HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

人材育成が口先ばかりになっている。

2013-12-25 15:22:06 | Weblog
 先日、あるファッションレポートで、以下のような行があった。

 「現在のファッション専門学校は、家庭洋裁を基本にしている。それを産業レベルに置き換えなければならない。 生地は生地屋で買うものではなく、開発するものだ。購入するにしても、オリジナルの色を指示する。あるいは、コーディネートを考えた色を選ばなければならない。また、生地の選択はシルエットを決めるだけではなく、小売価格を決定する要素でもある。こうしたことは学校では教えてくれない」

 これは旧態依然としたファッション教育に対する問題指摘でもあると言える。裏を返せば、売価を優先するあまりにコストを圧縮している最近のファッションビジネスにも当たると思う。

 SPAの台頭で大きく変わったのは、生地から開発生産している企業が増えたことだ。ビジネスシステムとして、ブランド、売上げ規模、店舗数、商品企画、コスト、生産規模を条件にしてはじき出せば、自ずと生地のグレードは決まってくる。

 言い換えれば、ロットさえ揃えば、生地の開発生産は可能と言うことにもなる。ただ、最低でも1反を織らなければならないから、そう簡単ではない。 色柄は1種類しかないわけで、それで1着しか作らないのなら、後は残反になってしまう。

 それでも、作りたい服を決める第一の条件が生地であると考えれば、開発も厭わない気持ちがあってもいいはず。それが一学生では無理なら、学校単位で共同開発する。さらに行政がテキスタイルコンテストなどの仕掛けで、人材育成の一環として生地を開発してもいいはずだ。

 DCブランド全盛期は生地からの開発が希少性を謳うことになり、残反分が原価に乗せられるために商品価格の上げ止まりにつながった。でも、価格を上げられないブランドでは、そうしたコストを吸収する売上げがないと、生地は期末に資産となって課税の対象になり、倒産の憂き目にあう元凶でもあった。

 こうした古典的な状況から脱却しようと、アパレルはSPA化を進めた。情報整備と並行して、商品価格が先に決まり、利益、企画生産、原価を逆プロセスで商品づくりが行われていった。利益を出すためには原価は圧縮され、そのしわ寄せはコストである生地に向かった。
 
 SPAブランドは大量生産される生地で成り立つ。そのためブランド名をこそ違うだけで、デザイン、テイストはどこも似たり寄ったりだ。一度、駅ビルやファッションビル、郊外のショッピングセンターに出店するブランドに使われている生地を調査してみてはどうだろうか。

 大学の理化学系学部で、生地の組織や素材、混紡率、染め加工などを分析してみるのだ。どこまで同じ生地が使われているかが実証されることになると思う。もし、かなりの確率で同じ種類、グレードの生地が使われているのなら、この際、「生地とは何か」を見直す契機になるのかもしれない。

 とは言っても、業界は背に腹は代えられない。生地の質を上げたり、ユニークなテキスタイルを使用するには、商品価格次第ということになる。そこまでの競争力を持つブランドでない限り、そう簡単にはいかないところにも一理ある。

 ならば、行政がもっと学生やフリーのデザイナーを対象に、テキスタイルプロジェクト&コンテストを手がけてもいいのではないかと思う。題して「プルミエール◯◯○○」である。これにはグラフィックデザインや染色などに関わる人々まで関わってもらってもいいだろう。

 作品は30cm~50cm四方の規格で、経糸、緯糸を織るように生地を表現する。もちろん実際に織ってもいいし、カラーのロットリングを利用して手書きしてもいい。とても緻密な作業になるが、コンテストなのだからそのくらいの姿勢は不可欠だ。

 今ならMacを使用してイラストレーターでラインを描き、組織や色合いを表現するデジタルデザインの方が楽かもしれない。それを画像化してPhotoshopで加工すれば、さらにクリエイティビティなテキスタイルデザインとなるだろう。

 そして、優秀なテキスタイルデザインは実際に生地にする。さらに受賞した学生やデザイナーは服に仕上げて自分のクリエーションを創り上げる。作品づくりのために街の生地屋に行くしか手段のない学生にとっては、必ず光明となるはずだ。

 また、デザイナーにとっては、生地問屋のスワッチで妥協して着分を取り寄せるしかなかったものが、クリエイティビティが刺激され、惜しみなく生地が使え、いろんなデザインが考えられる。

 グラフィック関係者はペーパー上の印刷物だけだったデザインが、素材が醸す色合いや手触りとなって表現されることに新たな発見が生まれるだろう。こうした取り組みが「人材育成」につながるのである。

 その費用は、行政が手がけるファッション事業の一環として予算に組み込めばいいだけだ。人材育成のもとに公共事業を行うと言いながら、その狙いは事業予算を獲得する口実になってしまっている。その結果、大半の予算が三文タレントによるファッションイベントに消えている。

 地方で服づくりのコンテストがチンケでやりづらいのは、秀逸な作品を生み出すために欠かせない生地調達が不可能だからだ。ならば生地から作ればいいだけの話である。
 
 事業関係者の低レベルの発想や薄っぺらい企画ノウハウでは、そこまでに行きつかないし、また行きつけない。人材育成なんてほど遠いし、やる気もないようだ。事業資金を拠出する行政担当者は、いい加減に気づくべきだと思う。
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流通経験がない人間の錯覚。

2013-12-20 16:24:53 | Weblog
 昨日、某大学大学院の教授と話す機会があった。流通経済が専門で、マーケティングや消費者行動、地域商業論などを研究し、全国各地の商工会から講演依頼も多いという。

 シャッター通りと化す商店街では、自ら研究室で学ぶ学生を連れて、いろんな「活性化イベントも仕込んでいる」と仰るから、さすが大学の先生だと思った。

 商店街=活性化=イベント。すっかり見慣れた構図である。そこで大学院がもつ頭脳と研究ノウハウをどう生かすのか。試しに「どんなイベントをやっているのですか」と聞いてみた。

 すると、空き店舗を「孤立する高齢者向けに健康や介護のステーションにする」、あるいは「買い物難民に向けた産直の生鮮品を販売する青空市」などを、商店街の有志と一緒に手がけているという。
 
 もちろん、大学院では「店舗づくり」や「商品仕入れ」はできないから、それらは専門家やコーディネーターに任せているという。また、参加する学生はイベントスタッフとして裏方に回ったり、専門家やコーディネーターとのリレーションを担うのだそうだ。

 学生にとっては、研究室の机上とは違う勉強ができる意義は大きい。客層や客数、客単価、売れ筋の商品、仕入れ先、卸価格、荒利益etc. 教科書の中だけでない、リアルな商業&流通の現場を体験できるからだ。

 しかし、 大学教授が企画立案から実施まですべてに関わっているわけではない。この程度のイベントで、大学院の頭脳とノウハウが生かせているとは思えないのだ。確かに空き店舗を高齢者向けのステーションにするアイデアはすばらしいが、ここにもカラクリが浮かび上がる。

 空き店舗と言っても大家がいるわけだから、そこを借りるとなると家賃や敷金を支払わなければならない。当然、それは行政や商工会議所が補助することになる。

 また、青空市も商品仕入の原資は商工会が負担している。裏を返せば、こうした「公金」で潤う人がいる反面、資金が止まるとその時点で事業は終了せざるをえないのだ。そこで大学教授に以下を質問してみた。

 筆者:「家賃補助がある時は成り立つでしょうが、それが止まっても続けられるのですか」
 教授:「 … 」

 筆者:「青空市を商売として成り立たせるビジネスモデルづくりは、研究室なり学生なりが行っているのですか」
 教授:「そんなことはしていない」

 学会で認められた優秀な教授陣と高度な学問を追求したい学生が集まる大学院。そこの優れた学術研究を否定するつもりはない。でも、あまりに商店街=活性化=イベントの構図が大学院の参加まで求めても、実りある形に昇華していかないところに、疑問を呈さざるをえない。

 筆者は博多商人に囲まれて育ち、大学時代にはマンションアパレルという零細の卸業者を知った。社会人になってから中小アパレルに加え、大手の流通やアパレル、商社やインポーター、一次二次卸などと小売りとの関係も学んだ。

 またデパートとアウトレットの関係など海外のバーチカルなシステムを取材し、現在はグローバルな視点でSPAやOEM、ODM、さらにネット販売に触れている。複雑化した日本の流通システム、それらの衰退や新興勢力の台頭を現場で直に見てきたのだ。

 当然、大学院にもこうした情報は届いているはずだし、研究の対象になっていると思われる。でも、商店街という商業、流通の現場に出るとそれらが生かされない点で、学術研究とビジネスとの乖離、大学と商店街との温度差を感じてしまう。

 大学をはじめ、いろんな学校は学生に対し、それぞれの目的に応じた教育を行う。学生もそこで知識を付け、考える力を養っているはずである。むしろ、せっかく大学まで行ったのなら、その能力を生かし、「自ら考える」ことが大事になる。

 ところが、今の学校は入ってくる学生の質が低下しているから、わかりやすいとか、そのレベルに合わせることにおもねりがちだ。特にファッション教育を見ると、「作る」という技術面に関心を示す若者が少なくなっている。そのため、それに変わるものとして「イベント」がもてはやされている。ショーイベントや模擬店がそうだ。

 しかし、 模擬店をやって、商品はどうするのかと言えば、自分たちで手作りしたものを売るだけ。そこにコストや利益という視点はほとんどない。 内容や目的が明確でないため、それが教育効果につながっているとは言い難いのだ。

 また最近は商品を「作れない」「作らない」学生が多いから、どこからから商品を借りてきている。「委託販売が学べる」と言われれば、確かにそうだ。でも、メーカーや問屋は卸してくれるのか? 商品仕入れの原資はどうする? 買い取れば売りきれるのか? 荒利はいくらか? 在庫はどう処分するのか?etc.

 模擬店をやっても、商売の基本や流通の仕組みを学ばないと、何の意味もない。「所詮、学生のレベルだ」と、業界から評価を下されてしまうのがオチだ。

 学校を卒業し、その延長線上で、コツコツもの作りをやっている人間は少なくない。一時はうちの事務所の周りにもかなりの若者がアトリエ兼店舗を構えていたし、定期的にバイヤーを呼んでの合同展を催したりしていた。

 でも、ビジネスとして成立しているのはごく一部だ。商品としての完成度がよほど高いか、バイヤーのニーズに合致したものを提供できるか。ビジネスである以上、クリエーション一辺倒ではなく、数量や卸価格、納期などの条件が付けられるのは当然である。

 かつての原宿には、夢を追ったデザイナーや野望をもつ卸業者が数多く集まった。そこでの成功と失敗の分かれ目は、マーチャンダイジングなり、卸先ルートの確保なり、バイヤーニーズなりと、流通システムの中でポイントを押さえられるか否かだった。

 


来年の3月15日には、ファッションウィーク福岡のメーンイベントとして、「ファッションマーケット」が福岡市役所前の広場で開催される。目下、この出店者募集がなされているが、対象は「個店、学校、クリエーター、スタイリスト等」となっている。

 しかし、個店なら店を持っているわけである。わざわざ出店するのだから、既存店が立地にハンディがあるのか、ネームバリュがなく集客が厳しいからか。でも、そんな店が1日くらい出店しても、大してビジネスには影響ないだろう。

 学校は学生が手作りした商品を一般消費者に販売させるつもりか。それとも借りてきたものを委託販売するのか。それらは親や教師に温情で買ってもらうのか。でも、学校側が8,000円の出店費用を肩代わりしては、小売りの勉強になるはずもない。

 クリエーターは自分で作った商品を自ら売るのか。それとも、サンプル商品のアウトレット販売か。仮に量産化された商品を直販するのであれば、取引先を裏切ることになるのではないか。マーケティング機会にしてもらおうと言われても、1日ではどうにもならない。

 スタイリストはいったい何を売るのだろうか。CM撮影用に買い取った商品を処分するのか。しかし、要項には「バザーではありません」とある。

 一般向けのイベントだから、小売りが主体になる。しかし、単に小売りと言っても、参加する側でそれぞれの目的は違う。しかもクリエーターまで対象にするのなら、卸やバッティングの問題も生じてしまう。イベントで一律に効果が発揮されることなど、まず考えられないのだ。

 もし、こうした卸や小売りを全く無視した企画に福岡市の商工部が賛同し、補助金を拠出するなら、その見識を疑わざるを得ない。先の大学教授が参画するイベント同様に、目的も実効性も見えづらいからだ。現に「大学が商店街に入ってズタズタにしている」と語る別の教授もいるくらいだ。

 流通の現場を大して経験していない学校関係者が企画するイベントが本当に「公共事業」として意味をもつのか。母校の卒業生に恩を売りたいだけ。クリエーターに向けていい格好をしたい。関係者ともどもの単なるマスターベーションetc.。いろんな思惑が透けて見えてくる。

 「福岡にお客さんを呼んで商品を買ってもらう」という偉そうな大義は掲げているが、商業都市としての性格、流通の仕組みなど全く頭にない、目的も実効性も欠くお粗末なものというのがよくわかるのである。
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生地屋に未来はあるのだろうか。

2013-12-15 16:17:03 | Weblog
 子供頃から「生地」に触れる機会が多かった。洋裁師の息子という家庭環境、同級生が服飾材料店やオーダーサロンの小倅、生地屋が軒を並べる商店街etc.。大学生になると、今度は日暮里のファブリックストリートにも出かけたものだ。

 そこで気に入ったのが、キャンバスやネル、別珍やフェルトなど。組織が厚めで、こしのある生地だ。暇を見てはそれらで使って、信玄袋やショルダーバッグ、ブックカバー、シャツなんかを作ったものである。

 アパレルで仕事をしてからは、生地環境はゴロっと変わった。既成服の資材となる「表地」は、街の生地屋で売っているようなものとは一線を画した。特に当方が勤務したマンションメーカーでは、国内外の産地メーカー、商社や生地問屋、テキスタイルコンバーターの展示会や見本市で、個性的で上質なものを調達していた。

 特に力を入れる企画ものや別注商品では、イタリア製の薄手だがこしがある生地を使っていた。一方、他のメーカーでは、日本独自の染めや織にこだわったファブリックもあった。新潟なんかの地方にある機屋では、旧式の機械で少しずつ織り上げるテキスタイルが主流だった。一例をあげると、「ヨーガンレール」のような生地だ。

 あれから20数年、日本のファッションビジネスでは、生地は完全に「コスト」という意識になり、ブランドやデザインを決める重要な条件ではなくなったように感じる。もう見た目で、また触って、「良い生地だ」と感じる服は少なくなった。あっても、欧米のラグジュアリーブランドや国内の専門店系アパレルくらいだ。

 また、独特の風合いや微妙な色使いなど、特徴的な素材もあまり好まれなくなった。組織的にフラットなものばかりで、全然面白くない。SPAの中でユニクロは典型的だ。布帛ではカットソー、デニム、フリース、チノクロス、ニットではメリノやカシミア。すべてが平板で、メリハリは色でつけるだけ。それも秀逸な色出しとは言い難い。

 これがファストファッションになるとどうか。H&Mはデザインではトレンドを打ち出すが、素材ではユニクロよりはるかに下。Forever21は色出しは優れているものの、素材はやはり価格に見合うレベルでしかない。

 GAPは価格が上がる分、素材もやや上になる。でも、カラーはベビー、キッズが除いてレディスもメンズもベーシックトーンが主体。ZARAはモード感を追求するため、組織に特徴はあるが、決して上質ではない。GAPと同様に生地から発注できるため、コストパフォーマンスが条件で、質が追われることはないようだ。

 日本のデザイナーブランド系も、一部を除き海外生産にシフトしているところは、生地のグレードは確実に下がっている。というか、ブランド名が違っても、生地の色柄、組織はほとんど同じように見える。つまり、商社や企画会社のOEMを使えば、そうした企業が調達しやすい生地になるわけだから、同じになるのはわかりきっている。




 先日、書いたセレクト系商品に使われる「合繊」の混紡がが何よりそうだ。では、日本のテキスタイル産地や生地メーカーのスタンスや考え方はどうなのか。これは筆者よりファッションライターの南充浩さんの方が詳しいので、最近のブログから引用させていただく。

「製品を作ったからにはどこかで売らねばならない。
小売流通業への卸売りを模索するとともに、自社直販の手段も講じねばならない。

『生地販売を強化して売上高を回復』という取り組みの方が近道だと考える国内産地製造業者も多いだろうが、中高級価格帯を扱う国内アパレルの生産ロット数は知れている。
1社や2社取り引き先を増やしたところで、生産する生地のメートル数は何百メートル単位が増えるだけだろう。
それこそ、カイハラよろしくユニクロのような大ロット生産が可能なブランドと組むほかはないが、大ロットブランドは低価格帯であるから、国内産地製造業者のコストと合わない場合が多い。
カイハラのような例は稀なケースだと考えた方が良い」

(中略)
 
 「こう考えてみると、現在の小規模生産背景を活かすには製品化しかない。

製品化したからには、自社での直販も考慮にいれないといけない。

そういう風潮を察してか、最近、製造業者や産地組合が外部から講師を招いて製品化への取り組みのセミナーや講演会を開催することが増えた。

これは喜ばしいことではあるが、閉会後の反応はだいたい2つに別れる。
「我々もがんばりましょう」という場合と
「製品化とか直販なんて言われても・・・・」という場合だ」

「後者の場合は重症だ」

「ただ、今後いくら待っていても国内産地がガチャマン時代のような活況を呈することは絶対にない。
現在、中国の経済失速、政治的軍事的対立、人件費高騰によって、国内製造業へ受注が戻りつつある。けれどもこれは今後永遠に続くものではなく一時的なものにすぎず、いずれ東南アジア諸国やインドあたりへシフトしてしまうことは目に見えている。

国内製造業へのわずかな揺り戻しがある現在をボーナスステージと捉えて次への準備を進めるべきである。
もしくは円満廃業への準備を進めるか、である」と。

 かつてのデザイナーブランド全盛期のように、国内テキスタイルが服のデザインを決めていた時代は、もう戻ってこないかもしれない。また、テキスタイル業界自体が何らかの対策をとろうとしない点がいちばんの問題と、南さんは指摘されている。

 街の生地屋も、洋裁をする人間が少なくなった環境から、ビジネスとして成り立たなくなった面はあるだろう。しかし、子供の頃、お使いに行っていた時の記憶を辿ると、生地に関してかなりのプロがいたように感じる。ところが、今は向こうからアドバイスしたり、組織や素材について講釈することは少なくなった。

 まして、既成服向けの生地について、「こんなイメージの生地ないですか」と訊ねても、「ありませんね」とあっさりした答えしか帰ってこない。これには非常にショックを受ける。




 生地は何も服を作る時だけ買っていたわけではない。プレス事務所時代にはアクセサリーや小物を撮影する時の「バック布」にも使っていた。質感や光沢があるものは、商品を際立たせてくれる絶好の演出道具だからだ。

 生地は狭いとヤール幅、その上が90cmか1m幅、テーブルクロス用で120cmくらいが限界だ。だから、ジュエリー程度の撮影ならいいのだが、バッグのように大きくなると、幅が1m程度では余白が足りなくなる。

 撮影専用に織られた広めの素材もあるが、質感のバリエーションはないし、価格も1枚数万円とカメラマンの負担は少なくない。東京で筆者がよく行っていた生地屋は、「撮影用のバックに使う」といつも言ってたせいか、むこうからいつの間にかいろんな生地を提案してくれるようになった。決して購入する用尺は多くはないが、それでも一度に4mほどを何種類か買っていたので、結構なお得意さんだったはずだ。

 カメラマンのアシスタントやスタイリストにも紹介し、いろんな生地を使うことを覚えさせた。生地屋もそうしたやり取りで少しは、服飾材料とは別の用途もあることを学んだようである。

 でも、これが地方になると、からっきしダメだ。先月もクリスマスプロモの撮影用で、ある生地屋に行った。そこでこちらから「撮影用に使いたい。クリスマス用のため、発色がいい物を」という注文をつけた。すると、予想通り「裏地」に使うキュプラ系に案内された。

 ただ、色のバリエーションがあるだけで、あとは厚みの違いで700円~900の価格帯のみ。撮影のカンプを見せて「こんなイメージ」と言っても、「裏地」以外の生地がアドバイスされることも、探して提案してくれることもない。ただ、淡々と、こちらの話を聞くだけ。

 「何と商売っ気がないのか」と思ってしまった。あくまで服用の素資材を販売するのが目的だし、撮影のプロではないのだから、理解できない部分はあるだろう。しかし、生地屋なのだから手持ちのバリエーションや質感、発色の違いくらいはアドバイスしても良さそうなものだ。それが商売の基本だと思うし、顧客を惹き付けるカギではないだろうか。

 誰がどんな目的で生地を求めているのか。多くの人にうちの生地の良さを少しでも訴えることが必要ではないか。南さんがいつも指摘されている「生地メーカーにはビジネスを広げる視点に欠ける」というのは、街の生地屋にも共通する。これでは格安既成服全盛の時代に、街の生地屋が残る可能性は、ますます少なくなってくると思う。
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開催根拠に乏しいFイベント。

2013-12-11 17:53:26 | Weblog
 先日、福岡アジアファッション拠点推進会議から来年3月に開催される「ファッションウィーク福岡」の参加店募集と「ファッションマーケット」出店の案内概要が発表された。
 
 これまでWebサイトにもほぼ同じ内容が掲載されていたが、PDF化された「企画概要書」は一般の小売店や個人店、フリーのクリエーター向けだと思われる。でも、これがファッションイベントに携わる人間のセンスかと疑うようなロゴブロック。もし正式なデザインなら、一気に参加意欲が失われるようなしろものだ。

 おそらく商工会議所の推進会議スタッフが言われるままに、Webサイトの原稿をコピペして、ワードで適当に制作したのだろう。それにしても、タイトル付け方、書体や行間を工夫しないと、100歩譲ってもビジネス文書としても体を成していない。

 書式評論はそのくらいにして、本題に入ろう。結局、概要を見ると、来年も今年と大差ないようだ。7月に代理店を集めて行われた企画コンペのオリエンでは、「昨年のF.W.Fのロゴマークは継続して使用するか、それとも…」「ガイドブックは評判が悪かった。コンパクトなものがいい」「参加商業施設およびショップでスタンプラリーを実施は、あまり効果がなかった」といった数々の失敗点、反省材料が提供された。

 オリエンにはデベロッパーも参加させる念の入れようで、それらをもとに「企画を考えろ」というのが推進会議側の思惑だったようだ。しかし、拠出される予算は、総額700万円。これを原資に前回とほぼ同じで宣伝・広報媒体として「ガイドブック」「サイトやSNS」「ポスター等広報ツール」「集客促進のための方策」まで作れというのだから、代理店にはかなり堪えたと思う。

 前回のガイドブックは「10万部印刷した」というから、ザっと見積もっても印刷代だけで700万円~900万円はいくだろう。それにポスター、チラシ、Webデザインまで制作し、イベントまで行えば、制作費と印刷費、イベント経費を合わせると、軽く2000万円近くにはなる。

 前回はガイドブックのページを割いて広告枠とし、協賛社を集めて何とか経費を工面している。今回の企画コンペでも、推進会議側は「コンペに勝たせる代理店=協賛社も集められる営業力」を条件としたと考えられなくもない。

 ただ、代理店の側に立ってみると、旨味のある仕事ではない。何せガイドブックは印刷、デザイン、撮影はすべて外注。前回、岩田屋やパルコ、キャナルシティ博多などが購入した1ページの広告枠には一応地場のモデルを起用し、ヘアメイク、スタイリストなども噛ませている。それらのギャラもすべて外注費だ。





 おまけにポスターやWebデザインも外注すると、制作費はべらぼうな額になる。つまり、営業をやって協賛社を相当数集めたところで、ほとんど経費で飛んでいき、代理店の利益にはならないのである。おそらくオリエンに参加したAEのほとんどが予算700万円と聞いて、それらの懸念が頭をよぎったはずである。

 まあ、ノー天気なところは、制作費はデザイン会社やカメラマン、印刷費は印刷会社を叩けば少しは安くなると考えたかもしれない。マジでイベント会社にステージの見積もりを取ったところもあるくらいだから。でも、コンペに勝てば何とかなると考えたとすえば、それは大きな勘違いだ。

 代理店にとっては、新聞の15段広告やテレビスポット、あるいは駅貼り、中吊りなどのマス媒体が使えるのなら、モチベーションも上がっただろう。しかし、そうはうまく行かないところに、このイベントを含め一連の事業の「裏事情」があるということである。

 オリエンでは、企画運営委員長の御仁が代理店とデベロッパーを前にして、「企画を考える方々」とおっしゃった。でも、制作媒体も予算も決まって、どう企画を立てろというのであろうか。実際にできるのは広告枠の営業をし、デザインを制作会社に外注し、上がってきたデータを印刷を印刷会社に渡し、あとは経費とスケジュールの管理をするに過ぎない。前回の反省からガイドブックをコンパクト企画にしても、下がるのは印刷代くらいだ。

 春のイベントとして、福岡にお客を集客し、本当に販売促進につなげたいのなら、下らないファッションイベントやトークショーなんてやらずに、物販サイドにインセンティブをつければいいだけの話である。デベロッパー各社が行うカード客向けの「10%ポイント還元」が何より証明している。

 代理店に企画を丸投げすること自体、企画運営委員長と名乗る資格はないだろう。自ら制作媒体を指定し、ファッションマーケットなんて期待薄のイベントを仕掛けるところに、責任者としての能力の限界が透けて見える。それが地元ファッション業界に向かっていないところも、関係者の多くが認識しているところだ。

 商工会議所はすでに大手百貨店やデベロッパーには声かけをしているようだし、地場でネームバリュのある専門店やセレクトショップにも勧誘の電話をかけまくっている。12月10日に発表されたイベント参加店募集とマーケット出店の案内概要は、それから漏れた個店向けになるが、エリアが天神とその周辺では参加店は限られる。

 今年の失敗要因とこれら諸々を含めて考えると、協賛する企業や店舗は減ると見て間違いない。ましてガイドブックがコンパクトになれば、スペースが小さくなるのだから個店にとっては視認性は落ちてしまう。他のフリーペーパーと一緒に置かれると手にも取ってもらえず、パラパラと立ち読みされてゴミ箱行きが正直なところだ。

 地元ファッション業界の多くが期待もしないのなら、それは愚策以外の何ものでもない。経費としての700万円は大した額ではないが、公金としての700万円が軽んじていいはずがない。先日、「福岡市長リコール市民の会│高島宗一郎市長」が結成された。でも、その前にノー無しな企画運営委員長を福岡のファッション業界がリコールすべきかもしれない。
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素材という価値が薄れたセレクト。

2013-12-04 16:42:17 | Weblog
 ファッションは素材が左右すると言われる。欧米のメゾンブランドやクリエーターがコレクションを年2回しか行わないのは、テキスタイルデザインがシーズンの1年前の見本市でお披露目されるからだ。もし、そこでインスパイアされる生地に出会えなければ、織りから取りかかるリードタイムが必要になってくるのである。

 それゆえ、産地の糸や織り機、生地の打ち込み、職人技の加工という条件を加えて生み出された素材は、でき上がる服の完成度を決めると言っても過言ではない。われわれアパレルで仕事をしてきた業界人の中に「素材が商品を決め、テキスタイルがデザインのカギを握る」という一家言をもつ人間が少なくない所以はそこにある。

 一般にアパレルが扱う素材は、まず原材料では天然ものが超長繊維綿、オーガニックコットン、麻(リネン=亜麻、ラミー=苧麻)、羊毛(ウール)、獣毛(ヘアー)、絹、そして合成繊維がポリエステルやナイロン、ポリウレタンやエスラタン(スパンデックス)、レーヨン、キュプラ、テンセルなどだ。

 それを撚って糸にすると、スパン、フィラメント、梳毛や紡毛、スラブヤーン、ネップヤーン、パイルになる。そして、それを織ると、サテンやモスリン、シフォン、レース、ベロアなどになり、編み立てると天竺(平編み)、ゴム(リブ、フライス、テレコ)、スムース(両面編み)、ガーター(パール編み)のニット素材になる。

 そして、オートクチュールなどに使われるのがオパール、フロッキー、エンボス、ラミネート、シルケットなどの加工で、素材はいろいろの表情を醸し出す。それがアパレルやデザイナーの目によって吟味されて採用され、一着の服へと仕上げられていくのである。

 元来、紡績業は原材料の調達に始まり、生地メーカーは糸を吟味して素材の番手や格を決め、アパレルやデザイナーはそれを用いてサンプルデザインを上げ、MDは原価や下代を考えながら、商品化していくというのが、長らく業界のクリエイティブ&ビジネスセオリーであった。

 ところが、繊維不況とアパレル斜陽が顕著になり、SPAがマーケットをリードし、さらにファストファッションが台頭し始めた頃から、流れは完全に逆転してしまった。つまり、最初に価格と利益ありきで、それに合わせて繊維、つまり糸や生地を調達していくのが主流になったのである。

 もはや消費者も最初にブランドを見て、次に正札を見るのがほとんどで、先に素材を確かめることなどしなくなったようである。店売りの最大の特徴はお客が素材に直に触れ、肌触りや着心地を確かめられることだ。しかし、ネット通販の浸透とともにこのスタイルは、完全に蚊帳の外に追いやられてしまっている。

 それどころか、ここ1年の素資材の環境を変えているのが、「混紡」の変化である。これについて筆者は「最初に価格と利益ありき」の影響がかなりあるのではないかと見ている。例えば、1980円でニットを販売するとなると、素材原価はその15%以下、つまり300円より安いものを調達しなければならない。必然的にウール100%とはいかないのである。

 まあ、素材のトレンドがフィット感やストレッチ性に傾いていることもあり、どうしても綿100%では限界がある。しかし、原価率を下げるために、合繊を混紡しているものは少なくないように感じる。また、明らかに「合繊の掛け合わせ」で見た目ウールや新たなの質感を表現しているものもある。

 まあ、SPAやファストファッションなら生地から大量生産するし、原価率と利益を明確に計算しているのだから、最初から認識してのことだ。でも、ここ1年、一般に「有名セレクトショップ」と呼ばれているところでも、 合繊の掛け合わせが顕著になってきている。

 それはトレンド提案と見られなくはないが、やはり原価率の問題もあるだろう。実店舗は30店以下でも、ネット通販ももつようなセレクトショップは、在庫を抱えなければならない。それゆえ、メーカー仕入れでは対応できず、商社OEMや企画会社型のODMを利用する。当然、受ける側は最初に原価ありきなら、生地提案からせざるをえないのだ。

 だいたい、日本でセレクトショップと言われるところは、トラッドショップやアメカジ系の系譜で発展しているから、素材はアメリカンコットンや英国ウールを用いた上質なものを扱ってきたイメージが強い。ところが、ネームバリュやブランド力がつき、数の論理で収益を上げようというところは、完全に方向性を変えてしまったようだ。

 例えば、とあるセレクトショップのサイトを見てみると、「テーラージャケット&パンツ」という名称をつけた商品があった。表地はポリエステル、レーヨン、ポリウレタンの混なのである。スーチングできるわけだから、なんかピンと来ない。また、別のショップでは「スラックス」でも綿、ポリエステル、ポリウレタンの混紡。ストレッチを入れるためにポリエステルやポリウレタンを混紡したのはわかるが、ご丁寧にアイテム名に「スーパーストレッチ」とか「リラックス」とかの冠までつけている。

 驚いたのはあるショップの「ジョッパーパンツ」である。これは腿の部分が外側に大きく膨らんでブーツを履いたシルエットをカッコ良く見せるのが特徴だ。であるからコシのある素材を使うのが定番なのだが、現物はポリエステル、レーヨン、ポリウレタン混で、まさにジャージだ。

 だいぶ前から、ヨーロッパのビジネススーツにもすべて合繊の掛け合わせが登場している。皺になりにくく、ケアが楽という目的や機能性が重視され始めたのだろうが、それでは素材感というファッション性は完全に崩れてしまう。

 若者の多くがネットで商品を買う傾向の中、生地に対する造詣やこだわりが無くなくなってきている。でも、それでは着心地や感触を判断する感性さえ錆び付かせてしまうのではないか。それはファッション文化の崩壊につながる危惧を覚える。はたして、Woolistさんはどう思っていらっしゃるだろうか。
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手詰まりの企画に地元もあきれ顔。

2013-12-01 20:12:06 | Weblog
 仕事が立て込んで2週間ぶりのコラムとなった。その間、地元業界ではだいぶ動きがあったようだ。3週間ほど前、福岡アジアファッション拠点推進会議から、来年3月に開催される福岡アジアコレクション(FACo)の出展ブランド発表されたとのリリースが届いた。

 例年通り、福岡ブランド部門とデザイナー部門に分けてあるが、新顔を見るとブランドにカミーシャ、フラックス、デザイナーにアルベブ、アンビバレントくらい。それも1メーカー、1デザイナーは共通するので、実質はたいして変わり映えしない顔ぶれだ。

 というか、推進会議発足当初の企画書に書かれていた「デザイナー育成」なんてもんは所詮、お題目に過ぎず、イベント主催者もそれを承知の上で、5時間以上に及ぶ「ショーの尺」を埋めるために、リリースには記載されていないNB(ナショナルブランド)を堂々と噛ませている。

 今年で言うと、ゴア、ヴィッキー、ディディカ、ディアプリンセス、サミールナスリ、レイミーなど、NBのてんこ盛りである。ことさらにプロデュースのRKB毎日放送は、自社の報道やパブ枠で「福岡発」「地元活躍のデザイナー」を強調しているが、それは行政からイベント資金を拠出させるリップサービスに過ぎない。

 現に今年のイベント翌日の早朝ニュースでも、福岡アジアコレクションの冠には「福岡発」「地元活躍のデザイナー」をつけて強調し、高島宗一郎市長も泊まりがけで見物して公務をサボタージュした「福岡アジアコレクションIN釜山」も、派遣の安部敏恵アナには同じようなニュース原稿を読ませていた。

 お笑いなのは、釜山での福岡アジアコレクションでは「福岡発、地元活躍のデザイナーの商品を」と強調しときながら、「押切もえさん、蛯原友里さんが…」と、東京から連れて行った三文タレントがショーに出演するという、何とも自己矛盾な内容。ここにもRKB毎日放送の偏向報道が見え隠れする。

 来年の3月には第2回目の「ファッションウィーク福岡」が開催される。7月はじめに代理店を集めてオリエンし、コンペで企画を集めたまではよかったが、総経費700万円で、10万部のパンフレットとWebサイト、ポスターやチラシを制作し、イベントまで仕込まなければならないというもの。オリエンの後、代理店からはラテや新雑など全くマス媒体を使えない「旨味のない仕事」との声が聞こえて来た。

 パンフレットの広告枠を百貨店やデベロッパー、一般の小売業者に販売して、制作費を捻出しなければならないリスクの高い仕事に、多くの代理店が音を上げたようである。それゆえ、ついに拠点推進会議の母体である福岡商工会議所自ら協賛社集めに奔走しているようだ。

 ただ、地元ファッション業界では、今年の状況を見ると大した集客も販促効果も期待できないのではとの声が多数を占める。手に取って見もしないゴミ屑同然のパンフレットとちんけなWebサイト、そしてインパクトのないポスター。おまけに来年は専門学校生レベルの青空マーケットがメーンイベントで、所場代まで要求されるのだ。

 先日、こうした愚策について某専門店の取締役と話す機会があったが、地元小売業としては全く評価していない様子だった。さらにもっと「福岡のファッション文化を醸成するような企画でないと参加できない」と付け加えていただいた。全く持ってそうである。

 地元ファッション業界を全くしらない三文ローカルメディアや代理店に参画を丸投げして、いい企画ができるはずがないのである。もっとも、その前に企画運営委員長が全くもってノー無しのセンスレスなのだが。地元は公金無駄遣いの批判を通り越して、もはやあきれ顔になっている。
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