福岡市の再開発事業、天神ビッグバンは、古くなったビルを建て替えて高層化し、支店経済からの脱却を図るもの。新しいビルにはオフィスやホテルがメーンで入居し、解体された都市型SCは商業ゾーンに入るか、建て替えでリボーンするかだ。ビルに入居する事業所が増え昼間人口が増加すると、SCにとっても売上アップが期待できる。だが、アパレル消費については消費者の変化もあり、キラーコンテンツとなるブランドや画期的な販売スタイルを取る業態でない限り、これ以上は必要とはされないと思う。
天神はビッグバン以前にオーバーストアの状態だった。4つの都市型SCが営業を停止したことで、残る各店が残存者利益を得ているなら、できれば営業再開してほしくないだろう。もちろん、競争原理が働くから、思い通りにはいかない。その点、福岡より格段に市場規模が大きな東京はどうか。昨年、米国の投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループに買収された百貨店のそごう・西武の今後が気になるところだ。
ファンドと手を組むヨドバシホールディングス(HD)傘下のヨドバシカメラが再建策の一環として西武百貨店池袋店の低層階に出店する計画が浮上している。これについて、西武ホールディングス(HD)の後藤高志社長が11月29日の日本経済新聞のインタビューで、「百貨店の文化的側面を大切にしたい」と、反対の姿勢を示した。また、池袋店が立地する豊島区の高野之夫区長も「築き上げてきた文化の街の土壌が喪失する」との嘆願書を後藤社長に提出するなど、利害関係者の間で一気に騒がしくなっている。
ネットの意見は賛否あるものの、後藤西武HD社長がヨドバシカメラの出店に反対する理由として、百貨店の文化的側面を出すことに疑問を投げかける声は少なくない。また、自治体の首長が民間同士の行為に干渉できるのか、区の将来を考えればこそ、(ヨドバシカメラが)低層階に進出するのがなぜわからないなど、手厳しいものもある。
西武池袋店は百貨店では全国第3位の売上げ(2022年2月期売上高1540億円)を誇る。まだまだお客さんに必要とされていることを考えれば、西武HDが一地権者として百貨店のまま残したいのはわからないでもない。また、後藤社長自ら「文化」を持ち出したのは、西武百貨店の創業者、堤清二氏の文化への造詣の深さ、同セゾングループが成長のキーワードにしたことも関連するだろう。後藤社長は文化という言葉を出すことで、堤氏の「遺訓」であるかように装い、顧客層を味方につけたい思惑がチラつく。
だが、実際に西武百貨店、往年のセゾングループの価値を認知している層は今や60代以上。この中には富裕層も多いが、高級ブランドが購入できるのは西武池袋店だけと限らない。逆にそれより下のネット世代は、百貨店の暖簾より出店するブランドや売場に並ぶアイテムに関心があるかないかで、実需として購入しているのは極めて少数ではないか。そうした層に対し、文化を持ち出したところで百貨店のまま残す理由と受け取られるはずもなく、まして肯定されることはないだろう。本当に必要なら西武HDが「ファンドから池袋店のみを買い戻せばいい」との意見の方が一理ある。さて、落とし所はどうなるのか、状況を見ていくしかない。
東京における百貨店再建ですらこうなのだから、地方百貨店の再生や跡地再開発は容易ではない。先日、2020年3月に閉店した「新潟三越」の跡地について、「複合型商業ビル」の建設が検討されていると報道された。地方都市の再開発事業で実績を持つ「東京建物」と、地元新潟のゼネコンが土地と建物を取得。30階以上の高層ビルを建設し、商業施設やオフィスなどを入れ、さらに分譲マンションなどを合体させる計画という。筆者が予測した通り、東京建物が乗り出してきたようだ。
この報道を耳にした時、そごう・西武の地方店を含め、地方百貨店跡地の再開発としてはこれがベターではないかと感じた。そもそも百貨店が衰退したのは、それまで支えてきた中間層が没落し、メーン商材のアパレルが売れなくなったからと言われる。その背景はここでは置いておくとして、百貨店側はお客を奪われた郊外SCやロードサイト店への対抗策として、ブランド化粧品やデパ地下商材を強化している。
地方百貨店の再生に必要なコンテンツとは
ただ、こうした政策を地方百貨店跡地の再開発に持ってきても、購買層や商圏から難しい。新潟三越跡地での複合型商業ビルでは仮に百貨店(三越か)を復活させるにしても、一部の洋品や雑貨(ギフト対応も)、固定客対応(ウェブルーミング型試着サロン)や外商拠点のサテライト店で十分だろう。地元メディアの報道によると、ビルは地上37階建てで商業フロア3層、業務フロア3層、高齢者向け住宅3層、10階から37階が分譲マンションになる予定という。
おそらく百貨店が出店しても1層、残り2層(百貨店が出店しない場合は3層)が商業フロアになると思われる。集客が厳しくなった中心市街地でも、オフィスやマンションに人が集まれば、そこに仕事や暮らしが生まれ、消費が活性化される。計画はこれを意図したものだ。地方百貨店の再建が容易ではない中、これがギリギリの妥協点ではないか。もっとも、焦点は何を消費の軸にするかである。
話が逸れるが、福岡では天神ビッグバンによる再開発工事で、「ランチ難民」が続出している。西日本鉄道本社の福ビルが解体され、天神コアや天神イムズなど4つの都市型SCが営業停止し、書店や専門学校などが入居していたMMTビル一帯も再開発工事を待つばかりだ。おそらくこれらのビルインで、数万人規模の胃袋を賄っていた飲食店が同時に閉店したのだから、難民が出るのも当たり前である。
アパレルや雑貨のような買い周り品なら、残るSCや百貨店が受け皿になれるし、オンラインショッピングで代替できる。しかし、食はそう簡単ではない。特にランチは昼休みという限られた時間の中でとらなければならず、さっと食べられて仕事に戻れるエリアとすれば、半径500m圏内か。コンビニが代わりになると言っても、店舗数が限られて多くが行列するから、食べる時間が削られてしまう。移動販売は駐車スペースが少なく、オフィスへの直販では種類、個数が限られる。
ビル工事でオフィスが引っ越し、ビジネス客が減って売り上げが下がった飲食店もあるという。黙っていても、天神はビジネスや教育、ショッピングなどで昼間は150万人以上の人流があるにも関わら、再開発という事業のために易々とそのマーケットを喪失することになった。裏返せば、「食」は確実にニーズがあると言うことだ。
地方百貨店の跡地再開発でも、人流が増えることで最大となる消費は食ではないか。だから、誘致すべきテナントも飲食店(カフェ含む)だけでなく、HMR(ホームミールリプレイスメント)、いわゆる惣菜を販売する中食業態、産直の食材を揃えた道の駅的マルシェは必須。ビジネス関係者がオフィスで食事をとれたり、夕食の材料を購入できたり、マンションの住民が買い忘れた食材や急に必要になった食品を買える。そうしたニーズを掘り起こせば、活性化の起爆剤になる可能性は十分ある。
次が「住」だ。とりあえずデスクワークに必要なアイテム、そして家庭生活の必需品が購入できればいい。100円ショップより品揃えに奥行きのあるミニホームセンター(HC)が理想的か。スタンダードプロダクツが多店舗化し、ハンズがハンズビーに代わる業態を開発すれば、台風の目になる。家電も消耗品としてのニーズはあるが、HCが電球や電池、PC関連商材は扱えば十分だ。あとはドラッグストアやフィットネスジムだろうか。
最後が「衣」になるが、アパレルは買い周り商品でネット通販も浸透している。地方百貨店跡地の再開発ビルでは、ファッション衣料はそれほど求められないと思う。むしろ実用衣料の下着、デイリーに欠かせない靴下の方が不可欠だ。レディスはアモスタイルやチュチュアンナなどの専門業態があるが、メンズはマニア向けを除いて見当たらない。ビジネス関係者の男性が周囲の目を気にせず、値ごろな下着を購入できる業態があってもいい。個人的には無印商品が下着や靴下の特化した店舗を出してくれればありがたいが。
地方百貨店跡地の再開発事業では優先順位として食、住、衣で強化していく。それがペイできる条件ではないかと思う。もちろん、新潟三越跡地の複合型商業ビルは37階もあるので、マンション区分350戸はタワーマンションと同等だ。東京では都心へのアクセスを優先するため、タワーマンションの供給が続いている。しかし、購入者からは住居数が多いことによる「維持管理コスト」や「修繕積立金」が高額だと、後悔の声も聞かれる。
また、景観などの問題から屋外に洗濯物が干せない。生活習慣上、天日干しに慣れ乾燥機使用や部屋干しに抵抗がある人は、タワーマンションには向かないのだ。福岡・下川端商店街の再開発では、ラグジュアリーブランドを集積したスーパーブランドシティとホテルオークラ福岡を核に、商店街の住民がそのまま居住できる複合施設「博多リバレイン」が建設された。この時も高級ホテルから住民が干した洗濯物が見えるのはどうかという問題点が持ち上がった。
一口に複合型商業ビルと言っても、テナントや住民の皆にとってベストな条件などあり得ない。あちらを立てれば、こちらが立たず。利害関係者のすべてがが納得したり喜ぶようにするのは難しい。そうした中で、いかに落とし所を見出すか。それが東京建物などデベロッパーの命題でもある。
もちろん、再開発ビルに商業施設、オフィスやマンションが出来ようと、あくまで人流を増やすことが前提になる。これはそごう・西武の地方店をはじめ、再生が必要な他の百貨店やSCにも言えることである。
天神はビッグバン以前にオーバーストアの状態だった。4つの都市型SCが営業を停止したことで、残る各店が残存者利益を得ているなら、できれば営業再開してほしくないだろう。もちろん、競争原理が働くから、思い通りにはいかない。その点、福岡より格段に市場規模が大きな東京はどうか。昨年、米国の投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループに買収された百貨店のそごう・西武の今後が気になるところだ。
ファンドと手を組むヨドバシホールディングス(HD)傘下のヨドバシカメラが再建策の一環として西武百貨店池袋店の低層階に出店する計画が浮上している。これについて、西武ホールディングス(HD)の後藤高志社長が11月29日の日本経済新聞のインタビューで、「百貨店の文化的側面を大切にしたい」と、反対の姿勢を示した。また、池袋店が立地する豊島区の高野之夫区長も「築き上げてきた文化の街の土壌が喪失する」との嘆願書を後藤社長に提出するなど、利害関係者の間で一気に騒がしくなっている。
ネットの意見は賛否あるものの、後藤西武HD社長がヨドバシカメラの出店に反対する理由として、百貨店の文化的側面を出すことに疑問を投げかける声は少なくない。また、自治体の首長が民間同士の行為に干渉できるのか、区の将来を考えればこそ、(ヨドバシカメラが)低層階に進出するのがなぜわからないなど、手厳しいものもある。
西武池袋店は百貨店では全国第3位の売上げ(2022年2月期売上高1540億円)を誇る。まだまだお客さんに必要とされていることを考えれば、西武HDが一地権者として百貨店のまま残したいのはわからないでもない。また、後藤社長自ら「文化」を持ち出したのは、西武百貨店の創業者、堤清二氏の文化への造詣の深さ、同セゾングループが成長のキーワードにしたことも関連するだろう。後藤社長は文化という言葉を出すことで、堤氏の「遺訓」であるかように装い、顧客層を味方につけたい思惑がチラつく。
だが、実際に西武百貨店、往年のセゾングループの価値を認知している層は今や60代以上。この中には富裕層も多いが、高級ブランドが購入できるのは西武池袋店だけと限らない。逆にそれより下のネット世代は、百貨店の暖簾より出店するブランドや売場に並ぶアイテムに関心があるかないかで、実需として購入しているのは極めて少数ではないか。そうした層に対し、文化を持ち出したところで百貨店のまま残す理由と受け取られるはずもなく、まして肯定されることはないだろう。本当に必要なら西武HDが「ファンドから池袋店のみを買い戻せばいい」との意見の方が一理ある。さて、落とし所はどうなるのか、状況を見ていくしかない。
東京における百貨店再建ですらこうなのだから、地方百貨店の再生や跡地再開発は容易ではない。先日、2020年3月に閉店した「新潟三越」の跡地について、「複合型商業ビル」の建設が検討されていると報道された。地方都市の再開発事業で実績を持つ「東京建物」と、地元新潟のゼネコンが土地と建物を取得。30階以上の高層ビルを建設し、商業施設やオフィスなどを入れ、さらに分譲マンションなどを合体させる計画という。筆者が予測した通り、東京建物が乗り出してきたようだ。
この報道を耳にした時、そごう・西武の地方店を含め、地方百貨店跡地の再開発としてはこれがベターではないかと感じた。そもそも百貨店が衰退したのは、それまで支えてきた中間層が没落し、メーン商材のアパレルが売れなくなったからと言われる。その背景はここでは置いておくとして、百貨店側はお客を奪われた郊外SCやロードサイト店への対抗策として、ブランド化粧品やデパ地下商材を強化している。
地方百貨店の再生に必要なコンテンツとは
ただ、こうした政策を地方百貨店跡地の再開発に持ってきても、購買層や商圏から難しい。新潟三越跡地での複合型商業ビルでは仮に百貨店(三越か)を復活させるにしても、一部の洋品や雑貨(ギフト対応も)、固定客対応(ウェブルーミング型試着サロン)や外商拠点のサテライト店で十分だろう。地元メディアの報道によると、ビルは地上37階建てで商業フロア3層、業務フロア3層、高齢者向け住宅3層、10階から37階が分譲マンションになる予定という。
おそらく百貨店が出店しても1層、残り2層(百貨店が出店しない場合は3層)が商業フロアになると思われる。集客が厳しくなった中心市街地でも、オフィスやマンションに人が集まれば、そこに仕事や暮らしが生まれ、消費が活性化される。計画はこれを意図したものだ。地方百貨店の再建が容易ではない中、これがギリギリの妥協点ではないか。もっとも、焦点は何を消費の軸にするかである。
話が逸れるが、福岡では天神ビッグバンによる再開発工事で、「ランチ難民」が続出している。西日本鉄道本社の福ビルが解体され、天神コアや天神イムズなど4つの都市型SCが営業停止し、書店や専門学校などが入居していたMMTビル一帯も再開発工事を待つばかりだ。おそらくこれらのビルインで、数万人規模の胃袋を賄っていた飲食店が同時に閉店したのだから、難民が出るのも当たり前である。
アパレルや雑貨のような買い周り品なら、残るSCや百貨店が受け皿になれるし、オンラインショッピングで代替できる。しかし、食はそう簡単ではない。特にランチは昼休みという限られた時間の中でとらなければならず、さっと食べられて仕事に戻れるエリアとすれば、半径500m圏内か。コンビニが代わりになると言っても、店舗数が限られて多くが行列するから、食べる時間が削られてしまう。移動販売は駐車スペースが少なく、オフィスへの直販では種類、個数が限られる。
ビル工事でオフィスが引っ越し、ビジネス客が減って売り上げが下がった飲食店もあるという。黙っていても、天神はビジネスや教育、ショッピングなどで昼間は150万人以上の人流があるにも関わら、再開発という事業のために易々とそのマーケットを喪失することになった。裏返せば、「食」は確実にニーズがあると言うことだ。
地方百貨店の跡地再開発でも、人流が増えることで最大となる消費は食ではないか。だから、誘致すべきテナントも飲食店(カフェ含む)だけでなく、HMR(ホームミールリプレイスメント)、いわゆる惣菜を販売する中食業態、産直の食材を揃えた道の駅的マルシェは必須。ビジネス関係者がオフィスで食事をとれたり、夕食の材料を購入できたり、マンションの住民が買い忘れた食材や急に必要になった食品を買える。そうしたニーズを掘り起こせば、活性化の起爆剤になる可能性は十分ある。
次が「住」だ。とりあえずデスクワークに必要なアイテム、そして家庭生活の必需品が購入できればいい。100円ショップより品揃えに奥行きのあるミニホームセンター(HC)が理想的か。スタンダードプロダクツが多店舗化し、ハンズがハンズビーに代わる業態を開発すれば、台風の目になる。家電も消耗品としてのニーズはあるが、HCが電球や電池、PC関連商材は扱えば十分だ。あとはドラッグストアやフィットネスジムだろうか。
最後が「衣」になるが、アパレルは買い周り商品でネット通販も浸透している。地方百貨店跡地の再開発ビルでは、ファッション衣料はそれほど求められないと思う。むしろ実用衣料の下着、デイリーに欠かせない靴下の方が不可欠だ。レディスはアモスタイルやチュチュアンナなどの専門業態があるが、メンズはマニア向けを除いて見当たらない。ビジネス関係者の男性が周囲の目を気にせず、値ごろな下着を購入できる業態があってもいい。個人的には無印商品が下着や靴下の特化した店舗を出してくれればありがたいが。
地方百貨店跡地の再開発事業では優先順位として食、住、衣で強化していく。それがペイできる条件ではないかと思う。もちろん、新潟三越跡地の複合型商業ビルは37階もあるので、マンション区分350戸はタワーマンションと同等だ。東京では都心へのアクセスを優先するため、タワーマンションの供給が続いている。しかし、購入者からは住居数が多いことによる「維持管理コスト」や「修繕積立金」が高額だと、後悔の声も聞かれる。
また、景観などの問題から屋外に洗濯物が干せない。生活習慣上、天日干しに慣れ乾燥機使用や部屋干しに抵抗がある人は、タワーマンションには向かないのだ。福岡・下川端商店街の再開発では、ラグジュアリーブランドを集積したスーパーブランドシティとホテルオークラ福岡を核に、商店街の住民がそのまま居住できる複合施設「博多リバレイン」が建設された。この時も高級ホテルから住民が干した洗濯物が見えるのはどうかという問題点が持ち上がった。
一口に複合型商業ビルと言っても、テナントや住民の皆にとってベストな条件などあり得ない。あちらを立てれば、こちらが立たず。利害関係者のすべてがが納得したり喜ぶようにするのは難しい。そうした中で、いかに落とし所を見出すか。それが東京建物などデベロッパーの命題でもある。
もちろん、再開発ビルに商業施設、オフィスやマンションが出来ようと、あくまで人流を増やすことが前提になる。これはそごう・西武の地方店をはじめ、再生が必要な他の百貨店やSCにも言えることである。