モードの世界は、十数年周期で流行が繰り返す。素材やデザイン、ディテールなどの専門用語はその度に用いられるが、トレンドを表現するには目新しさを感じない。そこでデザイナーはもちろん、組合や団体、企業は、「鮮度を感じさせる言葉」を採用していく。
トレンドはオンシーズンの2年前にカラーが決まり、1年前に素材が作られ、半年前にデザインが決まるという流れで来ていた。欧州の16-17秋冬コレクショントレンドでは、「マスキュリン」「80’s」「デコントラクテ」が発信されたが、それが日本のマーケットでそのまま商品化され、流行しているかといえば、それほどでもない。
一部のブランドが非構築で開放的な意味を込め、太めにシフトしている。ただ、従来からワイドを貫くブランドもあるわけで、それが目に見えるようなトレンド変化とは思えない。多くが変えた時の反動を危惧しているようで、トップスやボトムの一部で多少シルエットを変えているくらい留まっている。
最近ではコレクションショーと同時に商品が購入できるなど、業界慣習を打破するような画期的なシステムが登場している。ビジネスは常に形を生み出さなくてはならないし、それを広く発信して、浸透させるにはなおさら「言葉の力」は重要になる。ただ、言葉として浸透し定着するまでには、具体的なデザインが市場で露出しないと、マスメディアもなかなか取り上げてはくれない。
ビジネスは経済性をばかりでなく、社会に与して多くの賛同を得ることも重要だ。10年ほど前に発信された「ロハス」という言葉。これは消費ばかりに気を取られるのではなく、健康や地球環境も意識した高いライフスタイルを目指そうする点に着眼したものだ。この「ス」が意味する「サスティナビリティ(持続可能性)」も、真意が理解されているかは別にして、ビジネス面ではだいぶ浸透したようにと思う。
一方、「インバウンド」のように経営者サイドは期待を込めて使っているものの、今年に入ると実需は失速してしてしまい、言葉そのものの終焉を感じてしまうものある。
夏ぐらいからチラホラ取り上げられている新語が「エシカル/ethical(倫理的の)」だ。ファッションビジネスはどうしても効率を追う。それは原料の生産現場にまで及び、できるだけ生産性を高めようとする。天然素材は自然環境の変化に左右されがちだが、ビジネスはそれによる生産性の低下を許さない。
結果、大量の殺虫剤が使われることで、生産者の人体に影響が出ていると言われる。また、生産にかかるコストを出来る限り削減するため、途上国における賃金が抑えられ、労働環境の低下を招いているとの指摘もある。生産者にしわ寄せが行くのではなく、公正な取引を行う。そんなフェアトレードなファッションにも注目が集まっているのだ。
ただ、フェアトレード、オーガニック、エコロジーは以前から使われており、特段新しいものではない。だから、トレンド性という感じさせる意味では、エシカルという言葉の方が用いられ始めたのだと思う。
若者は新しい動きや流れには敏感だ。目的やゴールを同じくする活動を陳腐化させないためには目当たらしい言葉を出せば、それなりに反響は大きくなる。さらにエシカルを追求するブランドで、「プロボノ」する人も登場している。仕事で得た知識や能力を生かしたNPOやボランティア活動をするという意味だ。自分の能力が社会に役に立つかどうかだけではなく、広い視野を育んで人脈を広げていこうとしているようである。
その根底に感じられるのは、若者の間では自己実現=欲求を満足させるだけでなく、社会性を追求することにも関心が湧き始めているのではないか。「単に好きな服をデザインして、それを好む人に買ってもらって、お金を稼げればいい」。専門学校に入ったばかりの学生ならその次元だろう。何も知らないのだから、それはしかたないことだ。
しかし、大学生のように在学中から社会との接点を持つと、ビジネス現場を体験するに従い、考え直さなければならないことにも気づく。仕事に追われているとつい忘れてしまいがちだが、自分の仕事は本当に社会のために役立っているのかと、ある時期から自問自答していく若者も少なくないようだ。
好きな服を作って、それが売れて、お金が儲かり、有名になる。こうした自己実現の追求から、「それが本当に誰かを幸せにしているのか」。そこまで問い始めているのである。
本来は成り立たないと言われて来た「資本性と社会性の両立」に挑もうとするブランドも登場している。ビジネスとは何も儲けるためにコストを削減し、賃金を抑えることだけではない。十分なコスト確保と正当な賃金払いのためにどんなモデルを構築すればいいか。その辺を自社のシステムに形づくることで取引先の工場が潤い、地域が活性化され、創生する可能性は無きにしもあらずということだ。
また、そうした成功モデルを別の若者が目の当たりにすることで、継ぐつもりはなかった実家の仕事を「やってみようか」と思い直すかもしれない。それが実現できれば、資本性と経済性は両立するとの解釈もできる。
ジーンズやTシャツのすべてでオーガニックコットンを使う。ポリシーはカッコ良くても、ビジネスとなると中々実現できない。そもそもオーガニックコットンの定義すら曖昧な部分もある。それほど資本性と社会性は矛盾をはらんでいるのだが、それにあえてチャレンジしていこうという気概や責任感は凄いと思う。
単に新しいトレンド、ムーブメントを表現する言葉だけではつまらない。その言葉の真意、隠れた意味合いまで掘り起こすことで、トレンドが広がっていくこともあるだろう。
ユニクロが1兆円に迫る売上げを稼ぐことは素晴らしい。営業利益率の高さを見ても、ロスを抑えているのは理屈としてわかる。反面、本当にあれほどの商品が必要なのか。確実に売れて消化しているのか。期末に売れ残った在庫はどう廃棄されるのか等々。素朴な疑問も抱かざるを得ない。
DCブランド全盛期は、期末在庫は資産として課税対象になることから、メーカーでは焼却処分していた。ユニクロはそこまではしていないと思う。専門のリサイクル業者に委託して断裁、分別され、再生繊維になっていくのだろう。でも、詳細の仕組みはそれほど多くを語られず、ムーブメントになるような言葉も聞かれない。
ストライプスインターナショナルは、ブランド名にあるようにエコロジーには前向きで、日経MJなどが度々紙面で取り上げている。レンタル事業の背景には服が売れなくなったこともあるだろうが、顧客がタンス在庫をかなり所有しているとの裏付けも得ているはずだ。いろんな問題点も指摘される同社だが、社会性をもつ事業がもっと認知されれば、受ける印象もずいぶん変わっていく。そのためには1ワード、1フレーズの言葉がカギになると思う。
ファッション業界では、「共存共栄」という言葉が使われて来た。メーカーにすれば、「小売店さんも儲けて、うちも儲かる」という姿勢を表す。でも、言うは易しだが、現実には難しいと思っていた。実際、今のビジネスを見ると、どこかが儲けるにはどこが儲からなくなっている。そんな構造に若者が気づき始め、自分たちのビジネスに違う価値観を求め始めたのだと思う。
エシカル、プロノボが一過性のトレンド用語で終わるのではなく、広く浸透し定着していくには、若者たちの弛まぬ行動にかかっている。単なるムーブメントで終わらせることなく、さらに大企業にもできないような実効力をもつ言葉にしてほしい。
トレンドはオンシーズンの2年前にカラーが決まり、1年前に素材が作られ、半年前にデザインが決まるという流れで来ていた。欧州の16-17秋冬コレクショントレンドでは、「マスキュリン」「80’s」「デコントラクテ」が発信されたが、それが日本のマーケットでそのまま商品化され、流行しているかといえば、それほどでもない。
一部のブランドが非構築で開放的な意味を込め、太めにシフトしている。ただ、従来からワイドを貫くブランドもあるわけで、それが目に見えるようなトレンド変化とは思えない。多くが変えた時の反動を危惧しているようで、トップスやボトムの一部で多少シルエットを変えているくらい留まっている。
最近ではコレクションショーと同時に商品が購入できるなど、業界慣習を打破するような画期的なシステムが登場している。ビジネスは常に形を生み出さなくてはならないし、それを広く発信して、浸透させるにはなおさら「言葉の力」は重要になる。ただ、言葉として浸透し定着するまでには、具体的なデザインが市場で露出しないと、マスメディアもなかなか取り上げてはくれない。
ビジネスは経済性をばかりでなく、社会に与して多くの賛同を得ることも重要だ。10年ほど前に発信された「ロハス」という言葉。これは消費ばかりに気を取られるのではなく、健康や地球環境も意識した高いライフスタイルを目指そうする点に着眼したものだ。この「ス」が意味する「サスティナビリティ(持続可能性)」も、真意が理解されているかは別にして、ビジネス面ではだいぶ浸透したようにと思う。
一方、「インバウンド」のように経営者サイドは期待を込めて使っているものの、今年に入ると実需は失速してしてしまい、言葉そのものの終焉を感じてしまうものある。
夏ぐらいからチラホラ取り上げられている新語が「エシカル/ethical(倫理的の)」だ。ファッションビジネスはどうしても効率を追う。それは原料の生産現場にまで及び、できるだけ生産性を高めようとする。天然素材は自然環境の変化に左右されがちだが、ビジネスはそれによる生産性の低下を許さない。
結果、大量の殺虫剤が使われることで、生産者の人体に影響が出ていると言われる。また、生産にかかるコストを出来る限り削減するため、途上国における賃金が抑えられ、労働環境の低下を招いているとの指摘もある。生産者にしわ寄せが行くのではなく、公正な取引を行う。そんなフェアトレードなファッションにも注目が集まっているのだ。
ただ、フェアトレード、オーガニック、エコロジーは以前から使われており、特段新しいものではない。だから、トレンド性という感じさせる意味では、エシカルという言葉の方が用いられ始めたのだと思う。
若者は新しい動きや流れには敏感だ。目的やゴールを同じくする活動を陳腐化させないためには目当たらしい言葉を出せば、それなりに反響は大きくなる。さらにエシカルを追求するブランドで、「プロボノ」する人も登場している。仕事で得た知識や能力を生かしたNPOやボランティア活動をするという意味だ。自分の能力が社会に役に立つかどうかだけではなく、広い視野を育んで人脈を広げていこうとしているようである。
その根底に感じられるのは、若者の間では自己実現=欲求を満足させるだけでなく、社会性を追求することにも関心が湧き始めているのではないか。「単に好きな服をデザインして、それを好む人に買ってもらって、お金を稼げればいい」。専門学校に入ったばかりの学生ならその次元だろう。何も知らないのだから、それはしかたないことだ。
しかし、大学生のように在学中から社会との接点を持つと、ビジネス現場を体験するに従い、考え直さなければならないことにも気づく。仕事に追われているとつい忘れてしまいがちだが、自分の仕事は本当に社会のために役立っているのかと、ある時期から自問自答していく若者も少なくないようだ。
好きな服を作って、それが売れて、お金が儲かり、有名になる。こうした自己実現の追求から、「それが本当に誰かを幸せにしているのか」。そこまで問い始めているのである。
本来は成り立たないと言われて来た「資本性と社会性の両立」に挑もうとするブランドも登場している。ビジネスとは何も儲けるためにコストを削減し、賃金を抑えることだけではない。十分なコスト確保と正当な賃金払いのためにどんなモデルを構築すればいいか。その辺を自社のシステムに形づくることで取引先の工場が潤い、地域が活性化され、創生する可能性は無きにしもあらずということだ。
また、そうした成功モデルを別の若者が目の当たりにすることで、継ぐつもりはなかった実家の仕事を「やってみようか」と思い直すかもしれない。それが実現できれば、資本性と経済性は両立するとの解釈もできる。
ジーンズやTシャツのすべてでオーガニックコットンを使う。ポリシーはカッコ良くても、ビジネスとなると中々実現できない。そもそもオーガニックコットンの定義すら曖昧な部分もある。それほど資本性と社会性は矛盾をはらんでいるのだが、それにあえてチャレンジしていこうという気概や責任感は凄いと思う。
単に新しいトレンド、ムーブメントを表現する言葉だけではつまらない。その言葉の真意、隠れた意味合いまで掘り起こすことで、トレンドが広がっていくこともあるだろう。
ユニクロが1兆円に迫る売上げを稼ぐことは素晴らしい。営業利益率の高さを見ても、ロスを抑えているのは理屈としてわかる。反面、本当にあれほどの商品が必要なのか。確実に売れて消化しているのか。期末に売れ残った在庫はどう廃棄されるのか等々。素朴な疑問も抱かざるを得ない。
DCブランド全盛期は、期末在庫は資産として課税対象になることから、メーカーでは焼却処分していた。ユニクロはそこまではしていないと思う。専門のリサイクル業者に委託して断裁、分別され、再生繊維になっていくのだろう。でも、詳細の仕組みはそれほど多くを語られず、ムーブメントになるような言葉も聞かれない。
ストライプスインターナショナルは、ブランド名にあるようにエコロジーには前向きで、日経MJなどが度々紙面で取り上げている。レンタル事業の背景には服が売れなくなったこともあるだろうが、顧客がタンス在庫をかなり所有しているとの裏付けも得ているはずだ。いろんな問題点も指摘される同社だが、社会性をもつ事業がもっと認知されれば、受ける印象もずいぶん変わっていく。そのためには1ワード、1フレーズの言葉がカギになると思う。
ファッション業界では、「共存共栄」という言葉が使われて来た。メーカーにすれば、「小売店さんも儲けて、うちも儲かる」という姿勢を表す。でも、言うは易しだが、現実には難しいと思っていた。実際、今のビジネスを見ると、どこかが儲けるにはどこが儲からなくなっている。そんな構造に若者が気づき始め、自分たちのビジネスに違う価値観を求め始めたのだと思う。
エシカル、プロノボが一過性のトレンド用語で終わるのではなく、広く浸透し定着していくには、若者たちの弛まぬ行動にかかっている。単なるムーブメントで終わらせることなく、さらに大企業にもできないような実効力をもつ言葉にしてほしい。