HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

新しいが古着を制す。

2023-04-26 07:35:05 | Weblog
 古着が人気だ。筆者が住む福岡でも高級ブランド店が撤退する一方、古着店の進出は跡を絶たない。過去3年間にビルイン、路面で14店舗が出店した。2022年12月には東京・下北沢などで人気を博する「デザートスノー」が満を辞して福岡パルコにオープン。何度か訪れてみたが、比較的プレーンなアイテムを揃え、編集もきちんとしている。商品の状態が良く、これなら古着に抵抗がある人でも購入のハードルが下がるのではないかと感じる。

 その1ヶ月ほど前、大分市から大名に進出したのが「ゆとり」だ。商品は古着の割にトレンドから大きく外れないものを揃え、価格を抑えているところも競争力になりそうだ。大阪からは「カカヴァカ アール」や「JAM」が進出した。両店とも古着店の王道を行くような店舗で、広い店内にはジーンズからロゴ入りのTシャツやスエット、スタジャンまでアメカジテイスト、バリエーションの豊富さで勝負している。



 古着は若者に限ったわけではない。ヴィンテージやデザイナーブランドの輸入物は品質も良く、経年によって逆に味が出てくるため、洋服マニアの中高年を捉えて成長している。今まで古着を扱うことなど考えられなかった百貨店(伊勢丹本店)が古着店と提携して催事を展開するまでになった。担当バイヤーも「ヴィンテージクローズはお洒落な着こなしとして身近になってきた」と堂々と語っている。

 2000年以降、グローバルSPAやファストファッションは、製造コストを下げて作ったチープな服でマーケットを攻略した。古着人気はその反動でもあると思う。量産の服のように同じものが出回らず価格が手頃なこともあって、個性を主張したい若者は取り入れやすい。また、新品の服と比較して価値が高いと判断すれば、若者は多少割高でも手を伸ばす。中高年の洋服マニアなら、なおさらだろう。

 昔なら古着店は、その店を訪れるマニアやファンが対象だった。ところが、今ではネット通販が普及したことで、マーケットは全国に広がる。その古着を欲しいと思うお客がどこかにいるかもしれない。店舗販売と並行してオンライン販売を強化するところは、全国から御用達がある。マッチングの可能性が古着店の営業を下支えしているわけだ。

 ワールドのグループ会社で、主要都市にデザイナーズブランドのユーズド店を展開するRAGTAGは、オンラインショップで展開する商品を店舗に取り寄せできるようにしている。(但し、税込20万円以上の商品が含まれている場合は取り寄せできない)古着でも実際に試着をしたり実物を見てから、購入を判断したいというお客の要望にそったものだ。

 古着専業ではないセカンドストリートでも、各店舗の在庫を近隣店に取り寄せることができる。古着の人気が高まるにつれ、各店が各様の仕入れや品揃え、販売スタイルを競うようになった。古着と言えど、ファッションアイテムである以上、OMO(オンライン&オフラインの融合)はお客を捉える重要な手段となる。全国に店舗を構えれば、自社のネットワーク、物流網も最大限に生かしていこうということだ。

 ただ、大都市を中心に古着店は群雄割拠の状態になっている。そのため、次のビジネスモデルをどう構築していくかが勝負の分かれ道になる。1994年、大阪ミナミのアメリカ村で産声を上げたWEGOは、90年代末の東京・下北沢進出を皮切りに一気に全国展開の古着店にのしあがった。2000年代に入ると、アパレルにも進出してユーズド風ストリートカジュアルで、H&Mを凌駕するファストファッションに躍り出た。

 その手法はODM(相手先デザイン製造)調達で、デッドストック素材を活用したり、デッドストック製品のをリメイクすることで、エッジが効いたトレンド商品を低価格で打ち出した。デザイナーもの、アメカジ、ヴィンテージなど数々の古着を扱うことで磨かれた感性がユーズド風の商品作りにも生きたわけだ。


古着の競争激化で、行き着く先は…

 先日、そんなWEGOが古着のリメイクを本格化させるとの報道を目にした。同社は古着の買い付けを主に「ベール仕入れ」で行っている。これは送料コストをできる限り削減するために古着を圧縮包装して塊にしたものだ。100枚程度ものものから200枚オーバーのものまで大小様々のタイプがある。価格はベール単位なので、古着1点にすると非常に単価が安く、大量に仕入れることができる。

 一方で、デメリットもある。圧縮された塊にはどんな古着が入っているかは確認できない。汚れやダメージはもちろん、臭いがきついものなどが含まれる可能性がある。販売できないものは廃棄処分に回すしかないが、それにしてもコストがかかる。WEGOはそうした古着をリメイクすることで、新たな価値を持たせて販売できるようにする。併せて、不良在庫をできるだけ出さず、SDGsにも取り組んでいく狙いだ。

 大阪にある同社の拠点に企画デザイン、縫製の施設を設け、デザイナー3人を加えた8人チームで仕立てる態勢をとる。デザインは古着を見てから構想するのではなく、先にアイデアを出し合った上で、売りにならない在庫の中から合致するものをピックアップして商品化するものだ。もちろん、二つの同じ商品がない完全1点ものになる。

 第1弾は全部で37型で、価格は最高で約25,000円。古着にしては割高だが、1点ものという付加価値とデザイン次第では購入するファンがいるかもしれない。今後、社内のデザイナーがどこまでのクリエイティビティを発揮できるか。また、縫製まで手がけることで、服としても完成度を高めていけるか。ユーズド風ストリートカジュアルを作り上げた同社だけに期待をして見ていきたい。



 ワールドが2022年11月2日~6日まで、東京のワールド北青山ビル1階で開催した「246st.MARKET」では、RAGTAGの在庫を集め、一般客に販売している。同イベントのコンセプトはGOOD FOR FUTURE。リユースとクリエイティブにフォーカスし、新品を販売する一次流通と古着を販売する二次流通を循環させるサスティナブルな市場を作り出すことにも取り組む。

 昨年のイベントでは、10名のクリエイターが常時約30万点保管されているRAGTAGの商品倉庫に足を運び、インスピレーションを感じた商品をセレクトし、ビル1階のスペースに展開した。筆者はたまたま東京出張と重なったので訪れてみたが、デザイナーものが中心に揃えられ、平日でもありながら訪れるお客さんも多く、購入まで行くケースも見られた。

 他社でも店頭、ネットと展開できていない莫大な量の古着があると思われ、その中で埋もれたものを発掘し、販売機会を作ることもサスティナブルな市場を作る上では重要なことだ。クリエーターとしても単なる古着の発掘だけでなく、他がデザインした服を見ることで刺激になるだろうし、新たなアイデアソースにもなると思う。



 古着店のビジネスモデルは、大きく分けると以下のようになる。
 ①買取り、再販する小規模店
 ②米国製のデニムやレザーを主体に販売
 ③世界のヴィンテージ&ブランド古着を扱う
 ④グラム単位で測り売りをする業態
 ⑤ブランド対象に買取り、再販する全国チェーン
 ⑥補修やリメイクを施して新たな価値を創出  ⇦今ココ

 次にどんな業態が出現し、どんなビジネスモデルを作り上げるか。古着はモード志向や奇麗目トレンドに圧倒される部分もあるが、リメイクのノウハウを高めればそれさえ可能になるかもしれない。

 ただ、JAMなど有力店は地方から東京に逆上陸しているが、優良エリアでの路面展開では家賃などコスト負担が重くなる。古着人気は確かだが、コンスタントに収益を上げられるかは別問題。次のビジネスモデルで確実に利益を生み出せるかが今後の勝負になる。メーカーや小売りの枠を超えて、各社がどんなモデルを構築するか。今後も目が離せない。

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高いしまむらを売る。

2023-04-19 07:36:27 | Weblog
 しまむらが好調だ。同社が4月3日に発表した2023年2月期連結決算は、売上高が前期比5.6%増の6161億2500万円、営業利益が同7.9%増の533億200万円で、売上高、営業利益ともに過去最高を更新した。伊勢丹新宿店も23年3月期は、過去最高だった1992年3月期実績を大幅にクリアする見込みという。市場がいくら縮小しようとも、店舗や業態によって「一人勝ちしているところはある」と見て間違いない。では、しまむらの何が好調要因なのか。
 
 決算リポートには、「EC限定のインフルエンサー企画やキャラクターを拡充したこと」とある。EC事業の売上げは、前期比46.4%増の41億円と大幅に伸長した。コロナ禍で外出できず、アべイルやバースデイでもECで買い物したお客が多かったと見られる。EC事業は2022年11月のスタートと後発だが、会員は既に300万人を突破。遅れをとったものの、確実に売上げを押し上げていると見て間違いない。

 また、SNSでの情報発信がそのままECと連動していることも大きい。しまむらでは社内にスタジオを設け、インスタライブを配信。こうしたデジタルによる販促が非常に大きな効果をもたらした。実際、見てみるとプロが作ったというより、社内チームが取り組んだ動画制作にシマラーはじめ、多くのお客は惹かれているようだ。「らしさ」というか、気を衒っていない作りがちょうど良く、現物を見てみようという気にさせる。



 お客さんの代表であるインフルエンサーの活用も奏功している。「ここのデザインがこうだったら」「この商品なら素材はこっちがいい」なんて、しまむらの服で自分が感じた印象をSNSを通じて発信する。それに共感を持つフォロアーが多ければ、アパレルや小売りとしても無視はできない。

 「等身大コーデのMUMU」「星玲奈」。専属インフルエンサーとのコラボブランドが全国の主婦から絶大な支持を得たり、キレイ&カジュアルのスタイリング提案がヒットアイテムを生み出したり。その他「ULTRAMAN」や「王様戦隊キングオージャー」といったキャラクターものもキッズ向けでは王道のようで、こちらも売上げを牽引している。

 業態別に見ると、しまむらの売上高は前期比4.9%増の4616億5500万円。売場の断片しか見ずに、メーカーの残在庫を安く仕入れているという識者もいたが、それだけなら昨季の好調はなかったと思う。同社はメーカーではないので、オリジナルは開発しない。しかし、ロットが大きいから、ベンダーは「同社専用商品」とするケースが多い。



 それを進化させたのがPB、そしてサプライヤーと共同開発するJB(ジョイント・ディベロップメント・ブランド)だ。一時の低迷から脱却するためにコンセプトを見直し、高価格帯にシフトしながら、お客を捉えたことが好決算にも貢献したと言える。たとえば、「CLOSSHI」では機能性を高めた「CLOSSHI PREMIUM」、ビジネス向けの「CLOSSHI BIZ」を拡充させている。

 ホームウエアや寝具の「ここちラボ」、洗濯機で洗える「お手軽シリーズ」、美脚ジーンズの「しまデニ」と、それぞれの特徴や機能を明確にしたリブランディングが奏功。しまむらが安さで売れてきたのは確かだが、同社内では高い機能性がお客にとって価値があるものなら、価格が多少高くなっても十分に勝負できるという手応えを得たと思う。その自信がさらに企画のレベルを上げていくはずだ。

 筆者はしまむらをよく訪れる。以前は天神のノース天神に店舗があったが、ミーナ天神との一体改装で撤退。そのため、博多駅バスターミナルの店舗で売場、商品のチェックを行なっている。以前に比べると、テイストやルック提案が分かりやすくはなり、リブランディングされたPBではそれが解消、整理されつつあるように感じる。

 一方、ECではPBが独立して打ちされているので、欲しかった商品を探しやすい。お客はそのままサイトで購入することもあれば、実店舗を訪れるケースもあるだろう。しまむらは安いからこそ買い逃しも、衝動買いもしたくないと、賢い消費者は考える。そんな心理にOMOというか、売り方のバリエーションがうまくフィットしたわけだ。


紙媒体の広告は見直すべきか

 しまむらは2024年2月期の純利益が前期比4%増の395億円になる見通しも発表した。3期連続で最高を更新させよというのだから、PBなどで高機能、高価格帯の商品を拡充して売上げに寄与したことが自信に繋がっているようだ。

 今期の売上げ目標は3%増の6365億円。しまむら業態の既存店売上げが1.5%伸びると想定しての目標額だ。原材料や人件費、物流費などの上昇で、商品単価は6~9%上がるというが、機能性を高めたPBなどをさらに拡充することで乗り切る構えと見て取れる。

 正社員やP/Aの給与は、日本全体で賃上げ機運が盛り上がっているだけに、しまむらとして避けて通れない。優秀な社員やP/Aを確保する上ではなおさらだろう。それでも販売管理費は26%弱とわずかの増加にとどまる。計画では年に50店舗以上を出店するというから、売上増によって販管費は吸収できるとの目算なのだろうか。




 ただ、しまむらはしまむら業態の他にアベイルやバースデイでも、新聞折り込みのチラシを目にする。毎回感じるのは新聞購読者の減少とチラシのレスポンス率だ。筆者がすむ福岡市では発行部数がいちばん多い西日本新聞ですら、購読者の減少に歯止めがかからない。

 過去に80万部と言われた部数は現在、42万部程度(ABC調査)にまで減少している。2022年11月には、同紙の元販売店店主が押し紙で損害を被ったとして約5700万円の損害賠償を求める裁判を福岡地裁に起こしたほどだ。それに残紙を加えれば、とても40万部も購読されているとは思えない。対前年比7~8%の減部と見て間違いないだろう。

 お膝元の福岡市は人口が増えているにも関わらず、その中心は30代以下の若年層ということもあり、新聞離れが著しいということである。購読部数の減少は広告効果に繋がらず、折り込みチラシの見直しにも直結する。しまむらにとっても販管費に占める販促経費は、利益を上げるためには手をつけるべき重要課題ではないか。

 しまむらは折込チラシのデジタル版(各エリアごと)も制作している。しまむら業態は子供からお年寄りまでターゲットだから、折り込みチラシを見て来店するお客もいるだろうが、新聞購読者の減少を考えると、それも年々少なくなっているのではないか。だからと言って、戸別のポスティングチラシに切り替えればいいというわけでもない。

 アベイルは30歳以下のヤング、バースデイは幼児を持つファミリーがターゲットになる。こちらはネット&スマホ世代で、デジタル版のチラシで商品や販促をチェックしているのは間違いない。この世代は、国の少子化対策における子育て支援ともリンクする。しまむらとしても子育てに奮闘する層に対して、別の角度からアプローチしてもいいのではないか。

 また、バースデイはシングルマザーの御用達でもあると聞く。なおさら、彼女たちに新聞を購読するような金銭的、時間的な余裕はない。新聞折込のチラシにレスポンスを期待するマーケティング手法を見直す時期に来ているのではないだろうか。子育てに奮闘する母親や父親への支援というマーケティングなら、有効な施策になると思う。

 EC連動のインスタライブが効果を上げているのは、紙媒体の限界と表裏一体と言える。今年度の販売管理費は微増なのだから、折り込みチラシの経費分を別のマーケティング費に活用してもいいのではないか。広告宣伝はブランドロイヤルティを高めるものだし、プロモーションは商品の販売を促すものになる。マーケティングには欠かせないのだが、要はその内容と費用対効果だ。それにはデジタルを活用した双方向のマーケティングが不可欠と考える。

 AIがここまで発展していることを考えると、お客の反応をAIに学習させておけば、最善のマーケティング手法を提案してくれ、それでいて販管費を最適化してくれるような技術が登場するのも、夢ではない。しまむらが今後の成長を続け、高収益を上げていくには、高価格帯商品の拡充だけではなく、背景にあるマーケティング戦略をいかに進めていくかである。

 お客さんはもう安さだけで買ってくれない。それに代わる価値やメリットをいかに生み出すか。これからもさらに進化させていくことが「安さだけじゃないしまむら」「高いしまむらを売る」ことに繋がっていくと考える。
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CfDの服づくり。

2023-04-12 07:24:02 | Weblog
 アパレル卸、特に専門店系メーカーにとって大事なことが、企画力なのは言うまでもない。その条件には「他社が作らないような」「少し行き過ぎるくらい」「洋服好きが好む」がある。メーカーとしては営業的に売れ筋を作りたくなるが、取引先のバイヤーさんは自店のお得意さんのウォンツをもとに要望してくる。そこでは、他社にはない「尖ったもの」「スパイシーな」「エッジを効かせた」などがキーワードになる。

 最近ではそうしたテイストは、D2Cブランドもデザインしているが、必ずしも全てのアイテムがお客さんにとって「ド・ストライク」「こんなのが欲しかった」にはなっていないように感じる。いくらプロダクトアウトといっても、お客さんのことを経験値からよくわかっているのは小売りのバイヤーさんの方だ。そうした人たちにもコミュニケーションの場を広げ、いかに絶妙なバランスに仕上げるか。その辺も大事で、デザイナーの「聞く力」が問われるところでもある。

 小売り専門店、セレクトショップのような品揃えには、大きく三つの原則がある。品揃えの前提としてファッションイメージや価格帯、鮮度のバランスなどから考えていかなければならない。まず原則1は、「憧れや先取り」だ。シーズントレンドに関係なく、素材やデザインで少し先をいくもの。自店のお客さんに洋服好きがいればいるほど、「そんな商品を揃えている」から、毎シーズン購入してくれるケースが多いのだ。

 原則2は、バラエティのある提案。有名ブランドからオリジナル、小物やグッズまで、品揃えの幅が広がると、「服を探しに来たけど、お洒落なアクセがあったから購入した」と、意外性のある購買もありうる。ただ、ここには落とし穴もある。ターゲットにするお客さんにとっては、「何でもあるけど、欲しいものが見つからない」とならないとも限らないからだ。

 原則3は、買いたくなるものがあること。憧れや先取りの商品と区別し、「ベーシックなもの」「シーズントレンド」「定番カラー」「サイズ」を押さえていること。この割合をどうするか。広げ過ぎると何ともないショップになり、削るにしても全てで行うのは難しい。トレンドをカットすれば、色とサイズは揃えるという具合に。選択と集中が必要になる。



 品揃えの三原則をどんな形、どんなスケジュールで店頭に打ち出すか。全てを実店舗で、営業期に落とし込んで行うと、厳しい部分がある。例えば、憧れや先取りの商品を期初に店頭で展開しても、一般のお客さんからすれば行き過ぎて腰が引けてしまう。やはり顧客を対象にした形で行う「受注展示会」「コレクション」を別に実施するのがいい。

 新型コロナウイルスの感染者が減少し、お客さんが憧れや先取りの商品を求め始めたことで、顧客を対象とした限定催事が見直されている。これはかつてサロンブティック(高級婦人服専門店)がシーズン初めに必ず実施していた。コロナ禍以前にもセレクトショップや百貨店が取り入れており、売上げを積んでいたから確実性が高い手法と言える。

 ショップの営業期は大きく「導入」「実売」「処理」に分かれる。これは各店の性格によってもどの時期が強いかが変わってくるが、洋服好きの顧客を抱える店舗ほど期に関係なく催事に絞って憧れや先取りの商品を受注、販売するケースは少なくない。オンシーズンの半期前、つまり春の時期に「2023-24のAW〇〇の受注会」を行うものだ。

 コロナ感染者が減少し、お客さんが実店舗に戻ってきているからこそ、顧客に憧れや先取りの商品を直に見てもらうことほど購買意欲を刺激するものはない。少し前だったが、ユナイテッドアローズ(UA)の松崎善則社長がこうした販売手法にも言及していた。


小売りなら受注会、メーカーなら企画内見会



 そんなUAのDistrictは3月17日から21日まで、ニットブランド「Slopeslow」の「2023年秋冬コレクション」を開催した。同ブランドは、時を超えて愛用され続けるワークウェアのように経年変化を経ても長く愛用される、タフで上質、オーセンティックな「ニットウェア」作りを得意とするという。

 全13型、30種類を超え、価格は3万円台から17万円台。招待客は幅広いバリエーションの中から、好みの一着を選ぶことができる。まさに世界中から逸品をセレクトしてきたUAらしい受注展示会だ。インポートアイテムなどのバイング力をもつセレクトショップ、または百貨店ではこうしたブランドとしっかり組んだ受注会を実施できる。そんな仕掛けも差別化としてますます重要になってくる。

 全国津々浦々、そして、ネット通販。流通するマスプロダクトの商品は決まりきっている。コロナ感染が収束した今こそ、上質な素材、特別な色出し、目先の変わったデザインなど、憧れや先取りの商品の商品を揃えて、顧客の購買意欲に火をつけることは重要だ。

 百貨店の松屋銀座が開催している外商や自社カードなどの顧客を対象にした「松美会」。こちらは先日わずか2日間だけの実施にも関わらず、売上げ、客数はともに前年同期比で3割以上の増加だったという。顧客の側も日頃は店頭に並ばない商品を欲しているのは間違いないようで、どんどん仕掛けていくべきではないかと思う。

 先日、知り合いのレディースメーカーの担当者は、こんなことを教えてくれた。



 「取引先のバイヤーさんは、お客さんから『布帛とニットを組み合わせた服が着てみたい』との要望があったと言う。バイヤーさんは『そこで思ったんだけど、目の詰まったウール地とカシミヤニットを組み合わせた羽織ものなんてどう』なんて言い出して。他の取引先にも聞くと、確かに面白そうだって。ただ、過去の経験から折角サンプルを作っても、バイヤーがつけてくれないリスクもあるけど、1~2型ならやってもいいかも

 異素材の組み合わせは、コムデギャルソンのようなデザイナーズブランドがよくやっている。要望をしたお客さんとすれば、「シーズン初めに投入する見せ筋(憧れや先取りの商品)でもやってくれれば、購入するんだけどなあ」と、思ったのではないか。いかにも洋服好きな女性が考えそうで、バイヤーさんも目先を変えた商品なら、仕入れてもいいかと思ったのだろう。

 「ウール地とカシミヤニットを組み合わせた羽織もの」が製造可能かは別にして、こうしたお客さんのニーズを見れば、メーカーやD2Cブランドは展示会の内容を少し見直してみてはどうだろうか。サンプルからバイヤーに選んでもらうやり方ではなく、「内見会」という形で企画デザインを取引先の要望(お客さんのウォンツ)と整合できるようなスタンスで臨む。現物のサンプルではなく、デジタル画像によるスキーマチックイラストで見せてもいいのではないか。

 また、素材と副資材はデジタル画像にしたマーク(種類)や配色、トリミング・ディテールを準備しておく。国内の縫製工場はどこもフル稼働が続くので、工賃はもちろん、納期にも余裕を持たせたコスト管理が必要だ。「生地幅や用尺を元にこれにすれば、コストがかかるので上代はこうなる」「納期はいつくらいで、追加体制はこうです」などの情報も用意する。内見会の時点で、色やデザイン、素材の変更などについても、バイヤーとじっくり話し込む中で修正すればいいのではないかと思う。



 D2Cブランドも、自分達がデザインしたものをネットを通じて一方的にお客さんに発信するだけでなく、こうした内見会を通じてお客さんに対し「修正が効くオーダー」を受けることも必要ではないか。その時、「パターンは同じで生地を変えられる」とか、「生地は同じでデザインを変更できる」とか、柔軟に修正対応が可能かどうかもはっきりさせる。できないなら、できないとはっきり示せばいい。

 ただ、バイヤーを通さず直接お客さんに販売するブランドだからこそ、リアルだろうが、ネットを通してだろうが、「ここをもう少し修正してくれれば、着たいんだけど」という意見が多ければ、耳を傾けることも営業的に重要なことではないだろうか。

 ユナイテッドアローズのような小売業では、受注会でもメーカーが企画した商品を売るしかないようなイメージがある。しかし、お客さんから要望が多ければ、サイズや色替えといった要望はメーカー側にも伝えてのんでもらう「バイオーダー」は決して不可能ではない。商品を企画するメーカーやD2Cブランドもできる限り検討する必要はあると思う。

 気に入った服が見つかったら服を買いたい。こんなデザインの服ならお金に糸目をつけない。そんなお客は決して少なくない。そうしたウォンツをもう一度、現状のデザインに当てはめて、練り直しのチャンスに結びつけるか。CbD(Customer feed back Designer)による服づくりとでも言おうか。柔軟な発想とデジタルを生かした取り組みが求められている。
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心地いいを着たい。

2023-04-05 06:48:23 | Weblog
 1月の末だったか、SPAのアダストリアがグローバルワークから派生させた新業態「グローバルワーク スマイルシードストア(以下、GSS)」を展開すると発表した。
 キーワードはベーシック、デイリー、エイジレスで、日々の暮らしに密着したウエアを低価格(シャツ:1790円~2970円、パンツ:1980円~3960円など)で販売する。出店先はGMS(総合スーパー)や近隣型のNSC(ネバーフッド・ショッピングセンター)、ロードサイドの独立店舗。2名程度のスタッフを配置して接客を極力行わないセルフ販売とし、日常の買い物で生鮮や日配品を購入するついでに買ってもらう狙いのようだ。



 商品はグローバルワークで展開するソックス(330円)、パック入りの下着(1100円)、キャミソール(1980円)などを拡大。ホームウエア(英語にはルームウエアという表記はない)も充実させ、実用衣料により注力した。同ブランドは製造を商社に丸投げすることなく、自社のネットワークのもとで行なってきた。近年はオリジナル素材の開発も強化しているため、GSSでもこうしたノウハウを生かして質を追求し、低価格を実現したという触れ込みだ。

 そんなGSSが3月17日、東京・八王子にあるNSC「イーアス高尾」に出店した。同施設は高尾山登山口の一つ手前、JR高尾駅の脇に位置し、地元スーパーのサンワマーケット、大小のNBストア、個店などをミックスして日常の買い場として近隣住民を集客する。ユニクロやGU、チュチュアンナも出店しており、GSSはそれに割って入るかたちとなった。

 奇しくも3月9日、セブン&アイ・ホールディングスは、イトーヨーカ堂が運営するアパレルからの撤退を明らかにした。今後はGMSを首都圏に集中させ、2025年度までに全国で14店舗を閉鎖する。不採算のGMSは全て姿を消すわけだ。かたやアダストリアはGSSを苦戦のGMSに出店するというのだから、何とも皮肉な成り行きとしか言いようが無い。

 もちろん、イトーヨーカ堂に限らずGMSの運営会社は、首都圏の駅前など有利な立地では、衣料品をテナントに切り替えて巻き返しを図るはずだ。NSCも下着やホームウエアを揃えるテナントを誘致すれば、お客が買い回らなくて済むという目論見があるだろう。アダストリアはGSSをそうした受け皿にする思惑もあるのではないか。

 興味深いデータがある。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、日本は12年後の2035年には15歳以上の人口に占める「独身者(未婚+離別死別者)」の割合が男女合わせてほぼ48%に達する。未婚化・非婚化に加え、離婚率の上昇や配偶者の死別による「高齢単身者」の増加など、「ソロ社会」が急速に進行するのだ。

 それは消費構造の激変に直結する。人口の半分が一人で買い物するようになれば、若年の独身人口が多い大都市のSCや駅ビルはまだしも、車でのアクセスが必要な地方の郊外SCはもろに影響を受ける。高齢単身者の増加は免許返納、車離れの流れを加速するからだ。単身者は一度に大量の商品を買い込む必要がないため、買い物は徒歩や自転車、バスや電車で行ける近隣で済ませる。となると、駅前のGMSや近隣のNSCにお客が集中する構図に変わっていく。

 デイリーウエアではすでに無印良品が先行し、ユニクロも同じカテゴリーを充実させている。無印良品は都市(路面旗艦店含む)や郊外のSC(NSC含む)を、ユニクロは同様のSCおよびロードサイドを主な出店先とする。だから、メーンの客層は都市部に通勤するヤング世代から郊外に住み車を利用する中高年までだ。高齢単身者が増加し、ソロ社会が進行する中では、この2社に加えてグローバルワークも決して安泰とは言えないだろう。

 そのため、GSSはファッション性を追求するものの、展開先をGMSやNSCに拡大することで来店頻度の向上を狙うと思われる。ただ、1500万人もの会員を持つドットエスティのデータを活用してMDの修正を行うにしても、高齢単身者が増えて市場が劇的に変化していく中で、本当に求められるのはそこなのだろうか。


中高年にシフトした業態開発も必要

 GMSやNSCの主な客層は30代から80代までの女性だ。GSSをそこに出店し来店頻度を高めると言っても30~60代は車を利用できるから、日常の買い物のついでにデイリーウエアを購入する必要はない。また、施設の中に営業時間を延長したスーパーがあると、夜の8時以降に男性客が多く訪れる傾向がある。なのに男性向けの実用衣料はそこまで揃っていない。



 GSSの記者発表で披露されたブルーストライプのロングシャツ、アメカジライクなロゴ入り長袖Tシャツ、コットンプリントのTシャツ、スリムイージージョガーパンツだった。そこそこの感度をキープしているが、テイストは30代のファミリー層向けで、エイジレスと言いながらハイエイジには対応していない。男女とも50代以上の独身者が増える中、これらの層にもアプローチしなければ、覇権は取れないような気がする。



 GSSを見るとインナーシリーズはキャミソールが主体で、これでは中高年や高齢者の攻略は厳しい。先行する無印良品は「汗取りパッド付きフレンチスリーブTシャツ」「どこにも縫い目がないハーフトップブラジャー」を、ユニクロは介護が必要な高齢者のことまで考え「前あきUネックT(半袖)」を揃えるなど、中高年や高齢者にもきちんと対応している。

 また、ハイエイジを引き付けるには、下着は肌に優しいコットンの比率を高めることが肝心だ。その点でも無印良品、ユニクロの企画は遜色ない。無印良品は2022年の冬物で「あったか綿」シリーズをヒットさせて収益を回復させた。ユニクロも前あきUネックTでは「肌への負担もできるだけ軽減(綿91%、ポリウレタン9%)」を謳い、高齢者の捕捉に余念がない。



 逆にグローバルワークには気になるところがある。近年、オリジナル素材を強化していることで、昨シーズンくらいから商品の大半が「合繊」主体になってきたことだ。確かに原材料や人件費が高騰しており、サプライチェーンの分断リスクを回避する上でも、已むを得ない面はある。だが、あまりに急激な素材変更には戸惑っているお客も多いのではないか。



 ここで、ハイエイジ向けの衣料品をどこが提供しているか、見てみたい。下着やホームウエアでは、海外ブランドの専門店がある。イタリアの「ラペルラ」などはランジェリーのイメージが強いが、ファンデーション(補正機能も持つ下着)やラウンジウエア(ホームウエアと同義)も充実している。カルバンクラインのようにスポーティな下着専門店もある。主な顧客は富裕層だ。

 次にワコールやトリンプ、グンゼといった国内ブランドを扱う百貨店。こちらはNBのカジュアルウエアが苦戦し、下着やホームウエアはギフトメーンで、自分用は催事で購入するのが多数派ではないか。ボリュームゾーンでは無印良品やユニクロの他に大手ディスカウントストア(DS)があるが、どうしても価格訴求を軸にするので、細かなMD対応ではない。

 大手チェーン店では、しまむらは細かなMDが構築されているわけではなく、そこまでハイエイジを深掘りできているとは思えない。最近では、ドラッグストアが食品のラインロビングを加速しており、PBのアンダーウエアなども強化してワンストップショッピングを可能にするところは、高齢者の支持を得て売上げも好調だ。実用衣料でも侮れない存在だろう。



 あとはどの都市にもある小規模なDS。商材はフルアイテムを揃えるので、近隣にあればハイエイジは利用しやすい。高齢者向けのカジュアルウエアも揃えるが、下着やソックスではOUTDOORやDickiesなどのブランドはハイエイジ向きではない。メンズで言えば、G.T.HAWKINSのような綿主体でベーシックなものなら、ハイエイジも受け入れる。だが、問屋との関係からか、店頭からなくなっているところが多いと感じる。

 GSSがGMSやNSCで日々の暮らしに密着したデイリーウエアを販売していくなら、思い切って主要ターゲットの年齢を少し上げて商品開発を行うべきではないか。無印良品やユニクロはMDの幅を広げているので捕捉はしているが、巷に溢れる業態はハイエイジを必ずしも捉えきれていない。これがあれば、GMSやNSCもリーシングしたいのではないだろうか。

 アダストリアの前身、ポイントを設立し事業を拡大した福田三千男氏は、木村治社長が若かりし頃に、「失敗をしなさい」と教えたという。ハイエイジ向けのデイリーウエアや実用衣料を扱う単独業態はほとんどない。創業家の家訓を受け継ぐことは、アダストリアの躍進の礎になっている。それゆえ、失敗するしないは別にしても、試行錯誤の後に見えてくるものは必ずあると思う。本体で行うのが厳しいなら、子会社を活用すべきだ。

 今の中高年や高齢者のマインドは若い。ただ、加齢が進めば、身体にいろんな変調が出てくる。衣料品の選択肢も、デザインより着心地や補正機能、フィット感より肌触り、プルオーバーより前あき等など。デイリーの衣料品にはそうしたテーマに向き合うことが欠かせない。この先の10年で消費構造は劇的に変わる。それを見越した展開を考えるなら、より特化した商品作りや業態開発を先行すべきではないかと思う。
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