HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

記号好きなら攻略できる。

2010-05-31 08:17:09 | Weblog
 「レナウン、中国企業が買収」。さる5月24日、レナウンが中国企業への傘下入りを発表したニュースは一般メディアも大きく報道したが、ファッション業界ではそれほど深刻には受け止められていない。むしろ、日本の大手アパレルが中国企業に買収されるのは、今後も続くと思われるとの見方が支配的だ。
 レナウン株の4割を保有して資本提携し傘下に収めたのは、中国繊維大手、山東省に本社をおく「如意科技集団」。同社はその理由を高級衣料品の戦略などで両社が一致する点や補い合う点が多い。我々は生地の技術でリードしており、レナウンは強力なデザイン力と流行をとらえる力を持っていると説明。さらに繊維メーカーから総合衣料品グループへの飛躍を目指す上で、レナウンの商品企画力が欠かせないとの見方を示した。
 まあ、ファッション業界で中国は生産基地として当たり前になっており、また市場としても少子高齢化で縮小する日本より有望なのも当たり前。それゆえ、別に驚くことではない。むしろ、企業の再建もできず、株式をつき次と売買していくファンドより、世界最大のビッグマーケットに照準を当て、じっくりビジネス戦略を進めるには中国企業と組んだ方がよっぽどいい。
 それに如意は単なる繊維大手で商品開発力をもたない企業だけに、レナウンおよび傘下のブランドはのどから手が出るほど欲しかったはずだ。中国のファッション市場はまだまだ発展途上だし、富裕層も中間層も低所得者層もファッション=ブランド=記号という意識が強い。記号を付けたブランド品の違法コピーが一向に収まらないのがいい例だ。
 中間層を中心にユニクロやハニーズのようなカジュアルも浸透しつつあると言われるが、デザイナーブランドのようなクリエーションはまだまだなじまない市場と言える。それゆえ、アーノルド・パーマーを筆頭にワンポイントマークを日本でヒットさせたレナウンのDNAは、むしろ中国攻略に適するかもしれない。如意の邱亜夫会長も、レナウンブランドの中国展開に関してはすでに全国規模の企業集団と接触しており、一度に100店規模で出店することも可能だと語っている。それらの多くがレナウンブランドによるセレクトショップもしくは、シンプルライフなどのオンリーショップになる可能性は高い。
 中国人が日本人のように志向が多様化するか、それとも記号ファッションをずっと好み続けるか。現時点では判断できない。ただ、日本がそうであったように市場が成熟するには10年、20年のスパンと経済発展とのリンクが必要だ。また、多様化すると言ってもひとつの市場規模は数千万人と、日本の比じゃない。単独でもビジネスとしては十分ペイする。
 当然、レナウンのブランドが浸透すれば、並行してコピーされて行くのは間違いない。アーノルド・パーマーが「アーノルド・プーマー」に、シンプルライフが「シンプルライク」になったタグが溢れるのは想像に難くない。それを覚悟してもレナウンが再建するのは、中国市場での成功しかない。時間は十分にある。生き返るか、消滅するか。今後の動静を見て行きたい。

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百貨店市場にあぐらをかく。

2010-05-31 08:13:57 | Weblog
 日本のアパレルメーカーは大きく分けて2種類ある。一つは百貨店系、もう一つが専門店系。百貨店系の代表がレナウンであり、双璧をなすのがオンワード樫山。専門店系はワールドやイトキンである。百貨店系はその名の通り、デパートの平場に単品、コーナーでハコを展開。専門店系は地方の専門店を中心に商品を卸すか、FCや販売代行でブランドショップを運営した。
 ところが、消費者の多様化やトレンド変化の早さにより、ファッション市場はこの両者ではとても攻略できなくなった。市場の変化を見ながら商品を単サイクルで投入するのは、組織が肥大化した大手アパレルではとても無理。小回りの利く中小零細のアパレルや、中小の専門店(セレクトショップ)の方がはるかに変化対応の機動力には優れているからだ。
 それでも、ワールドは地方専門店からの売掛金の回収難を契機にSPA化に乗り出し、単サイクルで商品を市場に投入するビジネスモデルを作り上げた。パリカジをヒントにした「オゾック」である。しかし、レナウンはこうした市場の変化に対応する能力さえ持ち合わせていなかったのである。
 アクアスキュータムの買収以降、レナウンの売上げは下降する一方となった。途中、女優の山口智子を起用した「エンスウィート」のヒット、スポンサードした「チャージ」マツダレーシングチームのルマン24時間レース制覇による投資効果などはあったものの、同社の業績を大きく回復させる原動力にはなり得なかった。
 一方、レナウンルックの後継会社「ルック」がマーク・ジェイコブスやイル・ビゾンテを開拓する功績があったにも関わらず、こちらは逆に本体が巨額の負債を抱えたためにグループから切り離さざるを得なかった。
 つまり、レナウンの市場対応力の無さや先読みのまずさは、そのまま百貨店不振を招いたと言っていいだろう。毎年のように経営トップは変わり、誰一人として業績を回復させることができなかった。ついには銀行も手を焼いて、ファンドによる株式の買収という顛末に至ったのである。
 2005年、エクイティファンド運営のカレイド・ホールディングスが第三者割当増資で全1029万株を引き受けた。08年にはネオラインキャピタル系のファンドが発行済み株式総数の19%を取得し、筆頭株主となった。さらにネオライン系ファンドはカレイドHDが取得した全株式を取得。その後も株の買い増しを実施し、09年9月末時点で25%と近くまで増やしていった。
 一方、レナウン側は09年12月、黒字体質の「レリアン」まで伊藤忠商事に売却した。資産価値が125億円もある優良企業を87億円で売却するという不可解さはあるが、それは連結決算の時価評価と売却価格の差額を特損処理したためだ。
 当のレナウン側はシナジー効果が薄れたことに加え、百貨店市場が厳しい中、百貨店を主要顧客とするレリアンも安泰ではない。この価格で売れたのも今だからこそと説明する。要は売れる時に売っておこうということだ。
 ただ、アナリストは究極の買収防衛策「焦土作戦」の可能性を示唆する。ニッポン放送がライブドアに買収を仕掛けられた時、ポニーキャニオンの売却を考えた例をあげ、レナウンがレリアンの売却によって、会社を空洞化させようと考えたのではないかというのだ。企業としての価値が無ければ、運営する意味もなくなるので、それなら理解できる。
 インベストビジネス的にはこちらの方がつじつまが合うかもしれない。しかし、ここまで来たらもうレナウンはマネーゲームの対象でしかない。短期にリターンを望むファンドや投資家がレナウンの再建など考えているはずがないからである。…続く。

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なるべくして、なった。

2010-05-31 08:10:59 | Weblog
 NB大手レナウンが中国の中国繊維大手、山東如意科技集団と資本提携を結び、事実上中国アパレルの傘下に収まった。マスメディアは「また中国企業により日本企業の買収が行なわれた」とはやし立てているが、ファッション業界としてはある程度予測されたことだ。第二、第三の買収は今後も続くものと見られる。むしろ、買収されざるを得なかった理由は、レナウン側にある。その側面をじっくり見て行くことにする。
 レナウンと言えば、小林亜星氏作曲の「レナウン娘」(唄:弘田三枝子)、「イエイエガール」(Twiggyをイメージするイラストは女子美に通っていた亜星氏の妹の作)で、60年代から70年代前半まで日本をリードしたアパレルメーカーである。
 そして、米国の弁護士、マーク・マコーマックが有名プロスポーツ選手の肖像権に注目し誕生させたブランドビジネスを日本においてリードしてきた。「ワンポイントマーク」を縫い付けた「アーノルド・パーマー」は代表格で、同社が日本のファッション市場に「ブランド=記号」を定着させた先駆者でもある。
 その後もレディスではユーロテイストの「ミックマック」、メンズでは仏人俳優のアラン・ドロンを起用したスーツブランド「ダーバン」、高倉健や渡辺謙をキャラクターにした「シンプルライフ」などを発売。並行して自社の商品で編集したミセス向け専門店「レリアン」を全国の百貨店に展開し、名実共に日本トップのファッション企業に君臨した。
 ところが、70年代後半から日本のファッション市場は次第に変化していく。まず、DCブランドの台頭だ。これにファッションマニアの若者が一気に飛びつき、創刊間もないモード雑誌「アンアン」が特集した。ビギやイッセイミヤケ、コムデギャルソンやワイズといった日本人デザイナーが創るデザイナーブランドは、服として独創的な世界観をもち、定番商品に記号を付けただけのブランドを完全に凌駕した。ファッション=クリエーションが日本のファッションにひとつの市場を生んだのである。
 それでもレナウンは百貨店を中心に中高年の支持を得、売上げ的にもはるかに大きかったため、デザイナーブランドの台頭など全く異に介さなかった。だが、バブル経済の到来でさらに市場は細分化して行く。海外旅行に出かける日本人は、現地で直接外国ブランドを購入。ニューヨークではカルバン・クラインやラルフ・ローレン、ミラノではアルマーニやベルサーチを買いあさり、海外ブランドがより身近になっていった。レナウンはもとより日本の大手アパレルがライセンスで生産する海外ブランドなど、次第に見向きもされなくなっていった。
 一方、デザイナーブランドに翳りが見え始めると、若者はアメカジベースのスタイルを好んで着るようになった。レナウンが販売するユーロ感覚の高いブランドなど、若者に受け入れられるはずもなかったのである。
 そんな1990年、レナウンは英国ブランドの「アクアスキュータム」を巨額の資金を投じて買収した。起死回生の策にでたのである。しかし、これが完全に裏目に出る。バブル崩壊で高級品が売れなくなり、市場ではカジュアルファッション、レイヤードスタイルが浸透。日本の消費者は上から下まで同じブランドで揃えることを嫌うようになったのだ。
 もはや、チープなアイテムが次々と出回り、日本人のファッション投資は急激に縮小。ここから百貨店にしか拠点をもたないレナウンの凋落が始まるのである。…続く。
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