HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

聖域への挑戦状。

2018-09-26 04:45:35 | Weblog
 ファーストリテイリングがグーグルと協業を強化するという。「グーグルがもつAI(Artificial Intelligence)による画像認識技術などを活用し、商品トレンドや需要を予測して消費者が求める商品をニーズに応じて作り、無駄な在庫を減らしていく情報製造小売業を目指す」そうだ。なるほどである。柳井正社長は日頃から「トップにならなければ」「日々是変革」など、経営者として聞き応えのあるフレーズを吐くだけに、今回も世界の最先端企業とのコラボすることで、自社の立ち位置を明確にしたい意図を感じる。

 しかし、それではどんな商品が売場で展開され、それが本当にお客の支持を受け、今よりも収益アップにつながるのか。それとも、「グーグルと協業する」とのニュースは、投資家を色めき立たせるだけの姑息な手段で終わるのか。ユニクロやGU、他のブランドや事業も見ながら、行きつく先を考えてみたい。

 現在、ファーストリテイリングは持ち株会社として、傘下にユニクロ、GU、リンクセオリージャパン、プラステ、Jブランドなどといったアパレル会社を抱えるほか、フランスのプリンセスタムタム、コントワー・デ・コトニエといったブランドにも中間持ち株会社のFRフランスを通じて100%の出資している。

 今期決算では売上げ2兆1000億円超えも確実だが、国内外で1兆5000億円以上を稼ぐユニクロ、同2000億円を超えるGUが主力になる。好調なブランドはSPAによる量産・量販のスタイルで、売場やサイトに並べた大量の在庫をいかに売り減らすかという原始的なものだ。これまでもPOSなどを利用して、なおかつ新しい情報技術も駆使し、商品投入から在庫消化まで改革して来たはずである。

 それがユニクロで1600億円以上、GUで130億円以上の営業利益をもたらしたのだが、柳井社長にとっては、これくらいでは物足りないようだ。企業として売場に大量の在庫を並べるのは機会ロスを防ぐためかもしれないが、 あれだけの物量を見せられると、「別に今、買う必要はないから、マークダウンやセールを待って買おう」というお客もいるだろう。そして、期末のセールでも売れ残る商品は相当あるはずだ。

 そう考えると、毎年、毎シーズン「無駄な商品」を作り続けているわけで、プロパーで売れないものは「消費者が求めている商品ではない」とも言える。まあ、アパレル業界は長らく人間の勘や感性に依存してきたが、POSが導入されQRシステムが採用されて、少しは客観的データに基づく生産や営業政策が取られるようになった。だが、世界のリーダーを目指す企業にとっては、それさえすでに陳腐化したということだ。

 アパレル業は「人間の創造力と英知、匠の技を駆使して服を作り上げる」側面と、「ビジネスとして量産ラインに乗せ、確実に在庫を消化して収益を上げる」側面をもつ。その二つは得てして相反するものだが、それをどう近づけて「解」を出していくか。経営者の手腕の見せ所でもある。

 ただ、ファーストリテイリングという企業の性格からして、まずは「売れるもの」に重点を置くことから、サイエンスで語られなければ信用できないのだろう。まあ、カリスマ経営者ほど孤独なものはないだけに、頼れるものが人間ではなくAIに行きつくところに、生身のブレーンを育てきれていない焦燥感もあるのではないか。それが今後の綻びにならなければいいのだが。

 他のブランドについても、プラステは価格の割にそれほど主張のある商品とは思わない。出店先も百貨店あり、SCあり、路面ありと、必ずしもターゲットを絞り込んでいるとは言い難い。セオリーと同じ生地を使っているとの話もあるが、それこそプラスJ同様に狙いは効率化でしかない。それに気づいているお客さんもいるだろうし、セオリーのブランドを毀損するリスクもある。ユニクロとの差別化を明確にするには、価格軸ではなく、違ったテイストを固めながらトレンドをいかに起こしていくしかないのである。
 
 海外ブランドを目をやると、 米国カリフォルニアに本拠を置くJブランドもデニムの本場でブランドを確立するまでにはいっていない。日本のデニム織りの技術を生かして行けば、まだまだチャンスはあると思っているのか。

 ただ、デニムだけで市場を開拓できるほど本家米国は甘くないだろう。トップスやインナーのアイテムを含めてトータルコーディネートまで視野に入れなければ、ブランドとして確立するのはほど遠いのではないか。それとも、単品の卸しのみに絞るか、それとて競争相手は無尽蔵だ。本家のAI頼みで、果たして売れるデニムが生み出せるのか。

 フランスのプリンセスタムタムやコントワー・デ・コトニエも、特に好調とは言えない。この2ブランドを世界攻略できるように育てるには、企画デザインなり、素材調達なりのテコ入れが必要になると思う。

 ファーストリテイリングとしては2ブランドを買収し、傘下に収めた理由はユニクロのテイストとあまり遠くない点だったと感じる。そこにもジル・サンダーなどとのコラボで見られた素材調達や縫製仕様などを共有化で、生産効率をあげる狙いもあると思っていた。でも、この2については買収以降、企画の面で大きな変化は見られない。

 柳井社長のことだから、毎度上がって来る決算報告や財務レポートを見る度に、口酸っぱく問題点を指摘し、改善策を指示していると思う。ところが、一向にその動きがないし、現地のスタッフには「ジョーヌなんかに、モードはわからねえよ」と、陰口を叩かれているかもしれないと、疑心暗鬼になっているのではないか。

 柳井社長とすれば、ファッションの本場で仕事をしている人間に対し、いかに現状の問題を認識させ、解決させるか。それには万国共通であるサイエンスの力を使うしかないとの判断だったのではないか。それがフランス人も認めざるを得ないグーグルとの協業ということだ。

 しかしながら、グーグルはアパレルの救世主となり、AIはファーストリテイリングをさらに成長させるのか。死角や弱点はないのか、である。ファーストリテイリングが協業で画像認識技術を活用しようというクラウドAIは、AWS(アマゾンWebサービス)やマイクロソフトが先行している。シェアはAWSが31%、マイクロソフトが18%に対し、グーグルは8%しかない(2017年のデータより)。後塵を拝するシステムで本当に役立つのかと疑問が残る。

 また、画像認識技術の活用で、商品のトレンドや需要を予測し、不要な在庫を減らす仕組みを作ると言っても、協業するわけだからファーストリテイリング側にも優秀な技術者が必要になるが、現状ではそこまでの人材がいるとは思えない。しかも、ファッション、ベーシックなアイテムを認識できる仕様に焼き直していかなければならないわけだ。それにしても、検索エンジンとアルゴリズムで培ったノウハウで、ファッションアイテムのディテールや素材感、微妙な色合いまで体系的にデータ化できるのだろうか。

 例えば、こういうケースが考えられる。「紺が売れたのは、本当は黒がなかったからか、ミッドナイトブルーがあればそちらが売れたのか」「生成り(きなり)は白の範疇に入れるか、黄色の範疇に入れるか」「ベージュは海外で黄土色に近い色になるが、日本でもっと薄い色に解釈されている」などの微妙な色の問題をAIは判断できるのか。

 また、画像認識技術は色や形は識別できたにしても、「生地厚」や「風合い」、「素材のクオリティ」をどう判断するのだろうか。生地を平面というか、側面から撮影すれば、こしや厚みは測定できなくはないが、風合いは人によって感じ方が異なるし、クオリティは画像だけではわからないのではないか。

 つまり、「微妙な」部分をAIがどこまで認識できて、データ化して何が売れるかの答えを出せるのか。現状でもAmazonや海外の通販サイトで、リサーチに特定の色や生地を入力しても、アバウトな検索結果しか出て来ない。それは非常に不便だし、不満だ。微妙に対する解釈は個人の感性差が出るし、統計データと商品のトレンドは、異質な次元のような気もするのだが。

 それとも、ファーストリテイリングは生地厚やクオリティは無視というか、統一した規格のもとで品番によってはフルサイズ、フルカラーは生産するが、売れにくい物は数量を減らしていくのだろうか。ユニクロやGUくらいの品数、サイズ、カラーならそれも可能だろう。ただ、データは時としてゴミにもなると言われる。だから、マーケットがその通りに動かない可能性もあるし、逆に大味なMDになっていくような気もする。

 まあ、ファーストリテイリングとしては人間の頭で考えるのは限界に来ている=売れづらくなっているから、人工知能を使って発想を変え、トレンドやお客のニーズの答えを探ることで、素材開発から企画デザインにまでフィードバックして商品を作る。また、それで物流や販売の仕組みまで変えていこうということなのだろう。

 グーグルだけでなく、クラウドのプラットフォームであるAWSまで活用すれば、必ず何かが変わる。もしかしてこのところ不在だったヒット商品が生まれ、プラステやJブランドはMDが磨き上げられ、プリンセスタムタムやコントワー・デ・コトニエが世界で売れるようになれば、グーグルとの協業は適切な決断だったということになる。少なくともマーケットはそう判断する。そこが柳井社長の狙いなのかもしれない。

 穿った言い方をすれば、ITが進化していく中で、最後に残された人間の仕事は、クリエイティブな作業と言われている。ファーストリテイリングが生み出す数々の商材がクリエイティビティの結晶かどうかは疑問だが、すでに人間の創作にまでAIが介入するのは避けられそうもない。そして、柳井社長は暗にアンタッチャブルと言われてきた領域に挑戦状を叩き付けるつもりだろうか。それとも、人間の知恵と技は決して侵されることはないのか。それがハッキリする日が刻々と近づいている。

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事業シフトへの試金石。

2018-09-19 05:43:38 | Weblog
 先日、フジテレビが放送した「FNS27時間テレビ にほん人は何を食べてきたのか?」は、番組全体の平均視聴率が7.3%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)で、番組がスタートした1997年以来、最低の視聴率だった。

 筆者は番組開始直後のコーナーをチラッと見たが、お笑い芸人バカリズムのフリップ芸は、鉄拳がかつてやっていたのをパクったものと感じた。もともと番組をぶっ通しで見たことはないが、冒頭からこの程度の企画を見せられては、一気に見る気が失せてしまった。同じように思った視聴者は多いと思う。それが視聴率に表れているのだ。

 ところで、テレビ局の商品と言えば、「時間」である。番組表を「タイムテーブル」と呼ぶのは、ここから来ている。ただ、同じ時間帯でもローカル局の料金は異なる。筆者が住む福岡の局の1時間枠は、大阪の局の同枠より安いと言われる。熊本や鹿児島の局なら、さらに安くなる。その時間を一括して売るのが番組を制作したキー局で、それで得た料金をそれぞれのローカル局に配分する仕組みがネットワークと呼ばれる。だから、ローカル放送局は、ネット局になるのだ。

 キー局は商品やサービス、ブランドを拡販したい大手スポンサーのマーケティングや営業戦略に対応する。そのため、日本全国をカバーできるように、一局でも多くのネット局を確保したい。ネット局はキー局から少しでも多くの「電波料/タイム(提供)CM料」を配分してもらい、キー局から「高視聴率の番組」を受け取ることで、営業成績の向上を狙うのである。

 一方、ローカル局最大の収入源は、番組と番組の間に流す「スポットCM」だ。大手スポンサーのタイムCMのように制作費がかからないので、販売効率はいい。だから、どの局もスポットCMを優先した営業に邁進する。ただ、それはキー局が制作した番組が高視聴率を取ってこそ、スポンサーに買ってもらえ、スポット枠が埋まりやすいとも言える。

 27時間テレビをはじめとするフジテレビ(CX)の番組視聴率が低迷すれば、キー局である同局からネット局に配分される電波料/タイムCM料は減額される。CX系列のネット局がスポットCMの営業を地場スポンサーにかけたところで、「おたくの局の視聴率じゃねえ〜」と、拒否されないとも限らない。ならば自社で番組を制作して、スポンサーに買ってもらえばいいのだが、莫大な制作費がかかるし、それでペイできるだけの広告収入が確保できる保証はない。

 そこで、ローカル放送局が活路を見出そうとしているのが広告収入以外、テレビ受像機の外での営業活動である。ひと言で言えば、「イベント事業」だ。ローカルとは言え、地元での知名度、ブランド力、信頼性を活用し、イベントをプロデュースして集客する。地場企業に対してマーケティング機会を提供し、協賛スポンサー収入を確保するのだ。制作から携われば番組と同じように、イベントは時間消費の「タイムデザイン」とも呼べる。



 実は27時間テレビの詳細が発表される少し前、CX系列テレビ西日本の関係者から、来年4月20日に開催される「『東京ガールズコレクション 熊本』のスポンサー営業を同系列のテレビ熊本(TKU)が行っている」との話が漏れ伝わって来た。同イベントは熊本地震の復旧・復興と地域の活性化につなげるために行われるもので、すでにTGC熊本推進委員会が発足し、熊本市や熊本県が支援することで動き出していた。

 ただ、このガールズコレクションを制作するのは、東京の「W TOKYO」である。熊本のローカル放送局にタレントのキャスティングから、ブランド衣装の確保、ヘアメイクやフィッターの手配、舞台装置の設置、音響照明等々までを仕切るノウハウはないからだ。

 一方で、興業チケットの収入だけでは、とてもイベントの制作費は賄えない。今回は熊本地震からの復旧・復興、地域の活性化という「大義」があり、イベントには熊本県や熊本市がおそらく数千万円の税金を拠出するはずだ。それでも東京からやってくる三文タレントのギャラ他を払うには足りないし、関係各社が収益を上げるためにも、スポンサー確保は不可欠になるのである。

 一応、TGC熊本推進委員会は立ち上がっているが、これは自治体や商工会議所の担当者、地場企業の役付が名前を並べているだけで、ビジネスとして活動するには事業会社でないと無理だ。そこで、地元テレビ局に白羽の矢がたったわけである。

 まあ、スポンサー営業は広告代理店の十八番だが、TGC熊本の制作はW TOKYOに握られており、グロスで受注できないのではピンハネ業の代理店にうま味はない。そこで、スポットCMなどで地元企業に対し営業実績がある地元テレビにお鉢が回ったのだ。地元ではスポンサー営業を行うテレビ熊本を「サポートカンパニー」と呼んでいるらしい。

 公式ホームページ(http://girlswalker.com/tgc/kumamoto/2019/)では、「メディアパートナー」となっているので、テレビ熊本はスポンサー営業を行いながら、自らもスポンサーたるということか。当然、イベントの模様は映像を収録し、他社へのニュース素材の提供、アーカイブにもするはずだ。ただ、三文タレントが所属する芸能プロダクションやモデル事務所は、肖像権管理にきわめて五月蝿い。テレビ局が映像を記録した方がSNSなどでも無断転用を避けられるのである。

 では、なぜ、テレビ熊本なのか。テレビ西日本からもその理由は伝わってきていない。たぶん、同じ客寄せ興行の「関西コレクション」を大阪毎日放送(MBS)が制作しており、それをそっくりパクった「福岡アジアコレクション」は、RKB毎日放送の事業になっている。両社はTBS系列で、熊本では熊本放送(RKK)がネット局だ。系列の関係が影響し、熊本放送の芽は消えたというのが妥当だろう。

 他局は日テレ系の熊本県民テレビ(KKT)、テレ朝系の熊本朝日放送(KAB)がある。ガールズコレクションのスポンサーを集めるだけなら、スポット営業の延長線上でできるので、どこの局でもさほど難しくはない。だから、水面下でスポンサー営業権の選定が行われ、3社によるくじ引きの末に決まったのか。それとも、テレビ熊本は売上げ規模で熊本放送と県下トップを争っているからか。まあ、どこの局に決まろうと、その理由に大した意味はないが。

 逆にテレビ局側の事情が大きいのかもしれない。少し前のデータ(2015年11月14日 週刊ダイヤモンド掲載)だが、テレビ熊本の売上げ(2014年度)は、63億円。これはテレビ西日本(同142億円)の半分以下になる。その内、広告収入は59億円で、9割以上をタイムとスポットの広告収入に頼っている。因にテレビ西日本の広告収入は125億円で、17億円は広告外収入ということになる。

 ご多分にもれず、テレビ局の広告収入は減っており、テレビ熊本も2004年度に比べると、13.9%も減収になっている。2018年度の広告収入は前年比横ばいとしても、10年以上で1割以上減ったことに変わりはない。キー局であるフジテレビの視聴率低下を考えれば、今後も電波料/タイムCMの配分は減っていくだろうし、視聴率がさらに低下すればスポットCMの販売にも影響する。テレビ熊本にとっては広告外収入、事業収入に活路を見出さないと仕方ないのだ。

 では、肝心なスポンサーは、どこが担うか。ホームページを見ると、鶴屋百貨店(小売業)、エルセルモ(冠婚葬祭)、再春館製薬所(健食、製薬)、桜十字病院(医療、介護)、キューネット(警備)、シアーズホームグループ(建築、住宅販売他)、フジバンビ(菓子)、明和不動産管理(賃貸管理)と、桜十字病院を除いて地元では知名度のある企業がイベントスポンサーの不文律、一業種一社で名を連ねている。ファッション業界注目のファクトリエやシタテルは、イベントにマーケティング価値がないとみなしたのか、かける予算がないからか、スポンサーにはなっていない。

 ガールズコレクションに集まるF1層をターゲットにする業種と言えば、ブライダル、エステ、美容、旅行、カルチャースクール、転職サイトなどと相場が決まっている。だが、熊本の経済規模や産業構造を考えると、そうした企業で「パートナー」と呼ばれるビッグスポンサーになれるところはない。2017年度の県内企業の売上げベスト10(商工リサーチ調べ、銀行、農協を除外)を見ても、5社が部品や機械の製造業、3社がパチンコ企業、2社が卸売・小売業。だから、前出の企業にならざるをえなかったとも言える。



 小売業の1社が鶴屋百貨店で、社長がTGC熊本推進委員長を務めていることもあり、TGC熊本では「プラチナムパートナー」という最高位のスポンサーを占める。そのため、イベントを自社の販促にも活用できるようで、「百貨店友の会」への入会(積み立て)を条件に、興業チケットが抽選で当たる企画を実施している。百貨店としては60代以上と高齢化した顧客を何とか若返らせたい。また、イベントに登場する20代向けブランドのリーシングにも弾みを付けたい。ジリ貧になっている地方百貨店の思惑が透けて見える。これついては地元アパレル関係者のイベント参加動向とともに、後日、詳しく分析することにする。

 日本の地方都市は毎年のように台風、地震などの自然災害に襲われている。自治体はその度に復旧・復興を叫ぶ。また、大都市圏と地域との格差はどんどん広がり、人手不足であっても地方には若者が働きたくなるような仕事が少ない。だから、ガールズコレクションは瞬時で終わるタイムデザインにも関わらず、自治体としては若者を惹き付ける街づくり、人づくり、仕事づくりというスローガンの対象にしやすいのだ。

 つまり、スローガンは税金を拠出する格好の大義にもなるのである。この時期に不謹慎極まりないが、岡山での豪雨、北海道での地震でも、「災害から復旧・復興するため」「新たな街づくりへ」は大義となり、ガールズコレクションの制作者側にとって熊本のように格好の営業対象となる。

 そのため、イベント事業者が岡山でも北海道でもガールズコレクションの開催を目論んでいるのは想像に難くない。当然、ローカルテレビ局とっても、事業シフトへの試金石になるのである。すでにビジネスモデル化したと言っても、過言ではないだろう。

 ただ、日本全国どこも同じ客寄せ興行を実施したところで、現状の問題が解決しない限り、地域活性も人づくりも仕事づくりも実現するはずがないことだけは確かである。

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白は質が左右する。

2018-09-12 05:08:39 | Weblog
 メンズのファッション雑誌はめったに見ないが、先日、図書館で調べものをした折、雑誌コーナーで開架されている「レオン」の2018年9月号に目が留った。特集タイトルは「『上下おソロ』で楽チンお洒落」。手に取ってペラペラめくっていると、「『白T、白ス』があれば、『上下おソロ』はキマるのです」との企画で、白のTシャツとスニーカーがピックアップされていた。



 9月号なので、秋物の立ち上がりだ。「共地のジャケット&パンツを着こなす」にも、残暑を考えると、インナーはTシャツで十分。それに同色のスニーカーを合わせようという提案のようだ。どちらも白なら清潔感もあるし、お洒落に見える。それに50代のオヤジが若々しくに見える着こなしは、ブランドは別にしても単色の組み合わせくらいじゃないか。なかなか的を射た企画だと思った。



 もともと足下を白のスニーカーで決めるスタイリングは、モデルが先行していた。 シーズンは冬。着丈がくるぶしが見えるくらいスリムパンツやシフォン系素材のロングスカート。そんな上部が黒無地なら下には白を合わせる。秋冬は上から下までダークトーンで統一しがちなので、足下を明るくして軽やかに着こなす狙いのようだった。



 これがトレンドとして広がり、レディスではジャケット&パンツでもインナーと足下をホワイトに統一する着こなしも出現した。それがレオンの編集企画で、50代のオヤジ世代にまで入って来たということだ。ただ、ちょいワルオヤジでも冬場にくるぶしを見せるのは堪えるから、秋の立ち上がりというのがギリギリの線だろう。まあ、レオン編集部が中高年読者に忖度したとも言えるが。

 そもそも、ヤング向けとオヤジ向けの根本的な違いは、価格やブランドを背景とした質感の差だと思う。若者なら、Tシャツが4オンス台の薄手を着ても様になる。ブランドも問わないから、H&M、ユニクロ、ザラ、GUでもOKだ。その分をスニーカーに投資して、ABCマートかなんかで1万円強のものが購入できる。逆に無印良品で3000円程度で買えるコットンスニーカーでも十分だろう。

 ところが、体の線が崩れかけたオヤジは、さすがにペラペラのTシャツでは年齢をカバーできない。というか、ジャケットのインナーに薄手の白Tなんかを着ると下着に見えて貧乏臭い。しかし、コシのある上質なメリヤス素材を使ったTシャツなら、体型に負けない強さがある。ファッション的には薄手のセーターを着る感覚に近いと思う。秋口なら、気候的にもセーターよりTシャツの方が向くのだ。

 価格は6000円〜1万円。価格に見合うクオリティはあるだろうから、一度洗濯して襟ぐりが伸びる心配はないと思う。染みがつきやすいという難点はあるが、大事に着れば1シーズンで終わりにはならない。実際、「ファクトリエ」はスタッフが2年前、昨年と購入した自社ブランドの白T(6,480円)を着てサイトに登場している。上質なTシャツほど洗濯するほどに体に馴染んで来る。3年も着れば、十分に元はとれるし、流行もないからリピーターになるはずだ。

 スニーカーは「靴」という性格から、読者に対し金銭的な余裕があれば、より上質なものを選ぼうという提案だ。これは今に始まったことではなく、モダンボーイの時代から「ショセに洒落が宿る」との不文律がある。歯科医だった母方の祖父も生前、靴にはお金をかけていたというから、間違いないと思う。革靴の場合、売れる色は8割が黒と言われ、逆に白のスニーカーなら大人向けのファッション提案にもなる。

 もっとも、レオンの編集方針は、国内外のラグジュアリー&デザイナーブランドのプレス・プロモーションを貫くところ。白のTシャツやスニーカーでもそうしたアイテムがピックアップされている。雑誌掲載の分は高級靴メーカーの「ジョンロブ」「ジェイエムウエストン」「サントーニ」から、中級の「スプリングコート」、量販ブランドの「コンバース」まで。価格は最高が11万円、最低が1万円代と幅広いが、やはりラグジュアリーブランドは最低でも数万円はするので、ドレスシューズの感覚だろう。

 実際に見て試着してみたいが、筆者が住む福岡では中洲で働くお兄さんの御用達のようなものはあるが、白無地でシンプルなものにはまずお目にかかれない。唯一、コンバースのレザースニーカー「オールスター・クップ」がソラリアプラザのオンリーショップに置いてあったので、確かめてみた。価格は14,000円と、本革にしては値ごろだ。

 レオンの記事には「高級感のあるスムースレザーをアッパーに使用しつつデザインもミニマルを徹底的に追求しており、ストリートシーンでよく見かける既存モデルとは一線を画す上品な佇まいが特徴です」とあった。だが、実際に現物を見ると、ベースがオールスターだけに高級で上品なイメージはない。試着はしていないが、スタッフの話では、「海外規格なので、日本仕様より横幅が多少広い」とのことだった。



 レオンでは取り上げられていないが、アディダスは今年、「STANSMITH NUUD」(価格不明)という白のレザースニーカーを発売している。こちらは写真で見ただけだが、革しぼが程よく出ていて、レギュラーのスタンスミスより質感が際立つ。通風用のパンチングがないのも、呼吸できる本革だからだろうか。シューレースを通す穴は、ハト目仕様ではなくパンチのみ。これはオールスター・クップにも共通する。

 NUUDは外革が純白だが、内側は着色してあるようで、フランス版ではグリーンというタイプもあった。足を入れると内側は見えないはずだが、モデルが履いて歩く時、インカラーがチラ見えするのを意識したのか。ブランドのカテゴリーがOriginalだけに裸をイメージさせる型式名からさりげない演出まで、計算し尽くしたのは容易に想像がつく。通販サイトではほとんどのサイズが売り切れているので、反響は高かったと思う。

 そんなことを考えながら、ザラも白のスニーカーを作っていたのを思い出した。改めて現物を確かめに事務所近くの天神西通りの店舗を訪れてみると、「エンボス加工入りホワイトプリムソール」「コントラストスニーカー」「マイクロパーフォレーション加工入りスニーカー」などがあった。どれもフェイクレザーだが、価格は5,000円〜7,000円程度で、スタンススミスの半額くらいだ。

 ファストファッションだから1シーズン持てば十分との理屈で、これらの価格に落ち着いたのはわかる。しかし、価格帯を度外視しても、どこか安っぽさは否めない。これならスタンスミスを2シーズン履いても、同じコストパフォーマンスになわけだが、お特感は全然違う。靴の企画には専門性が必要と言われるし、メジャーブランドが市場を制圧しているだけに、グローバルSPAでは切り崩しは容易ではないように感じる。



 因に筆者は、白のスニーカーは大好きで、昔から愛用している。大学生の頃、トップサイザーのデッキシューズをバイトして買ったのがブランドに触れるきっかけとなった。以来、イタリアブランドからリネン製のコンバースまでいろいろ履いた。汗かきで脂足という体質でもあり、夏場は特に欠かせないアイテムになっている。

 夏に履く白のスニーカーは体質上、キャンバス地になるため、どうしてもすぐに汚れてしまう。学生時代こそ、CMの真似事で、専用の洗剤とブラシを使って洗っていたが、最近はそれも面倒になり、2〜3足を用意してローテーションを組んで履いている。さすがに真夏はフェイクも本革も厳しいので、キャンバスやシンセチック(ファイバー素材)になるが、9月に入り涼しくなったので、レザーの出番となった。

 ザラのスニーカーを見ている時、スタッフが近づいてきて、「スニーカーに興味がありますか」と聞いてきた。そこで、「これは価格的に本革じゃなくて、フェイクですよね」と尋ねてみた。すると、スタッフは「スニーカーは本革を履く必要はありませんよ。足下はすごく汚れますから」との答え。確かにそれは一理ある。筆者も夏場に履く白のスニーカーでは体験して来た。

 ただ、そうした合理的な考え方と足下のお洒落は別ものだ。筆者は秋冬に履く白のレザースニーカーは汚れが目立って来ると、クリーナーを使って落としている。アッパーの部分は満員電車に乗って足を踏まれない限りはさほど汚れない。黒ずんで来るのはコバの部分でそこの汚れを落とせばいいだけだ。今履いているものはもう3年目になるが、目立った汚れは無く、ソールも減りもそれほどない。あと2〜3年はイケると思う。

 一方、白のTシャツも大好きで、年中着ている。こちらは一度着れば洗濯するから、耐用性を重視する。「United Athle」のブルータグ(7.1オンス/オープンエンドヤーン)は1枚700円程度だが、いくら洗濯してもどうにもならなかった。新品は大きめだが、洗濯すればちょうどいいフィット感になる。残念なことに廃番になり、手に入らなくなってしまった。

 次に着始めたのが10.2オンススーパーヘビーウエイトの白T。人によってゴワゴワで、ぶ厚過ぎると感じるかもしれない。でも、洗濯して襟ぐりが伸びることはなく、汗を吸っても肌にぺたっとくっ付かないので、筆者には好都合だ。見た目はレオンが取り上げているブランドの白Tと比べても遜色はないし、着てみると高いクオリティを実感できる。それでも価格は1枚1000円程度と格安。この夏も3枚ローテーションで着ていた。



 レオンが提唱する「『上下おソロ』はキマる」という企画にそったわけではないが、他に着るアイテムがないので白T、白スニともここ数年、初夏から秋口のジャケパンスタイルに活用している。ジャケパンはブランドのセットアップではないが、トーンや質感はおソロである。10.2オンスの白Tの下に4オンス程度のTシャツを着れば、福岡が肌寒くなる10月半ばくらいでもイケると思う。

 白のTシャツやスニーカーは、 ブランドや価格もさることながら、いかに上質でコストパフォーマンスが高いものを見つけて着こなすか。替えが必要になるから、2〜3点は持っていた方が良いからだ。これが筆者なりの見解であるが、50代以上のオヤジ世代がお洒落になりたいなら、ぜひともお試しいただければと思う。
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記号化は不滅か。

2018-09-05 05:44:42 | Weblog
 一時、ブランドの陳腐化で、活性化の必要性が叫ばれていた「アニエスb.」が再び人気を集めている。SNSなどによるコミュニケーションで関心が高まり、20代の新しいお客を取り込んでいるらしい。フランス語で「agnés.b」と筆記体表記するロゴ入りのTシャツやキャップがかなり売れているようで、定番デザインのボーダーTシャツやスナップカーディガンにも注目が集まっているという。

 ただ、Tシャツは7000円、キャップは6500円と、今の20代からすれば決して安くはない。また、評論家諸兄が仰る「低価格ブランドのレベルが上がっている」論に照らせば、そこそこの素材使いや縫製をキープしつつ、価格の安い商品が他にたくさんあるはずだ。なのに、20代が割高な海外ブランドに手を出すのは、インフルエンサーによる拡散だけが理由ではないと思う。今回はその辺の考えてみたい。

 筆者の世代は、アニエスb.が日本に初上陸した1983年はちょうど20代だった。青山通りの表参道交差点から根津美術館方面に入り、少し歩いたところにショップがあって、近くに行った序でに何度か立ち寄ったことがある。初めて見た時は、巷にあふれるDCブランドとは一線を画する普段着感覚に、「パリでは、こっちなのか」って思ったものだ。

 ショップ自体も道路側がすべてガラス張りで、非常に採光が良かったとの印象を受けた。当時は天井に付けたビーム球でスポットライトを当てるのが主流で、存分に採り入れた自然の光で商品を見るスタイルは他にはなかった。商品を買って帰った後でも、店で見た時と同じ印象になることを大事にしているのかと思っていた。

 アニエスb.は、アニエス・ド・フルュリューという女性デザイナーによって生み出された。彼女は戦時下のフランスで生まれ、16歳で結婚。 アニエスb.のbは最初の夫であるブルゴア氏の頭文字から取ったものだ。その後、ファッション雑誌ELLEの編集者やアパレルメーカーのデザイナーとして、 パリ・モード界の最先端を突っ走っていた。

 しかし、モード界は常に流行を生み出さなければならない反面、苦労して生み出した流行も1年ですぐに古くなる。そんな世界にいることに疲れたアニエスは、流行とは対極にある普段着感覚の服作りに目覚め、1975年、パリでは庶民の街と呼ばれるレ・アールにあった肉屋を改造してブティックをオープン。ブランドをスタートさせた。

 彼女が作る服はトレンドに左右されず、シンプルで着こなしを選ばない。 実用性が高く、値段もこなれていた。虚飾のないデザインであることから、着る人間の個性で幾様にもコーディネートを楽しめる。それは倹約家で合理的なパリジェンヌのライフスタイルにもフィットした。

 アニエスb.が再び人気を集める理由は、ベーシックとはニュアンスが異なるプレーンなデザインが受けているからだと思う。実はこのスタンスこそがフレンチカジュアルの王道で、雑誌アンアンの鉄板企画、「パリジェンヌのスナップ」にも垣間みることができる。

 Tシャツにジーンズのさりげないお洒落テクは80年代、90年代、00年代に撮影されたショットを振り返っても、ほとんど違いがない。デビュー当時のアニエスb.を着た子が今のサン・ミッシェル通りやソルボンヌ大学界隈にいても、不思議と違和感はないと思う。日本でもそんなブランドの神髄に気づいた子たちが火付け役になっているのである。

 話は前後するが、日本にアニエスb.を輸入したのは、欧州の家具や雑貨を扱っていたサザビーだ。先に展開していたアフタヌーンティーは、実用的で値ごろな食器を揃えており、まさにアニエスb.の方向性とも合致する。同社がアニエスb.を運営するCMCと折半出資で「アニエスb.サンライズ」を設立したのも、食器や雑貨とシンクロさせられ、飽きのこないスタイルを浸透できると踏んだからだと思う。

 アニエスb.サンライズが販売に乗り出した当時、日本はDCブランドの絶頂期だった。青山界隈はコムデギャルソンやワイズといったブランドの聖地で、黒尽くめ=カラス族が闊歩していた。また、TシャツにしてもBATSUに代表されるように胸元に「×」といったマークが入るだけで、ブランド価値を生み差別化できるという考えが主流となっていた。

 そんな中に登場したブランドロゴが付いていないアニエスb.である。「あんなシンプルな服はパリジェンヌだから着こなせる。日本人には売れない」。日本に上陸した当初、業界の評判はあまり良くなかった。

 しかし、ファッション雑誌の編集者やスタイリストは、逆にDCブランドが売れ過ぎてマス化し、どのブランドも似たり寄ったりになっていることに気づいていた。撮影したビジュアルが代わり映えしなければ、誌面を作る上では逆効果である。その点、普段着感覚の単品アイテムでコーディネートできるアニエスb.は、DC一辺倒のテイストに風穴を開ける新鮮さを持っていた。


 
 もちろん、それまでの日本にもボーダーのTシャツくらいはあった。もともとはフランス海軍のユニフォームがルーツで、それがファッションの代表アイテムになったわけだ。ジャンポール・ゴルチェやピカソが着ていたことも、ファッションスタイルとして注目を集めた。ブランドでは「セント・ジェームス」だろうか。ただ、メンズアイテムは何となく粗野な感じがしたが、それを女性にも似合うように焼き直したのは、アニエスのセンスだからできたことだと思う。

 また、日本の若い子が見たことあるようなシンプルな服について、アニエスは全く新しい感覚で着こなしを提案した。例えば、ジャージ素材のスウェット上下にレザーの靴を合わせ、トップスにはウールのジャケットを羽織る。今ではごく当たり前だが、当時はアニエスにしかできない画期的なコーディネートだった。

 Tシャツにしても、スウェットにしても、今ならユニクロが十八番のようなアイテムだ。しかし、ベースがアメカジのパターンを利用するのに対し、アニエスb.は独自の型紙を使用していた。身幅も着丈も袖丈もフレンチカジュアルの世界を崩さない洗練されたサイズ感だった。それは欧米人に比べ、華奢な日本人には収まり易かったとも言える。

 もちろん、価格は質感にも表れている。MADE IN FRANCEというイメージ倒れで終わらない上質なカットソーやジャージ素材。当時からTシャツが7000円もすれば、原価率が30%としても2100円。ユニクロの1000円のTシャツが原価率50%としても500円。4倍以上の開きがある。その結果、じゃぶじゃぶ洗濯しても、くたッとならないし、スナップがとれることもない。

 いくら低価格の商品のレベルが上がって来たと言っても、原価が違うのだから、クオリティに雲泥の差があってもおかしくない。 着た人間が着心地を通して質の高さを実感できる。つまり、上質でシンプルな普段着だからこそ、ずっと着ていられるのだ。それは着たことのない人間にわかるはずもない。まさにコストに見合うパフォーマンス。数年着ればもとは取れるし、今ならメルカリでも買い手はつくだろう。

 アニエスb.のボーダーTシャツをコピーしたような商品が多数出回った。だが、模倣業者は流行っているからコピーするのであって、本家がずっと変わらないテイストデザインを貫けば、コピーする価値もなくなってくる。逆に模倣業者が降りれば、お客は安心して購入できる。それがなおさらアニエスb.オリジナルのブランド価値を高めたのである。



 そして、今、再び人気が集まっているのはこうした理由に加え、やはりあのネーミングとロゴマークではないだろうか。シンプルな服とリンクする端的なフランス語の呼称は、お客の耳にすんなり入っていく。そして、何のかんの言っても、日本人はブランドロゴ=記号化に弱い。しかも、今ではフランス人もアメリカ人も書かなくなった筆記体フェイスは、なおさら新鮮に受け取られるはずだ。やはり聴覚と視覚にインパクトが与えられるブランドは、強いのである。



 一時、 アニエスb.はレザール(トカゲ)のアイコンも並行して使用していた。これはアニエスがトカゲの行動力と怠け者という二面性を好んだことから採用されたようだが、こちらのアイコンでは果たして人気が出たかどうかは疑問である。

 少なくともアニエスb.が再び人気を集めたのは、雑誌の記事タイアップでもなく、プレスやスタイリストのレコメンドでもない。まして、タレントを起用した派手なプロモーションを展開し、地下鉄の表参道駅をジャックしたところで、ブランドが活性化するはずもない。

 服を着てその良さがわかった人間が自らの気持ちをSNSを通じて発信し、それが拡散されていったからこそ、共感できる人々が集っていったのだ。昔で言うところの口コミってやつか。つまり、いかにブランドファンのコミュニティを作るか。これからは活性化のファクターになりそうである。

 その背景では、「この値段にしては、いい商品」という考えを否定することで新しいマーケットが出現すると言える。安い商品でそこそこのレベルではなくて、「1万円以下でもかなり高いレベルだから、そっちの方がお値打ち感があるよ」という意味である。

 アニエスb.を知らない20代が実際に着てみたら、ファストファッションにはない質感や着心地を感じられ、ジェイダやエモダといった国内モードカジュアルが持つ独特なクセもないから、誰もがすんなり入っていけた。パリカジ登竜門的なテイストもウケる理由だと思う。

 シンプルで普遍なテイストで、不変を貫くアニエスb.の強さ。そして、お客と等身大のファン客がその良さを地道に伝えたからこそ共感の輪が広がり、再び注目を集めているのである。
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