HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

仕様変更への抗い。

2019-10-30 06:25:48 | Weblog
 以前もそうだったが、10月の東京出張明けはなぜか、マイクラフトワークのコラムになってしまう。昨年はオリジナルで作ったスマホケースについて書いたが、今回はスマホのストラップホールである。

 筆者は身体的特徴として、多汗症(脂手)だ。かつては紙上でデザインや文筆を行うには不適合だったが、PCの普及ととともにそれも解消された。また、資材や道具も進化し、脂手であっても汚れにくいものが開発されている。

 ただ、手に持つものはどうしても影響する。スマートフォンがそうだ。スマホはフラットな形状だから汗をかいた手で持つと、どうしても滑りやすい。落下させて破損させる確率は、一般の人よりも高いと思う。そこで、使用し始めた時からアルミのバンパーを取り付け、さらにストラップでショルダーバッグに固定している。

 スマホ自体は、メカの発達でより軽くなっているが、バンパーを付けることで逆に重さが増し、ズシリとした重厚感が伝わる。これも落下させにくくなる要因だ。さらに昨年はレザーを使ったオリジナルのスマホケースまで制作した。



 これで落下は防げるのだが、電話やネットを使用すると、手のひらや指先で触れるから手の汗を拭いても、しばらくすると薄ら滲んで来る。一日の終わりには乾いた布で拭いているが、経年とともに汗の影響が出て来る。水没させるわけではないので、スマホの機能はどうもないが、バンパーのネジが手汗のせいで錆び付いている。また、ネジ穴の山(溝)が潰れて、締め付けが効かなくなってしまった。

 格安スマホへの乗り換えや年一度のストラップ交換で何度かネジを外し、締め直したからだろう。バンパーはネットで大量に出回っているものを購入した。たぶん中国製と思うが、持っても2年くらいか。そろそろ限界のようだ。ネジの溝が潰れていることで、バンパーごと交換しなければならなくなった。

 肝心なスマホのiPhoneは新機種が発売されても、多少のバージョンアップやデザイン面のマイナーチェンジくらいだから、買い替える気にはならない。次に機種変更をするのは完全に故障するか、5G導入後の様子を見てからと思う。ただ、バンパーはiPhoneの新型が発売される度に新しいものが製造され、旧型用はほとんど欠品している。

 いま巷に出回っているバンパーは、iPhone 8用やiPhone XR用が主流だ。これからはiPhone 11やiPhone 11Pro用も発売されて来ると思う。iPhone 8以前の7や6でも、バンパーのサイズが合えば使えないことはないのだろうが、押しボタン高などのマイナーチェンジがあるので、その辺が合致するかは微妙だ。

 まあ、iPhoneのアクセサリーは中国だけでも相当数のメーカーがあり、バンパー一つをとっても、それぞれ独自の「金型」で作られ統一したデザイン、仕様ではない。例えば、サイレントスイッチや音量ボタン、スリープ/スリープ解除ボタンの部分が「ボタン式」もあれば、「穴空き式」もある。そもそもスマホ自体でいろんな種類、サイズが出回っているため、アクセサリーも様々な仕様になるのだ。

 今まで使っていたバンパーは持ちやすいソリッド型でボタン式、下部部分はそれぞれ穴が空いたものだった。6つ空いたマイク・スピーカーホールの2つをストラップ用にして糸を通し、リング、スプリングスナップを取り付け、それをレザーポシェットの紐に引っ掛けていた。リングに指を通せば、写真撮影も簡単で、落下させる心配もなかった。

 ところが、同じタイプのものは、ほとんど売り切れ状態。入荷待ちになってはいるものの、おそらく廃番と思う。売れ残っているものもあるが、色やデザインが好みではないし、数千円をはたいて購入しても、1年もすればスマホ自体を機種変更することになる。スマホを使い始めて3機種目。それぞれにバンパーを付けて来たが、枠だけがそのまま残っている。

 結局、何とか似た仕様のバンパーで格安のものを探し当てたが、枠にはマイク・スピーカーホールがなく、ヘッドフォン端子、ライティングコネクタの部分と一体で総空きになっている。このままではストラップが付けられないので、一般的なバンパーについているストラップホールと同じ箇所に自分で穴を空けることにした。

 道具は、コードレスのドリル、鉄工用のドリル刃。そして、バンパーを固定するクランプ。ドリルは手持ちのものが使える。ドリル刃は100円ショップに5本セットが売られていたのを思い出し、在庫を見つけて購入した。木工用なら使う頻度も多いが、鉄工はほとんどないので、行きつけのHCハンズマンで購入するまでもない。

 作業は、事務所のブックシェルフを再利用した作業台に、キズがつかないようにウエスを敷いてバンパーを置き、その上に木片を重ねて2カ所をクランプで固定。バンパーには予めニードルで穴の当たり(窪み)を付け、ドリル刃が咬み易いようにした。ストラップホールの直径はドリル刃で最小の1.5mmを選択。これなら二重にしたストラップ糸も通せる口径だ。2カ所の穴の間隔は市販のものは、2.5mm〜3mmくらいになっている。

 バンパーはソリッド型なので表面はフラットだが、幅は4mm程度しかなく、そこに1.5mm径の穴をあけなければならない。つまり、約2mmの中央部分に付けた当たりに真っすぐドリル刃を当てて突き通し、空けるしかないのだ。バンパーの表面は黒の塗料でコーティングされているので、当たりからドリルが滑ると一巻の終わりだ。しかも、穴は2.5mm〜3mの間隔で2カ所空けなくてはならない。失敗が許されない一発勝負になった。



 実際にやってみると、意外にも穴は簡単に空いた。ドリルがだいぶ古いものなので、バッテリーのパワーも弱く、トルクが上がらずにドリル刃はゆっくり回った。これがよかったのか、大して力を入れることもなく、簡単に突き通せた。バンパーの内側には緩衝用の薄いウレタンラバーが貼ってあるが、ドリルの勢いが弱かったため、ここまで穴が空くことはなかった。

 細いテグスでストラップの糸輪を引っ張り、2カ所のホールに通すとウレタンラバーが内側に膨れたが、バンパーの取り付けには何ら問題は無い。ソリッド型なので、手汗をかいてもしっかり手に馴染む。これで機種変更までは持ちそうだ。バンパー代は送料込みで、998円。鉄工ドリル刃5本セットは100円。材料費は締めて1098円で収まった。

 穴空けは手間がかかり、道具や多少の技術も要る。それなら、買い替えるという手もあるが、ビジネスにIT機器が普及するに従って、デスク回りのアクセサリーがやたら増えている。PCやスマホ関連は新製品の発売頻度も高く、その度に小物の買い足しや買い替えが必要で、使わなくなったものはゴミになっていく。

 バンパーくらいにそんなカネをかけても仕方ないので、できれば再利用したいが、こればかりは使い捨てのご時世だから如何ともしがたい。まあ、クラフトワークは楽しいし、やるだけの価値はあると思う。製品の使い勝手が良いか悪いかを判断するはお客だと、メーカー仕様に抗いたい気持ちもある。不要になったバンパー枠や錆びたネジは、金属だからリサイクルできるのがせめてもの救いだ。
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芸能人リスクの重み。

2019-10-23 04:36:24 | Weblog
 10月5日、「東京ガールズコレクション KITAKYUSHU 2019(以下、TGC北九州2019)」が北九州市小倉北区の西日本総合展示場で開催された。冠スポンサーには、日本を代表する浄水器メーカーに成長した地場企業の「タカギ」が就き、北九州市をはじめ、福岡県も全面支援するイベントだ。

 この手のガールズコレクションは客寄せ興行の域を出ず、今や似たようなものが全国で開催されている。そのため、期待したほどの広域集客は図れず、地元への経済波及効果も限定的になりつつある。おまけに来場客の目的は企画内容より芸能人見たさで、集客はタレントの顔ぶれに左右される。つまり、イベントの成否は、旬の売れているタレントをいかにブッキングするかにかかっている。

 しかし、支援する地元自治体は開催の大義に「地方創生」を掲げる。イベントに多額の税金を拠出することから、企画のどこかで地元色を出さなければ、反発を受ける。これについては毎回、主催者側のTGC北九州実行委員会とイベントを企画・制作するW TOKYOとの間で、調整が行われているようだ。

 TGC北九州では、昨年からイベントに出品枠をもつ地元専門店のレディスハトヤ(SPAとしてオリジナルブランド「ラトカーレ」を出品)が地元の若者に「枠」を開放し、イベントに参画できるようにした。今回も女子大生10名が同ブランドを着るモデル4人に衣装選びからパフォーマンスまでの演出に当たっている。

 さらに、地元で活躍するアイドルグループHKT48の松岡菜摘、森保まどから7人で構成するビジュアル系ユニット「Chou」がイベントに出演。メンバーはオープニングでパフォーマンスを披露した他、久留米絣を使用した衣装や小倉織をアレンジしたアクセサリーを身に纏うなど、地元アピールにも一役買っている。

 TGC側はイベントに出品する衣装を既成服の「リアルクローズ」に限定している。だから、従来はクリエーション志向が強く、技術的にも未熟な服飾系の学生は、蚊帳の外に置かれていた。その辺も衣装の幅を広げたいTGC側と学生に作品披露の場を提供したい学校側とで徐々に緩和されてきている。今回は地元の東筑紫短期大学の学生らが「紺碧の海」をイメージしてデザイン・制作した青の衣装を女優の桐谷美玲らが着用。地元色を強調したい自治体や実行委員会の面目は立ったと思われる。



 一方、今回は集客のカギを握る出演者がドタキャンするトラブルに見舞われた。イベント前日の10月4日、モデルでタレントの道端アンジェリカが出演をキャンセルしたのだ。夫のキム・ジョンヒが知人男性から35万円を脅し取った恐喝容疑で逮捕されたのがその理由。主催者側によると所属事務所のワイエムエヌから出演辞退の連絡があり、公式サイトでは「出演キャンセルのお知らせとお詫び」が発表されている(主催者はサイトでチケットの払い戻しはしない旨を告知)。

 このトラブルについて、地元メディアは大々的に報道しなかったが、大手週刊誌などは「セレブタレント」?の不祥事は格好のネタになると飛びついた。しかも、事件現場に道端が居合わせ警察の事情聴取を受けていることから、事件の真相や道端の今後で報道合戦を繰り広げている。

 ここでは詳しく触れないが、イベント当日の5日、道端は所属事務所の公式サイトで「今回の夫の発言は、私が知人の男性と身体を密着させ飲酒していたことを夫が疑い、そのことで夫がお相手の方を責めた結果、なされたものでした」とのお詫び文を発表した。

 しかし、そもそも人気タレントが夫以外の男性と個室で飲酒するのは不可解だし、一歩間違うとタレント生命を失うことになる。しかも、夫がその模様を防犯カメラに録画して恐喝したとなれば、「美人局」疑惑が浮上してもおかしくない。事件の真相は警察の捜査を待たなければならないが、道端の事件がTGC北九州2019に汚点を残したのは確かだ。

 タレントの品行方正さと素行の悪さは表裏一体だからしかたない。そう切り捨てるのは簡単だが、地方自治体はイベントに多額の税金を拠出している。また、イベントプロモーターは自治体相手だと焦げ付きがないから、「地方再生プロジェクト」を口実に擦り寄って来る。プロモーターは芸能事務所とズブズブの関係でありながら、タレントのスキャンダルには我関せずの体たらく。道端の事件がイベント後に発覚すれば、公金が犯罪ほう助者のギャラになっていたはずだ。これにはどう言い訳するのだろうか。



 日本の場合、モデルであっても単発の雑誌やCMでは高いギャラは稼げない。敢てモデルの仕事しかさせない厳格な事務所も少なくないが、「タレント」や「女優」としての契約を取ることで、高額なギャラを稼がせたいところもある。なおさら、本人がバラエティ番組やドラマに出演したければ、マネージャーもその方向で動いていく。事件の当事者である道端がまさにそうだ。しかし、タレントとして人気が上がり、多額のカネを得るようになると、立場は逆転する。

 事務所の管理監督の箍がゆるみセルフコントロールも効かず、今回のようなスキャンダルを起こすケースがあるのだ。道端も生じ人気が出たことから、“セレブ”を気取りたかったようである。でも、実態はわずか35万円の恐喝事件で、身を滅ぼすという笑えないオチがついてしまった。


駐車違反70回の確信犯も出演

 ガールズコレクション出演タレントの不祥事は過去にもあった。JR九州は 2011年、博多駅ビル「JR博多シティ」の開業に合わせ、鉄道系カードの会員獲得キャンペーンを展開した。そのイメージキャラクターに起用されたモデルの「藤井リナ」は、キャンペーンイベントに出演した他、JR九州が全面協賛した「福岡アジアコレクション2011」にも出演している。

 しかし、その後にバイクの駐車違反を70回も繰り返していた素行の悪さが発覚。すでに「確信犯」と言えるような状態だったわけで、キャラクター起用当時から関係者が気づいていないのは不自然だ。おそらく所属事務所もエージェントも、公になることをひた隠しにしていたのではないかと思われる。

 結局、イベント終了後に藤井の犯罪事実が白日のもとになると、JR九州はキャラクター契約を延長することもなく、何事もなかったようにバッサリ切っている。こうした対応を見ると、JR九州も事務所関係者もすべてを知っていて、敢て伏せていたと思われてもしかたない。それだけ俄タレント起用はリスクが高いということである。



 TGC北九州2019には今年、初めてTGCを開催した「熊本市」も協力している。おそらく、TGC熊本2020推進委員会では、担当者が冠スポンサーの確保を含め、企画の参考にするため会場を視察していたと思われる。併せて熊本のメディアもわざわざ取材に行ったはずだが、道端のドタキャンは寝耳に水だったのではないか。

 担当者は観客の反応を見て、誰をキャスティングすれば集客が図れるか。候補をリストアップしてW TOKYOに要請する検討材料にしたと思う。TGC熊本2020では地元のアパレルブランドのショーも予定しているというから、TGC北九州2019同様に桐谷美玲らが着用すれば話題にもなるし、販促効果にも期待は持てる。



 一方で、道端のドタキャンはTGC北九州はもちろん、TGC熊本も「人気タレント起用のリスク」を思い知らされたはずだ。今回はイベント前日の一方的なドタキャンで、主催者側にはどうすることできなかった。しかし、キャスティングされチケットが販売されて、開催日まで時間がある場合は、出演キャンセルは集客にも影響を及ぼす。

 道端は事件当日からイベント前日のドタキャンまで、約2カ月間もインスタなどで“セレブタレント”を演じていた。場合によっては、この間にスキャンダルが発覚したかもしれないのだ。そう考えると、TGC北九州やTGC熊本の主催者がW TOKYOに対し、タレントを起用する場合の「身体検査」を要請したのは想像に難くない。

 話はズレるが、TGC北九州開催のちょうど10日ほど前、冠スポンサーのタカギから凄いニュースが発表された。同社が「社用機」として最新の小型ビジネスジェット「ホンダジェットエリート」を導入したというのだ。機体は国内3機目の納入で、購入価格は約7億円。創業者の高城寿雄会長の意向で、社員の福利厚生や求人面でのアピール、操縦士を目指す学生への貸し出しという社会貢献から、導入を決めたという。

 高城会長にはビジネスジェットを購入したからと、世間で言われる“セレブ”感覚は微塵もない。子供の頃から発明が大好きで、高校を卒業後すぐに技術畑を歩み、自らキリ、ジョロ、シャワーの切り替えができる散水ノズルを考案。そのノウハウを生かして蛇口一体型浄水器の開発し、同社を日本でトップクラスのメーカーに成長させた。

 高城会長は仕事一筋で生きて来たため、経営者になってから大学に進学。しかも、一橋や立教で学んだ秀才である。筆者は過去に高城会長が土地の問題で地元自治体のあまりの身勝手さに激怒している場面に遭遇した。その時、「実直で曲がったことが大嫌いな人」との印象をもった。名刺交換をしたことで、その後、数年間は年賀状をいただいた。

 TGC北九州にスポンサードしたのは、「地元北九州市に育ててもらった感謝の思いを地方創生という形で恩返ししたいから」と言われている。出演するモデルやタレントがそんな高城会長の思いなど知る由もない。挙げ句の果てが道端のスキャンダルとドタキャンだ。観客の多くは道端ら人気タレントが醸す“セレブイメージ”に憧れを抱いていると思うが、今回の事件でそれが虚像に過ぎないことがハッキリした。

 三文タレントのセレブイメージが崩れ、化けの皮が剥がれたことで、地方再生を大義に開催するガールズコレクションの真価が問われるのは間違いない。「地方創生が目的ではなく、(三流芸能人)の自己満足の手段に過ぎないのなら、そんなものへの支援は止めてしまえ」。真面目で実直な高城会長なら、同じことを考えるかもしれない。

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どこまでもコンサバ。

2019-10-16 06:42:37 | Weblog
 「コンサバ」というファッション用語がある。正式には「コンサバティブ」といい、「保守的な」「控えめの」を意味する。アパレルでは、デザインやスタイリングで「最先端トレンドを行く」「ファッショナブルな」との対義語として使われている。店頭では、「あの人はコンサバ志向だから」「フォーティアップの度・コンサバ」「コンサバ過ぎて今のお客には合わない」などの使い方をする。

 平たく言えば、昔から変わらない伝統技法のフォルムやディテールによるテイストを指す用語で、身体にラインにそったアワーグラスやマーメードなどのシルエット、ティアードやフレア、ラッフルなどのボトム、丸襟やフリル、レース使い、パフ、シャーリングなどの加工といった、女性っぽく上品な感じを総称する形容詞だろうか。男性ファッションでは、コンサバよりも「トラッド」と呼ぶ方が多い。

 コレクションに出品するデザイナーは自分の世界観や作風を際立たせる意味で、反コンサバ、アバンギャルド(前衛的)を志向することが多い。だが、モードの世界ではその時々の世相や景気の影響も受けるので、トレンドがコンサバが主体になるシーズンもある。それをファッション系メディアは「面白くない」と批判するが、最終的にはお客がそうしたテイストの商品を購入するか否かにかかっている。

 レディスでコンサバを好む層は、深窓の令嬢、いわゆる家からの全面支援で暮らすお嬢様、そして彼女らがそのまま結婚して行き着く良妻賢母のミセスイメージだ。博多で言うところの「よか(良い)嫁さんタイプ」だろうか。実際には働いている人も多いが、上品で女性らしく見えるので、人気は不動である。反面、デザインや技法はほとんど変わり映えせず、流行とは関係ないから高品質の服なら親から子へ引き継がれることもある。ビジネスとして外れがないが、面白みに欠けるのだ。

 かつて百貨店のキャリア系ブランドの広告で「コンサバけてる」なるキャッチコピーがあった。80年代、男社会に混じって働く骨太の女性たちはファッションでも自己主張した。しかし、バブル景気が崩壊すると、オフィシャルゆえにウエアも控えめが善しと感じたのか。コピーライターはワーキングウーマンのこうした変化を「自分は世情に通じて物わかりがいい方。上司や同僚に反発することなく仕事もこなしますよ」というニュアンスで表現したかったのかもしれない。

 一方、コレクショントレンドはコンサバになるシーズンもあるが、三大都市の中ではパリがいちばん反コンサバ、アバンギャルドで、ミラノはコンテンポラリー、ニューヨーク(NY)がコンサバというイメージがある。筆者はそうしたコレクショントレンドの底流を「パリは魅せる服」「ミラノは着れる服」「NYは売れる服」と、解釈している。

 4番目の都市、東京はと言うと、反コンサバ、アバンギャルド志向のデザイナーがパリコレを目指すことから、どうしても定番デザインの「着れる服」「売れる服」を多少アレンジしたくらいの作品づくりに終始する。魅せるだけの服を作っても谷町がつかず、売れなければ食っていけないのだから仕方ない。だが、魅せる部分と売れる部分のすり合せをどうするかは、洋の東西を問わずデザイナーが永遠に葛藤する部分だ。

 ところで、筆者がよく知るNYだが、百貨店や専門店で売られている地元ブランドは、非常にコンサバ色が強いという印象を受ける。古くはオスカー・デ・ラ・レンタやシャマスク、近年ではアン・テイラーやリズ・クレイボーンなど。メンズ向けのブルックス・ブラザースやポール・スチュワートも、アメトラ=コンサバである。

 70年代にカルバン・クライン、80年代にアナ・スイ、90年代にマーク・ジェイコブスと、新進のデザイナーが反コンサバやストリートの商品を売り出し、脚光を浴びた。3年前に日本の「マウジー」がNY進出を果たしたのも、「コンサバ一色の中では、毛色が変わったものを求める層もいる」との自信からだと思う。

 ただ、保守的で上品、かつ誰でも着こなせるコンサバ服は、NYではコンスタントな人気を誇る。バナナリパブリックも近年はコンテンポラリーを謳っていたが、服づくりの底流にあるコンサバテイストからは完全に抜けきれてはいなかった。それがグローバル戦略では逆にモード感に期待する層に支持されず、店舗閉鎖に追い込まれた理由の一つだろう。そんなNYで日本人がデザインするコンサバなレディスブランドが「エムエムラフルアー(M.M. LaFleur) https://mmlafleur.com/」だ。

 製造販売するエムエムラフルアー社は、金融ビジネス出身のラフルアー宮澤沙羅CEOと当地のブランドメーカーに勤務していたデザイナー、中村美也子チーフクリエイティブオフィサーが2013年に設立した。現在は自社ECのほか、店舗兼ショールームが全米7店(NY、シカゴ、サンフランシスコ、ワシントンD.C、ボストン、アトランタ、ヒューストンに各1店)。加えてNY1ワールドトレードセンター近くのブルックフィールド・プレイスに期間限定(12月30日まで)のポップアップショップを展開中だ。

 商品はウェアの他にアクセサリーや靴、ソックスも販売し、25歳前後から55歳前後までの幅広い層に支持されている。価格帯もトップスが145ドル〜365ドル、ボトムスが190ドル〜265ドルで、非常にこなれている。米国女性の体型に合わせイレギュラーサイズにも対応している。



 アイテムはアメリカンアームホールのブラウス、ノースリーブや5部丈袖のワンピース、前打合わせのサープリス風テーラードスーツ、ノーカラーでウエスト部分にプリーツ入れて絞り上げたジャケット等々。仕事服としても通用する落ち着いたデザインで、まさにNYのワーキングウーマンには受けそうだ。ただ、そうしたコンサバなデザインに隠された設計思想は、働く女性の既製服に対する「悩み」を解消するもの。それは着心地の良さ、仕事のしやすさ、ドライクリーニングに出さずに洗濯機使用を可能にすることという。


仕事服へのニーズも盛り込む

 しかも、ウーマンエグゼクティブが仕事服に求めるニーズも適確に盛り込まれている。例えば、「タクシーを呼ぶために腕を上げやすい袖」「椅子に座るのに快適なスカート」「プレゼンテーションのメモを入れるポケット」「会合や打ち合わせに適したネックライン」「無地である」等々だ。もちろん、米国人女性ならではの「様々なバストサイズ」にフィットさせる配慮も忘れてはいない。彼女たちとっては見た目のシルエットよりも、派手すぎず活動しやすい服が「素晴らしい服」なのである。

 本来、キャリア系の服とは購入者のステイタスを満足させながら、その中でいかにトレンドや機能性を打ち出すかが売れる理由だった。しかし、NYをはじめとする米国のウーマンエグゼクティブの間では、さらに進んでオフィシャルでの「使い勝手の良さ」や「着やすさ」が購入条件では最優先されるようになったのだ。これはある意味、極めてコンサバ=保守的な考え方と言えるだろう。

 それだけのニーズを既成服に盛り込むのだから、パターンづくりでは妥協を許さない。フィッティングを何度も繰り返し、何度も作り直す。その数は最高で20回にも及んだこともあるとか。そこに大金と時間を費やすのがMD泣かせであっても、結果的に顧客のニーズに添うのなら、エムエムラフルアー社は貫き通すという。

 さらに顧客が服を着て感じる印象を話してくれれば、注意深く耳を傾け、常に商品を微調整を欠かさない。腕がきつすぎると言われると、それらを少し緩め、裾が長すぎると言われれば、次の企画には必ず取り入れる。まさに限りなくカスタムオーダーに近い既製服を目指すのが、エムエムラフルアーの真骨頂なのだ。既製パターンを使用して手間とコストを省き、価格勝負しかできない似非オーダーが跋扈する最近の日本とは大違いである。

 そんなエムエムラフルアー社に先日、官民投資ファンドのクールジャパン機構が約20億円の出資を決めたとの報道があった。機構が支援した理由は、同社が服づくりに日本の素材・生地を多用し、機能性を重視した商品を製造・販売、成長しているからという。機構は「エムエムラフルアーの事業拡大を支援し、日本の素材・生地の技術力を生かしたファッションの魅力を米国で発信し、日本の繊維産業の発展に貢献したい」と語る。これについての賛否、今後の可能性は、ここでは差し控える。



 同社はHPで「明らかに優れた生地を使用しない限り、優れたカッティングは機能しない。しかも、本当に素晴らしい生地はしわを寄せ付けず、肌を呼吸させ、ストレスの多い会議中にも汗をかいているようには見せない」と素材観を語っている。日本製の素材、生地が生み出す新しい価値観。それがNYをはじめ米国のウーマンエグゼクティに認められた点は、新たな販路拡大を探るクールジャパン機構としても見過ごせなかったと思う。

 営業戦略では、自社ECを運営するものの、店舗兼ショールームで、顧客に対するパーソナルスタイリングを充実させているのだから、旗艦店を整備よりもそれらを拡充した方がいいかもしれない。NYにはミッドマンハッタンのブライアントパーク近くの42丁目にあるが、他にもウォール街の周辺やコロンバスサークル、2nd&3rd Aveの60丁目付近にもショールームを置いてもいいと思う。お客との接点を広げることで、さらなるニーズを拾えれば繊維メーカーにフィードバックでき、新たな素材開発にも期待が持てる。

 ある東大卒の経営者が言った言葉を思い出す。「東京で売れないものは、NYでも売れない」。逆に言うならNYで売れるものは、東京に持って来ても売れる可能性は高い。米国と違って女性の管理職や重役が少ない日本だが、いざ就いて見るとポストに即し機能性を兼ね備える仕事服が意外に少ないと思うのではないか。地方店の閉鎖が続く日本の百貨店にとっては、ビッグマーケットにはならないにしても、チャンスではあると思う。

 昨今、ネットで知名度が上昇中の識者は、過去に「50代以上のアパレル関係者は、素材に拘るのが異常ですわ」と批判していた。そりゃ、自分がユニクロやGUしか着ていなければ、素材の良さはわかりようがないし、決して気づくこともないだろう。しかし、お客が一度、良い素材の服を着てしまうと、そればかり着たくなるのはアパレル業界の常道である。だから、関係者はどうしても素材に目が向いてしまうのだ。

 エムエムラフルアーが伸びているのは、米国のウーマンエグゼティブが日本生まれの素材の良さ、それが生み出す着心地を実感している証左だ。これを日本のアパレル関係者はどう見るのか。こうしたブランドが日本に上陸すれば、エグゼクティブを目指すワーキングウーマンは同じように感じると思う。それだけは洋の東西を問わず不変なことなのである。

 キャリア系の商品を扱うマンションアパレルにいた頃、社長が企画会議で必ず言っていた言葉、「コンサバにならないように」。デザイン的にコンサバになると、既存メーカーには勝てないし、自社の独自性を打ち出せないからだ。だからと言って、素資材のコストを下げるとか、奇を衒ったテキスタイルを多用していたわけではない。生地選びではいたった保守的で、国産、インポートを問わず、打ち込みがしっかりした上質なものを採用していた。

 筆者は個人的に「コンサバ(な服)は嫌い」と公言して来たが、もし自分がウーマンエグゼクティブであるなら、エムエムラフルアーの着心地を実感してしまうと、そればかり着てしまうのではないかと思う。素材使いにはどこまでもコンサバ=保守的であれ。売れる新たなテーマなのかもしれない。

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大市場=マスプロではない。

2019-10-09 04:57:08 | Weblog
 バブルが崩壊した90年代初頭。日本ではファッション消費が陰りをみせた。それまで売れていた百貨店系アパレルや高級ブランドは売上げを落とし、若者向けで値ごろな平成ブランドやフレンチカジュアル、渋カジが台頭した。また、大規模小売店法が改正されて郊外にショッピングモールが誕生すると、低価格アパレルが次々と店舗を拡大した。それらも日常に着られるカジュアルが中心だった。

 ファッションのカジュアル化は、平成不況が蔓延した日本だけではない。米国で開催される最大級のアパレル展示会「MAGIC」を見ても、出店するブランドは外衣中心の「テーラードクロージング(スーツ、コート、ジャケット、トラウザース)」を減らし、カットソーやデニムを利用した「ウエア」、 スポーティーな「パンツ」を増やしていった。こうした展示会の様変わりを見るにつけ、「カジュアル化は世界中の潮流だな」と感じたものだ。

 アパレルがカジュアルシフトし、より大きなパイを狙ってグローバル戦略を進める上では、経済発展しているエリアや人口が多い市場に打って出る。まず、2000年代に入り目覚ましい成長を遂げた中国だ。そして次にはブラジルやロシア、インドが控え、さらに人口が多い東南アジアのタイやインドネシア、ベトナムも期待されている。

 ただ、アパレルは気候や風土の影響を受ける。ロシアは大部分を冷帯・寒帯が占め、年間の平均気温は20℃台。薄手の衣料より防寒着の方が必需品になる。逆にブラジルやインドは気温が高温になり、雨期や乾期もある。日中に重衣料で過ごすことはまず無い。

 また、経済発展が続くと社会構造も変わる。それまで製造業主体だったものから、都市部で金融や不動産のビジネスが成長すると、仕事内容や職種は変わっていく。オフィスで働くホワイトカラーは取引先との商談や営業などに従事するため、カジュアルウエアに代わってスーツやドレスシャツ、ネクタイ、革靴などのニーズが生まれてくる。やはり、欧米流のドレスコードは一定の段階を踏むので、IT業界のようにいきなりラフなスタイルでOKというわけにはいかない。

 世界のマスマーケットに通用するのは、カジュアルウエアで間違いないが、各地域、国ごとの経済事情や社会構造を見て企画を修正しなければならない。生産効率だけを重視し世界中に同じアイテムをデリバリーしても、必ずしも売れるとは限らないのだ。LevisやGAPが世界戦略で必ずしも好業績を上げられないのは、外資規制だけでなくそうした理由もあるだろう。

 一方、アパレルは国や地域ごとの文化や風習、宗教の影響も受けやすい。分かりやす例が、イスラム圏やムスリムの女性たちだ。アラビア半島では目と手足以外は黒い布で隠す伝統衣装「アヤバ」を纏う。そこまで戒律が厳しくないインドネシアなどでは、スカーフのような布で頭髪だけを隠す「ヒジャブ」を着用している。

 だからと言って、イスラム圏の女性が全くお洒落をしないかと言うと、そんなことはない。彼女たちは肌や頭髪の露出が極めて制限され、また外衣を自由に選べないため、インナーウエアにド派手なものを好む傾向があるようだ。自らの文化や風習を頑に守り、宗教に対しも敬虔な人々が暮らす国々やエリアでは、欧米のカジュアルウエアがすんなり市場を形成できるとはいかないようである。



インド人が着るユニクロとは

 目下、ラグビーW杯の真っ最中だが、世界中の人々の普段着を目にすると、世界に打って出るには、どんな商品戦略がいいのか。ついつい考えてしまう。そんな矢先、ユニクロが「デリーを拠点とするインド人デザイナーのリナ・シン(Rina Singh)と初めてコラボレーションした『クルタ・コレクション』を発表した」というリリースを目にした。(https://www.fastretailing.com/jp/group/news/1910041500.html)

 ユニクロにとっては中国事業が好調とは言え、次なる大市場を睨むのは当然だ。日本はこれ以上伸びようがないし、欧州ではミラノ進出を果たしたものの、店舗拡大はアジアほど進んでいない。米国事業はずっと苦戦が続いている。残る市場で有望なところと言えば、人口が多く経済発展しているインドだろう。進出構想は10年以上前からとの話もあり、それだけ魅力に感じていたということだ。

 すでにインディテックスやH&Mが先行しているが、インドでは金額ベースで取り扱う商品の最低30%を現地で調達しなければならないという。文化や風習、気候風土によるデザインや嗜好の違いの他に、こうした厳しい外資規制の影響で、大手は苦戦を続けているようだ。後発のユニクロとしてはまず、市場のニーズを拾い上げる方向で、現地をよく知るデザイナーと組み、じっくり攻めていこうということか。当然、将来的にはインドを市場としてだけでなく、生産拠点に加えることも視野に入れているはずだ。

 リナ・シンはネイティブなインド人で、ファッションスクールを卒業後、英国留学を経て国立ファッション技術校に勤務し、2011年に自身のレーベル「Eka」を発表している。インドの文化や風習、気候風土が生活に与える影響を熟知し、インド女性の衣服に対する考え方も理解している点でも適任だ。日本や欧米のような成熟市場では、活性化のために世界的なクリエーター起用もあり得るが、インドのようにこれからのところは、まず現地に即したマーケティングやもの作りが最優先されるということだ。



 クルタ・コレクションはさる10月4日、ニューデリーにインド1号店(アンビエンスモール・バサントクンジ店)をオープンしたことで、来年10月から発売するという。インド女性の日常着である伝統服「クルタ」をモチーフにチュニック、ドレス、パンツの4つのカテゴリーを展開。インドの蒸し暑い気候に合わせ、快適に過ごせるように素材にはプレミアムリネンやコットンのほか、ユニクロと東レが共同開発したイージーケアのレーヨン生地を使用している。 価格帯は2,990円〜4,990円 (ストールは1,500円)で、日本と同程度の設定だ。

 価格設定はユニクロの世界標準のまま。レギュラーの商品はすでに販売されているが、こちらもほぼ同じ水準だと思う。これが一般的なインド人にとっては高いのか。同国の給与所得者の平均年収は、直近のデータで約184万円。平均月収は約15万円となっている。これを見ると、少し背伸びすれば、ユニクロの価格帯なら買えなくはない。ただ、平均所得の伸びは経済成長に伴うものであり、都市と地方の格差もある。地方の主産業である農業従事者は月額約17,000円、商業(商店)は同約10,000円というデータもある。

 都市部ではIT産業が発展していることもあり、ソフトウエア開発者は620万円以上、ソフトウエア開発のプログラマーは1000万円以上を稼ぐと言われる。こうしたIT技術者の高額な報酬が平均給与を押し上げていると見られる。そう考えると、当面の店舗展開はインフラ整備の関係や年収の伸びとともに、消費意欲が旺盛な都市部中心の展開になるだろう。


バングラデシュの躓きから学ぶ

 ユニクロをより慎重にさせるのは、過去に苦い経験があるからだ。2013年7月、ユニクロはそれまで製造拠点の一つでしかなかった「バングラデシュ」に出店した。「Grameen UNIQLO」という90㎡程度の小型店を首都ダッカに2店同時オープン。イスラム圏であることは十分に認識し、商品企画にもそのテイストを取り入れたが、レディスアイテムは全く売れなかった。

 詳しくリサーチしなおすと、バングラディシュの女性は一般のカジュアルウエアをほとんど持っておらず、「民族衣装しか着ない」ことが判明した。マーケティングの精度を疑うような事実だが、現地に乗り込んだスタッフは、とりあえず他社から民族衣装を仕入れて急場を凌いでいる。また、報告を受けた柳井正社長の鶴の一声で、自社で民族衣装を作る=企画の大幅な変更を余儀なくされたという。数々の失敗を重ね、それを糧にして来た柳井社長のことだから、バングラデシュ出店の躓きがインド出店では学習効果として働いたのではないか。
 
 インドでは同じ轍は踏まない。また、進出を計画して10年以上の年月が経っている。結果的に現地を良く知るデザイナーと組んで、現地向けの企画も用意する方が得策との判断に行き着いた。それが売れるという保証はないが、売れなければユニクロのことだから迅速に修正を施すはずだ。加えて商品や品揃えだけでなく、売場づくりや接客サービス、日本流のホスピタリティがどこまで通用するか。それも重要になる。

 「人口は2030年には中国を抜いて世界一になる」「国民は優秀(2ケタの九九が言える)、IT産業が急速に発展している」「都市部には富裕層が多く、平均月収は1600万円以上」等々。日本の経済界はインドに対し、概ね高く評価している。しかし、アパレルビジネスはそんなに簡単にはいかない。人口が多くて市場規模が大きく、経済成長しているからと、マスプロダクトの商品を投入しても、前出の通りすんなり売れないからだ。

 まずは現地にじっくり根を下ろして、インドをよく知らなければならない。ビジネスにはスピードが必要だが、効率を優先すればかえって現地の反発を招く。GAPやForever21の世界戦略の失策を見て、ユニクロは十分に学習していると思う。独立独歩でありながら柔軟に攻めていく。これからの市場攻略には知恵と工夫と時間が必要のようである。

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続かなかった永遠。

2019-10-02 06:05:34 | Weblog
 9月29日、ファストファッションのFOREVER21は、同社及び米国内の子会社に関して、デラウエア地区連邦破産裁判所に日本の民事再生法にあたる「米連邦破産法11条(チャプターイレブン)適用の申請」を開始したと発表した。日本でも10月末で全14店舗と自社ECをの閉鎖は公表済みで、Xデーも近いと見られていたが、その通りになった。

 FOREVER21は1984年創業の比較的新しいブランドだ。韓国系米国人のドン・チャン氏とジンスク夫人がロサンゼルスで創業。全社的には2014年に売上げを40億ドルまで拡大したが、17年くらいから減少をはじめ店舗閉鎖に追い込まれた。日本に初上陸したのは2009年4月だから、わずか10年でその幕を閉じることになる。浮き沈みの激しいアパレル業界で、この期間が長いのか短いのか。いろいろ考え方はあるだろう。

 ただ、ファストファッションは価格と速さ、パワーとスケールはずば抜けているが、商品をしっかり作り込んでいないので市場では飽きられるのも早いというのが、正直な印象だ。


勝負する気がないビジネスモデル

 トップショップやアメリカンイーグルも日本市場から撤退している。オールドネイビーにいたっては2012年の日本上陸から、わずか5年で引き払ったのだから、見方を変えればFOREVER21はまだ持った方かもしれない。業界メディアや識者は早速、FOREVER21の撤退理由をあれこれ書き立てているが、後付けの理由なら何でも言えるわけで、どれもピンと来ないものばかり。以下に列挙してみたい。(版元およびご本人に引用の許諾を受けていないので、媒体名や氏名は伏せておく)

  徐々に「しまむら」や、和製ファストファッションの「GU」、さらには、「ウィゴー (WEGO)」や
  ネットを中心に販売する低価格ファッションや韓国系ブランドなどに
  押されて、当初の勢いは失っていった。
 

 そもそもFOREVER21は、程よい甘さを持つテイストで、カラフルでポップなデザインに仕上げた米西海岸のカジュアルだ。そんなハリウッドセレブ御用達のトレンドが日本で受けた時は、原宿店だけで年間100億円ペースで売上げた。しかし、そんなものは俄景気に過ぎず、長続きするはずがない。FOREVER21側も端からしまむらやGUと伍して戦おうなんて考えていないし、彼らに押されたから勢いを失い、撤退を余儀なくされたとは思えない。



  オーナー一家が韓国系アメリカ人ということもあり、サイズ感も日本人に近い。

 上陸当初、爆発的な売上げを記録した理由をこう分析したライターもいた。これにも違和感があった。そもそも日本人と韓国人は米国人に比べると、サイズは近似値かもしれないが、体型や骨格は異なる。韓国人の方が腕、脚は長いし、平均身長も高い。(日本人女性の平均身長:157.9cm、韓国人女性の平均身長:162.3cm)だから、日本ではワンサイズ下のものが売れるほど、サイズ感やバランスは甘いものではない。

 毎日のように福岡店の前を通っているので、売場でハンギングされているレディスのボトムを何度も確かめた。だが、あのパターンはむしろ米国人に合わせたもので、日本人にはそぐわないと感じた。トップスならオーバーサイズでも誤摩化せるが、ウエストやヒップのボリューム、パンツの渡り幅、裾にかけてのライン、スカートの丈等々。ボトムづくりはそんなに簡単には行かない。現にそれほど売れなかったと思う。サイズ感が日本人に近いから売れたのではなく、あのパターンが日本人から敬遠され、リピーターにはならなかったと言える。

  フォーエバーは明らかに在庫過多に陥っていた。これはもしかするとアメリカ本国も
 同様ではないかと思う。需要予測が甘かったと言わざるを得ない。

 そもそも、米国ファッションに限らず、当地の製造業や小売業は、端から需要予測などあまり考えない。大量生産、大量販売。仕入れたものを売り減らしていくだけで、売り足しはしない。売れなければ、値引き販売する。アパレルも金融業的発想だからキャッシュフローを円滑にして1ドルでも多く回収する。それが米国流豊かさの象徴かつビジネスの遺伝子であり、ずっと引き継がれている。上手くいかなければ、経営者が変わるだけ。需要予測をしてもの作りをすることこそ、緻密な日本的な経営思考なのである。

 筆者が初めて渡米し、ニューヨークを訪れたのは1979年。マンハッタンに立ち並ぶ百貨店のファッションフロアでさえ、商品は今と同じく布帛もニット・カットソーも色、サイズ別に傾斜ハンガーに掛けられた量販陳列が主流だった。日本のような畳みが極力避けられていたのは、売場が乱れることと畳み直しの手間を避けるため。また、売場では色・サイズの欠品をなくし、売り逃さないオペレーションを徹底する。これはこれでいいと思うが、期中、期末まで商品が計画通りに消化できなければ、什器の突端にセールPOPが掲示され、マークダウンやディスカウントされる。

 こうした手法は40年経った今でもほとんど変わらない。ギャップもFOREVER21も、自社開発やODMの差こそあれ、大量に仕入れて売り減らしていく手法は同じ。FOREVER21の場合は経営者が韓国人で、米国人のサル真似しかできないのだから、むしろ納得いく。

  商品の品質云々よりも、「需要予測とMD精度の甘さ」「腰掛出張所体制」「広告宣伝・  
 ウェブへの力の入れなさすぎ」「店舗数の少なさ」が日本での敗因ではないかと思う。

 需要予測とMD精度の甘さを米国ブランドに指摘してもあまり意味はない。前出の通り、キャップにしてもオールドネイビーにしても、それにはさほど向き合わないのが彼らのビジネススタンスだからだ。出張所体制については、是か否かは分かれると思う。本国が一括コントロールして効率を追求し、それでブランドロイヤルティの維持が図られる場合もある。

 逆にジャパン社まで作って、日本向けの商品企画まで行い中途半端に焼き直したところで、FOREVER21が売れただろうか。ファストファッションだけに本国は生産効率を重視するだろうし、マーケットを良く知る日本の商社やメーカー側が打診されても、二の足を踏んだと思う。

 広告宣伝については、日本では新雑、テレビCM、駅貼りのポスター、オープン広告などに出稿するには莫大なコストがかかる。ブランドロイヤルティを保つために、制作は本国で行うにしても、日本では媒体料が極めて高額だ。あの価格で、広告宣伝費をかけるのは非常に難しい。

 仮に日本で100店舗体制を計画して広告宣伝の先行投資をしたにしても、余りあるリターンがあって、経費が回収できる保証はない。FOREVER21は上場企業ではないから、証券市場から運転資金を調達することはできない。おそらく、経営者側は自社投資して負債が増えることを恐れ、広告投資は控えていたのではないだろうか。

 Webについては、単にブランドを告知するだけではレスポンスは期待できない。インタラクティブの機能を生かせば、オンラインショップの開設になる。でも、自社、モールを問わずECを導入するにしても、商品在庫は店舗で引き当てするのか、別に物流倉庫を開設し、EC専用の在庫を確保するのか。そうした問題をクリアしなければ、Web展開は無理だ。

 価格帯を考えると通販に適するとは思えない。フルコーディネートよりパーツを意識する若い子たちが1000円以上の送料をかけてまで、2980円の商品を購入するとは考えにくいからだ。宅配便の送料が上がってECを敬遠し、店受け取りを希望するお客は確実に増えている。それはしまむらがAmazonに出店したが、うまく軌道に乗せられないことからもわかる。WEGOは通販で成功したのかもしれないが、送料が上がったことを考えると、これからはどうなるのかわからない。やはりファストファッションは、店売りが基本なのだ。



撤退から何を学ぶかが重要

 FOREVER21は、負けるべくして負けたというより、端から海外戦略において出店先の市場を深く研究してビジネスを展開する気などなかったと思う。言い換えれば、日本を含めたアジア市場では、毛色が変わったものが受けるニッチ市場に登場して、コツンというヒットを生んだに過ぎない。だから、店舗数は大都市展開で、せいぜい10店がマックスだったと思う。

 米国発祥のブランドと言っても、創業者一族が韓国系なのだから、きめ細かな商品づくりなど期待できるはずもない。仮に日本市場で成功する「需要予測とMD精度」「出張所体制」「広告宣伝・ウェブへの注力」「多店舗体制」などの条件を意識すれば、逆にGUやアダストリアなど競合がひしめくレッドオーシャンに飲み込まれるのが落ちだ。

 FOREVER21は、デフレでアパレル業界が疲弊している中、原宿店ではいきなり年間100億円近い売上げを稼いだ。それは紛れもない事実で、結果的に一過性のブームであっても評価に値する。また、末期状態だった銀座松坂屋が何とか首の皮一枚でつなぎ止めることができ、GINZA SIXへの橋渡し役も担った。チープなグローバルアパレルなんてそんなものだし、速い安いトレンディのファストファッションにサスティナブルな経営観を期待する方がおかしい。永遠とは名ばかりで、続くことなどありないのである。

 もっとも、FOREVER21が日本市場から撤退したことで何を学ぶか。撤退理由よりもそちらの方が重要である。それは掃いて捨てるほどあって世界的なSDGs(持続可能な開発目標)に逆行し、ゴミを出し続ける低価格アパレルは、これ以上要らないということではないか。

  若い世代のミレニアルズ達が、使い捨てを良しとせず、長く着られるアイテムや、
 「メルカリ(MERCARI)」や古着店などでの2次流通で高値で取引される品質力
 や換金性の高さを求めるようになったのだ。


 撤退理由だけは検証し、この部分には触れなかった識者もいるが、これもFOREVER21が撤退した理由というなら、アパレル業界はそうしたブランドづくりに目を向けた方が良いということになる。ファーストリテイリングが手がける中価格帯の「プレステ」でさえ多店舗化が図られていなし、売上げも今イチだ。つまり、日本ではファストリが成功させた低価格モデルが限界を露呈している証左だ。これは他社にとってはチャンスかもしれない。

 同じファストファッションH&Mグループの「COS」は、2020年に日本で公式オンラインストアを開設する。 H&Mの上級業態で、ユーロテイストのコンテンポラリーモードを再現した大人向けのゾーンに位置するが、ザラのように多店舗展開はしていない(東京、横浜の3店)。

 こうしたブランドは日本にはなく、価格も値ごろだからトレンドを楽しみたいキャリアOLやモード好きの大人の女性には受けている。そうした手応えを得てのオンライン販売の決断だったと思う。敢て店舗を増やさなかったことで、ファン客を焦らしてカタルシスを誘う新しい手法。もう店を出せばいい、Webサイトを開設すれば、売れるという時代でもないだろう。ビジネスセオリーの前提を疑うことで、新たなマーケットが開拓できるのである。

 また、40代〜50代という大人の女性向けブランドの開発の動きも活発化している。彼女たちは賢く合理的だし、商品を見る目を持っている。決してデザインやトレンド、価格帯だけでは選ばない。アパレルがそちらのベクトルを意識し始めたのなら、むしろ良いこと。安さやトレンド以外にお客を納得させる何らかの新しい価値を企画に盛り込まなければ、振り向いてもらえないことに気づき始めたわけだ。

 これからグローバルブランドが日本市場でどう戦っていくか。プロは結果がすべてだから、結果如何でこれみよがしに断罪するのではなく、プロセスの段階でいかに新機軸を打ち出しているのか。そうした部分に目を凝らして見ていくことも必要かと思う。

 振り返れば、初上陸から3年後の2012年4月、福岡でFOREVER21とH&Mが同時オープンする前日、わざわざ事務所に泊まり込み、開店を待った。FOREVER21の原宿店では1200人が行列を作ったというからざぞや多いかと思うと、朝6時の時点でエントランスにいたのはお客2名と警備員1名。この時点ですでに飽きられ始めていたのだと思う。

 その話をSNSに投稿すると、かつてファッションチェーンの「鈴屋」で店づくりやディスプレイを担当していた知人がコメントした。「共食い、だよな」。ファストファッションの市場に登場したブランド同士が食い合いしただけ。H&Mが残っているのは優勝劣敗というより、欧と米の意匠観、美意識の違い、本社サイドの経営規模の差くらいかもしれない。

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