いよいよ3月に入る。今年は1月、2月が非常に寒かったせいで、店頭では梅春物の動きがいつになく鈍い。だが、陽射しは疾うに春なのだから、ブライトカラーを着てほしいのが業界の節なる願いである。
肌寒い日の防寒とファッションを両立させるのは、やはりスプリングコートだろう。これまで何度かレディスの企画に携わったことがあるが、筆者は冬より春の方がいろんな面で趣向を凝らせるので、面白いと感じる。
定番アイテムの要素に加えカラー、素材、デザイン、機能性で足し算や引き算して、いかにバイヤーに「コレだ」と言ってもらえるか。半年前どころか、1年くらい前から頭の片隅でアイデアを思いめぐらしていた。
移動途中の電車や地下鉄の中で頭に浮かんだら、すかさずダイアリーの片隅にサムネイルを書く。それを会社に戻って企画書に書き写しておくのだ。大学時代からファッションやグラフィックで、プロの真似事ばかりやっていたので、就職しても同じ要領でやってきた。ある時、アイデアが浮かんだが、紙がなかったので名刺の裏にメモしておいた。そのことをすっかり忘れ、クライアントに渡して恥をかいたこともある。
でも、日頃からアイデアを貯めておかないと、会議の時にはそう簡単に思い浮かばない。そう考えると、春コート企画は、頭を整理しておけば別に難しくないと思う。セオリーである足し算、引き算に「肯定」や「否定」をして、市場を創造していけば良いのだ。
例えば、
カラー:冬コート=ダーク(定番) 春コート=ブライト&パステル(定番)
春コート=ブライト&パステル+グレイッシュ(スミ5〜10% 新企画)
明るめカラーを否定するのではなく、汚れを目立たなくするためにグレイッシュトーンを効かせるなどの工夫である。
色は生地の調達が絡むので、1年前くらいからテキスタイルメーカーやコンバーターをこまめに回り物色しておかないと難しい。その時、提案を打診することもあるが、生地屋も売れにくい商品は作らない。そんな時はイタリアやフランスの生地から探すが、それでも見つからないと、リスクを抱え製造に入ることもあった。
アパレルの仕事は春夏秋冬の繰り返しで、同じような仕事がずっと続くから単調だと言われる。だから、日々の仕事を変化させ、いかにメリハリを付けるか。その辺のセンスや行動が大事なのである。
春コートの企画に戻ると、
EX.
素材:冬コート=ウール(定番) 春コート:コットン+撥水加工/ゴム引き(定番)
春コート=綿麻、ローシルク コーティング(後加工 専門店系)
カラー、素材使いではそれほど変えられないが、「汚れ」「水はね」、さらに「花粉対策」のために後加工で表面のコーティングもありだ。最近ではエラスタン(スパンデックス)の混紡率を上げて、ストレッチ性に加えて洗濯に耐えられるような生地企画もある。なら「ポリエステル」混で良いじゃんっていう意見もあるが、そうなるとグローバルSPAが作りそうだ。いかに素材感を出しつつ、ケアを楽にできるかが企画の妙だと言える。
マッキントッシュのゴム引きが売れた理由は、ハリのある素材にもあると思う。初めて着るとごわごわした感じがするが、着慣れて来るとそこが何とも良い塩梅になる。ロング丈ではないから、歩いてももたもたせず、小柄な人でも着こなし易い。機能性とファッション性が絶妙なバランスだから、あの価格でも売れたのだ。
デザインやシルエットはどうなのだろうか。冬物はオーバータイプを主軸にミリタリー(トレンチ、P) ステンカラー、ダッフル、テント、モッズなどのバリエーションがあって、着丈のロング、ショートで差別化していくしかない。冬物では数年前からレディスのデザイナーズ系で「バレル」や「バルーン」といった太めのシルエットが受けたが、メンズでは1枚着用の細身のチェスターがトレンドだった。
EX.
デザイン:冬コート トレンチ(ロング) 春コート トレンチ(ショート)
冬コート バレル(重ね着) 春コート バレル(オーバーサイズ)
冬物は防寒機能を求めると、重ね着向けでオーバーサイズになる。これがファッション的には野暮ったい。それに暖冬が続いたため、1枚着用のジャケット風仕立てチェスターコートが受けたのだが、昨年冬はメンズでもオーバーサイズを1枚着るスタイルが提案された。ただ、街中でそんな着こなしをしている若者をほとんど見かけなかったが、このトレンドはこの春も引き継がれている。
古着がクローズアップされた70年代後半。欧米ではおじいちゃんが着ていた仕立ての良いオーバーコートやジャケットを孫娘がオーバーサイズ、肩線を落として着こなすスタイルが流行した。それがコレクショントレンドに引き継がれ、ボクシーやロングのラインを登場させたわけだ。
その後、タイトシルエットに変わり、昨年冬からまたビッグシルエット、オーバーサイズに戻っている。これなら下にジャケットを着ても重ね着できるからユーティリティだなんてことは言わずに、ファッションとして1枚ものであえてルーズに着こなすのが今風なのだろうが、果たしてどうなのかである。
レディスでは、30代以上の方々にビッグシルエットを勧めると、必ずと言って良い程「太って見える」との応えが返って来る。でも、太って見えるのではなく、太っているのだ。だから、ウエストをシェイプした方(ダウンコートなど)がずっと受けてきたのだ。それもいい加減に飽きただろうと言うことで、バレルやバルーンのシルエットに揺り戻された。
それでも、いざ企画の段階に入ると、やはり「太って見えると売れないから」と言われるので、2年くらい前にいっそうのこと、ダーツやシャーリングを入れてマーメイドラインにしてみたらって提案していた。ついにそれを採用したブランドがある。
EX.
デザイン:冬コート 1枚仕立て(ロング) 春コート ダーツ、シャリーング切り替え
春コート ライナー&ジレー、アジャスター(着脱変化)
春コート バレルシルエット(メンズ)
春コート ジップ使い(ツーピース仕様)
1枚仕立てのコートは、どうしてもシルエットというか、ボリュームの取り方が難しい。ジャケットの様に細腹がないので立体裁断にはならない。生地によって落ち感が違うから、背中が脹らんで見えたりもする。ウエスト周りを気にするミセスは、これで買う気が削がれるのである。
だから、昔からベルトを付けて後からウエストをマークするような不変の構造だったのである。(それではずっとコンサバのままなのだが)ただ、昨今はできる限りコストを下げ、用尺を抑えるのが当たり前になった中で、Aラインを追求しながら、きれいに見えるシルエットが追求されているが、そんな簡単にいくはずはない。アイデアを駆使し、コストをかけないと、どだい無理な話だと感じる。
シルエットをきれいに見せるには、切り替えたり、接ぎを増やして立体的に作らないと、思うようなラインは出ない。これは別にコートに限らず、レザージャケットなんかでも同じ。後身頃にヨークを付けた方がなおさら着やすく、シルエットが良くなるのは常識である。
だから、ラインをきれいに見せるには、1枚物でもツーピース風にするなど工夫がいるのだ。また、ビッグシルエットも、雑誌のフォトシューティングならいかにも様になるが、実際に着ると?ってなるお客さんは少なくないはず。
ビッグシルエットのコートについて、ネット通販の写真や商品説明を納得し注文したまでは良いが、届いてきて着るとイメージが違うのは、この春のコートの場合は多くなるのではないかと思う。インナーにそれほど厚着しないから、なおさら落ち感が良くないと野暮ったく見えてしまうからだ。
メンズでも40代向けの雑誌がビッグシルエットをイチ押ししている。モデルが着て、撮影アシスタントがレフ版で風を送り、ふわっとした感じを出しているからまだ様になっている。しかし、実際に40代以上の男性が普通に着ると、とてもカッコ良くは見えないのではないか。おじいさんの年代物を孫娘が着るセンスとは違うのだ。必ず売れ行きに関わって来ると思う。
ユニクロでも、Uniqlo Uで「プロテックコート」と題したアイテムを発売している。こちらもユニクロにしてはかなりのビッグシルエットだ。プロモ写真はインナーにはシャツやニットを着ただけなので、トレンドは意識しなおかつ重ね着もできるように機能性にも配慮したのかもしれない。それにしても、40代がそのまま1枚で着たのでは、野暮ったくなるのは間違いない。
中高年の男性が1枚着るならチェスターか、ステンカラーか。トレンドを狙うならむしろバレル型の方が裾がしまった分だけ、まだいけるかもしれない。それとも、カッコいい中高年を追求するなら、ロングジャケット風にしてみるとか、それを色替えのリバーシブルにして秋にも着られるようにするとか。個人的には帆布なんかを使って、粗野な感じを出しても面白いと思う。汚れ防止にコーティングを施すとか、ポリエステル混で洗濯に耐えるようにするとか。
あるいはビッグシルエットにするにしても、ライナーやジレーをかまして着こなしのバリエーションを増やすとか、内側にウエストをマークするアジャスターを付けるとか、いろんな企画を加味しないと売れないと思う。
一昨年春のレディス展示会では、デザイナーズ系のブランドがジップ使いにして切り離せるようにしたものもあった。メンズならさしずめ樹脂製ジップを使って、分離させるとブルゾンとして着られるような企画も面白いかもしれない。どちらにせよ、春コートはいろいろな可能性があると思う。オンシーズンの1年前と1年後にいろんなアイデアを貯めておき、企画会議では提案してみたいと思う。
肌寒い日の防寒とファッションを両立させるのは、やはりスプリングコートだろう。これまで何度かレディスの企画に携わったことがあるが、筆者は冬より春の方がいろんな面で趣向を凝らせるので、面白いと感じる。
定番アイテムの要素に加えカラー、素材、デザイン、機能性で足し算や引き算して、いかにバイヤーに「コレだ」と言ってもらえるか。半年前どころか、1年くらい前から頭の片隅でアイデアを思いめぐらしていた。
移動途中の電車や地下鉄の中で頭に浮かんだら、すかさずダイアリーの片隅にサムネイルを書く。それを会社に戻って企画書に書き写しておくのだ。大学時代からファッションやグラフィックで、プロの真似事ばかりやっていたので、就職しても同じ要領でやってきた。ある時、アイデアが浮かんだが、紙がなかったので名刺の裏にメモしておいた。そのことをすっかり忘れ、クライアントに渡して恥をかいたこともある。
でも、日頃からアイデアを貯めておかないと、会議の時にはそう簡単に思い浮かばない。そう考えると、春コート企画は、頭を整理しておけば別に難しくないと思う。セオリーである足し算、引き算に「肯定」や「否定」をして、市場を創造していけば良いのだ。
例えば、
カラー:冬コート=ダーク(定番) 春コート=ブライト&パステル(定番)
春コート=ブライト&パステル+グレイッシュ(スミ5〜10% 新企画)
明るめカラーを否定するのではなく、汚れを目立たなくするためにグレイッシュトーンを効かせるなどの工夫である。
色は生地の調達が絡むので、1年前くらいからテキスタイルメーカーやコンバーターをこまめに回り物色しておかないと難しい。その時、提案を打診することもあるが、生地屋も売れにくい商品は作らない。そんな時はイタリアやフランスの生地から探すが、それでも見つからないと、リスクを抱え製造に入ることもあった。
アパレルの仕事は春夏秋冬の繰り返しで、同じような仕事がずっと続くから単調だと言われる。だから、日々の仕事を変化させ、いかにメリハリを付けるか。その辺のセンスや行動が大事なのである。
春コートの企画に戻ると、
EX.
素材:冬コート=ウール(定番) 春コート:コットン+撥水加工/ゴム引き(定番)
春コート=綿麻、ローシルク コーティング(後加工 専門店系)
カラー、素材使いではそれほど変えられないが、「汚れ」「水はね」、さらに「花粉対策」のために後加工で表面のコーティングもありだ。最近ではエラスタン(スパンデックス)の混紡率を上げて、ストレッチ性に加えて洗濯に耐えられるような生地企画もある。なら「ポリエステル」混で良いじゃんっていう意見もあるが、そうなるとグローバルSPAが作りそうだ。いかに素材感を出しつつ、ケアを楽にできるかが企画の妙だと言える。
マッキントッシュのゴム引きが売れた理由は、ハリのある素材にもあると思う。初めて着るとごわごわした感じがするが、着慣れて来るとそこが何とも良い塩梅になる。ロング丈ではないから、歩いてももたもたせず、小柄な人でも着こなし易い。機能性とファッション性が絶妙なバランスだから、あの価格でも売れたのだ。
デザインやシルエットはどうなのだろうか。冬物はオーバータイプを主軸にミリタリー(トレンチ、P) ステンカラー、ダッフル、テント、モッズなどのバリエーションがあって、着丈のロング、ショートで差別化していくしかない。冬物では数年前からレディスのデザイナーズ系で「バレル」や「バルーン」といった太めのシルエットが受けたが、メンズでは1枚着用の細身のチェスターがトレンドだった。
EX.
デザイン:冬コート トレンチ(ロング) 春コート トレンチ(ショート)
冬コート バレル(重ね着) 春コート バレル(オーバーサイズ)
冬物は防寒機能を求めると、重ね着向けでオーバーサイズになる。これがファッション的には野暮ったい。それに暖冬が続いたため、1枚着用のジャケット風仕立てチェスターコートが受けたのだが、昨年冬はメンズでもオーバーサイズを1枚着るスタイルが提案された。ただ、街中でそんな着こなしをしている若者をほとんど見かけなかったが、このトレンドはこの春も引き継がれている。
古着がクローズアップされた70年代後半。欧米ではおじいちゃんが着ていた仕立ての良いオーバーコートやジャケットを孫娘がオーバーサイズ、肩線を落として着こなすスタイルが流行した。それがコレクショントレンドに引き継がれ、ボクシーやロングのラインを登場させたわけだ。
その後、タイトシルエットに変わり、昨年冬からまたビッグシルエット、オーバーサイズに戻っている。これなら下にジャケットを着ても重ね着できるからユーティリティだなんてことは言わずに、ファッションとして1枚ものであえてルーズに着こなすのが今風なのだろうが、果たしてどうなのかである。
レディスでは、30代以上の方々にビッグシルエットを勧めると、必ずと言って良い程「太って見える」との応えが返って来る。でも、太って見えるのではなく、太っているのだ。だから、ウエストをシェイプした方(ダウンコートなど)がずっと受けてきたのだ。それもいい加減に飽きただろうと言うことで、バレルやバルーンのシルエットに揺り戻された。
それでも、いざ企画の段階に入ると、やはり「太って見えると売れないから」と言われるので、2年くらい前にいっそうのこと、ダーツやシャーリングを入れてマーメイドラインにしてみたらって提案していた。ついにそれを採用したブランドがある。
EX.
デザイン:冬コート 1枚仕立て(ロング) 春コート ダーツ、シャリーング切り替え
春コート ライナー&ジレー、アジャスター(着脱変化)
春コート バレルシルエット(メンズ)
春コート ジップ使い(ツーピース仕様)
1枚仕立てのコートは、どうしてもシルエットというか、ボリュームの取り方が難しい。ジャケットの様に細腹がないので立体裁断にはならない。生地によって落ち感が違うから、背中が脹らんで見えたりもする。ウエスト周りを気にするミセスは、これで買う気が削がれるのである。
だから、昔からベルトを付けて後からウエストをマークするような不変の構造だったのである。(それではずっとコンサバのままなのだが)ただ、昨今はできる限りコストを下げ、用尺を抑えるのが当たり前になった中で、Aラインを追求しながら、きれいに見えるシルエットが追求されているが、そんな簡単にいくはずはない。アイデアを駆使し、コストをかけないと、どだい無理な話だと感じる。
シルエットをきれいに見せるには、切り替えたり、接ぎを増やして立体的に作らないと、思うようなラインは出ない。これは別にコートに限らず、レザージャケットなんかでも同じ。後身頃にヨークを付けた方がなおさら着やすく、シルエットが良くなるのは常識である。
だから、ラインをきれいに見せるには、1枚物でもツーピース風にするなど工夫がいるのだ。また、ビッグシルエットも、雑誌のフォトシューティングならいかにも様になるが、実際に着ると?ってなるお客さんは少なくないはず。
ビッグシルエットのコートについて、ネット通販の写真や商品説明を納得し注文したまでは良いが、届いてきて着るとイメージが違うのは、この春のコートの場合は多くなるのではないかと思う。インナーにそれほど厚着しないから、なおさら落ち感が良くないと野暮ったく見えてしまうからだ。
メンズでも40代向けの雑誌がビッグシルエットをイチ押ししている。モデルが着て、撮影アシスタントがレフ版で風を送り、ふわっとした感じを出しているからまだ様になっている。しかし、実際に40代以上の男性が普通に着ると、とてもカッコ良くは見えないのではないか。おじいさんの年代物を孫娘が着るセンスとは違うのだ。必ず売れ行きに関わって来ると思う。
ユニクロでも、Uniqlo Uで「プロテックコート」と題したアイテムを発売している。こちらもユニクロにしてはかなりのビッグシルエットだ。プロモ写真はインナーにはシャツやニットを着ただけなので、トレンドは意識しなおかつ重ね着もできるように機能性にも配慮したのかもしれない。それにしても、40代がそのまま1枚で着たのでは、野暮ったくなるのは間違いない。
中高年の男性が1枚着るならチェスターか、ステンカラーか。トレンドを狙うならむしろバレル型の方が裾がしまった分だけ、まだいけるかもしれない。それとも、カッコいい中高年を追求するなら、ロングジャケット風にしてみるとか、それを色替えのリバーシブルにして秋にも着られるようにするとか。個人的には帆布なんかを使って、粗野な感じを出しても面白いと思う。汚れ防止にコーティングを施すとか、ポリエステル混で洗濯に耐えるようにするとか。
あるいはビッグシルエットにするにしても、ライナーやジレーをかまして着こなしのバリエーションを増やすとか、内側にウエストをマークするアジャスターを付けるとか、いろんな企画を加味しないと売れないと思う。
一昨年春のレディス展示会では、デザイナーズ系のブランドがジップ使いにして切り離せるようにしたものもあった。メンズならさしずめ樹脂製ジップを使って、分離させるとブルゾンとして着られるような企画も面白いかもしれない。どちらにせよ、春コートはいろいろな可能性があると思う。オンシーズンの1年前と1年後にいろんなアイデアを貯めておき、企画会議では提案してみたいと思う。