HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

されど無地Tの訳。

2019-07-31 06:26:33 | Weblog
 5月の半ばだった。過去に買って気に入った無地のホワイトTシャツを追加購入しようとしたところ、自分の体型に合うMサイズがすでに欠品していた。そのことをこのコラムでも取り上げ、一旦は諦めるしかないと思っていた。

 ところが、1週間ほど前、取扱店から連絡が来て「再入荷した」とのこと。その時はあとでじっくり検討しようと、メールをチラ見しただけだった。たまたま、7月25日付けの繊研PLUSで「デザイナー発のストック型無地Tシャツ『ピウオッロ』」の見出しを見てハタと思い、サイトの在庫表を確認するも、時すでに遅し。再入荷した白、M以上のサイズはすべて完売。 またしても、購入のタイミングを逸してしまった。

 因に楽天市場や他店を検索すると、同じようにSOLD OUT。各店とも完全仕入れで、マーケットプレイス扱いではないと思う。もともと、再入荷した在庫が数十枚と少なかったこともあるが、厚手で上質な白Tを待ちわびていたお客は、意外に多かったことを改めて実感した。

 そこで繊研の記事を読むと、デザイナー側も無地Tにはチャンスありと見ている。これを年間通して販売できるのは大手チェーン店くらいしかないが、筆者と同じようなお客がいて再入荷しても即完売するわけだから、潜在需要は底堅いと言える。

 ストック型無地Tシャツ「ピウオッロ」は、2004年にwjkをスタートし、現在junhashimotoのデザイナーを務める橋本淳氏が手がけるブランド。現在は無地Tの他にジーンズを卸とECで販売している。

 企画に至った背景には、無地のTシャツが置かれた環境があった。まず、年間を通して一定のニーズはあるが、無地であるがゆえ「商品自体にはストーリー性が乏しい」ことがある。また、デザイナーは「上質な素材」「プリント柄」などでストーリー性を出したいが、価格が高価になるために在庫を抑えざるをえず、売れ切れると追加ができないというジレンマを抱えていた。

 一方、SPA化した大手セレクトとは違い、仕入れのみに頼る個店では、こうした卸側の理由から無地Tを年間を通じて販売することは難しい。デザイナーとしては、これまで潜在ニーズはあると認識していても、いろんな条件がネックとなってできなかった。 ピウオッロは、それらを一つずつクリアすることから企画をスタートしたのである。

 確かに市場を見ると、ベーシックで上質、かつ手頃な価格の無地Tは意外に少ない。百貨店ではブランドの一アイテムくらいで、価格も高くメジャーにはなりにくい。一方、量販店はトレンドを追っかけたアイテム(プリントTシャツ含む)を格安で売っているが、ベーシックな無地T(4オンス程度の下着とは違う)は全くお目にかかれない。筆者がネットで購入先を探したのはそのためで、そこで売り切れると諦めるしかないのだ。

 無地Tは外には表れず目立たない、マーケットの中で埋もれた存在でもあったのだ。橋本氏はそこに目を付けて、デザイナーなりに仕掛けていった。それがピウオッロである。企画に賭けたご本人のコメントは以下の通り。

 橋本氏:「ブランド、小売店ともに過剰在庫で倒れていく厳しい環境となり、メンズの黄金アイテムである無地Tシャツとジーンズを年間取り扱う店は減っている。店にとって〝メシの種〟にもかかわらずだ。そこで、これまでのデザイナービジネスにはない「在庫シェアプラットフォーム」を作る目的で立ち上げた」(原文のまま)

 在庫シェアプラットフォームとは何か。繊研側は、「在庫フォローできるプラットフォーム」と解説している。商品は卸とECで販売中というから、取引アカウントをもつショップが商品が売れると追加仕入れができるバイヤー向けの卸サイトではないか。IDやパスワードを使ってログインすれば、バイヤーはストックされた在庫から色、サイズ、在庫点数が確認でき、ほしいものを注文できる仕組みだろうか。

 筆者が知るフランスやイタリアのアパレルメーカーでも、海外のバイヤー向けに卸サイトを公開しているところがある。展示会で取引アカウントを開設すれば、アパレルからIDとパスワードが送られて来るので、バイヤーは期中に追加仕入れをしたければ、在庫を検索できるのだ。

 橋本氏が語っているように、デザイナー系ブランドは展示会仕入れ、受注生産が多いので、期初にオーダーした枚数しか生産せず、フォローが効かないものが少なくない。シンプルでベーシックな無地Tは通年で売れる公算が高いが、それでもバイヤー側はリスクを考えて在庫を積むことに二の足を踏む。在庫フォローのプラットフォームがあれば、商品が売り切れても、期中に追加オーダーができるので、バイヤーとしては願ったりである。

 橋本氏:「ディレクションする前に、無地TシャツをSPA(製造小売業)ブランドなど片っ端から購入して着てみた。(中略)大抵の人は店で服に触れた時のフィーリングで買っている。ECは物に触れられないのだから、買う気をくすぐるストーリー性がとても重要。ベーシック物のストーリー作りは僕の得意分野で、素材と作りで一番カッコいいバランスを取れたと思っている」(原文のまま)



 商品化された無地Tは、一般のもののように前身頃と後ろ身頃を脇で縫い合わせるのではなく、ジャケットの「細腹」のような生地が挟み込まれ、立体裁断風で4枚接ぎになっている。だから、ドレスのようにウエストがシェイプされ、スタイルをきれいに見せる。ゆる過ぎず、ピタピタ過ぎないカッコいいバランスに仕上げたという。素材は空紡糸を使ったオリジナルの編み地で、 首の後ろの位置に「+」マークが小さくプリントされている。4860円と値ごろ感のある価格設定だ。

 かつて「BA-TSU」は無地Tをブランド化するために、胸元に「×」の刺繍を入れて販売した。これがブランド名の起源でもあったが、進化したデザイナーは素材にもデザインにもパターンにもストーリーを持たせ、Tシャツにブランドの世界観を際立たる。「たかがTシャツ、されどTシャツ」との思いがデザイナーを突き動かしたようである。

 橋本氏:「『ジュンハシモト』は顧客が付き、お気軽ではないブランドとなって、新しいことが試しづらくなった。大手SPAが小さなチャレンジを積み重ねていることへの危機感もある。特に気軽に買える価格はすごく大切。提案価格を保つにはストーリー性が欠かせないし、そこを伝えられる売り場を持ちたい。ライフスタイルブランドにして自分の好きなバランスを表現していきたいと考えている」(原文のまま)



 junhashimotoにも無地Tはある。「背中で語るセリブシリーズ」という冠がついた定番のカットソーだ。こちらは背中(背中心)がリブ仕様になっており、着る人の背骨に添って伸縮する。ヤクザ映画ではないが、背中で語る男のTシャツだ。価格は10,800円(税込)と高額だが、毛羽の無い上質な糸を使った天竺で、ハイゲージの編み機で編み立てられている。100回の洗濯にも耐えうるというから、コストパフォーマンスは悪くないかもしれない。

 それにしても時節柄を考えると、1万円以上もするTシャツはメジャーになりにくい。その点、ピウオッロは価格が5000円以下と、値ごろだ。価格に対する価値(ストーリー性や質感など)を考えると、お買得である。お客さんの側もセリブと比較できるだろうし、選択肢が増えるのは、双方にとって販促効果につながるのではないか。

 もっとも、こうしたベーシックで、ストーリー性をもつ無地Tは、筆者のような中高年男子がいちばん買いやすいアイテムだと思う。wjkではかつて3枚パック(1万円程度)無地Tがあり、質はとても良かった。当時から橋本氏はプレーンなアイテムでも生地や色、ディテール処理で独自の世界観を打ち出す技量に優れていた。そして、時代の流れ、アパレルマーケット変化、卸先の状態を俯瞰で見ながら、 ピウオッロに辿り着いたのだ。

 本来なら、百貨店や百貨店系アパレルが企画すべきものだと思うのだが、それができないから中高年男子からもそっぽを向かれているのではないか。アパレル全体の市場がどういう状況なのか。売場を見て、バイヤーの声を聞いて、売れる環境を創造し、アイテムを企画する。世代を問わずに求められるクリエイティビティには、やはりデザイナー自らが動くしかないようである。
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成熟に抗えるか。

2019-07-24 06:23:08 | Weblog
 今週は一転、ニューヨークの話題を。一つは、本家の「バーニーズ・ニューヨーク」が経営破綻の局面にあり、様々な再建策を検討されていることについてである。

 同社は具体的な内容を言及していないが、「財務の健全化と長期的なビジネス成長のための有効な方法を検討」と語った点から、投資ファンドによる出資や破産法適用申請も含まれると考えられる。

 ただ、苦戦を強いられているのは、何もバーニーズに限らない。一昨年辺りからマンハッタンに旗艦店を構える有名ブランドが次々と撤退を余儀なくされている。まず「ラルフレーレン」が2017年4月に5th aveの店舗を閉鎖。今年に入ると、同38th stと39th st間の「ロード&テイラー」、グラウンドゼロ近くの「サックス・フィフス・アベニュー・ウィメンズストア」、他には「ヘンリ・ベンデル」「カルバン・クライン」など、百貨店から高級専門店、ブランドショップまでが次々と店を閉じた。

 80年代初めからニューヨークを訪れている筆者にとっては、どの店舗も幾度となく立ち寄っており、サックスの本店やカルバンクラインの旗艦店では何度も買い物もしている。しかし、初渡航の当時からマンハッタンの一等地に店舗を構えるのは東京の銀座や青山よりも家賃が高く、商売を続けていくのは並大抵のことではないという見当はついた。

 業界に入ると、有名ブランドが一等地に出店するのは、広告塔やブランディングを狙ったもので、その店舗の採算が合わなくても全体を通してリターンがあればいいという経営論に触れた。しかし、好景気や不況を経験した知見から、ブランド側が土地建物を所有しない単なる店子では家賃が上がりブランド力に翳りが見えると、運営は一気に厳しくなるとの危惧に変わった。図らずも、ブランドの撤退が相次いだのを見ると、予測は現実のものとなったわけだ。

 俗に言うニューヨークとは、市の中心部マンハッタン区を指す。面積はわずか61.44k㎡しかなく、東京の中央区、千代田区、港区、新宿区の4区とほぼ同等の大きさ。当然、敷地がそれほど広くないため、ビルを建てると高層になる。(地層が岩盤のため高層ビルが立てやすいという説も)これが1920年代からあのスカイスクレイパー、摩天楼を生んだのである。

 米国では欧州に向き合う東海岸に位置し、政治、経済において重要なエリアで、金融、文化、芸術の中心地でもある。好景気になると、限られた土地の不動産価格は上昇し、それに伴って家賃も高騰する。百貨店も高級専門店もブランドショップも、メーン通りに面した1階から低層階に店舗を構えるため、家賃負担はとてつもなく重たくなるのだ。




 聞くところによると、マディソンアベニュー沿いにあるバーニーズの家賃は固定資産税を加えて年間4400万ドル(日本円で47億2500万円)。店舗の総面積は、メンズとレディスの各9フロアを合わせると2万5000㎡(7575坪)だから、坪当たりの月家賃は5万2000円。銀座や青山と比べてもそれほど高いとは思わない。しかし、ユニクロのように家賃が安いローカル店が稼いでくれるのならともかく、バーニーズは90年代の全米展開が失敗したことで、大都市にしか店舗が残っておらず、高い家賃の回収は容易ではない。(隣にあったカルバン・クラインの旗艦店は閉店)

 筆者がよくバーニーズを訪れたのは、80年代の終わり頃だ。マディソンアベニューの店舗はまだ開店しておらず、7th avの111番地、いわゆるダウンタウンにあった。ちょうど店舗横に婦人館を出店し、ウィメンズの売上げが増えていた。商品はスキップフロアで展開され、万引き防止のためにチェーンにつながれてはいたが、どれもエッジの利いた商品で、ワーキングウーマンなら欲しいだろうと思ったものだ。

 93年にはマディソンアベニューに新しい本店がオープンし、ダウンタウン店が40歳以下、アップタウンの本店が40歳以上とメーンターゲットの棲み分けが図られた。しかし、両店とも「バーニーズでしか買えない」デザイナーのエクスクルーシブ・コレクションを主体にしており、仕入れ原価を下げるために大量に買い上げるあまり、在庫が増え過ぎて従来のようなニュアンスを次第に失っていった。

 膨れ上がる在庫を捌くために、ロスのビバリーヒルズ他、全米進出したことで有利子負債は嵩む。それでも売れないからアウトレットまで展開したが、経営悪化には歯止めがかからない。96年には会社更正法の適用を受け、97年にサックスの持ち株会社、サックスHDと伊勢丹の間で再建計画が成立。それでも経営状態は好転して行かなかった。

 90年代後半から2000年代かけバーニーズのお客は、売場に並ぶ数多くの商品を見るにつけ、高級感も専門性も希少性も感じなくなってしまったと思う。しかも、本店はターゲットエージを上げたために、テイストはコンサバライクになって洗練さを失っていた。ファッションに敏感な層からすれば、「このテイストなら百貨店に並んでいる商品と何ら変わらないじゃん」と感じたはず。それが客離れを招いたのは言うまでもない。

 元来、東京以上に中低所得者が多いニューヨークで、プレステージラインの商品はそれほど売れない。しかも、ニューヨークはファッションのカジュアル化、ストリート化が激しい。昨今、大挙して訪れ始めた中国人の富裕層は、ロゴマークのない商品には手を伸ばさない。不振の原因がECに食われたとの論理もあまりに乱暴すぎる。むしろ、ストアブランドにあぐらをかき、MDや編集をなおざりにしたのが根本理由だと思う。

 話は前後するが、筆者がニューヨークから福岡に戻った翌年の96年。地元百貨店の岩田屋が紆余曲折の末に出店したのが「Zサイド」だった。岩田屋側は、この出店計画において社員を大挙してニューヨーク視察に派遣している。プレスプレビューでアテンドしてくれた女性管理職は、店づくりについて「バーニーズを目指したい」と豪語していたが、筆者は「コンサバで翳りの見えていたバーニーズを模してどうなのよ」との印象だった。

 案の定、有名海外ブランドによるインポートセレクションは一部に限られ、あとは百貨店系アパレルの商品を突っ込んだだけで、品数が多い割に欲しい商品が見当たらない。ファッション大店を取り繕っただけのMDで、肝いりの買取・自主販売も定着できず、300億円にも及ぶ債務超過を抱えて、2002年、岩田屋は経営破綻した。バーニーズを目指すという思いが空回りし、破綻の道を選ぶことになるとは、全く皮肉な話である。


食材購入もECで十分



 二つ目は、あのグルメ食品専門店の「ディーン&デルーカ」が米国内では苦境に立たされていることについてだ。

 こちらは店名の通り、ジョルジオ・デルーカとジョエル・ディーンが1977年にニューヨークで創業。「洗練された味と先端をいく調理法」で評判を高め、持ち帰り惣菜に鮮魚を加えて品揃えを充実させた。料理好きの筆者はニューヨーク時代にソーホーのブロードウェイ沿いにある店舗を何度も訪れ、食材や調味料だけでなく、調理用具や食器、料理本まで購入した。

 ところが、2017年、ノースカロライナ州の4店舗を閉店したのを皮切りに、メリーランド州、カンザス州からも撤退し、ニューヨークの3店舗も閉店。さる6月30日には旗艦店であったニューヨーク・マディソンアベニュー沿いの店舗、7月4日にはカリフォルニア・ナパバレーの店舗も閉店している。

 ニューヨークのような大都市に展開する店舗を閉店するのは、バーニーズと同じように家賃の高騰がある。しかし、ディーン&デルーカはそれ以外の店舗、全米で40店を閉鎖しているのだから、他にも理由はあるだろう。

 筆者は、洗練された味を先端をいく調理法で出す趣味的な創作料理が、すっかり成熟した米国では新鮮さを失ってしまったのだと思う。たとえ、ニューヨーカーの料理愛好家でも、仕事帰りや休日にわざわざディーン&デルーカを訪れて食材や調味料を買わなくても、必要な時にECで注文すれば十分だ。しかも、Amazonフレッシュなら青果から鮮魚、精肉、無農薬、惣菜や調理済み食品、各産地の食材までが揃っている。

 また、料理のメニュー選びやレシピ探しにしても、わざわざ料理本を開くまでもなく、スマホやダブレットを使えばたちどころに検索できる。しかも、調理方法まで動画で見られ、盛り付けまで教えてくれる。食品や調理器具、すぐに食べられる惣菜や鮮魚が揃う「巨大キッチン」は、いつのまにかインターネットに取って替わったと言うことである。かつては女性ファッション誌が料理づくりのメーン媒体だったが、それが衰退していったのとリンクしているように感じる。

 バーニーズはそのスタイルが時代に合わなくなり、大都市展開が家賃高騰もあって難しくなった。しかし、ディーン&デルーカは生き残ることはできるのではないかと思う。例えば、店舗のリロケートだ。家賃が高いマンハッタンを避け、ブルックリンやクイーンズに移転する方法もある。こうしたエリアにはクリエーターたちが多く住むので、新しい創作料理を発信できる土壌はある。そこでの食と調理の新しいセレクトショップを目指すのはどうだろうか。食材の卸と提携して、試食や試飲のサービスをやってもいいと思う。

 また、店舗を縮小して、持ち帰り惣菜やイートインに特化する手もあるだろう。あるいはHMR(ホームミールリプレイスメント/食事作りの代行)に乗り出すという手もある。作り立ての料理は食べたいが、食材の購入や調理が面倒という人々向けに、下ごしらえや味付けまで行っておき、後は煮炊き、揚げ蒸しすればいい「ミールキット」を販売するのだ。これをディーン&デルーカのブランドで仕掛ければ、面白いと思う。

 成熟したマーケットでは、最先端のファッション衣料は必要ないかもしれないが、洗練されてなくても全く食事をしないわけにはいかない。ヴィーガン(完全菜食主義)とまではいかなくても、ある程度健康を考えたミールキットなんかを販売していけば、マーケットチャンスはあると思うし、勝機をつかめるのではないか。

 今の小売業では何でもかんでもECが勝るという理屈はどうなのか。実店舗で現物を見たり、買い物したりする楽しさまで必要とされない消費行動にいささか呆れている人々は、ニューヨーカーの中にも少なくないはずだ。実店舗の可能性を最大限に生かせる施策はまだまだあると思う。

 日本では2002年に伊藤忠商事がディーン&デルーカとライセンス契約を結び、他2社と共同でジャパン社を設立して展開に乗り出した。今のところは、都市型SCや駅ビルの有力コンテンツとして東京、神奈川、名古屋、大阪などの大都市中心の展開に止まっているが、カフェを除き、輸入食材や調理器具が好調なのかは疑問だ。

 まあ、日本のディーン&デルーカは、伊藤忠がライセンシーでもあるため、ロゴのついたエコバッグが先行した。日本人、特に若い女性からすれば、洗練された味を先端をいく調理法で出す趣味的な料理よりも、ファッションアイテムに惹かれる傾向が強い。それを伊藤忠や他二社も想定していたはずだ。だから、実店舗の展開は駅ビルや都市型SCに限られるだろうし、これ以上売上げの伸びは期待できない。

 筆者が住む福岡でも、数年前にソラリアプラザが改装。地下2階を雑貨飲食のフロアにし、そのキラーコンテンツとしてリーシングされた。他にJR博多駅のアミュプラザに出店している。ニューヨークでさんざん利用したから、今さらいいかなって感じで、未だ買い物はしていない。料理好きは今も健在だし、暇があれば創作料理も作っている。そんな筆者も「ラタトゥイユ」ソースなど味を深めるスパイス、肉料理の幅を広げる「馬肉」などの高級食材は福岡の都心でも売っていないので、ネットで購入している。

 ファッションについても買いたいものが全くなく、食材もネット購入する始末。どうやら自分がいちばん成熟しているのかもしれない。そんな消費者に抗う業態の登場を願うばかりである。
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安く作らない意思。

2019-07-17 04:37:33 | Weblog
 今週もSDGs(持続可能な開発目標)について書いてみたい。2019年8月号の「ELLE JAPON」が「GO GREEN 地球に優しいモードって?」というタイトルで、特集を組んでいる。



 エコやリサイクルへの関心は女性の方が高いからか、ELLEの読者層は30代以上で、キャリアウーマンやエグゼクティブもいる。当然、世界的な関心事には敏感のはずで、編集サイドが本家の企画を焼き直したとも考えられる。時期的にもグラビア中心の企画より、読み物の方がセール疲れの骨休めにはもってこいだ。

 SDGsについてアパレル業界が関わる問題には、まずマテリアル(原料)やアトリエ(製造工場)で途上国に頼りがちなこと。次に過剰生産で増え続ける在庫、廃棄による地球環境への負荷がある。そして、原料の生産や商品の製造に携わる人々の処遇改善や公正な取引(フェアトレード)も考えなければならない。

 特集記事も取り上げているが、世界のモードを引っ張るフランスが「売れ残り品の廃棄禁止へ」という施策を打ち出している。国家が規制に踏み込まなければ、メーカーも、卸も、小売りも気づかないし、業界の未来はないとの意識変化なのか。まずは自らがやることで、世界をリードしていこうとのメッセージもあるだろう。

 フランスではこれに先立つ2016年、一定規模を超えるスーパーで賞味期限切れ食品の廃棄が禁止された。といっても、どうしても売れ残りは出てしまうので、予め契約した慈善団体への寄附や家畜の飼料、農産物の肥料に転用することが「義務」づけられた。違反した場合は「罰金」が科せられる。こうした動きがアパレル商品の在庫や売れ残りについても、廃棄を禁止しよう機運を高めたのは言うまでもない。

 フランス政府は以前から循環型経済への移行を進めており、エドゥアール・フィリップ首相は「2021年までにリサイクル可能な製品にはその旨を示すロゴマークをつける」と表明している。アパレル商品の廃棄禁止は、メゾンでずっと行われて来た「ブランド毀損を避けるための焼却処分」にメスを入れるもので、さらに一般のアパレルに対しても、値下げで売り切るには限界があることから、「リサイクルについても前向きに取り組め」とのお達しと受け取れる。

 廃棄物を無くすためにリデュース、リユース、リサイクルを進めるのは、あくまで消費国、消費社会の循環である。これだけではSDGsを達成していくには片手落ちで、原材料を生産し、アパレルを製造する国々への支援も不可欠になる。貧困をなくし、質の高い教育を行い、健康衛生に注力し、公正で公平に取引する。これに製造委託するアパレルがどこまで関われるかは難しいが、フランスには積極的に取り組むSPA企業もある。



 1988年9月にパトリック・フレッシュ氏がパリ市内のサントノーレ通りに1号店を開いた「L.D.B(LOFT design by)」。現在パリに8店舗、リヨン、サント・ロペに1店舗ずつを展開し、国外にはオンラインサイトで販売しているが、ここもSDGsには積極的に取り組んでいる。

 まずL.D.Bとはどんなブランドかを説明しておく。コンセプトはフランス人が好みそうなレーショナリズム(合理主義)を具現化し、アイテムは日常の生活に溶け込むミニマルなシャツ、パンツ、セーター、スウェット、Tシャツしか作らない。色もグレー、ベージュ、ブルー、茶などのベーシックカラーに絞り込んでいる。(日本で一時コムサがライセンス契約を結んだ期間もあるが、本家とは似ても似つかなかった)



 春夏と秋冬のコレクションを海外の提携工場で一括生産して、コストを抑えている。筆者はたまたまパリのショップで見たアイテムが気に入り、裏地がカットソーのパーカーとギンガムチェックのシャツを買った。その後も、ニットジャケットをオンラインサイトで追加購入している。パーカーとジャケットは今も時々着ているが、購入した当初は自分で「小洒落た無印良品」と呼んでいた。

 デザインを削ぎ落し、アイテムを絞り込むから、それほど細かい技術や特殊な設備を必要としない。途上国の提携工場で生産体制と職工を育てながら、仕事を発注していくやり方である。 筆者が購入したシャツも、原産国は、フランスが宗主国であったインド洋に浮かぶ島「モーリシャス」だった。反面、素資材にコストをかけることができるから、丈夫で長持ちする。


商品1購入で本1冊贈呈

 このL.D.Bが理念とするのが、「Nous choisissons nos fabricants comme nous choisissons nos matiéres, dans un esprit de recherche d’excellence et d’ethique.」。直訳すれば、我々は研究の優秀さと倫理の精神を掲げ、自ブランドの材料を選ぶのと同じように製造業者を選ぶ。

 一見、自社なりのポリシーとも見受けられるが、言い換えれば、疑う余地のないほど倫理観をもつ相手先企業としか仕事をしないという意味でもある。詳しく調べると、工場のオーナーに、我々はそこで働く労働者とも友好な関係を築いていくと、はっきり宣言している。取引先の工場には「倫理憲章」に署名させているのだ。

 多くのアパレルが利益を出すために原価を抑え気味だ。その分のしわ寄せは途上国の製造現場、工場に行っている。委託先では労働環境が極めて劣悪だったり、小学生のような子どもが働かされたりと、倫理観の欠如が指摘される。不当に安い賃金や労働環境を改善していくには、労働者が工場のオーナーに対し、自分たちの権利を主張できるようにすること。L.D.Bは製造を委託するアパレル側にも目を光らせることが、GDGsの達成では重要であるとの主張なのだ。

 L.D.Bが具体的に実践するのは、「Pour chaque vétement acheté, nous offrons un livre à un enfant.」である。アパレルは常に文化と共生関係にある立場から、透明で善良なエコシステムを確立して地域社会を支援する考えのもと、衣服が一つ買われるごとに=衣服の生産国で困っている子供たちに1冊の本を提供するものだ。



 つまり、SDGsに掲げられる「質の高い教育をみんなに」の達成に取り組むこと。L.D.Bではこの活動を「BOOKS 4 ALL We support education」と名付け、教育支援として一つのサイクルでとらえている。それは素資材があって、商品を製造でき、ショップに並び、商品が一つ売れると、本1冊を生産国に還元するという考え方だ。

 穿った見方をすれば、その分のコストが商品単価に載っけられているとも言える。確かに価格はTシャツが50€、シャツが65€、パンツが95€と145€。デイリーカジュアルにしては割高だが、品質は合理的なフランスが好むほどの高さをキープ。筆者が購入したパーカーも20年以上を経過し、これまで何度も水洗いしているが、ほとんど劣化は見られない。最低でも4〜5年は着れるので、十分に元は取れる。本1冊のコストなら、十分に吸収できるだろう。

 翻って日本のアパレルはどうだろうか。メディアは「日本の服の4枚に1枚は新品のまま廃棄…その数は年間10億枚にも及ぶ」と警鐘を鳴らす。しかし、まだまだ余った在庫をどうにかして処分するという次元でしかない。商品単価を下げるためには大量生産しなければならないという理屈だが、材料費や工賃などの絶対額は増え、費用は嵩んでいる。商品が大量に売れ残っているのだから、その分のカネは溝に捨てていると言ってもいい。

 日本でそこまで切実に考えているアパレルがあるだろうか。まして原価率を上げて商品価値を高め、生産量の適性化に踏み込むところは、ほとんどない。世界には逆に商品の質を上げることで、顧客に買ってもらうのと同時に、製造を委託する国々の教育支援にも貢献していくところもあるのだ。フランスのアパレルでも、アラを探せばいろいろ問題はあるだろうが、地道な取り組みが批判される理由は無い。

 ELLEも取り上げているが、漸く慶応大学の研究チーム「シンフラックス」が、AIとアルゴリズムを活用してパターンメイキングで廃棄される生地をゼロにする技術を開発した。いかにも日本らしい取り組みと言えるが、1着あたり用尺を減らして生産効率を高めることはできるものの、1反あたりの生産枚数が増えれば在庫にならないとも限らない。量産のファッションアイテムである以上、やはりお客の嗜好を外せば売れ残ってしまう運命なのだ。

 技術大国の日本だから、生産面や販売面でのイノベーションに取り組むことはわからないでもない。しかし、SDGsの見地から考えると、製造を委託する途上国の教育レベルが上がり経済発展していけば、無秩序なローコストでの生産もいずれ限界が出て来る。20年程度で中国の人件費が上がったことを考えると、エクセプトチャイナの国々もそれほど遅くない時期にそうなるのは容易に想像できる。

 エコやリサイクルだけでなく、製造委託先の工場や人々と共存しながら、いかに魅力ある商品を作り、お客の共感を得ていくか。SDGsが日本のアパレルに突きつける真の命題は、安く作らない経営の意思も必要だと暗示している気もする。

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量販APは断捨離せよ。

2019-07-10 04:46:09 | Weblog
 ゆめタウンが定期的に行っている「衣料品等の引き取りサービス」。いわゆる古着を回収してクーポン券を配布するキャンペーンだ。夏のセールを直前に控えた6月20日〜25日にも実施された。ここの博多店は、筆者の生活圏である福岡の都心部から近く、筑紫野店は実家から車で気軽に出かけられる。両店とも隣にニトリがあるので年に数回は利用するが、正直、ファッション衣料は自主編集の売場でもテナントでも購入したことはない。

 一応、カード会員なので、衣料品の購入実績がないお客に「古着を持ち込めば、クーポン券がもらえますよ」というメリットを告知し、セール前にプロモーションを仕掛けたのだろう。並行して母体のイズミは規模の拡大につれ、企業のCSR(社会的責任)も増大しており、リサイクルやエコに対し目を背けられない事情もあると見られる。

 もっとも、個人的にはだいぶ前から気に入った既成服が見当たらないので、百貨店でもSCでも商品を購入することはなくなった。今、着ているものは着崩そうと思っているし、所有するブランドも購入から10年以上を経過したものばかりなので、リサイクルショップに持ち込んだところで、引き取ってくれても値はつかないと思う。

 家族に引き取りサービスの話をすると、終活を意識している母親が乗って来た。着なくなった服を子供会の廃品回収に出す予定だったようだが、「ゆめタウンが回収するなら一部を出してもいい」と言う。もちろん、母親も新規に服を買うことはないので、クーポン券をもらえるのは理由にならない。とにかく着ない服を処分したいだけなのだ。

 母親の服は専門店系アパレルの高級品なので、素材も縫製も良くまだまだ十分着れる。だが、著名なブランドではなく、如何せんマチュマ向けのコンサバテイストだ。本人は車の運転ができないし、店舗まで持って行くのは無理なので、代わって持っていった。古着はジャケットやブラウス、スカードなど受け取り上限の10枚。スタッフは袋から出して点数を確認するだけで、500円引きのクーポン券3枚をくれた。

 券の有効期間は7月1日までで、ゆめタウン各店で使用できる。直営売場衣料の買い物に限られ、テナントは対象から外れている。「2000円以上の購入で500円が割り引かれる」が、特に買いたいものはないので、使うこともなく期間は過ぎてしまった。もちろん、ゆめタウンが古着を回収してくれたことについては、感謝している。

 回収した古着や小物類はどうするのか。おそらく、自店やリサイクルショップで二次流通することはないだろう。リサイクル業者を通じ、海外で繊維原料に再生されるのではないか。「地方では中高年向けファッションを扱うリサイクルショップがない」との話も聞くが、ゆめタウンが再販したところでコストの関係からペイしないと思う。

 イズミは2019年2月期で小売事業の営業収益が7124億1000万円(0.3%増)と、年商9000億円を見据えるまでに成長した。ただ、衣料品の売上げは対前年比で2018年が99.4%、19年が97.2%と前年割れが続いている。今後も下降はしても、上向くことはないと思う。アパレル全体が不振だから仕方ない面もあるのだが、ゆめタウンではテナントが平日でも賑わっているのに、自主編集のファッションコーナーは週末でもほとんどお客を見かけない。同じフロアなのにこれほど温度差があるのかと感じるほどだ。



 博多店はともかく、筑紫野店や光の森店、佐賀店は定期的にリサーチしているが、直営売場のアダルトカジュアルからスーツ、ヤングカジュアルまで、どの店舗も集客できていない状況は同じ。イズミとしてはSCテナントから歩率家賃が入って来るから、直営売場のファッションは捨て石でいいと思っているのか。ただ、西日本を代表する流通企業に成長したのに手を拱いて何もしないのは、いかがなものか。

 古着の処分については、「リサイクルショップに持ち込んでも数十円と言われたので、恥ずかしくて持っていけない」という話をあちこちから聞く。筆者の母親もそれは十分認識していたようだ。その点、ゆめタウンの引き取りキャンペーンは、端から換金する目的がなく、値踏みされたくない人にとってはありがたい。そうした人々もかなり持ち込んだのではないか。イズミ側もこうした顧客心理をくみ取り、損得抜きに古着回収を行っている側面もあると思う。

 しかし、自店が仕入れるファッション衣料では集客できないのだから、思い気って「断捨離」すべきではないかと考える。これは何もゆめタウンに限ったことではなく、GMS改革でアパレル革新を叫んでいながら、何の変化も見られない大手流通企業すべてに言えることだ。正直、ほとんど売れていない量販店系アパレルをこれ以上、抱えても却ってゴミを増やすだけだと思う。

 イズミには申し訳ないが、クーポン券を発行しても下着やスニーカーを除き、量販店系ファッション衣料の在庫処分には焼け石に水だと思う。逆に500円が割り引かれるのだから、クーポン券が使われると、その分の収益は下がるという理屈になる。


小売業には仕入れる責任

 昨今、盛んに言われているSDGs(持続可能な開発目標)。その中に「つくる責任つかう責任」という項目がある。限りある資源を無駄にして環境に負荷をかける責任を追及するものだ。当然、ファッション衣料を製造するアパレルも該当する。2018年の総計では、日本の消費者が購入しているであろう衣料品13億6100万枚に対し、実際に供給されているのは輸入と国内生産を合わせ28億9900万点にも及んでいる。単純計算すれば、半分以上の15億3800万点が売れ残っていることになる。

 これらの中には百貨店系、SPA系、専門店系の商品もあるが、コストを下げて低価格で販売する量販店系も売れないままの在庫が相当量で含まれているのではないかと思う。それらは焼却されるか。二束三文でウエスになるか。海外で繊維原料に加工されるか。アパレルは全くつくる責任を果たしていないに等しい。もちろん、それらを仕入れるだけで売りにつなげられない大手小売業者も同罪と言える。業界をあげてSDGsへの取り組みが声高に叫ばれながら、数字を見ればそれが絵空事でしかないのがよくわかる。

 なぜ、そうなるのか。アパレルは少しでも利益を出そうと考える→生産ロットを増やして大量調達する→値引きと残品のロスを計算し、原価を下げる→原価率の低さから商品価値が下がる→大手小売業はこれらの構図が顕著なアパレルを仕入れるから、売れずに大量の不良在庫を抱えてしまう。全く悪循環の繰り返しなのである。

 当然、お客はそんな商品を購入しない。仮に購入しても、わずか1シーズンで着なくなるから、処分に困ってしまうという図式だ。もちろん、商品を着用するお客にもつかう責任が関わって来る。だが、そもそもの原因を生み出しているアパレルや小売りはこんなことをいつまで続けるのか。まずは企業側がスローガンだけのCSRやSDGsは置いといて、つくる責任、そして仕入れる責任に向き合い、新しい施策に踏み込まなければならない。

 話はズレるが、同じ量販系でも低価格の無印良品は売れている。6月ひと月の衣料品部門の概況を見ても、売上高106.5%、客数112.6%と好調だ。商品は月を通して「太番手Tシャツ」「ムラ糸Tシャツ」といったカットソーが売上げを押し上げた。またメンズ、レディスともに人気のある「フレンチリネンオープンカラーシャツ」は、レディスはすぐに完売してしまったという。

 ではなぜ、無印良品は売れるのか。一つは流行に左右されないベーシックなデザイン。二つ目は日本人が古来から親しみ良さを感じる天然素材を主体にしていること。そして、三つ目が田中一光や小池一子といった広告クリエーターが日々の暮らしに向けたデザイン(設計)コンセプトを練り上げたからだ。しかし、三つの目は除いて、二つの理由にすら取り組めない量販店系アパレルに、もはや売れる要素は見つからない。

 お客が量販店に求めるのは、変に奇を衒いブランドを装うファッション衣料ではなく、ベーシックでいいから百貨店よりも価格を安くしてほしいことだ。今や都市も地方もファッション感度にそれほどの差はなくなっている。すでに核家族の時代が終焉して働く女性が増え、配偶者も家事や育児をこなさなければならない。そんな時代に量販店に並ぶ形だけのファッション衣料が求められるわけがないのである。

 郊外に展開するゆめタウンが平日でもあれほどマイカー客を集客できるのは、女性が活動的になり合理的に考えるようになった証左。だからこそ、ベーシックで着回しが利く、無印良品が売れるのだ。にも関わらず、大手小売業の経営陣は未だにSPA化だの、精度アップだの、世界観を作り出すだのと、御託を並べるばかり。実行力など微塵もない。お客がいない売場を見ればそれがわかるし、決算の数値が如実に示している。

 まずは大手小売業が率先して売る責任を全うすること。社会的責任を果たすことに異論はないが、姑息な販促策を絡めても効果は限定的だ。まず取り組むのは量販店系アパレルの断捨離。そうすれば、日本で売れ残っていると言われる15億3800万点のうち、2〜3割はカットできるかもしれない。平成時代、ドラスティックという言葉は盛んに使われたが、令和時代は断行の形容詞であるべき。経営判断は待ったなしである。

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試着に優る技術か。

2019-07-03 04:43:42 | Weblog
 ZOZOTOWNを運営するZOZOは、自分の足のサイズを計測できる「ZOZOMAT」を発表した。プレスリリースによると、原理は約50cm四方のシートに足を置き、専用アプリをダウンロードしたスマートフォンで足を撮影すれば、足型の3D計測を可能にするものだ。計測の方法はシートに足を置くだけだから、よりシンプルになったと言える。

 また、ZOZOSUITではスーツ製造や無料配布にコストが嵩んだことから、ZOZOMATは印刷物にして配送経費を下げ、さらに顧客がPDFデータをダウンロードすれば、自らプリントアウトできる手法もとられている。

 ただ、ビジネス展開は大きく異なる。ZOZOSUITは計測データをもとにオーダーメイドのスーツやジーンズなどのPBを拡販する目的だった。これに対し、ZOZOMATはお客が自足のサイズを知ることより、モール出店社の靴を購入しやすくするのが狙いだ。データをもとにZOZO自らが靴のPB製造に踏み込むとの発表はない。

 一応、ブランドやメーカーとの取り組みには活用し、MSP(Multi Size Platform/SやM、Lなどにとどまらない20~50程度の多サイズ展開)を靴でも行う構想はあるという。だが、これにしてもメーカーが製造し、在庫リスクを持つことになるので、服と同様にどこまでの規模で実現するかはわからない。ZOZOとしてはスーツの課題、PBの失敗が教訓となり、今回はリスクを避けたようである。

 そもそも、靴はメーカーやブランドで「サイズ感」が異なる。それぞれ独自の「木型」を使って製造しているから微妙に寸法が違う。表示サイズを確認するだけでなく、実際に試着をしてみないと、自分の足に合うのかはわかりづらいのだ。だから、現物を確認しないECでは、靴の購入に二の足を踏むお客は少なくなく、アバウトなサイズ把握で注文したお客が返品するケースが後を絶たないと思う。それはZOZOTOWNにおける靴の流通総額が約360億円に止まっていることからもよくわかる。

 こうした課題を解消するために、ZOZOMATは、用紙上で6つに色分けされた円弧の部分にスマホを置いて撮影することで、自足のデータを360度で計測できるようにした。また、「詳しいサイズを見る」をタップすると、足の縦の長さや幅、甲の高さなど7項目の詳細な数値を知ることができる。ZOZOSUITよりバーチャル計測の精度を高めることで、試着をしなくても靴の購入ができるようにしたいのだろうが、果たして…

 足型の自動計測はかなり前から存在する。筆者が初めて見たのは、1996年、ニューヨークに「NIKE TOWN」がオープンした時だ。当時、ナイキの計測装置はいたってアナログなものだった。整骨院で使われる簡易ギブスのように足を入れると、足全体を袋のようなものが包み、中の素材が固まって立体的に足型が取られ、サイズが計測される。アウトプットされた足型データには長さ、幅、甲高が割り出されており、自分が欲しい種類のサイズに照らし合わせ、フィットするものがピックアップされる方式だった。

 NYのナイキタウンでは地下がストックになっており、適性サイズの在庫が見つかると商品専用のエレベーターで、各フロアまで届けられた。スタッフがストックまで取りに行って在庫を探す手間を省くのと同時に、ナイキ流のオペレーションの凄さを見せつけた。このパフォーマンスはさすがに米国らしいなと思った。



 それから20数年、ナイキはこの7月、全米のナイキストアおよびナイキアプリで、お客一人ひとりがぴったりなシューズを見つけられるフットスキャンニングソリューションNike Fit(ナイキフィット)」を導入する。(https://news.nike.com/news/nike-fit-digital-foot-measurement-tool)ナイキの広報ニュースによると、システムは計測用アプリをダウンロードしたスマホやiTouchで足下を撮影すると、足がスキャンされて自足の形をマッピングする13のデータポイントが集められる。そして、欲しい靴の中で自分にぴったりの推奨品が表示される仕組みとか。



 スキャニングの方法は、床が接する壁際に設けた3Dスペースを基準点として踵を向けて立ち、足元にカメラを向けてアプリのガイドが水平になるようにする。そして、自足がアプリ内のアウトラインガイドと正しく揃ったら、ボタンに触れるだけという(実店舗ではナイキフィットマットを利用する)。平たく言えば、身長計に立つような感じで足元を撮影するものだろうか。立ったまま俯瞰で足型をスキャンできるのだから、 撮影はZOZOMATより楽かもしれない。

 肝心な精度については、数十のデータポイントから誤差は2mm未満という。ただ、ZOZOMATのように側面から撮影するわけでないので、詳細な3D測定になるのだろうか。ナイキ側は測定値を素材、レーシング(編み上げ)、フィット他の重要な部分にまで活用するため、ナイキシルエット(基型)の細部に対応する機械学習モデルに供給するとか。さらにAIの機能と組み合わせることで、シューズを着用するお客の個人的な好みやそれが人口全体とどのように関係しているのかも学習していくという。

 ナイキでダイレクトプロダクト・イノベーションを担当するマイケル・マーティン副社長は、「より多くのデータがあれば、ナイキは個人のフィット嗜好を継続的に改善するだけでなく、各モデルの周りのより多くの人々の嗜好を学び、よりフィット感の高いシューズを作成する眼をもつことができる」と、語っている。(既報道より)


既製靴が合わないお客にも


 靴づくりには、すっと木型が使われてきた。一例をあげると、ドイツのアディダスはもともとは靴屋からスタートしたので、スポーツシューズについても職人がサイズ別に作った木型を使用していた。それは母国であるドイツの人々=ゲルマン民族の足型がベースになっていたと思う。

 その後、アディダスはドイツ製シューズを世界中に輸出していくのだが、スタンススミスのような定番を量産していく上で欧州、南北中米、アジアと足型が違う民族別に木型を作ることは効率が悪い。そこで平均値を割り出しながらフレキシブルサイズの木型を使ったと思う。だが、それではどうしてもサイズが合わないお客も出て来る。

 後発のナイキは世界的なスポーツメーカーに成長する中で、種目ごとに理想的なシューズを開発するために、あらゆる足型データを収集する目的で3Dのデジタル計測技術を開発していった。また、量産については自社で工場を持たず、委託先で製造を行っている。それには成型しやすくコストがかからないプラスティックの木型が必要で、これにも3Dのデジタルデータが欠かせなかったわけだ。

 現在は3Dプリンターがあるから、データさえあれば木型の製造はより簡単になった。そして、ナイキフィットはデジタルデータを活用することで木型頼りではなく、お客の足型によりフィットする靴を効率的に製造していく考えのようだ。ナイキはスポーツメーカーであるのと、同時に小売業でもあることから、製品の歩留まりを徹底して良くし、できる限り在庫を残さず消化する。そのためには消費者のニーズに合った製品が不可欠で、製造から販売までで、さらに革新を続けていくということだ。

 個人的には、3D計測で足のサイズをより詳細に知ることにより、「自分の足はどのメーカーの木型に合っているか」を把握できれば、なおさらいいと思う。ZOZOTOWNにしてもナイキやアディダスにしても、「うちの木型はこれです」と予めシルエットなんかを提示してくれて、お客が計測した自分の3D足型と照らし合わせると、「自分の足はこのブランド、このメーカーのこのサイズがいちばんフィットする」とわかるものだ。

 もっとも、ZOZOTOWNはファッションモールという性格から、顧客の大半は一にブランド、二にデザインを選択肢にしていると思う。はたして、どこまでサイズ把握が靴の販促に有効なのかは疑いたくなる。確かに3Dで自足のサイズを正確に知ることができれば、顧客がサイズでミスるケースは低減されるだろう。しかし、これまで靴の購入に二の足を踏んできた顧客までが安心して購入に踏み切るか、またアバウトなサイズのまま注文し返品していた顧客が減るかどうかは別問題。靴のサイズが合う合わないの感覚は、履いた本人しかわからないからだ。これはナイキフィットにも言える。

 ZOZOSUITは正確なボディサイズの計測を謳い、PBのオーダーのスーツやジーンズなどの販売まで行った。しかし、ZOZOMATでは、正確なサイズ計測で、市販のシューズを試着をしなくても購入できるという次元に止まる。もちろん、顧客の足サイズのビッグデータが収集できるわけだし、「ブランドやメーカーとの取り組み」では、靴でも服で行うところのMSP(Multi Size Platform)も視野に入れているようだ。ZOZOはECプラットフォーマーだから、メーカーであるナイキとまではいかないにしても、それに近いベクトルの戦略構想はあると見られる。

 まあ、筆者が靴オンリーのセレクトショップから聞いた話では、顧客の声には「サイズが合う靴がない」ことも多いという。「大人なのに足がとても小さい」とか、「極端に横幅が広い」とかイレギュラーサイズのお客は、革靴ではなかなかサイズが合う靴が見つからないという切実な問題を抱えているのだ。既製靴弱者とでも言おうか。ZOZOがZOZOMATで得られるデータをもとにこうした人々のニーズに向き合い、メーカーとともに既製靴の改良に踏み込んでいけば、新たなビジネス展開の道が開けるかもしれない。そうなれば、マーケット、投資家の評価も上がっていくのではないかと思うが。
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