HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

白ラベルの黒子。

2022-04-27 06:33:43 | Weblog
 楽天市場をPCで利用する際、アパレルの特定ジャンルを開くと、トップページで新品と中古品がごちゃ混ぜで表示される。ページ左のカテゴリーをクリックしてそれぞれを分けなけない限り、商品名に付く中古表示が小さいので勘違いする人も多いのではないか。個人的には楽天市場のサイトは非常に見にくく、ほとんど利用しなくなってしまった。

 楽天側がユーザーの使い勝手を考え、サイトのデザインやプログラミングをたえず修正する姿勢でいるのか。それともアクセスやコンバージョンレートを上げるため、加盟店を増やすことしか眼中にないのか。メルカリが老弱男女のユーザーを獲得し、凄まじい勢いで利用されている点を見ると、やはり中古品は切り離して専門サイトを展開した方がユーザーにとっても、マーケティング的にも効果があると思うのだが。どうなのだろう。

 一方、有名ブランドをはじめ、Amazonなどのプラットフォーマーがアパレル販売でしのぎを削る米国では、secondhand(セコハン/中古品)のリセール(再販)でも専門サイトが次々と登場。リセール各社の中には、サイトデザインからプログラミングまでにテクノロジーを駆使し、商品の預かりからサイトアップの「ささげ業務」、販売、発送までのフルフィルメントでも、独自のシステムを構築している企業がある。


中古品リセールで独自システムを構築



 リセール事業者と新品販売の小売業が提携する動きもある。中古品通販の「thredUP」(https://www.thredup.com)は、アパレル専門店チェーンPACSUNの中古品専用サイト「Pre Loved PAC」(https://pacsun.thredup.com)を開設した。これは一体どういうことか。「新品を販売して収益を上げるアパレル専門店が中古品のリセールに乗り出せば、新品が売れなくなって逆効果ではないか」。そう言われれば、そこまでだ。



 しかし、PACSUNの狙いは違う。企業として幅広い消費者に「地球環境に負荷をかけず、エコロジーを進める」という企業姿勢をアピールするためだ。米国ではZ世代と言われる若年層で着古した洋服は捨てずにリユースするなど、循環させていこうという意識が強くなっている。こうした層をターゲットにするアパレル専門店としては、中古品のリセールはもはや避けて通れなくなっているのだ。

 ならば、自社でリセールの仕組みを作ればいい。しかし、リセール商品を探している消費者によって、求めるモデルは変わってくる。個店ごとに在庫を抱えたもの(セカンドストリート式)、ラグジュアリーブランドに絞ったもの、中古品の売り手と買い手をつなぐ(メルカリ式)ものなど、専門性が必要になるのだ。

 その上で、専門サイトを制作しなければならない。そこで消費者にとって使い勝手のいいサイトとは何か。それはデザインはもとより、プログラミングからアルゴリズムまでに左右される。かつてZOZOTOWNが中古品の販売を行なっていたが、商品管理からフルフィルメントまでのシステムが構築できず、顧客からのクレームが相次いで休止した。やはり新品を販売するのとは別のノウハウが必要になるわけだ。



 PACSUNの中古品専用サイトで提携したthredUPは目下、中古アパレルのリセールで急成長を遂げている。同社は巨大な処理センターを持ち、商品は売り手のメーカーや小売事業者などから預かりリセールを代行するだけ。HPではその業務フローが動画で公開されている。(https://www.thredup.com/impact)

 まず、売り手がWebサイトに登録すると箱とラベルが送られてくるので、売りたい商品を箱詰めして返送する。それをthredUPは売れるもの、売れないものに分別した後、撮影、スペック記載などのささげ業務を行ってサイトにアップする。商品は自動のハンガーリフトでカテゴリー別に仕分けされ、センターの巨大倉庫内にストックされる。商品が売れると、thredUP側の手数料が差し引かれて残りが売り手に送金される仕組みだ。

 売れなかった商品は売り手に戻すか、寄付するかの選択もあるが、前者の場合の費用は当然だが売り手の負担となる。つまり、thredUPは売り手のメーカーや小売事業者のマーケットプレイスに、リセール商品の預かりから販売までのフルフィルメントとテクノロジーをもつプラットフォームを販売していることになる。

 このプラットフォームでは、1日に10万着以上のアイテムを処理する。シングルSKUのロジスティクス用に構築されており、専門性を極めた分散処理のインフラ、独自のソフトウェア、データサイエンスで構成される。具体的には、視覚認識を強化するための機械学習とAI(人工知能)、リセール価格を決定するための多層のアルゴリズム、1日に数十万枚の写真を撮影するオートカメラなどが備わっている。米国のリセールビジネスはそこまでのシステムがあって、競争力を持てるということだ。


新品を販売する企業はリセールに取り組めない?

 新品を販売するメーカーや小売事業者がリセールのモデルを作り上げるのは、いくら米国と言えど容易ではない。thredUPも「従来の小売りおよびECはリセールの複雑さに対処するように設定されていない」と言い切る。楽天市場のサイトで新品と中古品がごちゃ混ぜになっているのも、当てはまるだろう。だから、thredUPのような企業が自社のリセールプラットフォームをメーカーや小売りに販売する。言わば、黒子に徹するわけだ。

 thredUPがPACSUNの中古品専用サイトをPACSUNのWebサイトと同じデザインにしたのも、thredUP色を消してPACSUNが自社のリセールを訴求しやすくするため。同社はこの仕組みを「Resale as a service/RaaS」と名付けているが、業界でも「White Label」という呼称があり、リセールビジネスの黒子として浸透しつつある。



 thredUPはこのサービスについて、「Powering the Future of Secondhand/中古品の未来に力を与える」と題し、契約企業を紹介している。そこにはAdidas、crocs、GAP、Abercrombie&Fitchなどの錚々たる企業、ブランドが名を連ねる。また、ディスカウントストアの「Walmart」のマーケットプレイスにも、thredUPのシステムが導入されているという。Walmartと言えど、お客がたまたま持っていた「高級ブランド品」を売りたいというニーズがあるからだろう。

 日本でも、あれだけメルカリが勢いを持ったのだから、中古品リセールが次のステージに移っていくのは間違いない。当然、その中にはアパレルなどリセールの仕組みを細分化して、専門サイトで運用していく選択肢もある。果たしてthredUPが作り上げたようなリセールのビジネスモデルを日本企業でやろうとするところが出てくるのか。



 ただ、現状ではネット通販の伸びから、投資マネーが物流用地の取得やセンター建設に流れている程度。しかし、EC自体は確実に成熟し次のステージに移っていく。商品は新品に限らず中古品もあるのだから、専門的なプラットフォーマーやフルフィルメントが求められるのは確実だ。ならば、不動産だけでなく、コンテンツとなる新たなリセールEC、またテクノロジー開発・整備への投資があってもいいのではないか。

 筆者は日本で流通するブランドではなかなか欲しい商品が見つからなくなり、一時は海外メーカーの商品を個人輸入するなどしていたが、それも最近ではめっきり減った。代わってタンス在庫をリメイクするため、新たに加える素材探しでリセールサイトを見るようになった。

 特にラグジュアリーブランドは上質な素材を使っているので、中古品でもリメイクには十分に耐えられる。ネットでは細かな質感まではわからないが、高級ブランドなら使用されている素資材は決して裏切らない。だから、解体して素材のみを利用するようにしている。

 エコやSDGsを意識したクリエーションを発表するデザイナーも増えている。だから、その素材調達先として中古品のリセールサイトにも潜在ニーズはあるのではないか。日本でもリセール専門のプラットフォーマーの登場が待たれるところだ。

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勝者となる一手。

2022-04-20 01:59:49 | Weblog
 先日、東京の雑誌編集長と次の企画で打ち合わせをした。編集長は話の流れで、「今年開発される大型ショッピングセンターは福岡の2つくらいでしょうか」「もう物販では集客は厳しいので、体験型テナントを持ってくるようになってますね」と、語っていた。

 確かに郊外SCの開発は一息ついたようだ。でも、首都圏では都心部の再開発が目白押しだし、閉店した百貨店や都市型SCの跡地利用もある。どちらも商業施設が主体というより、オフィスやホテル、公共施設にサービス、物販や飲食が付随する感覚だろうか。これ以上、商業に広大な展開スペースを割いたところで、売れるかどうかは不確かだからだ。

 日本ショッピングセンター協会によると、2021年末の総SC数(ファッションビルも含む)は3182施設。新規開業24、閉鎖37で、減少に転じた。同年のテナントの売上げ構成費は衣料品11.8%、食品物販15.2%、飲食20.0%。衣料品が対前年比で5.3ポイント減少したのに対し、食関連は食品物販が飲食の減少をカバーして1.2ポイント増を果たしている。お客に求められるテナントも変わり始めたということだ。

 先日、JR九州が一昨年、昨年に開業した駅ビルの「アミュプラザみやざき」「アミュプラザくまもと」の決算を発表した。みやざきはの21年全館売上高は、計画を16%下回る64億円。くまもとは同年度(21年4月~22年3月)の売上高は、193億円だった。

 両施設とも新型コロナウイルス感染拡大が来場客数に影響したというが、「JR博多シティ」の同年度の売上高は3年ぶりに増加し、前年度比20%増の873億円になっている。コロナ前の19年度に比べるとまだ7割の水準だが、こちらは確実に回復している。売上げ不振の要因がコロナ禍ばかりとは言い切れず、テナントの顔ぶれやMD、売る力にもあると言わざるを得ない。

 ECで何でも買える時代に実店舗の魅力とは、他店では提供できないような商品やサービスで、お客がわざわざ行きたくなる理由が必要だ。SCや駅ビルの苦戦はそうしたテナントを揃えきれていないこともあるのではないか。都市型SCの中には立地を生かして、新たな展開を始めたところがある。



 「心斎橋パルコ」は2021年11月、10階に医療ウェルネスモール「Welpa/ウェルパ」をオープンした。パルコはアパレルや飲食だけでは厳しくなったため、医療モールの開発・運営事業に参入したわけだ。メーンターゲットとする20~40代女性に向け健康診断のほか、日々の健康管理を抵抗なくできるようにし、心身とも良好な状態になれる空間を提供する。

 現在、再開発工事が進む熊本パルコでも「クリニックモール」の呼称で、テナントを募集中だ。物販や飲食といった商業から、健康やリラクゼーションといったウェルネスへ。パルコのテナント像も大きく変わっていく予感がする。

 大手百貨店もテナントを集めた不動産事業が収益構造の柱になりつつある。Jフロントリテイリングは2021年度前期に不動産関連事業で67億円の営業利益を上げている。高島屋も不動産開発で72億円の営業利益を上げ、百貨店事業の営業赤字を補填した。

 Jフロントを含む3社の2021年度決算の純利益は、18年度を7割も下回っている。背景には百貨店を支えてきた中間層の客足が戻りきれていないことがある。対照的に小売業界全体では1割増になるなど復調傾向にある。こちらはECが伸びたからで、デジタルシフトが遅れる百貨店は不動産事業をどこまで増やせるかになる。

 ただ、器があっても店子が集まらなければ、大家は成り立たない。渋谷西武や大丸東京店、高島屋が「売らない店」を導入したものの、それらが不動産事業のメーンにならないのは経営陣もご承知のはず。やはり稼ぎ頭のテナントを誘致するのが肝心なのだ。

 その点、「開業医」なら金融機関から融資を受けやすく、保証金などが確実に担保される。また、ビルインへの新規・移転開業で初期投資をかける以上、短期間で退去することなく家賃収入が安定する。小児科や歯科、眼科が同じフロアにあれば、患者側も「ワンストップメディカーブル」が可能なので、来店動機が増すことも考えられる。

 大手百貨店は好立地にあり、客層も中高年が主体になる。こちらもクリニックを集めたフロアを展開することは十分にあるかもしれない。


不動産事業に徹する上でバランスをどう取るか

 一方、老舗百貨店では富裕層(世帯あたりの純金融資産が1億円以上、5億円以下。日本では300万人以上いると)の顧客に向け、「お帳場客」化する動きもある。高島屋はソニー銀行と提携して国内唯一のプラチナデビットカードを発行。カード会員にはポイントを還元しラウンジを提供する。大丸東京店も自社クレジットカードで年間100万円の買い物をした顧客、三井住友プラチナカードの会員に専用のラウンジを提供している。



 両社とも顧客をよりVIP化することで囲い込む狙いと見える。だが、お帳場客を稼ぎのメーンとするか、あくまで保険なのか。売上げ全体の何割程度にするか。外商と連動させていくのか等など、詳細な戦略は見えていない。そもそもポイント還元は値引きの意味合いもある。富裕層の顧客がそれで本当に満足できるのか。また、ラウンジで茶菓子を提供されたからと、顧客満足度が上がり、更なる購買を促せるかは、全く未知数だ。

 富裕層と言えども、消費は景気に左右されるし、高齢化していくので新陳代謝を図りながら顧客数を維持していけるかも課題だ。また、新世代の富裕層を引き止めるのにポイント還元やラウンジ提供くらいでは心許ない。不動産事業もお帳場客や外商の強化も、いかにカネを落としてもらえる商品・サービスを揃えられかが前提になる。

 今後の経営戦略では、各事業の割合をどの程度にするかの課題だ。不動産を6割程度まで伸ばしながら、外商2割、小売り2割が理想的か。もちろん、純然たる店売りがこれ以上伸びる状況にないことを考えれば、EC(越境含む)を拡大するか、不動産をさらに伸ばすか。各店の性格にもよるし、経営者の判断によるバランス経営が肝になる。

 固定化が難しく、一般客の広域集客がカギとなる郊外SC。鉄道系カードと連動したポイント還元などで顧客を囲い込みたい駅ビル。それぞれ次の一手は何なのだろうか。郊外SCでは広いスペースを生かしたアミューズメントやスポーツ、ビューティやリラクぜーション、教育、SDGs啓蒙などの体験・時間消費型にも注力していかざるを得ないと感じる。それらでいかにファミリーやカップルに楽しんでもらえるかだ。



 百貨店がD2Cブランドを展開しているのだから、SCでもファミリー向けを狙うブランドに期間限定で出店ブースを用意する手はある。また、集客イベントはカギになるだろう。催事コーナーを提供して、受注会というかたちで仕掛けていくのも面白い。夏休みなどは子どもたち向けにSDGs関連のワークショップなんかもありかと思う。

 地方の駅ビル、地方でも都市型SCは前途多難だろう。人口が減少し赤字路線を抱える地域では、乗降客のさらなる減少が駅ビルの売上げに直結する。さらに交通手段が限られる地方ほどクルマ社会で、日常の買い物なら近場のロードサイド店や郊外SC(駐車場無料)の方がアクセスしやすい。だから、駅ビルや都市型SCにわざわざ出かける動機は乏しいのだ。

 逆に若年層にはECが定着する中、アパレル側はOMO(オンラインとオフラインの融合)を進めネットで注文した商品を店で受け取ったり、取り寄せて試着できるサービスを強化している。実店舗に置ける在庫数は限られるのだから、ショールーム化は顕著になっている。駅ビルや都市型のSCのテナントがECで決済した商品の「受け取り拠点」になれば、売上げ減少はさらに進む。

 カードのポイント還元はその原資をテナント側も負担するなら、ネットでいいからプロパーで購入してもらった方がいいわけだ。プレミアチケットにしても完売したからと、購入金額の何倍もの売上げをもたらしてくれるとは言い難い。イベントはゴールデンウィークやクリスマスなど、企画の内容次第になる。ただ、どこまでテナントへの販促、売上げ増に貢献できるかは別問題だ。

 3月の半ばだったか。駅ビルのJR熊本シティが独自採用の第一期生(2023年4月入社)を募集するとの情報がリリースされた。現在のスタッフはJR九州からの出向のため、現地採用のプロパー社員で駅ビル運営の人材を育成する狙いと見える。採用は大卒・大学院卒見込みが対象で、彼らの7割が県外に就職する熊本県では、TSMCの進出と共に久々の朗報だろう。

 採用人数は若干名ということだが、地元の女子学生を中心に応募者が殺到しているのではないか。ただ、仕事内容はテナント管理やプロモーションだから、若い力や柔軟な発想でいかにビル自体を盛り上げられるか。販促企画を実施するにも、代理店に丸投げせず業者直発注でコストダウンと内容充実を図れるか。

 もちろん、テナントの満足度を上げることも必須。商業施設を取り巻く環境が厳しい中で、答えを出すのは容易ではない。そのためにはアパレルや飲食はじめ、各テナントが置かれた現状やマーケットの状況も、しっかり勉強しておかなければならない。果たして、次の一手で反転攻勢に転じ、勝者となれるのはどこだろうか。

 
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声を読み解くこと。

2022-04-13 06:33:30 | Weblog
 先週のコラムで、ジェンダーフリーのブランドについて書いた。たまたま同じ日の日経MJが「虹色の橋 衣・食・住に架ける」との見出しで、LGBTQの悩みに寄り添うサービスを取り上げていた。日経がピックアップするほどだから衣服の購入だけでなく、消費生活の全般でLGBTQへの商品・サービスが広がりつつあるのは間違いない。

 LGBTQとは、従来のLGBT(レズビアン/女性同性愛者、ゲイ/男性同性愛者、バイセクシュアル/両性愛者、トランスジェンダー/生まれた時の性別と自認する性別が一致しない人)に、クエスチョニング自分自身のセクシュアリティを決められない、分からない、または決めない人を加えた性的マイノリティの新しい総称だ。

 では、記事にあるアパレルビジネスについて見てみよう。

 「3月下旬、東京・新宿で女性でも着ることのできるメンズパターンのスーツの採寸会が開かれた。スタッフが(以下のように)理想の仕上がりなどを聞き出しながら、サンプルをもとに、生地や各部分のシルエットを細かく決めていく」とある。

 お客:「かっこいい印象にするためにはどうすればいいですか?
 スタッフ:「ウエストを絞らないシルエットがお薦めです

 LGBTQでも、どんな人々がこのサービスを利用するのか。採寸会を開いた「keuzes」によると、成人式や結婚式などで振り袖やドレスではなく、スーツを着たい10代〜40代が多いという。代表の田中史緒里氏自身もLGBTQで、成人式で振り袖を着るのも、女性用のスーツを着るのも嫌だったことから、同じ悩みを持つ人向けに起業したという。

 ビジネスモデルは以下になる。keuzesでは実店舗は持たずに自宅を訪問したり、各地で採寸会を開いてスーツを製造する。採寸にかける時間は一人当たり多くても2時間程度だが、半分ほどは田中代表が利用者と同じ悩みを共有する時間に割く。LGBTQならでは思いや考えをじっくり打ち明けあい、聞き入れるためだ。



 男性的なシルエットを求める女性が欲しい服は、百貨店にしてもファッションビルにしてもメンズフロアにある。そのため、マイノリティの人々にとって入店の心理的なハードルは高い。keuzesではこうした障壁を取り除くことで、ビジネスチャンスを広げたわけだ。実際にkeuzesのスーツの着こなしを見たが、男性の筆者からしてもすごくスタイリッシュな印象を受ける。性の問題を抜きにして、こういうテイストもありかと感じる。

 性的マイノリティを対象とした業態やサービスは、これまでにもあるにはあった。それは主に東京新宿2丁目などで働く「ゲイ」を対象としたもの。彼らは外見は男性であり、自ら堂々と自分のジェンダーについてカミングアウトを憚ることはなかった。また、同じマイノリティがこうした業態やサービスの経営に当たっていたため、利用する心理的な抵抗感は低かった。まあ、メディアの世界ではかなり前からゲイとして活動する人々がいたことも、周囲から奇異の目で見られる状態を緩和させていたと言える。

 ところが、トランスジェンダー(生まれた時の性別と自認する性別が一致しない人)やクエスチョニングの女性、特に髪型がショートカットでボーイッシュな格好をしていても、肩幅が狭く華奢な身体つきならマイノリティの疑いがあっても、短時間で意識を変え接することは難しい。おそらく彼女たちも過去の経験から、誰もがそう判断してもしょうがないと諦めていただろう。だから、メンズパターンのウエアを着たくても、心理的にどうしても来店できなくなるのだ。

 「Baby in Car」のようにステッカーを掲示するだけで、社会が乳児を持つ家族の大変さを認め、気を配ってあげようとの意識で統一されるのなら問題はない。だが、LGBTQはまだまだ公言はしづらいだろうし、そうした人々に対する配慮、多様性の認識が一般社会に意識づけられるまでには時間がかかる。

 まして、現状の小売店舗にそうした認識で、お客を向かい入れる余裕はないだろう。仮に対応するとしても、人材育成や接客ノウハウなど特別の教育を施さなければならない。実際にどれほどのアパレル関連企業が取り組むかである。


ビームスボーイは性的少数者を意識した?

 2000年代初め、セレクトショップのビームスが「ビームスボーイ」を運営していた。メンズライクなカジュアル好きの女の子に向けて、ビームスと同じコンセプトのオーセンティックなベーシックアイテムとストリートのトレンドを取り入れたアイテムを提案する業態だった。当時はLGBTQはもちろん、多様化という概念はそれほど語れてはいなかった。しかし、自分のジェンダーに悩む女性はいたはずである。

 ビームスがそこまで意識したかどうかはわからない。ただ、同社で唯一のチェーン型業態だったことを考えると、いろんなセレクトショップを展開する中で、スケールメリットで収益を出すことが一番の狙いだったと思われる。一方、keuzesが2020年1月以降、約300着ものスーツを販売したことを見ると、当時から潜在需要はあっただろうからカジュアルのみでは、必ずしもLGBTQのニーズには合致していなかったのではないか。



 keuzesが扱う商品は特別なものではない。メンズパターンのスーツという既にあるものに注文者のサイズを落とし込むだけ。要は商品は男性向けを利用し、売り方を性的マイノリティに合わせたもの。と言っても、注文客がトランスジェンダーやクエスチョニングの場合、百貨店やスーツ量販店ですんなりオーダーするというわけにいかない。

 百貨店やスーツ量販店の店舗スタッフは、性的マイノリティの女性客が来店することを想定していない。あくまで男性客向けの接客訓練を受け、それを売場でも実践しているだけだ。中には長年の経験から相手の内面に近づき、「この人もしやマイノリティかな」と柔軟に対応できる人もいるだろう。でも、それは希望的観測に過ぎない。企業なら一人、二人のスタッフが接客できても仕方ない。接客能力は平準化されてこそ意味があるからだ。

 まして女性客の側は自分の切実なジェンダーを打ち明けられずにいる。そうした気持ちを慮って親身に接客に当たるには、やはり専門的な業態やスタッフが必要になる。また、先週のコラムで取り上げたようなアイテムから、ジェンダーフリーにすることも考えなければならない。全てアパレル関連企業がそこまでに踏み込むのは容易ではないだろう。「寛容でなければ」「親身になって」など言葉では理解できても、企業としてはビジネスが成り立つかどうかが先決になる。

 いきなり新業態の展開というわけにはいかない。だから、筆者はまずセレクトショップの大手がサロンブティックのような販売手法は導入してはどうかと考える。シーズン前の受注販売会を性的マイノリティ向けにアレンジして実施するものだ。ターゲットはLGBTQの男女で、商品は男・女のアイテム。接客は男女ともに女性スタッフの方がいいのかもしれない。

 大手セレクトショップだからと、性的マイノリティだけに特化した業態を常設展開するのは難しい。しかし、アイテムはスーツにしてもカジュアルにしても仕入れ先をもち、売場に常時在庫して、サイズ対応などの追加オーダーも可能だ。だから、売り方というか、販売手法をターゲットに合わせることは不可能ではない。接客については女性スタッフでも戸惑う面もあるだろうから、定期的に専門講師などによる研修が必要になる。

 ECがこれだけ浸透して、アパレル販売はOMOの段階に入っている。そこでもさらに熾烈な競争が展開されるのは間違いない。ならば、レッドーシャンでの勝負を一部避ける意味で、マイノリティに向けたサービスも選択肢の一つになる。セレクトショップの経営者は口々にEC、OMOの局面に入ったからこそ、顧客との接点、同じ価値観の共有を大事にすると叫ぶ。

 そこにはマイノリティの人々との繋がりも含めていいのではないか。どちらにしても、商品はすでにあるものを利用し、売り方次第で市場が広がる可能性があるのだから、取り組まない手はない。某アパレル小売業の経営者は自ら掲げた「売り方の鉄則10カ条」の中で、「伝える力を上げていく」「お客の声一つ一つを読み解く」「お客と共有できるメッセージを伝える」を挙げるが、これらがマイノリティへの販売に当てはまると思う。

 性的マイノリティのお客がどういう思いでいるか。それを察知してメッセージを発信しないと、商品は売れない。思いは人それぞれだから、伝えるメッセージを変えれば、新たな客層も発掘できるということである。
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デスティネートな外出。

2022-04-06 06:42:52 | Weblog
 新年度がスタートした。コロナ感染の終息どころか、また新たな変異株が懸念されている。もう、毎日の感染者数に一喜一憂しても仕方ない。ワクチン接種と感染対策を施しながら、ウィズコロナで進めるはず。むしろ、これ以上経済の停滞を起こさないことを考えるべきだ。人々の消費スタイルはコロナ禍以前とは大きく変わった。これをチャンスと見て、新たなビジネスにチャレンジする方がいいと思う。

 4月と言えば、ブランドデビューや新業態、新店のオープンがあるが、ほとんどが焼き直しや一部を修正したようなものが多い。プロダクトアウトと言えば少しニュアンスが異なるが、消費者の共感を得られるモノづくりの視点で見ると、納得できるものもある。気を衒うことなく、お客さんに「こんな商品が欲しかったのよ」「あの店なら欲しい商品が見つかりそう」と言ってもらえるくらいがちょうどいいのかもしれない。

 消費者側は巣篭もりが続いたため、外出したくなっている。ニューヨーク時代に知り合ったある経営者が語った「人間は外に出たい性分なんだよ」という名言を思い出す。外出する機会が増えれば、昨日と今日の自分を変えたくなる。その一歩は服を着替えることで、新しい服が欲しくなる。もちろん、ライフスタイルの構造は変わっており、節約できる部分を消費に回す傾向が生まれている。ビックマーケットを狙うより、ピンポイントでファン客を捉えて増やす方が得策だ。その意味で、D2Cブランドには大いに期待している。



 そのD2Cブランドとの協業に苦戦が続く百貨店が活路を見出そうとしている。売却先を探しているそごう・西武の「CHOOSEBASE SHIBUYA」がそうだ。700m2のスペースにサスティナビリティをテーマに54ブランドをラインナップする。商品についたQRコードをスマートフォンで読み、専用のサイトで価格や特徴を確認できる。購入したいのであれば、ECサイトのカートに入れてレジに向かい決済する。百貨店の敷居がぐんと下がったと言える。

 ブランド側からの引き合いも多いようで、週末だけの展開や3ヶ月だけの出店も可能にした。百貨店側も短期間でも出展料と売上げ歩率を取れるので御の字か。それほど切羽詰まっている状況の裏返しでもあるが、もう委託販売や消化仕入れでビジネスが成り立つ時代ではない。百貨店には新興ブランドと消費者をつなげる結節点、在庫管理の拠点としてECと連動させる役割も求められる。外出したい客の「デスティネーションストア」になれるかがカギだ。

 大丸東京店の「明日見世」もショールーミングの拠点。4階エスカレーター横で約100m2ほどの規模だが、コスメやアパレル、飲料など20ブランドが揃う。こちらも接客要員の「アンバサダー」が常駐するが、その場で商品は売らずEC購入のみ。お客の側が「物を売り付けられるのでは」という抵抗感の排除に気を配る。アンバサダーは商品説明をするだけだから、売れるか売れないかはブランド次第。まさに消費者が共感できるかが肝になる。

 ものづくりを行いサイトに掲載するだけでは限界がある。消費者に現物を見て触って体験してもらうことが必要だ。当然、商品説明の人材やノウハウが不可欠だが、リアル店舗と言っても出店には相応のコストがかかる。ならば、短期のポップアップストアから始める。経営基盤がまだまだ脆弱なブランドにとって百貨店が場所を提供してくれるのは願ったりだと思う。

 高島屋も4月下旬、新宿店2階にD2Cブランドに特化した売場を開設する。こちらも高島屋のスタッフが接客や購入方法を説明するだけ。ブランド側は売場に展開する商品とネットに出品するものを準備するだけ。将来的には国内だけでなく、ASEANを中心に高島屋以外の店舗にも出店し、越境ECの展開も視野に入れている。



 福岡にもかつては百貨店だったマルイの博多店が3月にポップアップスペース「cocsept shops」をオープンした。小規模事業者に小売りの第一歩をサポートする目的で開設。売場は複数ブランドでシェアし、約2坪のスペースを最大11区画まで展開できる。食品からコスメ、アパレル・雑貨の販売のほか、ワークショップやライブ配信、広報活動やセミナーまで様々な利用が可能だ。マルイの社員が常駐し、出店者の目的やニーズに合わせた支援も行う。

 「百貨店=中高年向けの店」の時代ではない。百貨店も取引先との主従関係=「うちが売ってやる」的な考えを改め、出店側、お客側の若者双方からも認められる業態にならないと、明日はないということだ。


ジェンダーフリーをD2Cアパレルはどう表現するか

 時代も社会も変わった。女性が服を着る理由も目的も変化している。性別や民族性などから解放されることも、新しい服作りの価値になりつつある。そんな性格をもつD2Cブランドが登場しているが、既存のアパレルでもジェンダーフリーを意識し始めたところがある。

 例えば、スポーツブランドではこれまで同じ素材でも、パターンを変えることでレディス、メンズに対応してきた。ところが、あるブランドはスポーツラインのレーベルで性別の垣根を完全に取り払った。



 素材、デザイン、パターン、カラーは男女一体で、商品を企画。お客にはサイズ違いで選んでもらう。「肩幅やビップのラインが違う」「ウエストが寸胴になる」なんて考えこそ、このレーベルにとっては錯誤なのだろう。まさに目から鱗である。その理由を説明するために、コンセプトには「女性向けブランドがどのようなものかを再定義することを目的とします」と、掲げている。



 多くのレディスブランドが目指す方向性は、「可愛らしい」「愛される」「上品」「清楚」「スウィート」「コンサバ」だった。それはどこかに他人によく見られたい。周囲の目線を意識したもので、将来は「良き妻、良き母になる」。そんな意味合いもあった。このブランドにとってこうした要素は呪縛でしかない。それから解放されるところに服作りの価値を見出す。また、そうありたい女子たちに刺激を与え、共感を持たれることが目的なのだ。

 コンセプトには続きがある。「私たちは、若い女性がまさに自分のありのまま心と姿で、日常生活の中で自由で自立し自信を持って、クールに感じられるように力を与えることを奨励したいと考えています」と。「女性」を男性に変えても意味は通じる。身体は女性でも男性の心を持つ人にも抵抗なく着てほしいという思いもあるだろう。

 だから、百貨店各社が展開するD2Cブランドの売場では、こうした人々も意識すればさらに市場は広がるのではないか。まだまだ自分のジェンダーを堂々と打ち明けることには憚れる。だから、スタッフに外見だけを見てアプローチされるのは抵抗があるだろう。自分で選べるのはいいのだが、試着や迷った時に助言を求めたいこともある。LGBTの人が実店舗でストレスなく商品をお見分けでき、説明に納得してネットで購入できるようになれば、多様化と言われる市場の中で攻略できるパイはあるはずだ。

 大規模小売店法が改正された90年代以降、大型SCが開業しテナント誘致を競い合った。「〇〇初出店」「〇〇初上陸」を看板にして魅力を訴えてきたが、小売りやメーカーが在庫を抱えて販売する実店舗モデルは、ECの時代には頭打ちになっている。メーカー側はEC展開で多くの消費者にアプローチできるわけだから、小売りにとってなおさらブランド開拓は非常に難しくなっている。

 だからこそ、百貨店にはそこまで経営基盤を持たない弱小ブランドの孵化器となる役割も求められるのだ。在庫を持たず、販売員も要らない。おまけに出店コストもぐんと抑えられる。ならば、弱小ブランドにとって出店のハードルが下がり、その分をモノづくりに振り向けられる。もちろん、そこには全てをデジタルで管理することも必要だ。ただ、市場が細分化され、お客が多様化すれば、量産・量販ブランドだけでは攻略できない。小売り側にはそんなブランドの開拓が求められる。

 D2Cブランド側にも実店舗を出店する明確な目的が必要になる。まずはいかに売上増につなげるか。また、店舗を広告宣伝用の媒体として活用できるか。そして、接客スタッフやサイトのレビューを通じて得られる声をモノづくりに生かせるか。もちろん、売れることは大事だが、売れ筋を追求するあまりにブランドの世界観が損なわれるのであれば、本末転倒。売上げ、プロモーション、マーケティングのバランスがとても大事なのだ。

 先のジェンダーフリーのブランドは、購入して実際に着てみようと思っている。そのインプレッションはこのコラムで後日、紹介することにする。

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