HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

たかだか70億円がどうした。

2010-10-24 18:33:46 | Weblog
 さる10月6日、ファッションデベロッパーのパルコが2010年8月の中間期連結決算を発表した。3月に開業した福岡パルコは売上げ69億7700万円で、年間目標110億円の6割を超え、年間1000万人を見込んだ来店客数も700万人と、想定の1.5倍に達したという。
 パルコ側は「ファッションだけでなく雑貨も充実させたことが好調の要因だろう」と分析する。しかし、11年1月の閉店で調整中の大分パルコは、対前年同期比16.5%減の16億円。熊本パルコも4.2%減の23億7800万円と九州地区の店舗は明暗を分けている。
 グループトータルでは既存店の改装、イベント事業の強化などで、中間期売上高は1287億8000万円で、辛うじて前期比をクリアした。だが、前出のように既存店が減収となったことで、営業利益は45億5400万円(前年同期比95.7%)でマイナスとなっている。

 とかく、福岡では福岡パルコの好調にスポットが当たっているが、天神の一等地にビルを構えておきながら、たかだが70億円くらいの売上げでどうしたというのか。前にも書いたが、天神のファッションマーケットを考えると、ウエア&クロージング関連の業態はオーバーストア気味である。パルコにとってはオープン以前に、セレブカジュアルのキットソンはミーナ天神に持っていかれたし、来春開業する新博多駅ビルとのテナントリーシングも激化していた。H&Mは第二キャナルシティ進出で決まりそうだ。
 こうした周辺環境の厳しさを織り込んだ上で、初年の年間予算は120億円と決めたわけだ。そして半期で目標を上回る70億円を稼ぎ出したのだから、褒めてくれてもいいのではとでも言いたいのか。
 当然ながら、この売上げには初出店、開業景気、岩田屋跡地というご祝儀来店などのプラス要因が重なっている。一私企業にも関わらず、福岡県が資金を拠出した福岡アジアコレクションタイアップなど、有形無形のプロモーション効果もあるだろう。
 経営の面から言えば、企業の力は目標の高さと結果の大きさで判断される。10の目標に対して10の結果が出せれば、最高の評価点だ。しかし、そもそもの目標が低くければ、当然のことながら達成率は高くなる。その意味で年間の120億円、半期の60億円の売上げ目標は妥当かどうか。
 ちなみに岩田屋三越は経営統合で年間売上げは1300億円。対する博多大丸が780億円と、百貨店はずば抜けて高い。ファッションビルでは天神コアは130億円でパルコと同程度。06年に開業したヴィオロは当初から苦戦が続き、売上げも80億円程度だから、問題外である。
 天神は交通インフラが整い、レストランやカフェ、文化施設なども充実している。都市機能が一カ所にまとまったヒューマンスケールの街で、ショッピングが非常にしやすい。当然、集客力は群を抜いて高く、九州全域からお客がやってくる。他都市の商業施設、ショッピングセンターとは条件が違うのだ。
 それゆえ、ファッションビルはもっと売上げ目標は高くしていいはず。各社ともデフレやオーバーストアによる競争激化という環境変化が心理的要因となって、数値目標に値下げ圧力をかけているように感じる。

 もっとも、パルコは東京一部の上場企業だ。半期決算発表を行なった翌10月7日の株価を見ると、始値664円で672円まで値を上げたが、最後は663円で取引を終えた。株価に一喜一憂する必要はないが、企業の基本的な利益率、成長力では株主資本利益率(ROE)を見た方がいい。
 パルコは10月21日の実績でROEは5%程度。株に投資してどれだけ儲けられたかを示す投資の収益率は、ROEとほぼ同水準と言われる。だから、投資家はこのROEを見極めて、率の高い企業に投資する。優良企業と呼ばれるなら15~20%程度を数年は保っていなければならない。株は森トラストが33%、各金融機関が34%を保有するが、残る一般投資家にとってこの数値は物足りないだろう。
 奇しくも、平野秀一社長は決算発表の席上、日本政策投資銀行との資本業務提携に対し、筆頭株主の森トラストが反対していることに触れ、「企業価値を上げれば、株主全体の利益向上につながる…」と語っている。
 経営者が株主に対して叫ぶ、「企業価値を上げる」というフレーズ。これをまともに解釈すれば、当然、一般投資家はこう言うだろう。「それじゃ、もっと売上げを上げて収益率を高めてくれないと、企業価値もクソもない。このままの売上げなら、投資の魅力が減退し、投資価値は下がってしまう」と。
 地方都市の多くが厳しい環境に置かれる中、数々の好条件が整っている天神のファッションマーケット。そこでデベロッパービジネスを展開する上で、たかだか70億円くらいでどうしたと言われそうである。

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統合で何が変わるのか。

2010-10-11 12:47:28 | Weblog
 この10月1日、三越伊勢丹ホールディングス傘下の岩田屋と福岡三越が合体した岩田屋三越が発足した。太田垣立郎社長は就任会見で、「スケールメリットを生かし、上質なライフスタイルを提案する百貨店の王道を歩みたい」と語った。

 具体的には「顧客との接点を密接にして、ニーズを収集・分析しMDに反映。百貨店が狙う良質なライフスタイルを、スケールメリットを生かして顧客が納得いくプライスで提供していく」という。裏を返せば、量販店やディスカウンター、郊外SC、通販企業とは違うマーケットをヤングアダルトとアダルト、マチュア、シニアに分けて、岩田屋と三越で捕捉していこうということだろう。
 品揃えのポイントは、価格軸と感性軸の2つになると思うが、これが実際に商品選定やアソートメントになればそう簡単にはいかない。これまで、百貨店はメーカーや問屋、あるいは注目のブランドショップにおんぶにだっこで、売場を構成してきたからである。そんな簡単にイメージするようなMDが作り上げられるはずはない。

 まあ、小売業界のマクロ視点で見るならば、“百貨店の王道を歩む”なんて経営トップのメディア向け常套句もしくはリップサービスに過ぎない。厳しく断じれば、「また戯言を抜かしおって」と言いたくなる。
 振り返れば、百貨店はバブル崩壊後、坂を転げ落ちるように売上げを落としてきた。しかし、その都度、刷新されたトップは、“経営改革”を声高に叫んだ。でも、売場を見る限り大きな変化は見られず、手をつけたのはコンサルタントをかましての内向きの人時の効率化。いわゆるLSP(レイバー・スケジューリング・プログラム)くらいだ。要は派遣社員ばかりに売ってもらうのでなく、自社の社員も売場に効率配置して商品を販売し、結果としてコスト削減と販売力のアップを狙ったのである。

 でも、これらの施策で百貨店経営が大きく変わるはずもなく、それ以上に外部環境が激変して売上げはさらに下降した。結果的にエリアが違う大手同士の経営統合が進んだというわけだ。それにしても、 ○○ホールディングス(持ち株会社)ができたくらいである。それも投資家が好きな「企業価値を上げる」というフレーズのもとで、不採算店をリストラしやすいからだろうが、とても抜本的な改革ではない。また、再編でメーカーや問屋は、8割程度が大手との取引になり東京シフトが進んだ。そのため、地方百貨店は競争激化による採算割れと仕入れ商品不足で、閉店を余儀なくされてしまっている。そこで、福岡というマーケットでの岩田屋三越はどうか。地方都市というポジションに変わりはないが、九州全域から集客できるメリットからは、東京の店舗にも匹敵する売上げが望めるということになる。

 ただ、「顧客との接点を密接にして、良質なライフスタイルを納得いく価格で提供する」は所詮、スローガンに過ぎず、現状の売場やMDが大きく変わると思えない。それに過去1百貨店2館態勢で成功したところはない。新宿伊勢丹にしても、日本橋三越にしても巨艦だからこそ、威力を発揮できたのである。つまり、岩田屋三越は暖簾が違う店がそれぞれのポジションとターゲットを明確にしてシェアを取り、一百貨店では地域一番店として君臨する。こちらの方が本音だろう。
 百貨店経営は地域一番店のみが利益を確保でき、二番店は採算ギリギリ、三番店は赤字に陥るという構造。福岡玉屋が閉店に追い込まれたのも、こうした論理からすれば当然である。だから、岩田屋三越は縮小する百貨店市場において、何とか生き残れる程度に過ぎない。競争が激化する天神マーケットでは、異業種の好敵手にも囲まれてどんどん市場を食われている。さらに両店とも借地ということからすれば、含み資産にも期待できない。当然、財務基盤は弱いという課題も突き付けられている。

 百貨店としての展望をファッションに限って言えば、お客は確実に垂直移動を始めている。百貨店より上か、下か、もっとセンスの良いものに移っている。すでにお客の頭の中には“価格のベンチマーク”がすり込まれている。価格に見合った価値がその商品にあるかを判断し、さらに価格より価値が上回ったときだけに、「これ、買います」となる。それがお客の購買心理であり、行動なのだ。
 さらに価格の割に価値が高いファストファッションは、老弱男女、お金持ち、低所得者に関係なく日本市場でのポジションを確保した。ファストファッションではないが、ユニクロの勢いは止まるところを知らず、H&Mは第二キャナルシティに出店を決めた。残るはトップショップとフォーエバー21くらいだが、このほどフリーズマートが大名に進出するなど、国内企業の反転攻勢も始まっている。ミドルクラスでは、アバクロは西通りで路面展開。アルマーニAXやG-STAR RAWの動向も気になるが、両者とも福岡では路面か、テナントかはまだはっきりしていない。その他、サザビーリーグが運営するLAのセレクトショップ、ロンハーマンも東京、神戸に次いで4店目が福岡出店となるのか。各社ともテナントリーシングでは負けていないだろうから、水面下での綱引きは熾烈を極めているはずだ。

 では、岩田屋三越として手をつける改革とは何か。松坂屋銀座店がフォーエバー21の導入で売上げを回復させた点からすれば、好調ブランドに売場を任せるのも一つの手だ。「良質なライフスタイルを納得いく価格で提供する」なんて実現できもしない戯言を言わず、はっきり「テナントにお願いします」と言えばいい。そっちの方がよっぽどわかりやすい。ファッションビジネスに関しては、SPA系企業の方が百貨店なんかよりはるかに高いノウハウをもつ。これは誰もが知っていることだ。ユニクロの+Jのような商品をどう考えても百貨店の値入れ率で作れるはずはないのだ。だから、従来のように大家に徹するのも合理的な判断と言えるだろう。
 一方、伊勢丹主導で自主編集の売場に注力することも考えられる。それには藤巻幸夫氏のような優秀なバイヤーが不可欠。新宿本店にはまだ人材がいるかもしれないが、それも三越銀座店のテコ入れで手一杯のはず。とても福岡に振り向ける余裕などないだろう。

 思えば、東京時代、仕事で銀座に行くと、必ず松屋銀座に立ち寄った。ファッションの伊勢丹を作った今はなき山中鏆氏が手がけたMDにも目を見張ったが、「ビギンザ・ギンザ」というあか抜けたコピーが好きだった。必ず地下にあったベーカリー「フォーション」で、アップルティーのリーフが練り込まれたテーブルロールを買った。遅く起きた週末なんか、軽くオーブンで焼くと、部屋一杯にリンゴの甘い香りが漂い、ずいぶんお洒落な気分になったものだ。そのフォーションも今はもう無い。
 メンズフロアにある「SOHO’S ROOM」もお気に入りだった。スタイリッシュなカジュアルセレクトだが、扱うブランドはドメスティックな専門店系アパレルが中心。100%買い取りが取引条件になるため、百貨店では珍しい売場と言える。
 このシーズンになると、隣の伊東屋で翌年のダイアリーも買った。イタリアNAVA社製の「settegiorni」や「work7」だ。もう10年以上愛用している。3000円以上する高額品だが、週単位のスケジュールが書きやすく、インデックスのタイプフェイスやカラーリングがすごくいい。何より装丁のデザインがお洒落だ。これも福岡中の文具店はもちろん、百貨店でも扱っているところはない。

 筆者にとって良質なライフスタイルとは、こういう商品によって成り立つと思うのだが、メーカーや取引条件から、必然的に岩田屋三越が扱うには無理がある。つまり、「顧客との接点を密接にして、ニーズを収集・分析して、MDに反映する」ことなんて、そう簡単にはいかないのだ。筆者が経営トップの言葉を「スローガンに過ぎない」と断じたのは、そこに理由がある。
 経営統合で、岩田屋や三越の何が変わるのか。「何も変わらない」。正しくは「変わったようには見えない」。なぜなら、改革しているのは、当の本人より回りの企業なのだから。
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