アパレル業界にとって10〜11月は、卸先の小売店やショップに秋冬物をプロパーで売ってもらう月だ。卸側は販促イベントを仕掛けるわけではないが、最近は小売業もハロウィンが終わると、消費を盛り上げるにも手詰まり感は否めない。そこで、11月に入った途端、クリスマスプロモーションの企画を打ち出すところが増えている。
「まだ1カ月半以上あるのに」という懸念にも、小売業にとっては「とにかくお客さんのテンションを上げて購買につなげたい」のが切実な願いかもしれない。それにしても、かつてクリスマスプロモを展開するのは、11月23日の勤労感謝の日以降だった。だから、11月中にも消費意欲をかき立てる別の仕掛けが必要になるようだ。
今年あたりはそれが「Black Friday」なのだろうが、海外はとにかく凄まじい。先週明けから金曜日にかけ越境ECから筆者に届いたメルマガは、ブラックフライデー一色だった。しかも、パリのアパレル事業者まで、タイトルは「Vendredi Noir」ではなく、こぞって以下のようなタイトルになっていた。もはやブラックフライデーは、万国共通で固有名詞化したと言ってもいいだろう。
◆20% - Black Friday en avant-première
◆BLACK-WEEK : nos offres exceptionnelles jusqu’à-30% !
◆Jusqu’à -30% [Black Friday] : c’est parti ! Stock limité !
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フランスでもクリスマス商戦は1年でいちばんの書き入れ時だが、メルマガを見るとブラックフライデーを米国に倣ってセール催事に育てたいように感じる。割引率は20%〜30%とそれほど安くないのだが、これまでネット通販をあまり利用していない新規のお客を獲得する狙いもあるのではないか。お客にとって2〜3割程度の割引ならマークダウンの感覚だから、「プロパーでは少し高く感じた商品が多少手を出しやすい」との心理が働く。通販事業者としてはそこを突いて、一気に売る気にさせたのだと思う。
ところがである。フランスの夕刊紙「Le Monde」の電子版は、11月23日付けで「Le « Green Friday » en résistance à la consommation débridée du « Black Friday »」の記事を配信した。
https://www.lemonde.fr/societe/article/2018/11/22/le-green-friday-en-resistance-a-la-consommation-debridee-du-black-friday_5387124_3224.html
見出しを直訳すれば、「ブラックフライデーの消費者抵抗を抑えたグリーンフライデー」。記事のポイントを拾うと、以下のような内容である。
「米国からの過剰消費という象徴的イベント“ブラックフライデー”への抵抗」
「リサイクルと再包装の控えめを主導するEnvieは、2017年にグリーンフライデーを創設し、過度の消費を避けるよう呼びかけ、オープンハウスイベントを開催しました」
「パリ市役所とその40,000ユーロの助成金によって支えられた "グリーンフライデー"は今日、100人のメンバーを持つ協会となっている。それぞれは金曜日の売り上げの15%を様々な団体に寄付します」
「グリーンフライデーの共同設立者の1人であるEmmaüsは、衣類の生活の意識を高めるための縫製ワークショップを開催します」
「ブラックフライデーは米国の大量生産、大量消費の最たるセール催事で、それにネット通販が連動することでエスカレートした過剰消費に過ぎない」と、Le Mondeは言いたいようだ。そんな経済優先の消費文化に対し、フランス人の一部は購入資金を寄附に回したり、再利用やもの作りに取り組んでいる。彼らが見ているのは会計帳簿でしか見られない黒字より、誰の目にも映る森羅万象の緑なのだろうか。
確かに成長より分配を重視するフランスの伝統に照らせば、こうした活動は何となくわかる気がする。また、Le Mondeは中道左派寄りのメディアと言われて来たし、紙面はSociété、社会面だから質素倹約を旨とするフランス人への回帰を訴えても、不思議ではない。そうは言っても、経済界は博愛主義を唱える余裕はなんてないはずだ。
フランスの2018年4〜6月期のGDP成長率は+0.2%と16年7〜9月期以来の低い水準に止まっている。輸出は前年同期比で+0.1%と持ち直したものの、輸入が同+0.7%と輸出を上回ったことを見れば、経済成長に寄与していないことになる。アパレル事業者がブラックフライデーに乗じて何とか在庫を消化しようと、国外の顧客にもアプローチするのは、国内消費が伸び悩んでいるからなのだ。
就任1年を経過したマクロン政権は、規制緩和で政府の役割を後退させつつ、民間の活力を刺激して生産力を上げる経済改革を進めようとしている。この中では企業収益を改善させて設備投資に弾みをつける狙いから、社会保険料負担額の軽減が検討されている。また、一般家庭向けでは2022年までに80%の世帯を対象に地方住民税を廃止する計画だが、富裕税の減税やキャピタルゲイン減税は19年までに先行して行われる予定というから、庶民より経営者、資産家が優遇されているように感じる。
折しも24日には、政府による燃料税の増税に反対するデモが各地で行われ、パリのシャンゼリゼ通りでは暴徒化したデモ隊と警察が激しく衝突している。経済改革にはそれなりの痛みも伴うわけだが、それは庶民としては受け入れ難いとの明確な意思表示の現れのようである。
フランスと言えば、目下の話題はルノーグループのカルロスゴーン会長兼CEOの逮捕だろうか。ゴーン会長はフランス国籍を持つとは言え、出自はレバノン人である。もし、彼が純潔なフランス人だったら、国の伝統である成長より分配を望んだのだろうか。そうであれば、赤字だったルノーは黒字化できなかったかもしれないし、ヨーロッパに置ける日産の販路拡大もあり得なかったかもしれない。それは今回の逮捕とは別次元のこととして考えていかないといけないと思う。
アパレルに話を戻すと、米国のブラックフライデーは大量生産の在庫を年内に消化し、現金化するための手段でしかない。それにネット通販事業者のオンライン商戦「サイバーマンデー」が加わったことで、安さに釣られてポチりまくる消費者もいると思う。結果的に接客を受けず、現物をじっくり吟味しないで、衝動的に購入していく人々も多いのではないか。それがLe Mondeが指摘するところの過剰消費なのかどうかだが、企業側にとっては会計帳簿を黒字化するためには、四の五の言わずに売るしかないのも確かである。
米国のアパレル通販サイトは、膨大な量の品揃えを誇る。検索ワードを入力してもお目当てのものにヒットするまで行かず、ウエアの購入には至らない。スニーカーなんかは日本未発売でデザインが秀逸なものが見つかるが、ほとんどが海外発送不可になる。どうしても欲しい時は代行業者をかますことで手に入るが、そんな商品に限ってブラックフライデーの対象になっていないので、購入を躊躇ってしまう。
一方、フランスは米国のように大量生産、大量消費とまではいかないにしても、ネット通販を拡大し消費を活性化したいのはやまやまのようだ。肝心なアパレルは好みの問題があるにせよ、筆者の感性には米国よりもフィットする。ただ、フランスも米国同様に気に入ったアイテムはほとんど正価だ。やはり、事業者側もプロパーでも売れると踏んだものは値下げしない。なかなか狡猾である。
米国もフランスもブラックフライデーで消費者を煽りつつ、販売事業者は割引して在庫を処分したいもの、正価のまま期末まで引っ張っていくものと、線引きはしっかりしている。特にネット通販事業者の狙いはセール催事に乗せられて、お客がどれだけ消費してくれるかなのだろう。その点、日本は決して景気は悪いわけではないのだが、ブラックフライデーと銘打った実店舗の店頭を見ると、今イチ盛り上がりに欠けている。
アナリストからは今年のクリスマス商戦は堅調との予測が上がっているが、衣料品の販売増にはどれほど期待ができるのか。企業業績の勢いは下がりつつも、対前年比では増益のところはボーナスをアップさせている。ただ、来年は消費税が上がると言われているから、今年の冬から消費より貯蓄に回す傾向が強くなるのではないか。
ただ、ファッション業界は店頭を見る限り、それほど目立ったトレンドは見当たらないし、そこまでお金を出してまで、買いたい服がないというのが消費者の正直な思いではないかと思う。話題のオーダースーツにしても、メディアが報道するほど動いているとは考えにくい。筆者は先週開業したマークイズ福岡ももちのプレス内見会で、すべての店舗を2時間くらいかけて見て回ったが、衣料品については既存店ばかりで買いたくなるものは皆無だった。
まあ、日本チェーンストア協会が発表した平成30年度の販売概況によると、10月は衣料品795億円で前年同期比で11.0%も減少しているのだから、筆者に限らず多くの大人たちはショッピングセンターに出店しているショップでは買いたい商品は見当たらない証左だろう。やはり、消費者が「コレだ」と思うような商品を開発しないと、クリスマス商戦であっても売れないのである。
結局、今回のブラックフライデーでは、筆者の好みやサイズを知っているフランスメーカーから推薦されたジップニットを2枚、同じく通販サイトで日本では見かけないレザースニーカー(サイズデータは把握済み)を1足購入した。ウエアは久々の購入となったが、ともに割引商品ではなく、プロパーである。10年以上履き続けているパンツは、今年も我慢して穿いて、来年に期待するとしよう。
世界的な大量生産、ネット消費の陰で、日本では無駄な商品を買うどころか、店頭ですら買いたくなる商品すら見つからない状況。これははたしてグリーンフライデーの一助と言えるのだろうか。
「まだ1カ月半以上あるのに」という懸念にも、小売業にとっては「とにかくお客さんのテンションを上げて購買につなげたい」のが切実な願いかもしれない。それにしても、かつてクリスマスプロモを展開するのは、11月23日の勤労感謝の日以降だった。だから、11月中にも消費意欲をかき立てる別の仕掛けが必要になるようだ。
今年あたりはそれが「Black Friday」なのだろうが、海外はとにかく凄まじい。先週明けから金曜日にかけ越境ECから筆者に届いたメルマガは、ブラックフライデー一色だった。しかも、パリのアパレル事業者まで、タイトルは「Vendredi Noir」ではなく、こぞって以下のようなタイトルになっていた。もはやブラックフライデーは、万国共通で固有名詞化したと言ってもいいだろう。
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フランスでもクリスマス商戦は1年でいちばんの書き入れ時だが、メルマガを見るとブラックフライデーを米国に倣ってセール催事に育てたいように感じる。割引率は20%〜30%とそれほど安くないのだが、これまでネット通販をあまり利用していない新規のお客を獲得する狙いもあるのではないか。お客にとって2〜3割程度の割引ならマークダウンの感覚だから、「プロパーでは少し高く感じた商品が多少手を出しやすい」との心理が働く。通販事業者としてはそこを突いて、一気に売る気にさせたのだと思う。
ところがである。フランスの夕刊紙「Le Monde」の電子版は、11月23日付けで「Le « Green Friday » en résistance à la consommation débridée du « Black Friday »」の記事を配信した。
https://www.lemonde.fr/societe/article/2018/11/22/le-green-friday-en-resistance-a-la-consommation-debridee-du-black-friday_5387124_3224.html
見出しを直訳すれば、「ブラックフライデーの消費者抵抗を抑えたグリーンフライデー」。記事のポイントを拾うと、以下のような内容である。
「米国からの過剰消費という象徴的イベント“ブラックフライデー”への抵抗」
「リサイクルと再包装の控えめを主導するEnvieは、2017年にグリーンフライデーを創設し、過度の消費を避けるよう呼びかけ、オープンハウスイベントを開催しました」
「パリ市役所とその40,000ユーロの助成金によって支えられた "グリーンフライデー"は今日、100人のメンバーを持つ協会となっている。それぞれは金曜日の売り上げの15%を様々な団体に寄付します」
「グリーンフライデーの共同設立者の1人であるEmmaüsは、衣類の生活の意識を高めるための縫製ワークショップを開催します」
「ブラックフライデーは米国の大量生産、大量消費の最たるセール催事で、それにネット通販が連動することでエスカレートした過剰消費に過ぎない」と、Le Mondeは言いたいようだ。そんな経済優先の消費文化に対し、フランス人の一部は購入資金を寄附に回したり、再利用やもの作りに取り組んでいる。彼らが見ているのは会計帳簿でしか見られない黒字より、誰の目にも映る森羅万象の緑なのだろうか。
確かに成長より分配を重視するフランスの伝統に照らせば、こうした活動は何となくわかる気がする。また、Le Mondeは中道左派寄りのメディアと言われて来たし、紙面はSociété、社会面だから質素倹約を旨とするフランス人への回帰を訴えても、不思議ではない。そうは言っても、経済界は博愛主義を唱える余裕はなんてないはずだ。
フランスの2018年4〜6月期のGDP成長率は+0.2%と16年7〜9月期以来の低い水準に止まっている。輸出は前年同期比で+0.1%と持ち直したものの、輸入が同+0.7%と輸出を上回ったことを見れば、経済成長に寄与していないことになる。アパレル事業者がブラックフライデーに乗じて何とか在庫を消化しようと、国外の顧客にもアプローチするのは、国内消費が伸び悩んでいるからなのだ。
就任1年を経過したマクロン政権は、規制緩和で政府の役割を後退させつつ、民間の活力を刺激して生産力を上げる経済改革を進めようとしている。この中では企業収益を改善させて設備投資に弾みをつける狙いから、社会保険料負担額の軽減が検討されている。また、一般家庭向けでは2022年までに80%の世帯を対象に地方住民税を廃止する計画だが、富裕税の減税やキャピタルゲイン減税は19年までに先行して行われる予定というから、庶民より経営者、資産家が優遇されているように感じる。
折しも24日には、政府による燃料税の増税に反対するデモが各地で行われ、パリのシャンゼリゼ通りでは暴徒化したデモ隊と警察が激しく衝突している。経済改革にはそれなりの痛みも伴うわけだが、それは庶民としては受け入れ難いとの明確な意思表示の現れのようである。
フランスと言えば、目下の話題はルノーグループのカルロスゴーン会長兼CEOの逮捕だろうか。ゴーン会長はフランス国籍を持つとは言え、出自はレバノン人である。もし、彼が純潔なフランス人だったら、国の伝統である成長より分配を望んだのだろうか。そうであれば、赤字だったルノーは黒字化できなかったかもしれないし、ヨーロッパに置ける日産の販路拡大もあり得なかったかもしれない。それは今回の逮捕とは別次元のこととして考えていかないといけないと思う。
アパレルに話を戻すと、米国のブラックフライデーは大量生産の在庫を年内に消化し、現金化するための手段でしかない。それにネット通販事業者のオンライン商戦「サイバーマンデー」が加わったことで、安さに釣られてポチりまくる消費者もいると思う。結果的に接客を受けず、現物をじっくり吟味しないで、衝動的に購入していく人々も多いのではないか。それがLe Mondeが指摘するところの過剰消費なのかどうかだが、企業側にとっては会計帳簿を黒字化するためには、四の五の言わずに売るしかないのも確かである。
米国のアパレル通販サイトは、膨大な量の品揃えを誇る。検索ワードを入力してもお目当てのものにヒットするまで行かず、ウエアの購入には至らない。スニーカーなんかは日本未発売でデザインが秀逸なものが見つかるが、ほとんどが海外発送不可になる。どうしても欲しい時は代行業者をかますことで手に入るが、そんな商品に限ってブラックフライデーの対象になっていないので、購入を躊躇ってしまう。
一方、フランスは米国のように大量生産、大量消費とまではいかないにしても、ネット通販を拡大し消費を活性化したいのはやまやまのようだ。肝心なアパレルは好みの問題があるにせよ、筆者の感性には米国よりもフィットする。ただ、フランスも米国同様に気に入ったアイテムはほとんど正価だ。やはり、事業者側もプロパーでも売れると踏んだものは値下げしない。なかなか狡猾である。
米国もフランスもブラックフライデーで消費者を煽りつつ、販売事業者は割引して在庫を処分したいもの、正価のまま期末まで引っ張っていくものと、線引きはしっかりしている。特にネット通販事業者の狙いはセール催事に乗せられて、お客がどれだけ消費してくれるかなのだろう。その点、日本は決して景気は悪いわけではないのだが、ブラックフライデーと銘打った実店舗の店頭を見ると、今イチ盛り上がりに欠けている。
アナリストからは今年のクリスマス商戦は堅調との予測が上がっているが、衣料品の販売増にはどれほど期待ができるのか。企業業績の勢いは下がりつつも、対前年比では増益のところはボーナスをアップさせている。ただ、来年は消費税が上がると言われているから、今年の冬から消費より貯蓄に回す傾向が強くなるのではないか。
ただ、ファッション業界は店頭を見る限り、それほど目立ったトレンドは見当たらないし、そこまでお金を出してまで、買いたい服がないというのが消費者の正直な思いではないかと思う。話題のオーダースーツにしても、メディアが報道するほど動いているとは考えにくい。筆者は先週開業したマークイズ福岡ももちのプレス内見会で、すべての店舗を2時間くらいかけて見て回ったが、衣料品については既存店ばかりで買いたくなるものは皆無だった。
まあ、日本チェーンストア協会が発表した平成30年度の販売概況によると、10月は衣料品795億円で前年同期比で11.0%も減少しているのだから、筆者に限らず多くの大人たちはショッピングセンターに出店しているショップでは買いたい商品は見当たらない証左だろう。やはり、消費者が「コレだ」と思うような商品を開発しないと、クリスマス商戦であっても売れないのである。
結局、今回のブラックフライデーでは、筆者の好みやサイズを知っているフランスメーカーから推薦されたジップニットを2枚、同じく通販サイトで日本では見かけないレザースニーカー(サイズデータは把握済み)を1足購入した。ウエアは久々の購入となったが、ともに割引商品ではなく、プロパーである。10年以上履き続けているパンツは、今年も我慢して穿いて、来年に期待するとしよう。
世界的な大量生産、ネット消費の陰で、日本では無駄な商品を買うどころか、店頭ですら買いたくなる商品すら見つからない状況。これははたしてグリーンフライデーの一助と言えるのだろうか。