流通業界ではすでに年明けの企画が動いている。毎度、お馴染みなのが「福袋」だ。テレビのワイドショーや情報番組は、今年もおそらく有償でタイアップしている百貨店の福袋をこぞって紹介するだろう。
社内スタッフによる企画チームの編成から、企画会議の様子、中身のクローズアップ、◯万円相当の商品がたった1万円というお得感まで。マンネリ化した絵ヅラだけでなく、今年の話題も盛り込まれると予測される。
初売りの風景は報道部に加え、情報部のスタッフまで正月休み返上で、取材する。どこの福袋がよく売れるかを伝えるものだが、おそらくテレビ局とのタイアップ企画では、ここまで情報発信する取り決めになっていると思われる。
ここまでやると素人目には、「百貨店はお客のことを考えて、お値打ち品をご奉仕してくれるんだ」と見えるだろう。しかし、商売を考えると「儲からなければ、やらない」わけだから、どこかにカラクリがあるのは言うまでもない。
百貨店のビジネスは、基本的に商品については委託・消化仕入れの取引スタイルをとる。平たく言えば、「商品は買い取らず、形式的に売場に並べ、売れたものだけを仕入れる」やり方だ。セールしても売れ残れば、それはメーカーや問屋に引き取ってもらう。
在庫を残した時のロスがないから、商売のリスクは軽減されるというわけだ。でも、それでは商品を卸す側のメーカーや問屋は堪らない。だから、あらかじめ返品や派遣社員の経費を商品の卸値にのせておいて、自己防衛する。
デフレ禍で高額品が売れなくなってからは、百貨店側からの値下げ圧力がかかり、メーカーや問屋側も利益も確保する上で、原価率を下げざる得なくなってきた。それが中国などでの海外生産が増えていった理由でもある。
つまり、百貨店の商品はユニクロなどと比べると、原価率の割に商品価格は高いということになる。このシステムが福袋でも踏襲されているとなるとどうだろうか。
商品部が福袋を企画する時、「こんなアイテムで、こんな質で、このくらいの価格で」との要望を受けたメーカーや問屋は、それを手当てしなければならない。百貨店の福袋報道が過熱するたびに、他店よりいい物を揃えたいことから、要望はより厳しくなる。
当然、百貨店は利益がとれないと意味はない。問屋やメーカーにとって「開運ものだから、開けてビックリ」は通用せず、手持ちの在庫処分の機会にはならない。
新規に福袋向けの商品を作らなければならず、レギュラーの商品と同じように返品のリスクヘッジや利益を確保するために原価率などを考える必要がある。それが果たしてお客さん側から見た時に、百貨店の暖簾イメージ相当する「良い物」なのかどうか。
筆者が知る小売り専門店では、もう福袋を廃止するところが増えている。百貨店やブランドショップなどと競争していく上では、「良い商品」を仕入れ、詰め込まなければならない。専門店は商品は買い取りだから、売れ残りのリスクも被ることになる。
メーカーに対し、福袋のためにわざわざ商品を作ってもらうことなど無理だ。利益を出すために原価率を圧縮した商品で、お得意さんを裏切るわけにはいかない。良い商品を探して薄利で販売すると、準備や経費に見合う荒利が取れないから止めるのだ。
過去には某有名ブランドショップが1万500円で販売した福袋(中身は6万円相当)が別の業者が7000円(中身は2万7000円相当)と全く同じだったということもあった。これは「商売なら儲からないとやる意味はない」ということを如実に表している。
某ショップのケースは別として、少なくともブランドショップなら売れ残り在庫品とは言え、中身は想像できる。しかし、百貨店の場合、NBのハコを横断してブランドを詰め込むことはできない。まして、グッチやエルメスを入れるなど夢のまた夢だ。
見た目は良い商品かもしれないが、消費者心理とすれば有名ブランドが入って、良い商品だとイメージする場合が大半ではないだろうか。そのため、子供たちに体験型を提供するなどの「こと消費」に軸足を移すところもある。
5000円や1万円といった価格では、売上げも利益も取れないから、高額で本当の「夢」を売ろうということだろうか。とすれば、そろそろ百貨店の福袋企画も頭打ちではないのだろうか。
そんなことを考えていると、百貨店は来年、「訪日外国人需要を狙ったもの」を充実させるとのニュースが入ってきた。 海外からの観光客が増え、10月から免税対象商品が拡大したことで、福袋で提案できる商品の幅が広がったからようだ。
表向きはそうかも知れないが、日本人のお客が福袋の内情を知るようになったこともあるだろう。逆に外国人には日本の百貨店が信頼されているので、「縁起物」という日本の文化を伝える契機にもなるとの算段があるのかもしれない。
商品企画では日本の観光地イメージを訴求するものや温泉グッズ、産地のイチ押し商品などいろいろ生まれているようだ。
ただ、課題もある。いちばん購入が期待できるのは中国人の観光客だ。日本の正月は1月1日からだが、中国の正月にあたる春節は1月末から2月初めの1週間。中国人はこの期間に日本を訪れるケースが多い。では、そこにぶつけるのかである。
まあ、観光客は中国人だけではないが、他の外国人が正月の日本、しかも、百貨店が店を構える都市部をどれだけ訪れるか。また、日本の正月の縁起物である福袋を彼らがどこまで理解してくれるかであるなど、課題は少なくない。
百貨店で多くの買い物をする中国人の富裕層向けに企画するのなら、百貨店ブランドを詰めた福袋の方が有効かもしれない。現にある店では男性客向けに、日本製ニットやポロシャツなど5万円相当を1万4500円で販売するという。
尤も、中国人をメーンのターゲットとした時、即物主義の彼らが中身が見えないものに、大枚をはたくだろうかという懸念もある。チャイナタウンのレストランで食事後に出されるフォーチュンクッキーとは違うのである。
POPなどでアピールするというが、どこまで伝わるかは未知数だ。日本人向けの福袋商戦が成熟した中で、新たなマーケット開拓に向け模索は続いている。
社内スタッフによる企画チームの編成から、企画会議の様子、中身のクローズアップ、◯万円相当の商品がたった1万円というお得感まで。マンネリ化した絵ヅラだけでなく、今年の話題も盛り込まれると予測される。
初売りの風景は報道部に加え、情報部のスタッフまで正月休み返上で、取材する。どこの福袋がよく売れるかを伝えるものだが、おそらくテレビ局とのタイアップ企画では、ここまで情報発信する取り決めになっていると思われる。
ここまでやると素人目には、「百貨店はお客のことを考えて、お値打ち品をご奉仕してくれるんだ」と見えるだろう。しかし、商売を考えると「儲からなければ、やらない」わけだから、どこかにカラクリがあるのは言うまでもない。
百貨店のビジネスは、基本的に商品については委託・消化仕入れの取引スタイルをとる。平たく言えば、「商品は買い取らず、形式的に売場に並べ、売れたものだけを仕入れる」やり方だ。セールしても売れ残れば、それはメーカーや問屋に引き取ってもらう。
在庫を残した時のロスがないから、商売のリスクは軽減されるというわけだ。でも、それでは商品を卸す側のメーカーや問屋は堪らない。だから、あらかじめ返品や派遣社員の経費を商品の卸値にのせておいて、自己防衛する。
デフレ禍で高額品が売れなくなってからは、百貨店側からの値下げ圧力がかかり、メーカーや問屋側も利益も確保する上で、原価率を下げざる得なくなってきた。それが中国などでの海外生産が増えていった理由でもある。
つまり、百貨店の商品はユニクロなどと比べると、原価率の割に商品価格は高いということになる。このシステムが福袋でも踏襲されているとなるとどうだろうか。
商品部が福袋を企画する時、「こんなアイテムで、こんな質で、このくらいの価格で」との要望を受けたメーカーや問屋は、それを手当てしなければならない。百貨店の福袋報道が過熱するたびに、他店よりいい物を揃えたいことから、要望はより厳しくなる。
当然、百貨店は利益がとれないと意味はない。問屋やメーカーにとって「開運ものだから、開けてビックリ」は通用せず、手持ちの在庫処分の機会にはならない。
新規に福袋向けの商品を作らなければならず、レギュラーの商品と同じように返品のリスクヘッジや利益を確保するために原価率などを考える必要がある。それが果たしてお客さん側から見た時に、百貨店の暖簾イメージ相当する「良い物」なのかどうか。
筆者が知る小売り専門店では、もう福袋を廃止するところが増えている。百貨店やブランドショップなどと競争していく上では、「良い商品」を仕入れ、詰め込まなければならない。専門店は商品は買い取りだから、売れ残りのリスクも被ることになる。
メーカーに対し、福袋のためにわざわざ商品を作ってもらうことなど無理だ。利益を出すために原価率を圧縮した商品で、お得意さんを裏切るわけにはいかない。良い商品を探して薄利で販売すると、準備や経費に見合う荒利が取れないから止めるのだ。
過去には某有名ブランドショップが1万500円で販売した福袋(中身は6万円相当)が別の業者が7000円(中身は2万7000円相当)と全く同じだったということもあった。これは「商売なら儲からないとやる意味はない」ということを如実に表している。
某ショップのケースは別として、少なくともブランドショップなら売れ残り在庫品とは言え、中身は想像できる。しかし、百貨店の場合、NBのハコを横断してブランドを詰め込むことはできない。まして、グッチやエルメスを入れるなど夢のまた夢だ。
見た目は良い商品かもしれないが、消費者心理とすれば有名ブランドが入って、良い商品だとイメージする場合が大半ではないだろうか。そのため、子供たちに体験型を提供するなどの「こと消費」に軸足を移すところもある。
5000円や1万円といった価格では、売上げも利益も取れないから、高額で本当の「夢」を売ろうということだろうか。とすれば、そろそろ百貨店の福袋企画も頭打ちではないのだろうか。
そんなことを考えていると、百貨店は来年、「訪日外国人需要を狙ったもの」を充実させるとのニュースが入ってきた。 海外からの観光客が増え、10月から免税対象商品が拡大したことで、福袋で提案できる商品の幅が広がったからようだ。
表向きはそうかも知れないが、日本人のお客が福袋の内情を知るようになったこともあるだろう。逆に外国人には日本の百貨店が信頼されているので、「縁起物」という日本の文化を伝える契機にもなるとの算段があるのかもしれない。
商品企画では日本の観光地イメージを訴求するものや温泉グッズ、産地のイチ押し商品などいろいろ生まれているようだ。
ただ、課題もある。いちばん購入が期待できるのは中国人の観光客だ。日本の正月は1月1日からだが、中国の正月にあたる春節は1月末から2月初めの1週間。中国人はこの期間に日本を訪れるケースが多い。では、そこにぶつけるのかである。
まあ、観光客は中国人だけではないが、他の外国人が正月の日本、しかも、百貨店が店を構える都市部をどれだけ訪れるか。また、日本の正月の縁起物である福袋を彼らがどこまで理解してくれるかであるなど、課題は少なくない。
百貨店で多くの買い物をする中国人の富裕層向けに企画するのなら、百貨店ブランドを詰めた福袋の方が有効かもしれない。現にある店では男性客向けに、日本製ニットやポロシャツなど5万円相当を1万4500円で販売するという。
尤も、中国人をメーンのターゲットとした時、即物主義の彼らが中身が見えないものに、大枚をはたくだろうかという懸念もある。チャイナタウンのレストランで食事後に出されるフォーチュンクッキーとは違うのである。
POPなどでアピールするというが、どこまで伝わるかは未知数だ。日本人向けの福袋商戦が成熟した中で、新たなマーケット開拓に向け模索は続いている。