HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

時短は質を上げる。

2022-03-30 06:30:14 | Weblog
 昨年の秋だったか、知り合いのメーカーさんとのZoom会話で、「大手が国内生産に切り替えていくらしいよ」との情報がチラホラ出た。年末には業界メディアはじめ、経済紙にも「ワールドやTSIホールディングスが国内回帰を進める」との見出しが躍った。

 第一報は、「ワールドが百貨店向けの高価格帯ブランドで、今後3〜5年のうちに大半を国内生産に切り替える」というものだった。ジャケットやドレスといった価格が高いアイテムなら、原価をかけられる。むしろ素資材のレベルを上げて上質なものを作れば、去っていたお客を取り戻せるかもしない。そう考えるのは当然だろう。

 宮崎や山形にもつ自社工場を持つTSIホールディングスも、そちらの生産枠を拡大する検討に入ったとのこと。下地毅社長は「コートやジャケットなどを短納期・少量で生産する実証実験に取り組み、将来的には国内生産を3割から5割に高めたい」と、コメントした。

 今年に入り、大手アパレルの国内回帰は本格化している。背景には円安や人件費上昇による海外生産のコスト増大がある。さらにコロナの感染拡大で工場のロックダウンや物流の混乱が追い討ちをかけた。それでなくても、海外生産はリードタイムが最低でも2ヶ月ほどになる。加えて防疫対策の強化で通関に時間がかかれば、売る時期に商品が揃わず機会ロスを生む。やっとのことで商品が入荷した時はすでに遅し。不良在庫になってしまうのだ。

 一方、コートやドレス、ジャケットなどの高価格アイテムは、昨年秋くらいから売り上げが回復している。コロナ感染の完全終息は見通せないが、消費者の多くが過去2年の巣篭もり生活に飽き、感染対策を徹底した上で街に出かけ始めた。ならば、「いい服を着て行きたい」との気持ちになるのが人間だ。

 国内工場なら素資材のストックさえあれば、2週間ほどで納品できる。売れ方の動向を見ながら商品をフォローできるし、大量の在庫を抱える心配もない。ターゲットを絞り込み、時間をかけて企画する。そんな商品をお客さんに購入してもらうには、短納期・少ロット生産が理想的だ。時短は商品の質を上げることになる。



 振り返ると、なぜワールドのような大手が海外生産にシフトしたのか。それにはグローバル化だけでは語れない「圧力」があった。1990年代初め、日本はバブルが崩壊して不況に突入した。百貨店販路を強化してきた大手アパレルには、百貨店側から売上げダウンを利幅で埋めるために売上手数料、いわゆる歩率のアップ(一説には2000年まで10%以上上昇)を要求された。それはワールドとて例外ではない。

 当然、アパレルとして利益を確保するには、歩率アップ分だけ減価率を切り下げざるを得ない(33%から20%まで低下)。そこで生産をコストの安い中国などにシフトしたが、減価ダウンはクオリティなど商品価値まで下げてしまった。結果的にそれまで百貨店でアパレルを購入していたお客が駅ビルやSCに奪い取られてしまったのである。

 一方、2000年には改正借地借家法と大規模小売店舗立地法が施行された。借地借家法によって保証金などの出店費用は減額されたが、商業施設側がその分を家賃に転嫁したため、テナント側の家賃は4%ほど上昇した。また、大店立地法で営業時間が延長され、スタッフのシフトを2交代制にせざるを得ないなど、人手不足で人件費のアップを余儀なくされた。

 TSI(統合前のサンエーインターナショナル)は駅ビルやSCが主な出店先であったが、法改正による競合ブランドの出店攻勢で競争激化に追いこまれた。それを優位に戦うために多ブランド化と価格戦略を取ったが、同質化と価値の低下を生んで販売効率を年毎に落としていった。SCに出店するアパレルの平均的な販売効率は、2017年には00年対比で70%以下に低下。これはサンエーインターナショナルも例外ではないだろう。


技術力向上に伴い、生産委託先は流動的

 ローコストの海外生産は大量生産、大量販売を前提とする低価格でベーシックなブランドならいい。しかし、トレンド先取りのデザインとか、立ち上がりの売れ行きがわかりづらいものは多品種、少ロット、短納期が条件となる。海外生産には不向きなのだ。

 大手アパレルの国内回帰は、人件費の上昇やコロナ禍による物流の混乱が後押しして、やむ負えず経営陣が決断を下したかたちだ。しかし、それ以上にメリットがある。まず、納期遅れなどの万一のトラブルが解消できる。また、リードタイムが短縮されることで期中にマーチャンダイジングを修正したり、売り行き好調なアイテムに追加生産をかけることも可能だ。



 国内生産では何より商品企画から素材調達、縫製までをコントロールしやすく、機動的に進められるメリットの方が大きい。筆者が仕事をしたメーカーでは、期初すぐに完売したアイテムを別生地を使って追加生産したことがある。逆にこの意外性がバイヤーさんに受けて、追加オーダーも売り切れるという好結果につながった。国内生産はこうした副産物をもたらす。

 ワールドは今後3〜5年で高価格帯商品の大半を国内生産に切り替えるそうだ。8つの自社工場に加え、外部の工場とも協力体制を築くとか。新入社員や新人の待遇改善にも取り組む考えというから、国内アパレル産業に薄日がさせば、それはそれでいいこと。というか、大手としての本気度が試されることにもなる。
 
 TSIは国内と海外の生産をはっきり分けていくという。「マーガレット・ハウエル」は上質な素材や縫製を維持するために国内生産だったが、この方針は貫かれる。若者向けの「ナノ・ユニバース」は、企画の段階である程度需要が見込まれる定番アイテムは海外での量産を行い、売れ行きに応じて追加するものは国内で生産するようだ。



 同ブランドはこの春、WEBプロモーションで「ナノ・ユニバースの変化が始まります。」とのスローガンを掲げている。1999年のスタート時はセレクトショップ(正確には自社PBと仕入れ商品のミックス型)の体裁をとっていたが、ブランド名の浸透に伴いMDの強化を狙ってSPA化していった。今後は6つのレーベルにゴルフを加え、マルチレーベル体制でいくというから、顧客のエージスライドでもがっちり捕捉する戦略のようだ。

 「ブランドは着たいが、それほど高い商品でなくてもいい」。こうした客層に合わせるには、やはりローコストの海外生産で価格を抑えなければならない。ナノ・ユニバースは客側をマルチレーベルというスタイルで飽きさせない一方、メーカーとしては海外生産で効率を上げ、マルチな多品種でも利益が出せる体制を組むと見てとれる。

 Webサイトの写真を見たが、商品の質感はそれほど良くないのがわかる。それを消費者がどう判断するかだ。もちろん、筆者は国内生産=善、海外生産=悪と言うつもりはない。ブランドの性格やターゲットによって柔軟に切り替えればいいのである。

 フランスのあるメーカーは、ニットではレギュラーとプレミアムの2つのレーベルを持つ。両方ともデザインはミニマルで、シーズン変化は編み地くらい。じっくり売り減らせるので、リードタイムが長い海外生産も許容できるから、生産は「バングラデシュ」で一本化している。担当MDはコストダウンとクオリティ維持の両方を追求しても海外で十分いけると判断したのだ。筆者は両レーベルとも着ているが、レギュラーがプレミアムに比べクオリティが低いとは感じない。

 消費地に近い場所で生産する取り組みを「ニアショアリング」と呼び、欧米のアパレルでは状況の変化に応じて生産工場を移転させるのが常道になっている。米国の大手コンサルティング会社によると、グローバルブランドの38社と小売業者の7割が今年からニアショアリングを増やす計画という。

 そう言えば、筆者が所有するA.P.C.のコートは、「ウクライナ製」だ。ロシアの軍事侵攻でキエフほかの主要都市の様子が報道されない日はない。テレビ映像ではハプスブルグ家の流れをくむ歴史的な建造物を目にする一方、コンクリートの無機的な建物を見るとソ連時代の工場群の名残かと思ってしまう。

 フランスのブランドが生産を委託したくらいだから、ソ連崩壊で計画経済の呪縛から解き放されると、ファッション衣料にも対応できるように縫製産業の技術向上を進めたのだろう。ただ、今回のロシア侵攻とは関係なく、A.P.C.のコートやジャケットは現在、ルーマニアで生産されている。以前からイタリアブランドの生産も担っており、委託しやすい土壌なのだ。

 アパレル産業はグローバルの変化にさらされやすく流動的だ。すでにアジアの他、東欧、中近東、南部、北部のアフリカには日本国内と同等の品質を提供できる工場がある。技術力の向上は日進月歩なのだし、途上国の振興を視野にSDGsの実践まで含めれば、大手がいつ掌を返すとも限らない。国内工場にはそれにも動じない研鑽が不可欠なのである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ユーザーが監査役。

2022-03-23 06:33:35 | Weblog
 先日、事務所の書棚を整理していると、10数年前にコムデギャルソンの監査部から送付されたビジネスレターが出てきた。書面作成の日付は平成22年10月1日、差出人には同社監査役の氏名が記されている。

 当時、コムデギャルソンの福岡店が事務所マンションの前に移転して数年が経っていただろうか、筆者が遅めの出勤をする時は開店準備中のスタッフが挨拶をしてくれた。だからではないが、過去に何度か購入したこともあったし、事務所前のショップを無視するわけにもいかない。そこで、シーズン初めの商品投入時には必ずショップを覗くようになった。

 ビジネスレターは、筆者が海外通販で購入した「PLAY」のポロシャツが「偽物」と疑われたので、コムデギャルソン本社に真贋を依頼し、法務セクションを務める監査部から回答されたものだ。文面の冒頭には、「貴方様よりの郵便物を拝受致しました。ご同封された商品は全く粗悪なコピー商品でした。ご参考までに簡単な比較表を同封致しました。ご笑覧ください」と、丁寧に記されていた。



 当時、PLAYはコムデギャルソンの中でも大ヒットアイテムになっていた。筆者も最初はショップで購入したが、5〜6年着たのでリピートしようと思っていた。福岡店のスタッフに在庫の有無を訊ねると、欠品状態で入荷の時期はわからないという。日本人はさる事ながら、その頃から増え始めた訪日中国人観光客が買い漁っていたのだ。そう言えば、福岡店でも中国人旅行者らしき母子が開店を待っている光景を何度か見かけたことがある。

 そこで、ネットでPLAYを探してみると、海外のセレクトショップを中心にラインナップされていたので購入した。もちろん、サイトの写真は本物を使っているだろうし、現物を確認するわけではないから、リスクは承知の上だ。もし、偽物をつかまされたら、その真贋証明とともにショップ側と返品交渉すればいいくらいの感覚だった。そしたら、案の定だった。

 PLAYの国内販売は2003年頃から始まった。回答にも書かれていたが、06年には正規ではない香港発の大量メール販売が発覚した。コムデギャルソンにとって、この種の案件は初めての経験でプロバイダーとの接触も試みたが、結局防止することはできなかったという。その後、対策として現地(海外)のフランチャイジーと協力してアクションを起こすということで、すでに交渉に入っているとのことだった。

 あれから10数年、コムデギャルソンだけに止まらず有名ブランドの偽物は減るどころか、増え続けている。企業側もいろいろと対策を講じているようだが、追いついていない。特にここ2年ほどはコロナ禍の影響で、ネット通販でブランドを売買するケースが増え、偽物と承知の上で輸入し転売する輩もいる。財務省発表のデータによると、2021年の税関による知的財産侵害品の輸入差止件数は2万8270件にも及ぶ。

 水際で一旦差し止められても、輸入した人物が「個人で使うために購入した」と言えば、合法と見なされて税関をすり抜ける。多くが法の網を掻い潜る確信犯の仕業だと言ってもいいだろう。税関が差し止めした何倍もの偽ブランドが堂々と国内に入り、流通しているのである。

 ブランド品は「意匠権」や「商標権」を有し、法律で保護されている。意匠とは主にデザインを指す。ブランド企業が長い歴史の中で培った伝統の技と絶え間ない努力で生み出したもので、商標はロゴ・マークとしてそれを証明するものだ。なのに、第三者がいとも簡単に模倣・偽造して、消費者を欺き収益を上げることが許されるはずもない。

 この秋までに施行される改正商標法では、海外の「事業者」が偽ブランド品を郵送などで日本国内に持ち込む行為を「知的財産の侵害」にあたると規定した。違反したものは10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金に処され、または懲役刑と罰金刑が並行して科される場合もある。企業のスタッフが商標権等の侵害を行っても、企業は3億円以下の罰金刑を受ける。だが、対象はあくまで輸出事業者、つまりビジネスとして行う側で、個人になると規制の対象にはならない。もちろん、海外の事業者を国内法で裁くのは容易ではない。

 一方、輸入者の中には個人を装って偽ブランドを買い付け、転売などで不当な利益を上げるものがいる。そのため、国は税関法を改正して個人での使用目的でも輸入の経緯や目的、輸入者の情報を確認できるように書類提出が義務付け、偽ブランド品の輸入と転売を防止する構えだ。しかし、これがどこまでの実効性を持つかはわからない。では、どうすれば、偽ブランドの国内流通に歯止めがかけられるのか。


刑法犯の認定、刑事処分、ネット事業者の告発

 まずは販・転売ができないようにすれば、個人だろうと個人を装った事業者だろうと、偽ブランドを製造したり買い付けたりしても無意味になる。仲卸というか、国内での「買い手」の存在を断つことが偽ブランド品が国内に入るのを防ぐ早道だ。販・転売をしているかどうか確かめるには、個人輸入を装っても収益を上げることが目的=業として行っているのだから、同じブランドの出品数量が多かったり、別のものでも販・転売の回数が増えてくるはずだ。

 流通ルートが実店舗なら発覚するリスクが高まるから、今ではほとんどがネット通販だと思われる。価格を吊り上げるオークションならヤフー、個人売買ならメルカリなどのサイトがメーンの販路だろう。こうしたサイトの運営事業者は現状でも違法な出品や転売などをチェックをしていると思うが、アカウント停止からもう一歩厳格な処分に踏み込むべきではないか。

 まずは会員登録を精査して同じ人物が複数のアカウントを持っていないかを確認する。その上で出品・販・転売が複数回(厳格にするなら2回目から)に及んでいる場合は、警告を発し従わない場合は登録禁止とする。もちろん、あの手この手で再度出品・販・転売を行うだろうことも想定し、会員情報をブラックリスト化してネット事業者間で共有してはどうだろうか。クレジット会社で行われている信用情報と同じような手法である。

 メジャーではない闇ルートの個人売買アプリもある。ここまでになると、衆人環視は難しいのでプロバイダーがチェックを厳格にするとか、警察のサイバー犯罪課が摘発に乗り出すしかない。それでも、限界があるので偽ブランド品の輸入・転売などを専門にチェックできるAIの1日も早い開発が待たれるところだ。

 ネット事業者が偽ブランドに流通の場を提供し、反社会的で違法な行為を締め出せずにいることは、やはり問題と言わざるを得ない。極論すれば、行政府もネット事業者の無作為は偽ブランド販売に加担していると判断する姿勢で、行政指導の項目に加えてもいいのではないか。

 一番の抑止効果は刑事処分に尽きる。刑法には「私文書偽造罪」がある。偽り名義の文書・図画(とが)または内容が偽りの文書・図画を作る行為とそれを使う行使は、それぞれ3ヶ月以上5年以下の懲役(拘禁)に処せられる。私文書には保険の申込書や会社名義の売買契約書、定期預金証書などが該当する。図画は絵柄、図案だけでなく写真や映像、未現像のフィルムなども含まれる。

 文書・図画が偽造され行使されるのは、相手側を騙して金品などを奪う詐欺目的、または不当な収益を上げることを前提にしたもの。だから、偽ブランド品の国内流通についても、私文書偽造・行使と同程度の違法性を認定し、処罰すべなのだ。




 これだけインターネットが消費者に浸透すれば、違法なビジネスがグローバル化するのは言うまでもない。なのに輸入した側、販・転売する側が個人だから、「(偽造品とは)知らなかった」「個人の自由は保障すべき」という観点で許していれば、野放し状態は永遠に続く。

 ネットリテラシーという言葉がある。今のネット社会では皆が様々な恩恵を受けているのだから、ルールを知らなかったは法的に善意ではなく、無知以外の何ものでもない。偽ブランドの流通が反社会的な行為であることを見れば、悪意(知っていること)があって然りと見做してもいいと考える。法的な善意・悪意は民法上での問題だが、他人を害する意思で用いられる場合もあるのだから、刑法にも規定が必要だ。

 もちろん、法律だけで抑止するのは限界がある。ヤフーやメルカリなど販・転売の場所を提供し、莫大な収益を上げている事業者は、もっと偽ブランドの流通に目を光らせなければならない。そして、ルール違反は積極的に刑事告発に踏み切ることだ。これには一般のネットユーザーの協力も不可欠になる。

 ちなみにコムデギャルソンの偽物については、本社監査部が真贋を証明したビジネスレター、比較表のコピーとそれら英語訳を販売先のセレクトショップ、クレジット会社の双方に送付した。当然、クレジット会社は「当社には非も過失もない」と言い張った。セレクトショップには「決済無効を了解してくれれば、公にはしない」旨を通知し、何とか店側に販売した商品が偽物であり、売買契約が無効であることを認めさせた。あとはクレジット会社にショップ側と交渉してもらい、数ヶ月の審査期間を経て当方の支払いは免除された。

 通販やオークションのサイトにはレビューがあるが、たまに「偽物をつかまされた」という書き込みを見かける。被害者が事後どんな対処をしたのかまではわからないが、泣き寝入りするケースも少なくないと思う。だが、被害にあった皆が声を上げないと、ネット事業者は動かないし、まして販・転売している輩が堪えるわけが無い。いくらやってもイタチごっこという意見もあるが、それでも一つ一つを潰していけばいい。正規のブランド流通を守るためにも、ユーザーこそが監査役たるべきなのである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

皮算用は程々に。

2022-03-16 06:39:00 | Weblog
 ECの拡大で、運送事業者が扱う物流量が爆発的に増加。これに伴い、首都圏をはじめ近畿などの大都市近郊では、大型物流施設の建設ラッシュに湧いている。筆者が暮らす福岡県でも、咋年1年間に延床面積で合計10万9000m2も施設が開発された。これから24年1月までに15物件が開発予定で、今年、来年はそれぞれ同30万m2以上に達する見込みだ。

 ECは過去10年の伸び率が平均8%以上あり、福岡都市圏では荷物を集荷し仕分けする物流施設の空室率は0%と言われる。ところが、福岡市は九州で最も人口が増加しており、市周辺の用地は住宅地や商業地に活用されるため、施設用地の確保は容易ではない。賃料は施設の供給不足で上昇傾向にあり、2021年12月時点で福岡近郊では1坪あたり400円も急騰した。



 デベロッパーが商業施設、オフィスビルに次ぐ事業の柱に位置付けるのも当然だろう。地場大手の「福岡地所」が2020年に福岡市東区に開発した「ロジシティ」(延床面積4万7150m2)は、その名の通り物流専門の施設だ。JR九州も福岡県粕屋町に食品卸向けの施設用地(延床面積1万2375m2)を確保し、物流不動産事業に乗り出すと表明した。

 自治体も動き出している。北九州市は今年1月、今後10年間で1000億円の民間投資を呼び込む物流拠点構想を策定した。本州と繋がり、港湾や空港を完備する地の利をアピールして施設を誘致する考えだ。これには「2024年問題」も影響している。働き方改革関連法により、トラック運転手の労働時間に上限が設けられるモーダルシフト制に移行。ドライバー1人が運べる距離が短縮される。法律の施行で物流手段が鉄道や船舶、航空に置き換わる可能性があり、駅や港湾、空港といったインフラが整う同市には追い風と見たようだ。



 海外企業も福岡には注目する。香港の物流開発大手ESRは、朝倉市の自動車学校跡地約7万m2で施設の開発を進めている。こちらは大分高速道路・甘木インターから車で4分の好立地。九州には健康食品や化粧品のメーカーが多く、そのほとんどが通販事業に注力する。将来的な越境ECの拠点としても、十分にポテンシャルがあるとの判断だろう。

 加えて投資環境の変化もある。コロナ禍でリモートワークが浸透し、オフィスビルは空室率が上昇。ホテルは訪日外国人観光客が減少し、商業施設は外出自粛で大打撃を受けている。オフィスビルやマンション、ホテル、商業施設ではテナントの入居や集客が見込めないことから、投資マネーが「物流施設の方が利回りが良い」と流れ込んでいるのだ。

 2020年の物流施設への投資額は、全国で過去最大の1兆4000億円にも及ぶ。不動産投資に対する割合も19年は19%だったものが、20年には31%に拡大。施設は商業や観光と違い、内装やアトラクションなどの設備が不要のため、初期投資が抑えられる。それに対して高いリターンがあれば、投資先として振り替えられていく。まさに物流バブルの様相だ。

 ECの大消費地では施設開発や賃料は、注文者の玄関先まで届ける「ラストワンマイル」への対応がカギを握るとも言われている。これは従来、物流拠点を集約して配送の部分を宅配事業者に委託する仕組みから、より注文者に近い場所に配送拠点を設けることで、最後の1マイルを縮めてサービスを強化することだ。

 ラストワンマイルに対応すれば、物流施設は人口密集地に近くて小規模なものになる。現に物流不動産大手のプロロジスが東京足立区に開発した「アーバン東京足立2」は、3階建てで延床面積約6400m2のコンパクトな施設だ。しかし、4トントラックが直接2階にアクセスできるスロープを併設し、フロアを分けて2社への賃貸を可能にした。首都圏の変化はそのまま福岡にも通じるだけに、状況を冷静に見ていかなければならない。

物流施設はOMOにも左右されるか?

 もっとも、首都圏では家賃相場にも変化が出始めている。一五不動産情報サービスが今年1月に実施したアンケートによると、半年後の物流施設の賃料水準の見通しでは「上昇」の回答が44.2%なのに対し、「横ばい」が52.6%で上回ったという。物流拠点の供給増加と物流需要の増加が均衡していくとの見方からだ。

 実際、1都3県で延床面積が3万3000m2以上の施設の実質賃料は、昨年10~12月で3.3平方メートルあたり4470円。同4~6月から横ばいという。今年から来年かけて物流施設の供給は過去最高を更新する見込みだから、ECを強化する通販企業や委託先配送会社の誘致競争の激化で、賃料が上がりにくい状況になっていく。



 ヤマト運輸の小口貨物取扱実績でも、昨年10月からは前年同月比10%を下回るなど鈍化傾向にある。物流施設の供給が盛んになればなるほど、逆に小口貨物の賃料には値下げ圧力となって跳ね返ってくるわけだ。しかも、アパレル業界ではオフライン(店舗)とオンライン(EC)の融合をさす「OMO」に軸足を移すべきと提唱され始めている。これから15物件も開発される福岡の施設賃料にどう影響するかも考えなければならない。

 ECは消費者に通販サイトで購入してもらうので人件費は抑えられるが、大手のアパレルやセレクトショップはブランド力を維持するために実店舗を抱えている。当然、店舗家賃などの固定費がかかるから、ECで注文し店舗受け取り、店舗出荷を行えば経費をカバーできるし、モールや倉庫の家賃も必要で無くなる。注文者にとっても商品を店で受け取れば、送料負担がないため、割安感が得られる。これがOMOのメリットだ。

 ZARAを運営するインディテックスは21年1月決算で、77%増の66億ユーロ(EC化率32.3%)とECが急激に伸び、EC比率も増大している。これは従来のような倉庫出荷から店舗の在庫を注文に応じて引き当て、店での受け取りや店からの出荷に全面的に切り替えたことによるものだ。

 倉庫から出荷して宅配に対応しようとすれば、関東や関西といった大都市圏に倉庫を開設しなければならない。そうなると、倉庫の賃料がかかるし商品在庫が分散してしまう。どの地域でどんな商品が数多く注文されるかはわからない。だから、全ての在庫を倉庫にストックすれば在庫の効率が悪くなり、ECによる物流コスト削減の利点が相殺される。これはデメリットでしかない。

 もちろん、OMOを進めて店での受け取りや店出荷を行えば、アパレル物流に大型施設は必要でないという単純な図式ではない。店での受け取りや店出荷は、EC専用の倉庫を抱えなくていいだけで店舗販売用の商品配送、返品(出荷)は続くわけだから、そうした商品の仕分けは配送事業者の物流施設が活用される。



 一方、OMOが進んでも自宅近くでの受け取りを望むお客もいる。注文者が当日や日時指定を選択するケースも少なくない。大都市圏ほど消費地や自宅に近いエリアに物流施設が求められるわけだ。つまり、ラストワンマイルに対応するには、郊外よりも地価が高い都市近郊で物流施設を置くことになり、賃料は高くなる。それは配送料に転嫁されていく。

 また、物流施設は入居する物流事業者の能力に左右される部分もある。例えば、容積率200%を目いっぱい使って4階建ての施設を作ったとする。だが、エリアニーズによっては3階建で十分という場合がある。4階建ての場合、トラックヤードが狭いとか、各階への荷捌きが面倒だといった問題も出てくる。施設開発にはこうした課題も潜んでいる。

 すでに開発事業者がロジスティックの知識がないまま施設を開発したことで、収益性の低い不良物件も出始めている。施設開発の市場で賃料の下落、空室率の上昇といったフェーズを迎えると、物件を手放さざるを得なくなることもあり得る。当然、そうした物件はファンドやリートに買い叩かれることも考えられる。

 もちろん、ECで購入されるのはアパレル以外の商品もある。注文者の中には配送料が割高でも構わない人々がいることも承知の上だ。果たして郊外で大型施設を運営するのがいいのか。都市部近郊の小型施設で消費者ニーズに対応するのか。不動産開発事業者がECの動向を見ながら、今後をどう読むかにかかっている。

 インターネットが普及してネット通販が消費生活に浸透し、メーカーや小売りはもとより、メディアまでもがECを礼賛しまくった。しかし、物流拠点の賃料は運送費で賄われるから、そのコストは荷主であるメーカーや小売り、ひいては商品を注文する消費者側が負担することになる。

 だが、賢くなった消費者は無駄なコストは払いたくない。ならば、メーカーや小売りはそれに対応できないと、ECに注力しても弊害を生むだけだ。それは物流会社の配送料や施設の賃料にも波及する。まさに風が吹かなければ、桶屋は儲からないのである。物流バブルはやがて弾けるとは言い過ぎだろうが、皮算用は程々にした方がいいのかもしれない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

量が質を喰う。

2022-03-09 06:39:48 | Weblog
 オーダースーツ景気も幾分沈静化したと感じるこの頃だが、これまではスーツ量販店、アパレルメーカーともにIoTを駆使したパーソナルオーダーでお客を捕捉しようとしていた。ただ、オーダーと言っても、手持ちのウーステッド生地や副資材の中からお客が選び、採寸したサイズで既成のパターンを調整し、短期間で仕上げるシステムに過ぎない。



 いわゆるサルト(仕立て職人、テーラーとも)がお客の体型の隅々まで測って型紙を起こして生地を断裁、仮縫い、調整、縫製、仕上げまでほぼ職人の手で行う「誂え」とは異なる。あっという間に沈静化したところを見ると、既製服との差別化戦略として仕掛けたものの、スーツ需要自体が縮小均衡している中では、爆発的な拡大とはならなかったのではないか。

 逆にストレッチが効いて着やすく、自宅で洗濯できるなどケアが楽な機能性スーツが登場し、大手スポーツメーカーまでが参入した。スーツ量販店のAOKI、はるやまも乗り出し、ワークマンも「作業着兼用」を販売する。この3月からはしまむらもオン、オフ兼用の「CLOSSHI」を発売するなど業態を超えて進化型スーツが目白押しだ。「スーツもどき」はウーステッド地の既成スーツを完全に凌駕しつつある。

 すでにビジネスシーンでコンスタントに需要が見込めるのはリクルートぐらいだろう。それでも社会人となれば、進化型スーツの勢いを気付かされるはずだ。ジャケパンスタイルで良かった業種はもとより、ドレスコードを緩めている企業、作業着着用のブルーカラーと、あらゆる業種・業界に進化型スーツが浸透したことを。もうビジネスの戦闘服としての「吊るし」の復権は、かなり厳しいのかもしれない。

 とすれば、スーツ販売を主とする企業が向かう先はどこか。これまで青山商事がFCで飲食店を手がけたり、100円ショップを運営したケースがあった。だが、どれも急場凌ぎの策に過ぎず、スーツの売上げ減をカバーできたとは言い難い。結局、少ないパイながら確実に売上げが取れる「テーラーメード」部門を強化していくことしかないようだ。


スーツに特化するか、カジュアルを強化するか

 青山商事がエススクエアードの全株式を取得して4月1日付で完全子会社化するのもそれだ。エススクエアードはグループ会社にメルボグループを抱えており、同グループはあのテーラーメードのスーツやシャツなどを手掛ける「麻布テーラー」をもつ。青山商事は2018年決算で売上高が1052億円と前年同期から3.0%減少し、営業利益は10億6100万円と同70%もダウン。純損失が1億2300万円と最終赤字に転落した。スーツを取り巻く環境が大きく変わり、進化型スーツの台頭もあって非常に厳しい経営を迫られたのである。

 そこで前出のような経営の多角化を進める一方、既製スーツオンリーから転換しパーソナルオーダーにも乗り出した。オーダースーツブランド「クオリティオーダー・シタテ」を導入である。2020年12月には同ブランドの導入を洋服の青山とザ・スーツカンパニーで294店(レディス取扱店は110店)に拡大。20年と言えばスーツ売上げの冷え込みも、オーダーブームの到来により底を打った時期だ。

 同社は2022年3月期決算で売上高1200億円、営業利益8億円を見込んでいる。パーソナルオーダーでやや回復の兆しは見えているが、端からスーツを着用しない層はオーダーだからと買いに動くとは思えない。やはり数は少なくなったとは言え、スーツが必需品の層にテーラーメードの着心地を広く伝えていく戦略しかないと決断したようだ。

 麻布テーラーを子会社化したのは銀座や心斎橋など都心に店舗、広島や滋賀に自社工場を持ち、誂えのサービスを手掛けていることに尽きるだろう。また、若年層では収入が限られることから既成スーツか、パーソナルオーダーしか購入できないが、将来的にはテーラーメードに移行してもらおうという狙いもあると思う。



 ただ、既成スーツを販売してきた洋服の青山には、社員を研修してサルトやテーラーを育てるノウハウがない。同社にできるのは大卒社員を主体に採寸を正確にしたり、肩や袖丈、ウエストなどのフィット感を助言するコンサルティング販売員を育てる程度だ。日本はともかく、イタリアのナポリや英国のセビルロウを見れば、テーラーメードは職人の世界だから徒弟制度のもとで育成される。だが、自社でそこまでの人材を育成するには時間や資金を必要とする。

 ならば、スーツ量販店4社の中で最も財務状況が良い同社が資金力に物を言わせてM&Aに動いてもおかしくない。結果、その通りになった。言うなれば、量が質を喰ったということだ。青山社長は「店舗は試着のための在庫と今すぐ欲しいもの」という最低限の在庫を置くだけのショールーム化にも言及する。それはスーツ量販店という数の力でコストと価格を抑えてきたビジネスの終焉にも繋がる。

 一方、業界第2位のアオキはカジュアル路線の強化を進める。前出のスーツもどきに活路を見出そうというものだ。「パジャマスーツ」は、スーツのように堅苦しくはないが、パジャマのようは部屋着でもない。街着としても十分に通用するアイテムで、トップ・ボトムともメンズで6589円、5489円の安さが売りだ。すでに8万着以上を販売したことから5970円のアクティブスーツを含め、この分野での売上げ目標を100億円に設定した。

 第4位のはるやまもオン・オフ兼用で着ることができる「らくティブスーツ」(5280円〜)を販売。ワークマンは裏返すと複数のポケットを持つ作業着になる「リバーシブルワークスーツ」を企画した。こちらは洗濯機で洗え、小さく折り畳めてバッグに入る優れもの。昨春の発売では15万着が完売するヒットアイテムになった。進化型スーツは市場が見込めるだけに各社も続々と参入しており、競合激化は必至だ。今後は更なる機能性や素材開発など企画力が勝負になるのは間違いない。


オーダー市場に挑むユニクロの勝算は?

 気になるのはあの企業の動向だ。ファーストリテイリングである。傘下のユニクロは過去にはお客のサイズに合わせてジャケットやパンツ、シャツをカスタムメイドできるサービスを展開していた。だが、このサービスがお客に認知され、定着したとは言い難い。同社のことだから、当初は「数百サイズもの既成パターンを用意すれば、お客のほとんどに当てはまるだろう」と考え、サービス展開に踏み切ったのだと思う。

 しかし、お客の体型は十人十色だ。しかもサイズは仕事内容、時間、日によっても微妙に変わってくる。テーラーメードではプロの職人がその辺を十分に考慮した上できちんと採寸し、さらに仮縫いで細かく調整するから、注文客の体型にフィットするものが出来上がる。右肩が1.5cm下がった体型ならその通りに型紙に反映されるからだ。それをテーラーノウハウなどを持たないユニクロがスタッフに短期間の研修を施したところで、どこまで的確に採寸、サイズ決定ができたかである。

 まさにお客に商品を自由に選ばせるセルフ販売に甘んじ、効率を優先してきた企業の落とし穴とも言える。その後、カスタムオーダーをあまりアピールしていないところを見ると、サービスの見直しやテコ入れが検討されていたのではないか。もっとも、青山商事がオーダー事業に注力し、アオキやはるやま、ワークマンなどが進化型スーツを販売するなど、各社が市場の底堅さを見込んで新たな戦略を打ち出しているところを、ファストリが指を咥えて見ているはずはない。

 ユニクロもまずはパーソナルオーダーで仕上げるスーツの販売に乗り出した。昨年オープンした東京・銀座店にオーダー専用の窓口を設けたほか、一般向けにはオンラインでも注文を受け付けている。もちろん、店舗に行けばスタッフが採寸からアドバイスをしてくれるというから、少しはテーラー技術のレベルを上げたのか。

 銀座店には専門知識を身につけたスタッフが常駐していると言うから、先のカスタムオーダーの反省に立ってスタッフに技術研修を施し、丸の内や新橋といったオフィス街を後背にもつ立地特性を活かしてオーダー部門の開設を決断したと思われる。ただ、銀座は英国屋などの老舗がひしめくテーラーメードの聖地だ。ジョルジオ・アルマーニもオーダーを受け付けている。後発ではアパレルメーカーのオンワード樫山がIoTを駆使したパーソナルオーダーの「カシヤマ・ザ・スマート・テイラー」を2店舗を展開している。

 そこに敢えて挑むユニクロ。カスタムオーダーの技術レベルがどこまで上がったのか。カジュアルイメージが強い同社のオーダースーツでどれほどお客を捉まえきれるか。大量生産して売り減らしていく企業に注文服がどこまで馴染むのかなど、未知数な部分も少なくない。

 どちらにしても、テーラーメイドは既製服とは違い、お客が一度着心地の良さを知ってしまうと、リピーターになる確率は高い。単価もパーソナルオーダーでさえ既製スーツよりは2倍ほど。完全テーラーメードになると10倍以上だ。売上げアップも期待できる。もちろん、そこまでに到達するには接客スタッフが知識やテーラーリングを修得してこそだ。

 オーダースーツ市場を拡大するために果敢に挑む青山商事やユニクロ。ビッグマーケットである進化型スーツに競合必至でも参入したアオキほか各社。既成スーツがそれほど求められ無くなった今、次なるステージで一歩抜け出るところはどこだろうか。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

バーチカルは再販まで。

2022-03-02 06:28:21 | Weblog
 この春、福岡では商業施設の開業が相次ぐ。4月25日に福岡市博多区の青果市場跡に三井不動産が開発する「ららぽーと福岡」、同28日には北九州市八幡東区のスペースワールド跡地にイオンモールが手がける「ジ・アウトレット北九州」がオープンする。



 ららぽーとは延床面積20万6500平方メートル(立体駐車場を含む)。テナントは飲食や服飾、雑貨、エンタメに加え、九州では初となる「キッザニア」(夏オープン)や機動戦士ガンダムのテーマパークが核になる。すでに実物大のガンダムが立像済みで、建物屋上には陸上トラックやテニス場、フットサルコートも併設される。



 一方、ジ・アウトレット北九州は敷地面積約27万m2を「エンターテイメントエリア」と「アウトレットエリア」の二つに分けた複合施設。北九州市が施設周辺を文化観光拠点に位置付けたことから、モール側も単なる商業モールから一歩進化させ、「学び」をテーマにした子ども向けアミューズメントを強化(テナントはASOBLE/アソブル)。また、隣接地にあるSC「イオンモール八幡東」と新設デッキで結び、双方間の相乗効果も見込む。

 課題は交通アクセスだ。両施設は幹線道路に面しており、開業前の現在でも平日、祝祭日問わず交通渋滞が激しい。デベロッパー側は来場者に公共交通の利用を促すが、ららぽーとは最寄りのJR竹下駅から徒歩で10分程度もかかる。また、ジ・アウトレットのJRスペースワールド駅には快速列車が停車しないなど、公共交通のアクセスが良いとは言い難い。新たなバス路線が設けられるようだが、周辺道路が渋滞すれば集客への影響は必至だ。

 来場者が車を利用するのはほぼ間違いなく、開業でさらなる大渋滞が予想される。スムーズに来場できて館内をゆっくり見て回ることができるのは、開業景気が落ち着く秋以降ではないか。ただ、コロナ感染の第6波が3回目のワクチン接種でどこまで抑えられるかは不透明で、仮に第7波が秋口に重なれば入場制限は避けられず、初年度の業績にも水を差しかねない。

 久々の大型開発だけにメディアは話題を煽るが、注目は学びのキッザニアやアソブル、エンタメのガンダムくらいしかない。学びやエンタメはそこでしか体験できないなら、「ぜひ行ってみよう」との来店動機にはなる。ただ、アミューズメント性が強いディズニーランドやUSJを見ると、お客をリピートさせるには進化し続けることが大前提。これは運営者やテナントの企画・資本力によるところが大きい。スペースワールドが失敗した教訓を生かせるかである。

 ショッピングはどうか。テナントに「九州初」との冠がついたにしても、SCにリーシングされるようなアパレルや雑貨では同じテイストの既存店がいくらもあり、集客の目玉にはならない。アウトレットではラグジュアリーブランドが70%〜80%オフなら一度は見てみようという気にはさせる。だが、端から安く作った専用品が多数を占めるなら、期待外れでリピーター率は下がるだろう。

 飲食はこれまでにドーナツやパンケーキ、タピオカなどが集客の起爆剤となってきたが、半年も経てばピークは過ぎ1年後には陳腐化してしまう。FFやファミレスなどの定番は他のSCにもあるわけで、飲食が集客に貢献するかと言えばそれも難しい。プレミアチケットなどの仕掛けがあれば別だが、来場客が食事でもして帰るかという程度だと考えられる。

 データの裏付けもある。全国約3500箇所の商業施設に入居するテナント構成は、2017年から21年の4年間でファッション・雑貨が30.4%から4ポイント近く下落して26.5%に。サービス・アミューズメントは25.2%から27.3%へと2ポイント以上上昇している。テニスコートやフットサル場もこうした傾向を意識しての導入と思うが、平日にどこまで集客できるかがカギになる。

 もっとも、SC全体を見れば、やはり陳腐した感は否めない。日本ショッピングセンター協会によると、全国のSC数は2018年の3220箇所をピークに21年まで3年連続で減少している。コロナ感染がやや落ち着いた21年に限っても、外出自粛の影響があり月次販売額で前年割れの月がある。



 米国を見ると、さらに深刻だ。テナントが次々に撤退して廃墟になった「デッドモール」が続出。消費者はインターネットで何でも購入できるようになり、品揃えやメニューが限られる実店舗にはそれほど魅力を感じなくなっている。もう、物販や飲食で集客できる時代ではないのだ。1990年代、米国を手本に開発が進んだ日本の郊外型SC。時代や消費の変化と共に転換期に差し掛かっているのは間違いない。


転換期のSCが目指すべき姿とは

 では、目指すべき新たなSCとは何か。それは「コト消費」を際立たせることだ。一例として、お客が傍観するような体験ではなく、自ら主人公になれるもの。若年層では、e-Sportsのような自己体感型や、触感に訴えかけて没入感が味わえるメタバースなどがポイントだ。中高年向けでは、自ら楽器のプレーヤーになって練習やセッションが体験できたり、生バンドをバックに歌やダンスが楽しめるミュージックサロンなどだろうか。

 ビジネス層向けでは、プライベートオフィスやスタートアップ拠点が考えられる。コロナ禍において都心部のオフィスに通勤せずともリモートで仕事が片付けられるようになった。消費だけでなく、働き方も変わって来ている。ならば、郊外SCでもビジネス向けのスペースを貸し出してもいいのではないか。
 自宅では家族に煩がれて居場所がないが、プライベートオフィスなら気兼ねなく仕事ができる。スポーツ施設が併設されていれば、並行して運動不足の解消も可能だから、博多駅に近いららぽーと福岡にはビジネス需要も期待したい。

 筆者が個人的に熱望するのはDIYが自由に楽しめる施設だ。木材、金属、布・革などの材料を購入したり、デザイン図面とそれらを持ち込んでインテリアからアクセサリー、服飾までを創作できるイメージだ。加工用の機械やミシン、道具なども使え、プロのレクチャーも受けられる。子供やリタイア層など各世代ごとにテーマを決めたワークショップを開いてもいいと思う。騒音などで周辺に迷惑をかけることなく自由に道具や機械が使えるのは、DIYを趣味にしている層が最も待ち望んでいることだ。

 また、モノ消費の次に来る業態としては、SDGs(持続可能な開発目標)やリユース、リサイクルを意識したものもあるのではないか。例えば、アウトレットはお客側には安売り業態だが、ブランド企業にとっては製品在庫をできる限り「現金化」するのが目的だ。セールで売れ残ったもの、生産管理で織りキズなどが見つかり店頭に展開できなかったもの、廃番やキャリー品等など。それらを流通ルートの中でバーチカル(垂直)に消化していく役割がある。

 SDGsが叫ばれるようになった現在、ブランド企業はその使命として消費の先にある社会への負の影響まで考えなければならない。作って売り、使い古せば終わりは通用しなくなっている。ブランドの役割とは、1つの商品をいろんな人の手にいつまでも受け継がれるようなものにすることだ。そのためにはリユースやリサイクルにまで取り組むことが不可欠になる。




 ブランド企業が中古品の買い取りまで踏み込むかは別にして、モールがブランド品の買取や再販に取り組む業態をリーシングしたり、自ら運営することはできるのではないか。昨年10月、伊勢丹新宿店は不用品の買い取りサービス「アイムグリーン」をスタートした(https://www.isetan.mistore.jp/common/service/imgreen.html)。お客が持ち込んだ衣料品やハンドバッグ、時計、宝飾品などを買い取る、または無料で引き取って提携先を通じて販売やリサイクルするものだ。

 三越伊勢丹が参入したことは、殿様商売をやってきた百貨店ですら「購入してもらえば終わり、売りっぱなし」だけでは通用しないと気づいた証左。販売後の顧客支援を自ら行い、新たな購買体験を作り出さなければならなくなったのである。

 同社がアプリ会員1万7000人に実施したアンケートでも、「衣料品回収や持続可能な資源利用への関心、期待が上位」にあり、不用品の買い取りについても「ブランド品をどこよりも高く売りたいのでなく、家にあるものを整理したい要望がほとんどだった」という。ブランドのグレードや程度の差こそあれ、SCを訪れる客層でも同じようなニーズを持っているのではないかと思われる。

 つまり、従来のような「新品購入から利用」で終わるのではない。「買い取り」まで踏み込んで提携先に「売却」したり、リサイクル企業に「引き取り」してもらうことでお客との関係性を高めることが重要になってきたわけだ。ブランドビジネスに置き換えると、バーチカルな仕組みには「買取」や「再販」まで設定する。これはお客にとってもコト消費の一つだし、そんなテナントがリーシングされていれば、商業施設に出かける動機になるはずだ。

 SCでも物販や飲食、エンタメの次に来るテナントと位置付けられて良いだろう。ジ・アウトレット北九州の全テナントはわからないが、ららぽーと福岡にはブランド品買取とリフォームの業態はリーシングされている。だが、それらは旧来からある業態だから、もっと突っ込んだサービスが望まれる。また、SC全体のイベントとしても、前出のDIY業態とシンクロさせて服飾やバッグ、アクセサリー、インテリアなどでお客がリフォームやリメイクし、アップサイクルするような仕掛けもあるだろう。

 ららぽーと福岡、ジ・アウトレット北九州とも、半年も経てば売上げ不振のテナントも出てくるから、入れ替えやリニューアルが必要になる。その時のために転換期にあるSCにとって必要なコト消費、新たなテナント像を熟考しておくべきではないかと考える。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする