HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

Green Fridayへの一助。

2018-11-28 05:01:11 | Weblog
 アパレル業界にとって10〜11月は、卸先の小売店やショップに秋冬物をプロパーで売ってもらう月だ。卸側は販促イベントを仕掛けるわけではないが、最近は小売業もハロウィンが終わると、消費を盛り上げるにも手詰まり感は否めない。そこで、11月に入った途端、クリスマスプロモーションの企画を打ち出すところが増えている。

 「まだ1カ月半以上あるのに」という懸念にも、小売業にとっては「とにかくお客さんのテンションを上げて購買につなげたい」のが切実な願いかもしれない。それにしても、かつてクリスマスプロモを展開するのは、11月23日の勤労感謝の日以降だった。だから、11月中にも消費意欲をかき立てる別の仕掛けが必要になるようだ。

 今年あたりはそれが「Black Friday」なのだろうが、海外はとにかく凄まじい。先週明けから金曜日にかけ越境ECから筆者に届いたメルマガは、ブラックフライデー一色だった。しかも、パリのアパレル事業者まで、タイトルは「Vendredi Noir」ではなく、こぞって以下のようなタイトルになっていた。もはやブラックフライデーは、万国共通で固有名詞化したと言ってもいいだろう。

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 フランスでもクリスマス商戦は1年でいちばんの書き入れ時だが、メルマガを見るとブラックフライデーを米国に倣ってセール催事に育てたいように感じる。割引率は20%〜30%とそれほど安くないのだが、これまでネット通販をあまり利用していない新規のお客を獲得する狙いもあるのではないか。お客にとって2〜3割程度の割引ならマークダウンの感覚だから、「プロパーでは少し高く感じた商品が多少手を出しやすい」との心理が働く。通販事業者としてはそこを突いて、一気に売る気にさせたのだと思う。

 ところがである。フランスの夕刊紙「Le Monde」の電子版は、11月23日付けで「Le « Green Friday » en résistance à la consommation débridée du « Black Friday »」の記事を配信した。

https://www.lemonde.fr/societe/article/2018/11/22/le-green-friday-en-resistance-a-la-consommation-debridee-du-black-friday_5387124_3224.html


 見出しを直訳すれば、「ブラックフライデーの消費者抵抗を抑えたグリーンフライデー」。記事のポイントを拾うと、以下のような内容である。

 「米国からの過剰消費という象徴的イベント“ブラックフライデー”への抵抗」

 「リサイクルと再包装の控えめを主導するEnvieは、2017年にグリーンフライデーを創設し、過度の消費を避けるよう呼びかけ、オープンハウスイベントを開催しました」

 「パリ市役所とその40,000ユーロの助成金によって支えられた "グリーンフライデー"は今日、100人のメンバーを持つ協会となっている。それぞれは金曜日の売り上げの15%を様々な団体に寄付します」

 「グリーンフライデーの共同設立者の1人であるEmmaüsは、衣類の生活の意識を高めるための縫製ワークショップを開催します」


 「ブラックフライデーは米国の大量生産、大量消費の最たるセール催事で、それにネット通販が連動することでエスカレートした過剰消費に過ぎない」と、Le Mondeは言いたいようだ。そんな経済優先の消費文化に対し、フランス人の一部は購入資金を寄附に回したり、再利用やもの作りに取り組んでいる。彼らが見ているのは会計帳簿でしか見られない黒字より、誰の目にも映る森羅万象の緑なのだろうか。

 確かに成長より分配を重視するフランスの伝統に照らせば、こうした活動は何となくわかる気がする。また、Le Mondeは中道左派寄りのメディアと言われて来たし、紙面はSociété、社会面だから質素倹約を旨とするフランス人への回帰を訴えても、不思議ではない。そうは言っても、経済界は博愛主義を唱える余裕はなんてないはずだ。

 フランスの2018年4〜6月期のGDP成長率は+0.2%と16年7〜9月期以来の低い水準に止まっている。輸出は前年同期比で+0.1%と持ち直したものの、輸入が同+0.7%と輸出を上回ったことを見れば、経済成長に寄与していないことになる。アパレル事業者がブラックフライデーに乗じて何とか在庫を消化しようと、国外の顧客にもアプローチするのは、国内消費が伸び悩んでいるからなのだ。

 就任1年を経過したマクロン政権は、規制緩和で政府の役割を後退させつつ、民間の活力を刺激して生産力を上げる経済改革を進めようとしている。この中では企業収益を改善させて設備投資に弾みをつける狙いから、社会保険料負担額の軽減が検討されている。また、一般家庭向けでは2022年までに80%の世帯を対象に地方住民税を廃止する計画だが、富裕税の減税やキャピタルゲイン減税は19年までに先行して行われる予定というから、庶民より経営者、資産家が優遇されているように感じる。

 折しも24日には、政府による燃料税の増税に反対するデモが各地で行われ、パリのシャンゼリゼ通りでは暴徒化したデモ隊と警察が激しく衝突している。経済改革にはそれなりの痛みも伴うわけだが、それは庶民としては受け入れ難いとの明確な意思表示の現れのようである。

 フランスと言えば、目下の話題はルノーグループのカルロスゴーン会長兼CEOの逮捕だろうか。ゴーン会長はフランス国籍を持つとは言え、出自はレバノン人である。もし、彼が純潔なフランス人だったら、国の伝統である成長より分配を望んだのだろうか。そうであれば、赤字だったルノーは黒字化できなかったかもしれないし、ヨーロッパに置ける日産の販路拡大もあり得なかったかもしれない。それは今回の逮捕とは別次元のこととして考えていかないといけないと思う。

 アパレルに話を戻すと、米国のブラックフライデーは大量生産の在庫を年内に消化し、現金化するための手段でしかない。それにネット通販事業者のオンライン商戦「サイバーマンデー」が加わったことで、安さに釣られてポチりまくる消費者もいると思う。結果的に接客を受けず、現物をじっくり吟味しないで、衝動的に購入していく人々も多いのではないか。それがLe Mondeが指摘するところの過剰消費なのかどうかだが、企業側にとっては会計帳簿を黒字化するためには、四の五の言わずに売るしかないのも確かである。

 米国のアパレル通販サイトは、膨大な量の品揃えを誇る。検索ワードを入力してもお目当てのものにヒットするまで行かず、ウエアの購入には至らない。スニーカーなんかは日本未発売でデザインが秀逸なものが見つかるが、ほとんどが海外発送不可になる。どうしても欲しい時は代行業者をかますことで手に入るが、そんな商品に限ってブラックフライデーの対象になっていないので、購入を躊躇ってしまう。

 一方、フランスは米国のように大量生産、大量消費とまではいかないにしても、ネット通販を拡大し消費を活性化したいのはやまやまのようだ。肝心なアパレルは好みの問題があるにせよ、筆者の感性には米国よりもフィットする。ただ、フランスも米国同様に気に入ったアイテムはほとんど正価だ。やはり、事業者側もプロパーでも売れると踏んだものは値下げしない。なかなか狡猾である。

 米国もフランスもブラックフライデーで消費者を煽りつつ、販売事業者は割引して在庫を処分したいもの、正価のまま期末まで引っ張っていくものと、線引きはしっかりしている。特にネット通販事業者の狙いはセール催事に乗せられて、お客がどれだけ消費してくれるかなのだろう。その点、日本は決して景気は悪いわけではないのだが、ブラックフライデーと銘打った実店舗の店頭を見ると、今イチ盛り上がりに欠けている。

 アナリストからは今年のクリスマス商戦は堅調との予測が上がっているが、衣料品の販売増にはどれほど期待ができるのか。企業業績の勢いは下がりつつも、対前年比では増益のところはボーナスをアップさせている。ただ、来年は消費税が上がると言われているから、今年の冬から消費より貯蓄に回す傾向が強くなるのではないか。

 ただ、ファッション業界は店頭を見る限り、それほど目立ったトレンドは見当たらないし、そこまでお金を出してまで、買いたい服がないというのが消費者の正直な思いではないかと思う。話題のオーダースーツにしても、メディアが報道するほど動いているとは考えにくい。筆者は先週開業したマークイズ福岡ももちのプレス内見会で、すべての店舗を2時間くらいかけて見て回ったが、衣料品については既存店ばかりで買いたくなるものは皆無だった。

 まあ、日本チェーンストア協会が発表した平成30年度の販売概況によると、10月は衣料品795億円で前年同期比で11.0%も減少しているのだから、筆者に限らず多くの大人たちはショッピングセンターに出店しているショップでは買いたい商品は見当たらない証左だろう。やはり、消費者が「コレだ」と思うような商品を開発しないと、クリスマス商戦であっても売れないのである。

 結局、今回のブラックフライデーでは、筆者の好みやサイズを知っているフランスメーカーから推薦されたジップニットを2枚、同じく通販サイトで日本では見かけないレザースニーカー(サイズデータは把握済み)を1足購入した。ウエアは久々の購入となったが、ともに割引商品ではなく、プロパーである。10年以上履き続けているパンツは、今年も我慢して穿いて、来年に期待するとしよう。

 世界的な大量生産、ネット消費の陰で、日本では無駄な商品を買うどころか、店頭ですら買いたくなる商品すら見つからない状況。これははたしてグリーンフライデーの一助と言えるのだろうか。

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都市型SCでも難有り。

2018-11-21 19:19:30 | Weblog
 このコラムでは以前にも触れたが、11月19日「MARK IS 福岡ももち」のプレス内覧会に行って来た。2年連続でプロ野球日本一を達成した福岡ソフトバンクホークスの本拠地、ヤフオクドーム横に三菱地所が開発したショッピングセンター(SC)で、21日のグランドオープン先がけてメディア関係者に公開された。

 同地にはもともと「ホークスタウンモール」(2000年の開業)があったが、HKT劇場やフットサルスタジアム、ライブハウスのゼップ福岡など、「コト消費」を重視しすぎて集客では苦戦しテナントが次々と撤退。2010年くらいからは野球がない日やオフシーズンには閑古鳥が鳴く有り様だった。

 2015年、三菱地所はそんなホークスタウンモールの再生に名乗りをあげ、土地の所有権をもつシンガポール政府系投資ファンド「GICリアルエステート」から、信託受益権を取得。開発方針についてファンド側と検討を重ねた末、完全に更地して建て替えることを決定した。

 三菱地所は再生計画をショッピングセンターとタワーマンション2棟(ザ・パークハウス福岡タワーズ)からなる複合再開発とし、昨年6月から商業施設棟の建設に着工していた。SCは物販115店舗、飲食25店舗、サービス23店舗を集積(うち新業態9店舗、 九州初出店は32店舗)し、福岡の天神以西のSCでは市内最大級。運営管理は天神でイムズを手がける三菱地所リテールマネジメントが行っている。

 ポイントはホークスタウンモールの反省、特に集客で苦戦した点をいかに克服できたかである。延床面積はホークスタウンモールの7万6000㎡に対し、MARK IS 福岡ももちは12万5000㎡と1.64倍に拡大。開発規模で勝る分、テナントは物販からサービスまで合計163店舗と充実している。

 1階に配置されたのは地場スーパー「ハローデイ」。ホークスタウンモール時代にはスーパーがなかったため、リーシングの決め手になったと思う。SC自体が足下商圏の攻略を旗印に掲げるので、ハローデイもデイリーニーズに即応し、ファミリー向けの惣菜や食品を充実。高齢者ウケしている産直鮮魚の調理加工などを抱き合わせれば、足下商圏の地行や福浜地区の住民を集客できる可能は高い。

 ただ、基本路線は売却問題で揺れる西友傘下のサニーにような安売り店ではない。また、隣の百道(ももち)地区にはハローデイ系列の高級スーパー「ボン・ラパス」があり、周辺の住宅密集地には他店も並ぶ。ハローデイは品揃えの充実度や販売企画では他のスーパーより抜きん出ているので、周辺からの車利用客をいかに集客できるか。そして、成否という点ではタワーマンションの完成以降、足下商圏になるマンション住民をどれほど顧客化できるかにかかっていると思う。



 
 2階には、ロンハーマンのコンセプトンショップ「RHC ロンハーマン(RHC RON HERMAN)」、カナダ発のアウトドアブランド「アークテリクス」が九州初進出。他にはインテリアショップの「アクタス」、書店の「ツタヤ ブックストア」。セレクトショップの「ジャーナルスタンダード レリューム」「ナノユニバーズ」「フリークスストア」。ライブホールの「ゼップ福岡」。物販47店、飲食3店、サービス2店が出店する。

 RHCロンハーマンが初ものとは言っても、 福岡ではすでに中心部の警固にロンハーマンは出店済みだ。だから、こちらはアートやトイ、サーフィンなどホビーニーズを拡大。“今を感じられる空間”を楽しむストアを目指している。カナダ発のアウトドアブランド、アークテリクスは国内最大の店舗。九州でも代理店を通じた卸で手応えを掴んでおり、クライミングやトレッキングといったハイパフォーマンスから24のタウンユースまでの幅広い展開で、レアな商品を好む顧客の開拓を狙う。

 アクタスは天神に近い渡辺通りに既存店があり、市内では2店舗目となる。最初の福岡進出から30年以上を経過しており、ある程度、高級家具市場を掴んだ手応えから、2店舗目の展開に踏み切ったと思う。家具からインテリア雑貨、調理器具、子ども向けグッズまでの品揃えで、湾岸地区の住民を顧客化できるかがカギになる。

 ツタヤブックストアは、福岡の中心部では国体道路沿いにあった店舗がビルごとドンキホーテに変わり、こちらは移転というか、新規出店という形になる。九州における旗艦店、広告的ストアの位置づけかもしれないが、代官山やGINZA SIXの店舗のように気軽に立ち寄れないところが難点だ。セレクトショップの3業態は、天神もしくは博多駅に既存店があるので、目新しさは感じない。

 ゼップ福岡は施設前のよかトピア通りに架かる歩道橋からペデストリアンデッキで入館が可能になっている。このデッキはヤフオクドームともつながる構造だ。ホークスタウンモールからの横滑りだが、収用人員は2000名から1500名に減っている。キャパを少なくしても小屋を確実に埋め、稼働率を上げる狙いだろう。だが、福岡の中心部には好調なライブホールはいくつもあるので、いかに観客の興味を惹ける出演者や題目を集められるか、運営側の力が試されるところである。

 3階はGUやグローバルワークといった大型業態から個店、フードコートを含む飲食まで、49店舗が揃う。フロアはファミリー層を意識してか、小動物と触れ合える「モフアニマルカフェ」、20種類以上の遊具で遊べる「あそびパークプラス」が出店。今年3月、本家米国の本社が350億円もの負債を抱えて倒産した「トイザらス・ベビーザらス」はホークスタウンモール時代にも展開されていたので、再出店となる。

 4階はエンタメと家電のフロアで、シネコンの「ユナイテッドシネマ」、「ナムコ」、家電量販店の「コジマ×ビッグカメラ」の他に、英会話や幼児教室、パーソナルジム、ヘアサロンなどがリーシングされている。ユナイテッドシネマもホークスタウン時代から継続出店となり、他のエンタメも既存店があるので特に珍しいというわけではない。


観光スポット化は難しい

 テナントの顔ぶれを見ると、ほとんどが既存業態である。一応、新業態9店舗、九州・福岡初出店はジャック&マリー、カヒコなど42店舗はあるものの、そこに行かないと買えないレアな商品とか、受けられない特別なサービスではないから、テナントで差別化し高い集客力を発揮できるとは思えない。ホークスタウンモールから継続出店する店舗も、以前に苦戦を強いられた点では、施設全体の集客力に賭けるしかない不確かな立場だ。

 交通アクセスが劣る点は以前から変わらない。路線バスが運行されているとは言え、便数が少なく、地下鉄利用でも唐人町駅から徒歩で10数分はかかる。マイカーでないと自由に行けない点は非常に不便だ。そのため、天神、博多駅を生活圏にしていれば、開業景気を過ぎた後にわざわざ行く必要はないと、多くのお客が思うのではないか。

 「コト消費」の時代だからと開発前にはボルダリングやスケートボード、マリンスポーツなどの施設誘致への期待があったが、リーシングには至っていない。また、人工海浜や福岡タワー、福岡博物館などがある西隣の「シーサイドももち」と連携して、東京のお台場のようにエンターテイメントやグルメ、ショッピングを楽しめる観光スポットにすればいいという意見もある。

 しかし、お台場のようにモノレールがあるわけではなく、徒歩で回遊しづらいという課題は残ったままだ。第一、シーサイドももちと簡単に連携できるのなら、コト消費を重視したホークスタウンモールがあんなに苦戦していないはずだ。

 今回、既存のSCとの差別化として、IT技術を駆使した新しいサービスが導入されている。AIコンシェルジュ「infobot®」は店舗や付帯施設の場所、サービス内容などを 人間の代わりに、音声(英・中・韓にも対応)、と画像で回答してくれるもので、日本初登場。光IDはスマートフォン専用アプリ内のカメラを館内のポスターや照明などにかざすとリンク先のURLを自動で認識するサービスで、こちらも商業施設では初となる。

 MARK IS 福岡ももちが設定する足下商圏とは天神を軸に福岡市の西半分、主に早良区、西区、城南区を攻略するしかないと思われる。それにしても施設が立地し、筆者も生活圏にする福岡市中央区は、2015年の国勢調査では「全国女性比率の高い市区町村ランキング」で、 女性を100とした場合の男性比率が80.3%と、ダントツの1位にある。(https://diamond.jp/articles/-/137921?page=2)

 同調査による2010年度比の人口増減率はプラス8.0%、平均年齢は42.8歳、65歳以上の比率が18%。つまり、「全国一若い女性が多い街」と言えるのだ。

 そうした女性が住むのは、勤務地や学校へのアクセスが良い西鉄大牟田線や地下鉄空港線&七隈線沿線。独身女性はほとんどがマイカーを所有していないし、買い物は天神や博多駅で十分に足りる。必ずしもMARK IS 福岡ももちの足下商圏の人口が増えているわけではないのだ。なおさら市場特性を考えると、旧態依然としたファミリー狙いのSCにどこまでポテンシャルがあるかは不透明だ。識者の中には、「(全国一若い女性が住む市場特性から)三菱地所はSC開発のターゲット設定を見誤った」と言う方すらいる。



 施設前の湾岸道路(通称:よかトピア通り)は片側2車線で、野球開催時には非常に渋滞する。来年3月下旬の開幕以降、週末のデーゲーム時には観戦客と買物客で、周辺道路の大混雑が予測される。それに対する緩和策として、歩行者デッキの整備や交差点改良やバス停カットの新設。イベント時には交通量に即した信号時間の調整や周辺道路の路上駐⾞対策の実施。イベント後には都市⾼利⽤者を⻄公園ランプ利⽤から百道ランプ利⽤へ誘導。臨時バスに連節バスの導⼊などがすでに実施されている。

 運営管理にあたる三菱地所リテールマネジメントでも、「西鉄や福岡市営地下鉄と連携して最寄りのバス停、駅利用で買い物ポイントが付与されるような公共交通利用の施策も検討している」と、アクセスの難点や道路混雑の課題の克服に取り組んでいる。 だが、これらがマイカー客増加による道路混雑の抜本的な対策につながるとは思えない。

 まあ、野球が開催される頃には開業景気も沈静化していると思うが、徒歩で行きづらい点がかえって交通渋滞を引き起こし、「週末は道が混むから、行くのを控えよう」と集客面でずっと尾を引くかもしれない。

 現状で言えることは、ホークスタウンモールが集客でかなり苦戦したことから、施設の規模、テナントの数、多少の先進的サービスで何とか対応しようという努力は窺える。だからといって、施設自体はファミリー向けのテナント集積のため、福岡市全体から必ずしも強力に集客できるかは懐疑的だ。

 以前から誘致の期待が高かった子どものお仕事体験テーマパーク「キッザニア」は、すでに三井不動産が博多区三筑の青果市場跡地に開発する「ららぽーと」にリーシングし、2022年に開業することが決まっている。三井不動産は同じ中央区の九州大学六本松キャンパス跡地の再開発「六本松421」でも、販売代理を務めるマンションMJR六本松を即日完売させるなど、福岡では営業的に先行する。

 地元デベロッパーからは「行き場を失った東京マネーが福岡のマンション投資に向かっている」との話も聞かれる。三菱地所がヤフオクドーム横に開発するタワーマンションのザ・パークハウス福岡タワーズも、資産運用の対象としては完売するかもしれない。だが、最多販売価格は一戸当たり5000万〜6000万円だから、年収ランキングで全国Cクラスの福岡では簡単に購入できる額ではない。東京マネーが資産運用を狙うと言っても家賃が高ければ、借り手はつかない。それはSC業績の懸念材料でもあるのだ。

 MARK IS 福岡ももちは広域集客ならぬ狭域集客で、はたしてペイすることができるか。来場客の動向を見ながら、大胆なテナントの入れ替えなどを行わない限り、天神、博多駅に次ぐ福岡第三の商業拠点となることは、相当に難しいと言わざるを得ない。
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買いたいお客はいる。

2018-11-14 06:31:49 | Weblog
 三越伊勢丹ホールディングス(HD)の2019年上期(2018年4月~9月)決算が発表された。売上高は5639億円(前年同期比4.3%減)、営業利益は108億円(同41.5%増)。利益が大幅に増えた形だが、これは赤字に陥っていたアパレル子会社を3月に終了するなどリストラによるもの。本業の百貨店事業、特に地方店は減収が続いており、これをどうするかという命題は残ったままだ。

 今年9月には、伊勢丹の相模原店と府中店を19年9月に、新潟三越を2020年3月に閉鎖すると発表している。今回の決算でも名古屋三越(売上高317億3900万円、前年同期比14億円増)を除き、地方店はすべて減収という厳しい状況にある。

 杉江俊彦社長は会見で「大規模店舗の閉鎖はもうない。これは断言する」と言い切った。しかし、 広島三越(営業利益マイナス2億6000万円)や松山三越(同マイナス3億5600万円)のように赤字を垂れ流す店舗を抱えていては、投資家の理解を得られない。なおさら売上げ減に歯止めがかからないのは、今の市況に合わなくなっている証左だ。

 では、地方百貨店はどうすればいいのか、考えてみたい。既存店のフロア構成は、地階が生鮮や塩干、グロサリー、菓子、ベーカリーなどの食品。1階が海外の高級ブランド、ネクタイやハンカチ、帽子、巻物、財布、靴、バッグ類。2階より上がアパレルや雑貨。5階以上はギフトや宝飾品、時計、眼鏡、スポーツ、旅行、催事場等々になる。

 1階に出店する海外ブランドは売上げが取れるとは言え、ルイ・ヴィトンやエルメス、グッチなど顔ぶれは決まっている。一方、国内ブランドは百貨店系アパレルが中心になり、価格の割に企画デザインや素材が今イチで、お客のニーズに合致しなくなっている。雑貨や眼鏡、スポーツ、旅行は郊外SCの方がテナントは充実しているし、価格競争力もある。これではとても太刀打ちできないのは、素人目にもわかる。

 こうした商品政策から総合すると、地方百貨店が売上げ不振に陥った根本原因は以下になる。一つはもともと人口や市場規模から、商品を絞り込んで品揃えを行ったため、売上げを増やすための政策を打ちづらいこと。特にメーカー側がブランドイメージを維持する狙いから、ますは首都圏(東京)中心で投入し、地方での展開にはいたらない。だから、数字の積み増しが期待できないのである。

 二つ目は百貨店は中高年からの支持はあるにせよ、求めるニーズと品揃えが合致しなくなっている。昔と今では中高年の意識もセンスも変わっているのに、それを探ってMDに反映できる人材がおらず、本腰を入れるまでにはいっていないのだ。

 業界人諸兄の中には、対策として「思いきってアパレルを切り、食品、化粧品、宝飾品を強化拡充すべき」と仰る方がいる。確かに地方百貨店が生き残るには、現状のような「大規模小売店鋪」(第一種は店舗面積3,000m2以上、特別区・指定都市は6,000m2以上)では難しい。借地借家なら賃料がかかるし、売場は派遣社員で回すにしても、最低限の管理要員が必要になる。週1回の折り込みチラシやラテ媒体を使うCM、イベント企画など、販売管理の経費もバカにならない。多層なら水光費は莫大だ。

 だから、アパレルをカットして規模を縮小するというのは、わからないでもない。それにしても、最低限かかる経費を利益が薄い食品や化粧品(海外ブランド、自然派コスメを除き、国内メーカーの制度化粧品は荒利25%)で賄えるとは思えない。高利の代表格、宝飾品や高級・輸入時計は商品回転率が鈍いし、催事販売や外商になって却って販管コストがかかってしまう。第一、宝飾品の市場規模はバブル時代の3兆円から7000億円まで縮小しているとのデータもある。売れ行きは景気の動向に左右されるし、コンスタントに売上げを望めるのは、やはり大都市になる。

 仮に地方百貨店が食品、化粧品、宝飾品を拡充強化するにしても、自社運営では難しいからテナントにならざるを得ない。また、集客のための公共施設とのドッキング策もハード面をどこまでの規模にするか。現状の店舗を生かすにしても地下1階、地上6〜7階の多層は必要ないから、建て直さなければならない。中途半端に出店投資が必要だし、肝心なテナントが確保できる保証はない。正直、難しい経営判断を迫られる。

 三越伊勢丹HDの杉江社長がさらに店舗を閉鎖するには、従業員の雇用や地域経済に与える影響などいろんな柵が関わってくる。だが、ドラスティックの改革ができないようでは、経営者としての資質も問われてしまうのだ。もっとも、今回の会見で発表された戦略で唯一光明を見出すとすれば、筆者は以下のことではないかと思う。

 「基幹店の商品情報や在庫情報を全店で共有し、基幹店のすべての商品が地方店でも購入できる仕組みを構築


基幹店の商品が買える店

 地方店は大手百貨店の暖簾だけ残し、杉江社長が語った基幹店の商品情報を全店で共有し、基幹店のすべての商品が地方店でも購入できる「サテライト業態」を開発するという考えはどうだろう。衛星店はこれまでも地方には存在したが、それは外商の窓口やギフトや小物の販売程度だった。だから、一歩進んでネットと連動させ、基幹店の商品が購入できる拠点にする。それが地方店が生き残る唯一の手段かもしれないと考える。

 まず、地方では本当に「高級・高感度なブランドを集積してもニーズがない」のか。ニーズは少ないとは思うが、「0」ではないはずだ。地方ではそうしたブランドを扱う百貨店がないから、お客は自分の目で確かめることができず、試着や接客を受ける機会もなく、購入にいたらないだけではないのか。そうした仮説を立てながら、潜在ニーズを逆に探るという手法はあっていいと思う。

 常時、店頭で商品のラインナップはできないから、基幹店の在庫を掲載したサイトをつくり、スマホアプリもしくは店頭のタブレットで確認できるようにして、お客が欲しい商品(食品含めて)を見つければ、注文を受けてサテライト業態まで配送する。お客には試着や接客を受けてから、購入するかしないかを決めてもらえばいいのである。その場合、基幹店では逆に機会ロスが発生する可能性があるが、受取日、購入猶予の期間など厳密なルールを作った上で、先に目を付けたお客を優先する方が販売ロスを抑えられるという考え方もある。

 もちろん、ネットで注文して試着し、気に入らなければ返品するだけなら、オンラインショップでもいいとの理屈になるが、百貨店の商品は一般に委託や消化仕入れの形態を取るため、EC上では商品がどういう状態で動いているかを把握できない。だから、実店舗のような拠点を設けて管理する必要があるのだ。まあ、セレクトショップのベイクルーズでは、すでに行われているサービスだが。

 そことの違いは、売り逃さないように三越日本橋店で導入に踏み切ったコンシェルジュサービスを地方にも拡充する。これこそ、百貨店ビジネスの原点である「対面販売」への回帰で、EC礼賛の風潮と一線を画するものだ。せっかく、基幹店の商品を引き当てて、お客のもとに配送までするのだから、懇切丁寧な接客(小物など+1のコーディネート販売にも注力)を行い、確実に販売につなげていく。そうした試みで、地方でも0ではないマーケットを掘り起こしていくのである。



 店構えや内装といったハード面では、高級ホテルを彷彿させるクロークというか、ストレージ風の受取りロッカー(冷蔵機能は別に確保)を整備し、商品別にラベリングしてストック管理する。さらに試着室や接客ルームもゆとりを持たせた空間を確保していく。スタッフ数は限られるだろうから、お客を待たせることを想定し、ラウンジを設けてお茶やお茶菓子をサービスすればいい。(経費を抑えるために地方の老舗茶舗や菓子舗と提携して、大手の暖簾を使ってサンプリングにするという手もある)

 これくらいならそれほどの店舗面積は必要ないし、建坪さえ確保できれば地方の一等地で平屋か低層での展開は可能だ。当然、コストもかかるので、顧客からは1000円から2000円程度の年会費を徴収する。地方在住のお客にしても、ネットで世界中の商品を見ている。だから、百貨店側が一方的に品揃えした商品を押し付けるのは、もう時代遅れなのである。

 筆者は地元百貨店ではもう10年以上、アパレルは購入していない。それはお気に入りのブランドが撤退したり、期間限定のリミテッドショップでは品揃えに限界があるからだ。しかし、ブランドのフレグランス、料理用の食材や食料品、菓子類は購入している。特にスーパーでは手に入らない博多地鶏や塩干、生海苔、山葵漬けなどは必須アイテムだ。

 だから、百貨店そのものは否定していない。先の東京出張でもスケジュールは強行軍ながら、何とか時間を作って日本橋の「髙島屋SC」を視察した。印象は中高年が好むテイストを上手くとらえ、バランスのいいリーシングをしていると感じた。一つ一つを日本橋という市場に合うかどうか、じっくり吟味した結果ではないかと思う。

 これは国内外のブランドを集積したGINZA SIXとは大違いだ。視察という目的を外れ、地方から訪れたお客になってレギュラー店よりワンランクアップした「タビオ」で靴下、「ブリック&モルタル」でインスタ映えしそうな調理用プレート、紀伊国屋で食材を購入した。三つとも地方百貨店ではお目にかかれない商品で、現物を見ることができたので即決、即買いした。そこは日本橋の髙島屋たる所以がそうさせたのだろう。

 また、斜向いにある別館の「ウォッチメゾン」にも、福岡の百貨店では扱われていない「U-BOAT」を見に行った。U-BOATは潜水艦好きとしては、ずっと気になっている時計だ。それについても百貨店らしい丁寧な接客で、店頭にはないが欲しい型番の商品は取り寄せも可能だと言っていただいた。おそらく現物を見ると、なおさら欲しくなるだろうから、これから購入を検討してみることにする。

 百貨店が扱う商品は、購入するしないは別にして現物を見れば、お客の心は揺らぐ。福岡のような地方に置いていない商品はなおさらだし、それ以外のローカルマーケットでは、さらに顕著ではないかと思う。

 百貨店は小売業だ。商品を仕入れて売るしかない。大西洋前社長は地方で埋もれているメーカーを掘り起こし、共同でSPAを目指すような構想も打ち出していた。生憎、社長解任で実現には至らなかった。また、杉江社長も旅行やブライダルとの提携を口にしている。前者は商品在庫を抱える厳しさを知らない百貨店の戯言とも受け取れ、後者は百貨店が在庫を抱えてこなかったからこそ、出て来るイージーな発想にも映る。

 むしろ、地方百貨店は小売業として、お客が求める商品を世界中から徹底して探し出し、販売することに心血を注いだ方がいいと思う。地方では0ではないお客にも目を向け、少ないニーズからいかに購入に結びつけていくか。地方百貨店の生き残りには、従来にない発想による「小売り革新」が不可欠なのである。

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Sルーミングは地方にも。

2018-11-07 06:38:08 | Weblog
 10月26日、福岡・久留米発祥のシューズメーカー、ムーンスターが初の旗艦店「ムーンスター・ファクトリー・ギンザ」を東京・銀座のレンガ通りにオープンした。(https://www.moonstar.co.jp/factoryginza/)ちょうど10月の東京出張時、偶然にも前を通ると、屋上部分にはビルボード、1階上部にロゴマークのサインが取り付けられ、内装工事が進んでいた。

 ムーンスターは自社ECには参入したものの、直営店舗の展開はしてきていない。売上げやブランド力では、アディダスやナイキといったグローバルブランドの後塵を拝するが、地下足袋の製造で培った高い技術力を誇る「メイドイン久留米」で、新たなブランド価値を醸成しようとしている。

 2年ほど前からは、メイドイン久留米の製品を米国のニューヨーク、フランスのパリの合同展示会に出展し、少しずつ輸出を増やしている。海外市場を狙うにはブランディングの強化は至上命題で、そのためには「現物を見て履いて確かめ」られる「直営店」が不可欠になる。「ブランドは旗艦店があってこそ広く浸透する」という成功法にも、舵を切らざるを得なかったわけだ。

 グローバルブランドは、世界の主要都市で旗艦店を展開する他、自社サイトでの直販、Amazon出店者への卸など、あらゆる販売チャンネルを利用して商品を流通させている。決算発表で販路別の売上げが公開されるのを見ても、マーケットを攻略するには、小売店との共存共栄、メーカー、卸、小売りの棲み分けなんて言っていられないのである。

 ムーンスターがグローバルブランドと同じ土俵で勝負することはないにしても、 従来通りに問屋を通して靴店に卸すだけでは、頭打ちのはず。売上げを伸ばすにも、ブランド価値を訴求するにも、PC、スマートフォン、タブレットなどデジタル面での対応、ECの整備・拡充、そして店舗でのショールーミング機能まで加えたオムニチャンネル戦略は、避けて通れない。ようやくそのファーストステージに入ったことになる。

 元来、靴という商材では、ぞれぞれのお客で履いたときの感覚は、微妙に異なる。にも関わらず、ムーンスターのECでは不良品以外の返品は、受け付けていない。サイズスペックについても、それほど詳細な情報が公開されておらず、お客はどうしても「自分の足にはどのサイズに合うのか」「返品できないのは厄介だ」と、同社サイトでの購入には二の足を踏んでしまう。

 実際に試着をするには、在庫をもつ小売店を検索しなければならず、そのシステムもブランドや商品カテゴリーの在庫があれば、すべての店舗名が表示されてしまうアバウトなものだ。しかも、店舗情報を頼りに靴店に電話しても、探している現物は置いてないと言われるのがほとんど。これだけでECが発達しているにも関わらず、ムーンスターはお客向けのサービスでは、非常に出遅れ感は否めない。旗艦店の展開はそうした課題をクリアする上でも、ようやく第一歩を踏み出したと言える。

 建物は1、2階が売場、3階がイベントスペース、4階がストックルームと控え室。1階ではメイドイン久留米のシューズなど国産品を展示販売する。2階ではフロア両壁にベビーからジュニア、メンズ、レディスまで約350ものサンプルをラインナップ。商品在庫は抱えず、注文はタブレットで行い、そのまま決済する。そのため、ラインナップは1型1色でバリエーションを出し、商品にはタブレットで検索しやすくするためにQRコードを添付。注文すると、翌営業日には栃木の物流センターから自宅に発送される仕組みだ。

 ムーンスターは日本人の足にあった独自の木型で、革靴やスニーカーを製造している。だから、お客が通販サイトで購入する時の「他メーカーでは26cmを履いているから、たぶん…」「レビューにやや大きめと書いてあったから」等々は、あまり参考にはならないと思う。やはり店舗で実際に「試着」をして、フィット感や履き心地を体感した上で、納得して購入してもらう。それでお客が満足すれば、次回からはダイレクトでEC購入につなげてもらう狙いだろう。







 靴という商材は、服以上にショールーミングでのお客との接点が大切になるという判断なのだ。ただ、ムーンスターがショールーム機能を持つのは、銀座店が初めてではない。2016年4月、同社のお膝元、福岡・久留米の旧井筒屋百貨店跡地に建設されたコンベンション施設久留米シティプラザに「コンセプトギャラリー」(https://www.moonstar.co.jp/concept-gallery/)を出店した。

 ギャラリーなので、140年以上に及ぶ同社の歩みをパネルや映像で紹介したり、代表ブランドの全パーツを分解して靴の構造を一般に見せる広報拠点の役割だった。もちろん、最新商品のラインナップ独自開発の足型計測器「フッ撮る」を使った無料計測も実施していた。サンプルは銀座店ほどの展開はないにしても、足の正確なサイズさえ把握できれば、そのままネットに連動して注文も可能なので、ショールーミングの機能をもっていたと言っても過言ではないだろう。

 筆者も足型の計測はニューヨーク時代のナイキタウン以来になるので、ぜひ試してみようと思っていた。ところが、如何せん久留米シティプラザは福岡・天神から電車で30分、さらに徒歩で15分もかかる。福岡在住でもアクセスの悪さは影響する。結局、行かずじまいのまま、コンセプトギャラリーは今年の4月29日で閉館した。

 閉館した理由はよくわからない。だが、3期9年にわたって久留米商工会議所の会頭を務めた人物による建設強行。西鉄久留米駅とJR久留米駅の間というアクセスの悪さ。主要ホールの稼働の少なさとイベント企画の未熟さ。それによる一般テナントの集客難や営業不振。客足がまばらな商店街と連動の無さ等々。久留米シティプラザが抱えるいろんな課題が影響したのは、間違いない。

 そもそも、ムーンスターがなぜそんな施設に出店したのか。地元企業として自治体や商工会議所からのたっての要望があったのは、容易に想像がつく。だが、ブランディングのための直営店展開は最低でも福岡・天神だろうが、旗艦店になれば世界の主要都市に展開せざるを得ない。久留米シティプラザでの展開はあまりにお粗末だが、旗艦店を出店するなら日本人はもちろん、外国人観光客も数多く訪れる東京・銀座は譲れないという経営判断だったのではないか。

 しかし、ショールーミング機能は、もっと増やすべきではないかと思う。足型計測器は一部の靴専門店では導入されてはいるものの、まだまだ絶対数が少ない。メイドイン久留米というブランド価値を多くのお客に知ってもらうには、自分の足の正確なサイズを知ってもらうのはもちろんのこと、ブランド価値を裏打ちする穿き心地の良さやフィット感、疲れ知らず、丈夫さといった特徴をアピールすることは不可避である。

 サンプルをフルラインナップするにはスペースや出店投資も問題もあるが、小売店の一コーナーに足型計測器のみを置くだけなら、それほどコストはかからない。お客にはサイトで事前にほしい商品や色柄を選んでもらい、店舗で足長、足幅、甲高などを計測してサイズを決定後、タブレットで注文。商品はその店舗で受け取ればいい。売上げもその店で計上するやり方だ。サンプルを置かないので、厳密にいればショールーミングではないが、サイズスケーリング(計測)とネット通販と連動させれば、オムニチャンネル戦略の一環にはなる。

 ムーンスターのメイドイン久留米は、セレクトショップではウケがいい。バイヤーがチョイスした理由を販売スタッフがお客に説く上で、格好のキーワードになるからだ。でも、店舗でのラインナップや在庫数はあくまでバイヤーの裁量に委ねられており、他ブランドと一緒に編集していく上では、すべて展開されるわけではない。商品が絞り込まれるセレクトショップは、必ずしもお客のニーズに合致するわけではないのだ。

 デジタル、ECに慣れて来た最近のお客は、非常に賢くなっている。靴を購入する場合、実店舗で試着して現物を確認し、商品価格や送料を含めて一番安いものをネットで検索して購入するやり方だ。アディダスはそうした消費者の変化をいち早くとらえた販売手法を採っている。お客が公式サイトで注文した商品を、指定した直営店で現物確認や試着ができようにし、その場でキャンセルも可能とした。

 お取り置き期間も1週間程度の猶予があり、お客が店舗と交渉すれば多少の延長も可能になる。つまり、居住地の近くに直営店がなくても、都市部に出かけたついでに試着や現物確認ができる。その間に商品が値下げされると、注文日ではなく、店舗受取時点での価格で購入できる。セール価格からさらに割り引きされて購入できるケースもあるのだ。(実際にうちの事務所近くの福岡店、原宿店で確かめたから、間違いないと思う)

 企業規模が違うのでムーンスターとは一概に比較できないが、お客との接点を増やしてシーズン中に確実に在庫を消化し、キャッシュフローにつなげることは、メーカーとしての共通項だろう。ブランディング、商品の価値や特徴を伝え、確実に売り切るためのショールーミング機能。その拠点づくりがますます重要になっている。

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