HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

傾中疎米のユニクロ。

2021-05-26 05:35:13 | Weblog
 米国の対中政策はいよいよグローバルSPAにも向けられてきた。CBP(米国税関国境警備局)が公表した文書によると、カリフォルニア州ロサンゼルス港当局が1月5日に押収したユニクロのメンズシャツについて、中国共産党の傘下で新疆綿花の生産団体「新疆生産建設兵団(XPCC)」が原材料の生産に関わった疑いがあるとのことだ。

 米政府はトランプ政権下だった2020年12月、新疆ウイグル自治区の人々を強制労働させている背景にXPCCの関与があるとして、同団体が生産する綿製品の輸入を禁止。並行して、輸入企業には強制労働の製品を使っていないことの証明を義務付けた。バイデン政権でも強制労働製品を排除する姿勢は一貫している。

 ユニクロを運営するファーストリテイリングは3月末、輸入差し止め措置は不当だとする反論手続きで、「原材料にはオーストラリア産の綿使用と申請している」と主張した。これに対し、CBPは「強制労働品ではないとの証明が不十分だ」として、ファストリの反論を却下した。

 ファストリはCBPの措置を受けて先日、コメントを発表した。要点は以下になる。

 「当社はいかなる強制労働も容認しないという方針のもと、サプライチェーンにおける人権の尊重を最優先課題として取り組んでいる。サプライチェーンにおいては、強制労働などの深刻な人権侵害がないことを確認している

 「綿素材については、生産過程で強制労働などの問題がないことが確認されたコットンのみを使用している。万一、強制労働などの深刻な人権侵害が確認された場合には、取引停止や調達の見直しを含め、厳正に対処する

 米国、ファストリとも、言い分はあるだろうが、要は米国が輸入したシャツに使われているコットンに新疆綿が混じっているかどうかをどこまで証明できるかだ。米国は毎度のことながら、自分たちがルールのような国だから、ファストリのような中国生産偏重のSPAが新疆綿を使わないはずがない。真偽はともかく、そうした決めつけの方が強いのではないか。

 一方、ファストリは商品製造を中国などの工場に委託しているが、原材料の調達は商社や現地企業が担っているわけで、XPCCの関与無しという証拠も書類レベルでそうなっているだけだろう。実際のところ、中国、しかも現地企業がトレーサビリティを辿り、フェアトレードにまで与しているのかどうか定かではない。

 最近ではサプライチェーンにおける供給網の透明性を高める試みとして、登録した情報を改ざんできない「ブロックチェーン(分散型台帳)」上で、データを管理するルールづくりが進んでいる。だが、中国は堂々と「騙される方がバカだ」と宣う国民性だ。現地企業側が差し出す元の書類にどこまでの信憑性があるのかはわからない。

 白黒をはっきりつけるとすれば、科学的かつ客観的に証拠を出すしかない。手っ取り早いのはDNA検査だろうか。ただ、それをCBP側が行えば膨大な時間とコストがかかり、輸入品の通関が滞って貿易全体に影響が及ぶ。ファストリ側が行うにしても、時間とコストがかかるのは同じだ。

 おそらく、綿材料の調達は為替の変動なども考慮し、固定型の価格で長期契約しているはず。もし証拠が出た場合には輸入差し止めどころではなく、調達そのものの仕組みを変えなければならないから、現実的ではない。米国、ファストリ双方とも、本音ではそこまではやりたくないと思う。


売上至上主義のユニクロに中国批判はできない

 結局のところ、バイデン政権は安全保障、貿易、人権問題などから、対中強行政策では軟化することはないと思う。当然、日本をはじめ同盟国には協力を求めてくる。今回のCBPの措置も、その延長戦上にあるのだ。

 一方、柳井社長はファストリ全売上げのうち、北米事業が占める割合はわずか数%に過ぎないことから、米国の対応を甘く見ていたような気もする。現にXPCCが新疆ウイグル自治区の人々を強制労働させていることについて問われ、「これは人権というよりも政治の問題。われわれは政治的に中立なので、ノーコメントとさせていただきます」と返答している。

 つまり、強制労働は米中摩擦という政治問題の中で作り上げられたもので、我々が与するようなテーマではないと、お茶を濁したとも受け取れる。しかし、中国の人権侵害の実態は目に余るものがある。日本の大手メディアは経済界からの圧力からか、総じて報道にはおよび腰だが、筆者が住む福岡の西日本新聞は2月14日付け朝刊の1面トップでこの問題を報道した。https://www.nishinippon.co.jp/item/n/692640/

 中国政府によるウイグル人100万人以上の強制収容本人の意思に反した不妊手術や強制労働内モンゴル自治区や吉林省でも、昨秋から少数民族が通う小中学校での漢語教育の強化政策に異議を唱えた人々は次々と拘束されている。これらが明らかになった。柳井社長はそうした報道を知らないのだろうか。いや、そんなはずはない。

 今やファストリは中国事業に支えられていると言ってもいい。ユニクロの中国国内店舗は2020年8月期で800店に迫る勢いで、売上げの50%以上を中国事業で稼いでいる。面と向かって中国を批判できるわけがないのだ。



 しかも、ユニクロには前科がある。2012年、日本が尖閣列島を国有化したことで、中国各地で行われたデモの参加者が暴徒化して破壊や略奪をした時、上海の店舗では「尖閣列島は中国固有の領土」と、中国語による張り紙が掲示された。

 ファストリはその後、プレスリリースで「店長は、同日正午頃、独自の判断に基づいて、『支持釣魚島是中国固有領土』との張り紙を行い、デモ隊が過ぎ去った昼過ぎにそれを撤去いたしました。(張り紙が行われていた時間は、約40分間。)」と、発表。さらに「本件は会社の指示によるものではなく、また、他の店舗におきまして、このような事は一切起きておりません」と、釈明した。

 社員が明らかに政治的な発言をしたことは紛れもない事実。ここまでやれば、柳井社長が言うように政治中立でも何でもない。社員教育が徹底されておらず、ガバナンスが機能していないとも受け取れる。



 このところの中国は次々と強権を発動している。昨年12月に施行した「輸出管理法」では、安全保障に関わる製品などの輸出を許可制にしたほか、特定の外国企業などをリスト化し輸出の禁止や制限を課した。この国の法律は、あくまで運用する側の都合でどうとでも解釈される。もし、ファストリが今後他国との取引を増やして中国生産をセーブすれば、逆に中国からの製品輸出ができなくなることだってあるのだ。

 ファストリの中国依存度は異常だ。ある意味、同社の命運を握っていると言ってもいい。取引先1社のシェアが25%を超えると、失った時に倒産する可能性があることから、10%以下を何社も抱えて分散化を図るのが経営のセオリーと言われる。これはマーケットシェアについても似たようなものではないか。

 それだけではない。強かな中国は外国企業のノウハウを得てしまえば、用済みの烙印を押して市場から閉め出すことも考えられる。そうなると、ユニクロだろうが、ひとたまりも無い。

 片や、ファストリの北米売上高は全体の数%に過ぎないため、今回の輸入差し止めも同社にとって大した影響はないだろう。しかし、決算報告では毎回のように「米国事業は早期黒字化を目指す」とぶち上げながら、一向に達成できず赤字を垂れ流し続けている。今回の一件を含め、米国をあまりに軽く見ているのは、経営上大きな矛盾を孕む。

 今回の輸入差し止めで、ユニクロの株価は急落した。上場企業というポジションからすれば、投資家から責任を追及されてもおかしくない状況だ。

 柳井社長は、これまで国内のアパレル業界はもちろん、日本の政治や外交について批判を繰り返してきた。なのに中国の人権弾圧については批判どころか、言及さえしていない。そんな振る舞いを見ると、米中対立におけるジレンマなど微塵もないのだろう。

 むしろ、傾中疎米とでも言うべきか。ただ、中国ビジネスの一寸先は闇でしかない。果たして経営者としてリスクヘッジに向けた軌道修正を試みるのか。期待と不安半々で見ていきたい。

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プリント表現の終末。

2021-05-19 06:43:35 | Weblog
 アパレルはブランド価値を上げるために、販促には一定の時間とコストをかける。媒体はPVから雑誌広告、駅貼りなどのポスター、電車の中吊り、ビルボード、カタログ、DM、ポストカード、Webサイト、メルマガまでと多様だ。

 また、多店舗化しているSPA、特に量販チェーン店は集客のためのフライヤー、いわゆるチラシを新聞などに折り込む。百貨店も定期催事や新規投入ブランド、季節商材、セールなどの告知にはチラシを活用している。消費者にデジタル媒体がかなり浸透したとは言え、中高年に訴求するには紙媒体の方が良いからとの認識だろう。

 そこで考えたいのが、デジタルと印刷における販促のポジションと優位性だ。ここからは専門的な話になるのだが、その点はご了承いただきたい。通常、デジタルで扱う画像は、ピクセル(pixel/画素数)という小さな正方形の光の点である画素の集まりで表現される。

 画像の細かい部分まで写す解像度は、1インチに並んだピクセル(単位はppi)で表される。1インチに100個のピクセルが並ぶと100ppi。1インチは約25.4mmなので、254ppiだと1pixel(1つの点)の大きさが、約0.1mmとなる。人間の目は0.1mm以下の点は認識が難しいので、254ppi以上の解像度があればグラデーション部分などもほぼ綺麗に見える。

 一方、印刷物では、大小の大きさを持つ点(ドット)で表現するので単位は「dpi」を使用する。ピクセルは色情報の階調(調子の良さ)を持ち、ドットは大小点の集まりで、ネットか、プリントかという媒体による表現の違いになる。ppi、dpiに共通するのはどちらもこの数値が高ければ、画像や写真が高画質になるということだ。

 しかし、解像度が高いとデータ量は多くなる。解像度が2倍になれば面積比では4倍、データ量も4倍だ。その分、画像処理スピードは遅くなって、PCでのデザイン制作に時間がかかり作業効率が悪くなる。ネットでデータを転送するにも時間を要する。また、サーバーの容量がいっぱいになると、増設による設備負担が嵩むのだ。

 そこで、Webサイトに使用する画像は72ppi、印刷に使用するのは300〜350dpiが一般的だ。ただ、問題は提供する情報内容によって、この解像度では限界があることである。


拡大して織りや編み地の詳細がわかる画像はほとんどない




 アパレルのWebサイトの場合、モデルが商品を着たイメージ、商品単体の写真なら72ppiの画像でもいいが、通販まで対応するとなると、利用者に織りや編み地の詳細まで伝えるには、アップに耐えうる鮮明な画像が必要になる。海外のサイトでは写真上に+−のルーぺをが出てきて、+をクリックすると、商品が拡大されて織りや編み地など細部までわかるものもあるが、新たなプログラミングが必要なためか、日本ではZOZOTOWNをはじめとしてほとんど見かけない。

 こうした機能を加える場合、元画像のサイズが小さく、解像度が72ppiのものをそのままアップにすると、ドットの少ないものを拡大することになるから、画質は粗くなって細部まではわからない。生地や編み地を接写した画像を使う方法もあるが、解像度が72ppiのままでは細部を認識するにはやはり限界がある。

 写真を拡大しても画像を鮮明に維持するには、撮影の段階でppi数を高めにした解像度の高い画像にしておかなければならない。そして、Webデザインの過程では写真情報の内容によって画像サイズや解像度を調整し、いろんな画像をリンクさせておくのだ。しかし、そうすると、前出のようにデータ量が多くなる。

 一方、印刷物は通常、300〜350dpiを使用するから、画像はネットより鮮明のはずだが、プリント手法(オフセットやグラビア)や紙質(上質紙やコート紙)にも左右されるので、必ずしもそうとは言い切れない。前出のようにデジタルデザインでは生地や糸の質感までリアルな3D画像になっているが、印刷物は媒体の種類によっても求められる写真情報は異なる。

 例えば、ポスターはモデルが衣服を着用する写真を用いるので、服の色やデザインがわかり、着こなしイメージが訴求できる表現で十分だ。カタログやパンフレットは、商品写真の他に生地の意匠、織りや編み、組織まで詳細を伝えることもあり、その場合は解像度の高い写真を使えばいいのだが、現物を見ればいいからそこまで行うところはあまりない。

 チラシは媒体が価格訴求のツールだから、商品カットや着こなしイメージ、そして価格がわかれば十分だ。商品によっては生地の質感、織りや編みの詳細が判断できると、購入の決め手になることもある。だが、そこまでに対応するチラシはなく、併用されるWebサイトで細部の画像が公開されている場合は、こちらで確かめるしかない。


デジタル画像の方が生地や糸の質感までわかる? 

 先週末、新聞に折り込まれたユニクロのチラシを見て、商品企画と写真による情報提供、そしてWebサイトとの連携について思うことがあった。チラシを構成する要素は、タイトル、売り文句のコピー、カテゴリー別の商品、割引価格、アイキャッチャー、店舗情報などだ。



 だが、ユニクロの商品はほとんどが無地のため、シルエットやデザインに多少の差こそあれ、チラシの写真を見ただけでは詳細がわからない。裏面のルームウエアやTシャツに唯一プリント物があるだけで、他はほとんど同じような生地、質感に見えてしまう。

 これはチラシ制作の巧拙ではなく、商品企画そのものに原因があると考える。人間の視覚は、オブジェクト(対象物)に特徴があればあるほど、注目がいく。商品企画の面でもう少しメリハリや変化をつけないと、写真の撮り方やコピー、レイアウトをいじくったところで、全体的にフラットに見えるチラシは変えようがないということだ。



 かつてユニクロのドキュメント番組で、柳井正社長がチラシ制作にまで口を出すシーンが放送された。スタッフからチェック・決済のために持ち込まれた色校で、地味な色の商品がレイアウトされていると、「何で明るめの商品にしないんだ」と、柳井社長がダメ出しをした。制作者からしても、この指摘は間違っていない。

 AIDMAやAISASの法則からすれば、人間がアパレルを見る時、まず注意をそそられるのは商品の「」だ。それが明るいもの、ヴィヴィッドなものならなおさら。次に関心を持つのは「デザイン」であり、「質感」になる。ユニクロの場合、Life Wearを標榜することから、アイテムの種類は違っても、同じ色調ばかりで、デザインも皆プレーンになっている。


 
 今展開されているカテゴリーは夏物衣料だ。そのため、アイテムはTシャツ、タンクトップ、キャミソールなどが主力で素材のメリハリがほとんどない。業界の人々の中には、それらが「まるで下着のよう」に見てとれる方もいるようだ。

 確かにデザインがプレーン、色調は同じ、織り・柄に変化がないのだから、そう感じる人がいても不思議ではない。それでも売れているのは、商品価値と価格の好バランスが多くの消費者に刷り込まれているからだ。

 連動するWebサイトでは詳細や生地感などを確認できるので、そうしたメディアミックスも販促に貢献していると考えられる。しかも、デジタル画像の高画質、高精細になっているし、PCのディスプレイが4Kに置き換わっているのだから、画質はチラシのような印刷物とは比べ物にならない。

 量販チェーンの販促ツールであるチラシは情報発信はもとより、販促効果、購買喚起のどれをとっても、いよいよ限界に来ているのではないかと思う。古紙としてリサイクルされる点は良いのだが、森林資源を枯渇させていく紙と石油由来のインクを使用する点では地球環境への負荷は避けられない。

 都市部の若年層では新聞を取らない家庭も増えている。地方や高齢者世帯では有効かもしれないが、世帯別で配布を調整できない新聞折り込みはレスポンス率にも影響する。デザインや色で特徴がない商品は写真でも詳細を判別しにくいので、印刷物の次元で販促効果を上げるのは難しい。量販チェーンのプリント表現はいよいよ終末に来たようだ。

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発想はみんな描ける。

2021-05-12 06:53:17 | Weblog
 日本経済新聞の朝刊最終面に掲載される「私の履歴書」。各界の功労者が自らの足跡を語るもので、アパレル業界からは森英恵氏や先ごろ亡くなった高田賢三氏、コシノジュンコ氏が登場されている。

 業界を陰で支える黒子では、島精機製作所の島正博会長が今年3月1日から30回に渡って連載された。紀州の発明王との異名を持ち、全自動無縫製手袋編み機の開発では、世界のニットアパレルに変革をもたらした。そんな島会長は最終回で以下のことを語られている。

 「数年来世界のアパレル産業への逆風が強まっている。シーズンごとに新デザインを大量生産し、売れ残りを大量廃棄するビジネス手法が利益に結びつかなくなり、さらに大量廃棄は資源のムダ遣いと批判されるようになった

 「大量生産・大量廃棄の行き詰まりはホールガーメント機を世に出した四半世紀前、私がアパレル産業の未来像を考えた際に浮かんだ『構造的な欠陥』と一致する。07年に大河内記念生産特賞を受賞した高度ニット生産方式はその欠陥を克服し、15年の国連サミットが採択した『SDGs(持続可能な開発目標)』は私の主張に限りなく近い。おこがましいのは承知の上だが「ようやく時代が追いついてきた」と感じている」(原文のまま)

 技術者、そして経営者として目の前に出現する課題をいかに解決するか。それが会社を前進させる上では重要になる。島会長は機械の開発・発明に身をささげ、画期的なマシーンを生み出しながら様々な経営課題を解決した。その意思を継ぐ次の人たちが上記の課題にどう取り組むのか。島精機製作所だけでなく、業界としても大きなテーマになる。

 それに直接関係することではないが、日経新聞の姉妹紙、日経MJでも私の履歴書のスピンオフ企画なのか、先日、島精機製作所の新しいサービスが取り上げられた。

服デザイン、パソコンで手軽に」「島精機、サブスクで提供

 記事によると、島精機製作所は一般のパソコンでも衣服のデザインができるシステムを開発し、3月からサブスクサービスを開始した。このシステムでは糸の質感までリアルな3D画像で忠実に再現でき、サイズや色、模様を簡単に変えることが可能になるという。



 サービスはパソコンにソフトをダウンロードするだけで利用できる。推奨されるスペックを守れば、ワークステーションと遜色ない操作性が得られるという。島精機製作所では、「色の再現性を高めるための高機能モニターがあれば、より既存商品に近づく」と、自信を示す。



 システムは、生地だけでデザインする最も安価なものからニット衣料のデザイン、布帛衣料のデザインまで機能別に5コースが設けられている。全て機能を利用できるコースでも年数十万円で済むというから、個人のデザイナーや中小零細のアパレルでも導入しやすい。

 同じか、これより優れたシステムは、米国のMITでも学生たちがデザインの授業で活用しているという記事を読んだ記憶がある。日本の大学や専門学校でも教材として採用していいのではないか。まあ、こうしたアプリケーションを使いこなせず、授業に応用できないおばさん講師陣には、潔くリタイアしていただくことになるだろうが。


Illustratorでは限界があった生地感が再現できる

 もっとも、ここまでのシステムがあると、アパレル現場は大きく変わる。デザイナーは実際に生地を加工するまでもなく、頭に描いた様々なアイデアをパソコン上でデザイン化できる。これまで単なるグラフィックの延長戦上にあった3D画像から、糸の質感まで詳細にわかるようになったのだから、サンプル製造しなくても出来上がりがイメージしやすい。

 利用者はデザインデータをニッターに送れば、メーカーが生産用のプログラムに変換して横編み機で衣服に作り上げてくれる。布帛の製造フローに応用されるも、時間の問題だろう。こうした衣服をコンピュータでデザインする発想は、島正博会長が1970年代から開発に取り組んでいたもので、その画像性能はトヨタやフォードもデザイン設計に使用したとか。

 一方、アパレルからの引き合いはそれほどなかったが、島三博社長が衣服のリアルな画像化を目指して開発担当のスタッフを3名から10数名に増員し開発に漕ぎ着けた。当初は再現が難しかった衣服特有の質感も、糸そのもの3D化しケバ感を表現することで可能にしている。

 商品企画から製品化までのリードタイムが短縮でき、市場投入時期から逆算してギリギリまでデザインを詰めることが可能だ。展示会で取引先の要望や修正、別注を受けた時にも素早く提案できる。MD、営業にとっても仕事を迅速かつ効率的に進められるわけだ。

 もちろん、デザイナーにとってイラストを描く能力は重要は条件だ。ただ、発想力が旺盛でアイデアを繰り出せる一方、イラストがあまり得意ではない方にとっては救世主になるかもしれない。まして、実際の服づくりでは、MDがよりリアルな形にしなければならないし、どうしてもサンプルを必要する。場合によっては、後者を省略できるメリットは大きい。





 筆者も過去にはPCで衣服のデザインをしたことがあるが、利用できるソフトはIllustratorくらいしかなかった。ペンツールで衣服のシルエットやアウトラインを決め、ロゴ、ラインやチェック、模様などを別にデザインして組み合わせるか、スキャニングしたテキスタイルデザインを加工・型抜きするくらいが限界だった。島精機のシステムは糸の質感まで正確に再現され、生地感がよりリアルにわかるとデザインに対する手応えも変わってくる。


技術革新がアパレルの経営課題を解決する

 数年前には自分でデザインしたニットのサンプルを作ろうと、知り合いのニッターにお願いした。しかし、糸の手配や編み地の問題からハードルが高く、諦めざるを得なかった。ただ、ここまでソフトが進化すると、現物のサンプルというよりデータサンプルでもいいかと思ってしまう。この先にオリジナルデザインのニット製造が広がっていけば、それも楽しみだ。

 アパレル企業は今、いろんな課題を抱えている。そうした課題に対しは、「企業経営の全体最適化」をすることで、解決への道筋が立てられると言われる。企業経営で共通する課題には、どんなものがあるか。一つは会社の方向性などの目的に関するもの。二つ目は業務の仕組みやルールなどの手段に関するものだ。

 まず、目的が何かを決めなければ、手段を決めることはできない。掃いて捨てるほど安価な商品が市場に溢れているのに、そうした商品作りを目的にしても既存の企業とは勝負にならない。じゃあ、どんな商品を作ればいいのか。それを示さなければ、企画から製造までの手段は決定できない。そして、そうした目的をきちんと理解し、それを達成するために手段を使う存在が社員という人になるのだ。

 言い換えれば、経営者が会社が向かう方向やビジョンを社員に示さなければ、社員は仕組みやルールを使いようがない。この3つをうまくリンクさせていくのが「企業経営の全体最適化」なのである。その点で、島精機製作所は常に「こんな技術があれば、もっと良い服が作れて、無駄が省ける」という目的を持ち、「技術革新を進めるためにこんな機械を開発しよう」を手段としてきたということだ。

 今回のシステム開発では、衣服のリアルな画像化という課題を解決するために、人材を惜しみなく投資している。この流れが同社にとっての全体最適化なのだ。もちろん、アパレルが抱える全ての課題が解決されるわけではないので、次なる手段も考えているはずである。

 布帛に関してはデッドストックや端切れを除けば、反作り、反つぶしからどうしても最低ロットが必要になる。しかし、ニットの場合は既存の毛糸を利用すれば、このシステムで小ロットのオリジナルを作ることも理屈上では可能だ。すでに百貨店などでは編み地限定のオーダーニットを受け付けているが、それをさらに進化させることになるだろう。

 島精機製作所のことだから、既存のシステムに甘んじることなく、オリジナルニットの簡易製造が可能な安価な編み機まで作ってくれるかもしれない。個人的にはローゲージやミドルゲージのコットン糸を使ったニットをデザインしたいと思っている。残る課題は、そうした糸が身近に手に入るかどうかだが。
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安さに釣られたツケ。

2021-05-05 06:51:24 | Weblog
 昨年の8月6日、ファッションビジネスコンサルタントの小島健輔氏がネット版の現代ビジネスで以下のような記事を配信された。(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/74552)

 アパレルの「売れ残り」、じつは「大量廃棄」されてなかった…その意外な真実!

 記事の骨子を拾うと、「ベーシックな商品は10%以上も持ち越すことが多く、紳士既製服では30%以上を持ち越すのが常態化している

 「持ち越しても何年も売れ残り、二次流通業者も引き取らないほど価値が落ちてしまえば、産業廃棄物として廃棄するしか無くなってしまう。こうなると廃棄の費用も負担しなければならないから、そこまで持ち越す「新古衣料」は極めて限られる。おそらく、売れ残り品の数%止まりだろう

 「持ち越して販売したり二次流通業者に放出したりしてとことん換金した挙句、どうにも行き場がなくなった商品が廃棄されるのだと認識してほしい」(以上、原文のまま)になる。

 要約すれば、日本のアパレルも売れ残った商品は次シーズンに持ち越し、米国のようなバーチカルな消化システムを利用してできる限り現金化し、それでも残ったものを仕方なく廃棄している。だから、「大量廃棄」されていると表現するのは語弊があると、考えられる。

 加えて、小島氏はマスメディアがほとんど報道してこなかった環境省の調査データにも触れている。それが以下だ。

 「環境省の調査によると我が国では毎年100万トンの衣類(下着や靴下も含む)が廃棄される一方、19年の輸出統計では26万トンの中古衣料(仕分けられて中古衣料として販売できないものはウエスや繊維原料になる)がマレーシアなどアジア諸国に輸出されたが、そのほとんどは消費者のタンス在庫から出たもので、「新古品」のアパレル製品は最大でも2万トン(6600万点)止まりだと推計される

 整理すると、国内で廃棄される衣類100万トン輸出中古衣料26万トン(タンス在庫)輸出新古品アパレル2万トン、となる。海外に輸出されて廃棄処分されるのは、国内廃棄の約4分の1。だから、「日本の廃棄衣料が大量に海外に持ち出され、受け入れ国に非常に負荷をかけているのは、けしからん」という批判も、的を射たとは言い難い。


廃棄削減は商品のレベルによってやり方を変える

 環境省は「日本で消費される衣服と環境負荷」に関して、昨年12月から今年3月までの期間で調査を行い、先日その結果を報告した。この際だから、調査期間の短さと小泉環境大臣へのツッコミは置いといて、内容を冷静に見てみよう。(https://www.env.go.jp/policy/sustainable_fashion/index.html)



 まず、「服を手放す手段の分布」では、古着や譲渡、地域などでの回収を除いた残りの68%が可燃・不燃ごみとして廃棄されている。また、可燃・不燃ごみに出される衣類の総量は58万トン、そのうちの95%48.4万トンが焼却・埋め立てされている。再資源化されるのはわずか5%2.4万トンに過ぎない。



 一方、企業など事業者から手放された衣類は3.6万トン。廃棄が1.4万トンで廃棄量全体の2.7%ということになる。リユースは0.4万トン、リサイクルは1.9万トン。手放されたもののうち半分以上がリサイクルされている。小島氏が書かれているように企業から出る廃棄衣料が意外に少ないことが、今回の調査で裏付けられた。

 逆に一般家庭の「タンス在庫」から出た廃棄衣料がいちばんの元凶だ。それをどう減らしていくかである。ただ、ひと口に家庭から出される廃棄衣料と言っても、高価格帯のラグジュアリーブランドから、百貨店やセレクトショップが販売した中価格帯のアイテム、郊外SCや量販チェーン系の低価格品までと色々。それぞれで処理は異なってくる。



 まず、高級ブランドは絶対量が少ない(最近はサブスクのレンタルも登場)。原価コストをかけているため、流行を無視すれば10年以上着られる。平均着用期間を7年としても、中古ブランドとして再販=リユースされるはずで、廃棄処分されるケースは極めて少ないだろう。



 中価格帯のアイテムは平均着用期間を5年としても、十分にリユースは可能だ。だが、ユーズドショップやアプリを利用した二次流通がこれ以上の増えるとは考えにくい。だから、環境省も提唱している「1着をできるだけ長く着る」こと。現在より1年長く着ることで、日本全体として4万トン以上の廃棄を減らせるのだから、実践すべきだと考える。



 長く着るための手法としては、リメイクやリペアがある。これには技術が必要だから、洋裁のプロが積極的にやり方をYou-tubeなどで教示すべきだし、コンテストを設けてプロからアマチュアまでの参加を呼びかけ、「直し」が市民権を得る土壌を作ることだ。環境省は専門事業者を認定し、消費者が利用すれば「エコポイント」を与えるという方法もある。



 低価格品は流通量が非常に多く、いちばんタンス在庫になっていると考えられる。ローコストで製造し、1シーズンで着古す次元だから、二次流通に不向きで廃棄されるケースが圧倒的に多いはずだ。これらを減らす工夫としては、市場を上回る製造と無駄な購入の抑制、廃棄抑止、リサイクル推進の全方を視野に入れたポイント制を導入してはどうかと考える。


リサイクル可能の度合いで、+−のポイントを付与しては

 エコポイントは専門事業者のサービス内容によって修理程度では代金の5%、異素材などを用いた作り直しでは同10%とする。製造・購入の抑制、廃棄抑止・リサイクル推進については、買取できないがリサイクル可能なら業者や自治体がポイントで渡す。その原資は環境省が全額補助すればいい。かつてあった経済対策ではなく、環境負荷を減らす真のエコポイントだ。

 製造・購入の抑制、廃棄抑止・リサイクル推進のポイントは、素材や混紡率によって+5から−5まで数段階を規定する。例えば、綿100%のTシャツならウエスに再利用できるので+5ポイント。逆にリサイクルに手間がかかり、海洋プラスチックの問題もある合繊のみの数種混紡は−5ポイント。1ポイント1円で計算し、+ポイントは消費者からリサイクル業者に渡される時点で付与し、−ポイントは商品購入の時に別途現金で徴収する。環境税という形だ。

 ファッションだから、気に入ったアイテムを買いたい消費者心理は理解できる。その意味でも購入者に対し、それらが再資源化しやすい素材ならリサイクルの時点で+ポイントを与え、それが困難で廃棄により環境負荷になるものは−ポイントで徴税を意識づける。もちろん、−ポイントが貯まっても+ポイントの商品をリサイクルに出せば、相殺できるようにする。

 ポイントは環境省が専用のアプリを開発してスマートフォンで一元管理し、貯まった分は食品で利用を可能にする。アパレル側は−ポイントの商品は売れづらくなると見るかもしれないが、廃棄を減らすにはリサイクルに手間がかからない綿やウール主体の商品を増やし、消費者が無駄に購入するのを抑えていくことが必要だろう。ポイントが貯まるなら、消費者も分別やリサイクルを考えていくはずである。

 単に「廃棄を減らそう」と呼びかけても、どこまで実効性があるのか。環境省が音頭を取って、前出のリメイクやリペアの専門事業者、ブランドのリサイクルショップ、自治体と連携して、エコポイントの付与を進めながら衣料品の廃棄削減に繋げていく。+ポイントが貯まれば、それだけエコ、リサイクルに貢献している証明にもなる。どうだろうか。

 筆者はエコやSDGsを叫ぶアパレル事業者を信用できないと、声高に叫ぶつもりはない。だが、素資材については天然で、リサイクルしやすいものに回帰することは重要だと考える。そうすると、コストが上がり価格に跳ね返るが、分別しやすくリサイクルに回せるという見方もできる。タンス在庫のまま廃棄を待つよりは有益だろう。

 やはり、効率優先で低価格品を製造しすぎる余り、安さに釣られた消費者が商品を購入した結果、廃棄が増えている感は否めない。ここに来て、そのツケはとてつもなく大きくなっている。一方で、消費者は生活防衛に追われるのだから、商品を少しでも安く購入し、そうした賢い買い物術ばかりをSNSなどで自慢している諸兄が多い。

 ただ、そういった方々も身体は一つしかないわけで、タンス在庫はいったいどうされているのだろうか。そちらもしっかり発信しないとフェアではない。フリマにもリサイクルショップにも見向きもされない商品をこっそり廃棄しているようでは、それこそ安さに釣られたツケを踏み倒すようで、失笑ものである。
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