HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

お得意様はエトランゼ。

2025-01-29 06:53:29 | Weblog
 1月20日、米国でトランプ大統領が就任し、第二次政権がスタートした。就任前から米国第一主義を唱える政権が世界、そして日本にとってはどんな影響を及ぼすのか。業界各界では識者諸氏が様々な持論を展開している。その中で、アパレル&小売業にとっては日米の金利差が縮まらない限りは円安基調が維持され、インバウンド効果が持続するとの見方が主流だ。

 2024年、訪日客数は3686万9900人と、前年を47%上回り過去最高となった。全国百貨店(70社、178店)の24年1~12月売上高は、前年比6.8%増の5兆7722億円。コロナ禍前の19年比では3.6%増で4年連続のプラス。国内客売り上げは1.4%増の5兆1234億円と、19年比では2%減となったが、札幌、京都、大阪、福岡が2ケタ増を確保した。インバウンドは売上高、買い上げ客数ともに過去最高となった。東京や大阪など大都市の百貨店で、ラグジュアリーブランドや化粧品などの高額品が好調だったことによるものだ。客層はコロナウィルスが感染拡大する19年までは中国の富裕層が8割を占めたが、コロナ禍明けの23年からは台湾、香港、欧米が増加している。

 福岡のインバウンドは韓国からが主流で、中国、台湾、香港が続く。博多と釜山を結ぶ高速船のクイーンビートルが運航休止に追い込まれたものの、LCCがその穴を埋めている。彼らは若者を中心に急速に成熟しているようで、高額なブランドにはほとんど目もくれない。買い物のメーンは地元セレクトショップや古着、雑貨などで日本、福岡ならではのアイテムを購入する。ショップの中には、品揃えを韓国人の好みに合わせるより、日本人向けの商品をいかに韓国人にアピールするかに主眼を置くところが目立つ。地理的な利点を生かしてリピーターや顧客化に力を入れる狙いだ。また、福岡では半導体産業の隆盛から台湾人の訪日客も増えてはいるが、円安基調が続く当面は、韓国人が主力のお客になりそうだ。



 東京や大阪の百貨店で高額品の人気が高いのは、免税売上げを見てもわかる。2024年度は2年連続で過去最高を上回る見通しだ。免税売上高は三越伊勢丹が1800億円に迫る勢いで、大丸松坂屋も1300億円を超える見込み。阪急阪神は目標の1000億円から1200億円超に上方修正した。中でも、高島屋は24年9月~11月期は最高益を更新した。ただ、すでにインバウンドの売上げは高止まりしており、今後の伸びは限定的との見方もある。そのため、百貨店全体ではインバウンド効果を俄景気で終わらせてはダメとの意識が醸成されつつある。外国人客も日本人と同じく顧客管理をしっかりしていかなければならないのは確かなようだ。

 懸念される点はトランプ新政権がとる経済政策が為替変動にどう影響するかである。米国はドル高基調が続けばいいが、トランプ大統領には米国の輸出を促進したい思惑もある。ドル安を進めて円が10円、20円と高騰すればインバウンドも左右されかねない。為替は変動するものという前提で捉えれば、それでも外国人の富裕層にもっと買い物してもらえるように各業態がどう魅力を打ち出すか。要は日本人のお客と同様に「買い物するならあの店、接客してもらうならあのスタッフ」という感じで、リピートしてもらうことが重要になる。滞在中または再来日のたびに何度も買い物してもらえるようにいかに顧客化していくか。各社の戦略が訪日外国人の購買拡大には欠かせないと言える。



 百貨店のトップが述べた2025年の年頭所感で目立ったのは、外国人向けのアプリとスマートフォンによる決済サービス。アプリは店舗での利用客を識別できるため、購入者に商品やサービスの情報を提供することで顧客化につなげることができる。スマートフォン決済もいろんなブランドが登場しているため、バリエーションを揃えることが顧客の利便性向上や顧客満足度のアップに貢献する。さらに大手百貨店では海外のVIP客に対応するために外国語が話せるアテンドスタッフを配置するようになった。地方百貨店でも主力の中国や台湾、香港からの旅行者に対応するために、北京語や広東語が喋れる社員の採用が始まっている。



 ただ、外国人を顧客化するカギは、商品(ブランド)やデジタル(アプリや決済手段)の次の段階に移行していると思う。例えば、各地の名産品をブランド化したよりプレミア感を持つ商品の開発である。商品そのもののレベルアップを図ることはもちろんだが、日本では失われつつあるパッケージや包装紙などをグレードをアップすること。各地の名店と百貨店がコラボすれば、不可能ではないだろう。外国人に対しても自ら購入するだけでなく、ギフトにした時のホスピタリティまで意識したモノづくりが不可欠になる。心から歓待されることを自らのステイタスと位置付けるのは、万国共通のはずだからだ。


お客が求める商品は1点から取り寄せるか!?

 資本力のある大手百貨店は、日本人客もインバウンドも多面的な施策で捕捉することができる。だが、地方百貨店は足元の市場が少子高齢化で縮小し、インバウンドも大都市の百貨店ほど恩恵はない。テナントビルに業態転換して生き残りを図れるところは少数派で、八方手詰まりの店舗は営業終了や閉店せざるを得ないのが実情だ。熊本のようにTSMC(台湾積体電路製造)の工場進出で旅行から居住へ切り替える訪日外国人が増え、地元の百貨店がタナボタ需要に恵まれているところもある。地方百貨店としてはこれを追い風にMDを充実させ、サービスも拡充して一気呵成に出たいところだろう。

 ただ、熊本に台湾の富裕層が居住しているなら、むしろ福岡の百貨店にとって顧客化のチャンスではないか。優しい言い方をすれば、熊本の百貨店は地方型の品揃えに過ぎないから、それに富裕層が満足するとは限らないからだ。厳しく言えば、小売業界は弱肉強食。富裕層のマーケットが隣県にあるのに、上級百貨店が指を咥えて眺める必要はないことになる。関東圏に例えるなら、千葉に住む外国人の富裕層が欲しい商品を求めて東京・新宿の伊勢丹まで買い物に行くことはあり得る。福岡と熊本の距離もこれとほぼ同じだから、買い物に出かけるケースはあるだろう。ならば、掴まえない手はない。



 福岡・天神には三越伊勢丹系列の岩田屋、Jフロントリテイリング系列の福岡大丸がある。これらの品揃えは県境を超えた富裕層の争奪にも有利なはずだから、積極的に開拓してもいいのだ。福岡の百貨店にも外国人の富裕層を呼び込む戦略があって当たり前だ。

 では、ハンディがある地方百貨店はどうすればいいか。三越伊勢丹、高島屋、大丸松坂屋などの系列ではあっても、リーシングできるブランドは限られる。外国人の富裕層を顧客化する上で、そうした問題にどう対応していくのか。例えば、こういうケースが考えられる。外国人の顧客がネットでは販売されていない「あのブランドが欲しいんだけど」とのウォンツを示した時。外商スタッフは「あいすいません。そのブランドは当店では扱いがないんですよ」と答えるのか。それとも「扱いはないのですが、入手できるように手を尽くしてみます」と答えるのとは外国人の印象も違ってくるだろう。

 ブランドの入手ができる、できないは別にして、日本の流通事情を知らない外国人を顧客化していくには、そういう姿勢を示すことも必要ではないか。もちろん、購入額など顧客のレベルで、対応できる内容も変わってくると思うが、お客のわがままに真摯に応える姿勢を見せるのも、顧客化の第一歩になる。単なるブランド販売ならテナントビルでも可能だが、百貨店の独自性は顧客の思いに寄り添うところにもある。海外店舗などの相互送客に乗り出すところも出てきているが、究極は利益が折半になっても、系列を超えてブランド(商品)を融通し合えること。もう百貨店の敵は百貨店ではなく、ネットなど他のチャンネルなのだ。地方百貨店にとっても生き残るヒントの一つになるかもしれない。



 外国人の富裕層を顧客化するブランドやサービス。だが、その先にどんな施策があるのか。局面は大手百貨店と同じ過程に移行しつつあると思う。日本人と同じで外国人もブランドだろうが高級食材だろうが、メジャーなものが手に入るようになると、やがては飽きてくる。そう考えると、日本の埋もれた名品を知ってもらうのはもちろん、そこでしか体験できない「コト消費」にも目を向ける。さらにモノやコンテンツの新たな運用や組み合わせを行う「トキ消費」も注目される。体験型の消費に外国人も積極的に参加してもらうことだ。別に難しく考え、ハードルを上げることはない。要は「日本でどんなことを楽しみたいですか」と聞けばいいのだ。

 すでに東京などでは、インバウンド向けに日本の伝統芸能や文化を体験したり、自然や四季を満喫したりするなどの活動が行われている。例えば、レンタルした着物での街歩き、茶道や日本舞踊、和菓子作りなどの体験、伝統的な祭事への参加などだ。さらに訪日外国人が日本に定住するようになると、地域とのつながりは欠かせない。当然、コト消費が促進されていく。従来は旅行企画の一部だった娯楽や余暇を日々のライフスタイルに組み込んでいけばいいのだ。日本の各地にはいろんな「コト」がある。日本人には当たり前でもあっても、外国人にとっては未体験。それを掘り起こして消費に結びつけることも顧客化の一つになる。



 一地方百貨店では難しいだろうから、自治体や商工会議所などと組んで実施していくことが必要になる。もちろん、外国人のウォンツを引き出すには、百貨店の外商スタッフが御用聞き的な形で、積極的にコミュニケーションをとっていくことが不可欠だ。これは大都市、地方を問わず、百貨店が外国人の需要を喚起する上では重要なはず。そうして声を集めて精査し、できるかどうかの検討を進める。全てが実現可能ではないと思うが、外国人を顧客化する上では各自に対するマーケティングが不可欠になる。地方百貨店が生き残る上でも重要だ。

 地方百貨店が外国人を顧客化できれば、地域の専門店や個店も続いていけるのではないか。アプリやスマートフォン決済などインフラ整備には限界があるが、QR決済くらいのサービスは地方でも進んでいる。あとは個店レベルで訪日外国人にどうアピールしていくか。韓国人のように自らいろんな店舗や業態を探し歩く外国人もいるが、中国や台湾、香港などの人々はそこまで成熟してはいない。だから、百貨店ほどの知名度がなければ、業種、業態ごとの店舗情報を網羅したアプリの開発が必要だろう。「こんなテイストの商品を扱っているお店は」「このブランドが買いたいけど、どこに行けばいい」「外国人にも気軽に対応してくれるところは」「この街らしいカルチャーは」等などと、検索機能を充実させていく。

 個店レベルでのアプリ制作は厳しいから、自治体や商工会議所などが支援していくことも必要だ。ブランド購入、サービス拡充、モノからコト消費へ。さらにコト消費からトキ消費へ。モノやコンテンツを買って、どうやって生かすか。モノを使っていく背景・過程を楽しむストーリーを消費することに置き換わっている。なんて意見も散見されるが、居住外国人はまだそこまで成熟はしていないだろう。ただ、百貨店を利用してきた日本人と同じ道を外国人が辿るのは想像に難くない。しかも、コトやトキの消費は、思い出や記憶という資産を生む。

 つまり、何を提供すれば、顧客としてキープできるのか。地元の隠れた魅力を掘り起こし、それを外国人にも伝えていくという視点が地方の百貨店、小売業に課されたテーマだと考える。エトランゼをお得様にするためにも。

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冬なのに春が売れる。

2025-01-22 10:20:30 | Weblog
 一昨年、昨年と12月は冬らしくなった。おかげでウールのセーターやパンツを自宅の衣装ケースから引っ張り出した。暖冬で10年ほど身につけなかったので、虫干しにもちょうどいい。その中で、偶然にも見つけたのが40年前に父親へのクリスマスプレゼントで購入したCalvin Kleinの縄あみのカーディガンだ。


 父親は寒がりだったから、冬になるとずっと着ていたようだ。家人がきちんと防虫対策をしていたので、虫食いひとつなく状態はすごく良い。色はニューヨークブランドらしく微妙な色を撚って出したアースカラー。昨今のグローバルSPAには出せない絶妙な色合いだ。手持ちの衣服では、ファッション専門店のマルセルがイタリアのメーカーに別注したジップセーター、ニューヨークで購入したアルマーニAXのセーターを超える最長記録の代物。しばらく自分が着ることにするが、改めてオンワード樫山のハイレベルのものづくりには脱帽である。

 筆者が住む福岡の寒さは1月中は続くだろう。ただ、各ブランドやストアは冬のセールに入っており、ラインナップされているのは売れ残り在庫だ。また、福岡の日差しは日に日に明るくなって、黒や茶、紺といったダークな色合いでは重たく感じる。だから、どうしても購入には二の足を踏む。プロパー、セールを問わず、新規で買うならブライトカラーが良いのだが、多くのお客も同じように思っているようで、ネット通販ではMなどの売れ筋サイズは完売が多いというのが今年の印象だ。

 もちろん、寒冷地の方々は年が明けても防寒衣料は不可欠だ。九州の人間とは感覚が違いのもわかる。そこで、2024年秋冬のメンズアイテムの中で、「売れ筋サイズ」が「完売」もしくは「欠品」しているものの中から、25年1月初旬でもこれは「買いだな」と思うアイテムをピックアップしてみた。その一例が以下である。



◯セーター ウール90%、カシミヤ10%
毛の縮れを伸ばす圧延仕上げで、肌触りを良くした。
気温が上がり始める時、インナーに着やすいラウンドネック。

◯セーター コットン95%、カシミア5%
コットンにカシミアを混紡し、柔らかさ、心地よさに加え、保温性を実現。
ファンネルネックで防寒、ジップで被りやすさを追求。

◯セーター コットン100%
秋の初霜に向けた企画。ジッパーを開けて着用することも可能。
通気性、軽量性に優れるので、春向けにもいい。

 ◯シャツジャケット ウール100%
ドレスシャツとインサレーションジャケットのいいとこ取り。
防寒のために薄手のセーターの上に重ね着できるオーバーシャツ仕様。

 他にもコートやパンツを探したが、冬物の売れ残りがほとんどだ。中でも、コートはダーク系のカラー、ウールが主体なので、この時期には購入を考えてしまう。厚手のコットンギャバを使用したブライトカラーのロングコートがあればプロパーでも買いなのだが、イメージ通りのものは企画されていない。パンツもウールとコットンを半々ぐらいにしたものが理想だが、こちらもブライトカラーは定番のコーディロイか、薄手のチノ、あとはジョガーパンツばかりで、この時期にちょうどいいアイテムが見つからない。



 逆に冬場のブライトカラーは動きが鈍いのかと思いきや、価格次第では12月中にプロパーで完売したものもあった。その一つがZARAの「テクニカルフード付きジャケット」だ。色はオフホワイト。表面は撥水性をもつテクニカルキルティング素材のポリエステル100%。デザインはハイネックで、調節可能なフード付き。サイドストレッチ素材で調節可能な裾、スナップボタン付きプラケットコンシールジップアップフロントで、防寒性をもつ。これだけの機能を持ちながら、価格が2万円もしなかった。完売したのは価格が手頃だったこともあるが、カラーやデザインの面で気候に関係なく欲しいと思わせた点もあるのではないか。

 仮に本家のマッキントッシュが企画するなら、表地は厚手のコットンにゴム引きにするようなところを、ZARAはポリエステルにして価格を抑えた点もファストファッションならではで納得いく。年明けに同系のカラー、デザイン、素材でスピンオフのアイテムが発売されるかもと期待していたら、何とcoming soonの告知でほぼ同じ仕様のジャケットが再販される。昨冬にブライトカラーがプロパーで完売したくらいだから、春先ならもっと売れるだろうと踏んだのか。最速・最短でマーケットに対応し、圧倒的な価値創造をできるインダストリアルSPAのZARAだからこそできることだ。


気候激変で悩まされる冬場のMD

 昨年の末だったか、某テレビ局の情報番組が「年末セールと新春セール、どっちで買うのがお得か」というテーマで、商品カテゴリー別の購入メリットを紹介していた。そこで、衣料品は「新春セールの方がお得」だった。理由はメーカー側が「季節商材は2月中に売り切りたい」、「12月よりも1月をより安く販売するから」だった。動きの悪い商品はまずマークダウンして様子を見ながら、それでも売れなければセールにかけるのだから、当然と言えば当然だ。ただ、セールにかかる商品にはそれなりの理由があることも確かなのだ。

 消費者の立場なら何でも言える。だが、メーカーは生地の手配からデザイン、縫製まで計画しなければならない。大変なことも理解しているつもりだ。ただ、これだけ暖冬が続いているのだから、秋冬物の企画を抜本的に見直さなければならないのではないか。特に2024年の冬は12月の頭でもアウターがいらない好天、高気温の日が続いた。もちろん、秋冬物が全く必要ないというわけではない。素材、色を見直し企画を変えて年末から年明け、梅春までプロパーで引っ張れるものにシフトした方がいいのではないかということである。

 秋冬物は春夏に比べると、単価が高く収益のアップに期待できる。そのため、メーカー側も肉厚のヘビー商材に注力するのはわかる。ただ、こう気候が異常に推移してしまうと、シーズン商品が消化できなければ現金化を優先するあまりマークダウンやセールにかけざるを得ない。だが、それはプロパーでは売れていない商品だということ。お客の側も暖冬で着る機会がないから購入を控えるわけだし、12月に入ると尚更セール待ちになってしまう。それでも、年が明けて日に日に春らしくなるとダーク系の色や厚手のオーバーコートは着る機会は限られるので、プライスダウンでも購入にはなかなか結びつかないと思う。

 12月後半のセールを見ると、各メーカー、各ブランドとも割引されているのは、外した素材、色、企画がほとんどのように見える。業界でも投入時期の見直しが叫ばれ始めている。2024年の夏は猛暑だった。そのため、セール期間を短縮したり、着る期間が長い盛夏向けをプロパーで販売するなど、修正したところもあった。それでも、セール期間中にどんなプロパー企画の商品を投入するか。また、いくらで売るのかなどで、メーカー側にも迷いがあるように感じた。

 夏と違って冬のセールは、ブラックフライデーに始まりクリスマス、初売りとシーズンを通して長丁場で仕掛けが続く。言い換えると、気温が高めに推移する中では買いたくなる商品がなければ、ただダラダラしてシーズンが過ぎていくような感じさえする。1月、2月には中軽衣料の新商品を投入する必要があると言われるが、秋冬物を外したのであればその後に企画する商品はなおさら難しくなるのではないか。「また外したらどうなのか」「本当に鮮度アップできるのか」と、不安がつきまとうからだ。



 ならば、思い切って厳冬素材や冬色の比率を抑えても良いのではないか。大手アパレルで難しいなら、中小は大胆に大手がやらないようなMDにシフトするのどうか。11月から2月末までを冬季とした場合、色(ダーク系)や素材(厚手・ウール100%)のアイテムは2割、ブライト系、中厚、コットンウール混紡、カシミア、コットン100%(厚手)は8割とし、冬季シーズンを引っ張るというものだ。ある意味、ドラスティックなやり方かもしれないが、そのくらい覚悟を決めたMDに見直さなければ、市場は反応しないのではないかと思う。

 2025年1月初旬で完売したものやサイズ切れしているものから判断すると、条件はカラー、素材、アイテムである。カラーは明るめのホフホワイトや生成り、サンドベージュ、ペールブラウンなどだ。素材はウールとコットンの混紡などで、ウールのバランスを抑えたもの。それをカシミア混にするなら保温力とコストを加味して5%混紡くらいでもいい。そして、1月、2月の新商品はコットンの比率を上げていけばいい。アイテムは単品のニットやパンツ。軽めのハーフコートやフード付きのジャケット。レザーなら思い切ってホワイト系やブライトカラーもありだろう。

 アパレル業界はかつて顧客向けに12月に春夏コレクションを開催して受注を取ったり、店頭でもクリスマス明けから「梅春向け」の商材を少しずつ展開していた。ただ、これだけ冬物商戦が不発に終わり、尚且つ短くなっていることを考えると、前倒しというかシーズン一環で堂々と展開してもいいのではないか。そして、純然たる冬物より「春色、暖冬素材を長く着よう」という少し行き過ぎたくらいの売り方の方がお客には響くかもしれない。実際、筆者が見る限りでは、2025年1月初旬の段階で、春色の冬物で完売しているものは意外に多い。かなりの消費者がそう感じているという証左だ。

 夏から続く猛暑、高気温、暖冬を想定したプロパー販売に耐えうる商品企画とMD構築。そのためにはカラー、素材、アイテムがキーになるからから、価格はどんなバランスでどう設定するか。もちろん、デザインはいうまでもないのだが。シーズン商品が完全に変わったと思わせるようなものの登場に期待したい。

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身勝手は盗まれる。

2025-01-15 07:07:43 | Weblog
 ちょうど1年前だったか。政府はネット通販などで注文した商品を「置き配」で受け取る利用者へのポイントを通販事業者に与えると、発表した。トラックドライバーの時間外労働時間が年間960時間を上限に規制する「2024年問題」に備え、運送事業者の負担になる再配達を削減する狙いからだった。このコラムではその課題についても書いた。(http://blog.livedoor.jp/monpagris-hakata/archives/56002153.html



 筆者が懸念したのは置き配に指定した荷物の「盗難」だ。自宅を置き配に指定する場合、戸建住宅では玄関前に荷物が置かれると、無防備なことから盗まれる確率が高くなるからだ。ドライバーがファスナー付きの宅配BOXに収納していても、過去にはBOXごと盗まれたケースもある。オートロックのマンションでも、別の住民が入口ドアを開ける時に、窃盗犯がすれ違いで入ることはできるし、非常階段の塀を乗り越えれば侵入できるマンションもある。このことからすでに置き配の盗難被害が出ていると指摘した。

 筆者は宅配ドライバー風の窃盗犯らしき人物が事務所マンションの非常階段に潜んでいたところに鉢合わせしたことがある。名札は付けず、伝票や業務端末、小型プリンターも一切携行していなかった。窃盗犯であっても、姿形が宅配業者風なら盗んだ荷物を持っていても、すれ違った住民は荷物の受け取りか、不在または誤配かとしか思わない。という実体験をもとに盗難のリスクを取り上げた。

 最近ではマンションからオフィスや店舗、戸建住宅までに防犯カメラが設置されているが、窃盗犯が堂々と犯行に及ぶのはテレビニュースでも枚挙にいとまがない。映像は容疑者が逮捕・起訴されると裁判の証拠になるが、犯罪の抑止力としてはあまり機能していない。率直な感想を書いた。

 ところが、政府の置き配の推進からちょうど1年。筆者の懸念は現実のものになっている。11月のブラックフライデーから年末商戦にかけて、宅配便の置き配が増えるに従って盗難も増加していると、テレビ各局が報道した。その中には筆者が取り上げなかった新たなケースもあった。それが以下である。

◯ガスメーターボックス内への「置き配」を指定
→帰宅後、ガスメーターボックスを開けたが荷物は見当たらない
→宅配業者が提示した配達時の画像には確かに荷物が置かれた様子が写っていた。
→通販サイトに相談しても対応を断られた

◯30代の女性はフリマアプリを利用しネックレスを販売
→荷物を発送し、スマホの画面に配達済みと表示された
→購入者から受け取り評価のメッセージが届かない
→置き配指定で盗難に遭い、商品を受け取っていないと
→受取連絡がないと取引未完了で入金なし

 国民生活センターによると、置き配荷物の盗難相談はコロナ禍の2020年から増え始め、現在では増加傾向にあるという。だが、窃盗犯が検挙され商品が戻ってくることはほぼないとか。すでに2023年度で東京都内で置き配が盗難に遭ったケースの相談は、何と368件。このうち、盗難保険の補償によってトラブルが解決したケースはわずか5件だった。仕方ないと相談しないケースもあるだろうし、全国規模で見ると相当数が盗難に遭っていると考えられる。

 置き配荷物が盗難に遭った場合の保険も万全ではない。ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の宅配大手3社のうちで、盗難保険を用意しているのは日本郵便だけとなっている。ただ、1事故当たりの支払い限度額は1万円(送料、消費税および使用ポイント分を含む)というから、それを超える分は補償されない。しかも、補償を受けるには被害者が盗難の証拠を集めて、警察に被害届を提出することが前提になる。だが、警察でも盗難かどうかを判断しにくいため、被害届を受理しないケースがあるという。



 あるマンションの住人男性は玄関前の置き配が何度も盗難に遭った。そこで犯人を捕まえようと「架空の荷物」を玄関前に置き、位置情報を検索できる器具を貼り付けた。その荷物も盗まれたが、位置情報が同じマンションで、窃盗の容疑者は同じマンションの住人だったのだ。その後、男性は警察に相談し、商品は手元に戻ったそうだ。ただ、警察が窃盗事件として捜査したのか。荷物が戻ってきたのは警察が容疑者を逮捕したからか。このケースを報道したテレビ局は商品が戻った詳しい経緯には触れていない。

 大手宅配事業者が導入した置き配は、指定された場所に荷物を置いた時点で宅配完了となる。ドライバーは荷物の写真を撮って、その添付データと宅配完了の旨を荷物の受取人に送付する。だが、写真を添付しないで配達完了メールだけを送る業者もいるというから、荷物が盗まれたのか、誤配されたのか、わからないケースがある。警察は荷物が確実に配達された証明がなされないと盗難届は受理しないから、荷物の受取人としては厄介なのだ。

ポイント付与よりも法整備を急ぐべき

 そもそも置き配が導入された背景には、ネット通販などで再配達が増える中、ドライバーの残業時間を規制する2024年問題がある。本来なら宅配事業者、ドライバーにとっては救世主となるはずだったが、ここに来て盗難などのトラブルが増えていることは、制度自体に欠陥があると言わざるを得ない。問題を整理してみよう。

荷物受取人:置き配指定
宅配事業者:配達完了(写真添付メールの送付)後
フェーズ1 荷物盗難  置き配後に何者かが盗む→受取人は確認できない
フェーズ2 宅配業者  盗難保険→日本郵便(補償額最高1万円)
フェーズ3 宅配業者  ヤマト運輸・佐川急便→原則補償なし 
フェーズ4 警察    要証拠提出→盗難届→受理
フェーズ5 通販事業者 商品を再配送する場合も(盗難届が条件)

 上記のフェーズ1~5を考えると、置き配の荷物が盗難に遭うと戻ってくるケースは極めて少ないと言える。さらに警察に被害届を出しても受理されなければ捜査はされないし、通販事業者からの再配送もないのだから、利用者は泣き寝入りするしかないのである。そうなると、窃盗犯の思う壺で、置き配荷物の盗難はさらに増えることが予想される。

 また、送り状に書かれた氏名、住所、電話番号といった個人情報が流出する恐れがあり、ストーカーなどの犯罪に発展する可能性があると指摘する専門家もいる。通販事業者や宅配事業者は置き配荷物の盗難は受取人の自己責任だとすることはできても、凶悪犯罪が発生するようなことがあれば、企業としての姿勢が問われるのは間違いない。置き配を推進した政府も、制度を見直して法改正を進めなければならないのは確かだ。

 考えられる対策は盗難団体保険の強制加入である。商法の第三編第十章第三款では「運送保険」が規定されている。ただ、この保険は「運送される運送品の運送中に生じる損害(火災・盗難・破損・水ぬれ等)を補填するもの」で、置き配のように荷受人宅に到着したケースでは適用外となる。そこで、この法律に特例を設けて拡大解釈するか、新たに別の盗難保険を設けるかである。保険の場合、通販サイトの会員で置き配を選択したものを被保険者とし、保険料の支払いを義務付ける。徴収は通販事業者が購入時に商品代金と一緒に行えばいい。

 盗難被害者が位置情報を検索できる器具を貼り付けて自ら捜査し商品を取り戻したケースもあるが、器具の貼り付けを通販事業者に義務付けるのはコスト面から現実的ではない。位置情報の履歴が残るにしても、窃盗犯が器具を取り外すことも考えられる。そもそも警察が位置情報を元に捜査してくれる確証はない。できるとすれば、宅配BOXごと盗まれることを前提に器具を取り付けるくらいだ。ただ、それを義務化するには時間を要するし、どこまでの利用者が取り入れるかは未知数。警察が捜査に乗り出すにしても法改正が不可欠になる。

 2023年の国内の犯罪情勢は、刑法犯認知件数が前年比17%増の70万3351件に上り、2年連続で増加した。自転車盗や傷害などの街頭犯罪は24万3987件に上り、前年から2割も増えている。新型コロナウイルスの感染が収束し、人流が戻った影響から治安が悪化したと見られる。そんな中で、置き配荷物の盗難は事件化されないケースがほとんどだから、これらを加えると街頭犯罪は有に30万件を超えるかもしれない。置き配が犯罪を助長していると言っても、決して言い過ぎではないだろう。



 置き配で盗難に遭う荷物の大半は、通販サイトで購入した商品だという。ほとんどが未使用で、転売可能でもあるから、窃盗犯が自ら使用したり、換金目当てで犯行に及んでいると考えられる。また、通販事業者によっては、AmazonやZOZOTOWNといったロゴマークが印刷された宅配段ボールを使用している。これも中身が想像できるため、窃盗犯を犯行に駆り立てやすい。まさに「盗んでください」と言っているようなもので、ブランディングが仇になっているということだ。

 ここからは炎上も覚悟の上で私見を述べる。日本は法治国家だから、物品の売買には法律が適用される。通販も同様で配送が伴うため、運送契約が結ばれる。そこでは運送人(宅配事業者)が運送品(荷物)を移動する約束をし、荷送人(通販事業者や出店者)がこれに対し、報酬(運賃)を支払うことを約束する。運送状(送り状)には、物品の内容到達地荷受人(物品の購入者や受取人)、運送状の作成地、作成年月日を記入する。運送人はこれが運送準備の助けとなり、荷受人は到着品との照合、運賃の確認ができるのだ。



 宅配事業者は荷物の受け取り、引き渡し、保管及び運送に関し注意を怠っていないことを証明できなければ、荷物の滅失(なくなる)、毀損(傷つき壊れる)又は延着(遅れる)した場合は、損害を賠償しなければならない。言い換えると、宅配事業者は注意を怠っていないと証明できれば、損害を賠償しなくていいのだ。その他、宅配に関する細かな取り決めは、各事業者が定める運送約款に規定されていて、通販事業者や出店者が宅配事業者と運送契約を結んだ時点で、それに従わなければならない。当然、受取人も約款に縛られることになる。

 通販では受取人が置き配を承諾した以上、ドライバーが荷物の写真を撮ってそのデータと宅配完了の旨を荷受人に送付すれば、配達は完了したと看做される。宅配事業者は置き配でも荷物の受け取り、引き渡し、保管及び運送に関して注意を怠っていない=物品を受取人宅まで届けて写真を撮影しメールで送付したのなら、荷物が盗難になってもその責任は問われないと解釈される。それが法的な根拠なのだから、通販事業者は荷物が盗難にあっても運送業者に損害賠償を請求できない。つまり、物品の購入者や受取人も補償してもらえないのである。

 ヤマト運輸は2024年の10月28日から11月11日に公式LINEユーザーを対象にアンケート調査を実施した。それによると置き配を選択する理由は、「ドライバーに何度も来てもらうのは申し訳ない」が9割近くを占める。以下、「家にいなくても荷物を受け取りたい」「荷物が届くまで待たなくていい」「再配達の依頼が面倒」と続く。他にも「仕事が忙しくて、指定した時間に受け取れない」「部屋着で会いたくない」などがある。しかも、置き配利用のうち、4人に1人は在宅しているにも関わらず置き配を利用しているとの結果が出ている。



 ドライバーに何度も来てもらうのは申し訳ないというのは、おそらく建前だろう。仮にそんな気持ちでいるのなら、コンビニや営業所でも受け取ることもできるはずだ。しかし、そこまでしないところに、在宅・対面で受け取るのが面倒という本音が透けて見える。仕事が忙しいとか、部屋着で会いたくないとかも、受け取る側の都合でしかない。運送契約では荷受人が指定した時間に荷物を受け取り、本人確認のサインをすることで契約が履行される。それを自己都合、勝手な理由で行わないのなら、盗難に遭っても自己責任と言わざるを得ない。百歩譲って荷物の盗難を防ぎたいのなら、受取人が保険など応分のコストを負担すべきなのだ。

 法整備、運送約款の見直しということでは、置き配では戸建住宅では厳重な盗難防止策を施した宅配BOXの使用を義務付ける。マンションなどの集合住宅でも複数の荷物が収納できる宅配BOXで受け取ることを条件すべきだ。戸建住宅で置き配指定にも関わらずBOXがない場合、ドライバーは置き配せずに持ち帰る。マンションのBOXがフル収納の場合も同様だ。そして、置き配指定で持ち帰った場合の再配達は行わなず、受取人に営業所(PUDOなど)まで取りに来てもらう。生鮮品は期限まで保管するが、それを越えても受け取られない場合は廃棄する。通常配送における不在も再配達に要望は受けるが、再び不在の場合は同じ仕組みにする。



 運送契約、運送約款という法律を改正し、荷物の受け取りに関しては厳格化する。当然、それに違反した場合は当然ペナルティを受けるのだ。ZOZOTOWNの元社長、前澤友作氏風に言えば、「無防備で無事に届くと思うんじゃねえよ」である。大切なことは、荷物が安全に受取人のところへ届くこと。そして、できる限り効率の悪い再配達などを避けてトラックドライバーの負担を減らすこと。そのためには、通販事業者、宅配事業者、受取人の三方が負担しなければならないことがあるのだ。

 政府も置き配荷物の盗難が増えていることを注視する必要がある。通販事業者に対する上限5円分(1回あたり)の補助よりも、盗難による損失の方がはるかに多いことを考えれば、制度設計の見直しや法改正に取り組まなければならない。身勝手は盗まれるということ。2024年問題は解決していないのだから、対策が急務なのである。

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ふところを掴む戦略。

2025-01-08 07:01:04 | Weblog
 付き合いが長い専門店系のアパレルがある。そこの社長が年末年始の休みを利用して、九州にやってきた。メールではやり取りをしていたが、直にお会いするのは2年ぶりだ。奥さんと二人で初めての九州旅行。かつてJRが国鉄時代に始めたフルムーンのキャンペーンはすでに終了したので、自らネットを利用して交通手段や宿泊先を手配した催行といったところ。お二人とも東京生まれの東京育ちだから、地方に住んだことはない。社長は展示会や商談で地方に出張することはあっても、2、3日で東京に戻ってしまう。お二人とも海外旅行は何度かあるが、国内をゆっくり巡ったことはなかったようだ。

 今回の旅行はまず、大晦日に宮崎に飛び、新年を迎えた。2日目は鹿児島の霧島、3日目は熊本の阿蘇で、それぞれ温泉を満喫。4日目、5日目は「福岡に立ち寄るから、会おう」とのことだった。福岡には美味しい食べ物が多いのは、お二人ともご存じのご様子。それも楽しみにされていたようだが、会うとどうしても仕事の話になってしまう。再開発事業の天神ビッグバンや博多コネクティッドの完成後、「福岡の街がどう変貌し、それに沿ってアパレル事業者はどう動くのか」。それは自分たちメーカーにとってメリットなのか、それとも否なのか、気になっていらっしゃるようだ。



 こちらの答えは、「何とも言えません」である。確かに西日本鉄道の本社でもある旧福岡ビルが取り壊され、隣接する都市型SCの天神コア、天神ビブレも解体された。跡地には今春、大型複合施設「ONE FUKUOKA BLDG.(以下、ワンビル)」が開業する。コアとビブレの延べ床面積は合計で約24万平方メートルだった。それだけの売場が再度登場すれば、出店するところも相当数に及ぶだろうから、アパレル業界の期待も高くなる。ところが、西鉄本社から発表されたワンビルのフロア概要とテナント構成では、都市型SCの機能も持たせ、アパレルを一堂に集める計画は示されていない。だから、こちらとしても何とも言えないとしか答えようがなかったのだ。

 ワンビルの商業&サービスのフロアは以下
 ◯地下2階 b!olala(ビオラ♪ラ♪)イオン九州 オーガニック&ナチュラルストア
 ◯地下1階  iiTo TENJIN /天神のれん街
 ◯1階 CHANEL 福岡天神ブティック(~3階)/THE CONTINENTAL ROYAL&Goh
 ◯2階 NIKE FUKUOKA TENJIN/Maison Kitsuné /Café Kitsuné
 ◯3階 SPIRAL GARDEN /中川正七商店
 ◯4階 福岡天神蔦屋書店 スノーピーク ワン・フクオカ・ビルディング
 ◯5階 天神福食堂

 ワンビルはビジネス都市のランドマークとなるべく、オフィスやコアワーキングスペースなどを充実させホテルを合体するなど、ビジネスマンの利用をメーンとしている。だから、若い女性が好むアパレルなどのテナントは誘致していないのだ。こうした手法は東京の大手町、日本橋界隈の再開発ビルに倣ったとも言えるが、天神ではコアやビブレの解体前からすでにアパレルはオーバーストア気味だったから、オーナーの西鉄としては両館が無くなってもテナントビジネスでは、それほど困らないとの判断だったと思う。



 ワンビルの東南側では目下、天神ビジネスセンター2が整備中だ。こちらは以前にMMTビルがあったが、メーンのテナントは書店や文具、飲食、雑貨でアパレルはなかった。再開発ビル概要の用途は事務所、店舗、駐車場等なっているが、詳細はわからない。同南側のイムズは多数のアパレルテナントを抱えていたため、2026年12月の新生イムズでもアパレルが出店するとは思われる。概要では用途は事務所、ホテル、店舗、駐車場と発表されているだけで、こちらも詳細は不明だ。開業予定まで2年を切ったから、各テナントとの出店交渉が始まっているのではないかと思われる。



 天神ビッグバンでは他にも再開発中のビルが3つある。これらも計画ではオフィスや店舗などのテナントが入るようだが、大々的に商業フロアを確保してアパレルを誘致するような計画はないと思う。天神には百貨店が岩田屋、福岡大丸、福岡三越と3つ、大型専門店のバーニーズもある。都市型SCは3館が解体されてもミーナ天神、福岡パルコ、ソラリアステージ、ヴィオロ、ソラリアプラザが残る。そして商店街が天神地下街と新天町。さらに天神西通りにはファストファッションを含めた海外ブランドが並び、大名や今泉、警固のストリートにも路面のアパレルショップがひしめく。

 店舗単位で出退店、新陳代謝はあるが、再開発ビルに大々的なアパレルのフロアが求められるとは思えない。天神西通りには無印良品の旗艦店ビルがあったが、それも撤退したくらいだ。とすれば、新しいビルが次々とできても、リーシングされるテナントは各ビルを利用するターゲットに即したものになると思う。アパレルが仕掛けるにしても、何が必要とされるのかをじっくりリサーチして、作り込むなり編集するなりしないと難しいだろう。来福した社長には、「東京もヒルズシリーズでは業態も変化しているでしょ。福岡も多分同じようになるのではないですか。ただ、売れるとは限りませんが」と答えた。

テイストやデザインで誘客は難しい。ならば…

 メーカーの社長も熟慮されていらっしゃるようだ。このままアパレルを続けて後任に譲るべきか。別の事業にも進出し多角化すべきか。いっそのこと、無借金のうちに事業を閉じるべきか。アパレルを続けるにしても、マーケットは完全に成熟している。どうやって生き残っていくか、期することもあるようだ。「お客さん(顧客)のニーズに対し、さらなる価値(企画デザイン)を提供する」「バリュ(価値)に対する価格をお客さん(顧客)示す」「企画デザインや営業に注力するための人材(部下)を育成していく」と、今年はこの3つのテーマに取り組みながら、ビジネスを修正していかなければならないと仰った。



 福岡の再開発が進めば、アパレルの市場が広がると期待する反面、市場の成熟は加速度的に進んでいると、社長は感じていらっしゃるようで、当方の何とも言えないとの答えもある程度は予測されていたようである。デジタル面の整備を進める中で、数年前からはデジタルトランスフォーメーションにも取り組み、単に取引先のバイヤーや販売スタッフの声だけでなく、直に服を着るお客さんの要望なども吸い上げるようにしたという。福岡を含めた大都市圏を除き、地方の市場縮小は避けられない。

 既存のお客さん(顧客)に対し、これまで以上の接点を設けて、さらに上のバリュを提供するためには、「お客さん(顧客)が年収の中で消費にどれくらいの金額を費やすのか」「その中で服飾の比率はどのくらいの額になるのか」「その金額が今後も維持されるのか」「縮小していくのかを見極めながらものづくりを進めていかないと」「お客さんもふところ具合を考えながら物を買っていくはずだから、そこに今後も食い込んでいけるかだよ」と、社長はポジティブな考えを示された。心の中ではそれができなくなれば、ビジネスを畳むしかない。話す言葉の端々にそんな覚悟も見え隠れする。



 価格の安いアパレルはいくらでもある。だから、普段着使いの服にはそこまでお金をかけなくてもいいと考える。だが、ある一点だけにはお洒落したいとか。着るとテンションが上がる服が欲しいとか。TPOを考えた時に着る服にはこだわりたいとか。そんなお客さんがいるのも確かで、そこに年齢軸はない。お客さんの気持ちを捉えた服作りをしないと、自社の価値は提供できないというのが同社のスタンス。社長は常々、それを極めていきたいと仰っていた。言い換えれば、お客さんが服を買う時に高揚する気持ちや服を着る楽しさ体験を創造できることを自社の価値にしたいのだ。

 この考え方はオーバーストアが指摘される大都市の小売業にも共通するような気がする。こんなブランド、こんなセレクション、こんな編集で行くから、結果としてこんなお店になった。従来の店舗価値はこうだったが、それはあくまでお店側の理屈でしかない。自分が着たい服を探しているお客さんには店側の論理など通用しない。購入手段がいくら増えようとも、お客さんは着たい服を揃えていそうな店に行き、買いたいものが見つかれば買うし、そうでなければ買わずに店を去る。これはネット通販でも同じだろう。お客さんは急激に成熟し、アパレル、いわゆる服を買うという行動はここまで変化してきているのだ。

 時代とともに変化したお客さんの買い物行動。アパレルにしても、小売りにしてもこれをしっかり捉えておかなければ、生き残っていけない。もちろん、そこには注力するための人材を確保し、育成していかなければならないのだが。そして、都市が拡大したからといって、並行して市場が広がる=店を出せば売れるということはもうないと言える。それよりも、本当にお客さんが買いたいと思えるものをいかに提供するか。お客さんのウォンツに向き合い、お客さんに選んでもらえる服作りがアパレル受難の時代に生き残るカギになるのではないか。

 年始早々にアパレルの社長にお会いしていろんなお話をし、有意義な時間を過ごすことができた。自戒を込めて今年のテーマにしなければならない。

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自由だから、売れる。

2025-01-01 08:05:59 | Weblog
 新年最初のテーマとして良いかもしれない。2019年にリニューアルオープンした渋谷パルコの快進撃とパルコ地方店の課題についてだ。新生渋谷パルコは開業時点で200億円の売上目標を設定したが、新型コロナウィルスの感染拡大による外出自粛で出鼻を挫かれたものの、23年2月期には229億円と対目標値二ケタ増。さらに24年2月期は359億円と対前期比57%の大幅増を達成し、一人勝ちの様相だ。このペースが続けば、来期も対前期比プラス100億円をクリアするかもしれない。

 新生渋谷パルコは商業部分が地上9階(10階は一部)、地下1階。延床面積は約4万2000㎡。テナント数は192店で、2019年11月22日に開業した。令和の時代に相応しい次世代の都市型ショッピングセンター(SC)を標榜し、ファッションからアート&カルチャー、エンターテインメント、フード、テクノロジーまでの5つの要素をミックスして一つの館を作り上げた。中でも新たに加わったテクノロジーとは買い物のスタイルを進化させたもので、それらを活用する戦略は以下の3つを軸とした。



 ◯デジタル技術を活用したオムニチャンネル対応の売場「CUBE」
 ◯売場面積130坪に10坪程度の小型店11店舗を集積
 ◯品揃えは限定商品や戦略アイテムに限り、EC購入に軸足を置く

 快進撃の背景には、CUBEで導入されたショールーミングやクリック&コレクト。ここにしかないブランドやわざわざ見に来てもらう品揃え。尖った商品を扱うショップを集積したがゆえに面を広げるために小ぶりにしたことがある。実店舗を集めたのは、渋谷パルコにしかないからわざわざ来てもらうのと、限定商品や戦略アイテムを揃えるがゆえに「現物」を見て、「商品」に触れてほしいということだ。

 渋谷は国内外から多くのお客が訪れる。だが、遠隔地からの場合はそう何度も訪れることはできない。だから、パルコで見つけた商品が気に入った場合、再度訪れなくてもECで購入できるのはお客にとってのメリットだ。さらに限定や戦略がつく商品は、店で直に見てもらわなければ衝動買いを誘えないし、お客がこうした商品の現物を見てその時は購入しなくてもECで購入できるなら、その後に販売に結びつく可能性は格段に高くなる。こうした手法が渋谷を訪れる外国人にも響いているようで、渋谷パルコの2024年2月期の売上高に占めるインバウンド取扱高は32.1%で、パルコの中ではダントツだ。

 元々、パルコは渋谷という立地で誕生し、先端ファッションの情報発信、斬新なテナントの孵化器という要素が相まって、若者に対する絶大なブランド力を発揮した。2000年代にはその威光に翳りが出た時期もあったが、大きく羽ばたきたいと願うファッションブランドや新業態は、テストケースを含め「出店するならまず渋谷パルコ」というスタンスは揺るがなかったと思う。新生パルコの1階で展開される海外ブランドは別としてCUBE以外の各ショップも、パルコに店を出すからこそバリュをあげられるという思いは強いはずだ。

 もっとも、10数年前には若者マーケットの捕捉を目指すJフロントリテイリングとイオングループの間で、パルコ株の激しい争奪戦が繰り広げられた。結果は前者が2012年3月、株式の33.2%を取得して持分法適用子会社化し、8月にはTOBで株式を追加取得して連結子会社化。19年12月27日から20年2月17日にもTOBを行い、1株1850円で取得して完全子会社化した。パルコに8%を出資していたイオングループも、TOBには賛同している。

 都市型SCのビジネスモデルは土地を確保して器を作り、開発コストはテナントに按分した保証金で賄い、情報を発信して広域から集客し歩率家賃で稼ぐもの。しかし、新規開発には時間を要し、開業しても順調に収益を上げられる保証はない。ならば、既存の企業を手っ取り早く買収すれば良い。Jフロントリテイリングもイオングループも考えたことは同じだ。

 ただ、買収劇から十数年、パルコを取り巻く環境は激変した。JR東日本が運営する駅直結のルミネは24年3月期の全館売上高が過去最高を記録し、同アトレは2024年度上半期の売上高が目標を超える好業績で推移している。JR西日本のルクア大阪も24年度の全館売上高が1000億円台になる見通しだ。大手百貨店は小売り事業を縮小し、不動産活用や都市開発に重点を置くSC化を進める。パルコとしては若者層を捉えることが生き残りのカギになるが、それが順調に進むかは予断を許さない。



 ただ、渋谷パルコに限って言えば、バランスシートの数値では測れない格と文化をもつ。それは新生渋谷パルコにも受け継がれており、売れているテナントやニーズがあるブランドを誘致する他の都市型SCの正攻法とは一線を画する。渋谷パルコは「このブランドが時代を切り拓く」と考えれば、アバンギャルド、マニアック、カルトなどのテイストに関わらずインキュベーションに全力をあげる。

 また、好調の背景には注力する販促が奏功した面もあるようだが、それとシンクロしてニンテンドーやポケモンといった海外でも人気のキャラクターを扱うテナントが、多くの訪日外国人を集客していることもある。つまり、コンテンツにこだわり、売上げはあくまで結果という経営の自由度が渋谷パルコの格と文化を支えている。コロナ禍明けからの快進撃は、他の都市型SCにはない渋谷パルコの本質をまざまざと見せつけている。


老朽店舗は閉店、都内近郊や隣県の店舗は苦戦



 一方、地方のパルコでは開業からかなり経年した店舗で閉店が続く。津田沼店は2023年2月末で営業を終え、46年の歴史に幕を閉じた。新所沢店も24年2月で閉店し、松本店も25年2月末で営業を終える。ともに41年という長きにわたり地元に愛されてきたが、店舗が老朽化していたことでブランドから出店を敬遠され競争力を欠いていた。静岡店は開業から17年と比較的新しいものの、近年は若者を十分に取り込めず苦戦続きで、24年11月に閉店した。



 営業店舗でも、新型コロナウィルスの5類移行で人流が回復したにも関わらず、十分な売上げアップに結びつけられないところがある。Jフロントの2024年2月期業績説明資料によると、ひばりが丘店は同72億9100万円で、対前年比7.3%増。調布店は同188億5100万円で、同8.3%増。浦和店は同284億4000万円で、同10%増。3店とも前年よりは伸びてはいるが、札幌店(35.5%増)、仙台店(15%増)、福岡店(23.5%増)に比べると、明らかに見劣りする数値だ。



 池袋店は2023年2月期の対前年比が28.7%増だったが、24年2月期は21.5%増と伸びは鈍化している。錦糸町店も同25.4%増から同19.7%増と、同じ傾向だ。売上高に対するインバウンド取扱シェアも渋谷店が32.1%と3割以上を占めるのに対し、池袋店はわずか6.4%と大きく水を開けられている。福岡はアジアからの訪日外国人が圧倒的に多いが、福岡店のインバウンド取扱高シェアは8%と意外に低い。やはり都内近郊や主要都市にパルコがあっても、訪日外国人を含め若者は「行くなら渋谷パルコ」派が圧倒的に多いという証左ではないか。



 福岡店は2024年2月期の売上高は243億7100万円で、対前年比は23.5%増と、地方店では札幌(売上高135億2200万円、対前年比35.5%増)、仙台(同199億600万円、同15%増)、広島(同132億2500万円、同10.9%増)を引き離している。再開発プロジェクトの天神ビッグバンにより、競合店の天神コア、天神ビブレ、イムズが解体されたため、残存者利益を享受している面もある。ただ、福岡店とて本館が入居する旧岩田屋本館ビルは建設から90年近くを経過し老朽化が激しい。周囲の西鉄福岡駅ビル、新天町と一体で再開発が計画され、26年にも解体が始まるとの観測だ。工事が始まると、数年は休業しなければならない。

 熊本店は23年4月、パルコ運営のHAB@(ハブアット)にリニューアルした。熊本では17年に都市型SCのココサ、19年にバスターミナル直結のサクラマチ熊本が開業。JR九州も熊本駅にアミュプラザ熊本の建設を進める中、パルコは19年2月28日、入居ビルの建て替えを理由に熊本店を20年2月末で閉館すると発表した。その後、HAB@は先行する3店に有力テナントを奪われてしまい、外食、サービスを主体とした3フロアへの縮小を余儀なくされた。そのため、パルコから出向する店長はおかず、社員が東京本社からリモートで店内をチェックするなど、定期出張だけに止めて運営コストを削減している。

 都市型SCはテナントの歩率家賃で稼ぐのだから、デベロッパーの収益はテナントの数とその売上げに比例する。HAB@のようにテナント数が少なければ、運営のコストダウンを図らなければならない。それでも、パルコが地方店を次々と閉店しているのは、地域によっては規模を縮小しても採算が合わないとの経営判断ではないか。その意味で熊本のHAB@は例外だが、地方店を存続させる目的では試金石になる。

 今後のパルコを見ると、大都市と地方で格差がつく可能性は高い。渋谷パルコは今後も新ブランド、新業態の孵化器として都市型SCの頂点に君臨していくだろう。都心部、主要都市の店舗も足元商圏が広いことから有力テナントさえ集められれば、集客力を発揮できると思われる。だが、地方店はそうはいかない。足元の人口減少が続いているし、ショッピングならネット通販で事足りる。単なるSCという位置付けならパルコより後に開業した店舗の方がテナントリーシングでも優位だ。

 パルコ側が地域に即した対応をすると言っても、老朽化した店舗は再開発しなければならない。仮にオーナーなどがビルの建て替えを行なったにしても、従来のような地下1階、地上8階というフロア構成のままで再入居するのは難しいだろう。マーケットの実情、競合店の状況、テナントの意向などを鑑みながら判断せざるを得ないだろう。

 ただ、SCに出店するテナントの中には、すでに顧客の加齢に合わせて店名(業態名)を変えたり、MDをエージアップして存続させているところもある。スイートテイストのヤング&ヤングアダルト業態が10年もたつと、顧客はミセスになっていくからそのミセス客を離さずにしっかり繋ぎ止めるテナントもある。デベロッパーとしては契約上の問題もあるだろうが、テナントに引き続き居てほしいのなら、柔軟な対応も必要になるのではないか。果たしてパルコがそれをできるかである。

 さらにメーンの客層である若者がどう判断するか。渋谷にあって、自由でカオスな店作りで、見るだけで楽しい。だから、いつの間にかお金を使ってしまう。それが渋谷パルコだと思う。とすれば、他のパルコが単にテナントを集めただけなら、他のSCとの違いが見えなくなる。ましてネット空間には世界中のブランド、アイテム、そしてあらゆるコンテンツが溢れている。買いものし、サービスを享受するだけならそれで十分だ。今年は改めてSCにおける実店舗のあり方、SCそのものの自由度が問われるのかもしれない。地方では特に。

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女性もポケットがほしい。

2024-12-25 06:56:35 | Weblog
 一ヶ月ほど前、興味深い記事を目にした。 「女性服はなぜポケットのある服が少ないの?」のタイトルで、東京・池袋のみらい館大明ブックカフェでポケットのある服を販売するフリーマーケットとお茶会が開催されたという内容だ。

 イベントを主催したのは、今年3月にスタートした「レディース服に『ポケットあり』の選択肢を」のキャンペーンを発起したお方。フリマには、ポケットのある服を2点以上持ち寄った出店者と、ポケットのある服を探す人が集った。また、会場ではネットで寄せられた声に加え、来場者の意見なども掲示されたという。

 ネットで寄せられたのは、「スカートのポケットが小さくてスマートフォンが落ちる」「オフィス内で名刺入れは常に携帯しておきたい」「会計時にイヤホンを一時的にポケットに入れたい」等など。フリマ来場者からは、「ポケットが小さくて定期を落とした」「自転車に乗るとポケットからスマホが落ちそうになる」「浅いポケットだと大判ハンカチやタオルが入らない」「(ポケットがあれば)ちょっとそこまで、手ぶらで行ける」「貴重品を持ってトイレに入ったら置き場がなかった」といった意見が寄せられた。なるほど、ジャケットやパンツにいくつものポケットが付いている男性にはわからない切実な問題のようだ。


 
 一般論としては女性の服にはポケットが少なかったり、あっても物を入れるようなサイズでないのは確かで、それを不便だと感じている女性は少なくない。ただ、そんな女性の思いを形にしたメーカーがあった。ネットを主販路にする「アルヨ」だ。当初は日本人にフィットするコルセットを作ろうとしていたが、資金集めの一環でレディスウエアのネット販売にも着手。独自商品を提供するためにSNSなどでニーズを探ったところ、「男性のジーンズには長財布が入るが、女性のポケットは小さく、フェイクだ」との投稿が目に留まった。



 そこで、アルヨはいろんなものが入るスカートを企画し、「酒瓶」も入る動画を発信したところ、これが大きな反響を呼んだ。スカートは200着が完売し、同様な仕様のパンツも瞬時で500着が売り切れた。大事なものは鞄に入れることができても、飛行機事故に遭うと手ぶらで脱出を余儀なくされる。大事なものは持ち出せない。大きなポケットはこうした問題を解決できる。ファッション性の追求なら他にもブランドがある。アルヨはビッグマーケットではないが、女性の切実な悩みに答える狭間と驚きをビジネススタンスにする。

 レディース服に『ポケットあり』の選択肢をのキャンペーン発起人も同じ理由を語っている。飛行機事故の緊急時には乗務員が緊急脱出のマニュアルに従って「手荷物を座席や収納棚に残したまま」で、非常口からスライドを滑るように指示する。航空会社が取り決めたルールの詳細はわからないが、多分財布やパスポートを初めからポケットに入れていた場合は、そのまま脱出はできると思われる。それらをバッグに入れている女性にとっては、それだけ切実な問題なのだろう。「ポケットがあれば」との命題に行き着くのも納得できる。

 キャンペーンの発起人は、サイト掲載商品でポケットの有無を調べたり、店頭でポケットのある服を探したが、思うようなものが見つからなかったとか。UV紫外線カットや保温機能と同じように、ポケットの有り無しでも検索できるのが理想だ。さらに願うのはポケットのある服へのアクセスの改善だという。キャンペーンでは11月の時点で約4000もの署名が集まり、同時アンケートでもポケット無しで服の購入をやめたことがあるという回答が8割もあった。12月には大手のECモールなどに署名や集めた声を届ける予定という。

 ただ、女性服になぜポケットがないのかの理由はよくわからない。筆者なりに考えてみると、女性はハンドバッグを持つため、必要なものはそれに全部入れることができるからだろうか。また、レディスの服にポケットをつけるとその部分が膨れるため、デザイン的に女性らしい体型のラインが崩れてしまう等が考えられる。デザイナーズブランドの全盛期には、そうした固定概念に反抗する意味で、あえてポケットを多用した服も見かけた。デザイン的に奇抜だっただけでなく、ポケットがあれば収納の面で便利だったと思う。



 軍服は動きやすさ、快適性が求められるため、男女とも適正サイズでなければならない。当然、体型が異なる男女ではパターンは違ってくるが、装備品は男女とも同じサイズで同数を収納すれば、ポケットの仕様も同じになる。現場作業用のユニフォームも業務内容に男女差がなくなりつつある状況を考えると、ポケットは男女とも同数ついていると思われる。だが、学生服では確かに男子の学ランと女子のセーラー服は、ポケットは全く異なる。学ランが胸、両脇、内ポケット、ズボンにも左右、両後ろがあるのに対し、セーラー服は確か上着の胸元しかなかったと記憶する(スカートにポケットをつけた仕様もあったか)。

 最近はLGBTQやトランスジェンダーの問題から、学生服もトップとボトムが自由に組み合わせできるなど、性差を取り払う工夫が凝らされている。性格も気持ちも男性なら、多分ポケットにいろんなものを入れたいだろうから、男子の制服が着たいだろう。逆の場合はどうか。ポケットがあれば便利だと考える女性はいるが、心が女性の場合は逆にバッグがわりのカバンにものを入れたくなるかもしれない。その辺はよくわからないが。性差だけでなく、制服の範囲内なら着たいものを自由に選んでもいいのではないか。ポケットも然りだ。


男性はポケットの有用性を意識しなくなった?



 ポケットについてのニュースに触れて、思い出したことがある。ヨウジヤマモトなどを手がけるデザイナーの山本耀司氏がポケットについて語っていたことだ。

 女のひとがポケットに手を入れるようになったのはいつ頃からだろう。マレーネ・ディートリッヒあたりからか。いずれにしても、男物を着るようになってからのはずで、その男っぽいポーズが、今ではすでに時代に受け入れられて、単なる一つのモードになってしまったのは確かである。それでも、わたしは、ポケットをつけたくなる。

 こんな下りだったかと思う。仕立て屋の息子である耀司氏が言うくらいだから、やはりレディスの服には過去からポケットをつけていなかったのである。

 男であれば、ジェームス・ディーン。あるいは、ロバート・ミッチャム。つまりは、不良かヤクザにつきものの、拒絶、軽蔑、反抗、ひがみ、といったところである。東京、パリ、ニューヨーク。国を問わず、夜、ヤバい界隈をふらついていると、向こうからヤバいのがやってきたりする。そんなとき、ポケットの中の手は、すでに戦闘態勢に入っている。次の瞬間、男は鹿と鍵を握りしめる。

 大都会の路地裏やストリートで生きる男にとって、ポケットに手を突っ込むのは「いつでもやるぞ」との意思表示とも言えるということか。デザイナーからすれば、ポケットは視覚に訴える武装の道具と解釈されるようだ。

 子どもの時分、ポケットはわたしにとって宝物入れだった。何でもかんでも詰め込んだ。そして、今でもわたしにはポケットがカバン代わりである。財布以上の荷物をもって歩くことを軽蔑している。右側にお金、左側にハンカチ、ライター、キーホルダー、上着にパスポートの入る内ポケットさえあれば、旅行鞄もいらない。

 男のポケットは潔く実用的である。ポケットが13個ほどついたヘビーデューティ・ウエアなるものを、わたしはずっと愛用している。これぞまさに実用の最たるものである。服に居住する。そして、旅に出る。

 なるほど、ポケットに入れるほどの物しか持たない。それが創造力を掻き立てるということだろう。映画「男はつらいよ フーテンの寅」の主人公、車寅次郎はチェックのスーツに鯉口シャツと腹巻き、トランク一つで食っていける。そして、小銭は持たないと言われるが、腹巻きは札だけ入った財布を入れるポケット代わりでもある。それもフーテンという生き方を表したものだが、女性のキャラクターならそんなスタイルは無理だっただろう。



 普通の服であっても、財布が快く入らなかったり、悪い位置についていて手に余計な動きをさせたりするポケットではいけない。手を入れて服のシルエットが変わるものは失格である。

 ポケットの位置、形、数、口の大きさ、角度、袋の深さは、服の役割によって異なってくるが、概して布の比重が胃のあたりにかかって、落ちが決まっている服は、どこにポケットをもっていっても収まりがよい。実際、仮縫い中、鋏を入れると、笑ったように口が開くことがよくある。


 たかがポケット、されどポケットである。デザイナーにとってはポケット一つに意味があり、様々なポケットがあるのは服それぞれで用途が違うから。ただ、あくまでポケットは人の手でものを入れるものだから、余分な動作を必要としないものでなくてはならないのだ。実に深い。

 彼女が着るどんなドレッシーなイヴニング・ドレスにも、わたしはポケットをつけてあげたい。ポケットがなかったら、彼女はバッグをもたなければならないからだ。そして、バッグは盗まれてはならない。そういう何とも滑稽な神経を負わなければならないのは、何と不自由なことか。

 法外な値段のダイヤのネックレスを買ったものの、パーティー会場で強奪されては困るから、当日は贋物をつけていく⎯⎯人間がモノを所有するということの痛ましき縮図でもある。

 高級品がほしいと思ったときには高くふっかけられ、高級品を売りたいと思ったときには安く買い叩かれる。あまりに短絡的であるにしても、畢竟、所有という欲望は、最後には安く奪い取られるという行為に帰結するより他ないのだ。

 だから、ポケットに入れておいで、君の大事なものすべて⎯⎯


 最後は詩的な下りとなった。さすがヨウジさんだ。ポケットはあくまでもの入れるもの。ものを失くさないようにしまっておくもの。その考えはデザイナーであっても変わらない。だから、機能性が求められる。それは男性でも、女性でも同じはずだという考えなのだ。男女で体型は違えども、体幹に腕や脚は同じようについている。だから、ポケットにモノを入れる肘を折って手首を曲げる動作は同じになる。デザイン的に傾斜をつけたようなポケットは邪道と言いたいのかもしれない。

 女性はバッグを持つから、ポケットなど必要ない。ポケットをつけない方が仕様が簡素化され、生産コストが抑えられる。長引くデフレ禍のもと、服の価格が下がった一方、レディスの服ではコスト削減の見地からポケットがカットされた面もなくはない。だが、女性でも男性と同じ行動、仕事、生き方をすれば、同じようにポケットが必要だと感じる。

 レディスの服にはポケットは必要ないと考えるのは、ポケットがあって当たり前でその有用性をいつの間にか考えもしなくなった男性の発想かもしれない。ポケットを持ちながら、女性らしいラインも疎かにしない。そんな服がどんどん登場してくることに期待したい。
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棄てなくていい服。

2024-12-18 07:12:33 | Weblog
 マーケティング会社のミトリズが実施した衣替えに関する調査によると、「衣替えで不要となった服を捨てる」と答えた世代は、50代と60代以上は8割弱。一方、古着の買い取りなど再利用にまわすと回答したのは30代が4割以上に達したという。ただ、調査データを見ただけで、中高年が不要になった服を廃棄し、若年世代がゴミそのものを減らすリデュース、ものを繰り返し使うリユースを意識していると、一概に決めつけることはできない。なぜなら、以下のような理由が考えられるからだ。

服を破棄する理由
1.シミや傷が目立ち、劣化が激しく着用不可
2.着用可能だが、流行遅れ、サイズ不適合
3.着用可能だが、リサイクル店が受け付けない
4.着用可能だが、買取価格が極端に低い
5.オークション、フリマアプリは出品が面倒
6.オークション、フリマアプリでも買い手がつかない


 5を除いて上記の理由なら、30代でも廃棄に回さざるを得ないのではないか。むしろ、若年世代は着古した服の処分については学習しており、新品の時点でこの服はリユースにまわすことができるか、中古価格がどれくらいになるかを念頭に入れて購入するようになっている。買う側も中古衣料に対しほとんど抵抗がない。そのため、若者向けの服の方が買い手がつく可能性が高く、再利用されやすいのだ。こうした環境がリユース意識の醸成につながっていると言える。

 しかし、購入した服を長期間にわたって着続ける中高年では、単純に服自体が劣化でもう着られないのに加え、流行遅れや体型の変化でサイズが合わない場合がある。もしくは、着用可能でも買い手がつかないことから、リサイクル店などが買い取らないケースだ。買い手がつかない場合には廃棄するしかないため、買い取り価格が極端に低くなる。これらは中高年も学習しており、他に選択肢がなければ廃棄を選択せざるを得ないのだ。



 中高年は古着の着用には抵抗があるが、若年層はほとんどない。リユースや廃棄にはそうしたジェネレーションギャップも関係している。ただ、中高年だろうと若年層だろうと、服を棄てればそれだけゴミを増やすことになる。行き着く先は地球環境への負荷を増大させる。リユース意識が世代間で極端に違うとは思えないが、服を棄てるのは50代と60代以上が8割弱にも達するのだから、不要な服を棄てないで済む方法を啓発をし、周知、徹底することが不可欠になる。では、具体的にどうすればいいのだろうか。

 これまでは、自治体などがゴミを減らす活動として3Rを唱えてきた。前出のリデュース(Reduce)、リユース(Reuse)に加え、資源として再生利用するリサイクル(Recycle)の頭文字をとったものだ。最近ではこれらに物を修理修繕して使うリペア(Repair)ゴミになるものを買ったり貰ったりしないリフューズ(Refuse)を加えた「5R」が提唱されている。無駄な消費を避け、身の回りのものを大切にしようという考え方である。



 これを服に置き換えたらどうだろうか。中高年が服を棄てる6つの理由のうち、2、3、4、6で服の着用が可能ならリユースにまわしていくべきではないか。服を修理修繕して使うリペアは技術が必要になるし、リフューズもすでにある服の廃棄をなくす意味からはズレるので、ここでは言及を保留する。まずはリユースについて現状よりきめ細かな方法を提示し、フローチャートなどで啓蒙していくことが必要だと考える。それをどこがやるかと言えば、個人と自治体や地域社会、企業、学校などが共同で活動していくべきだと考える。


グリーンフライデーを浸透させていくべき



 服を購入した以上、その処分についてはあくまで購入者に責任がある。ただ、リサイクル店が買い取りを受け付けないとか、オークション、フリマアプリでも買い手がつかないなど、個人ではこれ以上処分の方法が見つからない場合に限っては、第三者が手を借りる必要もある。菅義偉元総理がかつて語った自助、共助、公助というフローであり、自治体や地域社会、企業、学校が関わることも重要だと思う。目指す目標は共にゴミを出さないということだからだ。では、不要になった服を棄てないためにはどんな方法が考えられるのだろうか。

●シミや傷が目立つ(着用不可) → コットン(Tシャツなど)はウエスに 
                → ウール、合繊は自治体や企業が回収
●劣化が激しい(着用不可) → 自治体や企業が回収
●流行遅れ・サイズ不適合(着用可) → 地域のフリマイベントで販売・交換
                  → 学習教材として提供(専門学校含む)
                  → NPOなどへの寄付
                  → 自治体や企業が回収   
●リサイクル店が受け付けない(着用可)→ 地域のフリマイベントで販売・交換
                   → 学習教材として提供(専門学校含む)
                   → NPOなどへの寄付
                   → 自治体・企業が回収
●価格が低い、買い手がつかない(着用可)→ 地域のフリマイベントで販売・交換
                    → 学習教材として提供(専門学校含む)
                    → NPOなどへの寄付
                    → 自治体・企業が回収


 現状、中高年の中にはネットオークションやフリマアプリの利用に慣れていない人が一定数はいる。それが出品が面倒という気持ちにさせているわけだ。でも、不要になった服をそのまま廃棄すれば、ゴミを増やすことになるわけだから、やはりネットを利用した服の処分方法も学習しなければならない。

 また、ネットオークションやフリマアプリで買い手がつかないからといって、廃棄するのは時期尚早だ。不要の服でも着用が可能なら、リアルなルートで処分することも考えるべきだ。地域などで開催されるフリマイベントなどがそうだ。ここでは販売のみならず、同程度の品物との「物々交換」という手法もありだ。また、一般には浸透していないが、学校などへの授業の教材として寄付することも考えられる。小中学校の総合学習で「服は何からできているか」「一枚の布をどうやって立体化しているか」などを、解体することで学ぶことができる。



 ファッションのプロを育成する専門学校ならこうしたテーマをさらに突き詰めていくべきだし、素材やリサイクルの研究を行っている大学や研究機関に対しても、教材にしてもらえるなら有益なはずだ。そして、寄付という活動がある。フランスでは「循環型経済のための廃棄物対策法」の一環で、2022年1月から売れ残った衣料品の廃棄が禁止された。売れ残りは寄付やリサイクルにまわさなければならない。違反した場合は最大15,000ユーロ(約190万円)の罰金が科される。今後は個人の不要な服の廃棄も禁止されるかもしれない。

 では、どこが服の寄付を受け付けてくれるのか。これは処分する側が調べなくてはならない。寄付を受け付けて、必要な世界中の人に届ける活動を行っている団体である。まずは、Webサイトで各団体の活動内容を調べる必要がある。そして、「ここなら寄付してもいい」と思うところを選べきなのだ。また、本当に寄付した服が必要な人に行き届いているか。どのような地域で、どのように使われるのか。活動団体がサイトなどで公開していることを寄付する前に確認しておくことも重要だ。

 ここに来て、「グリーンフライデー」という持続可能な消費を啓発する活動も注目されるようになった。具体例を挙げると、さる11月11日、フリマアプリのメルカリとアパレル11社は啓発イベントをスタートし、リユースなど長く使える品質や普遍的なデザインなどの魅力を訴えた。また、メルカリは同22日から東京・原宿で衣料品のリユースや長期活用を促すグリーンフライデープロジェクトをスタート。これにはアダストリアなどが参加し、回収した衣料品を使ったファッションショーも開催した。

 また、会場では来場者が持ち込んだ不要な衣料品をアパレルなどが用意した衣料品と物々交換できる試みも実施された。これにはオンワードHD、ベイクルーズの衣料品やイオンの衣料補修店リフォームスタジオで回収したものが提供されている。メルカリでは男女の衣料品の国内取引が30.5%を占めており、これは2024年3月までの1年間に約5.2万トンの廃棄を回避する量で、日本で年間に破棄される衣料品の10%に相当するという。

 グリーンフライデーという活動は日本では緒についたばかりで、認知度はそれほど高くない。というか、活動やムーブメントの趣旨は、できるだけ衣料品の廃棄をなくしていこうということだ。11月には消費を促すブラックフライデーも実施され、こちらはすっかり定着した。ただ、食品などの日用品を除けば、低価格の衣料品は最初からコストダウンを図って生産されているものが少なくない。安価ですぐに買い替えられることを前提にしているため、長期利用にはそぐわないとも言える。つまり、リユース向きとは言い難いのだ。

 やはり、長く着ることができて、さらにブランド価値があれば、リユースなどの二次流通でも高値がつく。もちろん、服が割高になれば低所得者は購入できないという意見もあるだろう。だから、中古衣料など値ごろなものの二次流通を進めていくべきなのである。目先の消費喚起を狙って、格安の商品を販売するのではなく、リユースを想定して寿命の長い商品を生み出すこと。これが結果的には廃棄される服を減らすことに繋がるのである。

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買い取るから、買って。

2024-12-11 06:55:26 | Weblog
 一ヶ月ほど前、Jフロントリテイリング(以下、Jフロント)は、宝石・貴金属や高級時計、バッグなどの買い取り専門店「コメ兵」と合弁会社を設立し、ブランド品などの買い取り事業に参入すると発表した。合弁会社は傘下の大丸やパルコに買い取り店を出店し、顧客が持ち込んだ品物を買い取る。買い取った品はコメ兵に売却し、同店が販売することはない。品物の査定など店舗運営はコメ兵から派遣されたスタッフが行うが、Jフロント側は百貨店の外商客向けにサービスの利用促進や自宅訪問買取をアピールする。百貨店などのスタッフにブランド鑑定に必要な資格取得の支援も検討している。

 Jフロントでは、2024年3月から3ヶ月間、買い取りの実験店舗を大丸神戸店に出店。宝石貴金属やブランドのバッグなどを買い取る事業モデルの検証を行った。また、外商スタッフが顧客の自宅を訪れて買い取りを行ったところ、目標を超える申し出があったという。買い取った品物には状態が良いものが多かったことから、Jフロントにとって収益につながると判断。実店舗の出店にこぎつけた。1号店は2025年夏、大丸松坂屋に開業し、28年2月期までに同店やパルコの約20店に拡大する計画。また、テナントとして出店している既存の中古品買い取り店は期間が満了すれば契約を終了し、自店に入れ替えるという。

 ブランド品の買い取りについては、三越伊勢丹HDがすでに買い取り専門店の「なんぼや」を運営するバリュエンスHDと協業し、買い取り店の「アイムグリーン」を運営している。さらに都市型のショッピングセンターや駅ビルもテナントで買い取り店を誘致するなど、リユース市場の広がりに伴ってブランド品の買い取りは活況を呈している。ただ、品物を持ち込む客の側も、買取額はどこが一番高いかを見極めており、買取店は厳しい選別にさらされている。そのため、各社は査定無料、即現金渡し、LINEによる見積もり、買取額アップのキャンペーンなど、様々なサービスを打ち出して競争力を発揮しようとしている。

 リユース市場の規模は、2022年のデータ(リユース新聞推計)で2兆9000億円。対前年比7.4%増と13年連続で伸びている。これは同年の全国百貨店売上高(約5兆円)に比べても、6割に相当する規模だ。品目別では、衣料・服飾品が5119億円、ブランド品が3062億円、家具・家電が2747億円、玩具・模型が2119億円となっている。ブランド品を含めたファッション関連が約8000億円に達し、全リユース市場の3割近くを占めている。

 リユース市場の拡大を後押しするのが、メルカリなどのCtoC、いわゆる個人間取引だ。CtoCの売上高は2022年で1兆2485億円。10年余りで4割以上を占めるまでに成長している。BtoC(企業対消費者取引)は店舗販売が1兆643億円、ネット販売が5385億円と、全体の約55%を占めるが、市場拡大の勢いはCtoCの方にある。ブランド品などプロの鑑定が必要なものはBtoC、個人の不要品処分はCtoCに、販路が分かれていると考えられる。



 Jフロントが展開していく買い取り店はどうか。宝石・貴金属や高級時計、バッグなどの買い取りは、既存の買い取り店を自店と入れ替えることで継続していくという。だから、新店の業態内容はブランド品の衣料やバッグ、宝石・貴金属、高級時計の買い取りを主体にすると思われる。ただ、百貨店の大丸松坂屋と都市型ショッピングセンターのパルコでは客層が違うので、買い取る品目にも多少の差が生じるのではないか。



 一概にブランドの衣料といっても、アルマーニやグッチなど海外のラグジュアリーから国内の高級品までと様々。そこで、買取対象衣料の線引きをどうするかだ。パルコの地方店には古着店が出店しているが、これらは販売のみで買取はしない。高価なブランド衣料の買い取りについては、コメ兵の買い取り基準に添っていくのではないか。また、ブランドスニーカーについてはコメ兵が買い取り専門店を運営しているため、鑑定ノウハウを持っているはずだから、大丸松坂屋では展開が無理でもパルコの店舗なら受け付けるかもしれない。


ブランド買い取り店は寡占化し、選別されていく

 リユースの市場規模は2030年に4兆円規模に達する(リユース新聞予測)と言われる。百貨店が買い取りの店舗を構えるようになったのも、それだけ市場が拡大しているのならビジネスとして十分成り立つとの目論見からだ。加えて顧客が高齢化している中、百貨店としては顧客の自宅に眠る宝石・貴金属やバッグ、ブランド衣料などを現金化してもらうことで、新たな買い物を促す狙いもあるだろう。もう高級ブランドは必要ないにしても、デパ地下の食品、洋品やアクセサリー、インテリア雑貨は買いたい。ならば、その原資にしてもらえばいいわけだ。

 まさに、買い取るから、買って。百貨店の切実な願いではないだろうか。もちろん、客層がぐんと若返るパルコでも、本音は同じだろう。Z世代のお客は新品を購入する前に、中古価格を調べると言われている。つまり、中古価格が高い商品なら新品でも売れる傾向にあるということだ。自店でそうした商品を買い取れば、Z世代のお客はそれを原資にして新品を購入してくれるかもしれない。このサイクルをうまく作って行くことがビジネスになるのである。



 一方、闇バイトによる強盗事件が多発している。犯罪者は高齢者宅には金目のものがあると踏んで闇バイトの実行犯をリクルートし、強盗に差し向けている。また、犯罪とは言わないまでも、不要品を買い取ると謳って高齢者宅を訪れ、ブランド品を安く買い取る押し買いなどのケースも増えている。中には、不要になった衣料や靴を買い取ると電話をかけながら、自宅に来るとそれらには目もくれず貴金属はないかと居座り、見せると難癖をつけて代金を支払わないで持ち去ったり、苦情は言わないと誓約書に署名させる業者もいるという。

 本来なら消費者保護の観点から、特定商取引は法律で規制されている。突然訪問し勧誘すること、事前に承諾した物品以外のものを売るように迫ることはできない。契約時には書面の交付が必要で、交付時から8日間は無条件でクーリングオフできる。にも関わらず、業者側はあの手この手で法律の隙を突き、巧妙に宝石・貴金属やブランド品を安く買い叩いていこうとする。筆者の自宅にも一度、業者が来て上記と同じような態度で迫ってきたが、たまたま当方が居たので魂胆を見透かし、法律を盾に追い返してやった。

 ブランド品の買い取り店は乱立気味だ。つまり、買い取り店は寡占化しているわけで、お客の側に選別されている状況とも言える。買い取り事業者はサービスや利便性の面で差別化しようと、店舗を構えるだけでなく自宅まで買い取りに来てくれる。いわゆる、出張買取だ。Jフロントがこれから大丸松坂屋やパルコに出店していく買い取り店がどこまでサービスを展開するかはわからない。ただ、高齢者としては百貨店の外商がブランド鑑定の資格をもつスタッフを連れ立って、自宅まで来てくれるのならありがたい。何より顔馴染みなら安心だし、百貨店という信用も後押しになる。



 パルコは別にして大丸松坂屋では店舗買い取りを原則としつつ、外商顧客には出張買取のサービスも有りにするのではないか。そこで、重要なのが買い取りで得た資金をいかに自店での商品の購入に繋げていくかの二次的な施策だ。せっかくの資金が他店で商品を購入されたのでは意味がない。しかも、買い取るにはキャッシュが不可欠だ。百貨店グループの信用力があるとは言え、買い取りと購買がうまくシンクロしなければ、キャッシュフローは生まれない。そこでポイントで支払うという手法も考えられる。

 大丸や松坂屋、パルコは共にポイントカードを発行している。カード会員に対して買い取り額アップのキャンペーンを実施し、全額ポイントにして付与することで囲い込むこともできるだろう。当然、Jフロントとしても想定してはいると思うが。

 不況の長期化で中間層が没落し、貧困層が拡大。高額な商品が売れないデフレ禍が続いてきた。しかし、安価ですぐに買い替えられる品物は、リユースされ難いことから買い取りは難しく、廃棄に回りやすい。それが環境に負荷をかけているとも考えられる。マーケティング会社のミトリズが実施した衣替えに関する調査でも、不要になった服の処分については「ごみとして捨てる」が20代以下で70.8%、30代で67%、40代で69.4%、50代で78.2%、60代以上で77.2%と、圧倒的に廃棄される傾向にある。

 また、リサイクルショップなどで買い取られても低価格で販売されるため、リユース市場の拡大という点では限定的だ。特に低価格の不要衣料は実店舗で対応すれば、人件費などコスト負担が重荷になるため、買い取り価格を抑えなければならない。多くのお客はリサイクルショップでの「衣料品の買取額は何十円程度」と学習しているから、メルカリなどで処分しようとする。個人売買でフリマアプリが主流になっているのはそうした理由もある。

 ただ、ここに来てフリマアプリによる個人売買でトラブルが発生している。購入者が品物が破損していたとか、機器が作動しないなどの理由で返金を求める一方、品物を全く違うものにすり替えて送り返すケースだ。被害者がSNSに投稿したことで、同じ経験をした利用者からもコメントが寄せられ、#メルカリ詐欺がトレンド入りした。今回のケースは、プラモデルやスマートフォンだったようだが、今後衣料品でも詐欺が起きないとは限らない。メルカリ側は最終的に出品者に対して補償を行ったようだが、当初は「個人間の取引には責任を負わない」と突っぱねている。

 Yahoo!オークションもそうだが、ネットによる不要品取引では間に人間が入らないことでトラブルが発生するケースがある。宝石・貴金属やバッグ、ブランド品の買い取りにもAIを活用するところが出始めているが、多くの事業者は鑑定資格をもつ専門スタッフの手を借りている。やはり高価なブランド品の買い取りは、人間が対面で当たることで安心や安全が担保される。そうした運営には百貨店グループの方が向くだろう。また、買取額が高いことで市中に流れる資金が大きくなるから、新品の購買を促す契機にもなる。マクロ的に見ると、中古品になっても再利用に十分足り得る商品を生み出すことがリユース市場の拡大につながるわけだ。



 エルメスのバッグは中古でも高額で販売され、訪日外国人が好んで購入している。そこにはブランド価値が高いこともあるが、職人による手作りでリアぺサービスが充実し、長く愛用できることもある。子供や孫へと引き継いでいけるからだ。分解掃除が可能な機械式高級時計、リメイクが可能な宝石・貴金属も同じ次元だと言える。ブランド品だから二次流通が可能になるというだけでなく、寿命が長く再利用を前提に生産された商品なら、次のユーザーにも商品価値を理解してもらえる。宝石・貴金属や高級時計、バッグの買い取りビジネスは、そうした視点を持って取り組むことも重要ではないかと思う。

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来福買服のコリアン。

2024-12-04 06:56:58 | Weblog
 今年は猛暑、残暑が続いたため、秋冬物のPOP UP STOREの開催を後ろ倒しにするメーカーがあった。お客としては通販サイトなどで先買いしても、実際に着るのは随分後になる。だから、在庫さえあれば十分なのだが、メーカーはそうはいかない。すでに抱えている在庫はできるだけ現金化しないと運転資金が枯渇する。さらに顧客の先買いで卸先で完売したものは、追加オーダーされる可能性もある。だが、バイヤー側は期末に売れ残る可能性もあるから、時期的な見極めが難しい。11月に入っても暖冬が続いている点が非常に悩ましいのだ。

 だから、自らPOP UP STOREを開催して、お客に現物を試着してもらうなどして、卸先とバッティングしないエリアで新規客の発掘や購入に誘うところもある。いわゆるDtoC(ダイレクトツーコンシューマー)だ。以前ならメーカーは取引先のショップに配慮して直販することはなかったが、そうした業界の不文律も少しずつ変わってきている。メーカーが体力を無くせば商品供給が滞って、店側も売るものが無くなるリスクがある。多くのお客さんに商品を知ってもらうには、小売店に卸すだけでは限界がある。共存共栄、ウィンウィンとなるには、長年の慣行も少しずつ見直す必要があるようだ。

 卸先とバッティングしないエリアのお客さんを開拓することも重要だ。先日もあるメーカーのPOP UP STOREが開催されたので行ってみた。東京、名古屋、大阪などの主要都市を巡るキャラバン型で、福岡でも2日間にわたって開催された。担当者の事前説明では、「自社の通販サイトでは、10月の末くらいに秋冬物の全ラインナップが完了します。でも、ネットでは素材感や着心地はわからないので、ぜひPOP UP STOREで現物を見て確認して欲しい」とのことだった。



 このメーカーはエッジを効かせたデザインではなく、あくまで上質な国産素材を使用したミニマルなアイテムを創り出している。POP UP STOREにラインナップした商品については、その路線を継続しているものの、生地にもう少し組織変化があってもいいのではと感じた。デザインに特徴がないので生地があまりにフラットだと、着た感じがペタとしてメリハリのない体型の人間には少し厳しい。それでも人気があるようで、多くのお客さんがつめかけていた。

 福岡というエリアは地勢学的に韓国を中心にしたアジアからの旅行者も多く、その中には国内の専門店系アパレルの服、いわゆるドメスティックブランドを好んで買っていく人が増えている。今回のPOP UP STOREにも、韓国の旅行者らしき若者が数人来ていた。外国人からすれば、メジャーなブランドなら東京や大阪のファッションビルでも買うことができるが、地域のセレクトショップが好んで扱うようなアイテムは足で探さなければならない。

 だから、まずはメーカーのサイトでめぼしいアイテムをピックアップし、取り扱いショップ情報を入手する。そして、旅行で来日した時に立ち寄って現物を確認し、気に入れば購入することがあるようだ。そうした商品を製造販売するメーカーがPOP UP STOREを開催してくれると、いちいちショップを巡る必要もなくダイレクトに商品を見たり、試着したりすることができる。だから、旅行ついでに効率よくウィンドウショッピングを楽しめるわけだ。そして、
気に入ったのなら、帰国した後に通販サイトで購入すればいい。

 最近では訪日外国人でも若者は日本の古着を買うようになっているが、中でも洋服好きは日本人と同じように専門店系アパレルが作るアイテムに惹かれている。まあ、日本人の若い女性が比較的近い韓国を訪れ、化粧品やファッションを購入するのだから、逆に韓国の若者が地理的に近い福岡を訪れ、モード感のあるミニマルな服を買うことは当然あり得るだろう。



 POP UP STOREを開催したメーカーだが、地域のセレクトショップを中心に卸してきたきたため、価格より質を追求している。そのため、海外のメジャーブランドよりは安いが、日本のSPA系に比べると割高に感じる。プライスゾーンは秋冬物のシャツで20,000円~30,000円、パンツが18,000円~23,000円、ジャケットが30,000円~40,000円、コートが50,000円~60,000円になる。海外のラグジュアリーブランドに比べると手頃なのだが、デフレが続いた日本の金銭感覚からすると、やはり割高さは否めない。

 それでも、わざわざ韓国の若者がPOP UP STOREに合わせて日本を訪れているのだから、単に商品を見るだけというよりは、明らかに購入目的ではないか。日本は生活必需品の物価高騰で実質賃金が目減りしている中、政治は103万円の壁だの、税収が7億円減少だのと賑やかしい。だが、韓国の若者の中にはそんな日本とは違って、欲しい商品には惜しげもなくお金を使うものがいる。それは景気が良くて収入がアップしているのか、それとも元々富裕層なのかはわからない。ただ、単にメジャーで高額なブランドを購入するのではなく、上質な素材を使った服に惹かれるのは、洋服好きが本物志向に移っている証左と言える。


地勢学的なメリットを生かし市場を拡大

 訪日外国人が日本製の服を購入する具体的な理由は、価格に対してクオリティが良いことだ。例えば、東京の銀座や表参道のメーンストリートで見かけるのは、海外のラグジュアリーブランドがほとんど。だが、商品の価格はシャツでも最低で50,000円台。パンツは同80,000円~100,000円。ジャケットになると150,000円を下らない。いくら円安とは言え、よほどの富裕層でない限り手が出せない。ブランドだからと飛びつくのは、ファッションに対し成熟していない中国人の富裕層くらいではないか。

 それに訪日外国人はリピーターになってきている。福岡を訪れる韓国人もそうだ。海外旅行というより、少し遠出する感覚で買い物やグルメを楽しんでいる。リピーターになれば、ショッピングについても学習する。ブランドだからとか、高級品なら安心という条件は薄れていく。どんなアイテムが自分に相応しいか。実際に自分の目で確かめる。もちろん、予算の範囲内というか、この価値でこの価格なら買いか、買いでないかを判断する。そんな感じだろう。

 だから、前出のメーカーのようなアイテムだと、商品の価格はラグジュアリーブランドの半額以下から3分の1だ。おまけに生地は上質で、デザインはミニマルだから、色んなアイテムとコーディネートしやすい。それだけお値打ち品に感じるはずだ。そう考えると、日本を何度も訪れたことがある韓国人ほど、理にかなった服の買い方に移っていると思う。韓国に近い福岡は、洋服の購入について学習し成熟してきたお客を捉えるには、絶好の立地。メーカーや小売り側にも外国人向けの対応が求められる。



 福岡天神周辺は新型コロナウィルス感染が5類に移行して以降、観光客が以前にもまして増えているように感じる。天神ビッグバンの仮囲い前で立ち止まっているのは、スマホの地図アプリで目的地を探す外国人ばかり。再開発の槌音と飛び交う外国語が福岡天神の今を象徴する。大名界隈の古着ショップを訪れる若者の中に外国人が増えているというのは前にも書いた。一方で、あるセレクトショップのオーナーは、店の売上げの1割ほどを訪日観光客が占めるようになったので、来年は2割くらいまで伸ばしたいと語っていた。

 そのために何をするのかと尋ねると、「店のHPを英語のほかに韓国語、中国語のバージョンも作らないといけないかもね」と、オーナーは答えた。以前に日本のショップを紹介する韓国のHPがあったが、それを翻訳機能で変換するとぐちゃぐちゃな日本語になった。その逆のパターンもあるだろうから、正式な外国語版のHPは検討する余地があるだろう。以前、福岡アジアファッション拠点推進会議が活動していた時には、福岡におけるファッション情報の発信を目的にポータルサイトが制作されたが、全く機能することなく数年で閉鎖された。

 やはりサイト制作は各個店が独自でやるべきだ。自治体などが費用を拠出すると、利害関係者が事業を目的化してしまう。地元ファッション産業の振興などどうでもよく、利権を得られればいいからだ。福岡は小売りの街である。アパレル関連では、地元に根ざした専門店やセレクトショップなどが鎬を削っている。オーナーバイヤーが市場の動向に目を光らせ、トレンドが合致すると感じたら、迅速に品揃えに反映させていく。そうしたショップやアイテムを訪日観光客の洋服好きは見逃さない。でも、仕入れた商品だけで目の肥えたお客を捉えるのは限界がある。メーカーのPOP UP STOREの定期開催は必要だろう。



 福岡のファッション市場がアジアに広がっているという点は好ましい傾向だ。米国ではトランプ大統領が米国ファーストを公約に二度目の政権に就いたことで、いろんな経済対策に乗り出していくようだが、日本で一番注目されるのは為替の変動だ。就任直後は円安、ドル高のままで、大きな変化は見られなかった。今後も円安で推移していけば、訪日外国人の活発な消費は続くと見られる。ただ、アパレルについては買い方の変化が見られるだけに、自店の品揃えの中で、外国人をどう捉まえていくかが重要になる。

 加えて一時的なトレンドを追いかけるだけでは、長続きしない。韓国人はともかく、中国人のブランド買いが今後も続くとは限らない。日本、福岡の市場でも、メガヒットが生まれなくなっているからこそ、先のメーカーのように卸だけでなくDtoCのチャンネル整備も必要だ。トレンドはブームが去るのも早いが、熱狂的なブランドのファンが残り続けても、市場がそれ以上広がることはない。SNSでのファンコミュニティ内で収まってしまうからだ。

 日本の消費者は食品の値上げで衣料品への支出をセーブしている。2023年12月の国内消費者物価指数の被服及び履物、いわゆる服と靴は前年同月比3.0%増だった。この数値は総合指数の上昇率(同2.6%)を上回った。暖冬で秋冬衣料が苦戦する一方、薄手の夏物やスニーカーが消費を牽引したと見られる。それは消費者がどこにお金をかけるか、それだけシビアになっている証左でもある。

 コアなブランドファンと一般消費者の服に対する熱量は明らかに差があるわけで、これ以上拡大することはあり得ない。もちろん、ユニクロのように万人受けするブランドはもう必要ではない。だからこそ、価格対価値に軸足を置き、マスにはならなくとも地道にファン客を掘り起こす商品や品揃えがカギになるわけだ。ミニマムなコミュニティ市場の発掘というべきか。それには日本人だけでなく、外国人のファンも捉えていく。

 日本のアパレルの価値を知り始めた外国人に積極的にアプローチしていくことは、これからますます重要になる。自社のものづくり、自店のアイテムを好んで買ってくれるのなら、日本人も外国人も関係ないのだから。

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コットン好きの変節。

2024-11-27 07:13:02 | Weblog
 すでにご存知の通り、MLBの2024年ワールドシリーズは、LAドジャーズがNYヤンキースを4勝1敗で下した。一連のポストシーズンに出場する選手は、ディビジョンシリーズやリーグチャンピオンシップの段階から、胸元に各シリーズのタイトルロゴがプリントされた「フーディ」を着ている。広大な国土をもつ米国では相手チームの球場に長距離移動を強いられるから、これらのアイテムも急激な気温変化に対応しなければならない。そのため、フーディの素材や混紡率はどうなっているのかということだ。

 今年のナショナルリーグのリーグチャンピオンシップは、ドジャーズとNYメッツが対戦した。チームはそれぞれロサンゼルスとニューヨークが本拠地だから、米国の西と東約4000kmほどを行き来したわけで、試合を観戦するファンの服装を見ても両本拠地の気候の違いがはっきりと見て取れた。ワールドシリーズもドジャーズとヤンキースの対戦になり、ロサンゼルスで観戦するファンが至って軽装なのに対し、ニューヨークではしっかりアウターを着込んでいた。ファンの服装を見ると、気温差があるのが明らかだった。



 ロサンゼルスの10月の平均気温は19.5℃で、11月は同16.7℃。リーグチャンピオンシップが開催される10月末は間をとって18.1℃とした場合、体感的には肌寒いとまではいかない。ファンの格好も薄着の人はTシャツ、重ね着した人でも応援用のユニフォーム程度だった。ところが、ニューヨークは10月の平均気温が18.9℃だが、試合が開催される夜間は気温が約10℃程度まで下がる。ファンがフーディの上にスタジャンなどを重ね着していたのも、それだけ寒いからだ。むしろ、選手の方が体温調整は大変ではなかったかと思う。

 試合中、ピッチャーは投球で運動量が多いため、トップスは半袖のユニフォーム1枚か、その下にアンダーシャツを着る程度。野手にしてもユニフォームとアンダーシャツと軽装だ。しかし、ベンチで試合を見つめる控えの選手は、ほとんどがフーディ姿だ。これはTVカメラが時々選手の様子を映し出すため、シリーズという興行をアピールするロゴ入りのアイテムを着るレギュレーションだからというのは理解できる。だが、選手自体がアウターを着込るのは、いつでも試合に出られるよう体を冷やさないためだと思われる。

 そこでフーディの素材や混紡率についてである。あくまでテレビを通じて見た印象なのだが、表面には光沢があり、素材も柔らかそうなのでコットン100%というより、ポリエステルがかなり混紡されているのではないかと感じた。厚みは10~12オンスくらいか。スポーツウェアなので裏パイルか、裏起毛の処理が施され、吸汗と保温の両方の機能を備えているはずだ。選手各自に何枚支給されているかはわからないが、着用後に洗濯し翌日の試合に備えることを考えると、速乾性も必要になる。



 サプライヤーは胸元のロゴマークからナイキだとわかった。サイトで調べると、「Los Angeles Dodgers 2024 World Series Authentic Collection」「Men’s Nike Therma MLB Pullover Hoodie」という、選手が着ているものと同じアイテムがヒットした。価格は$85で、日本円に換算すると11月2日のレートで1万3000円程度だから、レプリカではなく選手と同じものだろう。ドジャーズ用は優勝が決まった時点でSold Out。ディテールを見ると、素材はポリエステル100%と表記されていた。



 商品説明には、「フーディは汗を逃がすテクノロジーと高性能素材を組み合わせて、チームがコミッショナーズ トロフィーを目指して競い合うときに暖かく快適に過ごせるようにします」とある。メリットには、「Nike Therma ファブリックが暖かさを保ちます。Nike Dri-FIT テクノロジーが肌から汗を逃がして蒸発を早め、ドライで快適な状態を保ちます」と記されている。ナイキが開発した素材「Therma(therm=熱の意)」が保温性を高め、汗をかいても水分を逃がしてすぐに乾く機能を持つと謳われている。



 実際にフーディを着た選手の印象はどうだったのか。多分、無償提供を受けているはずだから悪くは言えないのは割り引いても、ナイキが素材開発や機能アップに注力した以上、試合でベストパフォーマンスを上げるためのウォームアップ用としては十分だったと思う。ちなみにヤンキースバージョンも、チームのカラーとロゴが違うだけで、素材も機能も同じ。こちらは11月2日現在で、完売はしていない。優勝できなかったことも要因の一つだろう。ただ、Big Kids=年長の子供向けは、素材がコットン80%、ポリエステル20%の混紡になっている。ポリエステルの比率を2割まで下げたのは、子供を含め敏感肌には合繊オンリーは厳しいと認めているようなものだ。

 かつて「米国人は冬場でも綿製品を好んで着る」という話を聞いたことがある。確かに筆者がニューヨークにいた1990年代半ば、真冬のマンハッタンでもコットン素材で厚手のスウェットフーディの上にダウンジャケットを羽織る人々を数多く見かけた。日本のようにインナーにウールのセーターを着ることはなかったようだった。ウールを着ている人でも、それはアウターのジャケットか、コート。米国では肌に近いまたは直接触れるアイテムは、天然素材のコットンを好んで着る、そんな服飾文化が浸透していたのかもしれない。



 と言っても、極寒のニューヨークではそうはいかない。真冬はマイナス20℃くらいまで気温が下がるからだ。いくら肌触りのいいコットンが好きと言っても、下着にも何らかの保温効果のあるものが必要になる。昭和世代の日本人なら誰もが知っている「ラクダのももひき」だ。実を言うと、米国にもラクダの毛を使用したものではないが、肌に優しい天然繊維のカシミア素材などを使った保温性下着があった。1990年代、このシーズンになるとニューヨークポストのようなタブロイド紙には、保温性下着の通販チラシが折り込まれていた。

 チラシにはファミリー役の男性、女性、子供が下着を着た写真が掲載されていたが、下着は上に着るシャツの襟やパンツの裾から見えないよう首周りを大きく裾を短くした仕様で、デザイン的にも野暮ったくならないよう工夫されていた。保温性を保ちながら、ファッション性にも配慮する。当時はヒートテックといった合繊素材で格安かつ保温機能を持つ下着はなかった。だから、カシミアのような高級素材が使われた下着は価格も高く、購入者もマンハッタンのオフィスに勤務するホワイトカラーの家族が主体だったと思われる。

 低所得のブルーカラーが高額な下着に手が届くはずもない。厚手のコットンを使ったフーディの上にダウンを着ながらも寒そうにしていたのは、米国の社会階層からわかる気もする。ただ、ビジネスとして考えると低所得者の方が圧倒的に多いのだから、素材が豊富に入手できて価格が抑えられる素材が主力になるのは当然だ。1990年代は綿糸が今ほど高騰してはいなかったため、スウェットのフーディは手頃なアイテムだった。コットン素材の裏側を起毛させた厚みのある生地にし、空気を取り込み保温性を高める裏起毛、いわゆる裏毛によって冬場でも着られるようにしていたのである。


綿100%でも保温性は高められる

 あれから約30年、日本はずっと暖冬が続いている。ただ、寒冷地では重ね着せず一枚ものでも寒さを凌げる衣類が必須だ。極寒にはコットンの裏毛くらいではとても保たない。スポーツメーカーがスキーなど冬季競技のインナーウエアとして保温性のある下着を開発していたが、販売先はスポーツ店に限られたことから、メジャーにはなり得なかった。そこに目をつけたのがユニクロだった。素材メーカーと共同で機能性下着を開発し自前の店舗で売り出せば、価格も下げられきっとメジャーになるはず。思惑は的中した。それがヒートテックだ。

 コットンの裏毛はアンダーウエアにはなり得ない。アイテムはスウェットのフーディやトレーナーだから、防寒にはアウターが必須になり、どうしても着膨れして見えてしまう。ヒートテックは薄手の下着にもかかわらず保温力があるため、上の厚着を抑えられる。ファッション的にもすっきり見える。それもヒットした要因だろう。もちろん、ナイキのようなスポーツメーカーも機能性ウエアを見逃すはずはない。契約選手のモニタリングを通じて様々な機能を付加するために商品開発に注力したわけだ。

 2000年代はスウェット素材、コットンの裏毛に代わる保温性をもつ素材がトレンドになったと言える。特にスポーツウェアでは、選手がかいた汗をを蒸発させて、素材を素早く乾かす機能が求められる。また、冬場のウェアには汗を逃すが、熱は逃さないことも条件となった。各メーカーで素材の名称は異なるが、機能性ウェアはユニフォームの枠を外れたジャージなどにも取り入れられていった。



 今年のMLBワールドシリーズで、ナイキが提供したNike Therma MLB Pullover Hoodieも、その一つと言える。選手が試合中に着るのだから、Nike Dri-FITの汗を逃がして蒸発を早め、ドライで快適な状態を保つことが最優先される。もちろん、サプライヤーとして両チームに提供した応分のコストは、一般に量販することで回収する。それが2024 World Series Authentic Collectionだったわけだ。優勝したドジャーズ版はSold Outしたのだから、十分に元は取れたと思う。

 ただ、一般のファンがWorld Series Authentic Collectionのフーディを購入したのはドジャーズ優勝が理由で、機能性素材に惹かれたわけではないだろう。米国人の好みからすれば、ポリエステルよりもコットンではないのか。それとも、コットン嗜好も素材トレンドの変化とともに変わってしまったのか。一般の人々がカジュアルウェアとして着る分には、Dri-FITのような機能が必要なのか。また、Nike Thermaよりコットンスウェットの裏毛で十分な気もするが、どうなのだろう。

 ここからは個人的な意見として述べてみたい。この10年ほどでスウェットのフーディやトレーナーにも、合繊の比率が高まっている。これは果たして機能性素材のトレンドをくんだものか。それとも、価格ダウンとコスト圧縮のために使用する綿糸を減らす、またはカットする目的からか。各社がこの秋冬に販売するスウェットアイテムから混紡率を比較してみよう。




 ユニクロ スウェットプルパーカ 本体: 100% 綿 スウェットパンツ 本体: 88% 綿, 12% ポリエステル
 無印良品 スウェットプルパーカ 本体: 52% 綿, 48% ポリエステル スウェットワイドパンツ 本体: 52% 綿, 48% ポリエステル
 グローバルワーク 上品スウェットパーカー ポリエステル90% ポリウレタン10% 上品スウェットパンツ 本体:ポリエステル90% ポリウレタン10%
 ギャップ Athleticロゴ パーカー コットン 77%, ポリエステル 23% GAPロゴ ジョガーパンツ コットン 77%, ポリエステル 23%

 大手SPAではざっとこんな感じだ。ユニクロはスウェットのパーカこそボディは綿100%だが、パンツでは合繊の比率が12%になる。無印良品はさらに増えて綿と合繊はほぼ半々。アダストリアのグローバルワークは完全に合繊オンリーだ。逆にグローバルブランドでコットン100%はH&Mが一部で投入しているが、レビューを見ると「生地が薄い」との書き込みがあった。ファストファッションだけにこれはコスト削減が理由と見られる。

 他では「ユナイテッドアスレ」や「プリントスター」がコットン100%を採用するフーディやパンツを揃えている。両ブランドはプロモーションやイベントなどのプリントに対応するため、生地の薄厚や色のバリエーションが売りになっている。一方、ファッション性を優先し、値頃感のあるブランドではコットン100%の裏毛素材は、企画するところが少なくなっているようだ。ただ、合繊混紡の方が冬場の保温性がアップするかと言えば、一概には言えないような気がする。




 筆者が10年前に購入した無印良品のジップアップスウェットは、12オンスほどの肉厚で裏毛仕様。本体は綿100%である。合繊が混紡されていないにも関わらず、ポカポカして非常に保温性が高い。しかも、コットンオンリーだから心地よく、屋外のランニングから室内のトレーニング、街着、室内着とオールマイティに通用し、現在も着用している。購入したのは日本の店舗になるが、商品タグには[US]MUJI U.S.A LIMITED http:www.muji.usと表記されているから、米国企画のアイテムなのかと思う。

 この頃までの無印良品では、衣料品には綿などの天然繊維が使われることが多く、質感も非常に良かった。ジップアップスウェットはその典型だ。表示されているように米国向けの商品として企画したのなら、やはり米国人のコットン好きに合わせたのかもしれない。だが、その後の無印良品では素材トレンドの変化や綿糸価格の高騰の影響からか、コットン100%のスウェットはすっかり影を潜めている。そんな変節ぶりを当の米国人はどう思っているのだろう。ポリエステル100%のMLB Pullover Hoodieが売れているところを見ると、米国人も合繊オンリーといった素材変化を許容し始めているのか。

 筆者は別にアメカジ心酔派でも、アスレジャーのヘビーユーザーでもない。ただ、かつての米カジュアルに使用されていたコットンのざらっとした風合いや、洗う度に粗野になっていく感じは嫌いではない。あれこそアメリカンコットンの良さなのだ。さらにコットン100%はリサイクルもしやすく、SDGsの流れにも合致する。かたや日本は夏日が3シーズンにもわたるほどの異常気象が続いている。コットン100%のスウェットはもう通年で求められるのではないだろうか。変に機能性ウエアに固執するよりも、綿オンリーの方が受け入れられる環境になっているような気がするが。
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