HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

バーゲンの後ろ倒しで得したのは誰か。

2012-07-25 18:10:48 | Weblog
 豪雨に襲われた梅雨もようやく明け、ようやく本格的な夏に入った。お向かいさんのコムデ・ギャルソンは数日前から秋物第1弾を展開。ウィンドウにはフェルト素材のウエアが飾られ、コレクションラインを身近で堪能できる。
 ただ、シーズンMDは企業の営業方針で各社各様だから、気候に反して秋物を販売してもそれで収益が確実に上がれば、異論を挟む余地はない。問題は目下行なわれている夏物バーゲンで、各社が確実に在庫が消化しているのか、である。

 大手百貨店が主導したバーゲン2週間後ろ倒しも、ふたを開けてみれば駅ビルや百貨店、大手アパレルの数社が賛同したくらいで、業界全体を巻き込むほどの潮流にはならなかった。
 では、バーゲンを後ろ倒しして、いったい誰か得をする(した)のだろうか。言い出しっぺの大手百貨店が夏物商品をプロパーで確実に販売できたのなら、売上げも積め荒利もとれるだろうから非常に喜ばしいことである。
 しかし、売場をチェックしてみると、ゴールデンウィーク明けから特にブランドのハコでは夏物をすべて出尽くし、売れ筋を外した商品はバーゲンまでずっと在庫が残っているところが多い。
 平場は多少入れ替えはあったようだが、定番的なアイテムばかりで、 盛夏という実需対応する品やリゾートウエアはほとんど見当たらない。これではプロパーで売る「タマ」がないのだから、バーゲンを後ろ倒しにしたところで、売上げはとれないのではという印象だ。

 専門店はどうか。九州にはルミネがないため、専門店が入居する商業施設はほぼ例年通りバーゲンに突入。アミュプラザ博多、ヴィオロ、天神ビブレが6月30日と一番早く、次いでイムズ、ソラリアプラザ、天神コアが7月1日、一番遅い福岡パルコでも7月5日にスタートしている。
 これらをリサーチをした印象では、知名度のあるセレクトショップやヤング向けの人気ブランドにおける値引率は、大半の商品が20%~30%、大手セレクトショップでは盛夏品はセール対象外だから、バーゲン全体の盛り上がりは決して高くないようである。
 しかも、昨年JR博多シティがオープンし、人気セレクトショップは市内2店、3店態勢になり、希少性も無くなった。冬のセールで奏功したショップオリジナルのアウター投入も、レイヤードしない夏場では投入できず、こちらも強力なタマがない有り様だ。
 それ以上にヤング専門店はトレンド不在で新鮮味に欠け、オーバーストアで店頭にはまだまだ夏物在庫を残す店舗が少なくない。7月末時点で売れない商品は、8月のクリアランスで70%~80%OFFにしても厳しいと思う。

 結果的に百貨店では先にセールを始めた店舗が、魅力のないプロパーを引っ張る店舗より売上げを積めたのは間違いないだろう。ただ、後ろ倒しした百貨店と共通するアパレルブランドはセール対象外となっていたため、この数量が微妙に売上げに影響したのは想像がつく。要は取引先アパレルとのバランスの問題だ。
 逆に後ろ倒しした百貨店はオンリーブランドを除き、盛夏対応品、リゾートウエア、晩夏向けの先物が見当たらない点では、売場サイドはセール先行店にお客さんを奪われ、2週間胃が痛い思いをしたのではないか。お客さんが他店で先に買ってしまえば、遅らせたのは逆効果になるはずだ。
 百貨店にテナントで入っている専門店は、顧客向けにシークレットセールを行なっているようで、後ろ倒しに関係なくセール売上げは立ったと思われる。ビルインの専門店についてはほとんど一斉にバーゲンに突入しているので、例年と大差ないだろう。
 このコラムを書いている7月25日時点で、各社のバーゲン数値はでていないので、細かな状況はわからない。ただ、各社とも店頭スタッフから大盛況という声は聞こえては来ない。だから、バーゲンを2週間後ろ倒しにしても、大して誰も得をしていないというのが筆者の見方だ。

 そもそもバーゲン後ろ倒し論が浮上した背景には、夏物はどうしてもプロパーで売る時期が短いため、時期を遅らせて少しでも消化率を上げようという大手小売り業のご都合主義がある。
 しかし、時期を遅らせても売れない物は売れないわけだし、中小の専門店は資金繰りから例年通りセールをやらざるを得ず、デザイナーブランドのように一切バーゲンせず、アウトレットで消化するところもある。つまり、ショップやブランドによってセールの実態は、様々なのだ。
 仮にアパレル側がバーゲン時期を遅らせてほしいと言い出しても、各メーカー、各ブランド毎にMDも営業スケジュールも違うのだから、統一なんてできるはずがない。パリのようの法律を定めても、必ず抜け道がでてくると思われる。
 先日、とある専門店の部長がこんなことを言っていた。「セールなんて店側の都合で勝手にやっているだけ。小売りはまずお客さんの利益を考えないと。前日に正価で売った商品が翌日に値下げされれば、信用をなくすのは目に見えている」と。
 小売り、アパレル、ブランド、それぞれで営業のやり方は違うのだから、商品の売れ行きが芳しくないのであれば、品揃えや商品企画を修正するのが先だろう。特に百貨店は自社の立ち位置をわきまえ、適正な原価を見直して、百貨店らしい商品を調達すべきである。
 また、小売りにもアパレルにも言えるのは、アウトレットが定着する中で専用品の問題を考えるきっかけにすべきだ。アウトレットの原点、プロパー業態の残品やレアなブランドの値引き販売、バーチカルな商品消化に向かわなければならない。

 最終的にお金を出して商品を購入するのはお客さんだ。この人たちを業界が裏切ってはならないのである。魅力のない、買いたくない商品がいくら値下げされても、お客さんは財布の紐を緩めない。それは業界がいちばん学習しているはずだから。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

老舗ブランド存続に必要なのは、新しい血か、潤沢な資金か?

2012-07-18 17:11:50 | Weblog
 また一つ欧州の「老舗ブランド」が金満アラブの投資家に買収された。物件とはイタリアの高級ブランド、ヴァレンティノなどを所有するヴァレンティノ・ファッション・グループ(VFG)。買収したのは、天然ガスで潤うカタールの投資家グループ、 メイフーラ・フォー・インベストメンツ(MI)。金額は約7億ユーロ(686億円 1ユーロ:98円換算)と言われる。
 
 ヴァレンティノと言えば、仏のギ・ラロッシュなどで修業した創業者デザイナー、ヴァレンティノ・ガラバー二がパリにオートクチュールのアトリエを開いたのがルーツだ。そして、抜群の経営手腕の持つジャンカルロ・ジャンメッティーをビジネスパートナーに迎え、米国市場での成功やライセンスビジネスなどで、ブランドをワールワイドに成長させた。
 個人的にそのデザインセンスは、1984年に開催されたサラエボ冬季五輪のイタリア選手団のユニフォームが印象に残る。フランス選手団のデザインが意外にも米国のカルバン・クラインだったことをみても、この頃のデザイナーブランドの勢いは最高潮に達していたと言えるだろう。

 しかし、家族的な経営スタイルをとるイタリア系ブランドも、世界的な不況には勝てない。98年、マルツォット家に経営権を売却したのを境にヴァレンティノにも翳りが見え始める。01年にはディフュージョンやカジュアルのラインを発表し、一旦はヒューゴボスなどを傘下に持つコングロマリットに成長するも、ガラバー二自身がオートクチュール出身だけに、他社のように既製服を量産することには、どこか相容れない気持ちもあったのではないか。
 それが影響したかどうかはわからないが、07年、投資ファンドのペルミラ社が買収。70歳を過ぎていたガラバーニも一線を退いた。ところが、ここからさらに迷走が始まる。
 07から毎年のように主任デザイナーが交替しているのだ。アレッサンドラ・ファキネッティからマリア・グラツィア・ キウリとピエール・パオロ・ピッチョーリに、メンズではフェッルッチョ・ポッツォーニ。

 現在はキウリとピッチョーリがレディス、メンズとも手がけているが、この二人についても去就は不透明。今回の買収で経営権が投資家グループに移ったため、企業として短期に収益が上がらなければ、デザイナーの解任や交替は止むなしだからである。
 2000年ぐらいから、欧米のラグジュアリーブランドは、コングロマリット化していった。ルイ・ヴィトンを中心としたLVMHグループ、グッチやボッテガ・ベネタなどで構成するPPRグループ等がそれ。株式市場に上場するメゾンブランドを買収して、次々と傘下に収めたのである。
 それはまるで「ブランドは多い方がいい。同じブランドだと飽きられる。服は作りすぎても、少な過ぎてもダメだ」なんて、経営陣の囁きが聞こえてきそうな動きでもある。
 
 またコングロマリット化によって、傘下ブランドのデザイナーの交替や新規登用は激しくなった。例えば、ルイ・ヴィトンは米国人のマーク・ジェイコブスをクリエイティブディレクターに起用し、ブランドを見事に活性化。同グループのクリスチャン.ディオールも英国人のジョン・ガリアーノがデザイナーに就任すると見事に若返り、新たな顧客を捉まえた。
 じり貧状態にあったグッチは、米国人のトム・フォードがクリエイティブ、コミュニケーション、ビジネスの全権を委任され、V字回復を果たした。
 一方で、トム・フォードの勇退後は前出のアレッサンドラ・ファキネッティがレディス、ジャン・レイがメンズ、フリーダ・ジャンニーニがバッグ、アクセのデザイナーに就くも、現在まで残るのはフリーダ・ジャンニーニのみだ。

 欧州ブランドが米英系のデザイナーを起用するのには理由がある。それは彼らがマーケティングやMDの能力に長けているからだ。どんな客層にどんな商品をどんなプロモーションで伝えるかが、実にうまい。ディオールやグッチの成功は、それなしでは成し遂げられなかっただろう。
 では、フランスやイタリア出身で職人肌のデザイナーではダメなのか。決してそんなことはない。アルマーニは北イタリア・ピアチェンツァ出身のジョルジオ・アルマーニが依然としてデザインしているし、グッチのフリーダ・ジャンニーニはローマ出身だ。
 これらのブランドには仏伊出身のデザイナーが得意とするクリエイティビティが生きている。さらにアルマーニは非上場企業で、世界一等地の店舗展開からホテルまで、経営は自己資金で賄う。コングロマリットの傘下入りやファンドの力を借りなくても安定経営は行なえるのだ。

 メゾンブランドが資金調達のために上場すれば、ファンドやオイルマネーにとって格好の獲物になる。かと言ってそのブランドが未来永劫安定的に収益を上げ続けられる保証はない。ブランド存続のためには外部投資による活性化は必要だし、主任デザイナーの交替も止むなしなのである。
 ただ、筆者はコングロマリットではスケールメリットは発揮されるものの、クリエイティビティの面では?が付くと感じる。PPRでトム・フォードはグッチと並び、イヴ・サンローラン・リブゴーシュも担当したが、何となくデザインのテイストが被っていたからだ。
 いくら優れたデザイナーと言えども、それほど多くの引き出しを持っているわけではない。クリエイティビティはそう簡単にはいかないのだ。
 それでも、コングロマリットは全ブランドの売上げ効率を上げるために、垣根を超えて市場の情報や顧客の声に耳を傾け、デザイナーもそれを意識する。結果としてグループ内で似たようなデザインが出現しないとも限らない。売れ筋回れ右の「全天候型経営」ともいうわけだ。

 メゾンブランドはデザイナーだけで成り立たない。彼らに絶大な信頼を置いて、ブランドのすべての熟知した経営者の存在がカギを握る。グッチで言えば、ハーバード大で学んだドメニコ・デ・ソーレCEOの存在なしに再生がなかったのは周知のこと。
 今回のヴァレンティノでも、ステファノ・サッシCEOがどういう方針を示すかにかかっている。新たにデザイナーを起用するにも、マーケティングに長けた英米系か、それともクリエイティビティの仏伊系か。どちらにしてもブランドの活性化は、サッシCEOの手腕次第で決まると言っても過言ではないだろう。
 もちろん、短期で収益が上がらなければ、投資家グループのMIがヴァレンティノを転売するのは目に見えてる。老舗メゾンがマネーゲームの対象になるのは偲びない。でも、これもファッションビジネスがグローバル化する中では避けて通れないことである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

コットン&水玉は秋物第一弾でいけるか?

2012-07-13 12:42:12 | Weblog
 いよいよ 7月13日から三越伊勢丹他、2週間後ろ倒しした企業、店舗がセールに突入する。今回の問題はいろんなアパレル関係者、FB諸兄が意見を述べられているので、もうこれ以上語ることでもないだろう。すでにセールに入っている店舗もどこが好調で、どこが不調だったが、セール売上げの報告を見るまでは何とも言えない。

 むしろ、アパレル業界は、晩夏企画や秋物第一弾をどんな商品で迎え撃つかに話題が移っている。こちらの方が各社とも頭を悩めているところだ。すでに企画は終わり、投入を待つばかりのところや、ギリギリまで様子見のところ。また、バイヤーの意見を聞いてから、クイックで企画生産に入るところも少くなくないだろう。
 業界のクリエイティブワークに携わる端くれとして、写真のような商品を提案してみたい。あえて断っておくが、この場を借りて卸営業しようなんて魂胆も、色気も一切ない。秋物アイデアの一つとしてご紹介したいだけである。

 お客さんがシーズンの変化をどこで感じるか。特に秋は「色」だ。今よりシーズン企画のメリハリがはっきりしていたデザイナーブランド全盛期。夏のクリアランスセールはダラダラと行なわず、遅くても9月1日からはウィンドウや店頭は秋一色になった。
 これについては暖冬化が進む今、賛否もあるが、少なくとも前倒しのシーズン提案で、先物買いのファン客を捉え、まずは売上げと荒利を確保したのである。まあ、冷房がきいた店内で、梳毛のニットやウールビエラのシャツを着ていたのは、今考えるとずいぶん無理もあるが、雑誌メディアもそれを求めていたから、一蓮托生なのは間違いない。

 通常、秋色は紺、エンジ、茶、モスグリーン、グレー、そして黒が定番だ。最近はヤングを中心に中間色やグレイッシュトーンも一般化してきたが、素材がチープだとなんかもやもやした色合いになって、店頭のVMDが締まらない。
 そこで考えたのが「ドット」、いわゆる水玉模様である。水玉なんか今時珍しくも何ともないが、残暑厳しい9月の頭に茶や黒を着る方がもっと暑苦しい。かといって、ファッションに敏感なお客さんの心理は、「秋らしい色合いに変えたい」はずなのである。
 ベタっとした茶や黒なら夏物の方が好まれるだろうが、黒地に白のドットならホワイトスペースの分、「ベタ」の暑苦しさを多少は緩和できる。この辺はファッションというより、グラフィッカルな感性だ。

 当然、カラーとしての暑苦しさが緩和できる分、生地は秋物で十分いけると思う。ここから素材手配の難しさがあるが、今回は「コットンサージ」に注目してみた。この生地は本来、無地が多いのだが、最近は先染めも出て来ているので、使い勝手が良い。ただ、残暑が残る中で発汗作用や通気性を考えると、30番手ほどの綿糸がギリギリ。個人的に「シャキッとしないと嫌」なので、こしを優先して生地を選んだ。
 また、コットン特有の一度来た後クタッとなるのを避けるために、生地は若干ポリウレタン系の「スパンデックス」が混紡されたものにした。スパンデックスはスピード社の水着などスポーツウエアにも多く使われている弾性繊維。伸縮性に優れ、混紡率が少なくても特性を失わない。今回はストレッチというより、生地の安定性を重視している。

 デザインはこの夏のトレンドだったショーツと、シガレットというか、トレアドル(闘牛士が穿くようなシルエットのボトム)のパンツ、そしてドレスだ。 ショーツはこちらだけシルク素材にして柔らかさと高級感を持たせた。ドレッシー路線でトップスとの組み合わせ次第で、落ち着いた着こなしを狙いたい。「かわいい」って形容詞も残しながら、モードの匂いを感じさせるミューズ御用達のアイテムということだ。
 シガレットパンツは、柄物になるとトップスの関係で遊ぶのが難しくなる。お客さんにはそこを敢えてチャレンジしてほしい。「トレアドルパンツ」なんかの名称を流行らしてもいいかと思う。プレスとの仕掛け次第でヒットの予感は十分ありかもしれない。

 ドレスが一番むずかしい。フィットさせるほどに身体のラインが強調されるし、プロポーションのごまかしが利かない。黒が痩せて見える幻想はまだまだ残るだろうが、ドットになると膨張しそうだとの消費者心理も根強い。
 ただ、ずっとコンサバエレガンスにブレずにきただけに、虚飾を排したミニマルドレスにはこだわりたかった。だからポルカドットという柄で精一杯遊んでみただけ。カラダにフィットするので、ごまかしは利かない分、新たに挑戦したい人向けのトレンド提案である。プレーンなドレスは夜会服に限らず、デイリーでもスタイリッシュに着こなしてほしいものだ。レザーやボレロとの組み合わせも、着る人本人次第である。

 以上、秋物第一弾の勝手なプレゼンテーションである。第二弾も企画中でもうじきサンプルが上がってくる。今年の秋商戦の行方も予断を許せない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ファストF信望の代償は小さくなかった。

2012-07-11 13:01:51 | Weblog
 福岡市博多区の大型商業施設「キャナルシティ博多」が、H&Mやベルシュカなどファストファッションなどを集積した「イーストビル」をオープンして1年が経過しようとしている。
 九州最大の商業地「天神」とJR博多駅の新ビル「JR博多シティ」との競争に際し、その対抗戦略として同施設がイーストビルの増床計画で打ち出したのが、「ファストファッション構想」だった。
 今年4月に発表された11年度の営業実績では、増床わずか半年にもかかわらず、来場者数は対年比16%増の1350万人、売上げ総額も約2%増の400億円程度と、06年以来5年ぶりに前年実績を上回った。 ファストファッション構想は、数字上では奏功した形となったのである。

 キャナルシティ博多は1996年の開業から15年以上経過している。都市型の大型商業施設としてやや陳腐化が見えていただけに、デベロッパーは久々の前年増に溜飲が下がる思いではなかっただろうか。ただ、イーストビルばかりに注目が集まる中、既存のフロア他が苦戦を強いられたのも事実だ。  
 特に施設の一番南側に位置し、回遊性に難があった「サウスビル」は、イーストビルの開業の影響をもろに被っている。元々、この棟はファミリー客が対象で、地下1階がトイやキャラクター系雑貨店など、1階にコムサストア、2階にファッション雑貨の店舗、3階にギャップやザ・スーツカンパニーなどの衣料品店、4階はスポーツ用品のスポーツオーソリティーの退店後、4月から外国人旅行客を対象とした総合家電免税店「ラオックス」が出店している。

 だが、イーストビルの開業直後から、お客の回遊が極端に悪くなり、各テナントとも苦戦を強いられた。デベロッパー側は4月の営業実績発表時に、サウスビルについて「幅広い世代を対象にした、国内外の旗艦店の集積するゾーンを目指す」として1~3階を改装し、9月1日にリニューアルオープンする計画を打ち出した。
 しかし、テナントの顔ぶれを見ると、ギャップが1階に移転し、2階はそのまま雑貨業態のほとんどとザ・スーツカンパニーが移転して開業、他の新店はシークレットになっている。
 イーストビル開業前から苦戦が続いていたコムサストアはいたし方ないにしても、サウスビルのテコ入れ策としてリーシングされた「チキュート・カレント」や「イーブス」がわずか数ヶ月で退店というのは、デベロッパー、テナント双方にとって誤算だったのではないか。

 サウスビルの3フロアは7月から改装工事に入り、9月のオープンまで閉館。しかし、この間の売上げ減は12年度の営業業績に影響するのはいうまでもない。さらに細かく見ると、11年度の業績数字の意味である。確かに来場者数は対前年比16%も増えた。しかし、売上げ増はわずか2%程度どまり。これを諸手を上げて喜べるはずがない。理由は間違いなくファストファッションの信望にある。

 ファストファッションという言葉は、いかにも新鮮に感じられ、お客を引きつけたのは言うまでもない。しかし、商品そのものは素材や縫製などの品質を削ぎ落とした低価格品だ。客単価は下がるためいくら客数が増えようと、買い上げ点数が増えない限りは、それに見合う売上げは望めないのである。それをデベロッパーも理解していただろうが、あまりの集客の多さに惑わされて、売上げも伸びるだろうと過信してしまったのではないか。
 しかも、今年4月に天神にもH&Mがフォーエバー21と並んで出店した。ブランドとしての希少性は確実に薄れているし、お客自身がそれほど新鮮さを感じなくなっている。ましてザラやユニクロは既存店があるし、コレクトポイントやデシグアル、キットソンはファストFではないから、どこまで競争力を持つかは未知数だ。

 特にザラはファストファッションではないにもかかわらずイーストビルに移転させ、ギャップはそのままサウスビルに残して、苦戦の憂き目に会わせてしまったデベロッパーの政策は理解に苦しむ。
 さらに日本発のファストFとして注目を浴び、今年はカラーMDを際立たせているイーブスをタイミングを逸してイーストビルにリーシングできなかったこと。おまけにサウスビル出店→苦戦→4ヵ月で退店というのは、デベロッパーの愚策と言われても仕方ない。
 2年目はイーストビル全体の集客鈍化は避けられず、売上げ好調が持続できるとは言いにくい。さらにサウスビルの退店やフロア改装による売上げ減が追い討ちをかける。
 とどのつまり、デベロッパーはファストFという俄景気に踊らされて、仮初めの売上げを手にしただけに過ぎないと思われる。それ以上に逃がしたお客や売上げは小さくないことも、真摯に受け止めるべきではないだろうか。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

問題だらけのインターンシップ。

2012-07-04 15:08:16 | Weblog
 先日、ファッションライターの南充浩さんが日経ビジネスオンラインで、「若者がファッション専門学校に来ない」とのタイトルで、寄稿されていた。この反響は大きく、筆者にもTwitterやFacebookを通じて関係者からいろんなコメントが寄せられた。
 専門技術者を必要とするアニメーションやグラフィックデザインの業界に対しても、かなりの「問題提起」となったようだ。ただ、ことの本質を学校のカリキュラムや講師の資質、少子化による学生減のせいにしても解決しない。業界が優秀な人材を受け入れようと取り組む様々な仕組みにも、課題が少なくないからだ。
 今回はその一つとして、「インターンシップ」を取り上げてみたい。日本でもここ数年で急速に浸透してきており、就職のミスマッチや早期離職の防止にも効果的と、期待は高い。一方で、この制度を利用した企業が「接客対応」の体験を希望した学生に対し、アルバイトと同じように清掃係をさせるなど、「名ばかり」なるものも出現。インターンシップは無給が原則であるから、人件費削減に利用する悪質な企業があると、取りざたされている。
 
 先日もこうした名ばかりと思わしきインターンシップに遭遇した。地元の某アパレルメーカーが公共ファッション事業の一環としてこの制度を利用し、「自社ブランドの催事販売」に学校を通じて学生を借り出したのだ。
 このメーカーは2年ほど前から、ファッション事業のショーイベントにも自社ブランドを出展し、タレント着用で知名度を上げて来ている。でも、商品そのものは低価格な量販系で、営業スタイルも自社サイトによるネット卸を主販路に位置づけている。
 つまり、直営店を展開していないので、イベントプロモーションなしにはブランドロイヤルティのアップも、卸先拡大もできづらいのである。かといって、直営店を出店して「小売り」に進出するには莫大なコストや販売スタッフの育成が必要で、経営基盤が脆弱なアパレルが簡単にできるはずもない。

 そこでインターンシップを利用して、まずは催事販売という小売りに踏み込んだようだが、問題はその内容である。場所は博多阪急という百貨店、売場は8階の催事場だった。そこで簡易売場を設け、学生を販売スタッフとして常駐させたのである。
 この時期、百貨店はセールに突入し、レギュラー売場での展開が難しいのはわかる。逆にプロパー商品で荒利を取りたいという思惑もあるだろう。制度の仲立ちをした公共ファッション事業の担当者にすれば、地場の百貨店とアパレルと学生を結びつけたと、メンツは立つ。
 しかし、百貨店のイメージにそぐわないブランド、お中元ギフトセンターがメーンの催事場、特別な広報も販促もなしでの商品展開等々、接客技術を学ぶという趣旨からすれば、問題は少なくない。おそらく、学生もお客の少なさに手持ち無沙汰で、「勉強にならない」と率直に思ったのではないか。
 インターンシップという制度は、その名称やイメージのみが一人歩きし、公共ファッション事業や企業の「いい目的」にされている嫌いを感じる。これではまさに名ばかりで、制度の趣旨から大きく外れていると言わざるを得ない。
 問題の本質はさらに奥深い。一部の学校や学生のみが制度の恩恵にあずかれて、他には前出のような実効性を欠くものをあてがわれているようなケースも見受けられる。
 某事業でも当初は、それがすべての学校に広報されていなかった。それを良いことに利害関係者が自分がかかわる学校と地元アパレルとの結びつきを濃くする目的で利用するなど、不公正極まりない点があったのだ。
 それを他の学校や企業側が問題視し、ようやく公平な制度として実施されるようになったようだが、はたして本当のところはどうか。何せ、利害関係者にとって都合の悪いのことは一切広報しないのだから、疑念は拭えない。

 もちろん、インターンシップは受け入れる企業の性格も、十分考慮されなければならない。小売業なら、接客や販売という就業体験は受け入れ易い。アパレルメーカーでも、単純加工や検品、着出荷作業、展示会や営業のサポートなどは任せられるだろう。アニメや漫画のプロダクションでいう「べた塗り」くらいのレベルということだ。(関係各位には少し失礼な言い方だが、業界でよく引き合いに出される表現なので、使わせていただく)
 しかし、グラフィックデザイン会社になると、DTPによる作業を技術が不安定な学生には怖くて任させられないし、アパレルでもデザインやパターン、縫製を学生に任せることはありえないと考えるべきだ。学校や学生がこうした企業側の事情を十分に理解した上で、制度を利用しないと企業にかえって負担をかけることになる。
 当然、学校や学生のモチベーションは言うまでもない。要は「インターシップに参加した」「制度を利用した」という実績づくりなら、何の意味も無い。「リアルな就業体験がしたい」「専門的な技術を学びたい」という真の目的が重要だからだ。

 インターンシップが本当に効果を発揮するには、まず制度内容について細かなルールづくりが必要である。もし、単位認定するのであれば、大学は文科省の許認可が必要になるが、専門学校は学校ごとでフリーパスというのも、おかしな話しである。
 また、本当に学校や学生のモチベーションが高いのであれば、受け入れる企業にとっても喜ばしい。しかし、利害関係者が双方の蜜月や青田買い、就職率アップを考えて利用するものなら、制度の公平さを欠く。
 インターンシップが学校にも学生にも、また業界にとっても有益な制度であるためには、業界ごとでの詳細なルールづくりや内容決めが必要になると思うのである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする