HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

根深いECの闇。

2019-06-26 06:29:18 | Weblog
 吉本芸人の闇営業が話題になっている。週刊誌が続報を小出しにするから、当の芸人は生きた心地がしないだろう。だが、芸能ネタはいずれ沈静化していくし、端からそんな世界だと思えば、さもありなんって感じになる。

 それよりもこちらは、知らなかったでは済まされない問題。老舗百貨店の髙島屋が自社のオンラインストアで、実際は韓国産や国産の化粧品をフランス産と表示して販売していたことだ。仕入れ先からのデータを確認せず、サイト上に表示していたと釈明しているが、その数は25ブランド147商品に及ぶというから驚く。

 なぜ、そうなったのか。あくまで筆者の推測だが、百貨店の場合、化粧品だけでなく売場で展開されるブランドのほとんどをメーカーに委託販売させている。ただでさえ自社で在庫を抱えず商品管理はメーカーに任せっきりだ。それゆえ、オンラインストアでも髙島屋の社員が運営管理に目を尖らせていたとは思えない。今回の問題発覚で、通販商品に対しても社内の人間がチェックするのは、限りなく「否」だったことがハッキリした。



 オンラインストアのサイトを見ると、ビューティコーナーのページに「化粧品等の原産国誤表記に関するお詫びとお知らせ」がアップされている。https://www.takashimaya.co.jp/aboutinfo/excuse/190606_b/index.htmlこの中で、「対象商品について下記リンク先『誤表記期間』欄記載の期間に、『原産国・生産国』又は『原産国』と記載の上、同『誤』欄記載の国名を記載していましたが、実際には、対象商品は、同『正』欄記載の原産国(地)で生産されたものでした」と、説明がある。

 これだけ読んでもお客には何のことかよくわからない。要は「同『誤』欄記載」とはサイトに記載されたスペックのことで、「同『正』欄記載」とは現物の商品パッケージに表示された説明書きということだろうか。

 ただ、よくよく考えると、自店のスタッフがきちんと商品管理に携わっていれば、すぐに気づいたはずだ。パンフレットやカタログであれば、配布量も某大になるから回収して訂正シールを貼るわけにもいかないし、まして印刷をし直すのは不可能だ。しかし、Webであれば気づいた時点ですぐに訂正し、お詫びやお知らせはできたと思う。それにしても、自分たちが本来行うべき商品のチェックを怠って、顧客目線ではない回りくどい説明には、事の重要性に真摯に向き合っているとは思えない。

 商品の化粧品には「韓国産」「Made in Japan」と明記されていたのに、サイトには「フランス産」と表示されていた。これは景品表示法が規制する「実際のものより著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認させるような表示(誇大広告など)」に触れ、消費者庁および公正取引委員会はそれにより公正な競争が阻害されると認識したわけだ。

 業界では過去にも八木通商が輸入したルーマニア製造のパンツをビームスなどセレクトショップ5社が「イタリア産」と表示して販売したり、ユナイテッドアローズが単なるウール+シルクのストールに「カシミア70%」と明記して1050枚も販売した。これが景品表示法に抵触するとして、公正取引委員会の排除命令を受けている。今回はこれらの企業より歴史があり暖簾をもつ百貨店の髙島屋が行っていたことで、消費者庁としても許し難い事案にしたのだと思う。

 もっとも、景品表示法に触れる問題が発生した時、決まって言われるのが「フランス産が良くて、韓国や日本の化粧品が劣るというのは、根拠に乏しい」という反論だ。ならば、正々堂々と表示すればいいのだが、そうしないところには、販売者側には「イメージを良くしたい」「売りにつなげたい」という卑しさ、また消費者側には「欧米礼賛志向」があるのではないのか。法律はそうした販売側、消費側のメンタリティまでには関知しない。ただ、正しい表示をして、公正な競争を促すだけなのである。

 まあ、カタツムリを使った韓国の化粧品がヒットしたケースもあるが、衣料品と違い直接肌につけるものは、お客も敏感になっている。通販化粧品でアレルギーが発生し訴訟に発展したケースもあるのだから、商品に関する表示では少なくとも「安心を担保する」意味で、消費者を欺くようなことがあってはならないのだ。

 なのに今回は販売する側、しかも信用第一の百貨店がこともあろうに素通りしていたのだから、空いた口が塞がらない。まあ、意図的、組織的に行った悪意(それを知っていること)がバレると、髙島屋ブランドは一気に失墜するからその限りではないと思うが、それにしても杜撰極まりないと言うほかはない。


商品が届かないケースも


 ECは実際に現物を確かめて購入しない。だから、サイト上の品質表示や仕様が実際の商品とは違っていることは無きにしもあらずだ。購入者がブランド名やデザインを重視すれば、他はどうでもいいと素通りすることも多いだろう。髙島屋のケースは別として、EC事業者は購入者が気づかなければクレームをつけることもないと想定し、意図的にスペックダウンすることもあるのではないか。それで利益が出れば、儲けものだからだ。レビューの星印評価も購入者の受け取り方次第だから、あまり客観的な指標にはならない。

 さらに注文した商品と全く違うものを送りつけたり、商品そのものを送って来ないケースもある。これは筆者が実際に経験している。欧州ブランドのある商品が気に入ったので、初利用のサイトだったが、注文した。確認メールは届いたものの、発送したかどうかについては何の音沙汰もない。3週間を経過し再度、問い合わせをすると、担当者から「確かに◯月◯日、◯時に発送したとの記録がある」との回答が来た。

 しかし、商品は全く届かなかった。そこでクレジット会社に問い合わせると、「商品が届くまでその商品分の金額は請求額から差し引く」と、対応をしてくれた。結局、2カ月を経過しても商品は届かなかったので、改めて相談すると「海外ECの決済を担当している米国の提携カード会社が審査をする。それに通らなければ、仕方ないが代金は支払ってもらうことになる」という答えだった。

 幸い、サイトのURLをはじめ、「購入商品のページ」「注文・決済したページ」「確かに注文を受けたとする確認ページ」などを「スクリーンショット」にして残しておいた。もちろん、注文メールや問い合わせメール、アドレスもすべてコピペしていた。筆者は国内外を問わず、通販サイトを利用する時は、それをルーチン化している。こうした「証拠」と商品の詳細や注文から決済、問い合わせまでの経緯を「書面(英文)」にしてクレジット会社に提出した。提携カード会社が審査をするため、結論が出るまで3カ月ほどを要したが、商品を受け取ってないことが立証され、代金支払いは免除された。

 おそらく注文したサイトは、ZOZOTOWNのように在庫を抱えてフルフィルするようなシステムではなかったと思う。通販事業者側は在庫を持たないマーケットプレイス型で、注文を受けるとメーカーや問屋に指示をしてそこから配送させていたのではないか。だから、こちらが事業者に問い合わせても確認に時間がかかったのだ。商品を発送する委託業者が実際に発送したのなら、送り状などの控えが残っているはずだし、欧州から日本への国際郵便は「laposte.fr」などで荷物を追跡できる。

 しかし、そうしたものはサイト事業者からは何も示されなかった。つまり、委託業者が通販サイトの担当者に「確かに発送した」との報告はメールの文言レベルであって、送り状や国際郵便履歴などの証明するものはなかったのではないか。提携カード会社からそこを突かれると、サイト事業者としても反証のしようがない。これが支払いを免れた理由ではないかと思う。

 商品を受け取ってないのだから、代金を支払う必要もないのだが、それはあくまで日本的な商慣習になる。インターネットによる越境通販の世界では、「『虚偽』『詐欺』は当然あることとして、それを認識した上で取り引きされたし」というのが国際基準なのかもしれない。まあ、アパレルの国内製造を進める「ファクトリエ」のように偽のクレジットカード番号で日本製ジーンズを大量に騙し盗られるケースもあるから、悪巧みを考えるのはEC事業者だけとは限らない。それらを想定した自己防衛策も必要ということである。

 翻って高島屋のケースは、ネット通販の闇が根深いことをうかがわせる。掲載された商品と実際に送られて来る商品の内容が違っているケースは、表に出ない部分を含めると相当な量に及ぶのではないか。ECの普及に従って、消費者庁が景表法違反や虚偽、詐欺に厳しく対応するようになった。一方で、通販事業者の間ではブランド力の向上重視や、B2BだのC2Cだの、B2Cといったビジネススタイルの次元でしか語られず、法令遵守や健全化が叫ばれないのはおかしい限りだ。

 ただ、ヤマト運輸が運賃を値上げをしたことで、Amazonなど大口のEC事業者向けは24%〜40%も上昇した。さらに人手不足で、ピッキングや仕分け、梱包に従事するアルバイトの人件費も高騰している。ネット通販の事業者にとっては競争に勝ち抜くためのビジネスシステムどころか、フルフィルや運送コストの負担増の方が経営を揺るがす懸案事項になっているのだ。

 ZOZOTOWNの凋落を見るまでもなく、メーカーから在庫を預かりお客の注文を受けてから商品をピッキングし梱包して、宅配便で送っていては儲からないと公言する識者もいる。一方、アパレルメーカーの中には在庫の一元運用を進め、ECモールとは受注データを連携するだけで、在庫を預けないマーケットプレイス型に移り始めているところもある。

 図らずも髙島屋の問題が発覚したのは、こうした委託型システムで運営される百貨店のオンラインショップで、百貨店側の運営管理が行き届かず、商品チェックの杜撰さが露呈したことだ。ECの闇はまだまだ根深そうである。

 そう考えると、これからはECで注文した商品を「店舗」や「宅配便の拠点」で受け取って現物を確かめ、試着や返品が可能なC&C(クリック&コレクト)に移行せざるを得ないのではないか。髙島屋が完全にC&Cで運用していれば、誤表示の問題もすぐに発覚していたはずだ。お客にとっても現物の商品を確認して購入すること=リアルな販売拠点の重要性が再認識できたのではないかと言える。ゆえにネット通販専用ブランドなんぞと言っているアパレル事業者は、すでに時代錯誤とさえ思えて来る。

 髙島屋の問題がECの闇を白日のもとに晒したのは、購入側にとっても賢くならないといけないという教訓でもある。その辺のビジネスポイントをしっかり押さえたところが、小売りの新たなステージで主導権を握れるのではないかと思う。

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異業種参入の重み。

2019-06-19 06:50:32 | Weblog
 あの「はせがわ」がまた動き出す。子会社を通じてライフスタイルショップの運営に乗り出すもので、6月14日に東京自由が丘にオープンした店舗は、社名と同じ「田の実」。ショップは3層構造で、1階が日本の食をテーマに米と麹、発酵食品を中心とした食料品、料理を引き立てる食器や箸、花器などの売場、2階が米飯や季節野菜が味わえるランチ&カフェ、3階がワークショップなどが行えるフリースペースとなっている。https://senken.co.jp/posts/world-hasegawa-190612

 業態開発では、アパレルメーカーのワールドが自社の雑貨店ノウハウを提供した。仏壇・仏具のはせがわにとっては、品揃え計画から販促カレンダーの作成、MDサポート、什器やインテリアの制作、販売・在庫管理のデジタルプラットフォーム提供までで、支援をあおいだかたちだ。ただ、このコラムではワールドではなく、ライフスタイルショップの運営に乗り出す「はせがわ」について書くことにする。

 冒頭に「また」と書いたのは、はせがわが本業以外の事業を展開するのは、過去にもあったからだ。朝日新聞は6月11日付けのネット記事で、はせがわの新業態開発について「東京で飲食業進出へ、市場縮小にらみ」と、おざなりな見出しをつけた。だが、「仏壇仏具の販売だけでは厳しくなる」との危機感は、現在の長谷川裕一会長が社長時代に抱いており、今さら感じたことではない。

 はせがわの歴史は1929年(昭和5年)、創業者の長谷川才蔵氏が福岡県直方市に長谷川仏具店を開店したことに始まる。1960年代にはオリジナルの仏壇を制作し、76年には本社を福岡市博多区に移転。79年には関東にも進出し、イメージキャラクターの女の子が祈るように言う「お手てのしわとしわと合わせて、幸せ、南無〜」のCMコピーとともに、一躍全国ブランドに躍り出た。

 1985年、グラフィックデザイナーのサイトウマコト氏が「人骨」をモチーフにした同社のポスターを制作し、海外で広告賞を受賞した。人間の死後に生じる「供養」や「墓参」に向き合うビジネスだから安直な発想だったのか、それともクリエーターとして考え抜いた末なのか。どちらにせよ、広告賞とはせがわの知名度アップとは直接の因果関係はない。それよりも、人骨のポスターをプレゼンで受け入れた同社の度量の大きさが、別事業への進出も躊躇わなかった理由の一つではないかと思う。
 
 では、過去の多角化、新規事業を振り返ってみよう。昭和から平成にかけ、すっかり全国区となったはせがわに対し、同業他社やメーカーは対抗策を打ち出し、攻勢をかけていった。それまで仏壇仏具を販売していなかった「葬儀社」に商品を勧めするようになり、こちらが葬儀と合体で提供すると、同社は一気に販路を絶たれかけた。だが、上場企業であったため長期的には株主に還元しなければならず、どうしても利益を出す必要があった。

 そこで、はせがわが参入したのが「海外事業」である。同社は中国で材料調達などを行っていた関係から、アジアの経済成長を目の当たりにしていた。ならば、伸びているところに積極的に投資しようと打って出た。進出先はベトナムやミャンマーなどで、両国とも仏教国だったことから親和性を感じ、ビジネス人脈ももっていた。また、アジア開発銀行からの融資も受けることができた。これも追い風となった。



 ベトナムのホーチミン市で商業ビル「サザン・フォーチュン・ビル」をはじめとして、ホテル運営などのプロジェクトを開始。ビルでは欧米ブランドをリーシングした。ちょうど、筆者がニューヨークにいる頃で、米国でもアジア投資が熱をおびており、進出を呼びかける新聞記事を呼んだ記憶がある。

 ところが、1997年にアジア通貨危機が発生して地価が暴落し、為替が4分の1、5分の1に値下がりした。流石に同社もこれは予測できず、事業撤退を余儀なくされた。10プロジェクトのうち、6つから撤退。一番難しい中国も良い人材を得て早めに手を打つことができた。ベトナムについては手続きに時間がかかり、2000年以降にずれ込んだが、ホテル事業は04年までに撤退を終えるようにした。結果的に海外事業の損失は20億円にも上ったが、それによりはせがわの屋台骨がぐらついたかと言えば、そんなことはない。

 「投資した企業としては今でも当社が一番成功している」「それまで自分に賭け、自分自身に投資してきたが、博打は一切していない」「通貨危機という自分自身を超える力が働いた」「それよりもっと大きなものを得ることができた」。これらは海外事業について長谷川裕一前社長が自ら語った言葉で、筆者が何度か同社の仕事をした時、内容を書き留めていたものだ。

 はせがわが創業した1929年は世界恐慌の年。その影響は日本にも飛び火して昭和恐慌を引き起こしている。地元福岡では炭鉱閉山が相次いで、景気はどん底状態にあった。そんな危機的な状況で、同社は創業した。アジア通貨危機の影響も前向きにとらえ、脱皮するきっかけにしたと言っても過言ではない。

 2000年からは本業回帰のスローガンを掲げ、 仏壇・仏具に加え、墓石の製造・販売に集中した。もっとも、この時点ですでに売上げシェアの3分の2は関東エリアだった。マーケットとして非常に奥が深いと手応えを得る反面、九州のマーケットは日本の10分の1しかない。今から20年近く前に九州はやがて頭打ちになると予測したからこそ、関東への進出、全国ブランド化を進めたのである。

 仏壇・仏具、墓石だけでなく、次を考えていかなければならない。本業に邁進しながらも、決してそれに満足しない。異業種や別市場、顧客の声からビジネスのヒント、時代の変化を嗅ぎ取って来たのも、はせがわの真骨頂である。そして、海外事業を契機としての長谷川裕一前社長の意識が変わったことも大きい。

 権限を役職者を中心にしたスタッフに委譲し、事業本部制にしてトップダウンで行うようにした。組織は東京事業本部、西日本事業部、東海事業部の3つのブロックに分け、企業として伸びていく体制にリニューアル。こうして経営幹部が育ち、関連会社も機能していった。こうした下敷きがあったからこそ、今回のような東京エリアにおける新業態開発にも踏み込めたのである。


新市場開拓の狙いは以前から


 2002年頃、はせがわの仕事をしていて、長谷川前社長に聞いたことがある。

  筆者:「将来、お客さんとなる今の子どもたちにいかにお仏壇や供養に親しんでもらうか。それには仏教を神秘的なスピリチュアルなものととらえ、そこへの誘いから入ってもいいんじゃないですか

 長谷川前社長:「都会のマンションで暮らしていると、まずお仏壇はありません。なおさら、供養が身近に感じられることはないですよね。子どもたちには仏さまのおまじないとか、アクセサリー感覚のお念珠とか、お香によるアロマセラピーとか。そうした身近さからアプローチする業態も必要かと思います

 と、次世代にブランドを浸透させていく上で、長谷川前社長なりに新業態を考えていたようだ。2007年、ご自身は社長職を長谷川房生氏に譲り、代表取締役会長に就いた。そして、同社はマンション向けのモダン仏壇を揃えた「リビングスタイル」、祈りをキーワードにした「こころのアトリエ」と派生業態を開発した。

 リビングスタイルは全国のショッピングセンターとロードサイドに展開し、こころのアトリエは「モラージュ蒲生」と「トレッサ横浜」に出店。筆者の問いかけに対し長谷川前社長が語った答えは、「縁起もの飾り」「もりしお」「ミニだるま」などの商品開発で具現化され、こころのアトリエは「パワースポット」に位置付けられている。

 そして令和に入り、ライフスタイルショップにも参入する。ワールドから店舗運営のノウハウを受けるのは、おそらく多店舗化を意識してのことだと思う。従来の仏壇・仏具、墓石の製造・販売は少売でも荒利益が高いので、それなりにマンパワーをかけることができ、それが社員の育成にも貢献してきた。こころのアトリエでは、低価格商品の販売に踏み込んだとは言え、ライフスタイルショップは全くの異次元であるため、そう簡単にはいかないだろう。

 家具店のバルスが開発した雑貨業態も、「和」「エスニック」「洋」とあったが、結局軌道に乗って今日まで継続されているのは洋の「フランフラン」だけだ。しかも、はせがわは流行廃りが激しい飲食ビジネスにも参入する。食材の販売だけならまだしも、料理メニューを出すにはクリエイティビティや市場ニーズの研究なども欠かせない。



 東京・自由ヶ丘では、かつてアパレルのキャビンが「ザ・セノゾイック」というアジア雑貨のカフェ併設店を出店していた。筆者もここではパスタや魚用の皿を購入した。しかし、キャビンがファーストリテイリング傘下となり、 同業態はアンラシーネなどのブランドと統廃合された影響で閉店した。2000年代初頭はアジア雑貨がトレンドだったために人気を集めたが、流行が去り客足が遠のいたことも要因だと思う。

 田の実は、そうした嗜好の変化がもろ集客に出る自由ヶ丘に出店した。店づくりから商品政策、販売戦略、人材教育までを組み立て、何店舗を展開すれば、収益を最適化できるのか。売上げが低くても、利益を生み出すストアモデルの確立が不可欠だ。ワールドの雑貨店ノウハウと言っても、これまで展開したのはジ・エンポリウムやイッツデモ。基本MDはチープな商品の開発輸入にメーカー仕入れを加えたもの。それらをショップコンセプトに合わせて編集したに過ぎない。しかも、ジ・エンポリウムは、2017年にブランドを休止している。

 今回の「販売・在庫管理のデジタルプラットフォーム」とは、「生活者のリアルな動態データを把握し、店舗への効果的な来訪誘導による広告費用対効果の最大化を目指すもの」とか。ワールドとしては、田の実を自らが起死回生するためのIT戦略の試金石にするつもりなのか。再建途上にある同社のノウハウで、はせがわが雑貨の新たなマーケットが切り開けるか。多少の不安はある。

 東京には目と舌の超えたお客が数多くいる。食器や箸、花器などの雑貨、米と麹、発酵食品を中心とした料理とデジタルプラットフォームを合体して集客できるかは未知数。ただ、筆者の地元、福岡発祥の企業だし、仕事をした縁もあるので、頑張ってほしいと願う。関東で成功すれば、福岡への逆上陸もありうる。10月の東京出張の時、機会があれば寄って見て、じっくり目と舌で確かめたいと思う。

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期限切れの新鮮さ。

2019-06-12 06:32:45 | Weblog
 ジーンズカジュアルショップから、今やセレクトショップの代表的企業となったアーバンリサーチ(UR)。売場で商品を確かめるとオリジナルがかなりの比率を占め、お客からすれば色、型、サイズが揃うので買いやすい。こうして培った商品開発力を傘下のSPA業態「センスオブプレイス」に生かす逆パターンも、同社はビジネスモデルとして確立したと言っていいだろう。

 センスオブプレイスは2019年1月期の決算で売上高97億円を達成した。メーンターゲットを25歳と設定し、MDを52週サイクルで提案。販売データは週ごとに分析し、翌週の販売計画に生かす仕組みがブランドの成長に大きく貢献したという。13年のスタート時に立てた当面の目標は店舗数50店、売上高100億円だったから、これをクリアするのはほぼ間違いない。

 躍進の背景には、商品供給をコントロールするディストリビューター(DB)、販売スタッフの指導教育を行うスーパーバイザー(SV)が確実に育ったことがあるようだ。これはSPA化を進める段階で、どの企業も直面する課題なのだが、育成が進む企業とそうでないところでは成長力の差は歴然である。筆者が住む福岡の某SPAもSC中心に展開し、100億円達成を間近になって利益重視に方向転換。 育ったSVたちが不採算店の閉鎖に努めた結果、年商は30億円も減少したが、企業基盤はより強固なものとなった。

 それだけ年商100億円の壁を超えるのは難しく、ブランド、商品、スタッフをマネジメントしていくのは、容易ではない。その意味で、センスオブプレイスは今後も店舗数を今の倍くらいに増やずというから、人口減少でマーケットが縮小していく中、成長を続けていくには、まだまだいろんな課題に直面すると思う。

 そうした懸念材料となるのか、それとも逆に吉と出るのか。筆者はセンスオブプレイスが先日から展開している企画商品に注目する。「イラストレーターの永井博との協業商品を5月27日から店舗で、31日から自社ECサイトで販売している」ことだ。同氏のイラストをプリントしたルーズフィットのTシャツ(メンズ2型、レディス3型)とPVC素材のトートバッグ(2型)。価格はTシャツ、バッグともに3900円である。

 今どきSPAのコラボ企画など珍しくもないが、協業する相手によって注目を集めることもある。いちばん簡単なのが誰もが一度は見たことのあるアイコンやキャラクター、著名人のイラストや写真をアレンジしたもの、国際的に知られるスローガン、クリエーターが手がけたシンボリックなデザインなどを使うことだ。

 センスオブプレイスは永井博氏とコラボしたわけだが、メーンターゲットである25歳エージからすれば、「永井博って誰?」だろう。名前は知らなくても、「イラストは知っている」というのは、世代的にはほぼ皆無ではないか。センスオブプレイス側からすれば、 イラストは夏のイメージに合致するし、お客に知られてないから逆に新鮮に受け取られ、ブランドテイストからも大きくは外れない。それが企画の狙いや契約の理由だったのかもしれない。

 しかし、どれほどの売上げに結びつくか。爆発的なヒットアイテムになり得るかと言えば、正直難しいと思う。このコラムで以前にも書いたが、TシャツなどのプリントはPCと印刷技術の発達でインクジェットが主流になり、簡単に製造できるようになった。そのため、市場にはいろんなモチーフが溢れ、埋没感は否めない。プリントモチーフが「売れる」条件とは、必ずしも言えなっているのだ。

 逆に協業すれば、相手に対するロイヤリティを支払わなければならず、それはコストとして売価にのせられる。今回のイラストは永井氏が新たに描きおろしたと思うが、イラスト料や著作権料はそのまま総量で按分されるため、単発でロットも限られてくれば、商品価格は割高になってしまう。

 店頭で商品を見てみたが、イラスト原画を写真データ化してプリントしたようだ。 生地厚は5オンスくらいだろうか。価格は3900円でイラストの価値を除けば、巷にあふれるものと大差ない。 似たようなTシャツなら1900円くらいで売っている。店頭にはそれほど在庫を置いてないので大量に売れ残ることはないと思うが、今回のコラボ企画がブランドバリュを生んで、継続的に売れ続けるのは正直、厳しいだろう。



 では、イラストレーターの永井博氏は、どれほど有名なのか。筆者のように80年代に20代を過ごした世代には広く知られている。当時、アメリカンなリゾート風景を表現した作品は非常に露出が多かった。代表的なところではレコードジャケットへの採用だ。 松岡直也の「MAJORCA」、 大瀧詠一の「A LONG VACATION」「NIAGARA SONG BOOK」、山下達郎の「COME ALONG」シリーズなどがある。 世代的には名前は知らなくても、レコードのイラストは見た記憶がある人は多いと思う。



 80年代のイラストトレンドの一つと言っても、過言ではない。 筆者のようにグラフィックデザインにも携わっていると、いろんな広告物でも永井氏のイラストに触れる機会は少なくなかった。それだけでなく、同氏はいつも笑顔で明るい性格から、雑誌メディアの取材を受けることもあった。マガジンハウスは雑誌の表紙にイラストを使うだけでなく、特集記事でも取り上げている。




 筆者が記憶しているのは、創刊間もなかったTARZANが「カラダがよろこぶ部屋づくり」(マガジンハウスの十八番であるスピンオフ企画)で、同氏の自宅兼仕事場を紹介したことだ。購入した都内のマンションを改造し、壁や天井を取り払ってロフト風にし、床は当時はやり始めたフローリングに貼りかえていた。レコードのコレクションも圧巻で、壁面の棚にはソウルミュージックを中心に1万枚ほどがギッシリ収納されていた。備え付けのアイランドキッチンやコカコーラの自動販売機、アロハシャツやスニーカーetc,どれをとってもイラストの世界観同様にアメリカンだ。

 同氏は現在、70歳を過ぎている。センスオブプレイスのスタッフからすれば、お爺さんのような世代である。何年か前にお姿を拝見したが、すっかり白髪になっていたものの、人懐っこい風貌はそのままだった。イラストレーターとして現役を続けているから、決してジジ臭くもない。おそらく、ライフスタイルもあの頃のままだと思う。

 ならば、コンセプターとしてモノやコトを通じ、ファッションスタイルの提案をしてもらってはどうだろうか。同氏の監修で「期間限定」の「スタイルセレクション」を行うなどの企画だ。永井氏の場合だとアメリカンリゾートになると思うが、他の方々にはブリティッシュやニューヨーク、イタリアン、エスニック、ジャポネスクなどのテイストを担当してもらう。また、往年に活躍し、若者の風俗に影響を与えた人物なら、故人でもオマージュを込められるので構わないと思う。

 例えば、サディスティックミカバンドの故・加藤和彦氏が好んだロンドンのファッションスタイルを提案するとかである。今、そうしたテイストを見れば、印象は「懐かしい」「今でもいける」「斬新だ」と世代ごとで異なるだろうが、三世代へのアプローチは可能になる。それをセレクトのURがシリーズで企画するのも面白いと思う。いささか、ビームスジャパンやデパートの催事にも似通っているが、キャラターの濃い人々のフィルターを通したものなら品揃えも際立ち、セレクションが先鋭になっていくはずだ。

 商品がない、揃わない、メーカーが作らない。やれない理由を挙げればきりがない。だが、やることを前提に取り組む方がはるかに得られるものは大きい。きっと若者からヤングアダルト、マチュアまでがお洒落を感じられる商品展開ができるはずだ。単なるブランドで惹き付けることは限界に来ている。だからこそ、アイコンたる人物の企画も新しいセレクトショップ像を映し出していくのではないか。

 活躍したクリエーターでも、作品のメディア露出がなくなると、賞味期限切れに思われがちだ。しかし、その人のユニークな暮しぶりや強烈な個性は、そうそう変わるものではない。セレクトショップ店頭がどこもステレオタイプになりがちな中、「拘り」「濃さ」「奥深さ」「スパイシー」「キレ」などのニュアンスがこもったスタイル提案も、年1度くらいのペースでやっても面白いと思う。


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人の英知で勝ち抜く。

2019-06-05 04:36:43 | Weblog
 このところ、メディアが業界を取り上げる中で、際立っているのが「ワークマン」だ。5月末でざっとピックアップしただけでも、以下のような見出しが躍る。しかも、内容はどれもポジティブなものばかりである。

 快進撃ワークマンの秘めた成長力 ユニクロ超えの1000店体制へ(5月21日、日経クロストレンド)

 たった¥980【ワークマン(WORKMAN)】300g超軽量スニーカーの実力を検証!(5月25日、ハッピープラス)

 【ワークマン女子が進化中】ファッション性もさらにアップした夏にピッタリなアイテム5つ(5月28日、マネーの達人)

 「ワークマンプラス」が出店計画を上方修正 一般客とプロ客の“二毛作”で店舗売り上げ2倍以上(5月28日、WWD)

 ワークマンが大ブレイク、低価格高品質でも利益が出せる3つの秘訣(5月29日、ダイヤモンド)

 ワークマンの国内店舗数がユニクロ超え、FCオーナーに希望者殺到の理由(5月30日、ダイヤモンド)

 ワークマンがカジュアル衣料大ヒットでも「職人の顧客」を最重視する理由(5月31日、ダイヤモンド)

 特に経済誌のダイヤモンドが立て続けに記事を配信するのは、何らかの意図があるのだろうか。そんな詮索が野暮に思えるほど、ワークマンは経済界が認めざるを得ない快進撃を続けている。筆者がこれらの記事で、注目するのは以下の3つ。どれもワークマンの英知が生かされた結果ではないかと思う。

 一つは、ダイヤモンドが5月29日付で発信した「3つの秘策」で取り上げられた「MDが何よりこだわるのは値付けである。市場調査を徹底した結果、設定した売価を“絶対基準”とし、その売価を超えるものは作らない」である。

 今シーズンのヒット商品に躍り出た980円の「汚れが落ちやすい耐久撥水半袖ポロシャツ」。加盟店からは1980円でも売れるとの声も出たが、本部のMD担当者は「ヒットを出すには980円でないといけない」と、頑に値付けを守っている。しかも、原価率はあのトウキョウベースをはるかに超える65%という。

 単純計算すると、荒利益は35%しかない。これでよくやっていけるなと言われそうだ。正直、筆者もそう思う。それを可能にするのは、海外工場との直接取引や広告費の低減、セールの撤廃だが、それは一般的な経営論に過ぎない。大手アパレルでは販売管理にコストをかけセールを乱発するから、原価率を30%程度まで引き下げている。それが商品の品質を下げ、客離れを起こす悪循環を招いている。むしろ、ここが問題なのだ。

 つまり、ワークマンが考えて導き出した解は、「大手の逆を行けば、原価65%でも十分に収益に繋がる」ではないだろうか。今の業界環境を考えると、ワークマンの戦略の方が至って実利を伴い、お客が抱く商品ニーズの本質を見抜いていると言える。

 そもそもガテン系の方々は、個人で仕事着をネット購入することはあまりないはず。これは筆者がプロ向けのHCを頻繁に利用し、来店する彼らを観察しての持論だが、当たらずとも遠からじだと思う。それゆえ、店舗で商品を確かめて購入し日々の仕事で着ているから、原価率の高さに裏打ちされた品質の良さを身をもって体感している。絶対基準とは、決めた原価率を厳守しての荒利益。セールもせずに売り切るから、売れ残りを想定した値入れも必要ない。ヒット商品になるというのもうなづける。

 二つ目は、 5月30日付の「FCオーナーに希望者殺到の理由」にある「店舗オーナーになるための要件」だ。ワークマンは 2019年4月時点で国内の店舗数は839店。そのうち約9割が、FC契約店という。オーナーになるには実店舗の面接を受けるか、既存店を引き継ぐか。これ自体はそれほど高いハードルではない。

 ところが、個人契約で一人1店舗。夫婦での登録が原則とか。さらに新規出店では本部が店舗を建てるので、オーナー募集の店舗にしか応募できない。土地勘がない見ず知らずの町に行く覚悟がいるのだ。それを承諾しても、本部スタッフがオーナーとして認めるまで「6回も面接」するというから、一般企業が行う採用試験の比ではない。おそらく、本当にFCオーナーの資質があるのかをくまなくチェックされるということだろう。

 昨今、ワークマンに匹敵するほど、報道されているのがコンビニだ。特にオーナーの疲弊ぶりがクローズアップされているが、FCに加盟した時点では今の問題は想像さえしなかったと思う。本部がドミナント戦略の影響を説明したかどうかはわからないが、FC加盟希望者が「確実に儲かります」という勧誘の常套句を鵜呑みした面はあったのではないか。しかし、未来永劫繁盛する商売などない。時代も市場もお客も変わるのだ。

 まあ、ワークマンも10年先はどうなるかわからない。ただ、コンビニのオーナー募集では、退職金などの小金を持ちPCが使えるリタイア組みが「セカンドライフが充実したものになりますよ」という甘い言葉に誘われたケースは少なくない。また、酒屋からの転業者では、「レジを通さないと商品は持ち出せません。掛け売りがなく確実に売上げが積めます」との口車に乗せられた例もある。

 これらは筆者がコンビニの仕事をして、関係者から得た情報である。少なくともそうして彼らを口説いて来たコンビニと、慎重にオーナー選びを行って出店を進めるワークマンは大違いと言うことである。



 そして、三つ目が5月31日付けの「職人の顧客を最重視する理由」で取り上げられた「綿カブリヤッケがヒットした理由」である。このアイテムは火花が散っても服が燃えないように着るアウター。江戸時代の町火消が着ていた「刺し子半天」の現代版とでも言おうか。従来は溶接工などの専門職にしか必要とされないマイナー商品だった。

 ところが、ヒットアイテムになったのは、一般人までが購入したからである。それは冬のキャンプで皆が着ているダウンジャケットにたき火や調理の火で燃えるとたいへんなので、「1954円のヤッケを着るといい」との裏情報がSNSを通じて広まったからという。まさにネット時代ならではの口コミが販促に繋がったわけだ。




 この記事を読んで、あることを思い出した。90年代半ばに雑誌ターザンが別冊のジャングルブックで「都会派のアウトドアブック」と題し、登山やキャンプ、釣りなどのハウツーを特集した。その中で、服装では「化学素材の衣服は素晴らしい。どしどし重ねる」との見出しを付け、「防寒用にフリースのパーカを」「いまどきは、軽くて丈夫なフリース」と、謳っている。ユニクロが廉価でフリースを仕掛けるだいぶ前のことだ。

 他にもいろんな雑誌がフリースを取り上げたため、「L.L.Bean」なんかの人気が高まり、購入する人が増えていった。ところが、ターザンを含め当時の雑誌は「ポリエステル100%のフリースは、ダッジオーブンやたき火の火の粉で、焼け焦げる恐れもあるからご注意を」との警鐘は鳴らしていない。それゆえ、その後には「フリースをキャンプに着て行き、焼け焦がした経験をした人がかなりいる」との記事を読んだ記憶がある。

 この時代、ファッション雑誌はブランドを取り上げるだけで、そこそこ反響は大きかった。また、キャンプでフリースを着用する時の心得や注意点を掘り下げる編集者もいなかった。まして、読者の俄アウトドア派が「キャンプでは衣服に火の粉が振りかかる」なんてシーンを想像できるはずもない。それがブランドのフリースをお釈迦にする無惨な結果を生んだのだ。これは大ヒットしたとユニクロのフリース然りである。

 その点、ワークマンは職人というプロ向けを扱っており、そうした商品では機能性や耐用性がいちばん重視される。でなければ、労働災害は予防できないし、死に繋がる危険性もあるからだ。こうした商品特性をワークマンプラスのファッション性から顧客となった消費者がキャンプでの利用を思いつき、試してみたのではないかと思う。商品を使った人間がその良さをダイレクトに発信できるネット時代だからこそ、企画担当者もコンサルタントも思いもよらないヒットに繋がるケースもあるのだ。

 ワークマンの通販サイトを見ると、綿カブリヤッケは1型5サイズで、汚れが目立たないストーンブラックとキャメルの2色展開。アウトドア向けにも人気を集めたことで、カラーバリエーションを増やすことが企画の爼上に上がっていることも考えられる。

 価格戦略、出店政策、商品づくり。それらに共通するのは、みなワークマンが独立独歩で考えに考え抜いてきたこと。社員が培った英知で戦略を愚直に進める企業こそ、強さを発揮できるのをワークマンは証明している。

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