HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

EUから学ぶ布石に。

2018-07-25 05:26:05 | Weblog
 7月17日、安倍首相と欧州連合(EU)のトゥスク大統領、ユンケル欧州委員長は、日本とEUの経済連携協定(EPA)に署名した。世界のGDPで約3割を占める自由貿易圏が誕生することになるが、これには自国保護を打ち出す米国トランプ政権の通商政策にくさびを打ち込む狙いもあると見られる。
 ともあれ、関税が撤廃されれば、欧州産の安いチーズやワインが入って来て国内産業が痛手を被る可能性がある。だが、逆に日本の安全で美味しい米や果物が輸出できるわけで、ヨーロッパとの貿易が活性化される点では歓迎されるべきだと思う。

 ただ、これが為替にどう影響するかは、EPAが発効されてみないとわからない。まあ、貿易にそれほど詳しくなくても、日々の為替変動はニュースで必ず目にする。ユーロ円はこの7月第3週初めで129円台半ばから、19日には131円台半ばまで上昇した。それだけドル円におけるドル高・円安の勢いが強く、ドル円主導のドル高相場になっていた影響があるのだろう。

 EPA協定により自由貿易が進む期待はあるにしても、実際の貿易に市場原理が働くまでにいたらないと、ユーロ円はドル円に比べると来年春までは130円台の高値のまま維持されるのではないか。

 だから、ファッション業界にとっては、為替がユーロ高・円安基調なら、EPAの発効で関税が即時撤廃されるのは、大歓迎だ。ヨーロッパから商品を輸入して販売する場合、ユーロ高が続く限り割高感は否めない。だから、関税が撤廃されただけでも、価格に乗せられる税金分が差し引かれるので、お客には売りやすくなるのだ。

 具体的には皮革製品や靴、毛皮などは段階的に関税率が下がり、11年目か16年目に撤廃される。高級ブランドのバッグに課せられる最大18%の輸入関税が撤廃されるまでには11年を要するが、繊維・繊維製品では最大13.4%の関税が即時撤廃される。単純計算で1割弱安くなるだけなのでピンと来ないが、個人輸入をしていると関税を支払わないだけでも、お得感はある。

 アディダスやプーマのスニーカーではヨーロッパ限定、日本未発売のタイプがある。並行輸入業者の通販サイトなどでは販売されているが、レア価値(利益)+関税、消費税などが上乗せされているので、商品価格は現地の倍、2万円を超えるものも少なくない。レザータイプの価格が下がるには時間がかかるが、それ以外のものが1300円〜1500円程度安くなれば、多少は買いやすくなる。そんな感じだろうか。

 筆者は2005年くらいから、メンズアイテムではSPA、セレクトショップを問わず、国内ブランドでは気に入ったものが見つからず、ほとんど購入しなくなった。商品がアジア生産に変わり、ブランドが違っても素材や色に独自性はなく、全体的にフラットパターンばかりになってしまったからだ。さすがに日常のウエアには事欠くようになったので、インターネットで探すようになったが、試着ができないことや返品の手間を考えると、どうしても購入に二の足を踏んでしまう。

 そんな時、知り合いのフランスのメーカーに素材感に特徴があって着やすく、企画デザインでも個性を持ち、価格が値ごろなメンズブランドがないか、問い合わせてみた。すると、自社サイトを持つ何社かのうちで、海外通販に対応してくれるところをピックアップしてくれた。

 ヨーロッパのマスプロブランドは、 HPの写真を見ただけで国内のものとは、企画の方向性が全く異なる。布帛は生地からオリジナルで企画したり、微妙に染め色を変えたり。ストレッチを出すためのエラスタンも企画にそって混紡率を変えている。組織に特徴のあるものが少なくなく、織り地を変化させて柄を出す工夫をするブランドもある。

 ニットは編み地に特徴があるが、トラッドのようなワンパターンではなく、切り替えるなどして個性的なデザインを打ち出している。厚手のコットンニットが多いところも、国内とは違うところだ。布帛、ニットともに素材感や色使い、パターンもさることながら、それらが醸し出すモード感覚は、どうしても目を惹いてしまう。

 また、ユーロブランドでは国内のようにサイズアップで、身幅も大きくなるのではなく、着丈や袖丈のみ長くしたシャープな作りのものもある。国内企画では袖丈が短い筆者には、その点も好都合だ。そこで、気に入ったアイテムが見つかると何度か購入しているが、どうしても一度にまとめ買いすれば、関税や消費税がかかってしまうのが難点だ。

 これまで、何度か関税が課されたケースがある。例えば、9ユーロ程度のT-Shirt3枚と40ユーロのGilet Zippé(ジップジャケット)を輸入した時は、商品価格は総額で1万円以下なのだが、輸入関税が700円、輸入内国消費税等が500円、立替納税手数料が1080円と、合計で2280円も支払うことになった。

 また、 Zippé Cardigan59.99ユーロ、同89ユーロ、Daim Veste(スエードジャケット)99.95ユーロ、SuedeのChaussures(スニーカー)74.96ユーロを輸入したケースでは、服3点で関税(10%)2000円、消費税1386円、地方消費税350円、スニーカー1点に関税(27%)1620円、消費税441円、地方消費税107円がかかり、合計で5800円を納税した。

 なるべく関税がかからないように分けて購入するようにしているが、やはり気に入ったアイテムになると本国でも人気があって欠品も多く、価格が下がるセールまで待つことは難しい。お気に入りが見つかった時に、まとめて購入せざるをえないのだ。ただ、プロパー価格のままだと、関税率の関係から税金は高くなる。関税が撤廃されても、今より購入するケースが増えるとは限らないが、気分的にはだいぶ楽になると思う。

 そんなことを考えるのは筆者だけかと思ったら、意外にも福岡の都心部ではヨーロッパから個人輸入している人々がかなりいることがわかった。以前に商品を輸入した際、トランスポーターのDHLから国内配送を委託された佐川急便が商品を届けてくれた。送付先を事務所宛にしていたので、配送スタッフが都市部向けのキャリーに載せ、玄関口に横付けしていた。キャリーの中身をチラっと覗くと、他にもユーロ系ブランドの荷物が満載だったのだ。

 そう考えると、繊維・繊維製品において、最大13.4%の関税が即時撤廃されるのは、ユーロ製品が多少安くなる程度では済まなくなるのではないか。完成品はもちろん、生地やボタンでは独特な素材感や色合い、デザインのものが入りやすくなる。だから、新しいビジネスを考える事業者が増えてもおかしくない。

 アパレル業界の場合、今でも安い外国製品が入って来ているので、価格面で厳しい競争に晒される農産業のような危惧はない。しかし、ヨーロッパから良い素資材が入り安くなる点を鑑みれば、それらをうまく企画に採り入れ、商品企画を活性化させるチャンスでもある。それでなくても、アダルト向けのファッションは圧倒的にコマ不足だ。

 アパレルは20代〜40代までの若い層で勝負すれば、60代以降のマーケットは捨てても構わないという意見もあるが、関税の完全撤廃を新たな企画や市場開拓の布石にしてもいいのではないか。それでなくも、マチュア世代は目が肥えているわけだから、ユーロ製のような商品に対しても目利きを持っているはずだ。

 若い層も中国製一辺倒にそろそろ飽きが来ていることも考えられる。純然たるユーロ製ではなくても、東欧や中近東で生産した商品、素資材でもユーロ企画なら毛色は変わって見えるはずだ。時代の変化、経済圏の大変貌は、ビジネスチャンスの可能性を秘めていると思う。

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ブラックなインターンS。

2018-07-18 06:01:14 | Weblog
 2019年春に卒業する大学生の就職活動が佳境に入っている。景気回復と人手不足から内定率は7月時点で80%を超えているが、企業側もできるだけ優秀な学生を確保しようと、通年採用に切り替えたり、3年生以下に照準を当てるところもある。

 企業にとって優秀だと思って採用した人間が数ヶ月であっさり辞めたり、大して期待していない人間が長く勤めるケースはある。こればかりは採用担当者でも見極めは容易ではない。学生の側も自分に合った会社や仕事を見つける術を知りたいはずだ。そこで、企業は学生の仕事への積極性や適性を見たり、学生は仕事内容や社風に触れることで、それぞれに合致した人材や企業を見つける「インターンシップ」が実施されている。

 最近はインターンシップ参加を採用選考の条件にする企業もあり、学生はそこが志望先ならインターンシップに参加せざるを得ない。ただ、正式な就職活動ではないし、期間も1日から数週間、2カ月程度と多岐にわたる。対象学年も1年生から4年生までと幅広い。内容もワークショップあり、仕事体験、実習ありと様々だ。

 ベンチャーやIT系の企業は、インターンシップを盛んに行っているが、大半の企業はそれが本業ではないため、社会貢献の一環として位置付ける程度だ。まして中小企業では、受け入れはそう簡単にはいかない。学生にとってどうしても情報が不足しがちなのである。

 インターンシップの詳細を知るには、やはり就職情報会社が企画する「合同説明会」に参加するのがベストな方法だ。そこでは実施企業、場所や内容、期間などを確認できるが、学生にとっては切実なのは「報酬や交通費はくれるのか」「ドレスコードはあるのか」「学業や試験との両立はできるのか」ではないだろうか。

 就職情報会社は、こうした学生側の疑問ついて、事前に企業側にヒアリングして情報を準備しているし、わからないことは質問すれば答えてもらえる。だが、実際にインターンシップに参加してみると、事前にイメージしたものと違ったケースもあるようだ。筆者が地元の現役大学生から聞いた話では、ファッション業界のインターンシップで、以下のようなものがあった。これは実に驚くばかりである。

 ①「アパレルメーカーにも関わらず、週3日も店舗で販売業務をさせられた」

 ②「売場実習に参加するには、自社ブランドの着用が必須と、購入させられた」

 ③「管理業務の体験と言われたが、実際には倉庫でのパッキン詰めだった」


 以上のものは、明らかに「労働」「従属関係」である。旧労働省の通達にも、「直接生産活動(販売業務)に従事するなど当該作業による利益・効果が当該事業場に帰属し、かつ事業場と学生の間に使用従属関係(商品を購入させられた/倉庫作業を強いられた)が認められる場合には、当該学生は労働者に該当するものと考えられる」とある。

 通達だから、直接企業への指示には当たらないが、所管の労働基準監督署への示達がなされているわけだから、違反した企業は監督署の厳しい指導を受けることになる。とは言っても、インターンシップで厳格な法解釈のもとに指導がなされるかと言えば、それは不可能だ。だから、①〜③のようなブラックなインターンシップを生んでいるわけで、学生が泣き寝入りしなければならないのは、あまりに理不尽である。

 ①〜③について、学生に企業名を訊ねると、①②は結構大手のアパレルメーカーだった。①の場合、福岡のような地方都市では支店は営業機能のみだから、本社サイドの意向で取引先の「エリアFC」や「販売代行」の小売り企業がメーカーに代わってインターンシップを引受けているのではないかと思う。学生の目から見ると、店舗にブランド名の看板がかかっていれば、メーカーの直営店と思いがちだ。

 メーカーと小売りとの関係では、どうしても商品を仕入れてくれる小売りの方が優位に立つ。メーカーがインターンシップを小売りに頼んでいる以上、いくらルールがあるとは言え、細かな注文は付けにくい。コンプライアンスなんかあったところで、形骸化しているに決まっている。結果、FCや販売代行が学生を引受けるのなら、やってもらうことは接客や販売くらいしかないわけで、①のようなことは起こり得るだろう。

 ②のケースは直接、大学にインターンシップを受入れる旨の連絡があったのではないかと思う。その場合、アパレルブランドなら当然、ドレスコードというか、服装の指定はしていたはずだ。その辺の情報が学生側に上手く伝わっていなかったことも考えられる。

 センケンjobは「インターンシップの服装はスーツ?私服?そんな疑問を5分で解決します!」(https://job.senken.co.jp/shinsotsu/articles/intern-dress-code)で、服装についてアドバイスしている。そこでは会社の規定に沿った服装、指定がない場合は「会社の雰囲気や周りのインターンシップ生と合わせて判断するのが賢明です。会社の雰囲気を見ても判断がつかない場合は、インターンシップ初日に周りの社員の方に尋ねてみると良いでしょう」と、あくまで学生の裁量に任せ、細かくは指定していない。

 ところが、実際には②のようなケースが起こったわけだ。大学生だから判断力はあるはずと言っても、リクルートスーツを着なければ、普通の若者である。別にファッション業界志望でなくても、みな好きなブランド、テイストくらいはあると思う。

 学生自ら「この服装ならいいだろう」と判断しても、企業からすれば、学生=カモと見ていることはある。おそらくインターンシップを引き受けてくれるという学生の立場の弱さを想定し、「そんな格好ではうちのイメージに合わない」などと難癖を付け、自社ブランドを売りつけようと考えていても不思議ではない。

 人手不足で学生優位の売り手市場とは言え、学生が雇ってもらう立場である以上、ブラック企業なら付け入る隙などお見通しだろう。就職情報会社は学生がインターンシップを終了した後、アンケートなど体験報告を求めているはずだから、学生も問題があれば堂々と親告して構わない。いきなり企業名を出すわけにはいかないが、繊研新聞は業界メディアなのだから、ブラックインターンシップについては、学生から聞取り調査などを行って報道すべきだと思う。


バイトと割り切ることも肝心

 ③の「倉庫でパッキン詰め(段ボールに商品を梱包する)させられた」は明らかに労働になるが、「管理業務の体験」ならばグレーゾーンだ。ただ、インターンシップのスケジュールの中に組み込まれていたとしても、学生が事前に判断して拒否するのは難しい。

 実際には大手アパレルメーカーや小売りチェーンですら、人事上では新入社員を商品管理に配属するケースはある。だから、学生に内定の期待を持たせながら、「最初はみんなここからスタートだよ」と実際の業務を担当させ、マインドコントロールする企業があってもおかしくない。

 まあ、一流大学を出て、「パッキンを担がされるのは嫌だ(エリート意識の高い学生に限って、「ビール瓶より重たいものは持たない」ってホワイトカラーの格言だけは頭に入れている)」と、3カ月で大手アパレルを退社した社員がいるくらいだから、企業側も事前に体験させたいのだろうが。

 もちろん、インターンシップで労働させることは違法である。だから、学生側もブラックなインターンシップがあることを前提に、それでもファッション業界に関心や興味があるなら、複数日にわたる業務体験がある場合には、「アルバイトなら働かせていただきます」と割り切ってもいいのではないか。

 筆者の学生時代は、10月1日会社訪問解禁、11月1日入社試験スタート。4年生の夏休みを利用して、先輩訪問などを行えたが、もちろんインターンシップなどない時代だ。だから、企業リサーチを兼ねて、大学の3年時にマンションアパレルでアルバイトをした。学内に掲示してあった求人票を見て、「軽労働」と書いてあったので、面接に行き仕事内容を確認し、作業に従事した。

 まさに「小売店に納品する商品」を「伝票の型番を見て」「ハンガーラックから取り出し」「パッキン詰め」するもの。ブランドロゴが入った段ボールを組み立て、箱の底側を補強するために粘着テープを十字状に貼る。商品を詰め終わると、一番上に伝票を置いて蓋をとじ、軍手を付けて梱包用のPPバンドをストッパーのバーにうまく挟んで絞り、きつく固定。あとは側面に送り状を貼って、佐川急便に渡すまでの内容である。まさにそれほどキツくはない軽労働だった。

 ただ、この作業でドレスやジャケットは皺にならないように交互に重ねて置くなど、アパレルならでは梱包テクニックを憶えた。

 小さなアパレルだったので、3カ月も働くと目をかけてもらい、社長から「お前も企画会議に参加しろ」と言ってもらった。会議と言っても、マンションの一室だから、デザイナーやパタンナーと営業が車座に囲んでアイデアを出し合い、話し込む程度のもの。そこで生まれたイメージをデザイナーは、イラストパッドに描いて形にしていく。

 当時のマンションアパレルは、各地に営業に出かけるケースはほとんどなく、逆に各地の専門店からバイヤーが仕入れに来てくれた。だから、即応性というか、お客の感覚やバイヤーニーズをすぐに反映できたのである。アルバイトだったが、実に勉強になったし、大手では決して学べない体験ができたと思う。

 明らかに法に反しているインターシップは、ファッション業界にも存在する。それでも裁判に打って出るようなケースはないと思うが、内容をみればブラックインターンシップと言っても間違いないものもある。学生も泣き寝入りするのではなく、労働をさせられた時間や業務内容、購入した商品のレシートを証拠として(今はスマートフォンで写真も撮れるし、動画も残せる)残しておくことが大事だ。

 そして、大学の就職課や就職情報会社などに相談すべきだと思う。あまりにブラックなインターシップについては、法的措置を講じてもいいのではないかと考える。筆者も法学部出身だから多少の知識はあるが、現役の学生ならなおさら憤懣やるかたないだろう。法学部生の皆が労働法を専攻していないだろうから、教授に相談したり、自治体が無料で行っている法律相談などを利用する方法もある。誰かが声を上げなければ、ブラックな企業の思うつぼなのだ。



 ところで、福岡アジアファッション拠点推進会議は、活動内容にファッションウィーク福岡や福岡アジアコレクションの実施と並んで、「インターンシップ」を挙げている。これには福岡市が拠出する経済観光文化局の「クリエイティブ関連産業の振興」の予算が割り当てられている。平成28年度は、総額で3264万9000円が使われているが、大半がファッションウィークやコレクションイベントだとしても、決算報告の計上されている以上はいくらかはインターンシップに使われているはずだ。

 ところが、推進会議からどんなインターンシップが行われているか、広報・公開されていない。福岡市も決算書に項目のみを記載しているだけで、内容まで詳細には報告していないのである。それとも利害がある一部の学校が公費を使って役得に預かっているから、公にできないのか。税金を使ってインターンシップを行っているのに、どんな内容か全く公開されないのは、不可解の度合いを超えている。ある意味、これも極めてブラックなインターシップと言えそうである。

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オーダーの錯覚と幻滅。

2018-07-11 05:13:21 | Weblog
 ZOZOTOWNがゾゾスーツで計測した採寸データをもとに顧客仕様のPB「ZOZO」の販売に乗り出した。これまでは主にメーカーやショップのカジュアルアイテムを受託販売し急成長した同社だが、潤沢な資金をオリジナル開発に注ぐのではなく、シャツやジーンズ、スーツといった定番、しかもオーダーのビジネスに注ぎ込むところは、そこらのアパレル業界人とは異なるところだ。

 ただ、ゾゾスーツによる採寸データを生かしたオーダーアイテムが新たな市場を掘り起こすのか。また、スーツに限って言えば、オーダーという価値がそこまで求められるか。まずはこの2点について考えてみたい。

 オーダーはすでに「クルーネックTシャツ」(メンズ・レディス、税込1200円、4色)と「スリムテーパードデニムパンツ」(メンズ・レディス、税込3800円、3色)、「オックスフォードシャツ」(メンズ、税込3900円、2色) 、そして派生デザインの数アイテムが売り出されている。

 こうした定番カジュアルはグローバルSPAの十八番なのだが、量産量販で価格競争が行きついており、目先を変えないと活性化はなし得ない。 顧客仕様のZOZO PBはそうした市場から洩れている層に焦点を当て、さらにマス層さえも引き込む狙いだろうか。

 まあ、若者にとってオーダーとは、「オリジナルに近い」イメージで捉えているふしもある。現にサイトを見ると、クルーネックTシャツは「あなたの体型で作る、あなたサイズのTシャツ」と銘打ち、「この商品はシルエットや素材、フィット感に極限までこだわった、あなた専用のTシャツです」と煽るから、自分仕様と錯覚を起こしてしまう。

 しかし、最後までじっくり読むと、「このアイテムは「パターンオーダー」です」との但し書きがある。「あらかじめ大量のサイズパターンを用意しております。その中から、お客様の体型にもっとも相応しいパターンを選びます」と、スクロールして初めてわかる。つまり、袖丈のみ長めにしたり、襟グリを詰まらせたり、身幅が細いまま着丈をロングにするなどのオリジナル仕様は、どだい無理な話なのである。

 基本的なオーダーシステムは注文者が希望するアイテムの型や色、ゾゾスーツで採寸したサイズデータをネットでZOZOTOWN側に送ると、「近似値サイズの商品」があればストックから、在庫がなければ短期で生産(7日〜14日)して、配送されるものだ。デニムパンツやオックフォードシャツもほぼ同じシステムになる。

 百聞は一見にしかず。まずは知人が購入したしたスリムテーパードデニムパンツ/ワンウォッシュを見せてもらった。ゾゾスーツで計測したとは言え、体型はレギュラーで十分収まる標準型。だから、特別に必要としたわけではなく、ゾゾスーツの性能、計測精度を確かめるために注文したようである。

 業界人としてジーンズを見てきた経験から言うと、商品の印象は「大したことはない」である。序でに言えば、量販店のPB系のデニムパンツとほぼ同等のレベルだ。価格が3800円と安いこともあるが、デニム地そのものも決して良くない。おそらく原価率を圧縮しているのは間違いない。

 ジーンズ専業のメーカーはグローバルSPAに駆逐され、どこも苦戦を強いられている。今どき品質の良し悪しを比べても意味はないと言われればそこまでだ。それにしてもこの商品を見ると、NBのデニムパンツやセレクトショップのヴィンテージジーンズをZOZOTOWNで購入している層がすんなりPBに乗り換えるとは思えない。もちろん、デニムの風合いが醸し出す微妙なディテールに拘る層は、この限りではないだろう。



 サイトで公開されている購入者の感想は、「ZOZOジーンズ&Tシャツぴったりんこ」「昔スポーツしてたので太ももだけ太くてなかなか合うパンツがなく30年間悩んでたんですが、ZOZOのデニムは片足入れた時から、『気持ちいい…』」「ゾゾデニムとゾゾTシャツ届いたんだけど、なんだこれぴったりだ……。今まで履いてたジーンズのサイズが間違ってたのがすごくよくわかる」と、概ね好印象のものばかりである。

 しかし、これを額面通りに受け取ることはできない。サイトの正式なレビューではないし、ネガティブな意見があればそれも公開しないと、商品に対する評価の客観性、公平性を欠いてしまう。因にオーダーした知人の意見は、「デニムは穿き込んで身体のラインに慣らし、色落ちを楽しむもの。量販系の織り地だから、縦落ちもしないだろう」だった。

 デニムはライトオンのような全国チェーンからグローバルSPA、リーバイスやエドウィンといった専業メーカー、セレクトショップのヴィンテージやダブルネームまで、 各型各色、サイズ、ブランドが豊富に展開されている。それでも、顧客がパターンオーダーに飛びつくのは、既製のサイズ展開では太腿やウエスト、股上などでサイズが合わないと人々がまだまだいるということだ。

 では、既製ジーンズ&デニムパンツの市場で、レギュラーサイズに満足していない層がどれほどいるのか。ZOZOTOWNは、まずそのデータを掴むのが狙いのようである。現時点でZOZO PBは色、型のバリエーションは少ないから、リピーターについては懐疑的だが、じっくりデータ収集を行いながら、種別展開についても、考えていくのではないか。裏を返せば、それがうまく軌道に乗らなければ、PBはスタートトゥデイの次なる成長の柱にはなり得ないと言うこともできる。

 現状、ZOZOTOWNのショップ受託事業(他社ブランドの販売)で、Tシャツやデニムパンツがどれほどの売上げ比率があるのかはわからない。でも、仮にNBなどを購入している層までがPBに吸い寄せられれば、受託事業の売上げは目減りすることになるわけだ。

 PBの荒利益はどれほどなのか。商品価格が1200円〜4900円だから、50%としても600円〜2450円程度。一方、ショップ受託事業の平均歩率が30%として12000円のブランドを販売すれば、3600円になる。単純計算すれば、荒利益が大きいブランドを販売して歩率を稼いだ方が効率はいいはずだ。そう考えると、PBのカジュアルアイテムを軌道に乗せるのは容易ではないとも言えそうである。


仮縫い無しでは幻滅のリスク

 PBで高い荒利益を確保するには、商品単価を上げなくてはならない。それが「ビジネススーツ」(価格3万9900円)ということだろう。こちらはスーパー110'sのウール素材で、柄とカラーは無地3色、ヘリンボーン4色がある。秋にはストライプ3色が追加される予定という。

 ジャケットは肩幅・胸囲・左右の袖丈・袖口・着丈・胴回り、パンツはウエスト(アジャスター付きもある)・ヒップ・レングス・裾幅を0.5cm~1cm単位で、細かくカスタムすることができる。サイズ調整が可能なので、少しゆったりめや少しタイトめになど、自分仕様の1着を作ることが可能という触れ込みだ。

 ZOZOTOWNは「カスタムオーダー」と謳っているが、それは何千種類にも及ぶ既製パターンにそって仕上げるもの。別に「仮縫い」があるわけでもないから、パターンオーダーの域は超えない。つまり、修正無しの一発勝負にならざるを得ないのだ。

 これも注文者が希望の色柄と、採寸データなどをネットでZOZOTOWN側に送ると、最も近いサイズのジャケットやパンツが選ばれ、袖や裾の丈上げを調整して、スーチングし届けられる。色・柄を絞り込んでいるし、お試しキャンペーンで価格を21900円に設定した点などを考えると、ある程度は初期在庫を持っているはずである。

 もちろん、欠品や既存顧客のNBからの乗り換えもあるだろうから、その後は短納期生産で対応していくと思われる。前澤友作社長自らメディア向けに大々的に行ったプレスプレビュー効果も考えると、ZOZOTOWNの顧客で黒のスーツでは紋切り型と感じる就活の大学生、就職1〜2年目のスーツリピーターを中心に少しずつ動いていくのではないかというのが筆者の見方である。

 業界諸兄の中には「市場には2万~4万円程度のパターンオーダーはあふれかえっており、取り立ててZOZOが割安ということもない」など、ZOZOTOWNのPBスーツ対する懐疑的な意見もある。ゾゾスーツを利用した自動採寸があるにせよ、お客にはオーダーなら行きつけの店で安心して発注したいという心理が働く。だから、今までスーツ専門店や百貨店で購入していた層が大量にZOZOTOWNに流れることも考えにくい。筆者も現状のバリエーションでは、いくら「お好みにぴったりのスーツを究極のサイジング」を謳ったところで競争力になるとは思えない。

 まして国内のスーツ市場は、団塊世代の大量退職を通りすぎ、非正規雇用の拡大、ITビジネスの浸透、ビジカジなどの影響で縮小気味だ。しかも、現役のビジネスマンを中心にしたビジネススーツの主要客は、動きやすく、ケアが簡単な機能重視の「アクティブスーツ」に流れ始めている。このスーツはテーラー仕立てではなく、ニット系の素材で製造されるため、ストレッチ性があってジャージのように快適に着こなせる。

 かく言う筆者もスーツではないが、ニット素材のジャケットは、かなり前から愛用している。国産のwjkとフランスのLoft Design byを持っているが、どちらともストレッチの効いたコットン素材。生地は肉厚だが、肌にフィットするので着心地は抜群だ。おまけに吸水性が高く、吸った汗も洗濯できれいに落とせる。wjkはサイズ違いで2着、ldbは1着、春と秋にローテーションを組むと、そればかり着てしまう。だが、購入から十数年を経過しても、目立った劣化は見られない。

 お客はスーツをネット購入した時、吊るし、いわゆる既製品なら納得もいくだろう。だが、オーダーやカスタムメイドを謳ってもパターンオーダーなら、仕立ては修正無しの一発勝負になる。いくら自動計測、工業パターンの精度がアップしても、微妙な着心地は個々の肌感覚で異なる。仮縫い無しでは限界があるのだ。

 結局、でき上がって着て見ると、オーダーって言うけど「えっ、こんなものか」と幻滅の度合いが大きいこともあるだろう。だから、こちらもレギュラーサイズが合わず、かといってフルオーダーするまでもないという層が主に購入すると思われるが、他社が先行していることを考えると、マーケットの掘り起こしは容易ではないだろう。主たる狙いがビッグデータの収集だとは言っても、縮小する布帛スーツ市場でどこまでデータが生かせるかという点でも、首を傾げざるを得ない。

 筆者は大学4年の会社訪問以来、ほとんどビジネススーツを着たことがない。仕事柄、ジャケットを脱ぎ、ラフな恰好でクライアントに接することができるから、特別なのかもしれないが、楽な着こなしを覚えてしまうと、もう仕事でスーツを着ようという気にはなれない。ビジネスマンとて、一度でも楽なアクティブスーツに味を占めれば、布帛のビジネススーツには後戻りはできないのではないか。

 そう考えると、ZOZOTOWNが自動採寸の短納期オーダーを売りにしたところで、縮小していく布帛スーツ市場を活性化できるとは思えない。ECを利用して越境し、アジア市場の攻略を狙うにしても、ビジネススーツが求められるのは経済発展する中国はじめ、東南アジア諸国である。しかし、緯度が南下すれば、平均気温は日本より高く湿度もある。そこでウールのビジネススーツにどこまでニーズがあるだろうか。それこそ、洗濯がきくアクティブスーツの方が重宝されるのではないか。

 日本市場は10年、20年とゆっくり変化していったが、アジアも同じとは限らない。中国の自動車市場はガソリン車からハイブリッドを通り越して、電気自動車に向かっている。ビジネススーツも経済成長が著しい諸国では布帛の浸透を待つまでもなく、いきなりアクティブスーツが求められる可能性は十分にあり得る。そして、ビジネスに成功し裕福になった時、ブランドやフルオーダーのスーツを着てみたいとなるわけだ。しかし、そうした層は決してマスではない。

 ビッグデータの活用と言えば、聞こえはいい。既製服が売れない中で「あなたの体型で作る、あなたサイズ◯◯」を謳えば、お客のマインドはくすぐれる。しかし、データは薬にもなるが、売れない在庫以上にゴミにもなる。まして、オーダーに対する過信は錯覚を生み、でき上がった商品への幻滅を感じさせるリスクも孕むのである。
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コンペは業者を選ぶフリ。

2018-07-04 05:25:40 | Weblog
 さる6月26日、福岡アジアファッション拠点推進会議(以下、推進会議)は、平成30年度内に実施する「ファッションウィーク福岡(以下、F.W.F.)」の事業企画について、数年ぶりに「企画コンペ」を実施すると発表した。F.W.F.は高島宗一郎福岡市長の発案で、「春にも福岡を盛り上げるイベントを」として、2013年3月にスタートしている。

 本来なら、主催する推進会議が委託先の「企画運営事業者」の選定では、一般競争入札にすべきところだが、高島市長の思いつきにで十分な準備期間がなかったため、第1回は地場広告代理店のNA社に総て丸投げされた。しかし、 初めての試みは福岡を盛り上げるどころか、市内外から集客し販促につなげるという点でも、大した効果が得られなかったのである。

 推進会議はその反省を踏まえ、2回目(2014年3月実施)は13年の夏くらいから準備にかかっている。事前に事業を受託したい業者と参加商業施設のデベロッパーを集めて説明会を開催。ここで推進会議は、F.W.F. の企画運営事業者は企画コンペで選定すると発表。いわゆるプロポーザル方式の「競合プレゼン」によって委託先を決めるものだ。

 第2回の事業予算は総額で700万円。企画内容の条件はこれを原資にイベント展開の他、宣伝・広報媒体の「ガイドブック、サイトやSNS、ポスター等広報ツール、集客促進のための方策まで作れ」というもの。説明会に参加した業者は、みな営業的にペイしないと思ったようだが、コンペの結果、事業は大手代理店のH社に委託された。

 それから5年の間、再び企画コンペが実施された形跡はない。事業はずっとH社が無競争のルーチンで受託してきたわけだ。しかし、H社の企画もF.W.F.が集客や販促で大きな効果を上げたのか。推進会議から公式かつ具体的なデータは何一つ示されていない。つまり、一業者への委託が5年間も継続されてきたこと自体が根拠を欠くということである。

 そもそもF.W.F.事業費のほとんどは、福岡市の経済観光文化局予算から拠出されている。事業の名目は「クリエイティブ関連産業の振興」で、ゲーム産業関連の人材育成と並び、推進会議が実施するファッション関連事業として「他の事業」「福岡アジアコレクション」「インターンシップ」「セミナー」とともに「F.W.F. の実施」が同じ予算枠に収まっている。

 因に28年度のクリエイティブ関連産業の振興予算は、3264万9000円。F.W.F. のみにいくら予算が割り振られたかはわからないが、総額が3200万円程度だから、第2回の700万円と比べても大差ないと思われる。

 今回、再び企画コンペで業者を選定するのは、F.W.F. の事業効果がハッキリしていないため、企画を根本から考え直さなければならない面があることだ。それ以上に推進会議が福岡市から事業費を補助してもらっている=税金を使う以上、事業を何年間も一業者に発注することは許されない。

 推進会議は福岡商工会議所が母体で、地方自治体ではないにしても、委託業者に仕事(公共事業)を発注する以上、一般競争入札のかたちをとり、企画提案の内容を「総合評価」して、業者を決定するのは当然のことだ。とは言っても、それはあくまで表向きの事情である。裏事情は後で述べることにして、まずは企画コンペ概要を見てみよう。



ファッションウィーク福岡(F.W.F.)企画コンペの実施について【 2018/06/26 】

 「福岡アジアファッション拠点推進会議は、平成25年3月、「ファッションで福岡の街全体を盛り上げることにより、内外からの集客や消費喚起を図り、地域経済の活性化につなげる」ことを目的に、百貨店等商業施設と連携して「ファッションウィーク福岡(F.W.F.)」を開催しました。
 7回目の開催にあたり、当推進会議では、MICE、観光、インバンド支援(交流人口の増加)に向けて、「ファッションの街・福岡」の発信およびファッションと映像などのコンテンツ産業、美容や食との連携・融合を促進し、アジアの若者に刺激を与える新しいファッション都市を発信し、国内外からの交流人口増加を図りたいと考えており、このたび企画運営事業者を選定するため、企画コンペを実施いたします。」

1.対象事業
(1)事 業 名:「ファッションウィーク福岡(F.W.F.)」(以下「F.W.F.」という)
(2)実施時期:平成30年度内(期間は未定)
(3)事業内容:福岡市内の百貨店等商業施設やファッション関連店舗が連携してイベントやセール等を実施し、「ファッションの街・福岡」を国内外にアピールすることにより、集客や販売促進を図るもの。

◯集客や回遊性を高めるためのイベントの企画・実施/地域振興のため、ファッション及び食やコンテンツなどを交え、街が一体となった盛り上げを図るとともに、新規事業としてアジアの若年層など外国人の誘客につながるイベントを企画・実施。

◯天神地区・博多地区との連携
◯天神地区・博多地区の担当者との連絡・調整

◯宣伝・広報


・ウェブサイト、SNS、ポスター、チラシ、等、事業予算の範囲内で必要に応じたPRツールを制作し、効果的な宣伝・広報を行うこと。
・なお、福岡県・市の公式観光サイト、Facebook、インスタグラムのほか、市政だよりの活用も可能。
・素材の作成は必要であるが,下記広報枠の活用も可能。
    (デジタルサイネージ)ソラリアビジョン、市役所1階庁舎、博多座
    (街路灯バナー)天神・博多地区の行政枠
    (地下鉄ポスター掲示板)空港線・貝塚線全25カ所の行政枠

◯県内外および海外からの集客促進の具体策の検討・実施

・誘客のターゲットは、県内、県外、海外(主に、韓国、台湾)の若年層(主に女性)とする。特に国内在留外国人や訪日外国人旅行客の集客を促進するための具体策の検討・実施。
・アジアの若年層を惹きつけるファッション、食、インテリア、観光等の素材を活用し、外国人を含めた県内外からの誘客促進につながるイベントの企画・実施。
※目標来場者数:54,000人(うち外国人4,000人)

主催者事務局との連絡調整事務
・定期的に主催者事務局と打合せを行うこととし、事業の準備・進捗状況について書面作成のうえ報告を行うこと。
イベント期間中のアンケートの実施
・参画店舗および来場者に対し、満足度アンケートを実施し、結果を報告書に反映すること。
・アンケートの様式については、主催者事務局から提供し、協議の上決めることとする。
本件催事のための協賛の獲得及び関連業務
・推進会議からの負担金のほか、協賛金等可能な限りの収入を獲得し、事業の拡大を図る。
・協賛広告ツールの提案など、協賛プランの提案。
・協賛打診候補先、獲得見込数や金額の目標値を示すこと。

・実際の交渉等の際には、必要に応じて事務局に同行を求めることができる。
・協賛金については、事業費(支出予算)に加算する。
本件催事に係る打合せの議事および報告書の作成
・本件催事に係る打合せの議事録および報告書の作成。
・事業終了後、事業の成果目標に対する達成度、その達成・未達成理由、事業全体および今後のイベント開催にかかる考察など、事業効果について詳細な分析を行うこと。


 これを見ると、コンペで企画提案を求められる事業内容は、第2回の時と大きくは変わっていない。目を引くのは、「宣伝・広報」の媒体制作で、ウェブサイト、SNSが主要メディアに躍り出たことだ。これはここ数年での大きな変化と言えるだろう。

 第1回、2回はパンフレットやポスターなどの印刷媒体にかなりの経費をかけている。その時は委託事業者である代理店のNA社が子飼いのデザイン会社に発注したり、商工会議所のメンバーである印刷会社に忖度したわけだ。しかし、事業のメーンターゲットに若者を設定する上では、もう印刷物は広報・販促ツールにはなり得ない。第1回、2回ですら、手に取ってもらえないパンフレットが大量に発生した。すでに若者向けのメディアは完全にWeb、SNSにシフトしていたのだから、当たり前である。

 また、ここ数年のインバウンド効果からか、具体的にアジアからの集客目標を掲げたのは初めてだ。でも、目標来場者数の外国人4,000人について、何を根拠に算定したのかはわからない。どんたくのようにイベントを観覧する観光客が1平方メールあたりに何名いるとの計算で、福岡市のイベントエリアの総面積から合算するなら、明確だが。

 まあ、少なく見積もって実際には目標をクリアしたと、お得意の数字のマジックでも狙っているのだろうか。それにしても1週間のイベントで、天神や博多駅の各商業施設が参加するのなら、目標数値として妥当なのか。一般の買い物客もいるわけだから、イベント対象を若者に限定することで、来場目標を集計しやすくしたとも考えられる。


スポンサーへの営業力を評価する

 他には、「イベント期間中のアンケートの実施」「協賛広告ツールの提案など、協賛プランの提案」「協賛打診候補先、獲得見込数や金額の目標値を示すこと」「協賛金については、事業費(支出予算)に加算する」の項目が加わっている。これが今回のコンペの肝というべき点だ。

 アンケートは F.W.F. が福岡でどれほど周知されているかを調査する狙いがあると思う。もし、イベントの認知度が低ければ、宣伝・広報のやり方がまずいことになる。高々1週間程度のイベント期間中に修正は難しいが、次年度の企画の反省材料にはなる。

 協賛広告や協賛プラン、協賛打診先、獲得見込みや金額については、ついにここまで踏み込まざるを得なくなったということ。例年、事業の総予算が700万円程度しかないのだから、事業内容に掲げるすべての条件を満たせないのは、推進会議側もわかっている。企画に対し均等に予算を割り振れば、どこかが手薄になるのは目に見えているからだ。

 F.W.F. の予算がないのなら、RKB毎日放送の自社事業と化したFACo(福岡アジアコレクション)を止めればいいのだが、それも補助金とチケット収入から会場費や三文タレントのギャラを出せば、収支はとんとんか赤字。北九州市がTGC(東京ガールズコレクション)を開催し始め、福岡県からの支援取付にも成功。補助金の分捕りあいは熾烈を極めているので、福岡市の補助は不可欠になる。

 F.W.F. はここ数年、「後援」に新聞各社、テレビ・ラジオ各局が顔を並べている。これは代理店が手を回して協力を求めたのだろうが、協賛ではないためイベントのカネヅルにはなり得ない。

 言い換えれば、推進会議は業者委託に当たって単に企画レベルだけでなく、「スポンサーまで獲得できる」ところを選定の条件にしたいのだ。平たく言えば、業者に対し、「好き勝手なことをやりたければ、自らスポンサーを集めて費用を捻出しろ」「企画内容より、スポンサーへの営業力を見る」ということ。これが推進会議の本音と言える。



 すでに2年前から F.W.F.はイベントに参加する「参加コミュニティ」に、イベント期間中に「スペース」や「付帯費用」を提供してくれる企業、団体を募集している。要はイベントに参加したいものに対して、「場所とカネを提供してくれるスポンサー」を求め始めた。もちろん、スポンサー側の意向もあり、イベントの内容と事前にマッチングを行っている。そこで合意に至らなければ、スポンサー自らで集客のために何かやってくれと、懐柔策を設けたわけだ。

 しかし、そんな回りくどいことをやったところで、スポンサーが簡単に場所やカネをだすはずがない。市民からフリーマーケットのような企画を提案されても、商業施設がスポンサーがなら販促の意味がないと承服できないだろうし、学生や俄クリエーターの手作り作品の即売会にしても、集客では大した効果がなかったのは明白である。

 結局、今年3月のF.W.F. では、参加商業施設やデベロッパーにスポンサードしてもらう代わりに東京などから「タレント」を呼んでライブやトークショーを催す企画に落ち着いている。所詮、代理店がやる企画なんてその程度のものである。

 スポンサー側も地元の参加者よりも、タレントの方が集客や販促には効果的との判断したわけだ。カネを出すのはスポンサーなのだから、それは仕方ないことだが、結局、タレントの地方営業のためのイベントになったわけである。

 まあ、「ファッションウィーク」と宣言しているものの、福岡は東京や神戸のようにアパレルメーカーや優秀なクリエーターが集積するエリアではない。ほとんどが小売事業者である。そこに福岡市が標榜する「アジアの中心都市を目指す」が加わると、商業はもちろんだが、観光やインバウンドに重点が置かれるのは当たり前。ファッションなんてものは所詮、公金を使い、スポンサーを納得させるための口実に過ぎないのがよくわかる。

 それでも、スポンサー営業という条件が課せられると、イベント制作会社ではコンペ参加は無理だ。おそらく企画書制作、プレゼンまでこぎ着けるのは大手をはじめ、地場の有力代理店になるだろう。だが、どの代理店の企画案も内容は大差ないと、推進会議は承知のはずである。

 だから、露骨にも事業を受託したければ、「費用を出してくれるスポンサーまで捉まえろ」と、「それがコンペに勝てる条件だ」と打ち出したのだ。事前にコンペのハードルを上げることで、委託事業者を篩にかける狙いもあると読み取れる。とどのつまり、推進会議は事業費の総てを賄える「冠スポンサー」さえ望んでいるのかもしれない。

 東京ファッションウィークを主催する(社)日本ファッション・ウィーク(JFW)推進機構は従来、イベントの原資を主に経済産業省からの補助金で賄っていた。これで東京コレクションはじめテキスタイル展示会などを行ってきたが、民主党政権の事業仕分けで補助がカットされ、民間企業を冠スポンサーに迎えた。12シーズンを迎えた2016年秋からは、それまでのメルセデス・ベンツに代わり、Amazonジャパンが冠スポンサーについている。

 Amazonは「ファッションはもっとも成長著しい分野」と位置づけ、アパレルやクリエーターの情報発信を進める上で、東京ファッションウィークは絶好のマーケティング機会と見たのだ。

 JFW 推進機構は、2010年に世界中の有名アスリートのエージェントを務める「IMG(インターナショナル・マネジメント・グループ)」と、スポンサーシップ代理店契約を締結。11年から16年までのメルセデス・ベンツに次いで、Amazonジャパンを東京ファッションウィークの冠スポンサーに迎え入れることに成功した。同社はスポーツエージェントの領域を超え、東京ファッションウィークのような文化イベントでも、スポンサーシップの獲得に乗り出したのである。

 一方、世界最大のスポーツイベントであるオリンピックを見ると、JOC(日本オリンピック委員会)は、選手の強化資金を捻出するスポンサー獲得について、従来は数社の代理店に委託していたが、最大手のD社に一本化している。主催者や事業団体はより多くの資金を確保するために、IMG社やD社の営業手腕に賭けたわけだ。 先立つものは「カネ集め」であり、結果としてそれは成功している。

 話をF.W.F. に戻すと、地場で冠スポンサーにつける企業と言えば、九州電力、福岡銀行、西日本シティ銀行、西部ガス、西日本鉄道、JR九州、九電工からなる七社会くらいだろうか。ただ、企画の条件に「天神地区・博多地区との連携」が掲げられているので、それぞれ天神と博多駅が拠点の西鉄、JR九州が単独スポンサーになる可能性は薄い。

 他の企業は若者向けファッションに特化して、マーケティング戦略を行うとは思えない。推進会議の議長は歴代、福岡商工会議所の会頭が兼ねており、6月には九電工の藤永憲一会長に交替した。それとて、ファッションイベントの冠スポンサーになるほどの広告費拠出を名誉職の一存で決められるはずはない。とすれば、ビッグスポンサーしかない。しかし、F.W.F.自体にスポンサードする価値があるとは思えない。

 各代理店は商業施設の岩田屋三越から福岡大丸、ヴィオロ、キャナルシティ博多、JR博多シティ、博多マルイまで出入りしている。そこではシーズンごとのプロモーションやイベント企画で競合プレゼンに参加しているが、F.W.F. のように事業資金まで獲得しろというのは、初めてのケースと思う。いったいそこまでが可能な代理店は何社あるのだろうか。それともビッグスポンサーを捉まえるためにIMGの手を借りるか。

 まあ、D社は事業予算が低いことから、これまで推進会議の事業には参入していないようだが、はたして今回の企画コンペにはどうするのか。それとも、推進会議側がスポンサー営業力を見込んで、コンペ参加を望んでいるのか。H社は25年度から29年度まで5年に渡り事業を担って来たわけだが、一旦手を引くのか、または子会社のDK社に任せるのか。すべてのコンペにおいてD社の動向次第で、参加するか否かを判断していることを考えるといかに。

 グループ会社に商業施設のデベロッパーをもつNA社が第1回目以来、ゲットするのか。JR博多シティに食い込んでいるAD社、福岡パルコと懇意にしているBD社がダークホースとなるか。それとも、ノーマークのNK社やSK社の出番か。どこが企画運営事業者になろうと、代理店がアパレル・ファッション音痴には変わりないし、スポンサードやアカウントに関係ない中小零細ファッション事業者など見ているはずもない。

 7月5日、福岡商工会議所で企画コンペの説明会が開催されるので、ここに代理店が雁首を揃えることになる。コンペに参加するかしないかは11日までに決め、企画書の提出期限は19日。プレゼンは27日で、30日に委託事業者が決まる。

 まあ、推進会議としてはルーチンはこれ以上無理だから、別の代理店にも仕事を出してやると言うこと。また、高島市長が言い出したから後腐れ無く、カネを使いきり、何かやってるフリをするに過ぎない。序でに言えば、消化ゲームをやっているようなものだ。

 つまり、推進会議としては「業者を変える意思はある」というアリバイ作りのために「企画コンペを行う」という裏の事情も垣間見える。だから、FACoのように出来レースで、すでに委託業者が決定済みということも十分にあり得る。代理店の腹の探り合いが続く中で、納税者である中小零細のファッション事業者は、全く蚊帳の外に置かれている。
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