HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

値下げを超えるもの。

2022-11-30 07:24:42 | Weblog
 冬場のランニングで着用する「レギンス」がある。かつてはゼビオなどのスポーツ専門店で購入したものを着用していたが、意外にもウエストサイズに対してレングスが短く、ランニング時には捲れ上がっていた。そこで他に良いものはないかと探した結果、見つかったのがディスカウントストアのミスターマックス(MM)のPB「綿あったかインナー」。

 スポーツ用ではなく機能性インナーなのだが、レギンス仕様になっており冬場のランニングに必要な「保温」「静電気防止」「ストレッチ」の条件を備える。素材は綿が95%(ポリウレタン5%の混紡)で吸湿も十分で肌にも優しい。10分丈で走っても裾が捲れ上がることはない。価格も1000円程度と値頃なので3着をまとめ買いした。



 ドラッグ業界で急成長を遂げる「ドラッグコスモス」も、同じようなPB「綿であったか発熱インナー」を販売していた。こちらは「吸湿発熱」「保温」「ストレッチ」の条件で混紡率もMMと同じ。違いはウエストゴムがMMは蛇腹なの対し、コスモスはゴム仕様(ナイロン90%、ポリウレタン10%)。割引で798円となった時に見つけ、MMのものと穿き比べるために2着購入した。

 アンダーアーマーなどスポーツ用になると、素材はポリエステルやナイロン、ポリウレタン(エラスタン)など全て合繊になる。そちらの方がパフォーマンス向上やフィジカルケアには良いのだろう。だが、筆者の肌には痒みなどのアレルギーが心配されるので、綿主体の方が向く。しかも、価格はスポーツブランドの半額以下なら、まとめ買いして耐用年数を伸ばすことできるので、お得感もある。



 もう数年は買い替えも買い足しも必要ないと思っていたら、先日、無印良品から届いたメールニュースに綿インナーが紹介されていた。こちらは「あったか綿、新登場。」のタイトルで、メンズアイテムには「あったか綿 厚手 ロングタイツ」がラインナップする。価格は先の2社より少し高めの1490円だが、素材は綿100%(ウエストはゴム仕様でナイロン81%,ポリエステル19%)になっている。

 商品説明には、「天然素材である綿に特殊な技術をほどこし、身体から発散する蒸気を熱に転換する『吸湿発熱のちから』を高めた、あったかインナーです」「綿100%で化繊による肌の乾燥や静電気の発生をを防ぎます」と記されている。これだけ読んでも、やはり惹かれる部分は十分にある。また、「晩秋から初冬の寒さや野外での活動にも快適に着ていただけます」ということなので、これもランニング時に着てみようという気にさせた。

 サイズ表記がMでウエスト63.0cm、ヒップ85.0cm、股下70.5cm、Lで同68.0cm、同90.0cm、同72.0cm。どうやら現物の実寸サイズがそのまま記されている。先に2社はパッケージでは一般表記のMがウエスト76〜84cmだったので、実寸サイズを気にすることなく購入した。逆に実寸が表記されると迷ってしまう。念のために先に2社の実寸を測ってみると、無印良品のMサイズ表記とほぼ同等だった。ネット通販のみで購入する場合は、この辺の違いが非常に迷うところである。

 あとは1490円という価格をどう判断するか。確かに先に2社の価格に比べると、1.5倍ほどになる。逆に素材が100%で、「厚手」という特徴には惹かれる。まあ、発売間もない商品だし、よほど寒くならない限りは売り切れることはないだろう。店頭でじっくり現物を確認してからでも、購入は遅くないと思う。

 機能性インナーではユニクロが先行し、イオンなどの量販店も追随した。ただ、先行企業が合繊中心であるのに対し、後発のしまむらは綿100%で対抗した。さらにミスターマックスやドラッグコスモスは綿の比率を95%に維持しつつ、抗菌防臭やストレットといった機能も加えた。あとは購入者がいろんな着用条件や体質で判断するかだ。筆者はランニングで着用するので、吸湿と保温で肌触りのいい綿100%に近いものを選ぶことになる。


価格より企画やマーケティングに注力すべき

 こうした新商品を投入する無印良品の動向はどうなのか。良品計画が先月半ばに発表した2022年8月期決算によると、売上収益は前期比9.4%増の4961億円だが、純利益は同28%減の245億円の増収減益となった。利益が前年より3割近くも下回ったことは、明らかに収益構造に異変が起きていることを示す。

 一番の理由は、より多くの集客を果たすために実施した「値下げ」が通用しなくなっていることだ。以前にこのコラムでも指摘したが、単純に値下げだけならお客に受け入れられる。しかし、肝心な商品づくりについては値下げする分、衣料品では原価を下げているように思え、2000年代以前に比べ明らかに質が低下している。これではお客に見透かされても仕方ない。

 逆に原材料費や人件費、輸送費などのコストは上昇しているのだから、値下げを続けたことで利益が圧迫されたのは明白だ。堂前宣夫社長は決算発表のオンライン会見で、「価格を下げることで対応してきたが限界を迎えた」と述べている。しかし、お客には値下げで品質も下げているように受け取られている。そのことに経営者として気づいていなかったとすれば、大いに反省すべきではないか。

 日本が人口減少にある中、集客増で値下げ分をカバーし、収益を伸ばすというスタイルは通用しなくなっている。しかも、競争相手は無印良品を超えるレベルものを次々と発売している。堂前社長も会見で「様々な企業が類似品を出している」と、企業名はあげなかったものの、ダイソーの「スタンダードプロダクツ」は明らかに脅威と見ているはずだ。

 さらにベイシアグループのカインズ傘下となった東急ハンズ改め「ハンズ」もPBを強化していくだろうから、日用雑貨では無印良品のコンペチターになるのは間違いない。インテリアではニトリやイケアも競争相手になる。若者向けの3COINSも機能充実の商品群を強化しており、侮れない。




 11月3日、東京出張中に時間を作って「百八貨店くらしの全部」と銘打った「東京有明店」まで足を伸ばした。祝日ということ、ららぽーと豊洲からの流れもあり、訪れるお客は少なくない。無印良品としては初の試み「食品の量り売り」では、コーヒー、ナッツ、ドライフルーツ、パスタ、米などが自分の好みの量で購入できる。また、「ブレンドティー工房」は緑茶、ほうじ茶、ルイボス茶の3種をベースに32種類のブレンド茶を販売する。

 「MUJI Bakery」は銀座店の約2倍の面積で幅広いパンを取り揃え、イートインを併設。レストラン「Café&Meal MUJI」では、メインディッシュとデリ3つ、ドリンクのランチが1300円で楽しめる。そして、スーパーと提携した青果の販売。旬の野菜が市価とほぼ同等の価格で並ぶなど、これまでの無印良品ない先進的な店舗になる。

 東京有明店がこれから主要都市に展開する無印良品の旗艦タイプになるのかはわからない。日持ちするコーヒーやナッツ類はともかく、青果については一般のスーパーの方が充実している。豊洲地区には16000世帯、37000人以上が暮らすとは言っても、有明店だけ買い物が完結する訳ではない。食品の量り売りや青果による集客には限界があるだろう。

 一方、値下げ政策が行き詰まる中、良品計画は500円以下の日用品や消耗品を中心に集めた「無印良品500」をJR三鷹駅アトレヴィ三鷹に出店した。こちらは駅ビル業態で、とりあえず必要なものを購入する店舗に過ぎない。既存MDの枠を出ないし、多店舗化できるかについてはJR東日本のリーシング次第だ。当然、100円ショップといった強力なライバルがいる。

 11月17日には東京板橋に関東最大級の「板橋南22」を開店した。都内産の青果を扱う他、地元のクラフトビールも販売する。また、ネット注文した商品を駐車場で車に乗ったまま受け取れるサービスも初めて導入した。売場面積も有明店に次ぐ広さ(約4000m2)で、すべての商品をラインナップさせ、マルエツなどのスーパーと張り合うようだ。ただ、これまでのSC展開主体で広域集客しかしてこなかった無印良品がスーパーのような足元商圏の攻略でどこまで戦えるのかは不透明である。

 無印良品に必要なのは、新店開発より商品政策へのテコ入れではないか。良品計画側も商品力の強化に着手し、衣料品は今年秋冬物からアパレル経験を持つデザイナー職などで中途社員を増やしてはいるが、彼らが思う存分に力を発揮できる環境を作らなければならない。ただ、堂前社長は「生活の基本となる商品群の価格は変えたくない」と述べるなど、価格を抑えながら商品力を高めることが本当にできるかは甚だ疑問だ。

 また、「商社などを介さず工場と直接取引をする比率を現状の2~3割から2024年8月末までに約8割に高めて原価低減を図る」というが、ユニクロが順調に収益を出していることを考えると、商社側も「良品計画単独でできるはずがない」と、嘲笑っているのではないか。

 単独で商品開発するにしても、従来通り商社を介するにしても、求められるのは消費者にとって本当に価値ある商品を生み出せるか、だ。その第一歩としては、先に挙げた「あったか綿」など多少割高でも、素材・機能に注力した生活必需品の開発だろう。無印良品にとっては、余分な装飾を廃しつつ、商品の質を上げていくことが肝心だと思うのだが。

 アナリストは「商品の差別化などが問われる局面に入っている」と指摘するが、無印良品は価格と品質のバランスが一番良かった1990年代に回帰すべきではないか。無印良品はスーパー西友のPBから進化・発展し、ブランドを構築した。それはプレーンでシンプルでミニマルというデザイン特性を持った。それでありながら、品質は高く、有名ブランドより割安。単純にそれでいいのではないかと思う。

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受け皿を作るべき。

2022-11-23 06:46:30 | Weblog
 特に驚くことでもないが、もうこれ以上先送りはできないということか。11月11日、セブン&アイ・ホールディングス(HD)は、米国の投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループと、傘下の百貨店「そごう・西武」を譲渡する契約を結んだ。これにより、百貨店のそごう・西武はフォートレスのビジネスパートナー ヨドバシホールディングス(HD)により、再建されていくことになる。問題は再建スキームの内容がどうなるのかだ。




 以前から報道されているのは、ヨドバシHD傘下のヨドバシカメラが東京・池袋の西武池袋店など一部の都心店舗を取得し家電量販店を展開するということ。これには西武渋谷店やそごう横浜店も含まれる。3店はどれも一等地にあり、集客力は抜群なのだが、ヨドバシHDが乗り出したのはむしろ、不動産価値に目をつけたからと言われる。百貨店という業種が時代に合わなくなっている中で、物を言うのは立地しかないということだろう。




 今後、西武の池袋店や渋谷店、そごうの横浜店が高級ブランドや化粧品などのフロアをそのまま残すにしても、新たにヨドバシカメラが低層階に出店するにしても、それは内部で調整し落とし所を探ればいいだけ。しかし、残る地方の7店舗(そごうが千葉店広島店大宮店西武が秋田店福井店西武三島ショップ西武武蔵小杉ショップ)の今後については、現時点では何も発表されていない。むしろ、こちらのスキームの方が気になるところだ。

 セブン&アイHDとフォートレスとの売却交渉が表面化した段階で、ヨドバシHDはそごう・西武の地方店舗には無理難題を突きつけたとの憶測が流れた。内容は百貨店としては閉店し、テナントビルとして再出発するもの。だが、そうなると、従業員は一旦、全員解雇となる。テナントでの再雇用の道はあるとしても、労組としては到底受け入れられないはずだ。

 しかし、冷静に考えれば、どうだろう。今の小売業界で地方百貨店がどこまで生き残れるか。先日、伊勢丹新宿本店が発表した2022年4~8月売上高は1474億円で、前年同期比38.4%増となり、08年の統合後では過去最高を記録した。好調の要因は年間購買額が100万円以上の自社カード会員の買い上げ比率、外商や高価格帯の売上げが向上したこと。売り上げに占める自社カード会員の買い上げは18年の39%から現在の54%に上昇し、外商は12%から15%へ拡大。時計・宝飾品の売上げ構成は18%に高まっている。

 つまり、富裕層が多い首都圏だからこそ、外出自粛が緩和されたことで、伊勢丹本店クラスの買い物客が増えたのだ。しかし、それは地方には当てはまらない。まずライフステージが違うので年収格差があり、富裕層の数も限られる。また、百貨店に対する期待度も、購買頻度も異なる。それでなくてもSCやロードサイドショップなどが充実し、百貨店が無くても生活には困らない。しかも、ネット通販も浸透している。

 労働組合が「従業員の雇用を維持しろ」と言ったところで、今の小売り環境を考えると赤字体質の地方百貨店が黒字に転換することなど、どだい無理な話だ。このままの状態なら閉店を余儀なくされ、従業員の解雇も当然の選択になる。仮にヨドバシカメラが再建に乗り出したとしても、同店の商品政策をそのまま百貨店にスライドさせるだけでは厳しい。家電を筆頭に既にあるものばかりだからだ。ないものは同社の通販サイトで購入できる。地方百貨店の受け皿となって従業員を引き継ぎ、店舗としてペイするとは思えない。

 もちろん、従業員の生活もあるし、地方経済への影響もある。万策尽きたと切り捨てることはできない。そこはそごう・西武を買収したフォートレス、パートナーとして実際に再建に乗り出すヨドバシHD。そして、今のところ表舞台には出てきていないが、フォートレスの親会社でもあるソフトバンクの3社が再建に向けて英知を傾け、優秀な人材を送り込む必要があるのではないかと思う。


地主の協力がなければ再建は不可能

 そごう・西武の地方店の再建スキームはこれから詰められることになると思うが、筆者なりの青写真もある。昨今の小売り環境の変化を考えると、赤字体質の地方百貨店を存続させるのは容易ではないという前提で考えなければならない。スキームは以下になる。

1.建物をそのまま生かし、テナントビルにする
2.建物ごと取り壊し、新ビルを建設する
3.更地にしてレンタル広場にする




 1のテナントビルにするについては、まずヨドバシカメラが西武池袋店やそごう横浜店などで自社の業容を展開し、それが軌道に乗ることが前提になるだろう。いきなり、地方店をテナントビルにするだけのデベロッパーのノウハウがヨドバシカメラにはない。同社の既存店のように自社業態を核にサブカルなどのテナントで補完し、加えてそごう・西武のサテライト店(通販対応、外商・受け取り拠点)を置く程度か。西武が渋谷店で展開する「CHOOSEBASE SHIBUYA」のような売らない店は、地方での常設は難しいと思う。




 次にビルごと運営をデベロッパーに任せる案がある。委託先の候補としては、横浜のクロスゲートや川崎のダイス、姫路のテラッソなど地方の都市再開発を手がけた東京建物グループの「プライムプレイス」がある。それにしても、熊本のココサが苦戦しているケースを考えると、物販・飲食、エンタメだけで集客は厳しい。鹿児島のセンテラス天文館のように公共施設(自治体の出先機関、図書館など)、オフィスや医療機関を抱き合わせる必要があるだろう。

 ただ、福岡の久留米井筒屋跡地の再開発は、自治体が周辺一帯も含めた久留米市中心市街地活性化基本計画に盛り込んだ。井筒屋跡地に完成した「久留米シティプラザ」は、劇場・音楽ホール、イベント広場、物販・飲食からなる複合施設に生まれ変わったが、物販・飲食のテナントは開業半年後から次々と退店している。劇場やホールと複合化したからと言って、必ずしも相乗効果は生まれず、物販・飲食が添え物程度ならお客にも魅力を感じられないようだ。

 2は小売り主体の業容は諦め、新しいビルを建設して、オフィスやホテルにするもの。地方百貨店と言えど、立地はどこも中心部にあり、比較的恵まれている。物販では集客は難しいが、オフィスなら地方移転を考える首都圏の企業やベンチャー、スタートアップなどを中心に、首都圏に比べ賃料が手頃なことから移転・新規開設の需要はあるだろう。地方活性化は中心部に賑わいを戻すこと。それにはビジネス関係者を呼び込むことも一手と言える。

 また、今後は観光ニーズ・インバウンドが成熟し、団体旅行から個人旅行にシフトしていく。だから、地方を訪れるお客が増加し、宿泊需要が増すことが想定される。自治体は体験や学習といった地元の隠れた魅力を掘り起こす旅行スタイルを提案して旅行客を呼び込むだろうし、ホテル側は自治体とタイアップしコンセプチャルな施設作りに乗り出すと考えられる。ホテルなら全員とは言わないまでも、接客の経験を持つ百貨店スタッフの再雇用の道も広がる。




 3はハコ物の家賃収入で利回りさせるモデルから、土地や空間頼みの活用に脱却するもの。そごう・西武の地方百貨店はおそらく、建物にしても土地にしても別にオーナーがいる。彼らは固定資産税を支払うために建物を活用し、家賃収入によって利ざやを稼いできたわけだ。しかし、その主力となる物販ビジネスが地方ではすでに限界が来ていることを考えると、全く逆転の発想が必要なのではないか。

 老朽化したビルは取り壊して、更地にする。そこをレンタル広場にして、定期的に事業者や自治体に貸し出す。キッチンカーを含め、飲食関連のイベントは全国で多くの集客を集めているから、それらを実施すればいい。あるいはパフォーマンスやアクションスポーツ(スケボーやBMX)のイベントなら若者を集客できる。敷地の一部をコンクリートの建屋ではなく、プレハブや木造にして期間限定でポップアップストアやカフェが出店できたり、地元作家向けのギャラリーに活用できるスペース(常設展開に向けたマーケティングも)にする手もある。

 若者がローコストでビジネスを始められるような場所は、地方の活性化には不可欠だ。そのためにはオーナーが腹を括ること。自治体に泣きついて家賃補助をしてもらったり、久留米のように議員=政治が関わった再開発にしたところで、良い結果はもたらさない。商店街の再生と同じである。地域のことは地域に住む住民が一番よく知っている。地方百貨店についても民間の知恵を活用して再開発していくしかない。

 ヨドバシHD、フォートレス、そしてソフトバンクにそうした度量があるかどうか。そこから乗り込む経営陣が果たして地方百貨店に代わる受け皿を作れるか。地域経済の浮揚、地域に即したビジネス発想と実践に期待したい。

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教えなくてもできる。

2022-11-16 07:27:09 | Weblog
 先週、セレクトショップの「ユナイテッドアローズ」が2023年3月期第2四半期の連結決算を発表した。売上高は574億5300万円。対前年同期比で13.9%増で、コロナ前の20年3月に比べ9割近くまで回復した。営業利益は13億8500万円、純利益は10億7400万円。前年同期が26億4800万円の営業損失を出し、同純損失も19億9400万円だったことを考えると、一気に好転したと言えそうだ。

 要因は何か。販売がコロナ以前の状態に戻りつつあることだ。アパレル消費は外出自粛でネット通販に頼らざるを得なかったが、実店舗で現物に触れるのとでは購買意欲の喚起に大きな差が出る。購買に向かわせるのはメルマガ、バナー広告、SNSによるレコメンドよりも、やはり販売スタッフとのリアルなコミュニケーションなのだ。

 もっとも、同社のV字回復を支えるのは昨年4月に松崎善則社長が就任し、黒字化に向けてスタートさせた新体制、この春夏シーズンから実行した「売り方の変化」もある。2021年3月期から3年にわたる新中期経営計画には、「収益構造を抜本的に見直す」「稼ぐ力を取り戻す」の2大目標が掲げられており、松崎体制移行後は確実に実行されていった。



 まず、収益構造の見直しでは不採算店の退店、リストラが断行された。第1弾では今年1月に駅ナカ業態「ザ ステーション ストア ユナイテッドアローズ」を全てを閉店。駅は行き交う人々が多い場所ではあるが、往来者はアパレルや雑貨をじっくり見て購入する時間を持ち合わせていない。その点で苦戦し、不採算店が多かったと思われる。




 他の業態では昨年、すでに「ユナイテッドアローズ」の銀座店、青山ウィメンズストアなどを閉店している。今年に入っても「イウエン マトフ横浜店」や「モンキータイム ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ 新宿店」の閉鎖を決定した。収益を好転させるには、たとえ旗艦店と言えど、赤字体質は無視できなかったということだ。

 また、2008年4月にオープンした「ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ 渋谷公園通り店」を今年3月末で閉店した。こちらは渋谷スクランブルスクエア店を中心にビューティ&ユースの取り扱い商品を継続するが、収益構造を見直す上では店舗配置における選択と集中は不可欠だったようである。

 他社のあるバイヤーはこう話す。「セレクトショップはあくまでバイヤーがコントロールできる店数にとどめる」。人気店となれば、デベロッパーから出店依頼があるし、売上げアップを考えると、多店舗化したくなる。しかし、全店のMDにバイヤーの目が届かず、スタッフの販売力が追いつかなければ、不採算店からは脱却できない。ユナイテッドアローズでもこうした状態が続いていたと思われる。セレクトショップはSPAやチェーン店とは違うのだ。

 稼ぐ力を取り戻すことでは、販売戦略の見直しが大きい。売れ残り在庫をセールで消化する常道を修正し、不用品番を見直して在庫の適正化を進めた。これにより春物のセールを無くすことに漕ぎ着けた。セールはを在庫を少しでも現金化していく上で、完全に撤廃するのは難しい。しかし、セールすれば、その分利益も減少する。

 だから、なるべくセールにならないよう無駄な在庫を抱えず、適正な数量にしてプロパーで確実に売り切っていくことが重要なのだ。その方が「購入した後、すぐにセールになった」など、お客の信頼を失うこともない。今年3月27日に栃木の「ユナイテッドアローズ アウトレット那須店」の営業を終了したもそうだ。在庫数量が適正であれば、セール消化にかける商品自体が少なくなり、最終処分のアウトレットも必要でないことを物語る。

 言い換えれば、プロパー販売を強化した結果とも言える。同社はそれを「店頭スタッフの接客時間の最大化」と分析する。人々が外出すれば、ショップを訪れる機会も増える。ならば、そうしたお客さんをスタッフが快く迎え、ファッションだけでなく演劇やグルメ、旅行などの会話を楽しむ。また、SNSなどで入荷した商品やコーディネート情報を発信する。

 企業としてこうしたコミュニケーション環境をいかに整えるか。同社では従来はスタッフが行っていた品出しから陳列演出や整理、在庫管理までの負担を軽減し、接客に注力できる体制を整えた。だから、単価が高い商品をじっくり時間をかけて接客し販売する。目先の売れ筋商品より、お客さんが本当に買って良かったと思えるものを販売していく。そうすれば、必然的に稼ぐ力もついていく。


一見客でも見捨てない接客術

 アパレル販売のデジタルシフトが定着する中、差別化のカギは実店舗におけるスタッフの接客力をいかに伸ばすか。セレクトショップにとっては、まさに原点回帰である。11月2日には、ユナイテッドアローズ、ビームス、ベイクルーズのセレクト大手3社による「合同販売員勉強会」が開催された。

 勉強会は、競争相手である3社があえて販売スペシャリストのノウハウを共有するために2019年から開催を始めた。企業の枠を超え、業界として販売スタッフの価値向上を目指していこうというものだ。今回はより多くのスタッフに勉強してもらうため、オンラインで実施し全国から300名が参加したという。

 販売スタッフが抱えている課題は、今も昔もそれほど変わりないと思う。一番は「仕事のやり甲斐とは何か」だ。しかし、コロナ禍により来店客が激減する中で、実店舗での接客や販売の機会は極端に減った。逆に店舗がEC販路の受け取りや試着、出荷の拠点に替わり、EC受注に店舗の在庫を引き当てれば、売れ筋が抜かれて店舗の売上げは減少する。

 結果として、売上げ貢献へのインセンティブが給与面に反映しづらい状況になり、仕事のやり甲斐を見失うスタッフも少なくない。一方で、魅力的なブランドほど欲しいお客は全国に点在するから、確実に売上げるにはEC販路も拡大せざるを得ない。その中で、実店舗はできるだけ効率よく売上げをあげて、ロス分を吸収できる配置が必要になってくる。

 実店舗の役割はライフスタイルまで提案できるか。ブランドデザインのシンボリックな拠点となれるか、に尽きる。だからこそ、単なる販売力だけでなく、生活全般のあらゆる事象にアンテナを張った有能なスタッフを配置することが重要なのだ。勉強会はそうしたスタッフを目指すために、いろんな課題をみんなで解決する場、そこから学習していく機会とも言える。

 筆者もアパレル時代から業界誌の取材・記事制作、国内外の小売り現場視察まで、数々の有能なスタッフに接してきた。印象の残った人も少なくないが、最近、以下のような稀有なスタッフに遭遇する体験をした。



 夏も過ぎた頃だったか、ランニング時に額の汗を吸ってくれる「ヘアバンド」を購入しようと、久々にゾゾタウンを覗いてみた。すると、「OVERRIDE」という帽子専門店で綿92%、ナイロン7%、ポリウレタン1%の「KNIT HEADBAND COTTON Ag+」が見つかった。ところが、サイト在庫は全て完売。追加の入荷もないという。



 残るは店舗在庫だった。そこで、在庫があった店舗のうちで一番売り切れしなさそうな東京駅横のKITTE「OVERRIDE丸の内店」に電話を入れた。サイトを通さず、直接購入できないかと交渉するためだ。すると、女性のスタッフは「代引きでも購入できますよ」と言ってくれたので、在庫があった黒とホワイトの2点を購入することにした。

 話はそれだけで終わらない。スマートフォン越しに氏名や住所、電話番号などを伝えたが、当方の姓名は初対面の人には分かりづらい。口頭で姓の「偏」や「旁」を告げ、名前の音読みを説明しても、きちんと書字できる人は少ない。だが、このスタッフはきちんと復唱してくれるなど、通販対応もそつなかった。しかも、手書きされた宅配便の送り状は一箇所も間違いがなかった。これには圧倒されるどころか、感動した。

 電話の声からすると20代そこそこの若者と思われる。だが、電話での接客対応にも関わらずそこまでできるのは、本人が生まれ持ったものが環境により育まれたか。自ら経験する中で学習し積み重ねたものか。もちろん、会社側が指導したことで培われた部分もあるだろう。おそらく全てがセットになっているのではないか。

 遠隔地のお客に対し、通販対応の煩雑さまで難なくこなすスタッフが実店舗にもいれば、別の意味で接客応対の価値は増す。次の機会には「このお店に出かけて購入しよう」という気にさせてくれるのだ。接客術には何も特別なものはない。真摯で丁寧で共感を持たれる、お客側に立ったスタイルをいかに磨いていくか。しかし、それを習得するのは容易ではないし、教えたからできるわけでもない。

 実店舗、特に接客が売上げに結びつくセレクトショップでは、こうした接客術のブラッシュアップが重要だと思う。商社出身で小売りのことなどほとんど経験していない竹田光広前社長と違い、松崎社長は店舗現場からの叩き上げ。そのスピリッツとノウハウが部下に浸透していけば、ユナイテッドアローズは接客販売の更なるエキスパート集団になっていくのではないか。その予兆は四半期決算に確実に現れている。

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完全菜革主義。

2022-11-09 07:24:58 | Weblog
 3年ぶりに東京出張した。ここ2年ほどリモートで打ち合わせや仕事の受発注をしていたが、直に人と接したり、物に触れたりすると、感性への刺激が違う。仕事の合間を縫って出かける紙や生地、革のリサーチでは現物を見ることができるので、「これでこんなものを作ってみよう」という発想が焚き付けられる。

 今回の出張でもスケジュールが許す限り、素材探しに走り回った。六本木の「NUNO」、神宮前の「HAGURUMA STORE」 、目黒の「COAD & MATERIALS」、そしてたまたま会期」が重なった「JFW JAPAN CREATION 2023 / Premium Textile Japan」等など。あらかじめ欲しい質感をイメージしていても、それに叶うのが見つからないのは承知の上。でも、逆に「これはいい」と意外なものに出会えるのも、素材探しの妙。こればかりはネット検索より、足で探した方が確実性は高い。

 今回、偶然にも取引先のメーカーさんから情報提供されたのが、「サボテン」を利用した新素材。「変わった素材を探しているのなら、こんなものがあるよ」と、担当者から話を聞くことができた。サトウキビの搾りかすをすき込んだバガス和紙糸は知っていたが、同じ植物系でもサボテンとは初耳だった。

 担当者は「サボテンが生育するメキシコで、資源活用と環境意識の高まりから生まれたものらしいんだ」と。バガス和紙糸のように搾りかすをすき込んだ糸ではなく、サボテンの葉をそのまま加工して革に似た合成素材=「ヴィーガンレザー」に仕上げたもの。つまり、織り目があるのではなく、密になった素材ということだ。環境を意識する欧米ブランドでは使用するデザイナーもいるそうだが、日本ではまだまだのようである。



 サボテンの表皮はから想像すると、ゴワゴワした素材のように思えるが、実際にはどうなのだろう。担当者は「いきなりアパレルに使うというより、まずソファの表革なんかに使用されているみたいだよ」と、ヴィーガンレザーが使用されるカテゴリーを説明してくれた。なるほど、本革貼りのソファーは有名だが、それがサボテンの革に代わるということか。

 筆者も革製品は大好きで、手作りしたスマホホルダーは手汗を吸い取ってくれるので、1年を通じて欠かせないグッズとなっている。また、レザーウエアは暖冬が続く中、冬場唯一の防寒アイテムとして重宝している。また、年が明けると日に日に春めく福岡ではブライトカラーのレザーがとても着こなしやすい。

 ただ、自分でレザークラフトを行い、また工場にウエアの製造を発注すると、用尺の関係からどうしても余り革が出るのは気になっていた。布帛の生地なら再度糸に戻して繊維にリサイクルできるが、革の切れ端を再利用するは難しい。ずいぶん前にバッグのデザイナーと話した時、「余った素材の再利用も考えています」と語っていたが、限られた材料で商材にするには技術面での工夫が必要だし、新たな材料を追加すればリサイクルの概念からズレてしまう。非常に難しいのだ。

 牛や羊、馬といった動物の革は食用の肉を取った後、捨てずに活用できる。それが動物への供養にもなるという考え方で、古くから生活必需品に使われてきた。ただ、動物革をウォンツ商品でありデザイン性が強いブランドのバッグやウエアに使えば、型紙が複雑になってどうしても端革、いわゆる余り革が出てしまう。それらが再利用できないと、廃棄せざるを得ないから、地球環境に負荷をかけてしまう。



 植物由来のサボテンならどうだろう。少なくとも動物皮革のような殺生、人間の欲望のためという後ろめたさからは遠ざかるとは思う。むしろ資源活用の点で、前向きに捉えらるはずだ。サボテン革の量産、調達が可能になれば、貧困の撲滅、人材の育成、環境への配慮などにも合致するから、無印良品やニトリなどがインテリアの材料に使用するかもしれない。量産化を図らなくても、SDGsへの企業姿勢を示す格好の商材になるのは確かだ。


環境負荷にならない素材を活用する意味

 サボテンはメキシコはじめ中南米に自生するから、素材に加工することはそれほど難しくないと思う。乾燥した気候でも育つので多くの水を必要としない。これは他の植物と比べると、最大のメリットと言える。また、食用になる穀物や野菜のように生産効率を追求するものではないので、農薬や肥料も必要としない。何より植物だから、温室効果ガスのCO2を吸収してくれる。環境にやさしい素材なのだ。

 メキシコはサッカーが盛んだし、野球のリーグもある。将来的にはボールやグローブ、スパイクの革にも利用できるかもしれない。子供たちの遊び用のボールを作った場合、サッカーではフリーキックの曲がり具合、野球では球筋やキレがどう変わるのかを考えるだけも楽しい。スポーツメーカーも環境問題には敏感になっている。これからヴィーガンレザーをいろんな用具に利用していくことは確実だろう。

 もちろん、ファッションアイテムに使用する時は染めやシボ、質感、手触りなどで、新たな期待が持てる。それらの特徴を活かしたアイテムを作れば、話題にもなりそうだ。グローバルSPAでもアパレルで合成皮革に変わる素材として採用するところが出てくるかもしれない。

 メーカーの担当者によると、「製法はサボテンの葉を細かくすり潰し、それを乾燥させて素材にしていくらしいよ」「素材にするにはサボテンの葉先をカットするだけで、翌年には新たな葉になるから、サボテン自体にも影響はないよね」と。植物だから廃棄されても、枯れて土に帰るので問題はないだろう。素材に加工するまでの工場設備や素材製造のコストがどれくらいかかるかはわからない。でも、動物のように飼料や飼育が必要なわけではないので、トータルで見れば低価格になるのではないだろうか。

 まあ、日本で収穫される植物ではないから、素材製造はメキシコに任せておいてもいいと思う。むしろ、大事なことは動物皮革に代わる素材としていかに幅広く利用していくか。メーカーの担当者の担当者が言っていたように、まずはソファなど広い用尺を必要とするアイテムに利用するのがいいだろう。そこで質感や耐久性を確かめながら、バッグやベルトに応用していく流れになるのではないか。



 そう言えば、土屋鞄製造所も米国企業のボルト・スレッズ社と資本提携し、同社が製造する素材「マイロ」を使用したウォレットバッグやiPhoneケースを12月に一部の店舗とオンラインストアで発売するとの報道があった。マイロはキノコの菌からなる、根のような糸状の繊維を加工してできた素材で、手触りや風合いは牛革に近く、かばんや財布に加工しても十分な強度を持つそうだ。

 土屋鞄製造所は昨年、ボルト・スレッズ社と共同研究を始め、20回以上の試作品作りを繰り返しながら、ランドセルやかばん、財布など6種類を完成にこぎつけた。ただ、公設試験場などでの強度検証が済んでいないため、まずはウォレットバッグやiPhoneケースの販売が先になったようだ。一般的な牛革は素材にするまでに3年ほどかかるが、マイロの菌糸体は2週間で培養が可能とか。素材調達がスピーディーになるのもメリットだ。

 すでにスポーツメーカーのアディダス、コングロマリットのケリング、デザイナーのステラ・マッカートニーなどとマイロの活用で合意しているというから、これから新商品が次々とデビューしていくだろう。土屋鞄製造所自体が自社製のレザーバッグを修理して再販売するリユース事業にも本格参入している。環境への取り組みを強化すれば、ブランド価値や用途、価格などによって動物由来のものとヴィーガンレザーを使い分けていくことになるだろう。




 マイロは別にして、個人的にはサボテンレザーの調達が可能なら、レザークラフトにぜひ使ってみたい。ちょうど、この夏に作ったスマホホルダーをポシェットとウォレットを合体したものにアレンジしてみようとアイデアが浮かんでいる。上京前にイメージイラストと型紙を制作したので、メーカーの担当者に逆提案してみた。検討してみるとのことだったが、革さえ入手できれば自分で試作品を作った方が早い。

 早速、知り合いの革屋さんに入手できるかを打診した。新たな素材があれば、新たな創作意欲が湧く。それはこれまでも変わらなかったが、今は環境に負荷をかけない素材を使用しようという意識が加わった。今年中には「ヴィーガンレザーポシェレット」を作ってみたい。

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着古しから逆発想。

2022-11-02 04:25:11 | Weblog
 先週のコラムで、福岡パルコの建て替えについて書いた。新装される本・別館の2館体制で現数を超えるテナント誘致は難しいというのが筆者の意見だ。保証金や内装費などのイニシャルコストをかけて店を作り、歩率家賃を家賃を支払ってどれほどのテナントがペイするのか。客単価がそれほど高くないヤング向けのテナントほど厳しいと思うからだ。



 パルコを運営するJフロントリテイリングは先日、eスポーツチームのSCARZを運営する「XENOZ」を11月にも子会社化すると発表した。パルコで大会や交流イベントを開催し、百貨店事業で連携するアパレルブランドとeスポーツチームのグッズを共同開発。パルコをはじめとした商業施設内にショップを展開していく狙いのようだ。

 確かにeスポーツやゲームのような個人的趣味で、コアなジャンルのコンテンツ市場では消費側がSNSを利用してブランドを構築し、販売に至るケースも増えている。パルコとしてはeスポーツのテナントを単なるゲーセンの延長として捉えるのではなく、市場が先細りするアパレルや雑貨とは違ったマーケット形成として、育てていく考えもあるのだろう。

 だが、そうした手法を地方のパルコに導入するには、まずは東京などで十分な成功事例、成長軌道に乗せてからになると思う。福岡パルコは2026年に解体される予定だから、新装開業までにeスポーツ事業の手応えを得ながら、どのように設備や商品を展開するか。中長期的に見たテナントのプロトタイプが熟考されていくのではないか。

 短期的には4階を大型リニューアルした渋谷パルコが明日11月3日にオープンする。デザイン事務所とグラフィックデザイナーが取り組む有休施設活性化のプロジェクトを拡大するもので、新しい商業施設のあり方とサスティナブルをテーマに、ヴィンテージ商品やインテリア、アートなどを集積した売場を作る。前回のコラムでも指摘したが、坪効率や歩率家賃を
意識しないテナントを誘致できるのも、渋谷パルコゆえのことだ。

 一方、地方のパルコでは、次のテナントで埋まるまでの暫定期間に「ポップストア」が誘致されるケースが多い。こうした業態は出店側にとって初期投資を抑えられる。デベロッパー側は恒久的な家賃収入は期待できないものの、スペースを空ける必要がないなどのメリットがある。ただ、ポップアップストアが1階やイベントスペースでの展開なのに対し、上層階では古着店が堂々と導入されるようになった。先日、発表されたリリースによると、古着店の「デザートスノー」が12月、福岡パルコ6階にオープンする。九州では初の出店だ。



 デザートスノーは目下、商業施設への出店攻勢をかけている。そのため、優良の物件である福岡パルコ側から出店のオファーがあったとすれば、渡りに船だったと思う。パルコとしてもファッション系のテナントは出尽くした感がある中、若者の間で手頃な価格で個性的な着こなしが楽しめる古着は集客の肝になる。デザートスノーから出店したいとの申し出があったとすれば、上層階なら他のブランドへの影響は最小限と、許諾したのではないか。

 古着マーケットは拡大の一途を辿っている。1店舗でも新たなショップがオープンすれば、それだけ購入の選択肢が増えるので来店動機につながる。それは福岡パルコ側にとっても願ったりだろう。売場面積は170㎡(50坪強)というから、福岡パルコのテナントとしては広い方だ。品揃えがどこまで充実するかはわからないが、全国に店舗を展開し豊富な在庫を抱えていることで、適度に商品を入れ替えながらお客さんの反応を見ていくと思う。

 もちろん、古着の市場攻略は1店舗のみでは完結しない。デザートスノーの場合、東京・下北沢では小田急線下北沢駅の南口商店街に5号店、さらに徒歩2分圏内に3号店があり、京王井の頭線下北沢駅北口から徒歩2〜3分圏内にガーデン店と4号店など6店舗を展開する。下北沢には他にも古着店がそこかしこにあり、若者にとって掘り出し物を探す回遊コースになっている。他の古着店と相乗効果を発揮しながら、攻めていくのが正攻法なのだ。



 その点、福岡パルコのようなビルインでは単独展開になるが、天神界隈というエリアで俯瞰すると、天神西通りを挟んで大名地区には中古衣料を扱う店舗が点在する。お客がそれらと回遊することを想定すれば、こちらも相乗効果につながるだろう。来春開業する「大名ガーデンシティ」の斜向かいに立つ築55年の公団アパート1階には、2021年に「古着屋JAM」福岡店が出店した。こちらは隣のまんだらけ福岡店とうまくリンクして集客している。

 
古着から発想する新たなもの作り

 ここまで来れば、古着の次のステージが気になるところだ。以前にこのコラムで紹介した衣類を黒に染めるサービスを行う「森」は、古着のリメイクやアップサイクルにも着手した。店舗に併設する「リ・サークルスタジオ」(https://mori-store.net/news/5f5c8f724b083955a430f8ba)で古着を加工し、オリジナル商品に仕立てている。




 これらが今年7月に東京で開催した期間限定店で人気を博し、販売サイトの「ザ・タイニー・ショップ・バイ・モリ」(https://mori-store.net)では、売り切れるアイテムが続出している。商品はジャージ系の素材をうまく使いパッチーワークや「ラッフル」などの加工を施して、新品の服にはない斬新なデザインに仕上げている。これならSOLD OUTになるのも納得だ。リメイクには相当の技術力をもつデザイナーが当たっていると思われる。



 他社はどうか。大手が古着のリメイクに踏み込むのか。そんなことを考えていると、先日、ユニクロが「服の補修・リメイクを東京・世田谷の店舗で始める」とのニュースを目にした。10月22日から来年3月まで、世田谷千歳台店に専用スペースを設け、傷んだ箇所の補修したり、刺しゅうなどを受け付ける。

 対象はユニクロで購入した服で、穴やほつれ、股ずれなどの補修はできる限り当日中に仕上げる。料金はTシャツの穴直しやシャツなどのボタン付けが500円、ジーンズの股ずれは1500円。飽きてしまった服などには、好きなデザインや文字を組み合わせた刺しゅう、ロゴや手書きのイラストをプリントできるサービスにも対応する(価格は500円から)。

 ユニクロは2021年8月にドイツ・ベルリンの店舗で修理・リメイクのスペースを開設し、米国のニューヨーク、英国のロンドンなど約10店舗にサービスを広げている。今後、お客からの要望やスタッフの技術練度を見ながら、国内でのサービス拡大を検討するというから、テストケースのようだ。

 だが、いくらSDGsのご時世、環境への関心が高い投資家を意識したとしても、そこそこの品質をもつユニクロの着用服で補修やリメイクが広がれば、新品の売上げに影響するとは考え過ぎか。逆に補修を前提に原価率を低下させ生産管理で手を抜けば、本末転倒だ。ユニクロはライフウェアを標榜している。これは2〜3年で着つぶしてほしいとも解釈できる。品質の高さは実証されても、本音はそれほど長持ちさせてほしくないのではないか。

 筆者が考えるのは、むしろ新品の「切り替えリメイク」や「別注オーダー」である。ユニクロは一部の商品を除き、大半が単色になる。どちらかというと、色出しのセンスは良くない。定番アイテムはお客の「ユニばれ」を避けたい心理を汲み、カラーバリエーションを増やしてはいる。しかし、レギュラー商品は黒、紺、ベージュが基調で、たまに差し色が加わる程度。デザイナーズコラボでは新色やビビッドな色が投入されるが、色でも突出したものはない。

 グローバルSPAだから生産コストやMD枠を考えると、デザイナーズブランドのように作り込んだ色合いに挑戦するのが難しいのは理解できる。ならば、せめて既存の商品にメリハリをつけるために「コンビカラー」や「クレイジーパターン」も楽しめるサービスがあってもいいのではないか。



 新品リメイクはユニクロの同じアイテムを2着、または3着を購入すれば、袖と身頃、あるいは襟やヨークを切り替えられるようにする。別注オーダーは製造段階(ニットはリンキング)でパーツカラーの切り替えを可能にする。Tシャツやメリノセーター、フリースのようにカラーバリエーションが豊富なものに限り、袖と身頃、あるいは襟やヨークを色違いに変えられるようにすれば、自分だけのオリジナルカラーが楽しめる。ナイキやアディダスがスニーカーで行っている仕組みをウエアに置き換えるものだ。

 MDの段階からそうすれば、売上げのばらつきがあるので難しいだろう。だから、希望するお客のみ受け付ける。Tシャツやフリースではいろんなカラーが楽しめるので、意外に面白いかもしれない。それが世界レベルに広がるようになると、企画サイドにフィードバックして商品化の俎上に上げればいい。企画担当者も売れる手応えが得られれば、「コンビやクレイジーの配色パターンを1〜2型加えてもいいのでは」と、なるかもしれない。

 もちろん、リメイクは技術面で店舗スタッフの練度向上が不可欠。ただ、デザインや素材を変えるまでもなく、基本MDでも十分に斬新なアイテムになるのだから、挑戦してみる価値はありそうだ。着古した服の補修・リメイクから一歩進んで新しいアイデアを生み出す。SDGsが叫ばれるご時世だからこそ、新品を作りすぎず、売り逃さず、確実に売れる企画が不可欠。そのためにはフラットにならないバイヤスの発想も必要だと考える。
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