをイベント会場に派遣してもらうのだ。

 問題を整理して考えてみよう。次の3つのケースがある。①イベントが事前に中止されるケース。②イベントが開催されるケース。③イベントでゲストタレントらが感染するケース、である。①の場合は感染リスクはないが、タレントらは仕事がキャンセルされるため、ギャラが発生しないのがほとんど。だから、前出のように関連団体が芸能人に対しても学校の休校以外でも休業補償の対象にしてほしいと、要望したのである。

 ②の場合は、イベント会社がタレントの所属事務所などに「タレントが感染しないように万全の態勢を整える」旨は伝えていると思われる。ただ、大阪のライブハウスでクラスター感染が発生した原因として、専門家からは「狭いスペースに大勢が集まり、楽しくなると騒いで飛沫を遠くに飛ばす可能性があるところ」「熱がある人が咳をしたとき、飛沫が2メートル程度飛びそうで、かつ換気が悪い場所で行われるイベント」が挙げられている。つまり、TGCは限りなく感染リスクが高いということになる。


 
 ③の場合は、イベント会社はタレントの所属事務所などと協議することになる。契約書には「会場での天変地異(地震や水害)で、派遣タレントらが被害を受けた場合」との条項は記されていると思うが、それにウィルス感染のような「疫病」が含まれるかどうかは微妙なところだ。タレントは所属する事務所にとっては「商品」。カネを稼げる大事な商品が損害を受けるわけだから補償の話し合いがこじれると、事務所などがイベント会社、イベント主催者を相手取って、民事訴訟に踏み切ることが無きにしもあらずだ。ただ、主催者といっても、東京ガールズコレクション実行委員会は、法的責任を問える実質の契約の当事者にはなりえない。

 そのため、イベント会社とタレントの事務所などとの間、また実質的な業務委託者である共催・後援者とイベント会社の間で、新型コロナウイルス禍に合わせて契約内容を見直したのではないか。イベントを開催する場合に万一、不可抗力で感染した場合の損害、休業補償はどうするか。さらにSNS等で誹謗中傷された場合までの責任を持つのか。おそらくイベントの中止が相次いだ3月中には、4月以降の開催を想定して新たな条件に加える調整が行われたと思う。仮に共催者がイベント会社が提示する条件変更(業務委託者にとって不利)を飲めないのであれば、イベントの中止も止むなしかもしれない。

 今年2月29日の「マイナビ TGC 2020 SPRING/SUMMER」は、新型コロナウイルス禍による感染拡大につき、厚生労働省の発表を受けて「無観客」で行われた(ショーの模様は動画配信、タレント着用の商品は専用サイトで購入可能)。ただ、東京ガールズコレクション実行委員会やW TOKYOは厚労省の発表(来場者などの感染リスク)を受けて判断したというのは、表向きの理由だと思う。それよりも後援=開催資金を補助する観光庁や東京都、渋谷区の強い意向、冠スポンサー・マイナビのイメージ悪化や同調圧力、そしてW TOKYO自らがタレントらが感染した場合の補償を回避するため、と見た方が説明がつく。

 新型コロナウイルス禍は感染しても発症までに時間がかかり、その間に二次感染、三次感染を引き起こす可能性がある。TGCはライブハウスよりは大きな会場で行われるが、ウイルスの怖さははっきり見えないことにある。終了後にタレントらの感染が判明する可能性もあるわけで、感染症にゼロリスクはありえないことを考えると、いかにリスクを抑える対応を取るか。TGC東京が無観客で開催したのは、それが来場者や出演タレントら、後援する諸官庁や自治体、各種経済団体、主催者やイベント会社、そしてスポンサーにとって、いちばんベストな選択だったからだ。


熊本開催は多選知事の政治決断か




 では、4月以降のイベントはどうなるのだろうか。ネット上では「コンサート中止で3月の収入もゼロ」「新型コロナで貧困に苦しむイベントスタッフ、演奏家」などの見出しが躍っている。イベントで食っている人々にとっては、1日も早く再開してもらわないと死活問題になる。こうした傾向は、4月25日に熊本市で開催予定の「TGC KUMAMOTO 2020 東京ガールズコレクション」も、例外ではないだろう。(https://girlswalker.com/tgc/kumamoto/2020/)

 このイベントは、主催は他会場と同じく東京ガールズコレクション実行委員会であるが、共催は熊本市、TGC熊本推進委員会、後援が熊本県、協力が熊本経済同友会、熊本商工会議所、熊本市中心商店街等連合協議会、企画・制作はW TOKYO、冠スポンサーは鶴屋百貨店となっている。主演者は、女優にも活動を広げている中条あやみや新川優愛、昨年の記者発表に参加したモデルの三吉彩花、タレントのマギー等々、ミュージシャンではAIやDa-iCEなど。こちらでも開催するか否かの協議が行われていると思うが、いろんな利害関係者が絡むため、中止か、延期か、無観客かの決定は簡単ではないはずである。

 政府の専門家会議は、イベントを開催する場合の注意事項を挙げている。それには体温の測定や症状の有無を確認し、具合の悪い人は参加を認めないように要請すること。また、感染が広がっている国を14日以内に訪れた人も参加すべきでないと規定した。会場では手洗いする場の確保、手で触れる場所の消毒などの徹底。入場者数を絞り互いに一定の距離を保つなど密集しないようにする必要性も強調する。また、声援などで大声を出すことを避け、屋内の場合は適切に換気するべきだとしている。

 TGC KUMAMOTOの会場はグランメッセ熊本で、キャパは最大で1万人となる。専門家会議の注意事項にある「入場者数の絞り込み」「互いに一定の距離を保つ」「大声を出すことを避ける」「換気する」を厳守すれば、TGCそのものが成り立たない。もちろん、出演タレントらの感染リスクがあるため、事務所側が派遣に難色を示すことも考えられるし、イベント会社や共催・後援者側がタレントらの感染で被害・休業補償を求められる可能性もある。何より来場者が感染すれば強行開催したからだと、自治体の責任も問われることになる。

 感染や損害、休業補償に対抗するには延期や無観客開催が有効だが、政府や都道府県が開催自粛を呼びかけても、格闘技の「K-1」は3月22日、予定通り決行された。法的拘束力がない自粛要請だったからだ。ところが、23日になって観戦者から発熱症状が出たという報告が厚生労働省にあったという。もし、この感染者が新型コロナウィルスに感染したのなら、強行開催した主催者の責任は計り知れない。

 また、イベントを開催するか否かが主催者に判断に委ねられるとは言っても、東京ガールズコレクション実行委員会は、任意の団体で法人格を有しない。だから、損害・休業補償を訴えられた場合の当事者にはなりえないのだ。結局は共催の熊本市、TGC熊本推進委員会、後援の熊本県などが補償を求められることになるだろう。コロナ特措法の主旨に立ち返ると、最終的には熊本県知事が政治判断することになるのではないかと思われる。



 もっとも当の蒲島郁夫知事は、3月は任期満了に伴う県知事選(告示3月5日、投開票22日)のただ中にあった。と言っても、今回は新型コロナウイルス禍中だったため、通常の選挙活動を封印して公務を優先したが、対立候補に大差をつけて4期目の当選を果たした。

  TGC KUMAMOTOは、蒲島知事が選挙公約に掲げた熊本地震からの創造的復興事業の一つであり、選挙戦の最中から非常に難しい課題だったのではないか。そこで開催について知事がどう対応するかが注目される。今回は地元の鶴屋百貨店が冠スポンサーについたため、初回に比べて自治体色は薄れているが、県をはじめ熊本市が拠出する補助金も、年度早々だから「けつかっちん」にはならない。会場さえ確保できれば、中止はせずに秋ぐらいに延期するという選択肢もある。それとも、TGC東京と同じく無観客開催にするのか。強行開催もあり得るが、クラスター感染にもなれば、就任早々なのに県知事の政治生命を奪うことにもなりかねない。

 新型コロナウイルス禍がいつ終息するのか。現時点では全くわからない。経済活動の停滞も深刻になってきている。政府はいろんな対策を打ち出しているが、ホリエモンをはじめとしたイベント開催派は「ゼロリスクはあり得ない」「同調圧力に屈すれば経済が崩壊する」「中止や延期による莫大な損失が置き去りだ」と、ネット民を中心に開催の自由を訴えている。利害関係者はそうした世間の動向も見ながら、蒲島知事の決断を固唾を飲んで待っているだろう。

 もちろん、憲法で保障されている集会の自由は守られるべきだ。しかし、イベントを開催するのは当事者の自由と叫びながら、感染拡大を阻止して封じ込めができるのか。それとも、自由をプライオリティにした結果、オーバーシュートを起こして東京オリンピックまでも中止にさせてしまうのか。国難とも言える状況だけに、何かを守れば、何かを捨てなければならないのは、当然のこと。改めて日本人の見識が問われている。

追記:このコラムをアップした同日の3月25日、TGC KUMAMOTOは、公式HPで「新型コロナウイルス感染拡大の影響に伴う開催延期およびチケット払い戻しについて」との表題で、延期を発表した。https://girlswalker.com/tgc/kumamoto/2020/news-archives/2801/
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経験則がない経営。

2020-03-18 04:24:26 | Weblog
 洋服の青山を運営する青山商事は、2020年3月期の連結業績予想を下方修正した。売上高は2190億円で純損益203億円の赤字を見込むという。数年来続いているスーツ需要の低迷から、下期(2019年11月〜20年3月)の既存店売上高を前年同期比で8%減と予測していた。ところが、新型コロナウィルス感染拡大で卒業式や入学式が中止されたなどで、下期の既存店売上高が前年同期比の25%も減少する見通しとなったからだ。

 それにしても200億円以上の赤字とは尋常じゃない。最近ではアパレルに限らず、IT企業の決算を見ても、赤字幅の百億円超えは珍しくなくなった。零細企業ならたった数千万円でも潰れるのに、大企業は赤字決算でも即倒産とはならない。庶民感覚からすれば、あまりにかけ離れた数字で、正直ピンと来ない。ただ、大企業が巨額の赤字でも生きながらえているのを見ると、こちらの感覚まで麻痺していくのが怖い。

 では、当の青山商事はどうなのだろう。同社は2019年3月期も、売上高2503億円(前年同期比1.8%減)、純損益57億2300万円(同50.1%減)と、減収減益だった。その前年は売上高2548億4600万円(同0.8%増)、純損益114億6100万円(同0.9%減)だったので、この2期の急落がいかに激しいかということだ。

 今期決算には、アメリカン・イーグル事業を終了した特別損失が84億円、靴の修理を担う子会社ミスターミニットの減損が40億円、他の店舗減損が50億円と合計で174億円が計上されているとは言え、19年度も既製スーツの売上げ不振で、純損益が前年同期比の半分以上落ち込んでいる。このような状況で、すぐさま対策を打ち出さなかった、いや打ち出せなかった経営陣の責任は、重大と言わざるを得ない。



 振り返れば、売上げ数値とは別の角度で洋服の青山を見た時、お客にどこまで必要とされてきたのか。同社は1980年代に既製スーツを販売する郊外店を出店した。当時、百貨店を中心に販売されていたブランドスーツは価格も高く、メジャーにはなりにくかった。そうした市場特性をうまく捉え、手頃な価格の既製スーツを量販して、一気に攻勢をかけた。モータリゼーションの発達で、郊外のロードサイドショップにお客の目が向いたことも味方に付けた。

 バブル経済が崩壊してデフレに突入すると、中国生産の低価格スーツは一気に市民権を得ていった。メディアが価格破壊の業態に注目する中で、定価の90%オフという驚異の激安スーツも取り上げた。イメージキャラクターを務める俳優の三浦友和が「青山は安い」と連呼したCMは、今も記憶に残る。しかし、その理由を詳細に解説するメディアはなかった。

 安さのカラクリはこうだ。既製スーツはカジュアル衣料に比べると、それほど回転の良い商品ではない。せいぜい年2回くらいだろう。郊外店はビジネスやリクルート、各セレモニーを除けば、建設や農業のオッサンたちが冠婚葬祭用に購入する程度。だから、回転はさらに落ちて10年に一度くらいになる。そのため、量販スーツの大半は前年の持ち越しだ。トレンド変化も4〜5年はないので、持ち越し商品に新品を加えれば、MDも売場も何とか体裁が整い、販売に耐えうる。それがスーツ量販店の商法と言っていい。

 バブル経済が終焉すると、リストラやフリーターの増加で、消費が減退。スーツ量販店の売上げがピークに達したのは1994年で、市場規模は6600億円程度だ。これ以降、年々減少が続き、2008年のリーマンショックを経て、10年以降は団塊世代のリタイアも相まって、11年は4000億円を切っている。そして、全労働人口に対する非正規雇用の割合が4割近くを占める現状をみると、百貨店はもちろん、量販店でも既製スーツの売上げが増加に転ずることは考えにくい。洋服の青山とて例外ではないと思われる。


カジュアル化が生む既製スーツ離れ

 バブル崩壊はデフレの他にもう一つアパレル業界に大きな変化をもたらした。「ファッションのカジュアル化」である。百貨店や高級ブランドのスーツやジャケットが売れなくなり、代わってTシャツやジーンズをキーアイテムにした渋カジやフレンチカジュアルなどが登場。ドレスコードが決まった装いから、自由気ままに着こなせるストリートファッションが一躍アパレルの主役に躍り出た。

 青山も1994年にはカジュアル業態「キャラジャ」を出店。しかし、スーツに特化してきただけに社内ではカジュアルを手がけられる人材が育っておらず、売場を見てもベンダーから格安アイテムを持ってこらせて並べただけで、しっかりしたマーケティング戦略のもとにMDを構築した業態ではなかった。結局、大都市圏への進出もはたせないまま、同社は2016年末、「5年後を目処に全店閉店する」と発表した。

 2010年、青山商事が住金物産と共同で設立した「イーグルリテイリング」がFC権を獲得したのが「アメリカン・イーグル・アウトフィッターズ」だ。12年4月に開業した東急プラザ表参道原宿に1号店を出店。その後も出店を重ね、16年には30店舗、148億円まで売上げを伸ばしたが、その後は既存店の減少が続き、18年は120億円まで急落。これを受けて全商品で値下げを断行し、ポロシャツなど全体の3割を日本人の好みに合わせた独自仕様の商品を投入する打開策をとった。

 青山社長はこの時、「下火のアメカジ人気を復活させる」と、メディアに向かって言い放った。しかし、その時すでに日本のカジュアル市場は、スポーツとアウトドアをリミックスした「アスレカジュアル」が浸透しており、本家アメカジが受け入れられるような素地はほとんどなかった。結局、青山社長のテコ入れも実らず、1年後の19年年末には国内全33店舗の閉店を決め、事業撤退を表明した。

 他にも郊外店の駐車場の余分なスペースを活用して、ラーメンや焼き肉のFC店を運営したり、都市型店舗に100円ショップのダイソーを併設したりと、複合化で集客力の強化を狙ったものの、それらも急落するスーツ販売をカバーするにはあまりに遠いと思われる。打ち出す施策のすべてが全く奏功しないのだから、トップの青山理社長はじめ経営陣は、本当に戦略を練りにねったのか、場当たり的ではなかったのかと、疑いたくなる。


オーダーの赤海に飲み込まれる



 一方、縮小するスーツ市場の中での光明を見いだすとすれば、スポーツ系メーカーが売り出した「アクティブスーツ」、また採寸からIOTを駆使し短納期で仕立てる「パーソナルオーダー」だろうか。特にアパレルメーカーのオンワード樫山HDが先鞭を付けた「カシヤマ・ザ・スマートテーラー」は、採寸から納品まで1週間という短納期がお客に受けて人気が急上昇。昨年11月には30万通りのパターンを揃えるレディスパンプスの新ラインを投入。アパレルメーカーが持つ製造ノウハウを多面的に活用して、新たな市場の開拓に力を入れる。

 青山も2016年に展開を開始したユニバーサルランゲージ・メジャーズに続き、オーダーブランドとして「クオリティオーダー・シタテ」を開発。洋服の青山の都市部を中心とした主要20店と「ザ・スーツカンパニー」の56店に導入し、昨年10月7日から受注を開始した。ユニバーサルランゲージ・メジャーズで採用した独自開発の3D仮想試着システムによるデジタルコーディネートや、1,000種類以上の豊富な生地バリエーションを踏襲。価格を2万9000円〜に抑えて、オーダー初心者の開拓に乗り出した。

 ただ、これらもオーダー=誂えではなく、注文者の体形に合わせて既製パターンを利用するに過ぎない。青山のデジタルコーディネートは注文者の顔や全身を撮影し、生地の画像を重ね合わせて出来上がりイメージを作り出すもの。店舗が揃える生地もスワッチ程度で、反ごと確認できるわけではない。お客にとってはオーダーという名称から既製品よりは、体形にフィットし着心地が良さそうに感じるが、実際のところは仮縫い無しだから限界がある。目下、パーソナルオーダーには大手から零細業者までが乱立し、価格競争の様相を呈している。お客からすれば、何を基準にしてどこに注文すればいいのかが、非常にわかりにくい状況なのだ。

 実際にお客がオーダーに求めるニーズは様々だ。「着心地を重視したい」「生地からじっくり選びたい」「すぐに着られるものが欲しい」「オーダーでも安いに越したことはない」等々。ただ、青山がそれらのニーズに対してどこまで対応しようとしているのかはわからない。「スーツ販売、世界一」という栄光に囚われオーダーでも量や規模を追うのなら、結局、効率追求から離れられず、質の低さが危惧される。それでオーダースーツバトルで勝者となり得るのか。それとも、納期を遅らせIOTに逆らっても、アナログな「仮縫いサービス」などの付加価値をつけるのか。独自性や差別化にどこまで踏み込むのかが勝負の分かれ道と言ってもいい。

 仮縫いサービスについては、オーダー受注のスタッフが仕立て職人の専門研修を受けるのはもちろん、注文者の全身をレーザースキャナーで計測し、体形のサイズデータを落とし込んだ仮パターンを自動カットして仮縫いを仕上げる(仮縫いはシーチングで行う)まで、踏み込まざるをえなくなるのではないか。旧来の誂え技術の中で、できるだけデジタルに置き換える部分と、人間の手先で行う部分をうまく組み合わせたシステムとでも言おうか。

 「手間やコストがかかることはしない」。のであれば、量販既製スーツの市場縮小、キャラジャやアメリカン・イーグルの失敗、異業種協業の苦戦といった数々の躓きが、その後の経営には全く生かされていないように映る。すでにオーダースーツには、店頭在庫を抱えなくていいとの理由から、大手から零細業者までが参入しているわけで、レッドオーシャンになるのは目に見えている。これまでの青山を見れば、その波に飲み込まれてしまう可能性もある。もし3期連続の赤字決算ともなれば、銀行筋から青山社長の経営責任を問う声が出てきてもおかしくない。

 洋服の青山がバブル前後から郊外店の出店攻勢をかけられたのは、「コネがあった外資系金融機関から低利で融資を受けられたから」。当時、アパレル業界ではまことしやかに語られていた話だ。青山社長は赤字決算が続いてもこうしたバックボーンがあるから、乗り切れると思っているのか。それとも、東大に通うご子息に経営権を譲るまで、何とか時間稼ぎをするつもりなのか。ただ、洋服の青山が小売業である以上、市場、お客のニーズにきめ細かく対応しなければ、生き残ることが難しい時代であるのも確かなのだが。
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後発の強みはない。

2020-03-11 06:55:38 | Weblog
 商業界オンラインが3月4日に「ワークマン包囲網が形成されている!」という記事を配信した。(http://shogyokai.jp/articles/-/2526)同社の媒体でチェーン店ビジネスのノウハウを提供する「販売革新」(以下、販革)が2020年2月号で掲載した記事のネット版だ。販革は定期購読しているわけではないが、目下注目のワークマンはメディアが取り上げるとつい目がいってしまう。

 販革の記事にある通り、ワークマンの潮目が変わったのは、建設技能労働者などプロ客に向けて作業服や安全靴、作業用品が団塊世代の引退で減少したことだ。これを機に戦略の見直しを余儀なくされ、2014年には中期業態変革ビジョンを策定。それまでのベンダー(納入業者)からの商品供給を改め、ウエアを主体としたPBの開発をスタート。ここで生まれた商品の防寒・防暑・防風・防水、動作性といった秀逸さがSNSなどで話題になり、ターゲットをプロ客だけではなく一般消費者にまで広げる戦略にシフトした。

 16年からはPBを用途別にアウトドアウエアの「フィールドコア」、スポーツウエアの「ファインドアウト」、釣りやバイク乗車時にも使える防水ウエアの「イージス」の3つに編成。19年からは一般客向けに3PBを軸にした新業態「ワークマンプラス」の展開を始めた。その後の快進撃は、各メディアがたびたび取り上げる通りだ。

 では、タイトルの「包囲網」はどうなのだろう。記事は「スポーツ・アウトドア系の高機能ウエアの低価格帯市場は空白で、その潜在市場は4000億円とにらんで、同社はワークマンプラスで参入。1000億円、25%のシェア獲得を目指している」。「土屋専務は『今期は主力3PBとPB『ワークマンベスト』で売上高400億円、10%のシェアになりそうだ』と言う」との上で、「他社も黙ってはいない。すでにその兆しが表れている」と、書いている。





 その一つが筆者の地元福岡のホームセンター(HC)「ナフコ」だという。ルーツは深町家具という家具店で、今もTWO ONE STYLEという家具業態を展開し、出店先によってはナフコとの複合展開もある。筆者はDIYが趣味なので、同じHCのハンズマンと並び工具の物色、ネジやサンドペーパー、ペンキなどの購入で、ナフコは月2〜3回は訪れる。確かに昨年12月に福岡県筑紫野市にオープンした「フィールスカイ」では「高機能リーズナブルウエア」を販売していた。また、記事には書かれていないが、ナフコ自体でも冬の間は同ブランドの防寒衣料の一部を店頭展開していた。

 筆者が福岡市近郊の店舗で見たのは、10坪にも満たない売場で展開された「モノクロ迷彩のダウンジャケット」や穿きやすそうな「暖パン」だった。一目でガテン系のおっさん向けにしてはあまりにこ洒落ていたので、「ナフコもワークマンプラスをかなり意識したな」と思った。ダウンジャケットはワークマンの同等アイテムに比べると、表地がしっかりしシックな色合いでファッション性も高い。タウンユースにもぴったりだと、ユニクロより好感が持てた。暖パンは光沢のある素材(多分ポリエステル)で、目もつまり防寒性は十分。冬場の屋外作業だけでなく、物流センターの低温倉庫でも、通年で着用できるとの印象を受けた。

 フィールスカイの全アイテムを細かくチェックしたわけではないが、レギュラー店に展開されていたアイテムは、それほど動いている様子はなかった。やはり、業態がHCだから半径10km程度の広域商圏でも、来店動機はプロ客が道具や資材で、一般のお客は家庭用品や収納、生活家電、文具類、種苗、あとは消耗品の購入に止まる。毎冬にはヒートテックを睨んだ防寒用の下着や靴下を展開しているが、これらも好調に売れている風には見えない。

 ナフコの客層はプロか、一般消費者で、資材や消耗品の購入がメーンだから、衣料品にそこまで目が行くとは思えない。ついで買いも難しいだろう。だから、ワークマンとの勝負するのは、あくまで新業態のフィールスカイそのものになる。ただ、ここもまだわずか2店舗しかない。商品はワークマンより優るものもあれば、劣るものもある。だが、カテゴリーの広さや奥行き、カラーバリエーションではワークマンには遠く及ばない。

 ナフコは北は宮城県から南は鹿児島県まで全国359店舗を展開する。プロ客を固定化し、カード会員も獲得している(筆者も)ので、そうした顧客にいかにフィールスカイをアピールするか。フィールスカイの店舗数が10店、20店と増えていくまでは、並行してレギュラー店での展開やアピール策などが必要ではないか。

 販革の記事は、同じく福岡に本部を置く「Mr.Max」が「アクティブウエアの取り扱いを拡大する」ことも取り上げている。ジーンズカジュアルの「ジャックコーポレーション」(金沢市)が既存店を業態転換した高機能、低価格の「ジャックワーク」(昨年10月で25店)、作業着の「たまゆら」(大阪府枚方市)がイオンモール鶴見緑地店に出店した「たまゆらアスレ」と合わせ、「『ワークマン包囲網』が形成されつつある」と、結んでいる。


強固のフォーマットは崩せない

 確かに、ワークマンが好業績(既存店売上高は昨年9月が前年比16.1%増、消費増税の10月はさらに23.8%増)を上げているのだから、他社も指をくわえてはいられない。おまけにアパレル各社はジリ貧状態なので、新業態の開発には血眼になっている。ワークマンプラスがあれだけ一般客に売れているのを見れば、「うちにだってできなくはない」「それだけの市場規模があるなら、攻める価値はある」と、他社が色気を出しても不思議ではない。

 ただ、根本的な「格差」を見なければならない。ワークマンプラスが快進撃を続けているのは、プロ向けで培ったもの作りと値付けに見られる絶対的な競争力にある。常に市場調査から設定した売価を絶対基準とし、その売価を超える商品は作らないこと。また、原価が抑えられるなら、設定売価を下回る価格で平気で販売する。低価格商品なのに原価率は64%と非常に高いから、売れるのだ。これは原価を20〜30%に押さえて安く作り、売れ残りロスや広告宣伝費をかけて売るブランドアパレルとは大きく異なる。

 なおさら、原価率が高くても利益をあげられるのは、独自開拓した中国や東南アジアなど海外工場との「直接取引」にある。社内の海外商品部が中国や東南アジアなどの工場に自ら足を運び、取引先を開拓。商品は仕様書発注に基づき、それらの工場で生産する。また、取引を見直したベンダー約150社のうち、主力の国内ベンダー31社とはオンラインで直結。ワークマンが需要予測に基づいて毎週商品ごとの希望納品数を発注し、ベンダーはデータなどを参考にして数量を決め、自主納品している。

 海外商品部は、総勢30名のうち10名が社内デザイナーという陣容。企画担当には大手セレクトショップでMDを経験していたスタッフも加わっている。あのカラフルな色合いや女性受けするスタイリッシュなデザインは、セレクトショップの商品企画が生かされているのだ。

 加えて、広告宣伝費も最低限に抑えている。一般のアパレルの場合、原価に占める広告宣伝費の割合は3%前後だが、ワークマンは0.4%(19年3月期・営業総収入に占める割合)と非常に低い。そして、基本的にセール販売をしない。プロ向けの作業服や安全靴、作業用品は機能性を重視されるため、流行がない。そのため、在庫処分の必要がなく、常時定価で販売できる。端から売価を低くしても利益を確保できるのだ。

 つまり、ワークマンのビジネスモデルでは、企画から生産、管理、販売までの「強固なフォーマット」ができ上がっており、その競争力は絶大だ。それを真似事レベルの数社が取り囲んだところで、到底攻め落とせるとは思えない。ワークマンプラスは、ロードサイド店のスクラップ&ビルドを含め30店が新店。既存店の全面改装が27店。ワークゾーンと一般客向けゾーンを分けて買いやすくした改装は93店と、すでに157店にも拡大している。

 つまり、盤石な戦術と戦略ができ上がっているわけで、他社が参入してくれた方が却って攻め返す手応えを得るのではないか。そう考えると、高価格帯のナイキやアディダス、海外のアウトドアブランドにまで影響が出始めていてもおかしくない。2号店で関東に進出するデカトロンは、あくまで棲み分けを狙うのか。





 アパレルの歴史を振り返ると、快進撃を続けて好業績をあげる先発企業を後発はいろいろ研究できるため、優位にビジネスが展開できると、勘違いした例が多い。西友のPBからスタートした無印良品に挑んだダイエーの愛着仕様しかり、ユニクロの店舗デザインを真似したダイエーのPASしかりである。まあ、そのユニクロも香港のジョルダーノをパックったという見る向きもあるし、初期の店名「UNIQUE CLOTHING WAREHOUSE」や内装は、1980年代にニューヨークのソーホーにあったストリートファッションの店舗とそっくりそのままだ。

 もっとも、無印良品やユニクロを見ると、後発企業はどこもその牙城を切り崩せていない。ワークマンもそうだと思う。後発企業にベンダーがパクリ仕様の模倣商品を持ち込み、バイヤーが丸め込まれたところで、ワークマンの絶対的な戦力、戦略の前に歯が立つはずもない。ナフコがワークマンに挑むなら、商品政策でも店舗展開でもより優れたのものを見せなければならない。まして、Mr.Maxは過去にPBアパレルを投入した時期があるが、結局は軌道に乗せることができなかった。今回も小手先の企画のように思えてならず、売場の中での埋没する可能性が高いから、マーケットを掘り起こせるとは思えない。


 真似るだけなら包囲はできても、勝利することは難しい。ワークマンとは違った独自性のあるビジネスモデル、フォーマットを考えることが先決ではないかと思う。

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店子苦しめ勝機なし。

2020-03-04 04:33:51 | Weblog
 「政府や公取委と対峙しようとも必ず実行する」。これは楽天の三木谷浩史社長が出店者を集めた会合で、「送料無料」について語ったフレーズである。楽天が3月18日からの導入を予定する送料無料は、購入額「3980円以上」を対象にしたもの。三木谷社長は 1月になって「送料込み」に変更したが、送料分は出店者の負担になるため、無料に変わりない。

 出店者で作る楽天ユニオンはこれを「優越的地位の濫用」だと抗議し、公取委は2月10日に楽天を立ち入り検査。28日には独禁法が定める不公正な取引方法に当たるとして、東京地裁に「緊急停止命令」を申し立てた。法令違反の疑いがある行為を放置したままでは、競争秩序を著しく侵害し、出店者が違法状態から回復するのが難しくなるからだ。公取委は出店者の切羽詰まった状況を慮ったと思われる。

 楽天側は「裁判所の手続きに適切に対応する」としつつも、「本施策(送料無料)に関しては法令上の問題はないと考えている」と弁明した。ただ、この施策で楽天市場からの退店を検討する店舗には出店料の返金を実施し、出店継続の店舗にも支援策を講じるというが、その内容がどの程度のものかはわからない。

 確かに送料無料はお客には魅力的だ。しかし、それを出店者が負担するとなると、コストになってしまう。そのツケは結局、お客に回る。楽天市場のようなECモールに出店すれば、他にもシステム利用料(楽天は5%で、Yahoo!の3.5%より高い)が徴収される。さらにお客がスマホ決済を利用すると、追加の手数料が取られる。出店者にとっては、利益がどんどん削られていくのだ。

 さらに楽天は一方的に規約を改正し、送料なども追加手数料を課している。とにかく、「取れるところから取れ」という考えなのだろう。ここまでがめつくなると、出店者との共存共栄の精神は微塵もなく、「誰のお陰で商売できているのか」という横柄な態度さえ感じられる。仮に三木谷社長がそんな意識なら、ゾゾタウンの前澤友作元社長が呟いた「タダで届くと思うんじゃねえよ」と、大して変わらないレベルだ。

 今やECを取り巻く環境は激変している。競合他社が次々と参入し、サイトの機能や利便性、使い勝手を顧客目線で工夫している。Amazonがブランド力、規模ともに世界ダントツなのは変わりないし、国内でも自社ECに切り替えるところが出てきている。ここまで来ると、楽天市場は単なる「場所貸し」に過ぎず、自社でECを整備できない零細事業者の集まりでしかない。公取委はそうした出店弱者の立場を見過ごすわけにはいないのだ。

 今回の措置に対して「経済・企業が成長する過程で、そんなものを横車で通してよいわけが無い」「優越的地位の濫用と言っても、出店者が依存しまくったからその地位を得たわけだ」という批判的な意見がある。しかし、プラットフォーマーは楽天のような出店者数だけでは優位になれず、競争力も持てない段階に移っている。加盟店の売上げを向上させるための画期的な施策も打ち出せず、送料無料でしか勝負できない無策ぶりの方が問題なのだ。



 語弊がないように敢て利用者の立場で言えば、最近の楽天市場は出店者を増やすためか、新品も中古品もごちゃ混ぜてアップしている。知り合いの出店者の話では、サイトにアップする商品画像の背景を「白にするように」という一方的な要求までされたという。Amazonや他社に対抗するために画像も統一したいのだろうが、ならばゾゾのように「フルフィルメント型」に移行し、自社で「ささげ業務」もこなせばいいだけの話だ。

 また、店舗ごとのデザインが整理されておらず、統一感がない。キーワードで検索すれば、必要でない商品までアップされて、かえって探しにくい。「商品は何でもあるが、肝心な欲しいものが見つからない」。「場末のGMSかよ」って突っ込んでやりたくなる。サイトのデザインが見にくく商品が探せないのは、ネット通販戦国時代では致命傷ではないのか。

 ファッションに特化した「Rakuten Fashion(https://brandavenue.rakuten.co.jp/?scid=s_kwo_2014test_test)」は、2016年にスタイライフを統合してブランドのバリエーションが増え、人気は上がっているようだ。でも、利用者からすればゾゾや各ブランドサイトがあるから別にこれでなくてもいい。逆に楽天市場から移動した出店者がいて、本体の人気が落ちているのは全く皮肉な話である。


赤字のしわ寄せがネット事業に

 楽天は2月13日、2019年12月期連結決算を発表した。売上収益は1兆2639億3200万円(14.7%増)に対し、営業利益は727億4500万円(対前年比57.3%減)の増収減益となった。内訳は、インターネットサービス事業が売上収益7925億1200万円(対前年比17.1%増)で、利益907億3800万円(同15.8%減)。フィンテック事業が同4863億7200万円(同14.6%増)で、同693億600万円(同2.1%増)。モバイル事業が同1198億800万円(同33.3%増)で、同マイナス600億5100万円だった。

 結局、モバイル事業が足を引っ張り、楽天は8年ぶりに最終損益が約319億円の連結赤字に転落した。日本で4番目の通信キャリアを目指してはいるが、基地局の数は携帯各社が20万局規模を誇るのに、楽天はこの3月末でやっと4400局になる程度。東京や大阪、名古屋以外はKDDIの回線を借りているので、状況次第で通話に支障が出る。

 しかも、キャリア各社がこの3月から次世代通信規格の5Gサービスを開始する予定なのに、楽天は速度で100分の1、容量で1000分の1と大きく劣る4G止まり。いくら月額2980円の格安携帯を謳っても、どれだけのユーザーが乗り換えるかは懐疑的だ。にも関わらず、今後も通信分野には6000億円を投資をするというから呆れてしまう。その分の原資をインターネットサービスの売上げ増で賄うために、送料を無料にする意図がありありなのだ。

 Amazonは自ら商品を抱えてお客に直販している。ネットの先には世界中のコンシューマーがいるとの意識だから、積極的にニーズを収集してサービスを充実させている。それでも、他社との差別化が難しくなったため、米国内ではレジレスで商品代金が自動計算されるコンビニ「Amazon Go」を展開するなど、デジタル技術を生かした実店舗に移行中だ。

 それに対し、楽天は画期的なビジネスモデルを生み出しているのだろうか。事業はインターネット、金融、通信の他には信販、旅行、球団、海外でのEC、デジタルコンテンツなどだ。それらも新規事業をゼロから立ち上げたわけではなく、カネにものを言わせてM&Aなどで傘下に収めただけ。しかも、すべてが順調に売上げを伸ばしているとは言いきれない。総売上高の6割を稼ぐインターネット事業ですら、送料無料で出店者の反発を招いた挙げ句にお上に楯突くようでは、三木谷社長の経営手法も限界にすら見えてしまう。

 ECに限って言えば、成熟期に入ったことから、お客は「現物を確認してから購入したい」、宅配料が値上げされたため「店舗またはお試し拠点で受け取りたい」という意識に変わってきている。つまり、C&C(クリック&コレクト)サービス、受取&お試し拠点を拡充する段階に入っているのだ。手っ取り早く送料を無料にすれば、売上げが増えると考える方がECの変化を全く理解していないことになる。

 Amazonですらマーケットプレイスで1円の中古本を購する時、プライム会員でなければ送料が400円かかり、代金は401円となる。ところが、「Book Offオンライン」は店舗受取が可能なので、送料はかからない。中古本がAmazonでは最低400円以上かかるのに、その半額の200円くらいから購入できる。これは店舗ネットワークや物流網が整備されているから可能なのだ。利用者が学習してどんどん賢くなっていることを考えると、プラットフォーマーには出店者に負担を強いる送料無料より、物流を改革する施策が求められるのではないのか。


価格の不当表示?は以前にも

 思えば、今から20年ほど前のEC勃興期には、筆者も楽天市場をよく利用した。しかし、ある経験をきっかけに楽天を信用しなくなってしまった。一つは、2006年くらいに知り合いのデザイナーから聞いた「詐欺まがい」の一件である。

 彼は当時、出始めたSONYの「一眼レフデジタルカメラ」を、楽天出店の某店が安かったため購入し代金を振り込んだ。楽天に出店しているので、安心したわけだ。ところが、商品は送られてはこなかったという。その後、同時期に同じ店舗で購入したお客が同じ状況をネット上で呟いたことで、いつの間にか被害者の輪ができていった。個々で楽天に問い合わせたが、「お客の自己責任で、一切補償はしない」と、楽天から突っぱねられたことも共通した。

 出店者管理の杜撰さに業を煮やしたお客たちはネット上で被害者団体を結成し、泣きに入りせずに楽天側と交渉を開始した。そして、「楽天市場に出店する店舗が先に商品代金を振り込ませたのに、お客に商品を送付しない詐欺まがい事件が発生」という情報がネットで拡散。そのため、楽天側がブランドの毀損や信用不安を怖れて折れ、お客はみな被害額を補償してもらえたという。被害者となったデザイナーが「Yahoo!なら難なく補償してくれるのに」と語っていたのが印象的だった。

 二つ目は、筆者が閉口した姑息なビジネス手法だ。2013年に楽天イーグルスが優勝した時のセールでは、商品の割引率を高くして安さを訴えたが、元の価格を吊り上げるという独占禁止法に抵触する問題が発生した。おそらく、担当営業が考えた稚拙な手段だったと思うが、三木谷社長は記者会見で「一部の店舗が行った行為」と、我関せずの釈明に終始した。だが、筆者はそれ以前にこのケースを目の当たりにしていた。

 2008年頃、事務所のある備品を買い替えるため、ネットで調べるとどの店もプロパー価格はほぼ一緒なのに、楽天は同じ額を「セール価格」として打ち出し、60%OFFの表示をしていた。まったくセコい商売しているなと感じた。三木谷社長が優勝セールでの釈明をした時も、モール運営者自らが「確信犯じゃないのか」と思ったものだ。そんなこんなで、楽天では過去10年ほど全く買い物していない。

 ECは「マーケットプレイス「受注・宅配委託」「フルフィルメント」と、いろんなタイプが登場している。出店者はこれを機に販売や発送に関わる業務の分担、手数料などを冷静に考えて、自店が進むべきECの方向性に合わせて修正していくことが重要だ。送料無料程度の施策しか打ち出せない場所貸しの楽天を選択続ける理由も、乏しいのではないかと思う。

 「経済成長のためには誰かが痛みを味わっていかなくてはいけない」。それは強者のプラットフォーマーによる弱者の出店者への一方的な押し付けでしかない。行為の性質それ自体が抑圧的でもあることから、社会的に非難されて当然と言える。Amazonとまともに対峙できない楽天が何おか言わんやである。赤字決算、高々320億円程度のフリーキャッシュフロー、これからの事業の行方を見れば、楽天の化けの皮が剥がれることは無きにしもあらずと思う。
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