HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

革は本物を指す。

2024-08-28 07:55:24 | Weblog
 日本産業規格(JIS)は、「皮革、革、レザーという言葉は合成皮革、人工皮革を除き、牛や豚などの動物の皮をなめして作られたものだけを指す」と、規定した。詳細は以下になる。

 1.革・レザー/皮本来の繊維構造をほぼ保ち、腐敗しないようになめした動物の皮

 2.エコレザー/皮革製造におけるライフサイクルにおいて、環境配慮のため、排水、廃棄物処理などが法令に遵守していることが確認され、消費者及び環境に有害な化学物質などにも配慮されている革(レザー)

 3.皮革繊維・再生複合材/革(レザー)を機械的または化学的に繊維状、小片または粉末状に粉砕したものを、乾燥質量で50%以上配合し、樹脂などの使用の有無に関わらず、シート状などに加工したもの

 4.合成皮革/基材に織布、編物、不織布などを用いて、表面にポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリウレタンなどの合成樹脂面を配して、革(レザー)の外観に類似させ、その特性である感触、光沢、柔軟性などを与えたもの

 5.人工皮革/基材に特殊不織布を用いて、表面にポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリウレタンなどの合成樹脂面を配して、革(レザー)の外観に類似させ、その特性である感触、光沢、柔軟性などを与え、銀付き革調に加工、または特殊不織布を立毛を配して、スエード調、ベロア調、ヌバック調に加工したもの

 


 かつて時計の革ベルトには「GENUINE LEATHER」と刻印されたものがあったが、JISは革、レザーとはなめした動物の皮でないと、呼べないことを明確にしたわけだ。こうした背景には、素材開発の技術が進歩したことがある。動物由来でない原料からでも、天然皮革とみまごうばかりの素材が作られるようになったからだ。

 ただ、天然皮革は丈夫で、保湿性があり、吸湿性にも優れ、使うほど体や手足に馴染んでくる。本来ならそれを「革」と呼ぶべきで、フェイクをつければ革ではないにも関わらず、イメージだけは革だと受け取られてしまう。JISは「それはダメだ」と規定したのである。

 また、近年ではSDGs(持続可能な開発目標)が叫ばれるようになった。そのため、「自然に優しい」「環境に配慮した」「エコ素材」という特徴を前面に出した「〇〇〇レザー」が開発されるようになった。これは動物由来の革とは異なるのだが、消費者に好意的に受け取られるので、本来の革、レザーとの線引きが曖昧になっている。サスティナブルやエコを謳えば、それが動物由来よりも環境に良くて、優れた素材だというのは全くの誤解と言える。

 動物由来の革は有史以来、人間が肉を食べる過程において発生する畜産副産物である。歴史的に見てもこちらの方がサスティナブルであり、古来から人間の生活と密接に繋がってきた動物の死を弔い、供養するという点でも価値あるものだ。動物由来でない素材に革やレザーという用語が使われることは、本来の革が持つ特徴が歪められて解釈される危険性もはらむ。そこで、JISは2024年3月からは革、レザーと呼べる製品とは「動物由来に限定する」と決めたのである。

 一方、毛皮、ファーについては、JISは規定していない。だから、商品名にファーと記載されても、リアルファーだけでなく、毛皮風素材全般を指すことになる。素材表示にも、ポリエステルと表記されても、商品名にはファーがつけられるわけだ。現物に触って質感を見れば、動物由来の毛皮が低価格のはずはないことがわかるが、ECが普及している現状を考えると、素材表記を明確にしないと戸惑う消費者もいるのではないか。

 動物愛護団体が声を上げたことで、高級ブランドでは毛皮の使用をやめたブランドもある。さらに英国議会はEU離脱後に毛皮の輸入の全面禁止を検討しているほどだ。毛皮業界は毛皮が皆フェイクになれば、それにファーの名称をつけることに納得できるのだろうか。別の問題も出てくる。JISは毛皮、ファーについても、国内ではしっかりした規程を示すべきではないだろうか。


ネット通販では未だ曖昧な表記がある




 8月も下旬に入ると、ネット通販各社から秋冬物のメルマガなどが届く。先日もZOZOTOWNから「BANANA REPUBLIC FACTORY STORE」のタイムセール情報が届いた。商品名には「ヴィーガンスエード ボンバージャケット」とあった。販売元がファクトリーストアとあるので、秋冬物の売れ残り在庫だと思われるが、シーズンに入れば売り切れるかもしれないので、「先買いした方がお得ですよ」とのレコメンドだろう。プロパー価格や割引率の表示がないので、正確なところがわからないが。

 BANANA REPUBRICのジャケットは、これまでZOZOTOWNでもブランド直販でも購入したことは一度もない。ZOZOTOWNでは、過去に各ブランドがジャケットにどんな革を使用しているのかを調べたことがあった。その時、検索ワードで「ボンバージャケット」「レザー」「スエード」などと入力したことがあるので、その履歴からAIが判断してメルマガを送ったのではないかと思う。

 MA-1タイプのボンバージャケットは、デザインがシンプルなのでトレンドに左右されず、ファッションアイテムとして各ブランドが素材替え(本物はナイロンだが、ポリエステル仕様)、メンズ・レディス取り混ぜなどの企画で売り出している。一方、2年前には映画の「トップガンマーベリック」が公開され、1980年代の前作を知らない層にボンバージャケットをアピールするには絶好のタイミングだった。これもボンバージャケットがリバイバルするきっかけになったと思われる。

 今回、ZOZOTOWNからレコメンドされた商品は、商品名にはヴィーガンスエード ボンバージャケットと記載されている。商品名だけを見ると、サボテンなどを利用して作られた植物由来の「ヴィーガンレザー」なのかと思ってしまう。ただ、スエードと表記されているものの、レザーの表記はどこにもない。素材の表記を見ると、ポリエステル100%とある。曖昧な表記になるが、JISの規定には触れていない。

 JISが皮革、革、レザーという言葉は合成皮革、人工皮革を除き、牛や豚などの動物の皮をなめして作られたものだけを指すと規定したのは2024年3月だ。ヴィーガンスエード ボンバージャケットが前シーズンの商品だとすれば、規定される以前のものだからと言い訳もできるだろう。それでもレザーという表記をしていないし、素材名ではポリエステル100%と表記しているので問題はないと言える。

 ただ、商品名のヴィーガンスエードの表記はどうなのだろう。元々、ヴィーガンとは肉や魚、乳製品、卵などの動物性食品を一切食べず、レザーや羽毛のような動物由来の製品も消費しない完全菜食主義者、またはそのライフスタイル(完全菜食生活)のことを指す。そこから派生して、植物由来の革製品にヴィーガンという名称が付き始めたのは、2年くらい前からだったと思う。



 2022年1月、米ラスベガスで開催された技術見本市CESで、ドイツのメルセデス・ベンツがEVのコンセプト車を出展したが、この座席シートにサボテンから作られた革(cactus leather)が使用された。同年4月には、LVMH傘下のジバンシィがリップバームの容器にサボテンから作られた合成素材の「デセルト」を使用した。これを製造したのは、2019年に創業したメキシコのアドリアーノ・ディ・マルティ社だ。時計ベルトではサボテン由来の革は、はっきりcactus leatherと刻印されているものもある。

 サボテンはメキシコ各地で自生し、少量の水で育つので灌漑設備が不要。伐採ではなく、毎年成長する葉先をカットするので、環境にも優しい。植物なので二酸化炭素を吸収する上、廃棄されても自然の中で分解される。デセルトは収穫した歯をすりつぶして乾燥させ、別の素材を配合して天然革に近づけた。合成素材に占めるバイオ素材の構成率は現在80%までになっている。それがいつの間にか、メディアなのか、開発者側かのどちらかが、植物由来の革の総称を「ヴィーガンレザー」と呼び始めたわけだ。

 こちらについてはJISの規定に照らし合わせると、ヴィーガンレザーは動物の皮をなめして作られたものではないので、日本ではレザーとは表記できないことになる。BANANA REPUBRICのヴィーガンスエードは、レザーとは表記していないのでJISの規定には触れない。だが、素材がポリエステル100%ということで、果たしてヴィーガンスエードと呼んでいいものか。この辺は国際的な機関が判断することになると思うが、個人的には曖昧に感じる。

 Z世代の間では環境への意識が高まっている。古着人気や廃棄衣料のリメイク、リサイクル素材への関心はそれを如実に示している。とすれば、商品名にヴィーガンなどの用語がつけば、注目は嫌が上でも高まる。アパレルやプラットフォーマーがそれを承知でEC向けの商品名を決めているとすれば、やはり問題ではないか。ネット通販に出品される商品でも、色やサイズは書かれているが、素材について表記されていないものも少なくない。リサイクルまで考えて購入するかどうかを決める消費者が増えていることを考えると、不十分だ。

 もちろん、革やレザーの表記が厳密に規定されたのは、業界団体の地道なロビー活動があったのは、言うまでもない。消費者がしっかり確認すればいいことなのだが、ECがすっかり浸透した中で、曖昧な素材表記は消費者を惑わせるし、本物とみまごう名称でネット事業者がアクセス増を狙う意図なら問題だ。商品名は本物を指すということ。紛い物は消費者の信頼を無くすだけでなく、事業者の信用も失わさせると考えるべきだ。

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