HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

専門学校卒ではもう手遅れ。

2014-01-21 16:05:03 | Weblog
 福岡天神のランドマーク、旧岩田屋跡にパルコがオープンして4年。西側の旧新館は解体され、この秋にパルコの新館がオープンする。

 この地は博多生まれの筆者にとって、自分史のエポックと言える場所だ。たぶん、昭和40年の夏だったと思う。筆者はここで近所に住む友達と遊んでいた。当時、ここは岩田屋に出入りする業者向けの駐車スペースだった。それは辛うじてかすかな記憶がある。

 ところが、二人とも上半身は裸だった。 最初は自宅の前でランニング姿で遊んでいたが、それから那珂川の土手近くに移り、中州を通って天神まで行ってしまったようだ。途中、玉屋百貨店でプロモーション用の帽子をもらい、夕立にあって濡れたランニングは脱ぎ捨てていた。

 幼稚園児くらいの子供二人が岩田屋の駐車場で、上半身には何も着ず遊んでいる。昭和40年の夏とは言え、天神のど真ん中では見慣れた光景とは言えない。誰かが岩田屋に通報したのだろう。担当者がやってきて、声をかけてきた。

担当者 「キミたち、お名前は」

友人 「◯◯◯◯」 筆者 「◯◯◯◯」

担当者 「どこに住んでいるの」

友人 「妙楽寺」  筆者 「◯◯ビル」

担当者 「◯◯ビルって、◯◯さんが勤める会社のビルかも」

友人「…」   筆者「そう」

 おそらく、そんな会話だったと思う。自分たちですすんで岩田屋まで行ったのだから、迷子ではない。でも、上半身裸の幼稚園児が自社の敷地内で遊んでいるのを見ると、百貨店として見過ごすわけにはいかなかったはずだ。

 幸いなことに「◯◯ビル」は、声をかけた担当者にとって、大学時代の友人が勤めていた会社の所有だったのだ。すぐにその会社に連絡が取られ、私や友達の家族に岩田屋駐車場でわれわれが「保護」されたという話が伝わった。

 そして、この担当者はタクシーを呼び、私たち二人を乗せて自宅まで送り届けてくれた。ノー天気な幼稚園児は恥じらいどころかヒーロー気分で、自宅前で待つ家族の出迎えを受けたのだ。この担当者とは当時、岩田屋の副社長していた故・中牟田栄蔵氏である。

 その後、旧新館が建設されると、応接ルームで開かれた子供会のクリスマスパーティに招待されたこともある。子供向けのフルコース料理とプレゼントが用意され、プロのマジシャンによる手品を身近で見た記憶は今でも鮮明だ。それほど、博多っ子の筆者にとっては、想い出の多い場所だったのである。

 1999年には経営危機に陥った岩田屋の土地を都筑学園グループが買収。旧本館はそのまま空き店舗になり、旧新館には同グループの専門学校やテナントが入居した。そんな旧新館が旧本館より先に無くなったのは、何となく寂しい気がする。

 では、本題に入るとしよう。パルコが岩田屋旧新館跡地に新館を開業することで、テナント出店依頼が業界各社に寄せられている。中央のDCブランド、SPA、セレクトショップに加え、地元にもオファーがあったと聞く。

 先日、地元ファッション専門店の社長と話す機会があった。ここはこれまで数々の「新業態」を作り上げてきた実績をもつ。どれも時代の先を行く提案型ショップだったが、トレンドや市場の変化でスクラップ&ビルドしたものも少なくない。

 ファッション音痴のローカルメディアは、必ず新しい商業施設ができると、「九州初上陸」だの、「福岡初進出」だのと、ブランドを紹介したがる。でも、地元有力専門店にも出店要請はあっている。しかも、大手との競争に打ち勝ち、地道に顧客を作っているところもあるのだ。

 同社もその一つで、天神にはトレンドを追う業態やインポート&別注のセレクトショップを展開し、きちんと顧客を捉まえている。

 この社長はパルコ新館の開業に合わせ、社内のバイヤー陣に対し、「パルコの中で20歳前後をターゲットに存在感のある店を仕掛けてはどうか」と指示したという。ところが、スタッフの中から手を挙げるものはいなかったそうだ。

 パルコ側からそうしたオファーがあったのかどうかはわからない。しかし、パルコだって20歳前後を狙う業態はほしいはずだ。天神の他館にそうしたDCやセレクトの「ハコ」があれば、オファーを出しても出店できないケースが多い。

 ただ、自主編集の小売り専門店なら、ブランド単体がバッティングしても、出店は可能だ。パルコはソラリアステージからもフロアを借り切るようで、新館を合わせると相当数のテナントを集めなければならない。それを中央からのDCやセレクトだけで埋めるのは至難の業だ。だから、地元の有力企業にもオファーを出すことは、当然ありうるケースと思われる。

 では、なぜ、バイヤー陣は手を挙げなかったのか。それは20歳前後をターゲットする業態がいちばん定着させるのが難しいからだ。なぜなら、お客さんは20歳前後でも、バイヤーはそれより年上。だから、MDや店づくりは20歳前後の子たちに合わせなければならない。

 ところが、その子たちも1年経ち、2年経つと感覚はパッと変わり、新しい20歳には新たなトレンドが好まれる。逆に24~25歳のヤングアダルトになると、もうトレンドには流されなくなる。おまけにバイヤーはもっと歳を取るのだから、20歳の感覚がなおさらわからなくなるのだ。

 それなら、ショップごと作り変えればいいと思うが、専門店側は内装費や敷金といった相当な初期投資をした以上、それを回収しなければならない。それが1年でできるのか、2年でできるのか。そのうちにヤングトレンドは変わり、また店ごと作り替えることになると、さらなる投資負担となる。

 小売り専門店である以上、新業態を軌道に乗せ、2店、3店と継続展開することが不可欠だ。それで収益がアップする。ところが、ゼロから作り替えるとなると、バイヤーも販売スタッフも入れ替えなければならない。業態を客観的にディレクションできるベテランMDもいる。でも、人はすぐに育たないし、店もブランドも容易には定着しないのだ。

 でも、デベロッパーはいとも簡単に「20歳前後をターゲットにする」と言う。売れなければ、テナントを入れ替えればいいからだ。メディアもそこには突っ込みもせず平気で報道する。ファッション音痴だからしょうがない面もあるが、もう少し勉強してもいいはずだ。

 もっとも、その業態を時間をかけて開発すればするほど、その間にトレンドは変わり、ターゲットの感性もパッと変化してしまう。それほど、ヤング狙いの新業態を開発するのは、難しいのである。

 もし、20歳前後を狙う業態の開発スタッフを育てるとすれば、それは中学生からファッション教育を施して実践を学ばせ、高校卒業後にブランドや店づくりの準備に携わらせ、トレンドを仕掛けさせていくしかないだろう。もちろん、それをディレクトするMDの存在があってのことだ。

 18歳で専門学校に入学し、20歳でアパレル業界に入ったとしても、デザインや仕入れの一人前になるのは早くて24~25歳。その時に20歳前後の業態をしかけるには、もう手遅れなのである。少なくともパルコのような知名度のあるビルインでは。
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俄セレブを真の顧客にできるか。

2014-01-14 16:48:24 | Weblog
 2年前の3月、当コラムで「ロンハーマン」のことを書いた。 http://blog.goo.ne.jp/souhaits225/e/34f5646187953ba9ecbbb332f544330f 高島屋の不動産会社、東神開発が日本リテールファンド投資法人から、共同運営していたSC博多リバレインの物販ゾーン、「イニミニマニモ」の信託受益権を持ち分50%を買い取り、イニミニマニモを完全に保有した。

 東神開発が福岡におけるSCの本格運営に乗り出したことで、二子玉川高島屋と同様にセレクトショップの「ロンハーマン」を誘致するかもしれないと思えたからだ。それで、福岡にとってインポートセレクト最後の黒船は当然、イニミニマニモにリーシングされるのではと期待を込めたのである。

 ロンハーマンの誘致には同時期に東京建物傘下の特別目的会社(SPC)がもつ信託受益権を不動産投資法人に売却した「ヴィオロ」も、名乗りを上げていたようだ。

 ところが、米国西海岸のライトな雰囲気をそのままもってくれば、集客も売上げも厳しいSCやフロアが確保できないビルインでは不釣り合いと、両社ともあっさり出店の対象からは外されてしまった。

 ストアロケーションを考えれば、路面しかも都市の喧噪から少し離れた方がいい。同業態を手がけるサザビーリーグがどう思ったのかは知らないが、福岡・国体通りの警固1丁目バス停前にこの春オープンすることになったのである。

 現地を見ると、警固上人橋通り交差点の角から王丸歯科とアトル福岡中央支店駐車場に囲まれて広がる長方形の敷地は広大だ。計画ではストアの敷地は500坪、建坪は250坪ワンフロアというから、中心部では近年にないメガストアになる。

 おそらくセレブファミリーを集客するのは駐車場は不可欠だから、ある程度台数を確保しようと想定した結果だろう。

 このエリアは福岡の広尾「けやき通り」にも近く、若者の街大名、今泉と通り一つを隔てただけで、雰囲気は全く違う。当事務所から歩いて2~3分なのでたまに前を歩くが、地元メディアに露出する子持ち女子アナやおばさんモデルなんかともすれ違う。


 

 今、天神や博多駅にはプレステージを感じさせるようなブランドがフルアイテム、ファミリーでは揃わない。だから、オープンすれば、「私はテレビに出ているのよ」とプライドバリバリの連中がセレブ気取りで押し掛けるかもしれない。

 でも、三文ローカルの給料やギャラのレベルで、リピーターになれるほどの価格帯ではないことも知っとくべきだろう。何せ、本家はハリウッドセレブを相手にしているのだから、格も年収も違うというものだ。

 まあ、数百円の商品もあるにはあるが、それを買っているところを見られると、貧乏くささが一気にツウィートされるのは目に見えている。

 これまで千駄ヶ谷や有楽町のストアを何度かたずねてみたが、金持ちが多い東京でも平日はそれほど多くの集客はない。筆者の妹が二子玉近くに住んでいて、高島屋のストアは休日に出かけたときによく覗いてみるそうだ。

 でも、これまで最も買った年で2~3回というから、福岡レベルでそれほどお客の買い物頻度が上がるとは思えない。

 店舗づくりと商品供給はサザビーリーグが行い、運営は「カイタック」が受け持つという。 すでに販売スタッフの募集も始まっているが、まずは福岡の市場性に合わせたMDがカギになると思われる。

 そして、スタッフと顧客をどこまで育てていくか。顧客については最初は二子玉やダイバーシティで買いなれた転勤族をメーンに捕捉していくしかないだろう。

 でも、それらも2年程度で新陳代謝する。支店都市の宿命ゆえに、地元での顧客開拓が成功の鍵を握るのは言うまでもない。ただ、オープンの時だけに行く“俄セレブ”は、ストア側にとってもご免被りたいだろうが。
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30年前の福袋商品が今も健在。

2014-01-07 13:34:58 | Weblog
 年末年始、業界の話題と言えば、セールと福袋くらいしかない。だが、うちの家族から正月に意外な話が聞けた。

 ちょうど30年くらい前になる。当時、取引していたファッション専門店で、福袋を購入した。中身はレディスの小物やアクセサリー5~6点だったが、手袋が特に上質だったようで、指先をカットして未だに愛用しているという。

 見たところ、ウールに多少の合繊が混紡されたもので、粗めの編み立てのニット製だが、毛羽立ちはほとんどない。おそらく小物メーカーが通常の卸用に企画した商品だと思われる。もちろん、当時は中国製なんてないから、まさにメイド・イン・ジャパン恐るべしだ。

 ファッション専門店の福袋企画は2パターンあった。ひとつは売れ行きが鈍い商品や持ち越しの在庫を詰めるもの。メーカー側が在庫を現金化するために小売りに持ちかけたり、バイヤーが店頭在庫やメーカーから商品を集めて揃えていた。

 もう一つは、バイヤーが先に3,000円、5,000円、1万円の売価と個数を限定し、その枠の範囲でプロパーの「小物」をメーカーから仕入れて組み立てるものだ。こちらは点数が多くなく売上げ、利益とも取れないが、レギュラー商品による構成でお客さんに「初夢」をご奉仕したのである。

 それでも1万円の福袋だと、1万5,000円~2万円近くの価値はあったと思う。中身が確認できないだけに、買って得したお客さんが年明けに来店し、「福袋、良かったよ」と言ってくれるケースもあったと聞く。それだけでも、お店のロイヤルティはあがり、お客は「納得」できたのである。おそらく、うちの家族の場合は、後者だろう。

 元来、福袋は中身を見せず、買ってみて「得した」「損した」という代物だ。しかし、ここ数年、福袋は初売りの目玉商品になり、百貨店では暮れからテレビの情報番組等を使って、積極的に中身を公開し始めている。

 初売りには駅ビルやファッションビルのテナントがブランドの福袋をこぞって投入。競争が激化したため、百貨店もより魅力的な福袋を企画しようと、アピールに躍起になった結果だ。

 ただ、メーカー・問屋と小売りがはっきり分かれていた30年前ならいざ知らず。今は福袋を販売するために、それ用の商品をわざわざ生産している。特に在庫をもたない百貨店からメーカーが「値入れをこれだけにしてくれ」と指示されれば、通常の卸商品では対応できないからだ。

 SPAブランドなら、期末の在庫消化とキャッシュフローを意識するから、売場に並ぶ服と同じ倉庫在庫を福袋に詰め込むのは不可能ではない。でも、百貨店は在庫を買い取っていないので、売場の商品を福袋で処分するわけにはいかないのである。

 結果として、福袋専用品を「カシミア」「レザー」などと素材訴求するか、「1万円で3万円相当の商品」という「お値打ち感」を打ち出すしか販促手段はない。それがうちの家族が愛用している手袋のように上質かどうかはわからないが。

 昨年、あるセレクトショップの福袋で問題が発覚した。ここは有名アパレルメーカーが手がける業態で、ストアロイヤルティも高く、顧客の信頼も得て福袋も売れていた。ところが、同じ内容の商品が別のショップの福袋にもあったのである。しかも、安い価格で。

 アパレルメーカーだけに同セレクトの洋品や小物は、専業メーカーにOEMやODMで製造させているはず。企画担当者は福袋の商品もそのルートで発注したのだろうが、専業メーカーにしてみれば1ブランドではロットも足りず、利益もでないから大量生産して別ルートに流した結果、こうなったのかもしれない。

 アパレルや商品流通の事情など知らない一般視聴者は、どうしてもバカなレポーターが言う「お得感」を鵜呑みしてしまう。百貨店の福袋についても、売場のプロパー商品がそのまま詰め込まれているような錯覚に陥っているのかもしれない。

 その点では、SPAブランドのように福袋の商品が売場並んでいる服と同じものなら、色柄が好みでなくても購入客は納得するだろう。しかし、前出のセレクトショップのように行き過ぎてしまうと、一気にお客の信頼を損ねてしまう。

 もっとも、アウトレットで平気でアウトレット専用品が販売されるのが当たり前の時代。某セレクトショップようなケースは、発覚しないだけでかなりあると考えた方が自然だ。

 福袋は夢を売り、お客は納得を買う。例え、それが売れ行きの鈍い商品であっても、手持ちの在庫なら顧客を裏切らない。まして、バイヤーが利益度外視でプロパーを仕入れて仕掛けるのならロイヤルティもあがり、顧客の信頼は増す。

 福袋用にわざわざ企画・生産するような商品であれば、お客にはまたタンス在庫が増えていくだけだと思う。
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