HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

給与≠企業の魅力。

2023-01-25 07:33:56 | Weblog
 今年3月から国内従業員の年収を最大4割引き上げる」。1月11日、この情報がファーストリテイリング(以下、ファストリ)よりリリースされた。その直後から各メディアは色めきたって一斉に報道した。

 それもそうだろう。日本人の平均給与は2021年で400万円台半ば。厚生労働省の毎月勤労統計調査でも、22年11月の実質賃金は前年比3.8%下落となり、8カ月連続のマイナスだ。物価の上昇に賃金アップが追いついていないのである。そんな中、ファストリが賃上げに動いことで、アパレル業界に限らず異業種にも影響を与えるのは必至と言われる。

 ただ、賃上げが今年のトレンドになるのか。はたまたファストリに日本の優秀な人材が流れるのか。背景や条件を冷静に分析しなければ、何とも言えない。もう少し詳しく見てみよう。リリースには賃上げに関する以下のポイントが示されている。

 1.職種・階層別に求められる能力や要件を定義し、各従業員に付与している「グレード」の報酬水準を数%~約40%アップ

 つまり、店舗スタッフ、店長、MD、物流、デジタル、財務など職種や階層に必要な能力、要件が示されてその人のグレードが決まり、報酬のアップ率が変わってくるということ。グレードが最下位の人間なら、わずか2%の賃上げにとどまることもあるわけだ。

 2.従来の役職手当などは取りやめ、それぞれの報酬は、基本給と各期の業績成果によって決まる賞与などによって構成

 役職手当がなくなり、各期の業績で賞与が決まるのだから、店長でも「予算達成率」「対前年比」など店舗業績が下がれば賞与もダウンするということ。売上げが厳しい店舗に異動した場合も、業績をアップできなければ、以前の店舗勤務時より賞与が下がり年収減となる。また、基本給と業績給の比率が8:2、7:3ならともかく、6:4や5:5であればなおさら年収に響くことが考えられる。

 事例1.新入社員の初任給を30万円(現行25万5000円、年収で約18%アップ)
 事例2.入社1~2年目で就任する店長は月収29万円を39万円に(年収で約36%アップ)

 新入社員の初任給が30万円でも、基本給がいくらかは示されていない。入社後の配属先、部署などで各種手当がないところは、トータルで目減りするかもしれない。店長の給与が39万円にアップされても異動はが頻繁にあるわけで、赴任先の売上げが前任より良くなるという保証はない。業績が下降したり、予算が未達であれば賞与が下がり、トータルの年収がダウンすることはあり得る。

 店舗以外の部門はどうか。本部勤務ではマーケティング・事業経営(MD、EC、店舗経営など)、サプライチェーンマネジメント(物流、倉庫、生産管理)、デジタル(エンジニア、UI・UX、ITなど)、クリエイティブ(ディレクター、エディター・グラフィック、デザイナー・パタンナー、サイト制作)、コーポレート(サステナビリティ、人事、ファイナンス、経営企画、出店、法務・情報セキュリティ、総務・ES等)と多岐にわたる。




 これらの部門、職種は、給与アップの指標となる業績成果が店舗ほどハッキリしない。例えば、ヒットアイテムや完売商品が続出したり、サイトのレスポンスが高止まりを続ければ、それはクリエイティブの業績成果となるだろう。逆にトレンドや気候を見誤って大量の不良在庫を抱えたり、店頭の売行きや欠品に対し適時適量の商品投入ができず機会ロスを生めば、マーケティングやサプライチェーンの責任となり、業績成果がマイナスになることも考えられる。

 柳井社長自身、1月20日付けの日経新聞で賃金は仕事に対する対価として、「一律に引き上げるのではなく一人ひとりの成果などを評価した賃上げ」の重要性を指摘している。部門責任者が各スタッフの業績成果をする場合、どうやって考課や査定に客観性を持たせるのか、また恣意的な評価にならないのか。評価に対する課題も見え隠れする。

 ユニクロには「黒字化したことがない店舗」があると言われる。昨年6月に閉店した「ビックロ ユニクロ 新宿東口店」「ニューヨーク五番街の旗艦店(15年間契約で約270億円)」と、家賃が高額なところがそうだ。もちろん、ファストリとしては広告宣伝、ブランドロイヤルティ維持のために世界の大都市、一等地への展開は当然というスタンスだろう。

 だから、莫大なコストがかかる店舗には、ユニクロでも精鋭の店長が送り込まれているはずだ。しかし、店舗運営は予算の達成度合いや対前年比伸び率などで評価される。黒字化や予算達成は無理だとしても、店長が業績を好転させきれないまま高額な報酬を得ているとすれば、今回の給与改定と明らかに矛盾する。こちらも見直しはやむを得ない。

 今後、業績成果によって年収が下がる可能性を考えると、社員は海外事業を含め売上げ不振や高コストの店舗には異動辞令が下っても、拒否する人が出てくるのではないか。社員の希望やキャリアップ、ジョブ性と組織の論理、従業員のモチベーション向上、優秀な人材の確保をどう整合させるか。非常に難しい課題だが、柳井正社長が去るもの拒まずという考えなら、給与アップがどこまでの実効性を持つかはわからない。


人材が集まり、やる気を引き出せるのか

 ファストリは新型コロナ感染の拡大で好調だった中国事業が苦戦したため、東南アジアや北米、欧州と収益の柱を多様化させる戦略に転換した。そこでグローバルで人材を活発に異動させ、優秀な人間が活躍できる機会を増やして各国・各地域の経営幹部を担える人材を育成しようとしている。これには日本人も与させるようで、今回の報酬改定もそれに向けた人材を確保する狙いもある。



 ところで、新卒の採用状況はどうなのか。大学生が選ぶ就職先のデータ(2022年リセマム調べ)では、ユニクロは男性、女性ともにランキング30位に入っていない。過去には50位にもランキングされない年があった。柳井正社長が「グローバル化」「成果実力主義」「優勝劣敗」などとメディアに向かって口うるさく宣うたびに、日本の若者は就職先として敬遠したのか、一時の人気から急落した。

 そのため、優秀な人材が集まる商社や都市銀行と同程度、あるいはそれ以上の報酬をちらつかせることで、日本の大学生にも振り向いてもらいたい。給与アップは新卒の求職者に対し、「撒き餌」にする意図もありそうだ。ただ、働く側にとって年収増は、あくまで業績が上がってのこと。それを差し引いても、ファストリの仕事がどこまで魅力的なのか。

 アパレルに携わって来た身からすると、同社はテキスタイルにしても、デザインにしても、クリエイティビティを自由に発揮できる企業風土や経営環境にはない。また、商品も店舗も販売スタイルも画一化され過ぎて、仕事が単調で面白みを感じない。グローバル事業も北米や欧州ならともかく、中国やインドの辺境に赴くのは、若者にとっては抵抗があるのではないか。その辺を察すると、給与アップだけでは応募に二の足を踏む学生は少なくないだろう。

 結局、新卒で入社した場合、店舗に配属されて1〜2年働いた後、店長になるのか。それともそれ以外の職種を希望する異動機会を待つのか。選択肢は多くない。もちろん、海外勤務を含めてキャリアアップには業績成果を見られるだろうし、社内試験など関門があると思う。一方で、本部スタッフは専門部署となるため、執行役員を含め即戦力を中途採用を主体に賄っているように見える。それにしても前職の経験やキャリアを元に採用、給与が決まるはずだ。




 中途入社組、エリートたちのどこまでがファストリに5年、10年と勤務し、グローバル事業を含めた経営幹部を目指すつもりなのか。逆に年功序列、終身雇用が薄れているのだから、大半の社員にそこまでの意識があるのか。優秀な人間ほど、独立したり起業する傾向にある。振り返ると、柳井社長はユニクロの成長段階で、幹部候補に有名企業出身者を採用した。

 1997年に入社した伊藤忠出身の澤田貴司氏、日本IBMを4ヶ月で退職した後に入社した玉塚元一氏がそうだ。しかし、澤田氏は次期社長を打診されるも固辞してユニクロを去り、玉塚氏も柳井社長に請われて社長に就任するも、売上げダウンで解任され退職した。両氏とも社歴はわずか4年程度だ。

 今回の給与アップ策の狙いを見ると、生え抜きの成長など待ってられないご様子で、柳井社長が即戦力、エリートを好んで起用したい姿勢は変わらない。社長自身が過去の苦い経験に立って人材配置や組織運営を行ってはいるものの、次期経営者を担える有能な人材が見当たらない中、経営者として本音と建前が交錯しているようにも見える。

 もっとも、柳井社長が創業経営者としてトップに居て、収益は右肩あがりに伸びているのだがら、周囲がとやかく言うことはできない。ただ、カリスマ、いやワンマン経営者として君臨しても、いずれはその地位を誰かに明け渡すことになる。反面、ファストリがアパレルという商材を販売することで、収益を上げていくことに変わりはない。

 その手段やバックアップ体制、経営管理・運営の手法は、日進月歩で大きく変わっている。グローバル企業として覇権を取るには、それに即時即断即決で対応しなければならない。それも理解できる。今後、販売スタイルがオムニチャンネル化していけば、店舗スタッフはそれほど必要でなくなる。店長は洋の東西を問わず、数十から数百の店舗を管理する業務が主体になる。本部セクションでも、業務内容はさらに複雑になっていくだろう。

 アパレル業界では、こんなフレーズがある。「店では社長より、店長の方が偉い」。その言葉が意味する通り、生え抜きの店舗経験者から経営幹部まで上り詰めた人間が経営の前面に出てこなければ、新卒の求職者にとって給与がアップしたからと、魅力的な企業には映らないのではないか。柳井社長がそうした人材を育てきれていないことも課題として残る。新入社員がやり甲斐を持ち、かつ高い賃金を望める企業になれるかは、容易ではないだろう。
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プレゼンターを確保せよ。

2023-01-18 07:32:33 | Weblog
 アパレル業界はコロナ禍で店舗の臨時休業が相次ぎ、販売スタッフが自宅待機や一時帰休に追い込まれた。長期休暇なら仕事から解放され心身ともにリフレッシュできるが、コロナ休暇は状況がだいぶ違う。知り合いのアパレル関係者からは「自分の雇用は大丈夫か」「ポストやキャリアを考え直した」「UIターン事業をチェックした」などの話が聞かれた。これまでにない災禍ではあるが、仕事に追われていた自分を見つめ直す機会になったのも確かだ。

 業界はデフレが長期化し、高価な商品が売れない課題を持つ。ただ、販売側が「コレください」への対応しかしていないのなら、生産性が上がらず給与アップにはつながらない。経営側としても、高級品を売る力があるならまだしも、チープな商品しか売れないのだから、高い給料は出せないと言い訳できる。
 
 なおさら新卒の入社組が1〜2年で辞めていくのは織り込み済みだろう。代わりはいくらもいるから、また募集すればいいというわけだ。つまり、販売スタッフが所詮ローコストの使い捨てなら、見た目を飾り立てた店で搾取しているに過ぎない。デフレ禍が続く中、多くの経営者がいつの間にかそんな感覚に堕してしまったように見える。

 だが、コロナ禍から2年が過ぎ、昨秋くらいからは潮目が変わっている。サービス業をはじめ、アパレル業界でも人手不足が深刻になっているのだ。行動制限が緩和されて、人々の外出機会が増加。それに伴い、都市型SCや駅ビルではアパレル消費が回復し始めた。ところが、今度は販売スタッフが足りず、みすみす売り逃しているわけだ。

 お客が来店するのに店舗を最低人数で回しているため、十分な接客対応ができない。買う気満々のお客を見逃せば、機会ロスを生む。だから、経営側は販売スタッフを充足させたいのだろう。全く現金なものだ。先日、ファーストリテイリングは、グローバル戦略に向け人材を確保するために給与アップを打ち出したが、あくまで成果主義のもとでだ。業績を伸ばせないなら、賞与が下がることもありうる。本質を見失ってはいけない。



 では、本当に販売スタッフが足りていないのか。むしろ、商業開発の乱発に原因があるのではないか。昨年の福岡もそうだったが、都市部、郊外を問わずSC開発は衰えを知らず、そこには多くの小売店が出店している。明らかにオーバーストアにも関わらずにだ。特に地方は市場が拡大していないのに新店が出店し、店番のスタッフが膨れ上がったに過ぎない。

 高額なアパレルは売れないから、どこを見てもチープな商品や雑貨ばかり。販売スタッフと言っても、仕事は品出しや商品整理、ピッキング。あとはレジ打ちや包装、売場づくりが大半を占める。接客する時間はせいぜい1~2時間だ。スタッフ募集には「未経験でも丁寧に指導いたします」の但し書きがある。そのため、パートアルバイト感覚の人間が応募し、とりあえず頭数を揃えるために採用されている。

 売場に商品を陳列してストックに在庫を抱えると、品出しや商品整理、ピッキングなど利益にならない「マテハン業務」が生じる。店舗は生産性が上がらないのに家賃と労働のコストに追われ、販売スタッフの給与はバイト料のまま据え置かれる。地方では時給1000円の線で労使攻防が続くが、その前提となる生産性が欠くのだから、これほど不毛な闘争はない。販売スタッフの不足を憂う前に、まずは売場環境の改善や在庫負担を減らすのが先なのではないか。

 ECで商品を確認し、店舗で現物を試着してから購入したい。ECが浸透したからこそ、お客の側も学習している。衝動でポチってしまいたくないのだ。だから、数を売りたいところは店舗に試着&確認用のサンプルだけ置いて、後はネット在庫に誘導すればいい。そうすれば、大量の商品を店まで輸送する必要もなく、マテハン業務も減らせて店舗コストが削減できる。SCのアパレル店を覗くたびにいつもそう思う。

 まずは店舗をショールーム化してタブレットの操作で在庫確認、販売が可能なオムニチャンネルを加速させ、スタッフが接客に専念できるようにすべきではないだろうか。


「作業」を減らせば、「仕事」を増やせる



 すでにデジタルを活用して顧客との接点を増やし、販売に結びつけているところが出てきている。セレクトショップのユナイテッドアローズは、ファッションの知識が豊富な販売スタッフがSNSやECサイトへのコーディネート画像を投稿。それらは月間で約5000件にも及び、売れた商品が自社EC売上高の50%超を占めるという。10月にはSNSマーケティングの専門組織を設け、効果的な投稿や販促に結びつけていくとした。

 知識もセンスもあるスタッフがSNS投稿に時間を割けるのは、店舗におけるマテハン業務を減らしたからだ。品出しはバイヤーやMDが棚割を店舗ごとに写真やビジュアルなどで示し、商品投入日の開店前に集中して行えば短時間で終えることが可能だ。これらはかつてチェーン店が取っていた手法で、何も新しいものではない。時間がかかる商品のたたみ直しや棚への戻しも、オープン陳列にすることで削減できる。

 生産性がない「作業」を減らせばその分、売上げに結びつく「仕事」を増やせる。販売に注力するためにも、その前提としてSNSで自分のレコメンドな着こなしなどを提案すればいい。小売業界がデジタル化している中で、顧客へのアプローチとしてSNS投稿は不可欠だ。松崎善則社長が接客に注力すると大号令をかけられるのも、それなりの売場改善、環境整備があるからではないか。

 「販売は人」。確かに販売は属人的なものには違いないが、経営側があまりにそうした考えを押し付け過ぎたことで、若者が販売員離れを起こしたのは否めない。ならば、どうするか。まずは生産性のない作業をできる限り削減し、スタッフが自分の感性でプレゼン能力を発揮できるようにすることではないか。それが結果的に売上げをアップさせ、スタッフの報酬にも還元されるのだ。



 数年前、雑誌の企画であるアパレル企業のバイヤーに話を聞いた。同社が展開するセレクトショップは、20万円以上の海外ブランドのコートから数万円のシューズやバッグ、ロンドンやパリのトレードショーで買い付けた小物類、国産ブランドの別注アイテムまで、インポートカジュアルを中心に、どれも高感度で値の張る物ばかりを揃える。にも関わらず、売上げは順調に推移。その背景を探るためだった。

 売場で接客を見せてもらったが、高感度で高級なアイテムの販売スタイルは、意外にもチームプレーだった。お客は顧客が中心だが、ディスプレイに釣られて入店する一見客もいる。基本は販売スタッフが応対し、マネージャーがさりげなくフォローに入る。スタッフがフィッティングで的確なアドバイスを繰り出す中、百戦錬磨のマネージャーが「手持ちのアイテムとのコーディネート術」「外し崩しでのおしゃれな着こなし方」などをプラスするだけで、一気にクロージングに向かう。その連携プレイは流石の一言に尽きた。




 もちろん、こうした接客を実売に結びつけるには、売場づくりが肝心だ。フィッティングルームの周りには余裕をもったスペースが取られ、お客とスタッフの2人が入る大型の姿見で試着姿をクローズアップさせ、鏡越しにトークする。さらに昼間と夜間で明るさを調整できる調光照明を設置。じっくり時間をかけた接客には欠かせない装置となっている。

 一方、バイヤーも社長も売場づくりでは容赦ない。繁忙期になると、ショップ側は売上げを取りたいがため、売場に多くの商品を置きたがるが、逆に接客空間が圧迫されてしまう。「あんなに商品を詰め込んで」「売上げや利益を得るのは目的なのか、手段なのか」「12月はお客さまの気持ちが一番華やぐ時だから、ウィンドウから人を楽しませてあげないと」。社長からこの話を聞いたときは正直ピンと来なかったが、後々考えるとその意図がわかってきた。

 つまり、セレクトショップの商品は世界中から選りすぐった逸品で、数を売りたいものではない。だから、売場づくりの要諦は、陳列より接客にスペースを割けということだ。そのためには、AIDMAから販売に進む過程を考えた在庫配置とヴィジュアルマーチャンダイジング(VMD)がカギになる。世界中から仕入れた商品をカテゴリー別に編集し、特徴ある商品はフェイスアウトや打ち出しで展開。お客の購買心理の変化を想定しながら、自然に商品に誘って接客に努める。こうした環境で接するから、販売力も磨かれていくのである。

 話を聞いたバイヤーさんは現在、同社の社長に昇格している。おそらく、販売スタッフもタブレットやスマートフォンを駆使し、デジタル面でも情報発信、顧客接点を増やしているだろう。高額な商品が売れないのではない。それを売る仕組みと環境の整備ができていないのだ。

 洋服が好きで業界に入った人間なら、思い思いのコーディネートを考えるのは厭わないはず。今はそれをSNSで販売に結びつければいいのだ。プレゼンターとでも言おうか。経営陣、幹部がデジタルを盛んに謳うのなら、販売にはそうした人材の発掘と登用が必要なのである。
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店の手も借りたい。

2023-01-11 07:27:09 | Weblog
 ついにここまで来たかである。アマゾンジャパンが新たな配送方法、「Amazon Hub デリバリーパートナープログラム」を正式に開始する。街中の「中小店舗」=配送パートナーと契約し、アマゾンで注文された商品について会員宅までのラストワンマイルを、契約店舗のスタッフに配送してもらう仕組みだ。




 協力を要請するのは住宅地や繁華街の「雑貨店」「写真館」「レストラン」「居酒屋」「ヘアサロン」「花屋」「洋服店」「カフェ」「新聞販売店」「犬のブリーダー」。アマゾンはすでに東京や大阪、福岡など9都府県の数百店舗で実験をしており、今後は対象地域を広げることになる。

 アマゾンはこれまでヤマト運輸、ヤマトから再委託された個人配送事業者、アマゾンが組織化した中堅物流会社、直接雇用のアマゾンフレックスに配送を委託していた。それに街中の中小店が加わるわけだ。それは配送手法を段階的に拡大してきたように見えるが、中小店にまで協力を促さないと配送要員不足に対応できないとも受け取れる。果たしてどこまで有効なプログラムなのか。また、新たな問題は発生しないのだろうか。



 アマゾンは実験で以下のような契約条件を導き出した。配送範囲は協力店を中心に「半径2キロ圏内」。協力店に「主業務の空き時間があり、スタッフがいる」「荷物を一時的に保管できる場所がある」。配送手法は特に規定しないが、「自転車」や「徒歩」。配送個数は「1日数時間で約30~50個」。委託料は非公開だが、お客が少ない時間帯に配送を担うことで、協力店には「副収入」が期待できるという触れ込みだ。

 アマゾンフレックスの1日あたりのノルマは90個というから、協力店の契約条件を見るとかなり効率が良いと言える。詳しい資料が請求できないので、メディア報道だけでは何とも論評はしづらい。ただ、配送パートナーを増やしただけでは、アマゾンが抱える構造的な問題が解決するとは思えない。このプログラムで考えられる問題点を整理してみよう。

 1.荷物は3辺合計が60cm程度の小さいものになるのか
   → 重く、嵩張る、一辺1m程度の荷物はり大手宅配業者や委託業者が運ぶ

 2.配送時間が限られるため、再配達なしの置き配になるのか
   → 時間指定の荷物は従来通り大手宅配業者や委託業者が運ぶ

 3.期日指定、コレクト便には対応できないのか
   → 従来通り大手宅配業者や委託業者が運ぶ

 4.アマゾンフレッシュの生鮮、冷蔵、冷凍の食品配送には対応しないのか
   → 従来通り大手宅配業者や委託業者が運ぶ
 
 5.商品保管のスペースの範囲内でしか預かれない
   → 1店舗あたりの保管数量はバラバラになる

 6.店舗スタッフが配送先の住所を把握しなければならない
   →地理を知らないパートアルバイトでは無理

 7.注文側が店舗まで受け取りに行く場合は、営業時間内になる
   → 繁忙時の対応などの煩雑さを含め、専用スタッフが不可欠

 8.翌日配送対応では、保管スペースに在庫ストックが必要
   → 協力店が対応できない場合もあり、翌日配送には馴染まない

 9.人身事故が発生した場合、加害・被害の補償が発生する
   → 協力店の副業とすれば、店舗の責任となるのか

 ざっとこんな問題点が浮かび上がる。特に期日指定や生鮮の配送は問題が生じやすい。先日も「置き配で届いたおせちが横向きではなく、縦向きに置いてあった」との投稿がネットを賑わせた。協力店にいくら配送マニュアルを周知させていても、店舗スタッフにこの辺のルールの認識、届け主への配慮が徹底されるとは限らない。クレームが来るのはもちろん、ネットに書き込まれてたら、店舗としては堪らないだろう。

 もちろん、アマゾンもそれらは十分に承知の上で、協力店にはメール便やネコポスを含めた小型荷物を限定するのではないか。ただ、この手の荷物はヤマト運輸が契約する個人運送事業者(EAZY)も運んでいるため、簡単に協力店とシェアできるのか。そもそも構造的な問題は配送要員が不足していることで、小型荷物の配送だけでは解決しないような気もする。


配送の効率化に向け独自物流を確立できるか

 アマゾンは昨年、青森から沖縄までの日本全国18か所にアマゾンの配送拠点「デリバリーステーション」を開設した。「700万点以上の商品の翌日配送を可能」とするためで、商品を顧客宅の玄関先まで届けるラスト・ワンマイルの配送要員として、新たにアマゾンフレックスのドライバー数千人を雇用するとした。今回、街中の中小店舗まで配送パートナーにしたいのは、フレックスのドライバーが計画通りに確保できていないからかもしれない。

 アマゾンは全国9カ所のフルフィルメントセンター(FFC)にあらかじめ商品(マーケットプレイス含む)を在庫して受注から集荷、梱包、配送、返品、在庫管理までに対応している。デリバリーステーションではFFCから着荷した商品をベルトコンベアで配送コース別に仕分けするなど、自動化、効率化を図っている。つまり、700万点以上の商品の翌日配送を可能にすると公言したのは、アマゾンが独自物流を確立するための布石ともみえる。

 他のプラットフォーマーやメーカー、個人取引、企業の小口荷物の大半は、「ハブ&スポーク型」で動いている。これは宅配事業者のドライバーが荷物を集荷し、それをエリアセンターで分別して各地のリージョナル拠点まで輸送し、集約。そのリージョナル拠点で配送方面別に仕分けて夜間に輸送し、着荷したリージョナル拠点でエリア別に仕分け、輸送。エリアセンターに着荷した荷物を配送先別に仕分けし、同ドライバーが各戸に届けるものだ。

 集荷側で2回、着荷側でも2回、計4回の積み替えと輸送が発生する。まだまだ時間もコストもかかる非効率なシステムだ。アマゾンがデリバリーステーションを増やしているのは、余分な集荷から着荷、仕分け、輸送までを省いて物流を効率化するためだが、ラストワンマイルの配送については要員不足という課題が残ったままである。



 街の中小店舗に配送協力を願ったところで、今度はそこまで荷物を輸送する必要がある。アマゾン側は独自の配送網で届けると言っているが、アマゾンフレックスのドライバーは自分の荷物で手一杯だろうから、この業務には当たれない。とすれば、別のドライバーを確保しなければならないことになる。配送要員が不足しているのに、また配送要員が必要というパラドックス。抜本的な解決策にはならないだろう。

 協力店は商店街のように1ヶ所に集中するわけではないし、店舗が点在すればいちいち各店まで輸送することになり、非効率だ。また、荷物を保管できるスペースは店舗によって異なる。注文客が店舗まで取りにやって来ることも考えると、スタッフが荷物を管理しなければならない。さらに配送エリアが半径2キロ圏内でも地理、住所を把握しておく必要があり、地元民ではないパートアルバイトにそれが可能なのかという疑問が湧く。



 協力店で引き受ける形態がバラバラになれば、車を何度も止めて荷下ろしするなど作業が煩雑になる。商店街では車が通行できない時間帯もある。これらの課題は店舗の事情によっても違ってくる。アマゾン側の独自の配送網を持ってしても、平準化は図れないのではないか。

 ヤマト運輸は、「クロネコメイト」と呼ばれる配送パートを雇用している。彼らには最大でA4サイズまでの「DM便(通販カタログからパンフレット、レター、チラシまで)」しか任せていない。DM便は各エリアセンターでアシストスタッフがメイト別に仕分けし、メイトがセンターまで取りに行くか、別のスタッフが自宅まで届けることになっている。

 各クロネコメイトはそれぞれが地理を把握したエリアを決め、バイクまたは自転車で、各企業や家庭を廻ってDMを投函する。メイトは地域住民でラストワンマイルの地理を熟知している。仮にアマゾンがクロネコメイトの活用を考えたとしても、メイトの中にはネコポスを配送している人がいるので、アマゾンまでは手が回らないと思われる。

 アマゾンはAmazon Hub デリバリーパートナープログラムでも試行錯誤を繰り返しながら、基本的なオペレーションを組み立てていくのだろうが、果たしてうまくいくのか。最終的には無駄な積み替え、仕分けを無くし、時間もコストも圧縮できるP2P(point to point)体制が理想だろう。

 アマゾンは物流まで内製化することでそれに近づこうとしているようだが、トラックドライバーの時間外労働時間が年間960時間に制限される「2024年問題」まで1年を切った。不足する配送要員の解消にも取り組まない限り、物流の効率化は図れないと思われる。

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キレがいい、服。

2023-01-04 06:57:21 | Weblog
 2023年はあるショップの回顧から始めよう。かつてあった「Marcell(マルセル)」というメンズ専門店のことだ。F Co.,LTDという会社の運営で、多分西武セゾングループ系ではなかったかと記憶している。1980年代後半、翳りが見え始めたDCブランドに代わって台頭したイタリアンモード。マルセルはそれを全面に押し出した品揃えだった。新宿に旗艦店があり、渋谷、池袋の他、吉祥寺や町田などの郊外SCにも出店していた。
 
 ワイズファンだった筆者はシーズン初めに一応ショップを覗くが、カラーやデザインで気に入ったものがない時は、帰りにマルセルに寄るのがお決まりのコースだった。イタリアンモードでありながら、時にはスタイリッシュでモダン、時にはシャープでスパイシーなものも差し込まれていた。




 購入したジャケットやパンツ、セーターにはイタリア製の素材を使ったものが多く、上質なのに価格は値頃だったことも気に入った理由だった。インナーやボトムでは、ワイズのジャケットと色のトーンを合わせながら、自分流の着こなしを楽しんだ。ちょうど1986年〜90年頃だったと思う。

 バブル景気が崩壊し、マルセルは親会社という屋台骨が傾くと、メーカーや商社との信用取引も厳しくなったのか。商品は従来のテイストからは大きく外れ、低価格にシフトしていった。すると、MDもブレてしまい、素材はもちろん、色やデザインでもかつての面影を潜めた。懇意にしていたスタッフが配置換えや転勤で店を去ると、訪れる回数も減っていき、気づくと撤退したショップもあった。



 1990年代半ば、ファッションはカジュアルスタイル一辺倒になり、マルセルで最後に購入したのはニューヨークから福岡に戻った後、イタリア製のレザーブルゾン(5万円程度、写真無し、タグのみ保存)と同製のニット(1万円強、写真)だった。1996年の秋冬シーズンだっただろうか。ブルゾンは冬場のアウターとして7年ほど着た。ニットもブルゾンと色を合わせたので、インナーではローテーションの一つとして活躍した。

 ブルゾンは表面がオイルコーティングしてあり、ややざらっとした質感だった。シャツカラーで太め、背面両腰に身頃を絞るベルトがついていた。ポケットの企画が秀逸で、引き手がボールチェーンのファスナーのものと、物がそのまま入れられる脇ポケットのダブル仕様だった。見返し部分には深目の縦ポケットも付いていた。ショップマネージャーによると、「ユーロ版のトラッカーズジャケットじゃないかな」だった。確かにボルボやベンツの大型トラックに乗っているドライバーが着ていそうな感じもした。




 ニットはざっくりした透かし編みで、胸元からジップ仕様のタートルネック。ローゲージの糸はアルパカ毛が混紡されたベージュと茶色のマダラ模様で、霜降り風に見える。写真ではグレーっぽいが、何とも言えないアースカラーで、風合いがすごく気に入っていた。ところが、2000年代に入ると暖冬が続いたため、着る機会がなくなっていった。

 2003年ごろ、知り合いの若者がフリマを開催するので、「何か、掘り出し物になるアイテムを出してほしい」と言ってきた。知り合いたっての頼みだから、「イタリア製のレザーがあるよ」と、多少の躊躇いはあったがブルゾンを提供した。値付けをいくらにしたのかは聞かなかったが、フリマだから多分数千円だったのではないか。売れたかどうかを確認すると、若い男の子が購入していったという。

 一方、マルセルのニットは取扱表示はドライクリーニングだったが、ニット専用の洗剤で丁寧に手洗いした後、しっかり乾燥させ防虫剤を欠かさず衣裳ケースに保存していた。先日、衣替えをしている時、ケースから取り出して着てみたが、質感もよく本当にいいニットだ。購入から26年を経過したにも関わらず、劣化も縮みもほとんどない。ウール55%(うちアルパカ10%)、アクリル35%、ナイロン10%と絶妙の混紡比率も影響していると思う。

 ビームスやユナイテッドアローズ、シップスといったセレクトショップは、アメカジ好きなVAN世代が創業し、団塊ジュニアやその下世代のスタッフにも遺伝子が継承されている。一方、DCやイタカジを経験したオヤジたちは、雑誌LEONが取り上げるようなユーロモードに惹かれる。それらの層は50代以上の一部に限られるので、消費の中心にならないのは承知の上だ。ただ、バーニーズクラスまで上げるのではなく、往年のマルセル級の店舗なら1、2チェーンあってもいいのではないかと思う。


処分しなければと思うアイテムは多い

 今更ながら、1980年代から90年代前半までは服のクオリティというか、原価コストをかけても、価格は値頃でパフォーマンスは非常に高いものが多かった。識者が言うところの「お値打ち感」があったのだ。当然、上質なのでトレンドを気にしなければ、今でも着られるものばかりだ。振り返ると、処分したアイテムはかなりあるが、ルーズによる戻した今のトレンドを見ると、ボクシー調のジャケットといい、ツープリーツのパンツといい、街中では溶け込むものも多いと思う。もちろん、着る人間次第という前提はあるのだが。

 よく服がなかなか捨てられないという話を聞く。特に高齢者になると、そのような傾向が強い。戦中戦後と物のない時代に生きていれば、必然的に大事にしようという気持ちが強いのはわかる。ただ、劣化が激しいものまで持っていても仕方ない。残りの人生を考えても、後々に負担をかけることを想定すれば、思い切った断捨離も必要になる。





 一方で、上質なものを選ぶ、着用年数を長くすることも必要だ。筆者が特別なのかもしれないが、20代から自分が気に入ったものしか購入しないことがほとんどだった。だから、次々と着古して新しいものに買い替えるというより、ローテーションを組んで10年、20年と着続けるか、最低でも7〜8年は着て着れなくなれば処分するかだ。また、パンツでは「これを買い逃すと次に欲しいものが見つからないだろう」と、同時に2点買いすることもあった。現状の手持ち在庫で上げると、保有年数のトップ10は以下になる。

 1.マルセルのニット 26年
 2.アルマーニAXのニット 25年
 3.ヨウジヤマモトのニット(3点購入) 20年
 4.U.A.GLRの綿パンツ(2点購入) 18年
 5.ヨウジヤマモトのジャケット 17年
 6.無印良品の綿ニット 17年  
 7.GAPの綿パンツ(2点購入/1点のみリメイク) 16年
 8.無印良品の麻パンツ 16年
 9.コムデギャルソンの綿麻ジャケット 16年
 10.ワイズのジャケット 13年


 これらを見ると必ずしも日本製だから良い、アジア製が劣るとは言えない。U.A.GLRの綿パンツはベトナム製だし、無印良品の綿ニットは中国製だ。過去10数年はネット通販が浸透したため、欧州メーカーの商品も購入するようになった。そちらもニットはローからミドルゲージのものばかりで、保有年数は2桁を超えたものも出始めている。

 手持ちの服がどれくらいの耐用年数かは一概に言えない。また、ブランド品だから長持ちするというより、端から生地のクオリティが高いもの好んで選んできたこと。シーズンオフにはしっかりケア(手洗いや毛玉取りを含む)してきたこと。そして、2点買いをはじめとしたローテーション着用がここまで長く着られている理由だと思う。

 今から7〜8年前に「フランス人は10着しか服を持たない」という本が話題になり、タイトルだけ見て、「日本もそんな風になれば、ますます服が売れなくなる」と嘆く人がいた。流石に10着とは言わないが、タンス在庫はインナーのTシャツ類を除いて秋冬物が25〜26着程度。夏物が25着程度。これらで十分回していけるので、新規購入は消耗品のTシャツやジャージで十分だ。

 こちらは劣化するとウエスにするから、タンス在庫の総数は増えない。むしろ、数シーズンごとに衣装ケースから引っ張り出し、「これもあったな」「今季はこう着こなそう」と考えるのも、また楽しい。年末年始にはヨウジヤマモトのニットを着て、1月半ばから梅春にかけてはマルセルが活躍しそうだ。

 特にSDGsを意識するわけではないし、高価な服を礼賛するつもりもない。ネット通販で急拡大する「SHEIN」が色々と物議を醸しているが、最後は購入する人間の判断になる。ただ、筆者は上質な素材の服が好きだから、それを着続ければ十分。スタイリッシュで魅力ある服、シャープでキレがいい服は、飽きのこない服でもある。年の初めにそんなことを考えてしまった。
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