HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

ビル開発で活性なし。

2021-11-24 07:01:39 | Weblog
 コロナ感染者が減ったこともあり、久々に県外出張に出た。目的地は鹿児島市と熊本市。前市は博多駅から九州新幹線で1時間20分、後市は同50分。スケジュールが合えば1日で仕事をこなすこともできるが、今回はそれぞれ単独となった。そこで仕事が終わった後、各中心市街地の「いま」を見て回った。

 鹿児島市は令和3年11月現在、人口約59万3,000人。中心部を歩くと電車通りを挟んで「天文館」アーケードがあり、それを軸に幾つかの商店街が左右に伸びる。その中で老舗百貨店の「山形屋」が核となって中心繁華街を形成する。ただ、訪れた日が平日だったため、人通りはそれほど多くはなかった。



 2004年3月、九州新幹線の鹿児島-八代ルートが開通し、鹿児島中央駅に駅ビル「アミュプラザかごしま」が開業。07年10月には郊外に「イオンモール鹿児島」がオープンした。逆に09年5月には電車通りに面する百貨店「鹿児島三越」が閉店。天文館入口の若者向けSC「タカシマヤプラザ(タカプラ)」も18年2月に営業を終えた。これは紛れもなく、中心部の商業構造の変化を物語る。

 2002年の売上げ比率は天文館地区60%、鹿児島中央駅地区7%だったが、07年には同43%、同25%と18%も縮まった。それまでになかった全国ブランドが駅ビルに集まれば、若者を中心にお客は吸い寄せられる。郊外SCはワンストップショッピングを可能にし、ファミリー層までもが持ち出された。天文館地区の売上げは現在、さらに低下しているだろう。

 変化はそれだけではない。駅ビルの開業は若者の雇用を増やし、地元ハローワーク開所以来の求人数を記録した。郊外SCは販売職のみならず、施設管理やメンテナンスなど多くの中高年を採用する。施設開業による雇用増は、そのまま消費を変化させた。天文館地区の賑わいが見られなくなったのが何よりの証拠で、地盤沈下は相当に進んでいると感じる。



 地元自治体は天文館地区への来訪者が減少し、売上げが右肩下がりとなっている現状を懸念。まちの顔である中心市街地の活性化を目的に新たな基本計画を策定した。その中で、最も大規模のものが「千日町1・4番街区第一種市街地再開発事業」。タカプラを主体にしたL字型の敷地約6,000㎡に、商業施設や集会場やオフィス、ホテルをもつ複合ビル「センテラス天文館」を建設するもので、来年春の開業を待つばかりだ。


 実際に見てみるとそれほど巨大ではないが、官民を挙げた再開発プロジェクトに地元の期待は大きい。1〜4階を占める商業施設は東京建物(株)傘下の「プライムプレイス」が運営し、物販や飲食のテナント誘致が進んでいる。果たして、再開発ビルは中心部にかつての賑わいを取り戻す起爆剤になれるのか。それともすぐに飽きられ、紋切り型のテナント集積に堕していくのか。開業を待たずとも、その行く末が見える気がしてならない。


地方で誘致できるテナントは限られる

 なぜなら、先に再開発を終えた熊本市の事例があるからだ。同市は令和3年10月現在の人口は約73万8,000人。中心部には上通り、下通りの二大商店街があり、鶴屋百貨店と一体で中心市街地を成している。ところが、市の郊外にはイオンモールやゆめタウンなどの大規模商業施設がいくつもあり、福岡市までは新幹線のほか、高速バスでも2時間という近さから、中心商店街からの持ち出し額は年間で120億円とも130億円とも言われている。

 そのため、ここ数年で3つもの再開発事業が実施された。平成29年、下通りのダイエーグルメシティ跡地に複合ビルが建設され、1〜4階は都市型SC「cocosa(ココサ)」となった。次いで岩田屋伊勢丹や阪神百貨店が撤退した桜町のバスターミナル一体が再開発され、令和元年9月には「SAKURA MACHI Kumamoto(サクラマチ ・クマモト)」が誕生。今年3月にはJR熊本駅に隣接し駅ビル「アミュプラザくまもと」が開業した。

 各施設の延床面積はココサ約1万600m²、サクラマチ・クマモト同約4万4,500㎡、アミュプラザくまもと約2万9,400m²(物販面積)で、8万4,000m²以上もの商業スペースが増えた。その分、中心部の売上げが増加したかと言えば、必ずしもそうとは言い切れない。

 昨年は新型コロナウイルスの感染拡大による店舗の休業や時短に加え、市民の自粛生活が響き、各商業施設は通常の営業状態ではなかった。3つの商業ビルが力を発揮するにはコロナ禍が完全に終息してからとの言い訳もできる。そうは言っても、熊本市は人口70万人に過ぎず、東京や福岡のように他県から集客できる力は高が知れている。



 コロナ禍以前に開業したココサは、既存店がなかった「ジャーナルスタンダード」や「フリークスストア」の誘致には漕ぎ着けた。しかし、今回リサーチで「ハレ」「ベイフロー」「ザ・スーツカンパニー」「スポーツオーソリティ」は3年も持たずに退店したのがわかった。跡地に出店したのは「ナストロ バイ リピネ(暫定的なポップアップショップ)」「ABCマート」「島村楽器」「100円ショップセリア」。またインテリアショップ「ウニコ」の撤退後には「ニトリ」が出店予定で、他都市の商業施設と何ら変わらない。

 計画段階でデベロッパーが立てたコンセプトは「Design Our Lifestyle」。「ファッションやライフスタイルへのこだわりを持つ人々の感性を刺激し、自分らしさを表現できるモノ・コトを一つ一つ丁寧にセレクトし、30代女性を中心にカップル、友人、ファミリーまたはひとりでも様々なシーンで充実した時を過ごせる熊本の『特別な場所』を提案する」だ。

 「セリア」も「ニトリ」もそのコンセプトに合致すると言えば、それまでだ。しかし、デベロッパーとしては競合2施設とテナント争奪を繰り広げた結果、売場スペースを効率よく埋められるものを入れるしかないのが本音ではないか。結局、テナントは実需に対応した紋切り型になっていくのだ。

 と言うか、東京の「パルコ」や「丸井」を除き、市場規模が限られる地方の都市型SCで誘致できるテナントの顔ぶれはほぼ決まっている。文化施設やホテルなどを組み合わせた複合ビルを新たに開発したところで、商業施設ではバッティングのないテナントしか集められない。競争を優位に進めるなど無理な話なのだ。

 センテラス天文館もココサもデベロッパーは、同じプライムプレイス。ココサの状況を見れば、センテラス天文館も開業景気を終わると、テナントが一つ抜け、二つ抜けといった状況になる予感さえする。


人通りや賑わいで商店は潤わない

 アパレルメーカーにいると、全国の取引先から様々な情報が得られる。1980年代には「◯◯◯から出店依頼が来た」という小売店も少なくなかった。ファッションデベロッパーからのオファーはその店の評価であり、競合店を出し抜くチャンス。地域一番店と言われるところは皆そうで、メーカーとしてもそれらに商品を卸していれば安泰だった。

 一方、小売店がビルイン出店するにはデベロッパーに保証金を納め、毎月の売上げからは歩率家賃を取られる。その分、デベロッパーは販促にも注力してくれ一定の集客があれば、小売店は黙っても売上げがついた。こうした状況はどこの都市型SCも同じだった。

 デベロッパーも販促によって施設のブランド力が増したと疑わなかった。ところが、バブルが弾け、郊外にショッピングモールが次々と開業すると、旧来の都市型SCはみな苦戦し始めた。鹿児島のタカプラもそうだ。それまでは競合がなかったため、代理店の「電通」が絡んで館の「イメージ作り」や「ブランド価値向上」に注力するだけで良く、肝心なテナント開拓やリーシングが二の次になっていた。

 後発のアミュプラザかごしまは駅ビルという集客装置を生かし、有力テナントを根こそぎリーシングした。この時点で、タカプラに勝ち目は無かった。ターゲットは異なるが、イオンモール鹿児島も天文館地区からお客を奪っていった。中心商店街の地盤沈下に慌てた地元自治体が再開発プロジェクトを急拵えしたところで、ハード中心のビルではテナントのラインナップには限界があり、失ったお客を奪い返すのは容易ではない。




 一方、アミュプラザくまもとは、かごしまとは異なり開業から苦戦が続く。その打開策としてイベントやキャンペーンに注力している。ただ、特設会場での地元産品の販売やクリスマス・イルミネーションくらいで、どこまでお客がテナントにカネを落としてくれるのか。カード会員への10%割引はテナントの利益を削る以上に売上げアップに貢献するとは言い難い。個店テナントにはなおさら過剰な負担となる。マイカー利用客を集める駐車料割引も、郊外SCに対する相対的な対策に過ぎず、強力な集客力には繋がらない。

 では、鶴屋百貨店が苦戦する3つの商業施設を尻目に、顧客予備軍となる30代を捉え切れるかと言えば、それも難しい。今の30代はネットショッピングに慣れ、ユーズドのファッションなども賢く着こなす。見せかけだけ上質の百貨店など眼中にない。店舗を見ると、本館2階は大規模なリニューアルを実施していた。同社は20〜30代の女性客の集客に成功したというが、上質な素材使いで高感度なミセスに人気の「マーコート」の誘致では、ココサに出し抜かれている。漁夫の利はありえないのだ。

 おそらく鹿児島の山形屋も、再開発事業による「賑わい創出」が自店の売上げ効果に繋がるのは一過性のものだろう。複合ビルを開発しテナントを集めれば、お客が来て物を買いカネを落としてくれる。その発想がいかに神話であるか。鹿児島の結果を待つまでもなく、熊本の今が示している。

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マスプロで一点もの。

2021-11-17 06:49:36 | Weblog
 古着を染めたり、パッチワークにしたりと、アップサイクルがZ世代の若者に注目されている。既存のユーズドショップも在庫をリメイクし、一点ものに仕上げるサービスに参入。加えてデベロッパーとシェアリングサービス会社が共同で手がける体験業態も登場するなど、ビジネストレンドになりそうな予感がする。

 ひと言で、古着のアップサイクルと言っても、いろんな手法がある。まず、経年で変色や焼けが生じたものを「染め直す」といったものだ。手芸店や画材ショップには、「DYLON」などの衣料用染料が売っているので、これを使用すれば個人でも染めることができる。

 筆者も大学生の頃から何度か挑戦してきた。かつては染料に添付されるトリセツしかなく、いかにも綺麗に染まるように解説されていたが、実際にはそれほどうまくいかなかった。10年ほど前には、1969年モデルでベージュのGAPジーンズをDYLONでグリーンに染めてみた。この時は過去の経験が生きて、うまく仕上がった。

 古着には着用者の皮脂などが繊維に染み込んでいる場合がある。そのままでは染めムラが出るので一旦、それらを綺麗に洗い落としてから取り掛かった方がいい。今ではネットやYou-Tubeに染色法や注意点がアップされているので、そちらを参考すればいいと思う。

 ビジネスとしても色の問題から消化できなかった商品は、「染め替え」て二次流通に出すという手もある。染め直しの専門会社も登場しているが、メーカーなどが別会社を作れば希望者に染色法と場所を提供することもできる。ただ、繊維によってはイメージした色に仕上がらないことについても、十分に説明することが必須だ。

 次にシルエットを変えたり、パッチワークにしたりと「縫い直す」手法がある。例えば、寸胴のドレスを細めにしたり、オーバーシャツを袖なしのブラウスにするなどが代表的だ。襟、袖、身頃とそれぞれのパーツに解体し、デザインにそって細めたり絞ったりと手直しする。余った生地はリボンなどに付属品に代用できる。

 パッチワークは色や柄が違う物どうしで袖や身頃などを付け替えたり、白無地のシャツに柄生地を貼りあわせたり、アシンメトリーやカラーブロックなど、全く無規則で生地を縫い合わせるなどがある。このレベルになるとリメイク度が高く、一点ものとして際立ってくる。しかし、素人が短時間で仕上げるには無理があるので、専門の技術者が携わらなければならない。

 一方、高度な縫製技術を必要としないリメイクもある。アパレルのイトキンが手がけるリメイクブランド「リマイン」は、売れ残りの在庫にロゴやグラフィックをあしらったり、ボタンやテープ、リブやファスナーなどのパーツを付け足したもの。また、カットソーと布帛のプリーツ、スカートやコートにペチコートを合わせるなど異素材のドッキング、レースアップ、フリンジを取り入れたりなど、技術面をアイデアでカバーする。

 無地でフラットな素材にロゴをプリントするだけでも、ずいぶん印象が変わる。また、テープやリボンでアイデンティティを出すこともできる。劣化した部分を取り替えるならまだしも、無理に素材をつぎ合わせる必要はない。ちょっとしたパーツを加えるだけでも、個性を出せるのがリメイクの妙だ。要は作り手のアイデアとクリエイティビティなのである。

 とにかく余剰在庫や古着を活用し、パーツなども余ったものを使い、残布まで捨てることなく利用することがアップサイクルの絶対条件。数年前、筆者の事務所にある生地メーカーさんから「スワッチ」が送られてきた。どれも色鮮やかな生地で、筆者の感覚にはそぐわなかった。それを自宅に持ち帰り家族に見せると、「この生地見本は幅広なので、縫い合わせてラグにしたら良いかも」と、言っていた。なるほどである。



 アップサイクルは余剰在庫や古着を利用するだけとは限らない。毎年、何十万、何百万とも言える発行される生地見本の台帳だけでも、相当尺の端切れになる。例えば、オーダー専門店の麻布テーラーにはインポートの生地見本が用意され、どれも10cm四方くらいの大きさがある。家族が言った生地見本の再利用を聞いた時、あのパッチワークのジャケットやベストが作れないかと咄嗟に思いついた。

 もちろん、ビジネスにはならないだろうが、SDGsを推奨するアップサイクルのイベントとして仕掛ければ、オーダーサロンも別の意味で社会性をアピールでき、企業のイメージアップを図れるのではないかと思う。


作るから売るまでの仕組みをどう作るか

 アップサイクルを浸透させるには、アパレルメーカーや古着店などがリメイクした商品在庫を販売するだけでは限界があるだろう。やはり、個人が自分でも気軽にリメイクできるような仕組みづくりの必要だ。それをビジネスとして成り立たせるには、どんな仕組みが必要か。

 リメイクすると言っても、服造りのノウハウが不可欠だ。リメイクの場合は、染め直しからロゴのプリントやパーツの付け足し、大掛かりな縫い直しまでで工程や技術が変わってくる。デザインは依頼者のお客さんに考えてもらうにしても、それを形にしていく技術者や専門の職人が必要になる。

 当然、プロが携われば原材料は再利用しても、縫製のコストがかかるので販売価格に転嫁せざるを得ない。若者には「ええ、そんなにかかるの」と、言われそうだ。コストをかけず、料金を抑えるには、依頼者に自分でリメイクを行ってもらう。それなら企業や店舗は技術指導と場所、道具を提供するだけで済む。

 だから、自分で作りたいというお客には、リメイクのハードルを下げたものからチャレンジしてもらう方がいい。それにはアップサイクルの内容に応じてシステム化し、依頼者のニーズと技術レベル、料金などを組み合わせたメニュー作りが必要だ。

 レベル1/プリント(セルフorオーダー)納期:◯時間〜◯日
レベル2/ボンディング(セルフorオーダー)納期:◯時間〜◯日
レベル3/染色(セルフorオーダー)納期:◯時間〜◯日
レベル4/パーツ縫い付け(セルフorオーダー)納期:◯時間〜◯日
レベル5/身頃や袖などの切替え(セルフorオーダー)納期:◯時間〜◯日
レベル6/パッチワーク(セルフorオーダー)納期:◯日
レベル7/クレイジーパターン(セルフorオーダー)納期:◯日
レベル8/完全リメイク(セルフorオーダー)納期:◯日





 ざっとこのくらいの段階が考えられるだろうか。まずプリントだけなら、依頼者にPCでデザイン(illustratorやPhotoshopなどのデータ)してもらい、それをインクジェットで印刷する方法がある。Tシャツのプリントサービスと同じような仕組みだが、素材によってはできるできないもある。ボンディングはミシンが使えない人向けに端切れなどを無地のTシャツなどに張り合わせるものだ。

 パーツの縫い付けはテープやリボンなどを直線縫いで取り付ける。ミシンを使うので技術が必要だが、きちんと指導すれば未経験者でも短時間でマスターできる。身頃や袖などの切替えは、同じサイズのシャツやトレーナー、フーディーなどのパーツを付け替える。劣化した部分を外して替えると、アップサイクル度が際立ってくる。

 パッチワーク以降のレベルになると、そこそこの縫製技術が必要だ。未経験者が携わるにはミシン使いや手縫いを習得しながら時間をかけて作り上げるか、最初からプロが請け負うか、である。東京コレクションに出展する「SREU」のように端からアップサイクルをテーマにしたブランドもある。こちらは全て1点ものだから、希少性は高い。

 SDGsやアップサイクルが注目されているだけに、これからリメイクのビジネスを始めようという個人や企業が増えてくるのは間違いない。ただ、SREUのデザイナー植木沙織さんのように高度な縫製技術を持つからこそ表現できるわけだが、自分でリメイクして自分で販売するのは容易ではない。おそらくレップのような販売業者がかんでいると思われる。

 アップサイクルをビジネス化するには、販路を広げないと買い手はつかないので、ネット販売向きだ。サイト制作に必要な商品撮影から原稿作成までの「ささげ業務」を一人でこなすのは負担が大きい。そう考えると、リメイクは個人で行ったり、企業が請け負うにしても、販売はネット事業者が専門のプラットフォームを構築して行うのがビジネスとして浸透していく早道だと考える。

 あとはアップサイクルのビジネスに乗り出そうという個人、企業がどの程度のレベルに携わるかにかかっている。マスプロで一点ものにスポットが当たるが、アパレルである以上、染めや縫製の手間を抜きには語れない。ただ、ビジネスとして軌道に乗れば、都市型を含めショッピングセンターの新たなテナントになる可能性も十分にありそうだ。
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最後は市場が決める。

2021-11-10 06:41:24 | Weblog
 昨年9年ぶりに復活したユニクロの+Jが今年も11月12日に発売される。同コレクションはデザイナーのジル・サンダー氏と協業し、第1回目は2009年から11年まで続いた。しかし、同氏が77歳という高齢のため、今回のコレクションをもって終了することになる。

 ジル・サンダー氏はミラノコレクションを舞台に活躍し、上質な素材から生み出されるミニマルで洗練されたクリエーションが特徴。+Jではその不変の方向性がベーシックなユニクロとシンクロしてコラボレーションの妙をもたらした。それまでジル・サンダーが欲しくても高額で買えなかった層が購入できるようになったほか、チープなユニクロでもデザイナーと協業すれば、ここまでのクリエーションに昇華できることを証明した。

 昨年11月に発売された第2回目のコレクションでは、事前のプロモーションが奏功して1回目を知らない若者層を惹きつけ、販売店舗では早朝から長蛇の列ができた。一方、ネットオークションや個人売買の浸透で、行列には「転売ヤー」と呼ばれる輩も並んでいた。筆者がヤフオク!やメルカリのサイトを確認すると、午前10時の発売からわずか2時間ほど経った12時半過ぎには、商品が高額で出品されていた。

 自分が着るため購入したいお客にとっては、何とも理不尽な状況に苛立ちを隠せず、転売ヤーに対する批判の投稿が相次いだ。中古品個人売買の代表格「メルカリ」は、ユニクロの出品・購入数が3年連続で全ファッションブランドで最多であることから、今年3月、同ブランドを展開するファーストリテイリングと包括連携協定を締結。新商品の発売時期などを事前に共有し、ファストリの権利を侵害する出品や高額転売への対策に乗り出した。

 具体的には、ファーストリテイリングは新商品の発売時期に加え、商品の画像などをメルカリ側に提供する。ユニクロの広告画像などを無断で使った出品物や高額転売への注意喚起をWebサイト上で行うとした。メルカリはファストリから提供された情報や素材をもとにファストリが新商品を発売するタイミングで、スマートフォンアプリや公式ブログ上で同様の注意喚起を行うというものだ。

 ヤフオクは昨年11月、ゲーム機プライステーション5の発売に際して購入者に対して、「市場の動向を注視いただき、冷静な行動(購入判断)を」とのメッセージをサイトに掲載していた。併せて出品者にも「商品が手元にない、その他ガイドラインに抵触すると当社が判断した場合には、出品削除等の措置を実施する」という警告を出している。PayPayフリマも同じ方針だとしているので、新発売のファッションブランドにも同等の対応が取られると思われる。


ネット事業者は転売対策に後ろ向き



 では、これらの転売対策は有効なのだろうか。メルカリが実施するのは、あくまで注意喚起や警告で、「出品禁止」などの個別対応はとっていない。「経済原理が働く以上、商品の価格は需要と供給で決まる」から、高額で出品されていることに一律に禁止することはできないという理屈からだ。

 ヤフオクは、「出品規制においては、商品への興味や嗜好の差で判断が分かれたり、恣意的なルールにならないようにしなければならない」と、遠回しに転売を肯定する。つまり、発売直後の+Jが定価1万円として、それを3倍掛けの3万円で売るのはOKで、10倍掛けの10万円はNGというのは商品の性格や買う側の意識でも変わってくるので線引きは難いという考えだ。他のネット売買業者も、ほぼ同じスタンスだと思う。

 ただ、これらもあくまで建前に過ぎない。企業として個人売買の場を提供し手数料を得るビジネスを行う以上、売価は高い方が儲かるのだからそれを否定するわけがない。上場企業ならば、収益は高い方が投資家の信頼を得られる。自らその芽を摘むことは無い。楽天にいたっては、「プラットフォーム側が正当な理由なく店舗の販売価格を拘束することは、独占禁止法上問題となる可能性もある」と、法的根拠まで持ち出し正当性を主張する。

 要は各社ともあれこれ理由をつけているだけで、一次流通で買い占めを起こし二次流通で価格を高騰させている転売ヤーの問題に面と向かって切り込む気はないのだ。だが、発売直後の商品を数倍掛けした高額転売で暴利を貪る輩がいる一方、本当にそれを正価で入手したい消費者の正当な取引が阻害されているのも事実。社会の公器とも言われる企業がそれに加担し、野放しにすることが許されていいのかである。

 米国では、下院議会が巨大IT企業のGAFAに対し規制を強化する五つの法案を提出した。その一つには「自らのプラットフォームで自社製品を優遇することを禁じる」とある。併せて違反した際には売上高の一定割合の罰金など罰則も設けている。「独占IT企業は競争の勝者と敗者を自ら選び中小企業を壊し、価格をつり上げ、職を失わせている」というのがその根拠だ。

 ヤフー、楽天といった日本のプラットフォームも、GAFAのビジネスを模範として成長してきた。しかし、そのプロセスでは中小の出店事業者に対し送料無料への圧力をかけたり、優勝セールで不当な二重価格表示を行った店舗を見過ごすなど、いろんな問題点が浮上している。その都度、経営トップは釈明するが、高額転売の問題には全く及び腰だ。


服にダイナミックプライシングは馴染まない



 GAFAに対する規制強化は、日本でもネット事業者向けで法制化されるのだろうか。その過程で高額転売が「自社製品を優遇する」として規制の対象になるのかである。ネット事業者はあくまで場所を提供しているだけで自社製品ではないとの言い訳もできるが、米国的な視点で考えると、サイト上で公開している商品が高額転売される有利さと利ざやで収益をあげている点では、自社製品と十分見做される、だろうか。日本の法解釈では何とも言えないが。

 他方、メーカーや流通がダイナミックプライシングを導入すれば、定価信仰が改められて消費者の意識も変わるという意見もある。ただ、それは宿泊料や航空券といった繁忙期と閑散期で需要と供給に著しく変動があるような業種に限られる。コンビニの配送サービスのように本来は店舗に出かければ済むところをあえて配送を求めるのだから繁忙、閑散で料金体系を変えながら、要望に応じるというサービスでは成り立つと思う。

 だが、アパレルのような商材では、メーカーが原価に経費やマージンを加えた卸価格は販売価格の何割が妥当かを判断して設定し、小売店はそれを売価から差し引いた額を利益とする。ユニクロは製造から卸、販売までを自社で一貫して行うSPAで、間に業者を介在させないことで原価コストをかけ質を上げた商品を製造し、かつ販売価格を抑えて消費者の支持を得てきた。

 +Jであっても原価率はレギュラーの商品とそれほど変わらず、それに適正利益を載せて販売価格を決められる。売価が多少割高なのはジル・サンダーのロイヤリティとデザイン監修料が載った程度。コラボ商品で人気があるから、高額転売をダイナミックプライシングの感覚で捉えてもいいという考えには馴染まない。逆に欧米のラグジュアリーブランドが高額なのは、素資材を最高級のものを開発し、自前の工場で専門の職人が製造、管理にまでも相応のコストをかけているからだ。

 莫大な利益を得ていると批判されるラグジュアリーブランドであっても、原価コストの何十倍という暴利優先のビジネスを展開しているわけではない。まして、+Jのようなローコスト生産のブランドが二次流通だからと十倍掛けで高額転売されるのであれば、コラボ企画がスタートした背景にある協業精神から大きく外れ、一般消費者に対するユニクロの信頼も揺らぐ。ひいてはブランドイメージが毀損されかねない。

 おそらく転売ヤーは「何倍掛けなら、売れるか。そして、購入する価値があるか」と、思案の最中だろう。一方、メルカリやヤフーのユーザーは、転売ヤーの存在を十分に認識している。そして、ユニクロは昨年同様に「転売目的に購入した商品については、返品を受け付けない」旨をサイトで告知し、対策をとるはずだ。

 それが転売防止にどこまで有効なのかはわからない。ただ、この秋冬の+Jは今週の金曜日12日から国内234店舗で全商品が発売される。販売する店舗が増えているため、昨年のように転売ヤーを含めて購入希望者が一部の店舗に集中することは避けられると思う。

 それでも、商品を購入したお客がいろんな理由で返品するのは自由だから、転売ヤーもそれなりの行動を取ると思う。昨年はあまりに高値をつけたアイテムは売れていなかった。当てが外れた転売ヤーも少なくないと思う。購入点数は制限されているし、転売ヤーは即売できなければ在庫になるから、価格を下げないと消化できなくなる。

 ユニクロ側も時間が経てば不良品でない限り、返品は受け付けないだろう。転売ヤーがそのタイミングをどう見極めるか。高々1〜2点の商品で返品や投げ売りになる憂き目を考えれば、寒空の下に早朝から並んだり、アクセスが集中するPCの前で格闘しても割に合わない。結局、転売だろうと、売れるか否かは市場が決める。市場は学習するし、それだけ変化も激しい。オークションや個人売買という極めて不確かな取引環境のもとでは、それが成立しなければ売上げも立たず、利益も出ない。それだけは確かである。
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人流を生むスタイルに。

2021-11-03 06:37:49 | Weblog
 小売業はコロナ禍でどれほどのダメージを受けたのか。経済産業省のデータによると、2020年の商業販売額は前年比−9.5%の約503兆円。そのうち約3割を占める小売業は同−3.2%と、思ったほど減少していない。業態別ではスーパー、家電大型専門店、ドラッグストア、ホームセンターが前年より増加し、百貨店、コンビニエンスストアは減少した。

 スーパーは巣ごもり需要で1社あたりの売上げが4年ぶりに増加に転じ、2年ぶりに前年比増となった。一方、百貨店は休業や短縮営業、外出自粛、インバウンド消費減少などが響き、各社の販売額は激減した。コンビニエンスストアも出勤回避や外出自粛などの影響で、1社当たりの販売額が減少し、1998年の調査開始以来、初めて前年比で減収となった。

 スーパーやドラッグストアの増収が百貨店、コンビニエンスストアの減収分をカバーしたことで、小売業全体の落ち込みを和らげたと言えるだろう。ただ、好調だった商品カテゴリーのは飲料や食料品で、衣料品はスーパーも百貨店同様に減少している。



 2021年はどうか。上期の商業販売額は前年同期比+4.8%で、約267兆円。小売業は同3.4%増加した。業態別にみると、百貨店、コンビニエンスストア、家電大型専門店では前年同期より販売額が増加し、スーパー、ドラッグストア、ホームセンターは前年に売上げを急伸させた反動が出て減少した。

 百貨店、コンビニエンスストアについては、自粛の反動で外出するケースが増え、店舗販売に揺り戻しが起きたと考えられる。特に百貨店は消費者が買い物に出かけたことから、21年上期の販売額は前年同期比で増加に転じた。商品別では「身の回り品」や「宝石貴金属」などが増加に貢献したが、衣料品が回復したというデータはない。
 
 こうしたデータは経済産業省が商業動態統計を元に分析し、レポートにまとめた言わば表の部分。都市の一等地に店舗を構える百貨店が休業や短縮営業で、フリースタンディングのスーパーやコンビニエンスストアが巣ごもりの影響などで売上げが変動するのは、消費者が買い物するかしないかの直接的な要因が関係している。

 しかし、出勤回避や外出自粛で公共交通の利用も減ったわけで、当然駅ビル、駅中やバスターミナルのショッピングゾーンなども影響を受けたと思われる。これは裏というか、二次的な影響なためデータが表に出にくいが、販売額の減少は相当に深刻だった。


人流に頼る駅ビルも大幅な売上げ減

 筆者が生活する福岡では、JR九州が多角化の一環で「駅ビル事業」に注力している。しかし、2020年はコロナ禍による出勤回避や外出自粛で鉄道利用客が激減し、駅ビルの「アミュプラザ」は総じて大きく売上げを落とした。



 まず、JR博多シティは20年3月期の売上高が前期比2%減、1168億円だったのに対し、21年3月期は同37%減の729億円。前年比で4割近くも下がり、開業した11年を下回る過去最低となった。入館者数も同前年比41%減の4035万人に低下。4〜5月の休業やその後の時短営業によるところもあるが、鉄道利用客が減れば駅ビル自体が影響を受けることを露呈した。



 20年10月、JR宮崎駅に開業した「アミュプラザみやざき」は、初年度売上げ(20年10月14日〜21年3月31日)が29億円で、入館者数は490万人だった。こちらは通常年度の営業期間ではないので一概に言えないが、21年1月〜2月には売上げが急激に落ち込でおり、これはコロナ禍が影響したとみて間違いない。JR九州はこの結果を受けて、アミュプラザみやざきで設定した年間の売上げ目標70億円の達成は難しいと、撤回した。



 宮崎より深刻なのが熊本だ。21年4月、JR熊本駅に開業した「アミュプラザ熊本」。JR九州によると、同駅ビルも開業後に発令された緊急事態宣言の影響などにより、売上高は開業半年で計画比の6割どまりという。熊本駅の2020年度の乗客数は前年度から4割減ったというが、21年度も回復していないようで、アミュプラザの開業景気も何ら追い風にはならなかったことがわかる。

 では、コロナ禍が終息し、人流が以前に状態に戻れば、駅ビルは売上げを回復できるのだろうか。これについては駅ごとの性格や周辺環境、市場性によっても違ってくると思う。例えば、宮崎は観光地としての性格が強かっただけに、ニシタチ(橘通西)と呼ばれる中心商店街などには集客力を持つキラーコンテンツとなる業態が皆無だった。

 そんな中、アミュプラザみやざきの開業により、「ビームス」「ミラオーウェン」「センスオブプレイス」「ジーナシス」「レトロガール」などの宮崎や南九州に無かったファッションブランドが初出店。これらはすでにオンラインでも購入できるが、現物を見たことがない地元の若者にとっては、わざわざ店舗に出かける動機にはなったはずである。

 また、アミュプラザ宮崎には飲食コーナーも充実し、おしゃれをして出かけるデートコースとなったのも事実。地元のシンクタンクも「駅周辺の人通りが目に見えて増加し、(アミュプラザの)開業がプラスに働いた」との調査結果を発表している。つまり、それまで鉄道利用客だけの駅に商業施設を持つ駅ビルを併設したことでそれ以外の集客を果たし、街を活性化させたのは間違いない。

駅ビルにこそキラーコンテンツが欲しい

 一方、熊本はどうか。こちらは中心市街地の「通町筋」に百貨店、ファッションビル、同「辛島町」のバスターミナルにショッピングゾーンがあり、商店街の路面店を含めてラグジュアリーからセレクト、ストリート、渋谷109系などまで、日本のファッションブランドのほぼ全てが揃う。しかも、駅自体が中心部から外れたところにあるため、アミュプラザ熊本の開業以前から鉄道利用客や観光客以外のお客が増えるとは考えにくかった。

 中心部の路地裏には小洒落たカフェやスウィーツ店、レストランも立ち並ぶので、若者のみならず大人が食事にでかけるにしても、中心市街地で十分に完結する。地元では若者向けのマーケットがすでに形成されていたことから、アミュプラザ熊本には中高年をターゲットとする百貨店誘致が期待されたようだが、JR九州側は定期借家のSC路線を貫いた。しかし、テナントの顔ぶれを見ると、わざわざ出かけてみたくなるようなインパクトは乏しかった。

 これでは緊急事態宣言の発令などがなくても、計画通りに売上目標を達成できたかには疑問符がつく。JR九州は鉄道事業を補完するために不動産や小売り、飲食などの「非鉄道事業」を拡大を図っている。しかし、全ての主要駅に商業施設を併設すれば、新たな集客を生んで収益が伸びるというのがいかに幻想だったかは、アミュプラザ熊本が如実に示している。

 青柳俊彦社長は、2021年3月期の連結業績が上場後初の最終赤字となったことについて、「非鉄道事業も結局は鉄道や駅からの人流に依存していた」と反省の弁を述べた。言い換えると、駅ビル運営が人流頼みなら、わざわざお客を呼べるような施策も必要ということになる。ただ、県内在住の一般女性を公式アンバサダーに起用するような施策は経費面からやむを得ないのだろうが、集客力のアップという点ではほとんど効果はないと思われる。

 博多駅周辺のように官公庁やオフィス、ホテル、専門学校などが立ち並び、老弱男女が行き交うエリアなら日夜通じて人流があるため、駅ビルに人が集まるのは必然だ。だが、JR九州が熊本駅周辺で進めるビルやマンションの開発は緒に就いたばかり。定住人口が増える前に開業した駅ビルの不振は、周辺開発が後手になっていることを指し示す。

 消費者はコロナ禍による外出自粛で、オンラインショッピングの利便性をますます享受した。コロナ禍が終息すれば、これにオフラインを融合させたOMOプラットフォームが先鋭化してくるのは間違いない。その時に駅ビルはどういう立ち位置を取るのかである。

 従来通り、鉄道利用客への飲食サービス、観光・出張客向けのスーベニアに絞るのか。OMOの一環でクリック&コレクト利用客の商品受取拠点に堕してしまうのか。それともパルコや丸井のようにお客がわざわざ出かけてみたいD2C業態などをリーシングしていくか。JR九州は博多駅構内で「シェアオフィス事業」も始めたが、ならばアミュプラザの東急ハンズや無印良品にはないステーショナリーやデスクトップ商材を揃える業態もリーシングしなければ、相乗効果は発揮できない。

 SCも、駅ビルも施設を作れば、お客がやってくる時代ではない。新たな人流を生み出すリアルなコンテンツをいかに揃えるか。コロナ禍終息後にはますます重要になってくる。
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