HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

オクタホテル、関東初出店。 故人のセンスが東京で開花する。

2012-04-25 12:57:30 | Weblog
 4月26日、東京渋谷駅の東口、東急文化会館跡地に新たな施設「渋谷ヒカリエ」がオープンする。東急電鉄がかつてプラネタリウムや映画館で構成していた東急文化会館を商業&文化、オフィスの複合ビルとして再開発したものだ。
 しかし、先の東急プラザ表参道原宿と同様にさして珍しいテナントは見当たらず、新たなムーブメントもカルチャーも発信されそうにないというのが、筆者がプレスリリースなどを見ての感想である。
 ただ、同ビルのショッピングゾーン「シンクス」で、ぜひ九州を除く全国の業界関係者に紹介しておきたいテナントがある。5階のライフスタイルフロアに関東では初出店を果たした「オクタホテル」だ。フレンチ感覚の雑貨を集めたショップで、ファッションテナントの辛口評論でお馴染みの小島健輔先生も渋谷ヒカリエの「目玉テナント」に挙げていらっしゃる。
 オクタホテルは、もともとは福岡のヤングスポット親不孝通り界隈でパブレストラン「西洋乞食」を経営した故・山縣英児氏が、1980年代にプロデュースした雑貨業態である。
 山縣氏は福岡と佐賀の県境に聳える早良山系のわき水と国産大豆を使用して作る豆腐料理店「松竹五右衛門」の二代目。大学卒業後に手がけた西洋乞食では自社の食材を利用し、「豆腐ステーキ」や「豆腐アイスクリーム」を生み出すなど、抜群の「食才」の持ち主だった。
 一方で、店舗を訪れる常連客からはグラスの並べ方のセンスが良いとの評判があがったり、自らフランスで買い付けた照明やインテリアで店内をコーディネートするなど、飲食業で磨いた感性がいつの頃か本人を雑貨ショップの展開へ誘って行った。
 こうして1983年、山縣氏は親不孝通り入口近くにオクタホテルの前身、「オクタショップ」をオープン。フランスを中心に集めたソープからアクセサリーまで、いかにもユーロデザインらしい洗練されたグッズをところ狭しと並べ、本格的に雑貨店の経営に乗り出したのである。
 フレンチ雑貨店の元祖「F.O.B COOP」の日本上陸が1985年だから、2年も早いことになる。東京の感覚からすればそんなはずないと言われそうだが、福岡のショップ経営者は意外にアドバンスなのだ。筆者が生前に取材した時は、「衣食住に関わるものすべてに興味があって。クロワッサンのFC店を皮切りに雑貨のオリジナル業態を始めたんです」と、山縣氏自身が語っていた。
 オクタショップの基本コンセプトは、パリのリセエンヌの生活。彼女たちは若くても流行は取り入れるもので、左右されるものではないという一貫した考えの持ち主。ファッションを見てもスタイリングはほとんど変わらないが、微妙なディテールでその時代を表現する。山縣氏も同じ感覚で、すぐにマス化するものは好きになれなかったようだ。オクタショップはそんなニュアンスを品揃えのポイントにしていた。
 当初、山縣氏が直接フランスまで出かけ、足繁く商品を探し回っていた。例えば、今は復刻されている「シャペリエ」のバッグも、当時は山縣氏がいち早く売り出したもので、パリで見つけてそのデザインと機能性が気に入り、わざわざオリジナルで作らせたほど。そんなことから次第に現地に住む日本人とも知り合い、商品の買い付けやアクセサリーデザインを依頼しながら、少しずつショップの骨格を固めていった。
 でも、たとえリセエンヌ御用達だからといって何でもかんでも仕入れたわけではない。ホームウェアはソープやバスオイル、テーブル&キッチン小物、アロマテラピーグッズ。アクセサリーはリングやブレスレットなど。ファッション雑貨では帽子と靴、そして巻物など。特に靴はナースや肉屋などが着用するプロ用のシューズ、そしてシンプルなミュール類などライトなものに限定した。大ぶりのイヤリングなどは、日本人の顔立ちに似合わないとバッサリ。自身の感性に合わないものは絶対買い付けなかった。
 そして、2号店として開発したのがパリのプチホテルをイメージした「オクタホテル」である。そこではカフェテリアで使用されるようなデザインのコーヒーカップをオリジナル商品としてプロデュースし、オクタショップの品揃えに加えて販売した。さらにそのカップを使用した「オクタカフェ」、アクセサリーを中心に揃える「スーブニール」もプロデュースし、3店とも福岡天神のイムズにオープンした。
 その後、山縣氏は飲食業とオクタショップの経営に集中するため、オクタホテルとスーブニールは店舗パッケージ&MDノウハウごと別会社に譲渡。しかし、このオクタホテルはそれ以降、デベロッパーに引っ張りだこで、九州各地の代表的なショッピングセンターにはほとんどリーシングされている。
 山縣氏はオクタショップの入居ビルが再開発になったため、天神のソラリアプラザに移転。さらに2000年には豆腐料理とアクセサリーショップを複合させた「アガタ・エ・オクタ」をプロデュースする一方、オクタショップの店名を「ici(イスィ)」と改め、05年にはファッションエリアの大名にオープンした。
 筆者の事務所近くだったこともあり、福岡西方沖地震でオフィス備品のほとんどが壊れてしまった時には、ずいぶんお世話になった。中でも、ユーロデザインの「エレクトロラックス」は、店ではオーブンや電子レンジしか取扱っていないにも関わらず、当方が事務所用の冷蔵庫が欲しいと申し出たときは、快くメーカーに取り次いでくれた。
 家庭用のような大きなタイプは必要ないが、ミネラルウォーターやビール、保存食などのストックには大変重宝している。何よりデザインが良いのが気に入っている。ただ、その2年ほど後、山縣氏は心臓疾患でお亡くなりになった。まだ、50代半ばという若さだった。
 今回、オクタホテルが東京、まして渋谷に福岡から逆上陸するのは、プロデュースした山縣氏自身が喜んでいると思う。そして、筆者も福岡在住者としてたいへん誇らしい。この場を借りて山縣氏のご冥福をお祈りするとともにオクタホテルの躍進にも期待したい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

大量生産のツケが回った中国スポーツメーカー。

2012-04-18 16:06:11 | Weblog
 今年2月、中国紙の新京報が「中国スポーツメーカーの 李寧(リーニン)や 匹克体育(ピークスポーツ)がハーバード大出身で中国系米国人のNBA選手ジェレミー・リンとイメージキャラクター契約を結ぼうと、食指を伸ばしている」と報じた。
 中国メーカーは以前からNBA選手との契約には積極的で、ピークスポーツはマイアミ・ヒートのシェーン・バティエ、オーランド・マジックのジェイソン・リチャードソン、アンタスポーツ(安踏体育用品)はボストン・セルティックスのケビン・ガーネットや ヒューストン・ロケッツのルイス・スコラと契約している。

 その狙いは海外進出への布石だが、まずはブランドイメージのアップによる国内市場でのシェア獲得がある。中国におけるバスケットボール人口は推計3億人とも言われ、その人気はダントツだ。中国系のリンならナイキがマイケル・ジョーダンで行なったような人間投資、いわゆる選手の成長とブランド力の向上をリンクさせるような戦略が可能になるからだ。
 実際、「ピークがリンとの契約が間近」との噂が流れたときは、株価が高騰するなど中華系マーケットの関心度も高い。
 ところが、市場の期待とは裏腹に各社の11年度決算を見ると、軒並み成長が鈍化している。リーニンは売上高約1176億円で前年比5.8%減、純利益約50億8000万円で前年比65.19%減と、創業以来初の減収減益となった。アンタスポーツは売上高約1132億円で同20.2%増、純利益約219億円で同11.5%を維持したが、伸び率は売上高で5.8ポイント、純利益で12.5ポイントも低下。 ピークスポーツは売上高約611億円で同9.3%増ははたしたものの、純利益約103億円で同5.4%減と、利益はマイナスに転じている。

 中国国内ではリーニンとアンタスポーツだけで6000~8000店を展開するが、成長鈍化は明らかに大量生産で在庫がダブついた、また大量出店で店舗間の競争が激化し、販売効率が低下したことに起因する。
 期末時点での在庫はリーニンが前年比40.6%増、アンタスポーツが36.2%増、ピークスポーツが25.7%増。平均の在庫回転率もリーニンが21日増の73日、アンタスポーツが2日増の38日、ピークが11日増の49日と、各社とも在庫過多と商品の動きの悪さを露呈している。
 中国メーカーの在庫圧縮は急務のようで、リーニンは商品フォローの制限や店舗数が少ない代理商(中国ではメーカーは直営店展開せず、代理商に任せる)の整理統合を行なう一方、在庫処分用のディスカウントストアを300店以上増やして627店まで拡大した。
 ピークは代理商を活用して地方におけるきめ細かな出店政策や店舗網の整備を急ぎ、トップブランドが進出していない地方での市場開拓にも照準を当てる。

 しかし、これで中国メーカーが再び浮上のきっかけをつかむかと言えば、筆者は懐疑的だ。なぜなら、中国メーカーはブランド力では世界のトップ御三家には遠く及ばず、 日本メーカーに比べても技術力や商品開発力で大きく引き離されているからだ。
 現にナイキやアディダスは中国国内でのシェア獲得をどんどん進めており、ミズノやデサントも大都市を中心に旗艦店を出店して、知名度のアップと商品プロモーションに力を入れている。 
 経済成長で中国国民が豊かになればなるほど、よりよいブランドや商品を求めるわけで、それらで優位に立つ外資系が伸びるのは当然である。

 一方、中国経済が海外からの投資で支えられていることを考えると、中国政府も国内企業だけを保護することはできない。日本を含めて外資系メーカーが中国人を雇用して中国国内で製品を生産し、中国人がその管理職となってマネジメントする以上、 中国政府には国内企業と同等の配慮が求められる。
 言い換えれば、中国メーカーにとって中国国内でビジネスを展開することは少しも有利なことではなくなってきているのだ。逆に外資系メーカーはコストが同じで、商品ジャンルも同じなら価格競争力が付くわけで、中国メーカーが外資系の後塵を拝するのは当たり前だろう。

 ファッション業界には、ある中国ブランドの商品開発担当者がユニクロの商品を見て、「品質、価格ともとても勝てない」と漏らしたという有名なエピソードがある。
 スポーツ用品業界では、代理商の整理統合による地方への素早い進出など、当面は中国メーカーが有利に立てるかもしれない。しかし、素資材の調達から生産流通、店頭の売れゆきまでを一元管理するサプライチェーンのシステムをもつ日本メーカーが本気を出せば、大量生産、大量消費のノウハウしかもたない中国メーカーが勝てるはずがないのだ。
 ダブつく在庫の圧縮とバーチカルな消化システムくらいのビジネスでは、淘汰されるのは目に見えている。ただ、中国ではこれまで人気のバスケットボールを中心にスポーツ用品市場が拡大されてきたわけで、 その成長にブレーキがかかったということは、別の用品にとってのビジネスチャンスと見るべきだろう。

 中国メーカーが今後、どんな戦略を構築できるかは未知数だから、日本が得意とする野球用品などでは、中国での早急な戦略構築が求められると思う。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

銀座初の屋外ファッションショーは、百貨店復権のさきがけにならない。

2012-04-12 18:27:22 | Weblog
 4月12日付けのダイヤモンドオンラインに「銀座初の屋外ファッションショーの成功は、百貨店、情報発信力復権のさきがけになるか」が掲載された。
 このイベントについては、先だってFB友人諸兄も語っていたが、筆者も銀座=デニムという構図は不釣り合いだと思う。ファストファッションと一線を画し、高級イメージを取り戻したいなら、なおさらである。 
 だいたいアダルト対象にしてきた銀座の百貨店がそんなにデニムに詳しいわけでも、ジーンズを一生懸命売りたいわけでもないだろう。現場のスタッフ自身が「こんなイベントをやったところで、お客がどんどん売場にやってくるのか」と懐疑的なはずである。
 さらにモデルとして参加した米倉涼子は、事務所Oの方が百貨店とのキャラクター契約を取るために動いたのではと勘ぐりたくなるし、枝野幸男大臣の登場も原発問題で落ちたイメージ回復を狙う経産省の思惑が透けて見える。

 第一、枝野大臣のあのスタイリングは何だ。仮にデニムウエアを売りたいなら、せめて今のトレンドにフィットするデザインでないと意味がない。 それともフィッターに携わったスタッフのセンスの無さなのか。 秘書官は「分刻みのスケジュールで試着などできなかった」なんて言うかもしれないが、そんなのは言い訳に過ぎないだろう。
 銀座には老舗のテーラーも軒を並べるのだから、素早く採寸してスタイリッシュなウエアを作るくらいでないと、情報発信もクソもない。世界中どこにも無い商品が銀座から発信されるからこそ、お客は買い物に来るのだ。あんなダブダブの格好を銀座で買い物するご婦人方が、自分の旦那に着てほしいとは思わないはずだ。

 今回のイベントは銀座3、4丁目に店を構える三越伊勢丹や松屋銀座が中心となって主催し、松屋の売上げは10%程度アップしたという。ただ、百貨店全体を見ると、2001年に8兆5724億円あった売上げが、11年には6兆1525億円まで低下している。市場の縮小には歯止めが掛からない状況である。それはお客にとって百貨店そのものの存在も、情報発信力もそれほど意味を持たなくなっている証拠だろう。
 なのに女優や経産大臣がデニムを着て銀座を歩いたところで、お客の関心が百貨店の商品に向かうとは思えない。今回のショーくらいなら、せいぜいタレント事務所とイベント会社が得をするのが落ちである。
 
 ショーを企画した太田伸之・松屋常務執行役員MD戦略室長が語る開催理由も、「今の百貨店には、ドキドキすることがない。垂れ幕をたらしてセールするだけでいいのだろうか。百貨店は、日本のモノ作り、文化を残すこと、さらには東北の復興に貢献できるはず」と、大して心を打たない。
 「ドキドキすることがない」のは、メーカーや問屋任せの場所貸し委託販売に終始した結果ではないのか。商品でも販売でもリスクを取らず、売れ残ればメーカーに返品する。商品が売れなくて自分たちが胃が痛くなるような思いをしていないのに、お客がドキドキするはずがない。

 また「日本のモノ作り、文化を残すこと…はできるはず」というが、ならばどんなに売れなくても、どんなに赤字になろうとも、これと決めた商品やサービスをずっと提供しつづけるべきではないか。
 ラスクも、バームクーヘンも、ロールケーキも専門店が売っているを見て、幹部自ら足しげく通って交渉し、出店にこぎ着けただけ。ファッションになるともっと酷い。専門店が開拓し、地道に売って顧客をつかんだブランドをたちまち奪い取っていく。掛け率が6掛けだろうと、7掛けだろうとお構い無しだ。
 それでいて売れなくなると、平気で取引を反古にする。所詮、百貨店経営なんて効率追求でしかない。そんなところが日本のモノ作り、文化を残すなんてことができるのかって思ってしまう。

 百貨店が今より悪くなりたくないなら、イベントなんかに金をかける前に、顧客が買いたいと思うより魅力的な商品を有利な価格と欲しいタイミングで揃えるしかない。小回りの効くOEMアパレルや仕様開発の機能を持ったメーカーと組めば、百貨店でも商品開発は出来るはずだ。要は「オリジナル商品だけではバラエティさを欠くから、セレクト商品も加えた自主MD平場を自前で開発し、もっと荒利益が稼げるようになれ」ということ。
 経営音痴のメディアにわかりやすい能書きや空理空論を宣う前に、コスト高を吸収して利益が出せる体質を確立させる方が先決だろう。それができてこそ、情報発信のファッションショーも生きるのだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

どの大統領候補がモードのセールスマン足るか。

2012-04-06 20:15:11 | Weblog

 ユーロ危機や不法移民問題、そして大統領選挙。この春のパリは例年になく騒がしい。特に大統領選の結果如何でフランスの経済政策は転換し、企業活動への影響は避けられない。
 3月末の世論調査における予想得票率は、最大野党・社会党のフランソワ・オランドが28.5%でトップ。それを現職のニコラ・ラルコジが27.5%で追い上げている。4月22日の第1回投票の結果次第で、オランドとサルコジの決戦投票になる公算が高い。問題は大統領が決まった後、フランスの政治経済やユーロ圏におけるポジションがどう変わるかである。

 先日、パリ在住のアパレル関係者にメールで尋ねたところ、返事が来た。
 「VATを引き上げるサルコジと金持ちへの増税を進めるオランドの対立。メディアは争点がわかりやすいと言っているけど、正直どっちが良いかはわからない。元々高いVATがさらに上がると、もっとモノが売れなくなるかもしれないし。それでなくても値段が安い海外製品が入ってきているのだから。逆に金持ちへの増税は必ず海外移住などの抜け道をつくる。でも、米国ではオバマがVATを導入するなんて言ってるし。こちらもやってみないとわからないだろう」

 VATとは付加価値税のこと。日本の消費税に当たる。しかし、フランスGDP実質成長率は12年第1四半期で-0.1%と悪化。失業者は280万人を超え、失業率は10%近い過去12年間で最悪の数字だ。なのにサルコジは増税するというのだから、景気回復への展望など見えるわけがない。どこかの政府と似た政策である。
 また、produire en France(フランス国内で生産しよう)も提唱するが、国際分業でコスト・パフォーマンスの良い商品が流入してフランス人の購買力を上げたのも事実。今さらproduire en Franceなんて言ったところで、所詮、国民の愛国心をくすぐる選挙戦術に過ぎないのは、誰が見てもわかる。

 一方、オランドが公約に掲げる金持ちへの増税は、年間所得が100万ユーロ以上の場合、100万ユーロ超過分に75%を課税するもの。例えば、年間120万ユーロを稼ぐサッカー選手なら、課税額は超過分を合わせて約58万ユーロにも達し、年俸の約半分を税金で持っていかれる。これにはかなりの反発がある。
 また、年金支給年齢を62歳から60歳への引き下げると提唱しながら、国の財政赤字をEUの上限基準であるGDP3%未満にまで縮小すると言うのも整合性を欠く。財政赤字は国の成長力で解消したい上げ潮派だろうが、元会計検査官としての理詰め通りにフランス経済が動くと考えるのはあまりに楽観的だ。
 サルコジ、オランドのどちらの政策も一長一短。無党派のアパレル関係者は、投票を決めかねているというのが正直なところのようだ。

 フランスのアパレル産業を客観的に見ると、ユーロ体制によって貿易の自由化は図られたものの、安価な海外製品がどんどん入って来た結果、零細のアパレルが廃れていったのも事実だ。中堅メーカーでさえ、ユーロ圏以外の東欧や中近東に生産を委託し、何とか競争力を保っているのが現状だ。
 「政府も安い輸入品に対抗できるような国内産業の再生を怠ってきたしね」と、このアパレル関係者は語るが、結局、自国の経済停滞は貿易収支が赤字になったことが原因と見ている。

 EU発足後に通貨の大幅な変動防止を旗印に導入されたユーロだったが、それで各国別の産業政策が疎かになったのは言うまでもない。地域や経済、通貨は統合されても、国内産業の保護は政府の役目だ。当然、倒産によって雇用が失われれば、財政負担が増えていくのは当たり前である。
 ただ、アパレルのような産業がすべてを国内で行なう時代はとうの昔に終わっている。企画デザインやMDの設計は別として、縫製以降はすべてアウトソーシングである。
 つまり、国際分業が当たり前の今日、Nos emplettes sont nos emplois(フランス製を買うことは雇用に繋がる)なんてのは、幻想に過ぎないのである。とすれば、新政権はユーロ安による貿易拡大で収支の赤字を解消し、まず財政再建から手をつけなければならないのは自明の理だ。

 アパレル産業もユーロ安ならラグジュアリーブランドの輸出は促進されるだろうし、さらに中価格帯を得意とするメーカーは、モード感性を武器にして世界中からOEMやODMを受けても良いのではないか。フランスの企画やデザインのみが世界中に切り売りされれば、ベーシック一辺倒のグルーバルSPAも少しは目を覚ますかもしれない。
 タイムラグの問題は、ITを駆使すれば十分解決できる。トレンド変化も雑誌のパリ特集を見る限り、20年前のものさえ古く感じないから、とるに足りないだろう。やはりフランスは文化などのソフトパワー、デザイン感性で勝負するしかないのだ。

 EV(電気自動車)が普及すればどんな小さな自動車メーカーでも、簡単にクルマが作れると言われる。プラモデルの世界が現実になるわけだから、シトロエンの優美なボディだけ輸出しても、それはそれでビジネスになるかもしれないということ。事例が適切ではないかもしれないが、そんなイメージである。
 グローバル経済、国際分業が当たり前の中で、最終的な完成品だけで競争になるはずがない。ソフトや感性といった付加価値でもいかに外貨を稼ぐか。ユーロ危機を迎えている中で、新政権には厳しい舵取りが求められるが、アパレル産業界にも新たな取り組みが必要だと思う。
 最後にこれは日本人の荒唐無稽なアイデアではなく、フランス文化に敬意を表する上での意見、考えであることをご理解いただきたい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ファストファッションの定義を明確にすべし。

2012-04-03 18:37:34 | Weblog
 4月2日、ダイヤモンド社の総合ビジネス情報サイト「ダイヤモンド・オンライン」に「最後の大型ブランドが上陸 ファストファッション戦争再燃か」と題した記事が掲載された。

 この中で、ダイヤモンド編集部の記者は日本上陸を果たした「低価格衣料ブランド」が、すべてファストファッションかのように語っているが、大きな間違いである。正確に言うなら、これらは外資系SPAという括りはできるが、商品内容やターゲット、価格戦略などでは微妙に異なるので、同じ土俵で語ることはできない。
 もし、この記事がネタ不足の中で無理矢理仕立てられたものとすれば言語道断だが、経済誌の記者として基本的な認識不足なら、もっとファッションを勉強して論述していただきたい。
 一般紙誌でも、外資系SPAの出店ラッシュを報道する時、読者に切り口をわかりやすくするためだろうか、「ファストファッション○○」と一括りにする傾向がある。これも一般大衆の誤解を招き、はてはWikipediaにまで間違った語釈が掲載されている。

 ここはファストファッションの正しい定義をしておこう。ファストとは、文字通り「速い」である。つまり、店頭に「素早く新しい商品を並べる」ことだ。そうすれば、お客がいつ店を訪れても売場の鮮度は高く、商品を買う気にさせる。またトレンドを押さえ、お客の嗜好=マーケットに合わせるにはスピードが欠かせない。当然、商品が売れると新しい商品を並べられるので、売場の鮮度が高まるという好循環になる。
  ファッションビジネスの基本原理として、店頭在庫をロスなく(マークダウンやセールで消化するのではなく)売り切るには、なるべく多品種少量の在庫で商品にトレンド変化を付ければ良いと言われる。商品投入のスピードを上げれば、それが可能になるのである。

 次に、売場に素早く商品を投入するには、商品の企画生産に時間をかけられない。自社でデザイン&パターン、提携工場で縫製をやっていると、そのうちにトレンドが変わりシーズンが終わってしまう。
 だから複数のアパレル生産業者や商社にアウトソーシングして、企画頻度を上げながらスピードアップを図っていく。海外生産が当たり前になった今日、その手法は生産のみを外注するOEM(Original Equipment Manufacturing)、デザイン企画までも依存するODM(- Design -)とある。
 ただ、生産ロットが小さいと開発スタッフの人件費などが嵩み、価格は割高になるから素資材や縫製などでコストダウンを図るのだ。結果として、高い完成度やクオリティは望めないが、安価なトレンド商品を生み出すことはできるわけである。

 つまり、ファストファッションとは「トレンドデザインに特化し、品質と開発期間を圧縮して、低価格と鮮度を実現したもの」ということになる。それゆえ、ベーシックなアイテムを自社企画し、時間をかけて売り減らしていくギャップやユニクロは、ファストファッションには入らない。
 定番のジーンズが8000円以上するギャップは、低価格衣料でもないだろう。なおさらその弟ブランドのオールドネイビーは、ギャップの派生型で価格帯のみを下げたのだから、ファストには当たらない。
 ザラは適度なモード感はもつが、トレンド商品が次々と投入されるわけではなく、何より自社企画で高い品質を維持している点では、ファストの範疇には入らないというのが筆者の見方である。
 
 まして、ポロシャツ1枚が1万円以上するアバクロンビー&フィッチがファストファッションに当たるはずがない。こうした国内&外資系SPAを十把一絡げにファストファッションとして論じるのは、あまりに短絡過ぎないだろうか。
 むしろ、ファストファッションを切り口にするなら、H&Mやフォーエバー21といった外資と、迎え撃つしまむら、後発のアズール・バイ・マウジー、フリーズマートなどの国内勢との対立軸で論じる方が的確だろう。
 また、東京銀座のファッショウォーズにスポットを当てるとすれば、ファッション市場が成熟の領域に達している日本だからこそ、いろんなマーケットチャンスを狙って国内勢や外資が業態開発や進出にしのぎを削るという論調なら理解できる。
 
 経済誌が一般読者への理解を促すためにワイドショー的な括りで論じると、かえって誤解を招いてしまう。何より、ベーシックなデザインとモデレートな価格帯で日本市場の攻略を目指す新参外資にとって、日本のメディアにファストファッションと定義されることが一番心外なはずである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする