HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

2年前にデザインしたコート、完成。

2012-12-26 11:35:10 | Weblog
 前にこのコラムでも紹介したコートが完成した。2年前、懇意にするメーカーから「メンズのコートをデザインしませんか」とオファーを受け、サンプル制作でお蔵入りしていたものだ。
 元来、レディス畑しか歩んでこなかったので、取り立ててメンズの勉強はしていない。だから、この際、いろいろと学習するつもりで制作に臨んだが、メンズコートを仕立てるにあたって改めていろいろ習得できてよかった。
 メンズのコートは、スーツと同じように「肩の仕立て」が良し悪しを決める。肩山のできあがりが着心地はもちろん、われわれデザインにあたる人間が意図するライン、モードにおける価値観、時代性など、あらゆるものを表現するということを再認識した。
 前回も書いたが、洋服の仕立ては肩山をふっくらとさせるために2本のぐし縫いと、くせ取りを入れて肩山の丸みをつくっていく。特にメンズの場合はしっかりと芯地をはることで型崩れを防いでいる。



 かつてメンズの仕立て職人さんは、千鳥がけ、ハ刺し、くせ取りといった手仕事による、指先の微調整によって表地と芯地のバランスを針と糸でさしこんでいたし、地の目を通すことによって、狂いの少ない洋服をつくりあげていたのだ。
 しかし、それではブリティッシュスタイルのようなガチガチで、いかにも堅牢な仕立てになってしまう。伝統を重視するならそれでもいいが、モードやファッションを意識したい人間からすれば、ソフトな素材を使ってライトで遊びのあるコートに仕上げたい。
 だが、それにも相応な技術が必要なのである。ソフトな素材は肩山にぐし縫いを入れても、素材の柔らかさによって時間が経つと型崩れしやすくなる。そのため、肩山のトップ部分の縫い代を平に割り、袖部分の肩にドミットを入れ、少し丸みを持たせたソフトな肩ラインを出すようにした。




 特に今回のデザインは、身頃をウール素材に、袖はレザーにした。生地はイタリア製フラノのスーパー150’Sと袖の革には軽めのホースレザーを使っている。フラノは 気温の低い冬場においては、生地の目が詰まり、服地の下で暖まった空気を逃がさず、乾燥した空気に対応してスケールが閉じる。そして自身の水分を保ち、ウールに備わっている自然な油分と共に生地の表面をしっとりと保つのだ。
 逆にホースレザーはこしがあるがカーフほど固く無く、ラムのような脆弱でもない。質感がしっとりして適度な柔らかさをもつので、大人向けのウエアに使うと非常に着やすい。
 バイマテリアル、つまり異素材の組み合わせだ。身頃の生地はフラノ。袖の革には当初ラムを使う予定だったが、こしがないので少し厚めで接がずに二枚袖の用尺が取れるホースレザーに変更した。
 そこで肩周りの副資材がカギを握った。 柔らかな素材と薄めの肩パッド、芯地によって、従来のメンズコートにはない新しいソフトなイメージを作り出せた。



 全体のフォルムは、ドイツ軍の将校コートをデフォルメして、シンプルだが着やすさを重視した。またそれを支える素材も吟味した。デザイナーとしては、仕立てと素材の双方を大切にしながらも、決して自身のラインを崩すことなく表現した。そして、出来上がりを見て、良質な素材だからこそ際立つシンプルさと上品さは、フランスのモードにも共通するのではないかと感じる。
 
 素材と仕立ての良さに裏打ちされるシンプルさゆえに、自分の個性を表現できるのだ。かの有名SPAの総帥が宣う「個性は洋服でなく、着る人間が出すもの」も、素材が上質で、仕立てが良いからこそ、成り立つと思う。
 それゆえ、素材と仕立てが良ければ、着る人間が負けてしまうということもあるかもしれない。いい換えれば、シンプルゆえに自分の個性を表現でき、取り入れ方次第でダサくも、カッコよくもなり、着る側にとってはむずかしさもある。しかし、それがデザイナークリエーションの素晴らしさと魅力であり、作る人間の感性と技も生かせるのだ。
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カギを握る完成度の高さと編集力。

2012-12-19 13:51:01 | Weblog
 百貨店のそごう・西武が来春から新進気鋭のクリエーターが作る雑貨を売り出す。従来は自主編集売場の「トランスマーケット」で、いろんな展示会で仕入れた商品を販売していたが、ここをリニューアルしてよりエッジの利いた雑貨を期間限定で展開するということだ。

 裏を返せば百貨店業態として苦戦が続く中、ラグジュアリーとNBを中心としたファッション衣料で差別化するのは、難しくなってきたということ。メーカーや卸側も百貨店の販売力が落ちているのに、デザインに特化した商品で冒険するわけにはいかない。
 その点、雑貨ならクセのある商品でも在庫負担にならず、売場スペースもさほど食わない。それにお客はお手頃SPAが乱立するマーケットに完全に慣れてしまっているわけで、もはやファッション衣料に期待していないのは、百貨店側もわかっている。それが雑貨のテコ入れに舵を切った理由と見られる。

 ただ、この程度の政策ならどこの百貨店でも考えるわけで、今年オープンした渋谷ヒカリエも雑貨売場には注力。デザイン性が高く、上質なライフスタイル雑貨を軸に売場を編集している。
 特に和テイストの雑貨は、町工場が持てる技術を生かし企画した商品だ。まさに日本の職人技が新しい雑貨市場を切り開こうとしている点と百貨店側の思惑がうまく合致したと言える。
 そこで、そごう・西武は感性を全面に押し出すクリエーター系の雑貨で勝負にしようということだろう。同時に新進クリエーターの発掘にも力を入れ、創業者支援施設「台東区デザイナーズビレッジ」などを通じ、新たな取引先の開拓に努めるという。

 思えば、既存の雑貨マーケットは大きくわけて3つになる。一つはファッションブランドがMDの構成上、雑貨まで踏み込んで企画製造する場合。ラグジュアリーブランドに見られるスカーフやマフラー、サングラスなどのケースだ。
 二つ目は雑貨専門のメーカーや卸が有名ブランドのライセンスを得て、ブランド雑貨として製造する場合。靴下やハンカチ、傘などがこれにあたり、百貨店の「洋品売場」はこうした商品で構成されてきた。また、ムーンバットのように企画力をもつメーカーは独自で商品を開発し、ブランドマークだけでは捕捉できないニッチ市場を開拓している。


手作りにこだわれば、量産は難しい

 そして三つ目が中小零細から個人に至るまでの雑貨メーカーである。細々とした工房をもち、オリジナリティある革小物やシルバーアクセ、帽子、巻物などを手作りする。一つ目、二つ目は百貨店や量販店が卸先であるのに対し、こちらはそうした流通ルートに乗らないセレクトショップや専門店に合同展の「treasure」や「Plug in」などで商品を披露して、取引するものだ。
  中小メーカーの中にはヒットアイテムが出て、海外に工房を設けて量産に踏み切ったり、直営店を出してSPA化を進めたり、百貨店との取引が始まったりと、躍進するところもある。
 しかし、大半が手作りにこだわるあまりに、手間ひまがかかって量産できず、生産コストを価格に載せれば販売価格が上がり、貴金属でない限り利幅を取るのは難しい。資金と時間を必要とするブランドでの仕掛けなど、全く遠い話である。
 中小零細の雑貨メーカーや個人の多くがこうしたジレンマを抱えながら、商品づくりを行っているのが、雑貨業界の現実だ。

 そごう・西武のケースは、百貨店が個人営業がほとんどの雑貨デザイナーにビジネス、マーケットの場を提供したという点で、新たな一歩を踏み出したと言える。また、台東区デザイナーズビレッジが進める創業者支援や、その先にある製造業の活性化、伝統技の継承などにとっても、明るい材料になるだろう。
 しかし、問題もある。デザイナーは小売りと取引する上では、自らの作風やコンセプトがブレることなく、適正量の商品を安定的に製造していかなければならない。もちろん、クオリティや完成度も要求されるし、歩留まりが良く無ければ利益は出ないだろう。趣味の領域、自己満足の世界ではダメなのである。
 百貨店側もデザイナーによって異なるテイストをうまくまとめて売場を構成する編集力が求められる。いくら期間限定という逃げ場を作っても、クリエーター雑貨に取り組む上では時間をかけてクリエーターを育てていくことが重要だ。でなければ、場当たり的な売場づくりになるのは目に見えている。

 そして、もう一つ苦言を呈しておこう。デザイナーを目指す若者たち、そして「デザイナーを育成」を公言する学校や指導者にである。
 プロの雑貨デザイナーを育てたいのなら、素材を絞り込んでそれを最大限に生かせる技を磨かせなければならない。革か、金属か、木か、その他の素材か。100%手作りか、道具を使うのか、機械に頼るのか、単独か、分業か、である。
 そしてデザインやデッサンの力を付け、手作業や道具・機械使いの技を徹底して磨き、商品たる完成度をあげて行くことが不可欠だ。また、指導者もそれぞれの分野で徹底したノウハウを提供し、技術を教え込んでいかなければならない。
 手芸店に売っているような材料を持ち寄って、「自由に作りなさい」なんてことを1年や2年やったくらいで、クリエイティビティや技術が身に付くわけはないし、その先にプロの道が開けるはずもない。暇を持て余したおばさま方が通うカルチャースクールとは違うのだ。

 雑貨といえども、プロの道は険しい。自分の作風と技を完成させるには5年、いや10年はかかるかもしれない。それまではまともには食えないだろう。その意味で台東区のような創業者支援はありがたいことだ。
 ただ、そうした恩恵に甘えるのではなく、高い次元でクリエイティビティと技術を高めていかなければ、雑貨マーケットにおけるビジネスもクリエーターニーズも広がらないと思うのである。
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企画の先細りは否めない。

2012-12-13 17:28:58 | Weblog
 今年9月の福岡ファッションファーラムで、開催計画が語られた「ファッションウィーク福岡(F.W.F.)」の概要が発表された。来年3月の1ヵ月間にわたり、ファッション・ショッピングの街「福岡」を内外にアピールして多くのお客を集め、地域活性化を繋げるという。
 期間は3月1日から31日までの1ヵ月(予定)で、エリアは市内中心部の天神や博多駅、その周辺商業地域。そこで展開する百貨店やファッションビルの専門店&雑貨店、セレクト、飲食、理美容など路面店に対し、オープニングイベントやスタンプラリー、ガイドブックの配布、ポスターやWebの告知などで、“こんな共同販促キャンペーンやってますよ”って、訴えかけていくようだ。
 目的の項目には「ファッションで福岡の街全体を盛り上げることにより、内外からの集客や消費喚起を図り、地域経済の活性化につなげる」と書いてある。
 しかし、こんな大上段の目的がこの程度の稚拙な企画内容で達成できるとは到底思えない。おそらく主催者側は、また適当な理由をつけて、目的の実効性をでっちあげる公算が高いだろう。では、その問題点を以下にあげてみよう。


ウィークなのに1ヵ月も行うの?

 まず、率直に言ってウィークと言ってるのに、1ヵ月も行うのがおかしい。一応、「予定」となっているが、1ヵ月はあまりに長すぎる。
 約100のブランドが参加した2013年春夏パリコレクションは、10月3日からたったの9日間。こちらはメゾンのショーが1時間刻みに行われ、メディアには全部回りきれないとの不満がくすぶるものの、バイヤーからは仕入れたいブランドを短期間で効率よく見られるという声が多い。
 メルセデスベンツがスポンサーに付いた「東京ファッションウィーク」ですら、3月17日から23日までである。ウィークと付けば、まさに1週間なのである。
 期間が長いと、キャンペーン自体が間延びしてしまう。さらに段階を踏んで認知度を高めるような企画が用意されていないのでは、消費者にとっては最初の「何かやっている」という記憶が次第に薄れてフェイドアウトしてしまうのが落ちだ。

 次にキャンペーンの目的と企画内容がきちんと連動しているとは言い難い。こうした小売りサービス業向けのキャンペーン・プロモーションでは、あらかじめその手法を整理して、きちんと提案しなければ意味がない。でも、それが全くなされていないのである。
 小売りサービス業向けのキャンペーン内容は、インセンティブ、イベント、サービス、メディアなどになる。しかし、ここではイベントやメディアのツール制作に予算が投下され、小売業側のインセンティブは「来店客への特典(セールやプレゼントなど)をご用意ください」「積極的にアピールしたい店舗向けの有料プランもございます」となっている。
 つまり、その企画内容は「自分の店で考えろ」ということ。有料プランにしても、ガイドブックやWebでの告知をオプション枠で目立たせる程度に過ぎないだろう。
 共通ロゴ、ポスター、ガイドブックを制作するのは、グラフィックデザイナーやデザイン会社だし、参加店舗が増えてプリント枚数が増えて潤うのは印刷会社。Webサイトにしても専門の制作会社が携わり、有料プランが組まれている以上、カネが流れる先は決まっている。

 これでは主催者側と一番利害関係が強い「業者」ばかりが恩恵を受け、ファッション業界側に対するメリットがほとんどないと、言われてもしかたない。
 だからインセンティブが必要なのだ。これにはトレードから小売り広告へのサポート、ディスプレイアローアンス、コンテスト、プロモーションツールの提供、資金援助、セールスコンテスト、開梱チケット、セール、ギフトノベルティ、インビテーションまで、企画はいろいろある。
 その詳細を説明するには字数に限りがあるので省略するが、 本来なら企画運営委員会がこれらを詳細に検討して立案し資金を投下してこそ、小売りサービス業むけのキャンペーンとして、実効性あるものになる。
 まあ、企画メニューにあげられている「スタンプラリー」も、どこまでショッピングエリアが広がるかは懐疑的だ。外食メディアが仕掛けるクーポンチケットによる店巡りなら多少の集客は図れるだろうが、ファッションに限って言えば買い回りは難しい。
 つまりインセンティブに注力されない以上、キャペーンの軸が明確化せず、その先にある集客や消費者の需要喚起は図れない。稚拙な企画という根拠はここにある。



地場ファッション業は利用させているだけ

 そもそもこうした一連の事業は「福岡アジアファッション拠点推進会議」が発足した2000年3月からスタートした。その年の5月末には事業内容が企画コンペで募集され、地元ローカル放送局のRKB毎日放送が「トータルブロデューサー」となった。
 しかし、しょっぱにやった企画は東京から呼んだタレントをレポーターに起用し、自社のスポンサーをメーンでクローズアップする番組制作。そして、そのタレントと航空会社OL崩れのスタイリストを起用したトークショーと、地元ファッション業界の振興にほとんど効果のない企画となった。
 そして、事業はプレゼンのルール無視とズブズブ関係の力業で、2年目以降もRKBの手中に収まり、中心は福岡アジアコレクション(FACo)と銘打つタレントによる客寄せ興行になった。
 ただ、これもイベント制作は神戸コレクションを手がける制作会社に丸投げされ、出演する地場メーカーの顔ぶれは決まってきている。当初から事業が目的とする地場ファッションの産業振興、人材育成に対する投資がなされたのかさえ、ハッキリ検証されていない状況だ。

 2年目以降、RKBはトータルプロデュースではなく、仕切りはFACoとフォーラムのみになっている。そもそもファッションやアパレルを熟知していないのだから、当たり前と言えば当たり前なのだが。
 そこで、今度はファッションウィーク福岡(F.W.F.)が持ち上がったようだが、本来なら小売りサービス業が中心の福岡なのだから、こうしたキャンペーンが先に行われるべきである。
 ただ、ファッション音痴のテレビプロデューサーが自社に利害がない地元の個店を一軒一軒たずね歩いて、事業内容を理解させきれるはずがない。でも、それをいいことに自分らの凡庸なアタマで、地場産業無視の事業を行うことが許されるはずもない。


参加店舗が増えると、コスト増で困る

 ただ、今回のキャンペーンにしても地場の小売りサービス業に対し、広く告知されているとは言い難い。推進会議のサイトを利用し、おそらくWeb制作会社と思われる業者に「待ちの姿勢」で応募管理をさせているに過ぎないからだ。
 キャンペーン参加募集は12月5日に始まり、締め切りは12月24日。但し書きに「ガイドブック誌面の都合上、お申込み多数の場合は、締切日を待たずに締め切らせていただきます」とある。
 おそろく、Webはともかくガイドブックは印刷物だから、業者はページ数が決まらないと見積もりが出せない。推進会議側には事業予算があるはずだから、ガイドブックの予算枠も大筋で決まっているはず。但し書きは、印刷料金アップのリスクヘッジであることが透けて見える。
 あまりに主催者側、業者側の都合ばかり、できれば自分たちにメリットがある店舗で固めたいとの思惑が見え隠れしてしょうがない。そんなことで「内外からの集客や消費喚起を図り、地域経済の活性化につなげる」はずがないのである。

 もっとも、このキャンペーン期間中の3月24日には、FACoも開催される。主催社側はキャンペーンの終了間際にFACoを開催するから、だめ押しで盛り上げられるなんて勝手な思い込みを口にしているのかもしれない。
 昨年から福岡県も商工会議所もFACoへの資金援助はしていない。ところが、今度のショーには代理店のD社がすべてを仕切り、AKBタレントで地元出身のSを起用した「かいいい区」といった「福岡市」のキャンペーンを連動させる計画のようだ。
 一連の事業で全く蚊帳の外にあったD社がいよいよお出ましである。それにしてもタレントを先乗りさせ、デベロッパーのどこかにスペースを用意させ、トークショーなんかを行うのが関の山だろう。
 そんなことをやれば、キャンペーンが中心部だけで完結してしまい。周辺の大名、まして薬院なんかにお客が流れるはずはない。

 最後に「東京ファッションウィーク」に携わった経験から言わせてもらうなら、こちらはアパレルメーカー、卸を主体にテキスタイルメーカーや副資材、一部機器を含めた純粋な業界が全国のファッション小売業のバイヤーを集めて、商談の機会を広げるものだった。
 資金力のあるDCブランドメーカーは、イベントとしてファッションショーを開催していたが、これとてバイヤーにシーズン商品を見てもらうセールスプロモーションの場だった。バイヤーにとっても、一度にアパレルの展示会が行われれば、効率よくメーカー回りができるし、合同展では零細だが企画力があるメーカーを発掘できたのである。

 元来アパレルメーカーが少なく、小売りサービスが中心の福岡では、同じファッションウィークと言っても次元が異なってくる。そんなことは推進会議の事業を始める時点で、企画運営委員会側もわかっていたはず。FACoを中心にメーカーばかりをクローズアップしてきた問題から、ようやく小売り支援にも乗り出したのも自明の理だ。
 しかし、この程度の稚拙な企画では、内外からの集客や消費喚起を図り、地域経済の活性化につながるはずもない。また、企画目的の対象である店舗は、ファッションだけでなく、飲食や美容なども入っている。しかし、それらが抱える「課題」は各店各様なだけに、とても統一のとれた活動にはならないことが予測される。
 それでは目先の派手さだけを求める全く実効性を欠いたキャンペーンになってしまい、 ますます、地場ファッション産業の振興、人材育成は後回しになってしまう。事業が始まって5年目に入るが、企画の先細りは否めないと言わざるを得ない。というか、携わる人間たちの利益と自己満足に地元ファッション業界は翻弄されている。
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鹿児島も同じ轍を踏むのか。

2012-12-06 13:56:27 | Weblog
 全国各地で「地域活性化」というお題目を掲げたファッションイベントが盛んだ。それがついに九州・鹿児島にも上陸する。
 第1回「鹿児島ニューイヤーコレクション」と銘打ち、 来年1月6日、栗原類、鈴木奈々、中村アン、加藤夏希など硬軟取り混ぜたモデル、タレントをゲストに鹿児島市民文化ホールで開催される。
 今回もコレクションというクリエーションのお披露目やウエアのプロモーションは二の次ぎで、旬のタレントでお客を集めようというのが目的なのは、顔ぶれを見ればわかる。
 また、「地場産業の活性化を狙う」という目標も、 鹿児島にはトレンドファッションを企画製造するアパレルメーカーなんてないだろうから、事業対象のメーンは小売業にならざるを得ない。
 それが参加企業に名を連ねる山形屋、カリーノ天文館、ビーザワンってことだ。「大島紬」も地場産業だから無理矢理に加えられたのではないかと思えるほど、タレント頼みの客寄せ興行との整合性を欠く。

 ただ、小売業主体のプロモーションといっても、前出の3社は百貨店、ショッピングセンター、セレクトショップである。今回のショーには全国的にも有名なブランドショップが集積する駅ビルのアミュプラザ鹿児島、ファッションビルの高島屋プラザが参加していない。
 だから、ステージやランウエイを闊歩するタレントの衣装は、NBアパレル、チープなSPA、そして専門店系アパレルの商品になる。しかもプレス機能なんてないのだから、それらは「売り物」ってことだ。まあ、SPA、セレクトショップの商品は自社もしくは買い取りの商品である。
 スタイリストの勝手なコーディネートで衣装が着崩されようと、間抜けなヘアメイクやフィッターのせいでファンデーションを着こうが、問題はない。
 ところが、百貨店の商品はアパレルメーカーの委託商品や消化仕入れがほとんど。バックステージでのタレントの素行で、「汚れ」てしまえば買い取らなくてならないだろう。いくら山形屋と言えども、イベントによる販促効果以上に商品リスクを抱えなくてはならないのである。


セール真っ最中のイベントが販促に?

 さらに問題はイベントの期日だ。今年の夏、三越伊勢丹グループなど数社が夏のセールを後ろ倒しした。しかし、それ以外の企業や商業施設は例年通り行った。おそらく冬のセールも同じになるだろう。
 とすれば、イベント当日の1月6日は初売りがピークを迎える時期。ここで冬物をとにかく消化しなければならないのである。まだ、春物はほとんど入荷していないはずだから、セール対象品をイベント衣装のコスチュームチェック用として、暮れから確保しておかなければならなくなる。
 つまり、販促目的で行うはずのイベントが「機会ロス」を生んでしまうという皮肉な結果にならないとも限らない。元来、この時期に行うイベントは春物のプロモーションであるべきなのだが、昨今メーカーはギリギリまで企画を先延ばししているので、欧米のコレクションのようには行かないのだ。
 おそらく鹿児島の行政や商業界としても、とにかく「売り」や「客寄せ」につなげなくてはならないから、企画提案側のごり押しを飲まざるを得なかったのは、容易に想像がつく。

 もっとも、ここまでは表というか、大人の事情である。では、一歩突っ込んで裏の事情も論じてみたい。今回の鹿児島ニューイヤーコレクションを制作するのは、神戸コレクションを仕掛ける制作会社のアイグリッツである。
 このコラムでも何度も取り上げたイベント会社だ。神戸コレクションは、アパレルメーカーが集積する神戸ファッションの活性化を目的に、神戸市や神戸商工会議所を動かして、開催にこぎ着けた。プロデュースにはテレビ局の大阪毎日放送があたり、スポンサーなどを確保している。
 その営業攻勢は2008年春に福岡県、福岡商工会議所が発起人となってスタートした福岡アジアファッション拠点推進会議にも飛び火。そのファッションイベントである「福岡アジアコレクション(FACo)」も手中に収めることに成功した。

 こちらのプロデュースが大阪毎日放送の系列局であるRKB毎日放送であることからもその辺の裏事情は理解できる。ただ、地元福岡のファッション業界では、一応、事業企画はコンペで募集されたものの、それはアリバイづくりに過ぎず、県の担当者や商工会議所の幹部とRKB毎日放送トップとの蜜月で、はなから筋書き通りに事業が流れたとの見方が大勢を占めている。
 そして、今回の鹿児島のケースはどうか。イベントそのものの内容は、衣装提供がアパレルメーカーから小売りに変わるだけで、大差はない。「地域活性化」をお題目に行政や商工会議所を味方に付け、公金や組合費からイベント事業費を拠出させる手法も同じだろう。


朝日放送系のKKBが参画する事情

 しかし、唯一、違っているのは「事業」として当たる放送局だ。今回は「KKB鹿児島放送」が参画している。こちらはテレビ朝日、朝日放送系列だから、神戸コレクションや福岡アジアコレクションのにあたる毎日放送系ではない。
 これまでの経緯を考えると、毎日放送系である「MBC南日本放送」が事業に参画するはずだろうが、そうならなかったところに何らかの事情があるのかもしれない。
 ここからはあくまで推測の域を出ないが、かつて鹿児島経済界で一大勢力をもっていた南国殖産や林田グループ、岩崎産業のカゲは薄くなっている。代わって焼酎メーカーの薩摩酒造、本坊酒造が地場の政界、経済界に及ぼす影響力は少なくないようだ。

 KKBの大株主が薩摩酒造であることを考えれば、今回のような行政や経済界を取り巻くイベントの力関係が変わったと、みることも出来る。また、鹿児島商工会議所の会頭は諏訪一族の末裔、諏訪秀治鹿児島トヨタ社長であり、活性化団体の「まちづくり鹿児島」の社長を務めていることをみても、納得できる。
 MBC南日本放送については、代理店の「D」社と結びつきが強い。鹿児島で今回のようなファッションイベントを企画するのはD社の十八番だったから、MBCが代理店との営業的な不文律を破りたくなかったのではと考えれば、説明もつく。
 しかし、一方ではそれはD社の凋落とともに、ダイレクトにイベント会社が参入するスキを生んだということである。
 かつて熊本に本拠を置き、南九州一円に店舗網を築いていたスーパーの寿屋のグループ会社で、ファッション専門店チェーンの「ぶ~け」は、鹿児島でファッションイベントを開催していた。今回のイベントに参加するカリーノ天文館ももとはぶ~けの店舗で、この企画制作を手がけていたのはD社である。

 当時、ぶ~けは地方チェーン店では隆盛を極め、販促にも経費を惜しまず投下していた。東京はもちろん、関西のアパレルメーカーも一目置き、鈴屋や鈴丹と並んでぶ~けのバイヤーの指示なら受けざるを得ないというのが、業界では専らの話だった。
 筆者が懇意にしていた原宿のアパレルメーカーも、ぶ~けのファッションイベントのために、「プログラム上で必要なテイストの商品をわざわざ準備した」と言うほどだ。その背景にイベントを企画演出するD社の影響力がどれほどあったかは定かでないが、少なくとも地場企業と代理店がそれだけのイベントをやっていたのは事実であろう。
 もっとも、昨年宮崎で東京ガールズコレクションのローカル版が開催されたが、後になってこの企画制作会社がかの国系企業だとの事実が週刊誌にすっぱ抜かれた。
 ただでさえ保守的な鹿児島はこうした事情には敏感だ。だから、そこにさしてイベント企画の中身は変わらないものの、清廉潔白な神戸コレクション、アイグリッツが入り込めたということだろう。

 一方で、スポット収入が激減するローカルテレビ局、特に鹿児島で下位にあるKKBがそれに替わる事業を進めたいのは当然のことで、アイグリッツの持ちかけは渡りに船だったのかもしれない。
 所詮、ローカルテレビのプロデューサーなんて、ファッション業界もアパレル事情もほとんどご存じないのだから、派手なイベントにも触れるだけで舞い上がってしまうのはしかたないだろう。
 筆者がコラムでこうしたファッション事業の問題点を指摘すると、「まともな反証も論拠もあげられず、コメントするだけありがたく思え」と捨て台詞しか吐けないのが、何よりの証拠である。
 ファッション音痴で凡庸な思考力しか持たないローカルテレビがノウノウと事業にありつけるのは、関係団体とズブズブな間柄で、経営トップが団体幹部に働きかけて、プレゼンルール無視で事業を手中に収める過ぎないのだ。
 まあ、それでも地場のファッション産業が「冬物在庫消化」とか、「売上げ増」とかの目的を達成すれば救いだが、それが絵に描いた餅であるのは、回を重ねる神戸コレクションや福岡アジアコレションを見れば一目瞭然である。

 今、ファッション業界では、行政も商工会議所もローカルテレビ局もアイグリッツにうまく丸め込まれているだけで、代表のT氏が一枚上手なだけに過ぎないと言われている。鹿児島がそれに気づいた時にはすでに遅しかもしれないが。

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