HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

原点を変える発想。

2022-05-25 06:25:34 | Weblog
 新型コロナウィルスの感染拡大で影響を受けた事業者には、鉄道や航空といった旅客輸送がある。各事業者ともコロナ禍以前と比べ20年、21年の2年間は概ね赤字決算となっている。だが、感染者数が減少し自粛生活が緩和されて、人の動きが活発になると利用者は回復する。当然、旅客収入のアップにつながり、決算にも好影響をもたらす。

 筆者が住む福岡でも先日、鉄道会社2社が2022年3月期の決算を発表した。まず、JR九州は、前期は189億円の赤字だった最終損益が今期は132億円(連結営業収益は3295億円)の黒字。(https://www.jrkyushu.co.jp/company/ir/news/__icsFiles/afieldfile/2022/05/10/9142.FY2022.4q.quarterly.ja_1.pdf)コロナウィルスの感染拡大で旅客収入が落ち込み、上場後初の最終赤字に転落した前期から回復し、加えて保有不動産を投資信託(REIT)に売却したことにより、連結では2年ぶりに黒字転換を果たした。

 西日本鉄道(以下、西鉄)は、前期120億円の赤字だった最終損益が今期は98億円(売上高4271億円)で、こちらも黒字となった。(https://www.nishitetsu.co.jp/pdf/ir/kessan/t20220512.pdf)鉄道やバスの利用が前期から回復したことに加え、マンション販売などが好調だったことがある。ただ、JR九州はコロナ禍以前の20年3月期に比べると、売上げの回復は7割台に止まるのに対し、西鉄は連結決算を導入した1978年3月期以来、過去最高を記録するなど明暗を分けたかたちだ。

 では、両社が直接物販に携わる流通小売り、アパレルや雑貨などのテナント賃料で稼ぐSC事業はどうなのか。JR九州は今期決算で「JR博多シティ」が3年ぶりに増収となったが、コロナ禍以前に比べると7割の水準で、他の駅ビルはそこまでに至っていない。西鉄は流通小売りやSC事業別の発表はないが、レジャー・サービス部門はやはり営業赤字となっている。両社とも「物販」「飲食」に限れば、まだまだ厳しい状況だと思われる。

 政府は6月1日から入国者の上限を2万人に拡大し、国や地域の陽性率に応じて空港の検疫体制を緩和すると発表した。これによりインバウンドが回復すれば、鉄道事業者にとって流通小売りやSC事業の売上げも揺り戻すとの見方もできるが、それはあくまでプラスαだ。駅ビルは乗降客が通勤や通学の途中に気軽に立ち寄れるものの、九州ではテナントの顔ぶれは出揃い、そろそろ陳腐化してきている。

 駅ビルに出店するアパレルや雑貨のほとんどがECにも対応している。消費者にもサイトで商品を見て他と比較検討し、現物確認や試着を必要とすれば訪店する買い物行動が定着した。オムニチャンネルとクリック&コレクトによるショッピング様式だ。それがここ2年の自粛生活でますます恒常化している。端から「駅ビルのあのショップに買いに行こう」という意識はだいぶ薄れているのではないか。

 逆にECに対応しないこだわりのブランドや希少なアイテムは、駅ビルや都市型SCには出店しない。それらでは固定費や歩率家賃が嵩むこともあるが、路面やストリートの方が商品にあった店づくりや商売をしやすいからだ。こうした商品を望む消費者側もリアルな商品に触れれたいがために、わざわざ出向く傾向にある。消費者の購買行動の二極化と、リアル店とバーチャル店の使い分け。もう目的や理由がなければ、消費に結び付かなくなっている。

 大手百貨店が「売らない店」を導入し、D2Cブランドを展開したのもそうだ。デザイナーの世界観や作風、商品開発者のこだわりなどの価値が商品購入には重要と気づき始めたからだ。「意味をもつ商品」ほどアルゴリズムでは語れない。だから、リアル店舗の重要性が増す。ユニクロのような実用衣料、Amazonのようなグローバル展開なら、広大なマーケットを背景に価格競争力で勝負できるが、駅ビルや都市型SCに同じような事業展開は不可能だ。



 JR九州は九州新幹線や観光列車を除き、在来線では赤字路線が旅客収入の足を引っ張っている。駅ビルは乗降客が支えるのだから、これが増えないエリアでは売上増は非常に厳しい。宮崎駅ビルのように「わざわざ出かける」をコンセプトで若者のデートコースに位置付けたところもあるが、リピートさせるには飽きられない仕掛けが必要になる。まして、若年層の人口が増えない限り、駅ビルを訪れる客が増えることはない。

 先日、JR四国は2020年度の収支で、全路線が赤字だったことを発表した。関係者は相当な衝撃を受けたのではないか。JR九州も沿線人口が減少しているところでは、乗降客増は見込めない。観光やインバウンドの復活がどこまで駅ビルの収益回復につながるかは不透明だ。ユナイテッドアローズは「駅ナカ業態」の全店で営業を終了した。出店する側も方針を変えている。なおさら、九州域内のマーケットを考えれば、右肩上がりの成長は期待薄なのだ。


小売りやSC事業に代わる柱が不可欠



 では、人口が増加する福岡市の天神に駅ビルを持つ西鉄が有利かと言えば、そうとも言えない。鉄道やバスの利用が回復しても、前出のように消費者の行動変化で物販が今以上に増えるとは考えにくい。加えて天神には百貨店が3店舗。SCはソラリアプラザの他に3店舗(再開発で天神コア、天神ビブレは解体、イムズは閉館)。大型専門店はバーニーズニューヨーク福岡店。商店街は天神地下街と新天町がある。隣接する大名や今泉には路面店も多く、ファッションストリートを形成する。商業施設、小売店がひしめき合う一大競合エリアである。

 商圏規模は九州全域に及び、足元人口を超える集客力があるのは確かだが、こちらもビルインのテナントは出揃った感が否めない。消費者として本当に欲しいものを探すとなると、やはりネットに頼ることになる。駅ビルだからお客が来て物が売れるは、すでに幻想になりつつある。その点で、西鉄は注力した「国際物流」が好決算の要因となり、今や企業の屋台骨を支えるまでになっている。流通小売りに頼れないという経営判断がそうさせたのだろう。

 一方、JR九州は民営化以降、経営多角化の一環で「am/pm」のエリアフランチャイジーとなり、コンビニ運営に乗り出した。だが、本部がファミリーマートに吸収合併されたため、看板の架け替えを余儀なくされた。当時は岩田屋もファミマのエリアFCだったため、福岡県内ではカニバリゼーションで店舗再編に憂き目にあっている。

 また、現西友社長の大久保恒夫氏がコンサルティングした「ドラッグイレブン」を傘下に収めたものの、郊外店は100円ショップ「キャンドゥ」を合体させても苦戦続きで、成長軌道には乗せられなかった。後発の「コスモス薬品」が飛ぶ鳥を落とす勢いで関東進出まで果たしたのとは対照的に、株式の過半をツルハに譲渡する羽目になった。

 コンビニもドラッグストアも駅から離れたフリースタンディングになると、思ったほどの経営ができない。鉄道会社の脆さを露呈する。なのに今度は菓子店「シャトレーゼ」のFC展開に乗り出す始末。勝ち馬に乗りたい企業体質は変わらず、失敗から何も学んでいない。こうした点は、物言う株主や外国人投資家も見逃さないのではないか。

 20年夏の豪雨で被災した肥薩線の復旧費用(約235億円)は、大半を国や地元自治体が負担する方向で調整が進む。しかし、災害はまたいつ起こるかわからない。地元は赤字路線の肥薩線を観光資源の柱に位置づけ、高齢者の免許返納による交通手段、それらを駅ビルに誘客できるなどの理屈をつけている。しかし、観光列車を復活・運行させたところで、赤字を埋めて有り余るリターンが得られるのか。JR九州が一番分かっているのはそこだ。



 鉄道事業者だから列車や駅にこだわることこそ、時代遅れではないか。今こそ、原点から脱皮する経営戦略が不可欠なのである。例えば、すでに人が乗れる「パッセンジャー・ドローン(タクシー含む)」が開発されている。これを利用して空港から渋滞を避け、観光地まで飛ばすサービスはどうか。佐賀空港から呼子に飛んでイカを食べる。熊本空港から雄大な自然を楽しみながら阿蘇や天草に行く。長崎空港から軍艦島に上空を飛んで朽ち果てる姿を見守る。

 九州各地のロケーションを眼下に眺めるのは、宇宙旅行よりリアリティがあり新たな観光の目玉になる。JR九州は韓国の釜山と博多を結ぶ高速船「ビートル」を運行している。陸と海の交通手段をもつのだから、これに空が加わってもおかしくない。コスト面は運賃を変動させるダイナミックプライシングで吸収すればいい。もう低価格のツアー旅行者を狙っても収益は上がらない。むしろ、旅客輸送事業者としてリスクヘッジもできる点で理想的ではないか。

 奇しくも、1967年公開の映画「007は二度死ぬ」では、ジェームズ・ボンドが霧島山新燃岳の上空で空中戦を演じるシーンが撮影された。(https://www.facebook.com/watch/?ref=search&v=2606502202932492&external_log_id=5849e794-3d88-4ee5-8c83-e6f86ac1976c&q=You%20Only%20Live%20Twice)この時、乗っていたのが「オートジャイロ」。今でいうところのパッセンジャー・ドローンだ。

 今から50年以上前、原作者のイアン・フレミングがスパイ小説で描いたのは、「やがて来るノンフィクション」。国も規制緩和と法整備を進めており、今年後半に施行予定の改正航空法では、レベル4(有人地帯における目視外飛行)の飛行が可能となる。

 貨物ドローンが実用化されれば、旅客輸送が可能になるのも時間の問題。自治体の首長が数百億円もかけて空港アクセス鉄道の敷設計画を打ち出したからと、そこに黒字の見通しが立たない専用列車を走らせるくらいなら、空港から観光地に直接ドローンを飛ばした方が遥かに観光熱は盛り上がるはずだ。

 機関車が大量輸送を実現し、飛行機や新幹線は都市と都市の距離を縮めた。旅客輸送事業者に求められるのは、いつの時代もチャレンジとロマン。だからこそ、鉄道や駅に頼らないビジネス発想が必要なのだ。旅の楽しさを提供するのなら、手段は何でもいいのだから。

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直すために作る。

2022-05-18 06:35:15 | Weblog
 例年ならゴールデンウィークが終わると、店頭でどんな夏物アイテムが動いているのか、チェックして回る。だが、福岡市は5月7日に新型コロナ感染の1日あたりの陽性者数が1100人を超えた。11日時点でも5日連続で前週同曜日を上回るなど感染が増加傾向にあるため、人混みの中に長時間いることには二の足を踏んでしまう。

 そんな中でも、無印良品の天神大名店だけはお客も少ないことから訪れている。最近必ずチェックするのが「ReMUJI」だ。これは顧客の着古した無印の服を回収して染め直しなどを施したもので、2015年に開業した同店から販売がスタート。自分にとっては1980年代に着ていたインディゴを彷彿させ、服のリメイクでも参考にしている。



 ReMUJIのカテゴリーは以下の3つだ。まず「染めなおした服」。前出の通り、顧客から回収した無印の服を「藍」などの染料で染め直したもので、無印の原点回帰を感じさせる。当時の企画スタッフが今も在籍しているかはわからないが、筆者と同世代で無印の服が好きだった人ならインディゴのアイテムを憶えているのではないか。

 筆者にはこんな記憶がある。当時、着ていたインディゴについて上司から、「そのシャツ、どこで買ったの?」と聞かれ、「青山の無印良品ですよ」と答えた。洗濯するたびにいい感じで色落ちし、粗野な感じになっていくのが目を引いたのだろう。上司は無印のトータルデザインを手掛けた故・田中一光と同じアートディレクター。商品に対する感覚でも共通項があったのだろうか。

 二つ目は「洗いなおした服」。こちらは回収した無印の服の中で、比較的状態がいいものを洗いにかけて軽くプレスした後に販売する。古着を再販する以上、「衛生」や「防疫」の面で洗浄するのは当然だが、いくらエコやSDGsが叫ばれる今だからと、この手法が新たな商品価値になりうるかには疑問を感じる。

 元々、西友のPBからスタートした無印良品は、包装などのコスト削減を商品戦略の柱にしていた。ブランドとして独立し店舗を拡大してからも、布帛のシャツなどはビニール袋に入れずにハンギング展開した。商品タグには「洗いざらし」といった形容詞が並んでいた。究極の普段着であることが無印のコンセプトであり、価値だったわけだ。

 ただ、90年代以降はデフレ禍で価格を抑えたため、商品の質も下がっていったと感じる。それを回収して再販するために洗いをかけただけで、顧客が買い求めるのだろうか。また、もともと売れ残る商品があるはずだから、元となる商品が顧客から回収したものか、余剰在庫に洗いをかけたものか、見ただけではわからないという疑念も湧く。

 ReMUJIはあくまで顧客が持ち込んだ服を再生するから、アイテムや在庫量は限られているという理屈も、取扱店全店の品揃えをチェックしなければわからない。古着の大手チェーンは古着っぽく加工した新品を投入し、在庫を充実させて販売ロスを避けている。どうしてもこうした手法と比べてしまう。ReMUJIの洗いなおした服が本当に限定品なら、その辺のエビデンスも欲しいところだ。

 そして3つ目が「つながる服」。これは主に異なる2枚のシャツをカットして1枚に仕立て直したもの。シャツは着る人の体型や着方によって劣化する部分が微妙に違うから、状態のいい部分同士を繋げて縫い直すことで、デザイン的な価値と再生・再販を両立させる意図だろうか。この企画には納得がいく。



 まあ、元の柄が無印良品だから、COMME des GARCONS SHIRTのようにはならないだろうが、接ぎ方によってはユニークなものに仕上がる可能性もある。ReMUJIは顧客から回収したものを利用するというのはわかる。無印にも余剰在庫が豊富にあるだろうし、ReMUJIがエコやSDGsを意識するのなら、そちらを活用しても別のカテゴリーを加えてもいいのではないかと思う。

 無印良品によると、MUJI新宿を環境やガバナンスを重視した経営の旗艦店に位置付けており、染めなおした服に加え、同店の開店に合わせてつながる服を企画。洗いなおした服やつながる服の限定商品の販売を開始したという。天神大名店では染めなおした服しかお目にかかれないので、東京出張の時に時間があれば店頭で確かめてみたいと思う。


85%が再販できない現実にどう対処するか

 一方、無印良品は、このところ低価格を前面に打ち出しており、製造コストをかなり抑えていると思われる。そのため、素材にしても縫製にしても、それほど高い品質は追求できない。生産管理の段階で、どうしても店頭に出せない規格外品が出る率が高い。新宿店ではそうした製品を販売する「もったいない市」も実施している。

 もっとも、プロパー販売への影響があるから常設ではなく、不定期のアウトレットイベントで環境を意識した経営をアピールする狙いもあるだろう。ReMUJIを扱う店舗では、無印の不用品を受け付ける専用カウンターを置いているが、回収した古着の15%しかReMUJIとして再デビューできず、85%は再販には向かないという。

 現在、無印良品のメーンターゲットは収入が伸び悩む中間層で、商品は価格を抑えることで品質を削ぎ落としたトレードオフの性格を持つ。つまり、そうしたものを回収して選別し、再加工してアップサイクルな商品として販売することが収益の面で釣り合うとは思えない。無印側もそれを十分に承知の上で、ReMUJIをエコやSDGsに取り組むキャンペーン的な商材として位置付けていると思う。



 しかし、染め直しと言っても相当な手間を要する。まず回収した服から汚れなどを取り除き、染めやすくするために「予備洗い」を行う。次に仕上げる色に合わせて、染め窯ごとに染料を微調整する「調合」がある。続いて染料と定着剤を何回かに分けて投入する「染色」で染めムラを無くす。そして、染め上がったものを色ごとに分けて機械にかけて「乾燥」させる。最後に商品としての体裁を整えるには「プレス」「検査」も必要になるのだ。

 一方、染料が化学物質なら土壌や河川の汚染が懸念される。ReMUJIでは「藍染め」を採用しているようだから、環境への負荷は少ないと思う。だが、最初の生産時ではどうなのか気になるところだ。染色の再現性には軟水、硬水の違いが影響するし、水資源の豊富な日本と中国の内陸部とでは染色加工の前提条件が異なる。そこに切り込まずして「再加工が天然藍ですから環境に配慮しています」と言っても釈然としない。

 低価格で低品質の無印良品に染めや洗い、縫い直しといった手間暇とコストをかけて再生することが、どれほどの付加価値を生みお客を惹きつけるか。もちろん、それはビジネスベースとは分けて考えなければならないのは、承知している。また、お客の側がエコやSDGsをわかっているにしても、ReMUJIの商品を手に取った時にアップサイクルな商品としての価値を認め、購入に至る人たちがどれほどいるか。いろんな問題もはらんでいる。

 良い商品を作るには、コストをかけなければならない。だが、そうすれば価格も上がっていく。そうなると、それまで購入していたお客にそっぽを向かれるかもしれない。低価格の商品を販売する限り、1シーズンで着古してしまうことにつながり、着なくなった服は破棄されてしまう。それは無印良品もわかっているだろうし、一番のジレンマではないかと思う。

 円安が進んでいるとは言え、原材料のウールや綿は値上がりしているし、生産する途上国の人件費も上がり縫製工賃も上昇している。無印良品はこれまで商品を値下げすることで、売上げを維持してきたが、そうした戦略も限界に来ているのではないか。衣料品の廃棄については日本よりも海外の方が深刻に受け止め始めている。海外に店舗を数多く抱える無印良品としても、いつ出店先から「廃棄ノー」を突きつけられるかもしれない。

 現状、ReMUJIはエコやSDGsに取り組む企業姿勢を表すものと受け取れるが、アップサイクルを意識した商品作りを考える契機にもなれば、無印良品も真のグローバルSPAとして評価されていくのではないか。ぜひ、一皮剥けてほしいものである。
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廃棄減らすデジコミ。

2022-05-11 07:07:23 | Weblog
 中小零細のアパレルでは商品をいかにPRするかが課題だ。大手アパレル、ナショナルブランドほどの資金力がないので「メディアバイイング」、いわゆるテレビCMや新聞・雑誌、駅貼りのポスターなどマス媒体の枠を押さえた広告宣伝ができない。

 まして広報担当のプレスを置いているところはなく、企画や営業が仕事と並行してメディアでの取り上げを画策する。手っ取り早いのは出版社の編集者、フリーのファッションライターやスタイリストと親しくなって、媒体料がかからない「パブリシティ(フリーパブとも呼ぶ)」を獲得して報道してもらうか、無償の記事タイアップを狙うかだ。

 筆者もアパレル、広告制作の両方を経験したことから、ファッションPRの仕事に携わったことがある。ただ、始まりはすでにマンションアパレル時代にあった。大学時代の友人からキー局に出入りするフリーアナウンサーを紹介されたため、逆に番組企画でファッションを扱う時は「うちの商品を取り上げてほしい」と、頼み込んだ。それは深夜枠で時間にして1分程度だったが、実現した。もちろん、マンションアパレルなど「何、そんなブランド、知らんなあ」と、けんもほろろに断られたことの方が多かった。

 ただ、こうした経験が広告業界では生きた。メーカーからバーターで商品をリースし、撮影用の衣装や小道具に使ったことが何度もあった。制作予算が少ない仕事は提供社名をクレジット表記することでリース料を無償にしてもらったり、低額で借りたことがあった。

 PR会社ではブランドバリュ向上のためにパンフレット、DM、ビジネスカード、雑誌の入り広の制作に携わり、モデル撮影から物撮りまでのディレクションをこなした。プレスが差し出す商品が写真映えしないと感じたら、閉店を待って店頭の商品を借りに行き深夜に撮影して開店に合わせて返却することもあった。現像から上がってきたポジフィルムは、時間をかけてベストショットを選んだ。

 一方で、ことアパレルに関しては、マス媒体を使ったプレスプロモーション以上に効果があると知らされたのが、「口コミ」だ。いわゆる、お客さんの口伝に商品が宣伝されていくことである。これについては、広告会社時代に商品を借りたショップのバイヤーさんも以下のように語っていることから、業界では皆が感じていることだと思う。

 「服好きのお客さんはメジャーなブランドじゃなくても、素材が良くてエッジが効いて都会的なデザインを好む。だから、うちのショップで売れるのはおたくに貸し出す商品を含めて、マンションアパレルばかり。そうなったのは、お客さんが自分で着てみて『あのショップの、あのブランド、凄くいいわよ』って、友人や知り合いに口伝てで勧めてくれたから

 バイヤーさんはこっちが広告会社の人間だから、少し構えて牽制したのかもしれない。だが、当時、ショップに品揃えされていた商品は確かにメジャーではないが、いかにも洋服好きの女性が好みそうな尖ってスパイシーなテイストを持っていた。それにイタリア製のなんかの上質な生地が使われていたので、柔らかいけどコシがあって型崩れしない。最高級の商品ではないが、他人とは違うもの、自分のセンスにあったものを着たい女性にはウケていた。



 もちろん、ブランドは展示会受注方式のよる国内生産。企画から生産、管理までコントロールされ、マーチャンダイジングもしっかりしていた。デザインで奇を衒うわけではなく、かといって野暮ったさは微塵もない。一貫しているのは、アンチコンサバ。だから、そんな服が好きな女性は着ると凄く様になって見える。そんな人が周囲に伝えたり、メーカーを訪ねたくなるのもわかる気がした。

 筆者がショップのお客さんに聞いてみると、「私の友達がいつもお洒落な服を着ているので、どこで買ってるのと聞くと、このショップを教えてくれたの。実際に訪れて試着してみたら、すごく良くて。無名のブランドばかりだけど、一度好きになったお客さんはみんなリピートしちゃうみたいよ。私は取引先の人に『あなたも着たら』って勧めちゃった」との答えが返ってきた。

 もちろん、この話は昭和の終わりから平成にかけてのこと。今のようにネットなんて姿形もなかった時代にも、アパレルの情報発信はファン客から友人、そしてその知り合いへ口コミで伝わり、それが確実に売上げに繋がっていた。現在は口が「デジタル」に変わっただけで、「服を着た人の印象」が一番の「説得材料」になるのは、今も昔も変わらないのである。


SNSで繋がるファンのための服づくり

 ファン客とSNSでダイレクトにつながることで、服に対する要望をリサーチして服づくりを進める「D2Cブランド」が注目を集めている。こちらは大手のように大量に生産して売れなければオフプライスストアなどで消化、残りは廃棄処分するものではない。端から廃棄を無くすために、SNS上でファン客に対し事前に商品サンプルの写真を見せ、買いたいかどうかを投稿してもらう「online survey/オンラインサーベイ」という手法をとるところもある。

 買いたくないというお客が多ければ、商品化は却下される。もちろん、在庫消化のためのセールもしないし、現金化するアウトレットも必要ない。だが、アパレルにとってこうしたビジネスがいちばん難しい。サンプルを作る上で生地を反買いしていれば、商品化しないと生地が余り、商品化しても反潰しで生じる数量分が捌けるかどうかはわからない。注文分だけ生産すると高コストになって、価格が上昇する。確実に売り切れる分量での生産計画を立てなければ、D2Cアパレルの経営自体が成り立たないのだ。

 理想はサーベイの結果と実際に売れる数量がイコールになることだが、たとえAIを使ったところで正解は出ないと思う。とすれば、やはりファン客に現物を見てもらい、確実に着たいと確約を得る=先行予約の方向で進めるしかない。そのためには「実店舗を持つ」ことになる。デジタル+リアルの2ウェイコミュニケーションでファン客との関係を密接にするしか、需要予測の精度を上げることはできないのだ。



 幸いなことにD2Cアパレルは大量生産ではないから海外工場を押さえたり、発注が1年前になることもない。オンシーズンに近づけてサーベイを行って、「着たいアイテムは先行予約でゲットしましょう」と、ファン客の購買意欲をそそることができる。実店舗で予約会を開けば、客のテンションが上がるのは間違いない。店舗と言っても、百貨店が取り組み始めた「売らない店」を短期で借りれば、固定費も抑えられる。

 そんなD2Cアパレルに対し、某SPAの経営者は「完全に趣味の商売」と切り捨てた。しかし、クリエーションの延長戦上に服を置くデザイナーと、それをビジネスにしていくマネジメントの人間が程よくシンクロするところにD2Cアパレルの良さと強みがある。結果としてファン客が着たい服を買ってくれるから、高くても売れるのだ。

 むしろ世界的にSDGsが叫ばれている中、大量生産し売り減らすしかないSPAこそ大量廃棄の原因を作り出しているではないか。顧客の声に耳を傾けるマーケティング手法が環境負荷の低減につながるのは、自明の理だ。

 欧米ではZ世代の若者たちが使い捨てではなく、モノを循環させる社会を目指す取り組みを意識し始めている。低価格だからと、シーズン毎に「one night party dress」や「Life Wear」を購入する必要はないということ。そうした傾向が賢い大人たちでは、良いものを長く着る意識として浸透していくのも、時間の問題だろう。

 国を挙げた取り組みもある。フランスでは今年2月に公布した「循環経済に関する法律(loi anti-gaspillage pour une économie circulaire)」で、売れ残った新品の衣類を企業が焼却や埋め立てによって廃棄することを禁止した。立法の狙いは脱プラスチックや廃棄される製品の再利用を促し、大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会構造を是正するためだ。今後はG7やG20でも参加国に同法の制定が求められるのではないか。マクロン大統領が再選されたことで、地球規模での環境負荷の低減を政権の旗印に掲げてもおかしくないからだ。

 さらに、フランス国内に店舗を展開するグローバルSPA(登記簿上の現地法人)に対し、最終的な売れ残り在庫に対する「引き当て税」を課すことも考えられる。最初から商品が売れ残ることを前提に損失分の資金を積み増すのなら、まずは売れ残りを出さない努力にカネを使えという理屈だ。こうした税法も大量廃棄の元になる大量消費、大量生産を根こそぎ撲滅するためには必要ではないか。

 毎シーズン、トレンドを生み出すモード文化こそ大量廃棄の元凶だとの反論もあるだろう。だが、フランスは2040年に環境負荷が高いと言われるガソリン車を全面禁止する政策を進めている。だから、文化を理由にアパレル産業だけを保護すれば、ダブルスタンダードになってしまう。マクロン政権なら法整備に動いても不思議ではない。

 D2Cアパレルは、デジタルコミュニケーションでお客さんのウォンツをダイレクトに吸い上げながら商品づくりに反映していく点が今らしい。だが、基本的なフローはマンションアパレルに近いと感じる。そして、D2Cの画期的な点は社会問題となっている大量廃棄をなくすことに取り組むこと。後に続くところが出てくることに期待したい。
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ツケを払うのは人間。

2022-05-04 06:38:51 | Weblog
 先週の福岡は大型ショッピングセンターの開業に沸いた。福岡市博多区に誕生したららぽーと福岡と北九州市のスペースワールド跡地を再開発したジ・アウトレット北九州だ。2つともゴールデンウィークに合わせたオープンでもあり、どちらも多くの来場客で賑わったようだ。

 お目当てのメーンはららぽーとが「機動戦士ガンダムの立像」、ジ・アウトレットが世界中からゲームと遊具を集めた「アソブル」ではないか。すでに物販や飲食のテナントでは、既存の商業施設と差別化は難しくなっており、デベロッパーもそれを承知の上で、アミューズメントや学びの場を集客のカギにする。ららぽーとでは7月末には子供向けの職業体験パーク「キッザニア」が開業するので、その形はなおさら顕著になっていくと思う。

 ところで、これらの施設に隠れてメディアの扱いが地味だったものがある。前の週の4月20日、福岡県の宮若市にオープンした「トライアルGO」だ。こちらは全国に270店以上のスーパーセンター(スーパーとホームセンターを合体した業態)を展開するトライアルがデジタルトランスフォーメーション(DX)を取り入れた新業態である。



 わかりやすく説明すると、AIとIoTによって全てデジタルで完結させるスマートストア。今回の1号店はそれを実証する実験の場でもある。例えば、この店舗ではセルフレジでの24時間顔認証決済が可能になっている。これはあらかじめ買い物客が顔とプリペイドカード情報を登録しておくことで、決済時にカードの他にスマートフォンなど、現金の持ち合わせがなくてもスムーズに決済ができる仕組みだ。

 また、顔の他に身分証で生年月日を登録することにより、お客は決済時にレジカメラによる顔認証だけで成人確認がなされ、スタッフがいない夜間にも酒類を購入することができる。この仕組み自体が日本初のもので、公的な身分証で年齢確認がなされているので、法律上も問題ないそうだ。



 天井に設置したAIカメラが惣菜などの陳列棚を常時観察し、商品の売れ行きをモニタリングするシステムもある。そこで得られた売れ行きデータと商品周辺に置いた電子棚札とを連動させ、AIが判断して消費期限が近いものから自動で値下げ価格を棚札に表示する。

 

 通常、弁当や惣菜など消費期限が短い商品は夕方に値引きし、買い物客に安価で購入してもらうことで廃棄ロスを抑えている。ここでは従業員が商品に値下げシールを貼るなどの作業を無くしてに省人化を進める一方、商品の廃棄ロスをできる限り抑えて、価格をコントロールする。当然、浮いたコスト分は割引に反映することができる。

 ショッピングカートも優れものだ。手に取った商品のバーコードをカートの取っ手下部にあるカードリーダーにかざしてスキャンすれば、買い物の明細、合計金額が自動集計され取っ手に付いたタブレットに表示される。買い物途中でどんな商品をいくら買おうとしているのかがわかるもので、この店舗ではカート押して専用ウォークスルーレーンを通るだけで、プリペイドカードから自動で精算される。

 つまり、レジ要員さえ配置する必要がないのだ。買い物客もレジ待ちのイライラから解放され、決済で財布から現金やカードを出す手間もなくなる。この店舗に導入されたカートは新たに開発された次世代型で、小高齢者でも動かしやすいようにフレームは軽量化され、タブレット画面も解像度が上がり見やすくなっている。

 旧型のはカードリーダーにバーコードをかざした後、商品を持った手を外側に回してカゴに入れるものだった。新世代型は商品をスキャンすればそのまま下に置けるので、使い勝手も良くなっている。

 他にも商品のスキャンをし忘れると自動でアラームが鳴る機能や、AIが買い物客の購買履歴から最適な商品を勧めるレコメンド機能、その日に使えるクーポン配布機能がついている。もう、店長や売場スタッフがマイクの前で声を張り上げ、その日のお買い得品を叫ぶ時代ではないのである。


人間は最終的にどんな仕事に携わるか

 トライアルは、「AIとIoTの力で小売りを変える」を標榜する。トライアルGOはその第1弾になる。この構想は2020年9月、同社が宮若市と協定を結び、廃校となった小学校一帯を総事業費13億円をかけて整備した「リモートワークタウン・ムスブ宮若(MUSUBU AI)」を中心としてスタートした。

 ここでは東京に本拠を置く同社グループの情報システム開発会社Retail AI X、中国山東省のソフトウエア開発子会社から異動した技術者、さらに28のメーカーと1団体が一体となり、リテールDXのシステムやIoT機器の開発に取り組んでいる。

 他にもトヨタ自動車九州の施設を買い取った自社研修所、温泉旅館や古民家棟、秘書棟などを整備するなど構想計画は多岐にわたる。また、計画には別の小学校2校の廃校舎を改造したAIカメラの部品開発を行うAIデバイスセンター、衣料・雑貨を企画開発するファッションビレッジも含まれる。総事業費は50億円以上に及ぶもので、計画は実現に向け始まったばかり。宮若市がトライアルの企業城下町になる予感さえする一大プロジェクトだ。



 トライアルは次世代スマートストアのプロタイプを作り上げた上で、その形態で行けるとの手応えを得れば、出店のスピードを加速させていくのでないかと思われる。AIが商品の売れ行きや値下げを判断すれば、弁当や惣菜は何も店内で調理する必要はなく、他店舗から適宜配送すればいい。その分のスペースが必要でなくなるため、コンビニ跡地など比較的狭小な土地でも展開が可能になる。

 また、大型店を核にして、周辺に小型のサテライト店を展開することもできる。店舗ごとに弁当や惣菜の売れ行きがわかるので、製造や配送が効率化される。これまでの非効率でロスが多かったセントラルバイイング制を解消もできる。逆に寿司などでは人間の知恵と技を生かすことでより美味しいものを製造し、買い物客の来店動機にもつなげることもできる。

 もちろん、カメラやセンサーをすり抜けて買い物する客がいるなど、有人なら抑止力が働いていた行為への対策も進めていかなければならない。店舗に無駄な人員を置かない一方、人間は最終的にどんな仕事に携わるか。実験にはいろんなサブテーマも課されている。

 近い将来にはレジレス・フォーマットの実験がなされると思う。スマホにダウンロードしたアプリをタッチしてQRコードで入店し、あとは陳列棚から商品をピックアップするだけ。店を出る時、自動的にトライアルIDで決済され、スマホに電子レシートが送られてくる。トライアルの店舗でのショッピングスタイルがそうなる日はそれほど遠くないだろう。

 小売業界には「Zの法則」がある。商品を配置する際に主力商品を陳列棚の左上から配置するという原則だ。長年、業界はそれを真理として売場づくりや販売を行ってきた。しかし、カメラが棚を常時モニタリングする中で、もしお客様がその通りに商品を購入しなかったのであれば、AIはこの原則通りには判断せず、別の並べ方を指示するかもしれない。

 もし、AIの指示通りに陳列を修正し売上げが伸びるのであれば、トライアルが進めるリテールDXは小売業界の定説すら覆すということになる。AIとIoTの力で小売りを変えるとは、そういうことなのだ。

 同社がテクノロジーやIoT機器の開発に投資した額は莫大だと思う。他社にもテクノロジーや機器をサブスクリプションで提供しているのは、少しでも投資を回収する狙いだろう。さらに一連のハード整備には地元自治体が巨額の負担をしているわけだ。国の補助金が使われているとはいえ、それは税金なのだ。

 しかし、トライアルの決算を見ると、粗利益が極端に低下しているなどDXの本業への効果がまだまだ薄いことがわかる。これから投資を回収していく道のりは平坦ではなく、ツケを払うのは結局、お客さん。AIではなく人間なのだ。

 トライアルが導入したようなシステムやテクノロジーは、米国でもいろんな商業施設で導入されている。売場カメラが来場客の動きから買い物動向までをモニタリングし、AIがテナントの配置からMDまでの最適化を判断していく。そのデータは蓄積、分析されて、テナントリーシングの材料にもなる。

 SCは物販や飲食では集客が難しくなったため、アミューズメントや学びの場を集客のカギにし始めたが、日常の買い物レベルではシステムとテクノロジーによって求められる商品や価格などのが決定されようとしている。こうした破壊的なDXをアパレル小売りが取り入れるのはいつになるのだろうか。トライアルGOを見ながら、そんなことも考えてしまった。




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