HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

原価率50%は金言?

2017-07-26 06:09:04 | Weblog
 昨年の5月だったか、ユナイテッドアローズが2期連続の営業・経常減益を受けて、新しい施策を発表した。株主向けのリップサービス的側面があったのか、それとも業界やメディアの注目を集めるために多少仰々しく言ったのか。だが、一文だけ見ると、関係者ならみな?と首を傾げるようなものだった。それが以下である。

 「収益性の向上に改めて取り組む。商品力強化に加え、原価率引き下げを引き続き徹底する」

 「収益性の向上に改めて取り組む」というのは、2期連続で減益だったのだから、経営者としては当然の判断である。問題はその次の「商品力強化に加え、原価率引き下げを引き続き徹底する」だ。この一文は、単純に見ても多くの業界人が引っかかったというか、矛盾を感じたのではないかと思う。

 アパレルに限らず一般の製造業でも、原価率を下げるということは、原材料や仕様、製造方法などのグレードやレベルを下げることになる。アパレルでは使う生地を1000円/mのから700円/mにするとか。仕様をフラップポケットから、貼りポケットに替えるとか。工賃を下げるために工場を中国からバングラデシュに切り替えるとかである。

 結果として、商品のレベルと言うか、グレードが下がるのは業界関係者はもちろん、一般の方々でも想像がつくと思う。ファストファッションは徹底して原価率を引き下げることで低価格を実現しているが、途上国の工場が疲弊しているとの話はもはや多くが知るところ。映画のテーマにもなるくらいだから、周知の事実だろう。

 日本国内でもTシャツを縫製するある工場に1枚単価200円で発注の願い出たセレクトショップがあったという話を聞く。200円と言えば、量販店と同じ額。それをロットがそれほど多くないセレクトショップが行うのだから、工場はたまったもんじゃない。ユナイテッドアローズがどれほどの価格で素資材を調達し、縫製工場に発注しているかはわからないが、このセレクトショップに近いことをやろうというのである。

 一方で、商品力を強化するというのは、現実に可能だろうかと、この時は率直に思った。原価率を下げれば、使用する素材も縫製もコストダウンすることになり、実績をもつ有能なスタッフも起用せずに企画デザインに時間をかけたり、スタッフが工場まで出向いてインダストリアル・スペックを詰める手間も、省かざるを得なくなる。だから、商品の品質や企画デザインの面で「クオリティを上げる」という意味の商品力強化は絶対に無理なのだ。

 ユナイテッドアローズは業態にもよるが、自社企画のオリジナルが最高で6割程度に上っている。商品力強化が収益を稼ぐ「売れ筋商品」にさらに磨きをかけるという意味なら、わからないでもない。ただ、円安傾向で原材料や縫製工賃は上昇基調なので、売れ筋商品といえどブラッシュアップするにはカネをかけないと、目に見えた変化や差別化は図れないのではというのが、ニュースリリースが発信されたときの筆者の見解だった。

 アパレルに携わる多くの関係者は、「商品力を強化しながら、原価率を下げる」ことができるなら、業界はここまで悲惨な現状にはなっていないとの思いだろう。実際、ユナイテッドアローズがメディア向けに発表した「矛盾する施策」に手を付けたのか。現に踏み切ったとすれば1年以上たった今、商品はどう変わったのか。逐一、売場をチェックしているわけではないが、見た目には商品がそれほど変わったようには見えないから、何とも言えないという印象である。

 他方、ユナイテッドアローズの?とは、対極にあるわかりやすい施策を施すのが、セレクトショップのステュディオスを展開するトウキョウベースだ。この秋には派生業態の「ステュディオス・シティ」からオリジナルSPAの「シティ」 に転換し、30〜40代の大人の女性向けに高級・上質素材で勝負するウエアを展開するという。
https://senken.co.jp/posts/tokyobase-city-spa

 その目玉と言うべき施策が既存ブランドのユナイテッドトウキョウで行っている「原価率50%の商品づくり」をシティでも踏襲するもので、

 「特に素材を重視し、 使用する素材は小売価格の20%を基準にする。海外ラグジュアリーブランドと同水準の生地を使う」

ということである。ユナイテッドトウキョウは、「ALL MADE IN JAPAN」をコンセプトに躍進している新興ブランド。業界ではメイドインジャパンは、セールスポイントにも業界救済にもならないという意見がある。一方で、百貨店の売場まで海外生産が当たり前になった今、レディス市場ではチープなSPAが幅を利かせることに、「買いたい服がない」と、大人の洋服好きが不満を募らせているのも事実である。
 
 特にリーマンショック以降、SPAは「値ごろ感のある良い商品を提供する」という本来の立ち位置から逸れ、販売ロスと製造コストの上昇を吸収するために、原価率を下げることで乗り切ろうとしてきた。だいぶ前のデータ(販売革新2011年8月号/岐路に立つSPAより抜粋 http://www.fcn.co.jp/02/hankaku1108.html)だが、商品の調達コストの平均値は自社企画・生産手配で2008年が原価率32%であるのに対し、11年には同29.5%と2.5ポイントも低下した。生産を外部に丸投げするOEMでは、同36%から31.5%と、4.5ポイントも低下している。

 結果的に生産は国内から海外に移転し、生地や縫製の劣化、商品の品質低下をエスカレートさせていった。しかし、原価率の圧縮はそれで収まらなかった。今日では大手アパレルの関係者に「百貨店アパレルの平均原価率は20%ぐらい。 一昔前は上代の15%が生地代だった。今はだいたい5%程度に下がっている。だから、おもちゃのような品質の商品になってしまう」と、言わせるまでに堕ちてしまったのである。

 百貨店向けアパレルはファストファッションやグローバルSPAとの競争に巻き込まれ、自社の立ち位置を忘れて原価率の圧縮に走った結果、郊外SCやファッションビルの商品との価格、価値でも勝てなくなった。顧客離れは当然のことで、大量のブランド廃止、大量の店舗閉鎖、希望退職者の募集を余儀なくされている。

 それがビジネス紙誌に「誰がアパレルを殺すのか」という辛辣な企画タイトルを付けられるまでになったのだ。トウキョウベースはメディアがアパレル不振を憂う以前から、現場レベルでの商品の劣化を感じていたのだと思う。だから、冷静に「原価率を上げないと、売れる商品も生み出せない」と決断したのではないか。その入り口がまずはユナイテッドトウキョウのALL MADE IN JAPANだったかと思われる。

 その狙いがアパレルとして正しい否かは別にして、後発企業としてブランドバリュを上げることができたのは間違いない。また、トウキョウベースはユナイテッドトウキョウの原価率50%の商品作りに手応えを得たことで、今回のシティように生地感や品質に目利きのアダルト攻略にフォーカスしたとも言える。

 問題は数字のマジックである。原価率はあくまで上代、いわゆる売価(販売価格)で決まる。売価が1万円程度で原価率が30%と、同5980円で同50%なら、数字上では商品のグレードはほぼ同じだから、価格が安い後者の方が支持されるという理屈になる。ただ、売価には利益の他にマークダウンやセールにおけるロスも含めなければならない。原価率が高い場合、このロス分も考慮してプロパーでの消化率を上げないと、値下げをした時に収益は下がってしまう。だから、一概に単純比較はしづらい。

 また、原価を構成する生地代や縫製工賃は、発注するロットによっても変わってくる。ユナイテッドトウキョウのように店舗数が10店程度では生産量がそれほど多くないから、商品調達のコストは高いはずだ。 当然、 原価率に跳ね返るわけだ。それをストレートに原価率として公表するのはお客を裏切らないスタンスとして評価できるが、利益を確保するために売価を上げると、売れにくくなるのもビジネスの現実である。

 シティはオリジナルSPAで原価率50%を維持し、なおかつ価格も上げるというから、出店を拡大して総ロットを増やすことで、売上げとともに利益も上げていく狙いだと思われる。実に強気な戦略とも言えるが、そうさせるのも大手アパレルがみな原価率の圧縮に走ったことで、価格と価値のバランスを欠いた商品ばかりが出回っているからだろう。

 少なくとも一般の経済紙誌でも、「生地代が5%ではおもちゃのような商品しか作れない」というラジカルな見出しが踊っているのだから、お客もメディアの言説を売場の商品と照らし合わせて、何となく商品が劣化した理由を理解したのではないだろうか。トウキョウベースはそれを逆手にとった戦略を組立てようとしているとも考えられる。

 だからこそ、 シティが打ち出す「原価率50%」「使用素材は小売価格の20%基準」「海外ラグジュアリーブランドと同水準の生地」は、専門店系アパレルではかつて普遍妥当だった真理を巧みに言い当てる「金言」になるかもしれない。おそらく、生地の劣化で商品を買わなくなり、海外サイトで欲しい商品を探している大人の女性客を売場に呼び戻せるきっかけになるのは、間違いないと思う。

 洋服好きの女性とて、日常に着るデイリーウエアやカジュアルは、グローバルSPAで十分だと考える人々が大半だ。しかし、街着、特に仕事の場でも自己主張できる上質な服は今のマーケットにそれほど出回っていない。特にシティが企画する「旬のモードトレンドを盛り込んだ大人服」では、東コレ系では古田泰子氏のトーガがあるが、サカイは尖り過ぎているし、エンフォルドは格が下がり、コレというものがなかなか見当たらない。SPAで全国展開されるのはお客にとって購入機会、場所が広がってありがたい。

 百貨店はコマ不足でジリ貧状態になっているのだが、シティが空白マーケットでどんな存在感を見せてくれるのか。この秋は昨年以上にレディスのキャリア&アダルトを注目してみていきたい。併せて昨年同様、WWDがADペーパーで、どう切り込むかにも興味があるところだが。

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広告塔終焉の意味。

2017-07-19 05:34:21 | Weblog
 先日、ファッション業界に驚きのニュースが駆け巡った。パリのセレクトショップ「コレット」が12月20日をもって閉店すると、発表したのである。

 コレットと言えば、セレクトショップが脚光を浴びるようになった90年代後半、火付け役となった店舗だ。知り合いのバイヤーさんが口々に「コレット」の名前を出していたので、そんなに素晴らしいのかと思っていた。

 実際、2002年に訪れてみると、世界の有名ブランドをセレクティングして編集し、コーディネート提案するセレクトの王道との印象を受けた。それまでパリの高級店と言えば、エレガンス&クラシカルな品揃えが少なくなかったが、ここは著名なラグジュアリーブランドに加えて気鋭のクリエーター系も抵抗無く取り入れ、見事に編集したところが若手バイヤーが惹かれた理由だと思った。

 ディスプレイでお客を魅了する手法にも長けていた。立地はパリ1区、ヴァンドーム広場の南を貫くRue Saint HonoréとRue du 29 Juilletが交差する南東の一角。世界をリードするにふさわしいウィンドウで、買い物客はもとよりVMDの担当者まで魅了するのではないかと感じた。それだけメディアが取り上げるのも納得がいく。

 MDは日本では直営店でしかお目にかかれないシャネルやグッチ、クリスチャン・ディオールを筆頭に、ヘルムート・ラングやジル・サンダー、ヴェロニク・ブランキーノ、マーク・ジェイコブス、ジミー・チューなどをミックス。それらを外し崩しのテクニックでコーディネートするという、単なるバイイング力だけでなく、ディレクションの上手さを見せつける。

 お客はアウターからインナー、そして靴まで購入すれば、自分であれこれ考えて組み合わせる必要もない。ブランドオンリーショップでは体感できない提案力がお金はあるが、センスがないと揶揄されるセレブの御用達となり、一気に業界の話題をさらっていったのだと思う。

 ファッションだけでなく、地下のカフェはウォーターバーとして硬軟取り混ぜた水を何十種類も揃えている。1階のCDコーナーにもオリジナルのコンピレーションアルバムを置くなど、ウエア以外でも「編集」というコンセプトを踏襲する。この辺の統一感が特徴なのかとも感じた。

 ショップの話では、オーナーのコレットはもちろん、在籍するスタッフがショップディレクターとして店舗のイメージ作りからバイイング、VMDまでの全般に携わっているということだった。それがブランド側に「エクスクルーシブ」なんて野暮なことを言わせず、単品、単発でも卸の許諾を取り付けさせたとすれば、凄いの一言に尽きる。

 もっとも、提案型セレクトショップという点では、日本の店舗も負けていない。また、バイイングや編集能力もコレットより優れた店はあると思う。しかし、扱う商品のすべてが世界的に著名なブランドという点は、日本のショップがどう足掻いてもできないこと。パリという情報発信の拠点、セレブはもちろん世界中から観光客が集まること、そして街並が醸し出す独特な佇まいがあるからこそ、実現できるのかと思ったりもした。

 ただ、一等地にあるだけに家賃などのコストは半端ではないはずだ。セレクトされた商品は高級品ばかりなので確かに販売すれば客単価は高い。しかし、一般のパリ市民や観光客が頻繁に買えるような価格ではないから、決して回転率が良いとは言えない。フランスのメーカーさんによると、実態は取り扱うブランドからプロモーションの手数料を得ていたというから、それがランニングコストの原資になっていたようだ。

 ブランド側も「パリのコレットなら、宣伝販促費としては安いもんだ」と考えたと思う。店として売上げ的にペイしなくても、手数料で運営費を賄っていく。その意味で、セレクトショップにおけるビジネスモデルの一つを作った点は、画期的なことである。 

 それでも、消費環境の厳しさから世界中の小売業が低迷する中、コレットも例外ではなかった。ここからはあくまで私見だが、コレット終焉のワケは、この20年間で完全に消費者の感覚が変わってしまったこともあるだろう。

 そもそもセレクトショップとは、国内外のブランド(世界の著名ブランド、ファクトリー系、小物など含む)を仕入れて編集し、お客に提案する業態だ。そこではバイヤーやディレクターの優れた感性、高い能力が評価される一方、品揃えに統一感が出しにくく、ショップのストーリーが見えづらい。

 また、仕入れ予算やスペースに限りがあり、 品揃えの根幹を成す型、色、サイズは制約を受けてしまう。しかも、展示会段階で買い付けた商品がVOIDになったり、納期が遅れたりして、期中のMDがグチャグチャになるリスクさえある。

 ブランド直営店のように全型、全色、全サイズを揃えることはできないから、サイズが1つしかないとか、型が絞り込まれているとか、あるいは単色しかないことで、買う気を削がれるお客もいる。それが販売ロスを生むというケースだってないことはない。

 一方、この20年の間にザラやH&MといったグローバルSPAが台頭し、ユニクロのようなベーシックで機能的ウエアも勢力を拡大した。これらはセレブやお金持ちのファッション消費に対する考えさえ変えさせた。「シンプルなTシャツに200ユーロも出す必要はなく、ザラで十分だ」という意識変化だ。

 しかも、SPAはMDをしっかり組み、自社企画を型、色、サイズに満遍なく落とし込むので、お客とっては商品が非常に選びやすい。価格が手頃なことで、単品買いにもコーディネート買いにも向くのである。

 言い方は悪いかもしれないが、グローバルSPAとファストファッションに末端までの消費者はもちろん、お金持ちまでもが「飼いならされた」ということである。その点、日本の大手ショップはセレクト爛熟期に入ると、マーケット変化にいち早く対応した。インポートやデザイナーの商品は残しながらもセーブし、自社のオリジナルやプライベートブランドを加えて、SPA&バイング型セレクトショップへと進化していった。

 見せる商品はインポートやデザイナーズだが、稼ぐアイテムはオリジナルという戦略である。ただ、店頭では両者のギャップも出てきたため、修正を加えてながら、今ではオリジナルが半数以上を占めるセレクト型SPAに変貌している。もはやこれがセレクトショップと言えるのか。それでもお客をしっかりつなぎ止め、売上げを伸長させているのだから、スパイシーでエッジの利いた商品をセーブすることが、結果的に「吉」となったということだ。

 ただ、最近では日本のセレクト型SPAが、どこも似たような商品ばかりを置く紋切り型になってしまった。SPAだから商品企画は万人向けで、品揃えのバリエーションを広げるために型や色、サイズで展開する構成になる。確かに着やすさ、買いやすさは感じられるが、コレと言った個性的な商品にはほとんど巡り会えない。だから、個人的には中々購入までにいたらない。

 コレットの閉店は時代の流れかもしれないが、それが新たな業態の出現を暗示する。ECがますます浸透する中で、お客が国境を越えて商品を手に入れる利便性を得た今、次に求められるショップとは何か。その辺に加え、一等地に出店する意義を併せ、新業態を考えていく必要があると思う。
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お客は賢くなっている。

2017-07-12 07:02:54 | Weblog
 三越伊勢丹がセールの後ろ倒しを実施して5年。業界では賛否が問われたものの、一般専門店や個店のセレクトショップは、「(セールなんて)店側が勝手にやっているだけ」とか、「お客さんに責任はないし」と、端から異に介さなかった。

 そもそもセールは店頭に残った在庫を捌いて現金化し、次シーズンの仕入れの原資にして店舗を円滑に運営していくもの。いわゆる、商売を継続していくためだ。しかも、今日のように商品価格が下がり、そこそこの価値のものが恒常的に手頃な価格で買えると、セール自体はそれほど魅力を感じなくなっている。

 しかも、お客さん側の消費行動が完全に変わってしまった。お金を持たない10代〜20代前半の若者は、ファストファッションを上手く着こなしているし、アルバイトで小金が入るとネットのオークションやフリマで、ブランドの中古品をゲットできる。30代、40代はEC+リアル店で普段の買い物チャンネルで済ませ、ボーナスをもらえば自分へのご褒美として有名ブランドを購入することもできる。

 では、50代以上はどうなのか。DCブランド世代で、バブル時代にはインポートも着こなした経験をもつ。そこそこの可処分所得がある人たちは、ファッションにお金をかけることもできる。ただ、巷のマーケットに出回る商品は、価格が下がったのと並行して商品の原価率も押し下げられている。NBを中心にかつてほど(自分らが20〜30代に身につけた時代)のクオリティの商品がないという印象だと思う。

 つまり、この手の層はそうしたマーケットでのリアクションは敏感だ。一応、商品は探すが、郊外SC系ブランドのクオリティがアップしたことで、普段着ならそれで十分だと感じている。でも、お目当てのものがなければ買わない。問題はその先というか、グレードの高い商品のショッピングなのだ。

 郊外SCはファッション、雑貨はもとより、飲食サービスまでテナントのグレードがほぼ固まって来ている。飲食はファストフードから全国展開のチェーンで、メニューはもちろん、味やレベルは均一化されている。食事に興味があまりない人々なら、それでも十分だろうが、美味しい料理を食べているとセントラルキッチンの味だけでは満足できない。自分で料理ができる人には食材が買える業態もあるが、あくまで少数派だ。

 ファッションも同じで、SC系カジュアルのレベルが向上したからと、それだけではTPOでも感性的にも満足できない50代はかなりいると思う。そうした人々の買い物行動がセールにどう出ているか。ここ2〜3年、リサーチを続けている。この夏もクリアランスセールが一部では6月末、百貨店では7月1日に始まった。それが最初のピークを迎えた先週末に福岡の天神、博多駅エリアで調査をしてみた。

 対象が40代、50代(主にレディス)になるので、福岡市の中心部に店舗を構える福岡大丸(エルガーラ含む)、イムズ、天神地下街や新天町、キャナルシティ博多、博多リバレイン、JR博多シティ(アミュプラザ博多、博多阪急)、博多マルイを調査店舗とした。そこで全体的なクリアランスセール傾向を総括すると、以下のようになる。

 ●百貨店は40代、50代を集客。

 ●30代向けレディスブランドを40代も購入。

 ●海外デザイナーブランドは苦戦。

 ●国内ブランド(NB/百貨店系含む)は人気にバラツキ。


 セールになれば、最低でも30%オフになる。50代にとって、このお値打ち感は魅力のようである。日頃、買い物するSCにはない商品が安くなるからだ。それでも100%満足できないだろうが、百貨店、ファッションビルのミセス向けショップでは結構お客を集めているところがあった。三越伊勢丹系列の岩田屋、福岡三越は本日12日からセールに入るが、両店にしか展開がないブランドもあり、開店に向けて並ぶお客もいることから、似たような傾向になるのではないかと思う。

 また、40代も都市部にショッピングに出かける行動では、自分の「スタイリング」を衆人にさらすことになり、スタッフや同世代のお客の着こなしからも刺激を受ける。セールでは価格の安さも手伝って30代向けのブランド(キャリア)では、パターンのシャープさや若々しく見えるデザインから、サイズさえ合えば購入しようという40代のお客まで取り込んでいるところもあった。

 ただ、セールで集客できているブランドとそうでないところがあるのも事実だ。百貨店系、アパレルSPA系問わずである。具体的なブランド名の公表は控えるが、実際に売場を見て見るとその差が歴然としている。セールPOPが掲示されているにも関わらず、販売スタッフは暇そうにしている。「セールで売れるならまだしも、セールでも売れないものは当然、プロパーでも売れていない」わけだ。経営側はブランド閉鎖を公言するものの、ドラスティックな動きは鈍い。売場をみると、そんな状況がつぶさにわかってくる。
 
 百貨店やショッピングセンターという器を作り、そこをフロアごとを間仕切りしてブランドごとにテナントとしてリーシングする。売れれば、契約期間が延長になり、他から出店依頼が来るし、他ブランドは似たデザインやテイストを売り出し、マス化していく。そこで生き残るところと淘汰されていくところがあるが、EC販路を含めプロパーではよく見えないことがセール時には明白になる。30%オフで明暗が分かれることを作り手側のアパレルも、もっと検証すべきではないかと思う。

 買い物に賢くなった40代、50代はセールさえ選別しているのである。それは日頃のショッピング行動からハッキリしているはずだ。普段に着るカジュアルなら、価格が安いSC系ブランドで構わない。セール時には都市部の百貨店やファッションビルにある中高級ブランドをネットを含めてチェックし、気に入った物があれば並んでも購入する。

 そして、お金を出しても購入したい高級ブランドやクリエーター系デザイン、高感度な海外のファクトリー系などのブランドは、ネットを含めてワールドワイドに物色する。それでも見つからないときは…。

 かつてセール期間は3日から1週間程度だった。それで売れ残った在庫をクリアランスと称して、割引率を段階的に70%程度まで拡大して消化していた。今はセールのネーミングに窮しているのか、安さや在庫一掃を強調したのか、いきなりクリアランスだ。しかも、百貨店の三越伊勢丹のビジュアルは、系列の岩田屋、福岡三越も同じだ。コスト削減の一環なのだろうが、だったらプロパーで売り切って収益力をつけろよと、突っ込みたくなる。

 SPA系では店頭のPOPには70%オフでさらにレジで30%オフになるブランドもある。それをみて、「タダじゃん」ってツィートするおバカがいると揶揄する諸兄も多いが、そんな商品を開発する方がよほどバカげていると言いたい。明らかに企画側に問題がると言わざるを得ないし、それでも売れていないブランドがあるのだから、どうしようもない。だから、小売りする店舗は完全に手詰まり状態なのだ。

 では、アパレル側はどう対応すべきかなのか。売れていないからとか、商品過剰だからとかで切って捨て、ブランドを閉鎖し、新たに開発するだけでは通用しない。プロパーでも売れず、セールにかけても売れないような商品は、端からお客は求めていないのである。また、セールにかけて売れるのは商品価値と価格のバランスをお客のニーズというか、懐具合に合致するからだ。そんなお客がセールで多く来店する=多数派ならば、原価率と値入れの部分にも踏み込んでいくべきではないだろうか。

 海外のラグジュアリーブランドはブランドバリュを維持するために広告など販促にも惜しみなく資金を投入する。だから、販売価格が高く、法外な利益を乗せていると断じるのは容易い。でも、企画デザインには自社で人材を割き、素資材の開発や調達、縫製、生産管理までにも十二分のコストをかけている。売価に見合うだけの原価率を維持している。だから、ブランドバリュ以上にクオリティも高い。それが少しでも安くなると、プロパーでは購入できないお客まで集客できるわけである。

 また、ラグジュアリーほどブランドバリュやトレンドにこだわりはないが、独自のデザインセンスと確かなもの作りで、高級ブランドと遜色ないクオリティを維持している海外のファクトリーブランドもある。原価率は高いが、価格がこなれている分、サイズさえ合えばお客は購入しやすい。50代のような成熟した大人の消費者はプロパーでもこうした商品を求めているはずだが、最近は個店のセレクトショップが仕入れなくなり、海外サイトしか頼る物がない。でも、試着ができないリスクから買い物にどうしても二の足を踏んでしまう。

 とすれば、セールで売れないブランド、売り切れない在庫は、根本的に原価率と値入れ率のバランスを組み替えてみる必要があるのかもしれない。利益を削っても原価率をあげると商品企画や素資材にコストがかけられ、少なくとも商品のクオリティや魅力が上がる。ならば、プロパー消化の途が開けてくるかもしれない。また、ブランド化、トレンド追いだけが売れる条件だとは思えない。成熟した大人向けの商品には、素資材や縫製に力を入れた国内ファクトリーブランドへの途も選択肢の一つだろう。

 なおさら、メーカー派遣による委託販売、売れ残りは返品、最初に利益という手法ではどう考えても原価率をアップできるはずはない。もちろん、何社も中間業者をかませることなど、問題外である。その結果がセール不振、ブランド再編なのだ。アパレルだけではできないのだから、売上げ不振に苦しむ百貨店などがチームを組んで、もっと踏み出すべきではないだろうか。

 値引きによって在庫を消化し、売上げを追いかけるだけはなく、プロパーで売るためのもの作りは何かを問いつめないと、先は見えて来ない。「誰がアパレルを殺すのか」の犯人を探すのではなく、誰かが生き抜くための主人公になることこそ、必要なのである。

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パーツ探しは楽しい。

2017-07-05 06:36:11 | Weblog
 7月に入った、博多の街は山笠週間に入り、賑わいをみせている。昔からフィナーレの追い山(7月15日)を迎えると、梅雨が明け本格的な夏が到来すると言われる。ただ、今年は梅雨に入ってもそれほど雨が降っていない。4日は台風の影響で一時的に降雨が激しかったが、梅雨晴れの日は気温が30度近くになる。汗かきとしてはいちばん嫌な季節がやってくる。

 ところで、暑い夏で欠かせない水分補給。筆者はロケはもちろん、車や電車で移動する時も、とにかく水やお茶を飲む。大半がペットボトルなのだが、500mlでは量的に少なく、生温くなると飲む気がしない。そこで、移動時にはなるべくペットボトルごと凍らせたものをホルダーに入れ、携行するようにしている。

 これなら、少しずつ溶けていくので喉を潤す程度に飲めるし、3〜4時間で完全に解凍しても、ほぼ冷たい状態で飲むことができる。そこで問題なのがペットボトルをどう携帯するかだ。以前に使っていたスウェーデンデザインの「Unit Portables Shoulder Bag」は背面側に雑誌や新聞などを差し込めるポケットが付いていて、ここにペットボトルがホルダーごと収まった。脹らんで見てくれは悪いのだが、移動中でも両手が空くので非常に重宝した。

 それを7〜8年使って劣化したので、再購入しようと思ったが、すでに廃番になっていた。似たものを探すものの、機能とデザインを両立させるものがない。もともとメンズのビジネスバッグはブリーフケースの延長線で、機能優先になっている。デザイン性と両立させるのは難しいようで、どれも持ち手や肩掛けのストラップが付いてファスナーで開け閉めする形状になる。差別化にはブランドで仕掛けるしか手がない状況だ。

 ただ、ステファノマーノやオロビアンコ、フェリージは、いかにもブランドという感じだし、トゥミや吉田カバンなど一部を除けば、ブランド物もバッグメーカーが作るOEMで、個性的なデザインはほとんどない。それどころか、最近のブリーフケースはノート型PCやi-Padが入れば事足るように設計されているものが多く、「まち」が薄くなっている。全体的にペチャっとした感じなのだ。

 ビジネスがIT化したせいで、余分な書類を持たずに仕事ができるのは良いことだが、ペットボトルが入らないのは、時に不便さを感じる。リュックサックを使えばまちも厚いし、アウトドア向けはホルダーも付いている。しかし、ファッションスタイルが違ってくるし、クライアントとの打ち合わせに携行するのは失礼だ。ギリギリの選択がショルダーバッグになる。もちろん、袈裟懸けしたまま、企業に出向くことはない。

 そこで仕方なく購入したのが「Fits MacBook 13.3対応のショルダーバック」である。これだけ持てばスタイリッシュなのだが、ペットボトルを中に入れると、PCやダイアリーが入らない。おまけに凍らせたペットボトルだと、結露がホルダーから滲み出てバッグの中が濡れてしまう。



 そこで考えたのが、「ナスカン」を利用し、バッグのストラップにつり下げるアイデアである。筆者がショルダーバッグを使うのは両手がフリーに使え、メモを取ることもスマートフォンを使うことも、写真撮影も楽にできるからだ。購入したショルダーバッグのストラップ幅は38mm。この幅に対応できるナスカンを東急ハンズ、DIYのハンズマン、アマゾンなどで探しまわると、どうやら規格サイズのようで、金属製や樹脂製のものが市販されていた。



 以前に使っていたUnit Portables Shoulder Bagは、ストラップにナスカンが付いていて、このフックをバッグ本体のDカンに取り付け、吊り下げる形状だった。ナスカンは本来そういう使い方なのだと思う。今回はこれをストラップに後から取り付け、下がったフックにペットボトルホルダーのDカンを吊り下げるアイデアである。
 
 これだと、ペットボトルの重みでそんなに揺れ動くこともない。バッグの外だから、凍らせた結露が滲み出てても、内部に影響はない。何度か試してみたが、服が濡れることも皆無だった。惜しむらくは片方のストラップがバッグに縫い付けてあるので、ナスカンが分解できる金属製しか使えないこと。バッグはポリエステル素材で、色や素材感を合わせるには「樹脂製」の方がいい。

 また、ホルダーまでバッグの色と合わせると、やはり黒の無地がいい。ホルダーはもともとノベルティライクであったり、100円ショップに売っているようなシロ物だし、本格的なアウトドア系は紐なんかが付いてゴツい。ボトルの口をひっかける簡易的なホルダーもあるが、これだと昔の徳利紐とさして変わらない。ストラップの端は糸で接合してあるので、それを解けばナスカンをそのまま通せるから、暇な時にホルダー作りと一緒にやってみることにする。とりえず、この夏は金属製で我慢することにしよう。



 それにしても、YKKはナスカン一つをとってもいろんな商品を開発している。(http://www.ykkfastening.com/japan/product/pp/snaphooks.html)バッグメーカーなどのあらゆる商品企画に対応するためだろう。それにはフックが360度動くもの、正面向きで前後のみ動くものとがあり、ストラップ幅も20mm、25mm、30mm、38mm、50mmとバリエーション豊富だ。プラスチックパーツでは、着脱式のバックルなんかも充実している。だから、ヨウジヤマモトやY-3がベルトとバックルを巧みに使ったジャケットやバッグを企画できるのだと思う。

 パーツは東急ハンズに行けば、ある程度のものはその場で入手できるが、プロ向けの規格品が充実しているYKKにはかなわない。実際にパーツを購入して、DIYに活用するのは実に楽しい。今回のようにうまくいくと、仕事上でもいろんな企画のアイデアが湧いてくる。仕事のカテゴリーはあまり広げたくはないが、アパレル含め建築やグラフィックに携わる人間が喜ぶ機能性とデザイン性を併せ持つバッグくらいは、企画開発してみたいものである。

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