HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

足元を見られたい。

2024-05-29 06:43:49 | Weblog
 円安基調は当面続く見通しだ。政府と日銀は4月末に5兆円規模の協調介入に踏み切ったと言われる。この日は1ドル154円前半まで下げ幅を広げたが、翌30日には157円台に回復。ニューヨーク外国為替市場では5月1日に153円台に急騰した。だが、ゴールデンウィーク明けは154~156円の小幅な動きが続くだけで、円安が収まる様子は一向に見られない。日米金利差が縮まらない限り、今後も円安で推移すると思われる。為替変調のカギは、秋に実施される米国大統領選挙の結果次第とも言われるが、どうなのだろうか。

 一方、訪日の外国旅行者にとって円安は追い風で、インバウンド消費は好調を続けている。大手百貨店ではラグジュアリーブランドをはじめ、かばん、時計・宝飾品など高額品の需要が伸び、2024年4月免税売上高が過去最高に達した。訪日客は中国が減ったものの、台湾、香港、韓国が増えたという。もっとも、今年のショッピング傾向としては新品だけでなく、中古のブランド品を購入する旅行者が増えているという。その中心となるのは中国をはじめとしたアジアの富裕層だ。中国人は不動産バブルが弾けたことで堅実消費に向かい、東南アジアの人々は値ごろなブランドを求めることから、中古品にも目を向けていると見られる。



 一方、日本人ではブランド品を買取店に持ち込むお客が増えている。日本人は使わなくなったブランド品でもぞんざいに扱うことはなく、自宅に保管しているケースが多い。有名ブランドのバッグや財布が綺麗なまま家に眠っている人にとっては、「円安で買取金額が上がっているかも」「今が一番高いようだから売り時か」との心理が働き、買取店に持ち込んでいるようだ。実際、買取価格は2ヶ月前より平均で約3割アップし、長期的に見ても20年前より確実に買取価格はアップしているという。

 買取価格が上がっているのは、円安が直接の影響ではない。訪日の外国人旅行者が品質が良い中古ブランドを求めることで、需要が高まっているのだ。買取店によっては在庫の回転がよく、すぐに品薄になるため、買取を強化しなければならない。当然、他店に買い取られたくないため、持ち込まれたブランド品の査定額は値上がりする。お客も換金するなら、より高額で買い取ってくれるところに持ち込む。買取店同士で取り合いが始まっているのだ。買取価格を業者同士で競わせる「買取りフェア」を開催する百貨店もある。知り合いのカメラマンによると、中古の一眼レフカメラやレンズも高額査定の傾向にあるとか。



 ネット上では、中古品をメルカリやヤフーオークションで売買するのが一般化した。ただ、メルカリの場合、転売を含め売り手が提示した価格で、購入するかしないかは買い手が決める。オークションは開始価格は出品者(売り手)が決めるが、落札したい入札者が複数いた場合にしか価格は上がらない。そうでなければ、買い手がつかないケースもある。つまり、どちらも現金化できるかは不明確なのだ。また、商品の真贋については、あくまで売り手の申告によるもので、偽造やコピー商品もあり得る可能性も排除できない。

 その点、「有名」「高級」なブランドという条件付きだが、買取店に持ち込めば専門ノウハウを持つスタッフが査定してくれるので、真贋はもちろん査定額も妥当だ。しかも、中古ブランドに対する需要が旺盛なことから、買取額が押し上げられる傾向にある。Z世代の間ではすでに新品購入は中古品でも高値がつくかが前提になっているという。つまり、中古ブランドを持ち込むお客は高額で買い取ってもらえると、それを原資に別の商品やサービスに投資しようとする。キャッシュフローがいろんな市場に波及し、消費が活性化するのは間違いない。

 中古品買取大手のコメ兵はブランドのバッグや衣類の他、スニーカーも買い取りも強化。銀座には「GINZA SNEAKER HILLS SNEAKER MARKET BY KOMEHYO」が出店しており、日本人だけでなく、外国人の若者を集めている。KOMEHYO ONLINEにも、ナイキやアディダスのほか、フィンランドのKARHU、イタリアのDATEといったマニア好みのスニーカーがラインナップする。

 KOMEHYO ONLINEでは、掲載商品の中で欲しいものが見つかると、近くの店舗に取り寄せて、現物を実際に確認したり、試着することもできる。もちろん、送料・手数料等は一切かからず、イメージと違った場合にはキャンセルも可能だ。特にスニーカーの場合はサイズも購入の決め手になるから、こうしたサービスが若者を惹きつけるわけだ。


高くても売れるは、スニーカーで顕著

 一方、アパレル各社は2023年は暖冬の影響で、秋冬物が売上げ不振に陥った。通販大手のZOZOTOWNでも、24年1~3月の平均単価は約4000円で、23年10~12月の4360円に続き低調だった。ZOZOTOWNは全国に顧客基盤を持つため、アパレル側は冬物衣料を消化できると、在庫を仕向けたと見られる。しかし、店頭だろうとネットだろうと、売れないものは売れない。消費者にとってオンラインサイトは試着ができないし、セール品は返品・交換の対象外になる。だから、どうしても購入に二の足を踏んでしまう。

 しかも、アパレル側はZOZOTOWNに出店すれば、自らの粗利率を超える受託手数料(ブランドにより20%後半から30%半ば。平均28%)を取られ、利益を出すのは容易ではない。それでも委託するのは現金化ができると考えるからだろうが、2024年冬のZOZOセールでは思ったほど消化ができなかった。ネットと言えどお客に欲しいと思わせる商品がなければ、実店舗の店頭と変わらない。これが現実なのである。




 アパレルは気象で売上げが左右される。特にコートなどの重衣料は顕著だ。メーカー側もAIを駆使し気象による需要予測を探るなど、何とか売上げ不振に陥るのを避けようとしている。また、気候に左右されない商品の開発に着手するところも出ている。だが、答えを導き出すのは難しく、商品まで作り出すのは容易ではない。気候に関係なく、価格が高くても売れている商品と言えば、スニーカーだ。著名ブランドによる寡占状態が続いている。

 有名ブランドから新品のスニーカーが発売されると、投資目的で購入する輩もいる。また、人気モデルを定価で購入し、5倍、10倍、それ以上の価格で売る転売ヤーも増えている。メーカーは欲しいお客に公平に販売するために「抽選」を実施しているが、転売ヤーは大学生や主婦などを雇って「キャパ」と呼ばれる並び屋を抽選に当たらせる。そこで、メーカーが抽選参加を自社ブランドのスニーカーを履いていることを条件とすると、今度は転売ヤー側も並び屋にそのメーカーのスニーカーを履かせるなどイタチごっこが続く。

 こうした中、ナイキは先着抽選販売や完全抽選販売、ランダムで発売予定日より前に予約・購入できる限定オファーを用意するなど、転売対策に取り組む。だが、転売ヤーはそれにも対応していくだろう。昨今はNのタイプフェイスが目立つニューバランスを履いた人も多くなった。ナイキやアディダスと被りたくない層だとも見られるが、ボリューム化を避けるためにミッドソールを厚くしイボイボのアウトソールを重ねた街履きデザインも登場している。海外のメーカーが販売する希少性のあるスニーカーは、4万円代でも完売している。デザインやカラリングがいいものは高くても売れる傾向にあるということだ。





 だいぶ前から、市販のスニーカーで物足りない層の間では、ラインストーンやビーズなどで彩る「デコ」が流行っていた。さらに最近ネット動画で見かけるのが、新品スニーカーを高度な職人の技術でカスタマイズするものだ。例えば、定番のバスケットタイプで先ゴムや廻しテープ、ミッドソールを革に張り替え、アウトソールをビブラム仕上げにしてワークブーツ風にするなどだ。量販のスニーカーでもカスタムリメイクによりオリジナリティが発揮でき、なおさらレア価値が生まれる。リメイクするには靴職人の専門的なノウハウが必要だが、スニーカー人気を考えると技術を身に付けたい若者は少なくないと思う。





 さらに生産中止になった人気モデルやデザイン性が高いもののユーズド、履かずに加水分解したものをリペアするマニアもいる。彼らは作業風景をネット動画で公開しているが、ブランドスニーカーの中でもレアなモデルにプレミア価値がつくのを考えると、リペアまでして履きたくなるのも納得いく。リペアではないが、アシックスが4月12日に販売を開始した「ニンバス ミライ」は、アウトソールは通常の合成ゴムだが、ミッドソールのフォーム材の約24%はサトウキビ由来。環境に配慮して近い将来は単一素材で実現する目標を持つ。

 18世紀には永久機関という概念が科学者を夢中にさせた。21世紀の今日、広島の業務用洗濯機メーカーが修理部品を永久に提供するサービスを始め、海外から注文が来ているという。昭和時代に人気を博したクルマのレストアにも通じる。ならば、人気スニーカーの修理・再生など遥かに簡単なはず。パーツが手に入らないといった課題はあるが、3Dプリンターを活用すれば、製造も不可能ではない。リペアノウハウが確立されている点を考えると、人気スニーカーの修理販売が拡大していくのも時間の問題だろう。

 革靴全盛の時代は「靴にはお金をかけるべき」と言われた。人の視線が先端に導かれること。トレンドがほとんどないこと。経年によって表情が良くなること。これらが理由であり、靴には人格が現れるとも言われている。いくら仕立ての良いスーツを着ていても、靴が良くないとその良さを十分に発揮することができないのは確かだ。スニーカーが必ずしも革靴と同じとは言えないが、いいスニーカーも履いていると、人の視線が集まるのは共通する。足元を見られたい。気候に関係なく売れるようにするには、そんなアイテムの開発がカギになる。

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揺らぐ薩摩の矜持。

2024-05-22 06:59:37 | Weblog
 先週の熊本に次いで、今回は鹿児島について書く。地元百貨店「山形屋(やまかたや)」が経営破綻の危機にあることだ。同社の百貨店や傘下スーパーを含めた総売上高は、2023年2月期時点で約740億円。それに対し、有利子負債の合計は約360億円にも上る。いわゆる借金が売上げの半分近くを占めるのだ。そのため、私的整理に入るようで、同年5月にはメーンバンクの鹿児島銀行が主導したバンクミーティングが開催され、「事業再生ADR手続き」に入るスキームが示されたという。

 その後、2023年12月には、事業再生ADR手続きを経済産業省認可の事業再生実務家協会に申請し受理された。申請したのは、山形屋だけでなく、グループ傘下の百貨店「川内山形屋」や「国分山形屋」、食品スーパーの「山形屋ストア」、飲食店子会社の「ベルグ」など計17社。債権者は鹿児島銀行をはじめ、南日本銀行、鹿児島相互信用金庫、鹿児島信用金庫などのほか、メガバンクや他県の地銀を含めた金融機関20行に及ぶ。
 
 2024年4月に開催された債権者会議では5ヵ年の「事業再生計画案」が示され、5月28日の会議で決議される見通しという。この計画案では有利子負債360億円のうち、借入金を株式に転換することで債務を減らすDES(デット・エクイティ・スワップ)で40億円、借入金を劣後ローンに交換するDDS(デット・デット・スワップ)で70億円を調達し、残り250億円については返済を5年間猶予することになっている。本来なら経営者責任を負うべき岩元修士社長と純吉会長は留任する見込みという。

 事業再生計画案は鹿児島銀行の主導で作成された。だが、DESで銀行団に発行する優先株式は、買い入れ消却予定が示されておらず、DDSによる劣後ローンの返済計画も未定のまま。残る債務250億円についても、返済を猶予する5年の間に山形屋はじめグループ各社が収益を好転させ、6年目から返済していけるかどうかは不透明だ。それでなくても、地方百貨店を取り巻く環境は年を追うごとに厳しさを増し、小売業全体でも熾烈な競争が繰り広げられている。計画案を額面通り受け入れられても、再建できるかは全く別の話になる。

 鹿児島銀行は熊本の肥後銀行など23社で構成する九州ファイナンシャルグループの一員だ。同グループの笠原慶久社長は5月13日の決算発表で、「山形屋は鹿児島の中核企業であり、鹿児島銀行がメーンバンクとして、これまでもこれからもしっかり支援していく」と述べた。また、鹿児島経済界では2021年には南日本銀行が第三者割当増資で85億円を調達した際、鹿児島銀行、鹿児島相信、鹿児島信金などに加え、南国殖産やMisumなど地元企業が割当先になった。山形屋のケースも県外の金融機関までが加わり、地元経済界と一丸になって支えていくと言えば聞こえはいいが、裏を返せば持たれあいの構図と言えなくもない。

 

 百貨店の再建事例では福岡の岩田屋がある。同社は福岡三越の進出や博多大丸の増床に対抗するため、1996年に新館Zサイドを開業し買取自主編集売場を拡大。だが、売上げ伸長どころか投資や施策が裏目に出て、1999年2月期には連結で309億円にも及ぶ債務超過に陥った。2002年には保有資産の低下で債務超過は約320億円まで膨らみ、全国銀行協会がまとめた「私的整理ガイドライン」を受け入れる形で経営破綻した。再建は伊勢丹がスポンサーとなって進められ、06年には同社が株式の過半数を取得して完全子会社化。スーパーのサニーやコンビニのアイファミリーマートも、岩田屋グループから切り離された。

 では、山形屋はどうか。有利子負債の合計はグループ全体で360億円にも及び、岩田屋が経営破綻した時よりも多い。ところが、市場規模のベースとなる足元人口は、山形屋が地盤とする鹿児島市は令和6年現在58万4000人ほどしかなく、前年より1600人以上減っている。一方、岩田屋がある福岡市は同社が破綻した2002年でも約133万人で、前年より増加傾向にあった。単純に考えて人口が減少すれば、百貨店のメーンの顧客である中高年はもちろん、ファミリーや若者といった顧客予備群も減っていく。




 さらに九州新幹線が部分開業した翌年の2004年にJR鹿児島中央駅にアミュプラザ、07年には鹿児島市初のイオンモールが開業。若者から中高年までがこれらに吸収されるようになった。昨今はインターネット通販が普及し、書籍から衣料や雑貨、家電、食品までが繁華街に出かけなくて購入できる。この傾向は実店舗や品揃えが限られる鹿児島では、顕著のはずだ。22年4月、中心部の賑わい創出を目的に開業した「センテラス天文館」も、2年目で23店にも及ぶ業態転換や改装を余儀なくされ、相乗効果をもたらすにはほど遠い。こうした状況を見ると、山形屋が再び成長軌道に乗る素地は全く見当たらない。



 当の山形屋も手をこまねいていたわけではない。減り続ける収益に対し、経費節減などで対応してきた。販売管理費は2014年2月期から23年同期までの9年間で30%近くを削減。社員数も14年2月期から22年同期に530人以上減らした。にもかかわらず粗利益は14年の25.46%に対し、22年には22.68%で、2.78ポイントも低下している。それはなぜか。社員数をカットした分、自主販売は減ったが、逆にインショップ=委託販売が増えて納入掛け率や返品経費などがアップし、利益率を悪化させたのだ。6期連続の最終赤字がそれを物語る。


人口100万人を切り、新規顧客が細る百貨店は廃れる運命

 大都市の百貨店ですら小売業から不動産業への転換を図っている。各社は自主編集や委託販売の売場を減らす一方、スペースをテナントに貸したり、ビルごと建て替えて全フロアを賃貸に切り替えている。並行して社員の早期退職を募集するなどのリストラも厭わない。しかし、地方百貨店は地元とのつながりや雇用維持というしがらみから、ドラスティックな構造改革にはどうしても二の足を踏む。山形屋が経営を悪化させた要因もそれに他ならない。再建のスキームは銀行主導ながら経営者は責任を取らず、負債の返済計画も至って大甘では時間稼ぎに過ぎないと見る向きもある。



 実を言うと、筆者はあるグラフィックデザイナーを通じて山形屋のことを知った。彼は鹿児島の大学を卒業後、地元のデザイン会社に就職。1980年代の数年間、同社の広告制作にあたっていた。当時は西武を筆頭に伊勢丹、松屋銀座、東急などの都市型百貨店がブランド力の向上やイメージアップを目指して、莫大な広告投資をしていた。彼によると、地方百貨店の山形屋も例外ではなく、新聞広告は各種イベントから新ブランドの導入、期末のセールまで多岐にわたったという。しかも、彼が広告制作にあたっていた1984年、山形屋は「こころはいくつ」というキャッチコピーのもと、ロゴマークを若葉に改めるCIを導入している。

 新聞広告の制作方法は異例だったそうだ。当時は企画をラフスケッチに落とし込み、原稿が揃うと写植を打って版下を作るアナログな作業。同社でも宣伝部が販売スケジュールにそって企画を決め、原稿を出すフローは変わらなかったが、版下校正の段階で上層部のチェックが入ると、企画が丸ごと変更されることが頻繁にあったという。つまり、コピーから商品名や価格までの全てを変えなければならず、写植を打ち直して版下を作り替えることになる。その経費は請求する制作費の範囲内でデザイン会社が負担しなければならない。そこで、苦肉の策として生み出されたのが、「ペン書き」という手法だった。

 これは山形屋の宣伝部が出した原稿を一旦新聞広告の実物サイズで、デザイナーが写真イメージのイラストを描き、コピー、商品名、価格、仕様については写植文字のサイズで手書きするもの。宣伝部とすれば、この手法なら企画が変更になっても写植代や版下制作費は発生しないからいいだろうと考えたようだ。だが、デザイナーからすれば、こんな仕事はクリエイティブワークではなく単なる整理作業に過ぎない。それでも、会社が受注生産で成り立っている以上、断るわけにはいかない。広告デザインがデジタル化した現在、ペン書きは無くなったと思うが、当時の山形屋はそれが業者イジメになるとは思いもしなかったようだ。

 地方百貨店の閉店が相次いでいる。2024年は愛知の名鉄百貨店一宮店、島根の一畑百貨店と続き、高島屋岐阜店も7月に閉店を予定する。近鉄百貨店は地方店を業態転換すると表明した。これらに共通するのは足元人口が100万人を切ると、百貨店としての存続は難しいこと。人口が減り続ける鹿児島市の山形屋にも同じことが言える。いくら市民が廃業を許さないとしても、山形屋での買い物頻度は確実に減っているはずで、新規顧客が細る業態が廃れるのは必然なのだ。ただ、銀行団としては地域経済の状況を考えると、山形屋にいきなり引導は渡せない。とすれば、延命措置を与えたということか。そう勘ぐられても仕方ない。

 仮に銀行団がスポンサーを連れてくる場合はどうか。スポンサーは鹿児島の市場を鑑みれば百貨店のまま残すことに同意しないと思う。山形屋の名前を残すにしても、現店舗を解体して複合ビルに作り替え、上層階はオフィスや住宅、中層階はイベントスペースとし、低層階にテナントを誘致するくらいしかないだろう。さらに市外の不採算店は閉店せざるを得ず、関連会社の売却や清算もやむを得ない。となれば、さらなるリストラは不可避だ。



 銀行団や地元メディアは忘れたのだろうか。今から20年前、アミュプラザ鹿児島の開業に際し、地元ハローワークが「開設以来、最多の求人数」という衝撃的なコメントを発表したのを。鹿児島は男尊女卑の風土が根強く、「若い女性が県外に出ていく」と言われてきた。それだけ女性が学校を卒業しても地元に働ける職場がなかったことを意味する。そうした就職環境に風穴を開けたのは、外様組のJR九州だったわけだ。その後に開業したイオンモールにも同じことが言える。もはや山形屋グループが存続するにはリストラは避けられず、今度は「かつてない失業者数」という見出しがメディアに躍るのかもしれない。

 鹿児島県人には徳川幕府を倒して新政府を樹立し、新しい日本を作り上げたというプライドを感じる。それは今でも鹿児島らしさというか、薩摩気質を象徴するように思う。しかし、幕末には日本を変えたものの、今は薩摩以外の発展が著しく、じわりじわりと攻め立てられている。対抗するにも知力や資力を欠いており、八方塞がりの状態では薩摩の矜持など何の役にも立たない。山形屋の経営悪化はそれを如実に表している。
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半導体マネーの行く先。

2024-05-15 06:42:07 | Weblog
 さる4月13日、ファッションイベント「東京ガールズコレクション(TGC)」が熊本県で開催された。2019年4月、熊本地震からの復興をテーマに初めて催され、第2回目についてもモデルの三吉彩花が来熊してプレスプレビューに臨むなど、開催する方向で準備が進んでいた。ところが、20年の年明けから新型コロナウィルスの感染が拡大したため「延期扱い」(実質は中止)となった。23年5月には新型コロナウィルスが5類感染症に移行し、同種のイベントが日本各地で再開される中、熊本も5年ぶりの開催にこぎつけた。

 1月16日には開催に先立って、熊本市の鶴屋百貨店で記者会見が行われた。TGCを企画・制作するW TOKYOの地方創生管掌役員、熊本県や市、商工会議所や地場企業で構成するTGC熊本推進委員会のメンバーが出席し、企画概要が発表された。今回のテーマは、Blooming Energyで、熊本の可能性を感じさせるコンテンツを結集させ、その魅力を発信する。内容はブランドのショーと県内の学生が出演するステージなど、ご当地ならではの企画も盛り込まれることになった。また、会見にはモデルのゆうちゃみ、SNS動画が人気のMINAMIも駆けつけ、イベントをPR。約1万人を集客目標とした。



 イベントはタレントのウエンツ瑛士と影山優佳が司会を務め、藤田ニコルや池田美優、新川優愛、トラウデン直美のほか、ユーチューバーなど総勢100名が出演。地元で活躍する歌劇団による殺陣、県内の高校生によるダンスや合唱、楽器演奏とご当地企画も予定通りに実施された。さらに2020年に甚大な豪雨災害に見舞われた人吉出身のタレント内村光良が「熊本を元気にしてほしい」と、ビデオメッセージを寄せるなど、13時半に開演から分刻みでショーやステージが続き、18時に終演となった。

 ところで、TGCの地方開催で気になるのは、開催資金を拠出するスポンサーだ。また、地方創生を旗印にする以上、どこまで地場企業が名を連ねるかである。中止となった2020年のイベントでは、地元の鶴屋百貨店が冠スポンサー(TGCでの呼称:プラチナパートナー)に就いていた。告知用のポスターも同社販売促進部のスタッフがデザインしたものがW TOKYOが募集したコンペに勝って採用されるなど、全面支援をうかがわせた。ところが、中止によってあらゆる企画がお蔵入りとなり、スポンサー効果は限定的だったようである。

 もっとも、鶴屋百貨店が冠スポンサーに就いたのは、百貨店として捕捉できていないZ世代にも自店をアピールし、あわよくばショーで披露される人気ブランドを誘致できればとの思惑もあった。2020年のイベントを延期扱いと考えるなら、今回はそのままスライドして冠スポンサーを継続したかもしれない。ところが、そうではなかった。3年にもおよぶコロナ禍の間は、地方百貨店として苦しい経営を強いられた。23年2月期は3年ぶりに黒字に転換したものの、冠スポンサーを継続して全面支援するほどの余力はなかったと考えられる。

 毎年秋に開催されているTGC北九州でも、初開催の2015年から19年まで冠スポンサー(スペシャルパートナー)を務めた浄水器メーカーのタカギが前回の23年は降板した。こちらは高城寿雄会長の勇退など社内事情が関係し、資金面ではなかったものの、代わって就いたのは福岡市の美容家電商社クレイツだった。熊本も北九州もガールズコレクションというイベントに、全面的に支援できる資金力がある地場企業がないことは共通する。



 今回の熊本開催で新たに冠スポンサーに就いたのは、クレイツと同じく福岡に本部を置く学校法人麻生塾の麻生専門学校グループ。自民党の麻生太郎副総裁のファミリー企業だ。麻生塾にとっては、イベントのメーン観客と対象とする学生はリンクする。少子化で18歳人口が激減していることを考えると、熊本でも学生の青田買いを目論み、冠スポンサーに就任したのは間違いないだろう。

 一般スポンサー(呼称:パートナー)には、鶴屋百貨店をはじめリブワーク、再春館製薬所、キューネット、古荘本店、明和不動産、熊本銀行、菅乃屋、ナカガワフーズなどの地場企業が就いた。スポンサー各社は景気が回復基調にあることから、イベントを通じて知名度を上げ、社員募集などにも弾みをつける狙いと見られる。異例だったのは、EXPO 2025関西大阪万博がスポンサーに加わったこと。熊本開催だけでなく、TGC全体をスポンサードする。万博無用論が渦巻く中で、Z世代にアピールすることで集客に漕ぎ着けたいのが透けて見える。


カネを出せば、タレント事務所は動く



 今回は、地元の歌劇団や高校生などが出演し、土着を意味する産土の服プロジェクトなど地場企業も参画できたことで、ローカル色は出せた。ただ、それが地方創生まで行き着いたかと言えば、どうなのだろう。自治体は主催者側が地方創生を掲げる以上、その指標となる経済波及効果を算出する。2019年の第1回イベントでは、熊本市は同効果を4億6500万円と発表した。内訳は県内消費の飲食や宿泊、交通費などの直接効果が2億9300万円。原材料生産などを誘発する間接効果が1億7200万円。目標とした約5億円には届かなかった。

 ただ、数値自体が幾分盛った感じは否めず、イベントの恩恵を受けるべき地元小売り業者などはそれほどの効果を感じていない。今回、会場を埋めた観客は目標の約1万人に対し、約8000人だったので、2割減になる。とすれば、経済波及効果も2019年より下回るのは確実だ。つまり、どこまで地方創生につながっているのかは、懐疑的と言わざるを得ないのである。今回の経済波及効果については自治体から調査するかの発表はまだない。

 話は逸れるが、熊本県では台湾の半導体メーカーTSMC(台湾積体電路製造)が菊陽町に進出した。2月には開所式が行われ、年内の量産開始に向け準備が進められている。地元の金融機関・九州フィナンシャルグループの調査によると、工場建設が始まった22年から31年までの10年間で、同地域が受ける経済波及効果は6兆8000億円を超える見込みという。TSMCはすでに第二工場の建設も発表しており、日本政府もそれぞれの工場建設で1.2兆円を支援すると表明している。



 菊陽町にとってTSMC効果はテキメンで、公的支援はもとより税収も増えていることから、今回のTGCを支援するまでになっている。政令市でもない地方自治体では異例のことだ。まさに半導体マネーに沸く町がなせる技と言うしかない。町はイベント前日の4月12日、多様な世代との交流の場を設ける目的で、TGCに出演するゆうちゃみと石川翔鈴を町内の老人福祉センターに招待。二人は65歳以上を対象にした介護予防講座「いきいき大学」の参加者40名と交流した。



 今回の交流事業を自治体、W TOKYO、芸能事務所のどこが持ちかけたのかはわからない。ただ、TGCというイベントだけで完結しても、地方創生の効果は限定的になる。だから、イベントで来熊するタレントを起用し、地元を盛り上げるような企画ができないか。自治体関係者なら考えつくことだ。芸能事務所としても、抱えるタレントをせっかく地方まで行かせるのだから、イベント外の営業収入があることに越したことはない。そう考えると、利害関係者の思惑が一致し、交流企画が実現したのは間違いないだろう。

 今回出演タレントの顔ぶれを見ると、他のTGCではお馴染みだった中条あやみが出演していない。彼女は2023年に結婚したがタレント活動は続けており、CMをはじめ各種セレモニーなどで引っ張りだこだ。そのため、熊本開催ではスケジュールが合わなかったのだろう。一方、22年、ジョルジオ・アルマーニが選ぶ世界の女性12人のひとりとなった三吉彩花は、モデルとしての格とギャラがアップしたからか。その後のTGCへの出演を見合わせていたようだが、今回の熊本開催ではモデルとしてだけでなく、オープニングトークにも参加している。



 三吉彩花が所属する大手事務所のアミューズは、ラグジュアリーブランドだけではモデルとしての露出は限られるので、営業的には他からのオファーも欲しい。そのため、今回は地方開催のTGCながらも出演を快諾したのではないか。まあ、W TOKYOとしては中条あやみが出演していないだけに、主催者側がそれを埋めるレベルのモデルを欲したと考えれば、三吉彩花がブッキングされた説明もつく。

 TGC自体は、最新トレンドを発信するショーの要素は限定的で、客寄せ興行というか、音楽&パフォーマンスを取り入れたフェスの色合いを濃くしている。地方創生を旗印に地元からの有償またはボランティア参加も増やしてはいるものの、やはり多くの観客を動員するには集客装置となる人気タレントが欠かせない。タレント個人や芸能事務所としても、TGCの地方開催は自治体が税金を拠出し、地元スポンサーの頭数が揃えば、失敗するリスクはない。だから「重要な営業先」となる。その意味では何とか体裁は保てたのではないか。

 ただ、課題は山積みだ。まず冠スポンサーに就けるほどの資金力を持つ企業が地元に不在なこと。目標とする集客動員が頭打ちであること。税収増の自治体に支援を頼っていること。こうした状況で続けている以上、イベント自体が歪な構造であるのは否めない。見方を変えると、今回のTGCではイベント事業者や芸能界までが半導体マネーに群がったことになる。 地方創生は、むしろ地場企業のためであってほしいというのが本音のはずだ。地元が潤わなければ、何の意味もないのである。
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天然は生まれ還る。

2024-05-08 07:14:32 | Weblog
 毎年、ゴールデンウィークには衣替えをする。といっても、自宅の押し入れにある季節別のパッキンから夏物を出し、クローゼットの春物と入れ替えるだけ。春物は厚手のコットンを使った二ットやパンツ、裏毛のカットソー、レザーを含むジャケット程度で、アイテムも数量も多くない。一方、夏物はTシャツやポロ、パンツとアイテムはさらに減る。薄手で嵩張らないが、洗い替えが必要な分だけ数は増える。新規に購入するのは黄ばんだり襟が伸びたTシャツくらいで服の絶対数は増えないが、それでも業界御用達の海苔箱一つ分はある。

 春夏の衣替えでいつも思うのは素材のこと。春物には肉厚のニット、ピケやモールのパンツはあるが、全てコットン100%だ。夏物になると他に麻混や麻オンリーが加わり、こちらも100%か、半々くらいの混紡になる。綿も麻も素材は丈夫で、コシがあるものがほとんど。どのアイテムもシンプルなデザインでトレンドに左右されないため、1、2年ごとのローテーションで着る。そのため、購入してから長いもので20年、短くても10年くらいになる。多少擦れているものもあるが、日常で着る分には粗野な感じが何ともいい。

 よくよく考えると、通年を通して着用する素材は、綿が主体だ。エラスタン(ポリウレタン)が混ざったものもなくはないが、好んで着るアイテムはどうしても綿オンリーになる。この20年ほどは天然繊維のみのアイテムが減ったため、合繊混紡も買わざるを得なかった。天然素材は堅牢度、耐用で見ると落ちるのだが、心地いいからどうしても好んで着る。
だから、長持ちするように数を揃えてローテーションを組んでいる。



 改めて思うのは、綿がいちばん好きなこと。九州ではずっと暖冬が続いているので、綿は重ね着にちょうどいい。綿繊維の中では、超を含め糸が長くて細い長繊維より、糸が短めの中繊維の方が好みだ。中繊維はジーンズやTシャツ、ポロシャツに使われるが、アイテムのデザインより素材感が好きで着ているという感じだ。素材そのままで、自然な風合いをもち、極論すれば帆布のような粗野さ。洗うと次第にザラつく感触が惹かれる理由だと思う。

 一方、綾織と平織、未晒し糸と晒し糸の違いをもつデニムとシャンブレーは、経糸に紺糸を使っている分、色落ちするのであまり好きになれない。繊維としての風合いはいいのだが、ウエアになってブレークや擦りまでいくと、貧相に感じてしまう。ツイルも織物の三原組織の一つだが、フラットで組織変化がない点で選択外。サテン、いわゆる朱子織も経糸が緯糸を長い間隔でクロスする織りで、光沢があり触感はいい。だが、如何せん摩擦に弱く、破れやすいところが好きを遠ざけてしまう。

 麻も綿に次いで好きな素材になる。1980年代のDCブランドの全盛期では、ジャケットやパンツにも多用されていた。上下共地で同色ならセットアップでいけたし、上下どちらかに別地、別色を合わせるとジャケパンスタイルにもなった。夏場は上下ビシッと決めると暑かったのだが、当時はそれが流行だった。5月24日も映画が公開されるが、テレビ版の「あぶない刑事」で舘ひろしが着用していた影響もあったと思う。屋内では冷房が効いていたため、打ち合わせなどで外出する時は定番のスタイリングになっていた。

 麻も植物由来の繊維という意味では綿と同じだ。生地メーカーから聞いた話では、麻と言っても30種類もあるそうで、生地としては綿以上に奥深いとか。日本規格の品質表示法では、ラベルに麻と表示できるのは、「亜麻、英名のリネン」、「苧麻(チョマ)、同ラミー」の繊維から作られたものだけという。両者は強度や汗を吸収する性質では同じだが、リネンは柔らかいもの、ラミーは硬めのものという違いがある。

 確か無印良品では、麻素材アイテムを売り出すポスターやパンフのコピー、商品タグの説明書きではあえてラミーと表記されていたと記憶する。これには提携する商社が素材の調達から縫製まで全て中国で行っていたことが関係する。加えて、無印らしい自然な風合いは、単に麻と表記するよりラミーの方が上手く表現できる。クリエイティブサイドの考えもあって、そう表示されたのではないか。それだけ無印良品が素材を売りにしていたのだろう。


植物由来の新繊維の採用に期待

 業界では衣料品の大量廃棄が問題になっている。そのため、さまざまなリサイクルが試みられているが、どれも手間やコストがかかり、再生に足る品質維持やCO2の発生といった課題もある。天然繊維についても生分解性を生かして、回収した中古衣料を無肥料栽培で活用するなどの取り組みもあるが、こちらも緒についたばかりだ。

 そもそもの繊維作りに植物由来のものをもっと活用すべきではないか。これなら廃棄になっても天然素材なので、環境負荷も抑えられる。そうした発想から世界では環境対応の衣料品素材を求める動きが年を追うごとに広がりを見せている。すでにとうもろこしなどのでんぷん、なたねなどの油脂を資源とする繊維が活用されているが、サトウキビの糖質資源を活用した繊維の生産も始まっている。

 山形県鶴岡市のスパイバーは、植物由来のバイオマス原料を使った繊維の増産にこぎつけた。その規模は2026年で年間最大2000トン。現在の10倍になり、増産によって材料コストを引き下げ、国内外のアパレルへの採用機会を窺う。業界他社や異業種から第三者割当増資で100億円強を調達。今回の設備増強に充てるという。

 バイオマス原料を使った紡糸、繊維生産の原理は以下になる。植物由来の人工タンパク質素材を液体に溶かしたものを、極細のノズルから長い繊維として紡ぎ出して、繊維にしていく。人工タンパク質素材はサトウキビなどから得られる糖類を微生物に与え、発酵させて作る。製造時にCO2の排出も水の使用も少ないのがメリットだ。織物にすると、カシミアのような肌触りだというから、いろんなアイテムに採用すればオールシーズンの着用に耐えられる。ウールのチクチクが苦手な人にももってこいだ。



 課題は生地にする場合のコスト。スパイバーからの出荷価格は、肌触りと同じくカシミアと同水準というから、ウール素材を超えてかなり高額になる。アパレルメーカーとしては一般的なブランドには採用しにくいが、今回の設備増強で繊維の生産コストは半分以下になる見通しという。スパイバーとしてはコスト低減を軸にして出荷量を大幅に増やし、アパレルの幅広い製品に採用してもらうことを目論む。

 経済産業省は2024年3月、「繊維製品の環境配慮設計のガイドライン案」を示した。この中には繊維製品のリサイクルがあり、再生資源(リサイクル材料)利用の方針や目標を設定しているか、再生資源を使用しているか、それはどのくらい使用しているか、再生資源利用促進活動を実施しているか、品質は確保されているか、どのような再生資源であるか確認しているか、再生資源の使用を情報開示しているかといった細かな評価基準を挙げ、具体的な評価方法も提示している。

 具体的には、バージン材を代替、削減するためのリサイクル材の利用について、また工程廃棄物から再生またはリサイクルされた材料に使用については、環境配慮設計の原則および要求事項を規定するJISQ62430で、アパレル企業側が実施するための手引を示している。さらに繊維製品に含まれるリサイクル含有量については、規制強化が進むEUの基準に沿うように促す。こうした所管庁の主導により、環境負荷を抑えらえる植物由来の繊維は、ますます注目されていくだろう。

 繊維によっては、オーガニックコットンのように名称イメージだけが一人歩きし、実際にどこまで環境に配慮した素材なのかが明確でないとの指摘もある。広告などを利用し、あたかも実際の商品よりも環境保全に配慮した商品であるかのように消費者を欺く「グリーンウォッシュ」の問題も取りざたされている。環境に配慮しているという主張は、その信頼性を確保するために然るべき機関のお墨付きや情報開示が不可欠だ。まずはアパレル企業が環境に配慮した素材を使用しているという根拠を示すことから始めるべきだろう。

 そして、消費者の側も環境に配慮するには質の高い衣料品をできる限り長く着たり、お直しやリユースを活用して行くことが第一歩になる。そして、リサイクルしやすい素材を好んで選択していけば、生産する側もそうした商品を市場に送り出すようになっていく。それが出荷量の拡大につながるから生産性の向上とコストダウン、効率性を生むのだ。スパイバーは企業価値が10億ドル以上の未上場企業、いわゆるユニコーンでもある。世界中の投資家はユニコーンに注目しているため、スパイバーが投資対象になればさらに資金が集まる。

 肌触りが良いというのは、自然由来ということ。それを好きで着ていければ、着古しても自然に返せるので、環境を守ることになる。天然は生まれ還る。オーガニックというか、ナチュラルは全て良しということだ。

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出発点は店なのか。

2024-05-01 06:34:30 | Weblog
 大手就職情報会社の調査によると、2025年春に大学を卒業する学生の4月1日時点での内定率は6割を超えている。だが、就職先を決めて就活を終了したのはわずか2割しかおらず、8割の学生が就活を継続するという。内定学生にとって、必ずしもその企業が「第一志望」「やりたい仕事」「待遇や条件で折り合う」「将来設計に沿う」とは限らないわけだ。それに対し、企業側が学生に他社の選考や内定を辞退するよう強要すれば、オワハラと見做される。憲法が保証する職業選択の自由を奪うことになり、処罰の対象だけでなく民事訴訟のリスクも孕む。

 さらに配属ガチャの問題がある。入社企業の仕事が想像していた内容とはかけ離れていたり、譲れない勤務地があったのに叶わなかったとなれば、入社早々に退職していくものもいる。社員募集に莫大な投資と時間をかけ、何段階にも及ぶ選考で優秀と判断した人間がいとも簡単に辞めていく。企業にとっての痛手は計り知れない。そのため、最近ではあらかじめ職務内容や求められるスキルを明確にする「ジョブ型」の人事制度、内定後に入社の意思を確認する段階で、初期配属を確約させる採用方法を導入する企業も増えている。

 一方で、新卒一括から中途の採用を増やす企業もある。2024年度の採用計画を見ると、中途採用の比率は過去最高の43%と5割に迫る。少子化で人手不足が深刻になる中、新卒一括採用だけでは限界に来ているということだ。企業としても中途採用の人材を従来のような補充要員ではなく、即戦力と見做している証左と言える。



 中途採用については、事前に計画を立てる動きがある。採用方法は、企業が転職を希望者に直接コンタクトが取れるダイレクトリクルーティングなどに変わって来ている。立ち食い蕎麦屋で転職規模者に仲介者が呼びかけるCMがそうだろうか。また、社員から知人や友人などを紹介してもらうリファラル採用、新卒に限らず元社員を再雇用するアルムナイ採用を導入する企業もある。これらは旧来、重視されていたコネ採用に近い。

 企業にとって中途採用で一般公募すれば、どこの馬の骨ともわからない人間もやってくる。それより社員に紹介してもらったり、その企業で勤務経験をもつ人間の方が安心できるという考え方だ。縁談とも共通する。紹介する側の社員も後々に問題が起きれば、自分の信用を落としかねない。だから、慎重になる。再雇用はミスマッチが少なく、即戦力としても期待が持てる。新卒のように選考に時間がかからない点もメリットだ。



 先の3月1日、ファーストリテイリング(以下、ファストリ)の柳井正会長兼社長は、入社式で新入社員に対し「すべての出発点は店にある」と訓示した。さらに「仕事の基本を店で働きながら身に着ける。お客様に合う、時代に合う商品が何か考え、販売、稼働、レイアウトの計画を立て、仲間と一緒になって実行し、改善する。この繰り返しだ」とも宣べた。一般大学卒はアパレルの製造小売りについてほとんど知らない。だから、経営者として新入社員に出発点は店にあるとの念仏を聞かせ、自社に相応しい人材に育てたいのは理解できる。

 かつてあった大手アパレル専門店のSZ社、ST社、ER社でも、同じようなことが言われていた。「バイヤーになる」「プレスや販促に就く」「オリジナル商品を開発する」という目標があったにしても、「まずは店で頑張ってから」といったニュアンスだったと記憶する。だからと言って、店舗で2年、3年と販売員を続け、そこそこの売上げ実績を残したからとすんなりバイヤーやプレス、商品開発の希望が叶ったかと言えば、あまり聞いたことがない。ほとんどが店長就任を要請されていたのである。

 それはなぜか。アパレル専門店とは言っても小売業であり、商品を売ることで経営が成り立っている。そこでは売上予算の達成に貢献する店舗スタッフがカギを握る。つまり、ビジネスを左右する営業面で個々に割り当てられた仕事=店舗運営が行える「ライン」の人材を育成することが最重要だからだ。これは製造小売業のユニクロやGUにも共通する。かつての専門店では販売を続けるうちに好きになっていく人もいたが、売上げノルマの重圧といつ叶うかわからない夢とのジレンマで、退職していく人も数々見てきた。DCブランドの時代が訪れハウスマヌカンが脚光を浴びても、現実はそれほどは違っていなかったと思う。

専門性のあるキャリア形成ができるか



 翻って、ファストリはどうか。すべての出発点は店にあるのだから当然、新人の配属先は店舗になる。ただ、ユニクロもGUも基本の販売スタイルは、お客が「これ買います」のセルフ方式で、接客して商品を売ることはない。店舗スタッフは分厚い業務マニュアルを頭に入れながら、担当コーナーの店頭在庫を把握し欠品すればバックルームからフォローしたり、お客の反応や売上げ動向を掴んで、店長に報告したり自ら修正するのが仕事だ。それを数年続け実績を積んで初めてキャリアアップへの道が開ける。だが、それでも試験に合格しなければならない。新入社員から希望の部署に内部昇格するハードルは相当に高いのだ。

 かつてユニクロに在籍した澤田貴司氏(セルソース代表取締役)や玉塚元一氏(千葉ロッテマリーンズ取締役オーナー代行)は、ともに異業種からの転職組だった。当時の柳井社長は両氏を経営者候補として採用したため、店舗勤務はわずか半年程度で本部に戻されている。しかし、その程度でアパレルの何がわかるのか。また、小売り現場の隅々まで熟知したわけでもない。案の定、フリースヒットの反動減、それに代わる主力商品の手当もできなかった。

 エリートの頭でっかちは現場との乖離を生み、売上げ伸長がうまくいかなかったことで、澤田氏も玉塚氏もユニクロを去った。柳井会長兼社長にすべての出発点は店にあると言わせるのは、こうした過去の反省もあるだろう。同会長兼社長は、折りにつけ語っていた「自分の後任はヘッドハンティングする」との前言を撤回し、ユニクロのトップには店長上がりの塚越取締役を抜擢した。こうした内部昇格も新卒社員には効き目があると思ったのではないか。
 
 現在、ファストリではクリエイティブやマーケティング、サプライチェーン、デジタルといった専門部署のスタッフは、前職の経験や実績から中途やヘッドハンティングでも採用され、店舗勤務を経ずとも配属されている。つまり、専門職は簡単には育てられないのをファストリが認めているようなもの。そう考えると、すべての出発点は店にあるというのは、何も知らない新入社員を企業側の思い通りに洗脳し、組織固めをしたい経営者の詭弁のように思える。かつてのファッション専門店から何ら変わっていないのだ。

 新入社員の側にも幹部や専門部署を目指す人もいれば、初任給が都市銀行並みだからとか、結婚、出産・育児を経て復帰できる可能性等々、入社の動機は様々だろう。もちろん、年功序列や終身雇用は疾うに終わったことから、ファストリで一生働こうなんて考えている新入社員はほとんどいないと思う。ただ、はっきり言えるのは、ユニクロやGUの店舗で経験を積んだからといって、キャリア形成には決して有利ではないということ。それは以下のようなことが考えられるからだ。



 まず、ユニクロやGUは基本セルフ販売だから、ホスピタリティを追求する接客術高級品を売る販売力は身につかない。固定された什器や棚に商品が展開されると、VMDレイアウトの感覚は養われない。単一ブランドだからバイイングセレクティングのスキル個店開業のノウハウは得られない。デザインや生地に対する造詣は深まらず、クリエーションはコラボ頼み。「あなただから買うのよ」という人に付く顧客も生まない。数年後に店長になれたとしても、身に付くキャリアは売れ筋把握による計数、マニュアルにそったスタッフ運用、マークダウンによる在庫コントロールなど、管理能力になる。

 それをさらに収益アップにつなげる実績を積めば、幹部への昇格があるかもしれない。だが、ファストリの店長経験くらいでは他の大企業への転職は容易ではないだろう。アパレル業界なら尚更だ。大企業も小さな店からスタートしたとすれば、店舗業務が経営の第一歩であるのは否定しない。ただ、店舗に長年勤務しても専門性のあるキャリア形成も、国家レベルの資格取得も厳しいと思う。まして経営のトップに就けるのはたった一人。専門部署の幹部はヘッドハンティングされる。ファストリ側も新入社員の全員が幹部になるなど考えていない。新卒一括採用は、当面の出店計画に沿って社員の頭数を揃える必要があるからだ。

 転職や中途採用を考えると、キャリア形成は何より重要になる。2030年にはIT人材は最大で約79万人も不足すると言われている。でも、IT業界ほど技術進化が目まぐるしいところはなく、生き残るにはイノベーションが不可欠だ。しかも、イノベーションをもとに商品やサービスを開発し、市場を掘り起こすべく普及させていかなければならない。ソーシャルゲームで急成長したあのDeNAですら、2024年3月期決算では営業損益が276億円の赤字。ゲーム事業の利益は95%減で、稼ぎ頭は旧来モデルのプロ野球に変わった。情報技術のスキルがあれば食いっぱくれはないとは言えないのだ。

 テクノロジーの変化が著しい中、持っていれば色々と役に立ちそうな一般スキルを仕事をしながら訓練できるかも不明確だ。ファストリに就職した社員を含め、将来は起業したいという若者もいるだろう。それは否定しない。ただ、日経ビジネスによると、ベンチャー企業の生存率は創業から5年後は15.0%、10年後は6.3%、20年後は0.3%という厳しい現実がある。民間企業に勤めるのも、会社を経営するのも、決して安泰ではない。

 なのにファストリの2024年8月決算では、連結純利益が前期比8%増の3200億円の見通しという。柳井正会長兼社長は、「商売の仕組みは人海戦術を排し、人を大事にする少数精鋭の経営に変え、全社員を知的労働者に」と意気込むが、果たしてそれが可能なのか。むしろ、ファストリでは新入社員が自由な発想をしようにも組織の壁が立ちはだかる。さらに与えられた仕事を頑張ったところで、夢や希望が叶えられる展望は見えづらい。

 社員をシステムの一部としかみなさない企業スタイルの方が絶好調の業績を生んでいるのだから、全く皮肉な話。だからそこ、一人になっても平気で生きていけるような仕事を持つこと。出発点は、自分がどう生きるか、ではないだろうか。
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