HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

衣デュースの薦め。

2020-08-26 06:34:44 | Weblog
 日本国内だけで年間28億着もの衣料品が流通し、約半分の14億着が売れ残って廃棄される問題。地球環境を保全し、SDGs(持続可能な開発目標)に取り組む社会を目指す上で、アパレル業界が取り組むべき最重要課題でもある。

 業界でも少しずつだが、活動が始まっている。その一つが古着をリメイクして新たな衣服に生まれ変わらせるものだ。と言っても、洋裁が得意なおば様の趣味やファッション業界に進みたい若者の手習いではない。プロのデザイナーがリ・デザインして付加価値を付けるアップサイクルで、「2.5次流通」を作り出すビジネスである。

 仕組みはこうだ。完全に不要となった衣料品を用いて、新たな服に作り替え、販売まで行う。もちろん、服を構成する素材自体が古着由来のため、生地を反買いしたような絶対的な用尺はない。限られた素材を活用して、いかに優れたクリエーションを生み出すか。そこにプロのデザイナーの英知と技が生かされる。

 また、リメイクで製造される商品は、二つと同じものがない1点もの。制作段階では一般サンプルのように何度も試作を繰り返すことはできない。素材を無駄にしないためにも完成形を想定した根気のいる作業になる。デザイナーにとっては集中力と粘り強さが必要とされるが、より社会性の高いクリエーションを作り上げる意味で、非常に誇らしい仕事とも言える。

 それを行うには、研ぎ澄まされたセンスと高度な縫製技術が求められる。定石通りであれば、先に生地や副資材(生地やボタンなども含め)の元となる古着を入手しておくことになる。それらを見ながら、頭の中でイメージを広げてスタイル画を描き、こうした絵を元に、服(一般のアパレルではサンプル)に縫い上げていく。逆にスタイル画が先行すれば、その後にイメージに合う素資材の古着を探さなければならない。これは非常に難しいことだ。

 古着の流通チャンネルは路面の個人店から全国チェーンのリサイクルショップ、バッタ屋、海外ルートまであり、探し出すには非常に手間と時間がかかる。昨今では、中古衣料でも通販サイトが作られ、デジタル写真がアップされているが、デザイナーが服作りに使用する場合は実際に現物を見て、素資材の色や質感などを確かめたいはずだ。こうした作業がクリエーションのレベルを左右すると言ってもいいだろう。


古着確保のネットワークやバックアップ態勢


 膨大な数量の古着の中から、クリエーションに使える素資材が簡単に見つかる保証はない。しかも、シーズンやコレクションは、ずっと継続する。そのため、デザイナーの判断である程度、高い付加価値を出せる素資材の古着をシーズンを跨いで確保しておく必要がある。一方で、どんな素資材でも選り好みせずに使うというのであれば、デザイナーのセンスや着想に依拠することになる。

 どちらにせよ、「いい古着が見つかれば、何か作ろう」では、安定したビジネスにはならない。素資材の入手、確保に関わらず、その後の制作プロセスは共通するからだ。リ・デザインから縫製までの作業フローを確立し、古着を確保するネットワーク、そうしたバックアップ態勢も不可欠になる。

 そして、肝心なのは、リメイクには高い縫製技術が必要なことだ。材料に使用する古着は同じものを大量に確保するのは難しく、単品しか入手できない場合は色や素材、デザイン、サイズはみな違ってくる。パターンは異なるため、襟、袖、身頃、細腹などの形はバラバラだ。サイズは着丈、背幅、胸幅、アームホール回り、袖丈、ウエストと、すべて異なる。服の劣化度も素材のクオリティや使用頻度、保存状態で変わってくる。古着なら虫食いや変色、臭いなどがあるのが当然である。

 だが、クリエーションを標榜する以上、Aの古着の身頃にBの古着の袖をつけて、「はい、出来上がり」というわけにはいかない。また、作り替えた製品が中古衣料のレベルでいいと言うことでもない。市販する以上は新品と認識されるし、衛生面などの条件もクリアして然るべきだ。SDGs目的なら商慣習の例外となるのではなく、商売の常識に合わせていくのがビジネスの不文律なのである。

 作業のプロセスは以下のようになる。古着一つ一つを解体し、襟、見頃、袖などの部位パーツに分ける。当然、著作権が絡むロゴマークやテキスタイルは除かなくてはならない。それらをクリエーションのイメージに合わせ端布(はぎれ)に加工(裁断)したり、生地の用尺が多い背中部分などは大胆に切り抜いて、残った部分の布は別のウエアに使用したり。フラットで使いやすい布だけでなく、ニットのリブまで惜しみなく活かすこともあり得る。

 パーツはそれぞれ色や柄、質感が違う。リメイクだからあえて違う色、異素材を組み合わせたり、似た素材を使って肌触りのギャップを減らしたりもできる。量産する服ではないから、型紙はないと思われるが、市販するには仕様はもちろん、細部にわたる始末まで既製服と同レベルでなければならない。当然、異素材であれば「縫い合わせにくい」ことも考えられ、ここでは高い縫製技術がものを言う。そして、出来上がった時に用いた布パーツが見事に調和して服としての主張があるかどうか。そこにデザイナーの技と力量が問われるのだ。

 最後に価格設定はどうするか。素資材は古着由来であれば、コムデ・ギャルソンのような人気ブランドでない限り、調達コストは抑えられる。しかし、作業に時間がかかるし、1点ものという生産効率の低さを考えると、量産品より割高にならざるを得ない。もちろん、コレクションに出品するデザイナーズブランドならそこそこの価格帯なのだが、さらにSDGsを目指すというプレミアをつけた価格に落ち着くと思われる。1点ものだから、ショーと販売を連動すれば、シーナウ、バイナウも可能になる。


廃棄を抑えるには新古衣料の活用も



 このような手法で古着をリメイクし、販売するブランドの代表格が「SREU(スリュー)」。2020年春夏東京コレクションに初参加し、色、柄、素材が異なる生地を用いたワイドパンツ、デニムの布パーツとオーガンジーをウエスト回りにあしらったスカートなどを発表して注目を集めた。2020-21秋冬では、ラグランスリーブの右袖を別布に切り替え、ドローストリングを加えたコートなどを発表している。

 SREUのように古着を新しいウエアに生まれ変わらせる循環を作ることは、大量生産、大量廃棄の構図にくさびを打ち込むことになるが、「新古衣料」のまま廃棄されるものも少なくない。これにも取り組まなければならないが、課題もある。まず一つはアップサイクル、リ・デザインの対象に新古衣料が足るかどうか。大量廃棄の中には、おそらくGAP、H&MやForever21などグローバルブランドも含まれていると思う。

 かつてZOZOTOWNが行った買取サービスでは、これらに加え「ユニクロやGU、無印良品、そして百貨店系アパレルは対象外」となっていた。ブランド古着、2次流通にそぐわないからだが、素資材という意味では違ってくると思う。大量廃棄を少しでも抑えるなら、新古衣料や2次流通から外れたものも活用すべきだし、デザイナー側もそれらをリメイクに活用してこそ、SDGsの目的に合致するというスタンスであってほしい。

 もう一つはSREUに続くブランドの出現である。ブランドが少数では生産量は限られるし、市場に出回る数量もわずかだ。何より製造に手間がかかる割りに収益が上がらないと、ブランドの存続も危ぶまれる。ネットベンチャーとのコラボレーションもあるようだが、後続のブランドとも切磋琢磨し、アップサイクル、2.5次流通で一定規模のマーケットを作り上げれば、プラットフォームなどの1カテゴリーとなって顧客を増やすこともできる。

 また、コンテストを開催してもいいと思う。服飾を学ぶ専門学校生、リストラされた企画スタッフやデザイナー、SDGsに関心があるクリエーターなどを対象にそれぞれのレベルに応じた部門でショーを開催する。専門学校生は学んでいる技術をさらに向上させるチャンスだし、若手デザイナーは目先を変えた服作りが意外な才能を開花させるかもしれない。利権臭くても、環境省が音頭を取ったり、地方自治体が開催する方法もある。三文タレントなんかを呼んだガールズコレクションより、遥かに実利と社会性があるのは明らかだ。

 筆者はほとんど服を買わなくなった。シーズンの変わり目には断捨離を行っているので、タンス在庫は自然に減っている。ただ、過去に購入した高価で上質なブランドは保存状態が良いので捨てきれないが、トレンドが変わり着ていないものがある。昨年は2着ほどリメイクしてまた着始めたが、この秋にも3着目に挑戦しようかと思っている。

 最近は新品の服でも、なかなか飛びつかなくなった。ただ、上質な素材を使ったものであれば、「ここら辺のデザインがもう少しこうだったら、買うのにな〜」というものもある。ならば、そんな商品がセールでも売れ残れば、購入してリメイクしてもいいかとも思う。自分的には「新古品リメイク」だろうか。どちらにしても、無駄に捨てられる服が少しでも減って、アパレルロスの低減、廃棄衣料のリデュースに貢献できればと考える今日この頃だ。

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エコファッション始動。

2020-08-19 06:33:42 | Weblog
 7月1日から全国の小売業で、レジ袋の有料化がスタートした。こうした活動がプラスチックゴミの削減にどれほど役立つのか。所管庁の小泉環境大臣は、「大してつながらないです」とあっさり認めた上で、以下のように続けた。(https://news.livedoor.com/article/detail/18707062/)

 「レジ袋有料化の目的は量ではないんです。900万tあるプラスチックゴミのうち、レジ袋が占める割合は2、3%程度です。もともと、レジ袋を使わなくなったとしても、削減できるプラスチックゴミの量は微々たるものだということをわかった上で始まっているんです」と、説明する。

 じゃあ、なぜ有料化したのかについては、

 「目的が違うんです。目的はレジ袋有料化をきっかけに、世界的な課題になっているプラスチックに問題意識を持ってもらうこと」と、答えるにとどめた。

 メディアは「ポリエチレンは石油精製時に必ず発生する副産物で、レジ袋を使わなくても産出されてしまう。マイバッグなどを使うと逆に石油の消費が増える可能性もある」と、有料化しても環境問題は解決しないと反論する。小泉大臣はそう言われるのは先刻ご承知だったようで、目的の真意をかざしてメディアの指摘をかわした。

 制度がスタートして間もないので、成果を論じるには早急すぎる。おそらく、これからもレジ袋を購入するお客は一定数いるだろう。また、マイバッグについては、各自の生活スタイルによって使用するかどうかが変わってくる。その温度差は簡単に埋められないと思う。結局は活動を通じて消費者に対して少しずつ意識づけしながら、エコバッグやマイバッグの定着、さらに商品包装の簡素化やゴミの削減に繋げていくしかないのである。


統一規格のエコバッグを作れないか

 このコラムは環境問題に深く与する場ではない。だから、ファッション業界として独自のエコバッグ・キャンペーンが展開できないかと思う。業界でキャンペーン向けのプロトタイプ(原型)を開発してはどうだろうか。市販のものに共通するのは、持ち手のついた手提げ式。まちがあるか、ないかくらいでバリエーションはない。
 いろんなイベントで、エコバッグらしきものが配られている。筆者もY-3福岡店のパーティ、繊研新聞主催の展示会PLUG IN、COS×東京アートブックフェア等々でいただいた。また、IKEAにあった大胆な柄のクッションカバーやアンナ・サランダーの綿生地で作ったリバーシブルのマイバッグもある。日々の買い物では購入品目に合わせ、これらをローテーションで使い分けている。




 仕事用のショルダーバッグには、パリ在住の知人がくれた「MONOPRIX/モノプリ」のエコバッグやセレクトショップが購入時に付けてくれる巾着袋を入れている。ファッションについてはショップでの購入が極端に減ったので、ショッパーも貯まらなくなった。もう7〜8年くらいそうした買い物スタイルを続けているため、レジ袋が有料化されても何ら困らない。でも、袋は物を入れるだけで、正直、デザインがどうのこうのという次元ではない。

 だから、多くの人にエコバックを使ってもらうには、ファッションスタイルとして仕掛けるのも一つの手だと思う。ニューヨーク時代に利用していたDEAN&DELUCAのエコバッグもそうではないか。せっかく持つならお洒落な方がいいし、レジ袋有料化を機にまた売れ始めたのはそうした理由もある。一方で、小学校に入学する児童がランドセルを選ぶのは慣習化した学童様式ではあるが、子供たちにとっては個性を主張するファッションとしても定着しているはずだ。でなければ、あんなカラーバリエーションは必要ない。

 ならば、エコバッグにもレギュレーションを持たせる一方、ファッションアイテムとして楽しめる要素を加えれば、子供から大人まで浸透して、少しは定着するのではないか。ノベルティとして無償で配布されるようなバッグは、端からローコストで製造されている。どうしても石油由来の素材が使われてしまうのだ。エコやSDGsを考える上では、コストをかけて有償にし、購入してもらうことが肝になる。
                                                         
 そこで、筆者が考えるのはこうだ。業界で形、素材、仕様、価格を統一し、あとはメーカーやブランドがフリースペースにプリントデザインを施す。ベースの袋は市販のSP用Tシャツの感覚だろうか。あくまで参加はフリーで、強制ではない。手提げ式のエコバッグは、まとめ買いすると重量が増し子供や女性には厳しい。そこでドローストリングの「ナップザック」型にして、少しでも負担を軽減する。休日や会社から帰宅途中の利用を啓蒙するのがポイントだ。

 サイズは子供、女性にもフィットするようにS、M、Lの3サイズを用意。子供向けは、お菓子や雑貨など、女性向けは日々の食材や飲料が入ればいい。男性向けはインスタント食品や惣菜、2ℓのペットボトルくらいか。もちろん、背負えることができ、買い物頻度に合わせタイなら、誰がどのサイズを使ってもいい。なるべく買い物を分散させることで、食品廃棄などを少なくし、ゴミを削減する意味合いもある。


ナノ素材を使って3DPで袋を作る

 素材は脱石油社会、プラスチック削減を睨み、リサイクル可能なものにする。エコバッグを持とうというキャンペーンのプロトタイプだ。廃棄される綿やウールのウエアを粉砕してナノファイバー化した原料を使い、3Dプリンターを利用して袋を製造してはどうか。せっかくなら新しいことに挑戦した方がいろんな面で活性化が図られるはず。すでに布用の3Dプリンターが開発されているので、実用性と普及を図る意味でも支援していけばいいのだ。



 素材イメージはフラノや縮絨のように目が詰まった感じがするので、質感、堅牢度とも十分だ。ハトメには金属を使い、再生を可能にする。紐は綿ロープなら袋本体との親和性もあり、絞りやすく緩みにくいと思う。買い物に使用するまでは、ショルダーバッグやブリーフケースに入れておけるように嵩張らなくするのがミソだ。

 デザインは背面外側のスペースに施し、プリントに使用する顔料は、なるべく天然由来のものを使用する。ロゴやキャラクターだけでなく、クリエイティブな写真などをプリントできるようにすれば、ファッション性がアップして人気が出ると思う。繊維屑が混じり合う素材は、無彩色になる。デザインスペースのプリントは映えるだろうが、型紙の段階で凹凸を加えておけば、ログマークや幾何学デザインを型押し風にできる。

 小学生はアニメのキャラクターなどを好むだろうし、若者はロゴマークや派手な柄のプリントでも抵抗はないと思う。ビジネスマンやワーキングウーマンが帰宅途中の買い物で使う場合、スーツの色合いに合わせると型押し風がいいかもしれない。まあ、自分の背中は自分では見えないが、周りの視線を考えると、ホワイトカラー向けには無色の型押しが無難か。ただ、遠目に見るとデザインが浮き出て見え、インパクトや訴求力があるという仕掛けだ。

 エコバッグの価格を低減させたり、気候変動対策に向けた資金を確保することまで考えると、デザインスペースを広告媒体にする手もある。ただ、これには露出の問題が関わるから一定の数量が必要で、制作点数を決めて広告主に買ってもらうことが前提になる。また、災害が多発していることを考えると、非常持ち出し袋としての二次利用も考えられる。

 まあ、基本はブランドメーカーが自社をアピールするデザインとし、自社商品の購入でも使用してもらえばショッパーを節約することもできるし、ゴミの削減にも繋がる。そうした活動を通じて業界が脱石油社会を目指す趣旨を徹底していけば、あとは自由でクリエイティビティなものでいいのではないか。素材を探して自分で試作品を作ってみよかと思っている。
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崩れた戦略バランス。

2020-08-12 06:24:37 | Weblog
 新型コロナウイルスの感染拡大で、百貨店やSCの休業・時間短縮が相次ぎ、アパレルの経営破綻、ブランド終了や店舗閉鎖、希望退職、資産売却が止まらない。先日もワールドが収益力を向上させるための構造改革として、ブランドの統廃合や希望退職の募集を発表した。しかし、リストラはすでに2015年から行われている。今回はコロナ禍の影響があるにせよ、負の連鎖に歯止めがかからない状況だ。

 筆者が注目したのはブランドの顔ぶれ。どれもワールドでは比較的新しいものだ。しかも、寺井秀藏社長の時代にスタートした業態戦略のうち、「FCOM(ファッションコモディティ)」の「ハッシュアッシュ」「サンカンシオン」、「バイイングSPA」の「アクアガール」「アナトリエ」、「百貨店SPA」の「オゾック」と、「専門店卸」を除き全てが入っている。これは何を物語るのか。


SPAが商品作りの精神を退化させた

 ワールドの中で3業態の代表ブランド、ショップが姿を消すわけだから、今のマーケットでは歯が立たなくなったのは言うまでもない。つまり、FCOM、バイイングSPA、百貨店SPA、専門店卸の4本柱で進めてきた成長戦略は、もはや過去のものなのだ。では、その要因は何なのだろうか。



 まず、FCOMのハッシュアッシュ、サンカンシオンは、ともに母親と子供のカジュアルウエアから雑貨までをリーズナブルな価格で揃えた業態。しかし、SCを訪れるお客が成熟してブランドより質か価格かのどちらかで選ぶようになり、割高なわりに質が低い両者は競争力を持たなくなった。しかも、ODMで生産する雑貨は利益が薄く、ウエアや化粧品などをミックスして何とか凌いできたが、そうしたビジネスモデルも限界に来たということだ。

 アクアガールは、若者が百貨店からファッションビルなどのセレクトショップに移る傾向に対応したショップ業態。スタートから数年は「マーク・ジェイコブス」や「シーバイ・クロエ」などと上手くシンクロしていた。しかし、同レーベルはデザインチームが企画しており、デザイナーの個性が際立つ海外ブランドと比較すれば、どうしても見劣りしてしまう。感度の面で主従関係が逆転すると、バイイングSPAは稼ぎ頭を失い機能しなくなる。

 アナトリエは、アクアガールほど高感度ではないが、肝心な同レーベルはデザイン、テイストで似たものがヤングマーケットの中で群雄割拠し、チープなブランドや全国チェーン店に比べると、割高な価格はどうしても足を引っ張る。なおかつ、雑貨やアクセサリーまでセレクトしながら、奥行きがないMDでは競争優位に立てなかった。いちばん厳しいゾーンで、終了を余儀なくされたと言える。

 オゾックは生産・小売りを一貫させたSPA業態で、シーズン中に人気が出たデザインをすばやく生産し投入するシステムを確立した。だが、根幹をなす「QR(クイックレスポンス)」は、POSデータを見てその時に売れている商品を生産し、売上げを稼ぐもの。そのため、シーズン前から企画に時間をかけて商品を作り込むことはない。結果として、MDが売れ筋追求の紋切り型になり、システムが完全に機能不全に陥ってしまったと言える。

 長らく専門店系アパレルとして君臨してきたワールド(ルーツはニットのコルディア)は、地域一番店の目にかなう商品作りをモットーにFC展開も積極的に行ってきた。バブル崩壊の前後から、そうした取引先が弱体化し、売掛金の回収が難しくなってきたため、卸部門を縮小して製造小売りのSPAに舵を切った。だが、それが逆に売れ筋偏重を生んだのである。

 さらにブランド戦略を拡大したことで、自前の企画チームでは人材が手薄になり、外部のOEMやODM業者を活用したために商品の同質化が否めなくなった。アパレルメーカーとして肝心な商品作りを疎かにしたことが自らの首を締めることに。全く皮肉な話である。

 もちろん、ブランドビジネスの宿命である顧客の高齢化や市場の縮小もある。オゾックは1993年のスタートした。当時20歳だったお客は、今では50歳に近いわけで、新たな顧客を開拓できなければ、売上げの維持は難しい。アクアガールは主要ターゲットが若々しいマインドをもつ層だから高齢化の影響は受け難いが、業態として採算ベースに乗せるだけの市場規模や客数の確保は容易ではない。

 ピークが2004〜05年だったとすれば、当時の20歳前半の顧客はすでに30代後半。結婚、出産を経験していれば、いくら高感度でもハイプライスのブランドにはそうそう手を出せない。アナトリエは新たに若い客層を開拓するにしても、このマーケットはよりチープなブランドとお客の争奪が激しく、クリエーションや価格などをあらゆる点を考慮して企画を進めなければならない。そうした力が今のワールドにあるとは思えない。


売場の意見を聞き、それを超える商品提案



 逆に考えると、存続するブランドは、直営展開で顧客のスライドが上手くいっていたり、卸先がしっかり顧客を掴まえているものだ。例えば、アダルトキャリアの「リフレクト」は、販売スタッフの意見を企画に取り入れる古典的な手法で売れている。コンサバで上品なテイストは不変だし、アンタイトルを卒業した層の受け皿にもなる。百貨店の不振が叫ばれる中でも、働く女性がいる限り求められるブランドはあるのだ。

 ハッシュアッシュやサンカンシオンとは対照的に、FCとして郊外SCなどの引き合いが多いのが「シューラルー」。母親や子供のウエア、雑貨ミックスというMDは同じだが、ディテールなどデザインが秀逸な割に、価格はユニクロと同程度。売れる理由が揃っている。ただ、後発に真似され追い抜かれることもあるので、リフレクト同様にさらに上をいく商品提案が競争を制するカギになると思われる。

 これらを総合すると、ワールドが生き残る道は以下のようになるのではないか。卸は取引先専門店の声に耳を傾けながら、タッグを組んでいかに顧客を魅了する企画を打ち出せるか。ワールドがSPAに走ったことを遺恨に思っているところもあるだろうが、それを引づるのではなく共存共栄の精神に立ち返らないと共倒れする。

 数は減っていても販売力を持つ地域専門店なら、客層にあったブランドFC、リザの小型版を任せた方がリスクは少ないかもしれない。もちろん、バーチャル展示会の開催やオンラインによる営業・商談は当たり前になるし、運命共同体として卸先の与信管理から在庫コントロールや販促、イベント展開まで強化することも必要だ。

 直営展開は、SPA大量閉店の理由から学ぶこと。ロスやコストを上乗せした価格で売るのはもう難しい。求められるのは価格に対し、それ以上の価値を提案できるか。巷にないような上質な素材、秀逸なデザインを作ってくれれば、買いたいというお客のわがままにどこまですり寄れるか。メーカーとして顧客を魅了する個性的な商品提案が必要だが、数は要らない。

 また、デジタル化の整備は急務だ。これから必要とされる店舗は、ECとシンクロするショールーム型だろう。一方で、お客からすればプラットフォーマーにはブランドが溢れかえるが、探し求める商品に出会えることは難しい。顧客がイメージを伝えたり、過去の購入履歴からAIが判断して商品を提案するシステムが理想だが、まず素材やサイズ、着心地などよりきめ細かな情報を提供するサイトを構築し、顧客ニーズに合致させることだ。

 ニーズを掘り起こすなら、イレギュラーサイズだろうか。すでに量産ファッションが限界だと考えれば、日本も体型コンプレックスを気にしない企画に動く覚悟がいる。D2CやC2Mといったデジタルシステムを駆使して、個々のお客に対応した商品づくりが市場を切り開く。イレギュラーサイズもその一つだ。15号以上でも既製のパターンに手を加えながら、着やすくておしゃれに見える服ができれば、まだまだニーズはある。

 ただ、実店舗でのアナログな接客販売だけでは、これ以上伸びようがない。デジタルに対応できるスタッフを育成し、タブレットを携行した接客を当然視する。もちろん、EC購入客に対しては、卸先を含めいくつかの店舗に「ピックアップコーナー」を設けるのも手だ。そこで商品を受け取り、返品もできる「エクスプレスサービス」が求められる。

 昨年9月、ワールドはゴードン・ブラザーズ・ジャパンとの合弁でオフプライスショップ「アンドブリッジ」をオープンした。コードンが買い付けたブランド放出品とワールドの余剰在庫を販売するもので、SDGsへの取り組みと在庫の現金化は新しいモデルと言える。ただ、高級ブランドの放出品は鮮度が落ち、色やサイズの欠品も多く、模造品もある。ワールドの余剰在庫はそれをカバーできるが、セールでも売れなかったアイテムばかりなら、お客は飛びつかない。現金化と在庫処分の一手段という程度で、多くは期待できないだろう。

 ワールドに限らずオンワードHDも三陽商会も、ブランド終了や店舗閉鎖、早期退職というリストラ策を打ってきた。しかし、百貨店の三越伊勢丹を含め、抜本的な売上げ回復の戦略は見いだせていない。現状、事業の仕組みを変えて市場の反応があるのは、「カシヤマ・スマートテーラー」くらいだ。それをさらに進めるワールド独自のビジネスモデルが待たれる。アパレル業界の雄が上げ潮になる戦略が打ち出さない限り、まだまだリストラは続くだろう。

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消え失せた創造哲学。

2020-08-05 06:23:54 | Weblog
 「無印良品の迷走が止まらない」「無印良品よ、大丈夫か」「無印良品、いきなり破たん!」等々と、このところメディアには識者が書いたラジカルな見出しが並ぶ。

 確かに経営母体である(株)良品計画が発表する経営データを見ると、識者にはその予兆が感じられるのかもしれない。まず、同社が7月10日に発表した2020年8月期決算見込み(20年3月〜8月の6カ月)では、最終連結損益が39億円の赤字になる見通しだ。

 米国事業はコロナ禍の影響で今期の純損が40億円を超えている。店舗をリストラするにも残る契約期間の家賃を一括で支払う特約に縛られるため、連結子会社では連邦破産法第11条(日本の民事再生法)の適用を申請した。家賃交渉や退店処理をスムーズに行うには、それしか選択肢が残されていなかったからだ。

 香港を合わせて300店舗に近い出店を誇る中国は、逃亡氾条例の改正や国家安全維持法の施行により、もはや一国二制度は有名無実と化している。周政権は米国の輸入規制による景気悪化で国家主義的姿勢を強めており、さらなる軍備増強や海洋進出をエスカレートさせれば、良品計画の事業展開にも無関係ではなくなってくる。

 バランスシートは企業の実態を冷静かつ客観的に伝えるし、グローバル経済において国際政治は景気を左右する最重要因子でもある。こうしたことを総合すれば、識者が無印良品の動向を憂慮するのはわからないでもない。ただ、1980年代から20数年にわたってずっと無印良品を使い続けてきた人間からすると、「モノづくり」が変わったことも要因の一つとして挙げられる。コアなファンであればあるほど、変化を劣化と感じ離れているのではないか。


わけあるモノづくりが生んだ世界観

 無印良品の誕生は1970年代後半まで遡る。当時、西武流通グループを率いた堤清二社長は、傘下にあった量販店「西友」のプライベートブランド(PB)開発を目論んだ。この時、開発のコンセプトになったのは、「消費社会へのアンチテーゼ」。市場では資本の論理ばかりが優先され、物づくりが本質から離れた商品が出回っていた。堤社長は商品にブランド名が付くだけで価格が上昇する現象に疑問を持つ。そこで「ブランドを与えないことで価格を抑える方が消費者に喜ばれるのでは」と考えた。それが開発の動機になった。

 命を受けたのは当時、グループの広告制作に当たっていたグラフィックデザイナーの田中一光やコピーライターの小池一子だった。西友のバイヤーでもなければ、メーカーの開発担当者でもない。一介のクリエーターたち。しかし、彼らが任されたのは明確な意図があった。それはクリエイティブワーク=創造作業=モノづくり。堤社長はコストを下げて収益を上げるのに心血を注ぐ人間より、彼らの方が真摯に物づくりに向き合えると、判断したのである。

 1989年には西友から離れて(株)良品計画が誕生。西武グループの威光に頼ることなく、独立独歩で発展を遂げる。無印良品はカテゴリーを衣料から食品、文具、雑貨、化粧品、家電、家具、住居へと拡大。生活全般の商材としてマーケットの中で確固たるポジションを築いた。筆者は大学時代にその存在を知り、社会人となってからは、購入頻度が高まっていった。80年代半ばにはDCブランドか、無印良品かというくらいに二者択一で使い分けていた。

 渋カジやストリートがトレンドになった90年代は、巷では着たくなるウエアがほとんど出回らなくなり、無印良品ばかり着ていた時期がある。シンプルでプレーンなデザイン。素材は天然繊維が主体で自然な風合いがあり、素材名も単にコットンや麻、絹ではなく、「天竺」「フライス」「モスリン」「ラミー」「きびそ」と、種別がタグに表記されていた。

 筆者の感性にフィットした理由を考えてみると、モノづくりに見られる哲学や意志、そこから生まれた世界観だろうか。当時、スニーカーのタグには「雑のう」の素材を利用したと書いてあった。舶来のキャンバス地を用いることなく、逆に日本的な素材で原価をかけるのが無印良品の真骨頂。昭和ひと桁世代には懐かしくもあり、バブル以降の人たちには粗野な感じが時流に合っていると受け取られた。



 派生系である他のアイテムにも、虚飾を排した独特の美意識があった。クラフトの大型封筒、クリアファイル、和紙風の便箋等は質感が好きになった。大型店に行くと、ついつい衣料品以外も購入してしまう。キッチングッズからテーブルウエア、インテリア、菓子まで、ニューヨークから戻った筆者のライフスタイルに溶け込み、買い物の定番となった。特に皮剥き器やA3のクリアファイル、スイートパイ(スクエア型のみ)はお気に入りだった。

 それらが少しずつ失われ変わっていくのを感じたのは、2000年代の半ばだろうか。デフレ禍の蔓延で価格が安いことが価値を決めるようになった。若年層の意識変化も影響した。何せ原価をかけた商品に出会えないのだから、商品価値などわかりようもない。リーマンショックを境に無印良品は質感より安さを押し出していく。それは創業時の「わけあって、安い」とは異なる。衣料品に限って言えば、低価格で買いやすい商品=無印良品となっていった。

 それで、良品企画は一時的に売り上げが伸びた。しかし、低コストで調達するためロットがケタ違いに大きくなり、店舗を大型化、店数を増やしてもプロパーでは売り切れず、値引き販売しても在庫を残してしまう。結局、数を売らなければ収益を確保できないから、さらに調達コストを下げてしまう。売り上げ効率ばかりを追いかけて、無印良品本来のモノづくりがなおざりにされていったように思う。


無印良品になくて、ニトリにあるもの



 2006年頃、無印良品で「麻100%の5ポケットパンツ」を購入した。ナチュラルな風合いで、生地にはこしがあり、ステッチまで同系色で統一したミニマル感が気に入った。何度洗濯しても劣化はなく、15年たったこの夏も穿いている。NBメーカーが発想もしないような企画ベクトルのアイテム。今になっては2〜3本大人買いしていればと後悔するほどだ。

 このような素材に重点を置く商品は、低価格戦略では生まれない。お気に入りだったスイートパイも廃番となり、食品の購入は品揃えが充実するカルディコーヒーファームに移り、無印良品ではせいぜい下着や靴下、ボールペンくらいになった。




 この頃、良品計画は一般から商品企画を公募している。テーマは確か「角」だったと記憶する。住居やオフィスなど暮らしの中で、得手して死角となっている「角っこ」にふさわしい商品を生み出す狙いだったと思う。ちょうど、事務所マンションのキッチンでシンク脇に置いていた「水切りラック」が15年以上の使用で買い替え時期にあった。

 ファッション雑誌のリフォーム特集で、よく見かけた西ドイツ製。折りたたみ式のコンパクト設計で、狭いキッチンでも場所を取らず、グラスやクヴェールが同時に水切りできる。15年以上も使用したので堅牢度は申し分なく、大きめのパスタ皿を置いても安定性が良い。さすが、質実重視のドイツが作った優れもの。以前は東急ハンズが販売し、筆者はキッチンハウスで購入したが、同じものはすでに製造中止になっていた。

 別の商品を探したが、どれも一般家庭向けで横幅のサイズが大きい。そこで、良品計画なら「作ってくれるかもしれない」「片隅に置ける≒角」と拡大解釈して先の募集に応募した。すると、テーマからズレているらしく、担当者から「当社では開発の対象にはなっていません」と、けんもほろろに企画書を突き返えされた。

 仕方ないので、Amazon.comで見つけたパクり商品をニューヨークの知人に頼んで2個買ってきてもらったが、両方とも半年も経たずにプラスチックのバーが折れてしまった。しばらくは100円ショップで購入した水切りと受け皿の組み合わせで凌いだものの、小さ過ぎて使い勝手が悪い。その後も無印良品がワンルーム、省スペース向けの水切りラックを企画する様子はなかった(現在はカゴタイプはあるが)。

 ところがである。取引先であるマンション投資会社の社長がこんなことを語った。「賃貸のワンルームマンションを借りるのは圧倒的に若い女性。だから、企画開発のためのアンケートを取るとキッチン周りの要望は多い。『場所を取らない水切りラックが欲しい』と言うのもあったね」。この話を聞いて、筆者のライフスタイルが特別なのではなく、生活者の中には同じように考えている人が少なくないことを実感した。



 ならば、どこかの企業がそうしたニーズを吸い上げても、おかしくない。案の定、ニトリが水切りバーがX状にクロスしたラックを販売した。日本のメーカー、山崎実業製で、現在はAmazon.comでも販売されている。事務所キッチンは横のスペースがないが、縦の空間には余裕がある。横幅がちょうどスペースに収まるので、即買いした。やはり消費者の声に耳を傾けて商品を品揃えし、無ければ開発に踏み出す。マーケットニーズを的確に掴むことがビジネス拡大の基本。ニトリの売り上げが伸びるはずである。

 翻って、良品計画はどうだろう。筆者はモノづくりの意思や哲学、世界観が無くなっていると感じる。売り上げ効率だけを追う大企業病というか。先の水切りラックにしても、ニトリが販売できて良品計画が作れないはずはない。「当社では企画開発の対象にはなっていません」という回答も、生活者ニーズを無視したエリート目線の対応に映る。大きくなりすぎたこと、いや業績拡大を狙い過ぎたことが、むしろ無印良品にとってはアキレス腱かもしれない。

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