今年も余すところ後1日となった。アパレル業界は企業倒産が相次いだことで、経済界から「立ち直りは難しいのでは」とのレッテルを貼られる始末。だが、需要を超える商品供給があれば、売れ残るのは当たり前。ファストファッションをはじめ、安いものなら掃いて捨てるほどあるわけで、レナウンや三陽商会までが減価率を下げたもの作りを進めれば、商品が魅力を損なうのは言うまでもない。結果、売上げ不振で経営破綻やリストラの嵐である。
だからと言って、お洒落で高額なアイテムが求められていないわけではない。ネットを見て気に入った商品を店頭で確かめると、しっかり企画しデザイン、素材とも秀逸なものは、再来店した時にはほとんど売り切れている。多少値段が高くても購入する人は確実にいる。人気ブランドはユーズドでもメルカリなどで買い手が付くし、e-Bayでニューヨーク発のレアブランドを入札したが、価格が釣り上がって落札できなかった。世界中のブランドハンターがWebを通してお値打ち品を狙っているのだ。
この1年は、端から商売目的で買う「転売ヤー」も目を引いた。セレクトショップはコロナ禍でお客が来店せず試着無しでは買い手がつかなくて在庫を抱えたところも多い。店売りで越境ECに対応していない商品に限って魅力的なのか、海外からの引き合いも多いという。転売ヤーの中にはそんな店舗から商品を買い取って、海外で売り捌くところがある。
ユニクロが11年ぶりに復活させた「+J」は早朝から長蛇の列ができ、ECにもアクセスが殺到。行列には転売ヤーも混じっていたと思う。でないと10時開店から発売された商品が12時過ぎにYahoo!オークションに出品されるはずはない。近くに店舗がなくて購入できないお客や在庫過多で倒産危機にあった店舗からは、転売ヤーが売ってくれて助かったとの話を聞く。こればかりは救世主とは言えないまでも、もはや必要悪と認めざるを得ない。
製造業者が直接、お客に商品を販売するD2C(Direct to customer)にも注目が集まった。コロナ禍で小売店の休業が余儀なくされ、卸先がなくなったアパレルメーカーやOEM業者が参入した。ECが主チャンネルだから出店コストがかからず、営業経費も削減できるが、SNSを駆使してコミュニティを作り、お客にいかにアプローチするかも重要になる。
ただ、お客のことを熟知するバイヤーの助言抜きで、メーカーは商品企画が進められるのか。卸先が見えないままで在庫を抱えられるか、という課題もある。反面、メーカーは商品を一方的にキャンセルされる心配がないなど、小売り側の身勝手さから解放されるメリットがある。新しい仕組みだから、一長一短は付き物。活性化のためには、とにかくやっていきながら、修正していくしかないと思う。
オーダースーツの世界ではすでにD2Cを超えて、在庫を抱えず受注生産するC2M(Customer to Manufactory)が浸透し始めている。オンワードHDの「カシヤマ・ザ・スマートテーラー」が代表例だ。お客が生地を選び、採寸して仕上がるまで、わずか1週間。同社はこれにレディスのパンプスを加えた。受注からパターン・仕様設定、生産、納品までをオンラインで繋いでデジタル化すれば、ほぼ在庫を抱えなくて済む。
団塊世代の大量退職に仕事のIT化が加わり、さらに今年はリモートワークが定着した。ただでさえスーツ離れが進んでいるのだから、品揃えと価格でしか勝負できないスーツ量販店に勝ち目はない。各社の赤字決算が何よりの証左だ。C2Mによるオーダースーツに各社がどこまで本腰で取り組み、オンワードを超えるシステムを築けるか。2021年以降のスーツ販売の勢力図が注目される。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/80/eed387ff6564ee9f4c9032db243203ac.png)
百貨店のそごう西武は千葉店と池袋店で、ニットのパーソナルオーダー&カスタマイズを始めた。()素材はシルクかカシミア。色やデザインは素材で決まっているが、袖丈や着丈は調整が可能だ。こちらは受注から納品まで約3週間かかるが、サイズなどを自分仕様にできる点がいい。これも編み立て機が進化し、個別対応できるようになったからか。百貨店にとっても、来店の動機付けや差別化の一つになる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4a/37/a99d8f73ce8300fd7546f707049d59b4.jpg)
一方、元祖オーダースーツの専門店は、さらに進んで「ニットの誂え」をスタートした。「銀座サカエヤ」のオフィサーズが手がける「タートルネック」がそれだ。自店がもつクラシコイタリアのノウハウをもとに、仮縫付きでその人のサイズ感にフィットするオーダーニットを仕上げてくれる。
筆者もタートルネックは好きなアイテムだ。20代の頃からコットン、ウールを問わず秋冬の御用達にしてきたが、これまでオーダーしようという発想はなかった。ただ、お客の中には首の高さを合わせたいとか、体型にフィットするサイズにしたいとかの要望があるそうだ。そこで、既製服ではありえない0.5~1cm単位のサイズ調整(仮縫い)を可能にして、襟の高さや形の指定から胴回りのサイズ調整までに応えることにしたという。
スーツやシャツをオーダーするエグゼクティブは、それらがいくらジャストフィットでも、インナーに着るニットがタイトやルーズであれば、全体のコーディネートが台無しになるという意識なのだろう。オフィシャルの着こなしを想定すれば、オーダーニットはドレスアップのキーアイテムになるということか。
素材はスーパー120のウール、シルク、ウールシルク。カラーは色々と選択できる。昔あったピエール・バルマンのカシミアシリーズに近いバリエーションだろうか。価格は3万9000円〜、5万9000円〜、7万9000円〜と、素材別に3タイプ(仮縫い代別途1万円)。かなり高額で、納品まで約2ヶ月もかかるというから、どこまで人気を集めるかはわからない。ただ、既成服ではなかなか良い商品に巡り会えない中で、選択肢の一つにはなり得る。
個人的には、ファッションのカジュアル化が進んで以降、インナーに着る布帛のシャツとニットカットソーの比率は、2:8くらいになった。着用時にボタンを留めるより、被った方が簡単だからということもある。さらに最近はプルオーバーも面倒になり、ジレー(前あきタイプ)型のフルジップセーターを好んで着ている。
先日、このコラムで+Jの「ミドルゲージダブルジップセーター」を取り上げたが、このようなアイテムを企画している国内ブランドはあまりない。ボタン留めのカーディガンほど売れないからだろうか。だが、インナーは布帛のシャツからカットソーのタートルまでと着こなしを選ばないから汎用性は高いのではないか。身頃を中綿に切り替えてもいいと思う。特に腕を上げるのが辛くなる中高年ほど、ジレー型のジップアップへのニーズは高いと思う。
欧州のメーカーはこのジップセーターでタートルネック、編み上げネック、クールネックといろんなバリエーションを企画しているが、素材はほとんどがコットンか、細番手の糸を使った梳毛タイプになる。価格が安いものは、アクリルにポリエステルなどを混紡した合繊オンリーだ。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/39/3d/aeeab949b38c981c201d2c8607a123e9.jpg)
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/66/34/0e09d5668799309a43ee6145bf5d2412.jpg)
あるレディスブランドが1アイテムを企画している。素材はビスコース81%、パリエステル19%の合繊オンリー。素材はサラっとしていても、冬物としては保温力を欠き、静電気も気になる。できればウールが90%以上で、やや肉厚のミドルゲージとか。襟や袖はニットでも身頃を中綿に切り替えたりとか。+Jの2〜3倍の価格帯でもいいから、どこかが企画してくれないだろうか。
まあ、こうしたアイテムで高額のオーダーが求められるかどうかは不明だが、襟付きのシャツに重ね着できることも考えると、エグゼクティの人たちがゴルフウエアとして着ることは十分に考えられる。ニッターの中には異素材を含めて高度なリンキング技術を持つところもあるし、前あきをフルジップ仕様にすることはそれほど難しくはないと思う。オーダー専門店がメニューの一つに加えてもいいかもしれない。
そんなこんな考えながら、今年も終わりそうだ。来年は量産不振の中でD2C、C2M、そしてオーダーメイドがどう進化していくか。その是非は置いといても、新しいビジネスモデルが魅力的なアイテムを生み出してくれることに期待したい。
だからと言って、お洒落で高額なアイテムが求められていないわけではない。ネットを見て気に入った商品を店頭で確かめると、しっかり企画しデザイン、素材とも秀逸なものは、再来店した時にはほとんど売り切れている。多少値段が高くても購入する人は確実にいる。人気ブランドはユーズドでもメルカリなどで買い手が付くし、e-Bayでニューヨーク発のレアブランドを入札したが、価格が釣り上がって落札できなかった。世界中のブランドハンターがWebを通してお値打ち品を狙っているのだ。
この1年は、端から商売目的で買う「転売ヤー」も目を引いた。セレクトショップはコロナ禍でお客が来店せず試着無しでは買い手がつかなくて在庫を抱えたところも多い。店売りで越境ECに対応していない商品に限って魅力的なのか、海外からの引き合いも多いという。転売ヤーの中にはそんな店舗から商品を買い取って、海外で売り捌くところがある。
ユニクロが11年ぶりに復活させた「+J」は早朝から長蛇の列ができ、ECにもアクセスが殺到。行列には転売ヤーも混じっていたと思う。でないと10時開店から発売された商品が12時過ぎにYahoo!オークションに出品されるはずはない。近くに店舗がなくて購入できないお客や在庫過多で倒産危機にあった店舗からは、転売ヤーが売ってくれて助かったとの話を聞く。こればかりは救世主とは言えないまでも、もはや必要悪と認めざるを得ない。
製造業者が直接、お客に商品を販売するD2C(Direct to customer)にも注目が集まった。コロナ禍で小売店の休業が余儀なくされ、卸先がなくなったアパレルメーカーやOEM業者が参入した。ECが主チャンネルだから出店コストがかからず、営業経費も削減できるが、SNSを駆使してコミュニティを作り、お客にいかにアプローチするかも重要になる。
ただ、お客のことを熟知するバイヤーの助言抜きで、メーカーは商品企画が進められるのか。卸先が見えないままで在庫を抱えられるか、という課題もある。反面、メーカーは商品を一方的にキャンセルされる心配がないなど、小売り側の身勝手さから解放されるメリットがある。新しい仕組みだから、一長一短は付き物。活性化のためには、とにかくやっていきながら、修正していくしかないと思う。
オーダースーツの世界ではすでにD2Cを超えて、在庫を抱えず受注生産するC2M(Customer to Manufactory)が浸透し始めている。オンワードHDの「カシヤマ・ザ・スマートテーラー」が代表例だ。お客が生地を選び、採寸して仕上がるまで、わずか1週間。同社はこれにレディスのパンプスを加えた。受注からパターン・仕様設定、生産、納品までをオンラインで繋いでデジタル化すれば、ほぼ在庫を抱えなくて済む。
団塊世代の大量退職に仕事のIT化が加わり、さらに今年はリモートワークが定着した。ただでさえスーツ離れが進んでいるのだから、品揃えと価格でしか勝負できないスーツ量販店に勝ち目はない。各社の赤字決算が何よりの証左だ。C2Mによるオーダースーツに各社がどこまで本腰で取り組み、オンワードを超えるシステムを築けるか。2021年以降のスーツ販売の勢力図が注目される。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/68/80/eed387ff6564ee9f4c9032db243203ac.png)
百貨店のそごう西武は千葉店と池袋店で、ニットのパーソナルオーダー&カスタマイズを始めた。()素材はシルクかカシミア。色やデザインは素材で決まっているが、袖丈や着丈は調整が可能だ。こちらは受注から納品まで約3週間かかるが、サイズなどを自分仕様にできる点がいい。これも編み立て機が進化し、個別対応できるようになったからか。百貨店にとっても、来店の動機付けや差別化の一つになる。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4a/37/a99d8f73ce8300fd7546f707049d59b4.jpg)
一方、元祖オーダースーツの専門店は、さらに進んで「ニットの誂え」をスタートした。「銀座サカエヤ」のオフィサーズが手がける「タートルネック」がそれだ。自店がもつクラシコイタリアのノウハウをもとに、仮縫付きでその人のサイズ感にフィットするオーダーニットを仕上げてくれる。
筆者もタートルネックは好きなアイテムだ。20代の頃からコットン、ウールを問わず秋冬の御用達にしてきたが、これまでオーダーしようという発想はなかった。ただ、お客の中には首の高さを合わせたいとか、体型にフィットするサイズにしたいとかの要望があるそうだ。そこで、既製服ではありえない0.5~1cm単位のサイズ調整(仮縫い)を可能にして、襟の高さや形の指定から胴回りのサイズ調整までに応えることにしたという。
スーツやシャツをオーダーするエグゼクティブは、それらがいくらジャストフィットでも、インナーに着るニットがタイトやルーズであれば、全体のコーディネートが台無しになるという意識なのだろう。オフィシャルの着こなしを想定すれば、オーダーニットはドレスアップのキーアイテムになるということか。
素材はスーパー120のウール、シルク、ウールシルク。カラーは色々と選択できる。昔あったピエール・バルマンのカシミアシリーズに近いバリエーションだろうか。価格は3万9000円〜、5万9000円〜、7万9000円〜と、素材別に3タイプ(仮縫い代別途1万円)。かなり高額で、納品まで約2ヶ月もかかるというから、どこまで人気を集めるかはわからない。ただ、既成服ではなかなか良い商品に巡り会えない中で、選択肢の一つにはなり得る。
個人的には、ファッションのカジュアル化が進んで以降、インナーに着る布帛のシャツとニットカットソーの比率は、2:8くらいになった。着用時にボタンを留めるより、被った方が簡単だからということもある。さらに最近はプルオーバーも面倒になり、ジレー(前あきタイプ)型のフルジップセーターを好んで着ている。
先日、このコラムで+Jの「ミドルゲージダブルジップセーター」を取り上げたが、このようなアイテムを企画している国内ブランドはあまりない。ボタン留めのカーディガンほど売れないからだろうか。だが、インナーは布帛のシャツからカットソーのタートルまでと着こなしを選ばないから汎用性は高いのではないか。身頃を中綿に切り替えてもいいと思う。特に腕を上げるのが辛くなる中高年ほど、ジレー型のジップアップへのニーズは高いと思う。
欧州のメーカーはこのジップセーターでタートルネック、編み上げネック、クールネックといろんなバリエーションを企画しているが、素材はほとんどがコットンか、細番手の糸を使った梳毛タイプになる。価格が安いものは、アクリルにポリエステルなどを混紡した合繊オンリーだ。
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あるレディスブランドが1アイテムを企画している。素材はビスコース81%、パリエステル19%の合繊オンリー。素材はサラっとしていても、冬物としては保温力を欠き、静電気も気になる。できればウールが90%以上で、やや肉厚のミドルゲージとか。襟や袖はニットでも身頃を中綿に切り替えたりとか。+Jの2〜3倍の価格帯でもいいから、どこかが企画してくれないだろうか。
まあ、こうしたアイテムで高額のオーダーが求められるかどうかは不明だが、襟付きのシャツに重ね着できることも考えると、エグゼクティの人たちがゴルフウエアとして着ることは十分に考えられる。ニッターの中には異素材を含めて高度なリンキング技術を持つところもあるし、前あきをフルジップ仕様にすることはそれほど難しくはないと思う。オーダー専門店がメニューの一つに加えてもいいかもしれない。
そんなこんな考えながら、今年も終わりそうだ。来年は量産不振の中でD2C、C2M、そしてオーダーメイドがどう進化していくか。その是非は置いといても、新しいビジネスモデルが魅力的なアイテムを生み出してくれることに期待したい。