HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

同盟か、共倒れか。

2018-03-28 06:52:38 | Weblog
 「溺れる者は藁をも掴む」という諺がある。切羽詰まった危機的状況に陥ると、普段は取り合わないような、全く頼りにならないものにまで必死にすがろうとするたとえだ。似た表現には「切ない時は茨も掴む」とか、「人窮すれば天を呼ぶ」がある。

 また、意味は異なるが、「背に腹はかえられぬ」は、大事なことのためには他のことを犠牲にするのはやむを得ないというたとえである。

 当コラムにしては、ずいぶん高尚な書き出しだが、福岡・天神の商業施設が4月から運用を開始する共通の「デジタルスタンプカード」。そして、それを主導した百貨店がこの諺に当たらずとも遠からじと、感じている。 今回はそれについて書いてみたい。



 福岡・天神の商業施設が合同で始めるデジタルスタンプカードとは何か。それは天神を一つのショッピングモールに見立てて「天神ユナイテッド」と名付け、スマートフォンアプリ「ショプリエ」を使用して、お客が500円(税込)を買い物する毎に1スタンプが付与されるものだ。

 そのスタンプを15枚集めると「抽選」に参加でき、買い物券などが当たるという。どうやらショッピングに応じてポイントが貯まり、それが次の買い物に利用できるものではないらしい。あくまで抽選で当たった人のみにショッピングでの割引特典が与えられるのである。

 会見に臨んだ福岡三越の村上英之社長は、Amazonなどネット通販の台頭に対する危機感からSC(ファッションビル)、商店街と業種、業態の枠を超えて、集客のために手を組まざるを得なくなったことを口にした。

 天神ユナイテッは福岡・天神の商業者で構成する「都心界」が実施するもので、メンバーは百貨店の福岡三越をはじめ岩田屋、福岡大丸、商店街の新天町や天神地下街、SCの天神コア、天神ビブレ、ミーナ天神、ソラリアプラザ、ノース天神、福岡パルコ、ヴィオロ、ソラリアステージ、イムズ、スーパーのイオンといった15の施設、その内の8割に当たる約2000店が参加するという。

 ネット通販という見えない敵がここまで力を持った今、百貨店連合の大御所とて暖簾やプライドをかなぐり捨てても、他業態や競争相手と手を組んでお客を囲い込まないと、経営に行き詰まってしまうということ。スタンプカードは、そうした覚悟の現れだと思う。SCの責任者や商店街の代表も、程度の差こそあれ同じ思いではないだろうか。

 溺れる物(実店舗をもつ百貨店)は、藁(互いにこれまで格下に見ていたSCや商店街)までにすがらないと、ネット通販には対抗できない。また、背(店舗を維持し、競争に生き残る大局的な視野)のためには、腹(目先の売り上げが他業態に奪われる)犠牲くらいは、止む負えないということである。

 そうは言っても、今回のスタンプカードは、参加店全店で利用できる共通ポイント制ではない。獲得したスタンプ数に応じた抽選で、買物券などが当たる「都心界共同懸賞」のようなものだ。

 共同懸賞は景品表示法で以下のような細かな規制がなされている。

 ①「サービス事業者が30人以上近接している」
 ②「景品類の限度最高額は30万円」
 ③「懸賞に係る売上予定総額の3%」
 ④「年3回を限度、年間70日の期間内で行うものとする」

 である。だから、今回のスタンプカードを共同懸賞と看做した場合、 無秩序に実施できるものではない。

 天神という極めて狭いエリア(東西約400m、南北約800m)に商業施設が近接し、新天町や天神地下街だけでも出店する店は30店舗を有に超えるので、①は問題ない。買物券程度ならそれほど高額にならないから、②もクリアする。15施設が参加するので、買い物券程度なら③(売上げ予定総額3%)でも十分だ。

 問題は④である。期間は70日を限度に設けなければならない。スタンプカードの詳細が発表されていないから、これ以上は何とも言えないが、法令に従えば常時続けられるわけではない。もっとも、懸賞の特性を考えると、ダラダラと続けても効果は薄いだろう。法令で決められているからではなく、キャンペーン的に期間を絞った方が販促には結びつくと思う。

 共同懸賞については、天神地下街が過去に実施したもので、一等当選者には意外に県外在住者が多いことがあった。その理由を九州電力からデベロッパーの天神地下街開発に出向していた知り合いに聞いたことがある。すると、彼は当選データから「県外在住者はせっかく福岡を訪れたのだからと、多額の買い物をする傾向がある。結果として一等が当たる確率も高くなる」と、教えてくれた。

 なるほどである。多額の買い物をすれば、その分、抽選券を多くもらえるため、くじを引く回数は増え、一等の当選確率も高くなるわけだ。だとすれば、国内外からの旅行客などを意識し、インバウンドに期待できる春と秋に集中的にキャンペーンを張った方が参加店の存在をアピールできるかもしれない。


品揃え、ブランドは実店舗では限界

 ただ、問題はスタンプカードの実効性である。これで本当に商業施設がお客を囲い込め、少しでも売り上げが伸ばせるのか。「抽選で買物券などが当たる」という点は、ポイント制よりも販促効果は確実に下がると思う。なぜなら、お客にとってポイントが付くなら「次に◯◯を購入するとき、ポイントが使える」とリピートを計算できるが、抽選では未確実だからだ。

 ポイント制にしなかったのは、西日本鉄道の「ニモカ」をはじめ商業施設ごとに導入されているものがあり、すでに進んだ顧客化を切り崩すのは難しいためだ。「モール」「共同懸賞」はその偶然性に賭け、他店でも購入させるのが狙いだろう。しかし、いくら2000店舗で使えると言っても、天神でしかもモール参加店舗が扱う商品、サービス内容で、お客が欲するモノや必需品がすべて買い揃えられるわけがない。また、そのために天神にわざわざやって来ることも考えにくい。

 やはり、利用客は天神とその周辺で働くか、通勤・通学で通行するか、国内外からの旅行客になる。筆者は天神界隈を生活圏にして22年以上になるが、買い物をする店舗はだいたい決まっている。都心界のメンバー、スタンプカードに参加する店舗も入っているはずだが、だからといって今以上に買い物額を増やすとは思えない。

 なぜなら、すでに天神に出店する店舗、ブランドの顔ぶれ、取り扱う商品の種別では、自分の消費意欲を満足させきれないからである。2000店舗が参加したモールだろうが、現在、衣食住で天神を利用しているケースは、平均して全消費支出の4分の1もないと思う。すでに半分はネット通販で、残り4分の1は天神周辺の路面店か、それ以外での買い物になる。

 たらればの話をするのは恐縮だが、逆に「筆者が女性」なら天神での買い物利用は、7割近くには及ぶだろう。まず、購買単価が高いブランドファッションは試着をしたいから、間違いなく天神に出店しているところを利用する。

 リアル年齢で行けば、買うのはやはり大人のモード服。コーディネートを考えるとオンリーブランドでは厳しいので、ストア系にならざるを得ない。普段着兼用で福岡三越ラシックの「マーコート」、ややコンサバに振った福岡大丸エルガーラの「プレインピープル」。これらは今すぐ間違いなく購入する。プレインピープルでは実際に何度が購入したこともある。

 40代まで若返ると、ヴィオロの「パドカレ」か、岩田屋の「ワイズ」。パドカレは分社化する前のポップインターナショナルを知っているし、ワイズはヨウジヤマモトより若々しいからだ。30代なら岩田屋の「エンフォルド」、福岡パルコの「ユナイテッド トウキョウ」だろうか。

 さらにそれより下ではほとんどがスウィートなものばかりだから難しいが、コンサバ好きのつもりで言うと、天神地下街の「ドゥドゥ」。服飾雑貨は「靴下屋」や「無印良品」「ウンナナクール」、「イムズ」地下のアクセサリーコーナーか。

 もともとキャリアアパレルの出身だから、毎シーズン百貨店のドメコン(ドメスティック・コンテンポラリー)には期待するが、どのブランドともパッとしない。セオリーとて、ファストリの意向が働いているのか、だんだんコンサバ寄りになっている。SCのハコやセレクト系もローコストのSPA化が著しく、飛びついて大枚をはたくほどではない。 どうしてもインターナショナルのクリエイティブ系か、上質なモードテイストの服に目が行ってしまう。

 日本のブランドにないカッティングが特徴のCOS。キャリアゾーンとしても価格的にも十分に魅力なのだが、何せ横浜で止まったまま。福岡に進出したとしてもおそらく路面展開で、15の商業施設には入らないだろう。

 反面、女性であれば服飾以外も買い物する。ドラッグストアで化粧品や雑貨、レストランで友人との会食もあるだろう。洋服含めて天神ユナイテッドで懸賞実施期間に5〜6万円を使えば、スタンプは100から150も貯まるから6〜10回もくじを引ける。それでも、購入はスタンプカードがあるからではなく、単に日常と非日常の買い物をするに過ぎないのである。


男性の購買額は少なくなる。

 男性であるが故、如何せんブランドファッションはもう10年以上、天神では購入していない。最後に買ったのは、コムデギャルソン・オムのジャケット。岩田屋のショップで多分、2006年の春くらいだったと思う。



 その前に福岡から撤退したヨウジヤマモト・オムからは年に1、2回、岩田屋で開催されるリミテッドショップに誘ってもらえるが、品揃えが限定的で種類も少ないため、どうしても東京出張の折に青山の本店を覗いて、気に入ったものがあれば買うという感じだ。

 ただ、ファッションに対する消費意欲が減退したとは、感じない。国内外のメーカーとは懇意にしているし、生地や革を購入してオリジナルで制作するアイテムもある。要は天神では、都会的でエッジの利いた大人の男服がほとんど売っていないからだ。因に筆者が服飾以外で、現在天神を回遊し買い物するものは、以下である。

 まず新天町のドラッグストアで事務所の消耗品や医薬品、福岡パルコの「キタノエース」で食材やお菓子(フランスのラ・メール・プラールはここしかない)、ミーナ天神の「ユザワヤ」で材料。岩田屋では食材の他、ギフトや家族向けのお菓子。それは福岡三越もだいたい同じだが、老舗菓子舗の洋菓子部門が岩田屋から撤退し、須崎町の本店か清川のアウトレットまで買いに行かなければならず、非常に不便さを感じている。

 ソラリアステージの「ディーン&デルーカ」では調味料などを購入するが、ニューヨーク時代に現地の店舗をしこたま利用したので、あんまり新鮮さは感じない。天神で一番利用する回数、買い物額が多いのは天神地下街の「カルディコーヒーファーム」だ。



 東京・吉祥寺にオープンした時からずっと御用達にしている。コーヒーを飲まないので、購入するのはワインや食材、香辛料、家族に頼まれる「ティムタム」のチョコレート、個人的に好きなPBの「宇治抹茶寒天」「しるこバー」。ここにしか置いていない商品があるので、月に2〜3回は利用している。昨年の購入額は有に2万円を超えた。

 あとは新店町や天神地下街の書店で、書籍や雑誌を購入するか、100円ショップでとりあえず必要なものを買うくらい。書籍もデザイン関係はAmazonになっている。100円ショップでは、1度に1000円を超えることはない。おそらくスタンプカードには参加しないと思う。

 つまり、筆者は天神が生活圏だから、ブランドファッションは全く買わなくても、他のカテゴリーで購入頻度、金額は高くなる。しかし、筆者と同年代でもビジネスマンの購入額は極端に低いのではないか。逆に20代〜30代の男性はファッション衣料を購入するだろうが、彼らこそZOZOTWONや楽天などを利用するケースが多くなるはずだ。まあ、新店町のギャラリーでたまたま懸賞期間中に何十万円もの絵画なんかを購入すれば、クジを引けるかもしれないが。

 インターネットで商品を探せば、ワールドワイドの品揃えをたちどころにチェックできる。試着や現物確認ができるできないは別にしても、お客はそれにすっかり慣れてきている。さらに商品に対して目利きがある消費者こそ、天神での買い物離れが徐々に進んでいるのではないか。これはブランドファッションだけでなく、食品から趣味の領域まですべてのカテゴリーに言えると思う。

 Amazonなどのネット通販に実店舗が押されている理由は、福岡天神にある商業施設くらいではお客が品揃えの幅や奥行き、ブランドのバリエーション、テイストや価格等々のすべてにおいて選択肢が限られ、満足できなくなっている証しと考える。突き詰めると、天神に買いたい商品がなければ、売れるはずもない。根本の課題はそこにある。

 共同懸賞まがいのスタンプ制でお客が簡単に囲い込めて、売上げが維持できるという考えこそ、浅はかさではないのか。というか、モールに参加する店舗の売場スペース、取引先やテナント(ブランド)の顔ぶれで、ネット通販に太刀打ちできるわけがないことは、商業施設のトップなら誰しもわかり切っているはずだ。

 どっちにしても、他に手に打ちようがないから、スタンプ制や懸賞でも何でもやるしかないわけだ。藁にもすがる気持ちが滲み出ているのが手に取るようにわかる。


品揃えにデータ活用の嘘。

 会見では、「スタンプ利用者の買い物や回遊のデータを施設間で共有し、品揃えやサービスの改善に役立てる」というコメントもあった。買い物データについては、これまでも百貨店やSCが自店のハウスカードを導入するにあたり、購買履歴を活用して買い物客のニーズを把握し、品揃えに反映することには取り組んできたはずである。それで売上げが少しでも好転したのかと言えば、決してそんなことはない。

 コンビニやチェーンストアのように購買時点で管理するPOSデータならいざ知らずだ。一大流通業となったイオンですら、客も居らず売れもしていない衣料品売場を未だに残している。ビッグデータを活用できていれば、当の昔に売場をカットしてもおかしくないし、もっと売れるファッション衣料を品揃えできるという理屈になる。

 まして、売れなければテナントを入れ替え、自主編集売場すら軌道に乗せられない百貨店やSCである。それらに業種・業態を寄せ集めたモールから得たデータを有効活用できる素地はない。コンサルの受け売りも甚だしいと言える。

 この期に置いても、百貨店のトップは「サービスを充実すれば、お客は戻って来る」なんて、化石のような経営論を平気で宣うことに正直驚かされる。お客がサービスに期待してカネを払うのは、もはや高級レストランやホテルの次元だ。

 また、ショプリエはアプリを入手し、買い物で利用するには、スマートフォンに位置情報を設定しなければならない。開発したリクルートHDとしては、お客がどういうルートで買い回るかの購買動向を探れるソフトと位置付けているわけだ。天神ユナイテッドも回遊データを分析していく建前なのだろうが、果たして本当に活用できるのか。お客の立場として、行動範囲や買い物情報が第三者に監視されていることの方が怖いのだが。

 天神ユナイテッドというモールは一つのハード内にあるわけではないし、仮にデータが生かせたとしても各商業施設にとっていちばん売上げ効果が上がるようにするはずだ。つまり、必ずしもトータルでメリットがあるような店舗配置やハード整備にはつながらないということである。

 第一、新店町の各店舗は家主が多いから、回遊データをもとにハード&ソフト整備に投資するくらいなら、テナントに貸して家賃をとった方がはるかに効率が良いというのが本音ではないのか。

 お客が天神でカネを落とすのは、ショッピングや食事での利用が主力である以上、メーンターゲットは女性にならざるを得ない。ただ、食事は別にしてファッションではネット通販が浸透しているわけだから、買い物や回遊のデータを収集する前に対抗できる施策を断行すべきではないのか。データを分析してから、策を練るような悠長なことができる状況ではないはずだ。今より多くの買い物をしてもらわないと、お客は懸賞のメリットも享受できないのである。

 福岡三越と岩田屋は三越伊勢丹ホールディングス、福岡大丸はJ.フロントリテイリングの傘下である。ならば、伊勢丹にしかないブランド、あるいはギンザシックスで展開されるショップ、それらの商品が各店で試着サービス、さらに購入できるくらいの思いきった施策をとらないと、お客の胸は打たないし、財布の紐も開かない。経営者が「そんなことができるはずがない」と言うなら、もはや勝ち目はないと断言しよう。

 モール参加店共同の免税手続きカウンターやWi-Fiの整備、電子決済は、国内外旅行者や出張のビジネスマンにとっては便利かもしれないが、それも買いたくなる商品があっての物だねだ。
 
 福岡市は日本全体が景気低迷を続ける中でも、活発な都市開発やアジアとの交流に支えられて成長が続き、「日本一元気な街」と煽てられてきた。今も地方都市では異例の人口増が続いており、市の人口は筆者が事務所を構えた90年代半ばが約130万人、今年の3月が約157万人だから、毎年1万人以上増え続けていることになる。これは少子高齢の日本で驚異の伸びと言える。
 
 福岡市は開発・メーカー機能がない街だから、物やサービスを売ることでしか、都市経済は成り立たない。人口増による消費の拡大に加え、外国人旅行者によるインバウンドなど、商業・サービス業の面で売り上げが伸びているはずだが、共通スタンプカードの導入は必ずしも地元消費にはつながってはいないことを暗示する。

 もともと、福岡・天神は支店経済の中心であり、転勤族のビジネスマン、家族、結婚するOLなどが2〜3年で新陳代謝していく。つまり、商業施設、小売店にとっては顧客化しづらいのだ。また、海外はもとより東京や名古屋、大阪で生活し、消費を経験した人間からすれば、天神の店舗、品揃えでは必ずしも満足できないことも考えられる。

 航空会社間のアライアンスを例にあげると、エアチケットを購入して飛行機に搭乗する行為は各社とも同じなので、提携で市場規模を拡大することによりネットワークなどの密度が一定になれば、会社の利益はアップするとの理屈だ。さらに同盟によって顧客の信頼度も増すわけだから、アライアンスそのものがブランド力になると言える。

 今回、発表された天神ユナイテッドのロゴマーク、「天神に巨大モール、誕生」 のキャッチコピーも、そうしたあらゆる方面で天神のブランド価値を高める狙いがあると思う。わざわざ、代理店を咬まして子飼いのデザイナーにロゴを作られせたくらいだし。

 しかし、モールいう言葉自体がすでに陳腐化しており、米国ではネット通販に押されて廃墟と化した施設が少なくない。逆にニューヨークなどの大都市でも有名ブランドの旗艦店が閉店する始末だ。つまり、既存のマーケットのみを相手にしていたのでは勝負にならないということである。

 当のAmazonは躍進を続けるZOZOTOWNすら眼中にないと胸を張る。(https://www.businessinsider.jp/post-164427)それが世界のファッションウォーズの実態であって、天神にある店舗、品揃え、テイストに限りがある以上、スタンプカードによる市場規模の拡大に過度な期待をすれば、結果は火を見るより明らかである。

 「買い物の利便性が高い」「コンパクトで回遊しやすい」と言ったところで、買う商品、購入額はお客が決めるのである。根本的に実店舗の価値、求められる品揃えとは何かを考え、「ない商品が買える、画期的なサービスとはこれだ」にしなければ、ネット通販とは勝負にならない。同盟よりも、共倒れになる序曲は始まりつつある。天神ブランドどころか、ロゴマークを作っただけの施策で、終わりそうな予感がしないでもない。

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集中力を高める技。

2018-03-21 05:23:05 | Weblog
 昔は二八と言って、2月と8月は暇だった。だが、今では暮れの企画が2月をピークに3月までズレ込み、冬向けは7月くらいから動き出すので、8月は忙しくなっている。今年も昨秋からかかっている物件が年明けに最終段階に入り、2月3月は多忙を極めた。

 ただ、人間の集中力なんて、それほど長続きしない。机についても10分〜15分が限界だろう。長丁場の仕事を乗り切るには、テンションを上げるというより、緊張と弛緩という風にメリハリをつけるしかない。仕事に集中するには適度な息抜きというか、ストレス解消も不可欠なのだ。歳をとるにつれて、なおさらそう感じるようになってきた。

 だから、大きな仕事で溜まったストレスを解消するには、いたってアナログな手作業の方が自分には合っていると思う。それがレザークラフトだ。加工には指先を使うし、繊細な技や力もいるが、それが却ってストレス解消につながり、次の仕事への集中力を養ってくれる。

 レザークラフトはアメリカンなヘビーデューティが主流で、それが男っぽさの象徴からか、根強い人気を誇っている。革材料の専門店に行くと、独特の香りと共にアンティークゴールドのバックルからコインを用いたコンチョ、スタッズまでが並んでいる。まさにバイカー御用達というか、ヘルズ・エンジェルをイメージさせるテイストだ。

 一方で、デザイナーズ志向、ユーロテイストを求めれば、パーツ1点1点を探しまわらないと、思うようなデザインは上がらない。重要なのは革選びだ。ラムは繊細で柔らかだが、堅牢度に欠ける。カーフは丈夫だが固さがある。さらにキップ、ステアなど、作るアイテムで、向く革は異なってくる。

 金属パーツも手芸店やアクセサリー材料店までこまめに回ると、意外なものが見つかる。パーツ1点1点に拘れば拘るほど、個性的なアクセサリーを作ることができる。そのためには日頃からリサーチを欠かさず、こまめに材料店に寄ってどこに何があるか、目星を付けておく。こればかりは服以上に質感が大事だから、必要な時にネットで探して購入すると言うわけにはいかないのだ。

 こうして革から金具まで、探しに探し選びに選んで揃えれば、結構、自分でも納得がいくデザインに仕上げることができる。先日、昨年の9月以来、半年ぶりにウォレットやスマートフォンに付ける「革のストラップ」を制作した。パーツはすべて1店、一カ所では揃わないだろうとの前提で、リサーチを頼りに以下の店舗を回った。



 昨年、レザーメーカーのハシモト産業が福岡市中央区赤坂に福岡営業所を開設した。(https://hashimotoindustry.com/news/2522/)ここは事務所から歩いて行ける距離なので、中央図書館や体育館に行く度に覗いているが、革の在庫はそれほど多くなく、ショールームのような感覚だ。たまたまなのか、前を通る時に限って人影がなく、未だスタッフに話を聞くまでにいたっていない。

 やはり、事務所近くにある「クラフトハウス(http://www.crafthouse.jp/corp/index.html)」や国体道路沿いの「ハンズたかおか(http://www.e-hands.jp/)」、博多駅の「東急ハンズ」、そして地元の「いづみ恒商店(http://www.izumikou.com/)」に、どうしても足が向いてしまう。結局、今回のパーツもそれらで調達した。



 まず、革紐でお気に入りが見つかったのは、東急ハンズといづみ恒商店。ハンズの革紐は幅5mm・長さ約1m。おそらくカーフだと思う。価格は691円(税込)。 いづみ恒商店の革紐は同じ幅だが長さが180cm程度で540円。ハンズのものより厚みがあってやや硬い。おそらくステアだろう。




 次に金属パーツだ。ウォレットのDカンに付ける「ナスカン」は、東急ハンズ、いづみ恒商店、クラフトハウス共々同じものしか置いていない。これなら大手セレクトショップのPBにも使用されているから、ありふれている。そこで、リサーチ時に天神の「ユザワヤ福岡店」で見つけていた「Dカン付きミニナスカン」を使うことにした。

 このナスカンは、レザークラフト専門店が扱う機能重視の資材系ではなく、南京錠をイメージした小ぶりでモダンなデザインで、鍵1本を付けるキーリーングのような感覚だ。ヘビーなレザーアイテムより、スタイリッシュなアクセサリー向きだと思う。価格は1個238円。

 この下部に付いて回転するカンに革紐を通し、固定する金具は東急ハンズの「ツメ付け」(6個129円)といずみ恒商店の「紐留め」(2個220円)の両方を使ってみた。ツメ付けは薄い金属板をコの字状に折ったもので、上下にツメが付いてこれが革を咬む仕組み。紐留めはリングを3つ重ねたようなC字型で半円状に隆起した形が特徴である。

 どちらも紐を通してラジオペンチで空き部分を閉じれば、革紐を固定できる。補強のためにナスカンに通す数cmだけ別の革を接着した。そのため、この部分のみ紐が分厚くなり、ツメ付け、紐留めとも金具がやや開いた感じだが、紐の固定には何の問題もない。

 金具をしっかり留めるにはペンチを使ってもかなりの力がいる。だが、力任せに曲げてしまうと、ペンチ先の切れ込みが金具に食い込んでキズがつく。そのため、カバーをつけて、少しずつ力を入れ徐々に曲げるようにした。スタイリッシュなアクセサリーづくりにはこうした繊細さも不可欠で、この辺がアメリカンなレザーグッズとは違うところだ。

 両方の留め金具を試してみたので、結果、2種類となった。どちらがナスカンやウォレットに似合うのか。検討するのも結構楽しい。



 そして、革紐の末端を始末する「バネ付きの金具」。以前に東急ハンズで購入したものは、1個80円と格安だったが、プラスチックメッキで経年で表面が禿げ落ちてくる。そこで今回はニッケル製の本格的なものを使用することにした。これのみ地元では手には入らないので材料店を通し、中国の問屋に発注した。

 多分、到着まで時間がかかるだろうと早めにオーダーしたが、案の定、春節にかかり荷物が空港留めされて入荷までに1カ月ほどを要した。でも、別の商品と一緒に送付されたことで、送料はかからず1個240円で済んだ。

 実際に使って見るとは東急ハンズのプラスチック製に比べ、重みもあるし質感が違う。他の金具もメタリックなので統一感を出す事ができた。プラスティック製はブランドアクセにも使用されネット通販でも販売されているが、インスタ映えするような写真を見ただけでは金属製と見まがってしまう。

 だから、購入した後に現物をみて、意外に安っぽく感じるユーザーもいるだろう。商品説明に細かく記されていなければ、消費者は金属とばかりに思ってしまうわけで、この辺がネットの限界というか、実際に専門店を回ってパーツを選んだ場合との差ではないか。

 まあ、大手セレクトショップがオリジナルでアクセサリーを企画する場合でも、外部発注のODMばかりになれば、バイヤーはそこまで関知すらできない。だから、東急ハンズにはパーツ仕入れの部分で、この辺の拘りにもぜひ着目してほしいものだ。

 今回の製造コストは1本1100円程度で済んだ。これでPC用の薄型バッグにストラップを取り付ければスリやひったくりを心配することなく、ウォレットに電鉄系のICカードを入れたまま、地下鉄や電車のカードリーダーにスムーズなタッチできる。

 このウォレットはジャケットスタイルの方が似合うから、ストラップを外せば内ポケットに入れることができる。レストランやホテルでもスマートにチェックを済ませられるところがいい。さすがにポーターのひも付きでは、折角スタイリングも台無しになる。カジュアルとオフィシャルで使い分けられるのは好都合だ。



 実はウォレット自体は、某有名ファッション通販サイトにも出店しているモード系ブランドで、もともとストラップ用のDカンは付いていなかった。ブランドのテイストを考えると、そこまでの機能、細工を凝らす必要はない。もっともである。だから、こちらがわざわざ付けたものだ。

 ファスナーや内部の札、小銭、カードをホールドする間仕切りの関係から、こちらの取付には非常に腐心した。寝ている時に加工法が夢に出てきた時は、朝起きた後にすかさず試してみるなど、試行錯誤を繰り返して何とか体裁よく付ける事ができた。

 単に革の平紐にDカンを付け、それを折り返し部分の外からカシメを通して留めれば簡単に固定できる。だが、そうすると、カシメを打った部分が目立ってしまう。なるべくウォレットの表情を変えないままにしたかった。反面、ウォレットはストラップで引っ張るので、しっかり固定しておかないとちぎれてしまう。こうした加工の細かな点は企業秘密ということにしておこう。

 お客からすれば、ウォレットにストラップを付けたいというニーズもあるだろう。メーカーがオプションでそうしたニーズを聞き入れてくれればいいのだが、ブランドのテイストも守らないといけないから、なかなかそうは行かない。

 駅ビルに出店しているレザーグッズ専門店では、店頭にミシンを置いて職人による手作りやオリジナルイメージを訴求するところもある。ただ、オーダーと言っても、革の色を替えてくれるか、せいぜいファスナーの「ムシ」を革の色に合わせるくらいだろうか。

 無理に注文すれば、Dカンの取付もやってくれるかもしれないが、それこそ既製品にカシメを打って留められたひにゃ、ウォレット自体が台無しになる。表革と内革の間にDカンを付けた平紐を縫い込んでもらえるのが強度的にもデザイン的にも理想なのだが、そこまでになるとオリジナルで発注することになるのかもしれない。

 ネットで注文すると、仕様書を書いて添付しないといけないだろう。機能とデザイン、そしてブランドイメージを並立させるのは容易ではないのだ。

 だからこそ、既製品と市販の材料を駆使しオリジナリティと機能性を加えるレザークラフトは楽しいのだ。仕事の合間に取り組んだことで、ストレスが解消にもつながったし、次の仕事への集中力を養うこともできた。

 また、いづみ恒商店のスタッフから、「趣味でレザークラフトを楽しむ人々の間では、バッグやウォレットでもYKKの高級ファスナー『エクセラ』を使うのが浸透してます。うちもオーダーを受け付けているので」との話も聞けた。これはYKKの代理店にわざわざ頼まなくても良いから朗報だ。

 大手のセレクトショップが中国生産するレザージャケットでは、コストの関係から安いファスナーが使われているが、オリジナルレザーではウエア、グッズとも高級なエクセラがトレンドになっているようだ。

 これを機に、今年はずっと懸案だったレザーウエアの制作にも取り掛かりたいと思っている。





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芸能人の為のイベント。

2018-03-14 05:25:40 | Weblog
 今年もこのシーズンがやって来た。3月17日(土)〜25日(日)に「ファッションウィーク福岡」(http://fwf.jp/2018/)が開かれる。

 2012年度にスタートし、今年で6回目。主催は福岡商工会議所が主導する福岡アジアファッション拠点推進会議(以下、推進会議)で、福岡市や福岡県、福岡商工会議所が共催している。後援には経済産業省傘下の九州経済産業局、地元アパレルで構成する福岡繊維卸共同組合が名を連ねるが、他は任意の町おこし団体やメディアである。

 スタート当初は福岡が小売りの街であることから、JFW(ジャパンファッションウィーク)とは異なり、「福岡にお客さんを呼んで、商品を買ってもらう」販促キャンペーン的な事業を意図していた。

 ところが、ローカルテレビのRKB毎日放送が行う客寄せ興行の「福岡アジアコレクション(FACo)」に大半の事業予算が注ぎ込まれていることから、ファッションウィークに割り当てられる枠は限られていた。推進会議が福岡市や県の補助金をもとに拠出できる事業予算は、2回目の2013年度で「700万円」程度しかなかった。

 なのに推進会議は、事業をゲットしたい業者に「この金額内で集客イベントを実施し、情報発信ツールまで制作する企画をプレゼンしろ」と要求した。仕事をもらいたい代理店からすれば、「できるわけがない」である。というより、代理店にとって手数料がキックバックされるテレビスポットや新聞広告などの「マス媒体」ならともかく、大がかりのステージイベントやツール制作では、外注費がほとんどで利益が出ず、うま味がないのだ。



 まあ、西日本鉄道が月1で発行する「西鉄ニュース/A4版14P」の表4枠には全面広告が掲載されているが、これをマスと呼べるかどうかである。



 当然、代理店が身入りを増やすには、企業スポンサーを確保せざるを得ない。もちろん、事業を渡す推進会議もそのことは織り込み済みだ。そこで代理店は天神や博多駅などに店舗を構える「百貨店」「ショッピングセンター」等々に営業をかけ、そうした企業スポンサーにとって「集客を望める企画」を立案し、推進会議を納得させることに落ち着いた。てっとり早い企画が、タレントを呼んでトークショーなどを開催するものだ。

 批判に晒され失敗に終わった「かわいい区」の時もそうだが、代理店にとって東京などから呼んだギャラの安いマイナータレントや俄芸能人、売れないミュージシャンを起用しても、「フォロワーが◯◯人超え」「モデルやタレント、美容師など人気のインスタグラマー」と冠をつければタレントとして箔はつく。その上、彼らのギャラからマージンを抜けるので、右から左で利益が転がり込むのだ。




 一方、2月〜3月はデザイナーを目指す学生が卒業制作を披露する。高校や専門学校からすれば自校生、友人や家族しか観客にならない学内イベントではなく、広く一般のお客に見てもらえるステージが欲しい。専門学校は次年度以降の学生募集という営業戦略もかかっている。

 さらにデザイナーとして独立したはいいが、業界で広く認められるクリエイティビティや技術力がなく、自分らの思い通りにデザインをしたところで、ビジネスには結びつかない。そんな輩にショーや展示会を開催する資金力があるはずもなく、公共イベントが「場」を提供するしかないのである。

 一応、ファッションウィークの期間を外すものの、福岡ファッションビル(FBB)がスポンサーとなり、資金力のない地元デザイナーの合同ショーを開催している。2回目の今年は「Revo × Labo Fukuoka Presented by Fukuoka Fashion Building」と銘打って2月11日(日)に開かれた。

 地元デザイナーの4ブランドがショーを行い、約550名の観客が来場したという。ビル会社の代表はメディアで「東京を目指すのではなく、アジア進出という流れも福岡ではあり得る」と強調したが、じゃあ彼らのブランドは地元でどれほど売れているのかである。まず東京で売れないブランドは、福岡でも売れない。ましてアジアでもだ。それはコムデギャルソンのPLAYやSupremeを見ればよくわかる。

 こうした地方でちまちまと活動しているデザイナーは、いわゆる「ファッションショー」を、ビジネス受注の場に位置付ける姿勢が全くない。それどころか、会場の反応でマーチャンダイジングに修正を加えたり、バイヤーとの商談で別注を受けるような態勢がなく、自分たちの好きなデザインをしてショーをやるだけで終わっている。

 メディアには「地元バイヤーも来場した」と言わせるが、実際に有力セレクトショップの評価を一度も聞いたことがない。また、アジア進出というなら、550名もの観客の中にアジアのバイヤーが1人でもいたかである。 その割に「モデル事務所関係者」とか、「地元モデルを起用」とか、いかにも若者が興味をもつネタの発信には躍起になる。

 アジアで売りたいなら、天神や博多駅に押し寄せている観光客の前で披露した方がよほどアピールになる。その恰好の場がファッションウィークであるはずだ。だが、資金を出す企業スポンサーの意向やFBBの3月のスケジュールなどから、4ブランドは3月16日からファッションウィーク期間を挟み、31日まで福岡パルコでポップアップショップ「Revo × Labo Fukuoka」を開くに止まっている。

 アジア進出が自治体や商工会議所の支援を引き出すための謳い文句に過ぎないか、それともアジアのバイヤーやお客まで引きつけるものが本当にあるのか。ここでどこまでアジアからの観光客の目に触れ、実際にバイヤーとの商談の場や購入に結びつき、リピーターにつなげられるか。真の実力が評価されるということである。

 もっとも、繊研新聞などの記事には商品概要やディテールの説明はあるが、彩色や素資材の使い方、ボリュームの取り方や全体のフォルム、そしてそれらが生み出すモードについての批評は全く書かれていない。ファッションジャーナリズムがクリエイティビティや技術レベルに踏み込んで書かなければ、彼らにとって全く勉強にならない。結果、デザイナーとしてのクリエーションが醸成されるはずもないのである。

 つまり、こうしたコレクションまがいのイベントがいかにも若者の憧れを喚起する目的でしかないから、「単なる芸能=ショービジネス」に過ぎないのだ。そこからはクリエイティビティや緻密な技術力をもつ人材が育つわけがない。第一、染めや織りについて機屋と喧々囂々のやりとりをし、自らリスクを抱えてオリジナル生地を作るなんてことはしてないだろう。ショーなんかより、そこに注力しなければ、いい服は生まれない。その点で、まず話にならないのである。有力ショップのバイヤーも同じ意見だと思う。

 デザイナー側はショーを開催するに当たって、メディアへのプレス活動だけは積極的に行っている。昨年は繊研新聞が大々的に記事を書いていた。今年はそれ(https://senken.co.jp/posts/ffb-youngbrand-show-180228)に加え、Fashionsnap.com(https://www.fashionsnap.com/article/2018-02-11/fukuoka-fashion-building/)も報道している。そして、ポップアップショップの開催ではパルコの手も借りたわけだ。

 これらはどれも東京に本拠を置く企業である。福岡だの、アジア進出だのと大見栄切っている割に東京資本のメディアやデベロッパーにすり寄らないと、何もできないのか。言っている事とやっている事の矛盾は、そのまま実力レベルの裏返しととれるのである。


中身のない事業はみな同じ。

 ファッションウィークは福岡アジアファッション拠点推進会議が主催する。しかし、今回のように企画のほとんどがタレント、芸能人によって進行されるようでは、ファッション事業を打ち出してきた推進会議としてなす術がなく、事業費の大半を拠出する企業スポンサーに主導権を握られていると言われてもしょうがない。まあ、代理店に企画を丸投げする時点で、それは想像できることだが。

 推進会議はアリバイづくりのように昨年10月末から「ファッションウィークの参加コミュニティ」を募集している。参加条件は昨年同様に「ファッションアイテムの企画制作・販売を行っている個人・法人・団体・学校」「ファッションショーの企画制作・出演等を行っている法人・団体・学校」「その他、ファッションに伴う活動を行っている個人・団体・学校等」となっている。

 だが、3月14日現在のオフィシャルサイトを見る限り、「香椎高校ファッションデザイン科学生によるファッションショー」は該当すると思うが、「アートを楽しむイベント ARTFULL DAY」「イオンモール × オカダン・グラフィック SPECIAL COLLABORATION」「LIFE with confidence!諫山直矢ライブペインティング&展示」が参加コミュニティに応募して審査の末、参加が認められたものなのか、それとも商業施設単独のイベントを無理矢理ファッションウィークにジョイントさせたのかはわからない。

 推進会議は募集した参加コミュニティについて、実際にどれくらいの応募があり、審査してどれくらいを参加させるのか、具体的な数値を全く公開していない。過去の実績では、福岡市が年度ごとに発表する「決算説明資料」に申し訳なさそうに「参加企業数」の項目で、次年度の目標と並行して書かれているだけである。



 昨年のファッションウィークについても、28年度決算資料説明(http://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/55163/1/281014kkb1.pdf)では、13ページの「クリエイティブ関連産業の振興・にぎわい創出」の項目に、目標/ファッションウィーク福岡参加企業:300社、成果・実績/432社(27年度302社)と記されているに止まる。市の説明では具体的な参加企業の社名は商工会議所が把握しているとのこと。ただ、市側が資料制作において1社1社の社名まで確認したかはわからない。

 推進会議のサイトでも何ら参加企業の明細が公開されていないのだから、ファッションウィークの応募者はすべて参加者とみなしたのではとすら思えて来る。これでは根拠のない見積り数値を目標に掲げ、成果・実績は盛った数値を出していると勘ぐられそうである。

 福岡市は、クリエイティブ産業をこれからの本市経済を牽引する重要な産業と位置づけ、国内外からの企業誘致や海外進出の支援、スタートアップ支援などを進めている。クリエイティブ福岡プロモーション事業には、ファッションウィークの最終日の25日に実施されるFACo (福岡アジアコレクション)も含まれている。

 しかし、所詮、テレビ局の事業=客寄せ興行でしかない。今年はお笑い芸人の「ノンスタイル」がゲスト出演する。(http://www.fukuoka-asia-collection.com/guest.html)相方の井上裕介が2016年の12月に当て逃げ事故を起こし活動を自粛していたが、真相が明らかにならないままフェードアウトしたような感じだ。

 所属事務所のよしもとクリエイティブ・エージェンシーとしては、事故からまだ1年程度しか立っていない。そのため、キー局で井上裕介の大々的に露出させてはスポンサーや視聴者からクレームが付くことをおそれ、ほとぼりが冷めるまでFACoのような地方営業から活動させようとしてもおかしくない。所詮、よしもとの芸人である。仕事がもらえれば、何でもいいのである。

 ファッションウィークともども芸能人、タレントでお客を集めることが、クリエイティブ産業やにぎわい創出なのだろうかと、思ってしまう。そう言えば、FACoを自社事業としてプロデュースしているRKB毎日放送は、2013年にもクリエイティブ・ラボ・フクオカ事業の一環で「The Creators」というイベントを企画、実施している。

 これも東京などからクリエーターまがいのタレントを呼んで、映像パフォーマンスやライブ、エンタメステージ、トークショーなど展開しており、構成内容は今回のファッションウィークとほぼ同じである。そもそも制作を外注に頼るテレビ局がクリエイティブを語れるわけがないし、ファッション音痴の代理店に糸へんが理解できるはずもない。

 代理店やテレビ局などの利害関係者にとっては、業界をダシに使い「ファッション」「クリエイティブ」を公共事業の口述にすることで、公金を手中に収めたい本音が実によくわかる。彼らにとって公共事業は手段ではなくて、事業そのものを得ることが目的なのだ。事業をゲットできれば、あとはタレントのギャラからマージンをハネればいい。まさにファッションやクリエイティブは打ち出の小槌のような言葉で、実に楽なものである。

 それゆえ、ファッションウィークの企画内容を見れば、地元ファッション産業の振興が絵空事だというのがよくわかる。その他の事業も予算の関係というか、FACoに大半を拠出していることから、だんだん尻すぼみになってきている。そのFACoですら、北九州市が「東京ガールズコレクション in 北九州」を開催し始めたことから、福岡県から補助金が回らなくなり、アジアでの海外公演ができなくなっている。

 福岡県は福岡がファッションの街としてポテンシャルがあると、一連の事業を主導し補助金を拠出した。だから、「福岡市」ではFACoを始めいろんなイベントが行われてきたが、本当に産業振興や人材育成につながっているのか。北九州市の北橋市長からすれば「そんなわけがない」である。福岡のファッション産業なんて北九州市と何ら変わらないではないかとの思いだろう。ならば、福岡県に対し、北九州だって可能性があるから、補助金を寄越せ。その論理も成り立つ。東京ガールズコレクションin北九州開催の背景には、両市間の政争もあるわけである。

 人材育成という点では、今回も県立香椎高校でファッションデザインを学ぶ生徒がショーを展開するが、彼らには何の利害もなく真摯に作品づくりに励んできたと思う。それは評価して上げて良いだろう。ただ、某・ファッション専門学校による青田刈りは気になるところ。「うちの学校でもっと勉強してみない」と、高校生に触手を伸ばしていてもおかしくない。

 本当に優秀な生徒かどうかは、プロが作品を見ればわかる。卒業後に福岡なんかでくすぶっているのではなく、直接海外に出た方がよほど勉強になる。人材育成は推進会議の事業の柱の一つである。にも関わらず、それにはほとんど予算を割かずインターンシップでごまかす始末だ。プロの評価を受ける作品を披露した生徒には、事業費から奨学金を出すくらいの施策がないと、優秀な人材は育たない。

 企業スポンサーをつけて三文タレントにはギャラを払いながら、高校生には何のインセンティブもないのは、いかにいびつな事業なのかがよくわかる。未だポストにしがみついているのか、それともそれも形骸化してしまったのか。どっちでもいいが、企画運営委員長はどう思っているのだろうか。それとも自校への入学を勧誘できれば、それでいいのだろうか。


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モール頼みで回生なし。

2018-03-07 05:28:14 | Weblog
 書くのがだいぶ遅くなってしまった。2月中旬にオープンしたネット通販モール「ストライプデパートメント」https://stripe-department.com/についてだ。

 トップページを開くと、イメージ画像とOPENING CAMPAIGN、PERSONAL STYLINGの紹介が交互にモーションする。帯でレイアウトされたヘッダーやトップメニュー、バナー画像に配置された文字、写真、ロゴマークは全て一般の通販サイトより大きめだ。これも自らのサイトをデパートと呼ぶだけに、端からターゲットにする中高年の視力低下を意識したWebデザインと言うと、言い過ぎだろうか。

 このモールに大手アパレルの出店が相次いでいる。背景にはゾゾタウンの一人勝ちがあるのは間違い。あれだけの売上げ、成長を目の当たりにすれば、実店舗重視、自社サイトオンリーを貫いてきた百貨店系アパレルとて背に腹は替えられない。企業によって多少の温度差はあるにせよ、大量集客や新規顧客へのアプローチ、タッチポイントの拡大という点からも、自社サイトよりモール出店に舵を切るのは当然の選択だと思う。

 一方、ソフトバンクとコラボしてモールをスタートさせたストライプスインターナショナルは、1994年の創業で裏原ブームに乗って急成長した企業だ。アースミュージック&エコロジーをはじめ、グリーンパークス、セブンデイズ=サンデーと次々にブランドを開発してきたが、基本はヤング向けで販路もSC主体になる。

 百貨店が主力ターゲットにするキャリアやアダルト、マチュアという市場には踏み込んで来なかった。創業から24年目に入ったのだから、初期の頃のお客は40代になるが、加齢に商品を合わせることで感度やMDがブレるのを嫌ってきたのだ。結果的にはヤングターゲット戦略が奏功したということになる。あくまでこれまではであるが。

 マクロ的に見ると、今のヤングもいずれは歳をとっていく。年齢動態における少子高齢は避けられないわけで、ヤングマーケットの縮小はすでに始まっている。ストライプスインターナショナルにとって、それがすぐさまアダルトやマチュア向けの商品開発を進める理由にならなくても、百貨店系アパレルと組むことは中長期の企業戦略を考える上で「有り」との経営判断だったわけだ。

 SC主体に大量出店はしていても、通販というプラットフォームを持っておけば、いろんな角度で商品開発や販売戦略を立てることができるからである。

 では、出店ブランドを見てみよう。「エンスィート」「シンプルライフ」「レステラ」等々を手がけるのは、百貨店系アパレルの代表格レナウンだ。系列の専門店「レリアン」も追随している。三陽商会は「エヴェックス バイ クリツィア」「マッキントッシュ・フィロソフィー」「サンヨーコート」などを出店させた。

 「クリスチャン・オジャール」「ジョルジュ・レッシュ」「ミッシェル・クラン」「ホコモモラ デ シビラ」などは専門店系アパレルイトキンのブランドだが、百貨店販売の苦戦を考えると出店に動かざるを得なかったとみられる。

 他にはインターナショナルクリエイティブ系の「アキコオガワ」や「パドカレ」、ミセス系のモードライン「プレインピープル」、百貨店系では定番の「ニューヨーカー」「オールドイングランド」なども名を連ねる。

 変わったところでは、長崎県大村市のローカル時計店から宝飾業態やオリジナルブランドの開発で軌道に乗り、現在は国内80店、海外6店を構えるジュエリーのサダマツ。この3月には持ち株会社のフェスタリアHDに移行したが、こちらも社名の由来となった「フェスタリア・ビジュ・ソフィア」で出店している。ジュエリーと言っても、モールでは手頃な1万円以下の商品展開となっている。

 百貨店展開ではレナウンと双璧をなしてきたオンワードHD、イトキンと同じく専門店系のワールドは、出店していない。自社でサイトを運営しているし、ネット専用のブランドも開発していることから、今のところはモールに頼らない戦略のようだ。

 まあ、本当に販売力をもつブランドでは、顧客は単独のサイトにダイレクトにアクセスして購入している。だから、実店舗で苦戦気味の百貨店系ブランドがモールだろうと自社サイトだろうとネット販路を確立したからと言って、今以上に売れるという保証はない。

 特にこれらが対象とする30代以上の客層は、現物を試着して購入したいとの思いはヤングより強いはず。販売スタッフのアドバイスやコーディネート術が購入の判断材料になるケースも多い。それ以上に服を着こなしてきた人間なら、ブランド横断で自由に組み合わせるセンスをもつ。だから、サイトによるブランド軸での単品編集では、実際の売場と比べると商品を着た自分をイメージしにくいのだ。



 一応、 ストライプデパートメントでも、百貨店の接客風景をイメージさせるようなページもあるにはあるが、実店舗はもとより、ファッション雑誌なんかと比べても内容は薄っぺらで、まだまだ購入に踏み込ませる条件とまではいかない。これから改善して充実させてはいくであろうが。

 地方百貨店がどんどん閉店していく中、地方に住むお客はブランド難民と化している。そうした客層からすれば、ダイレクトに百貨店系ブランドがチェックでき、購入できるモールはありがたい。しかし、ある程度の高額品に大枚をはたく以上は、仮想売場のモールではどうしても買い物に慎重にならざるを得ない。まだまだ課題は少ないないと思う。

 今回のモールスタートは、大手の百貨店系アパレルと新参のヤング系SPAがその事業領域を超えて提携したところに注目が集まっている。だが、市場を拡大させたり、売上げアップを狙うには、やはりモールと一体した別の仕掛けが不可欠だと思う。
 
 まずはモールをタッチポイントにして、実店舗、売場に集客しなければならない。お気に入りが見つかれば、やはり試着してみたい、他の商品も見てみたいとの気持ちにさせることが重要なのだ。また、地方、遠隔地のお客ではヤマトHDが都内の駅ビルで実証実験を始めた「お試し拠点&受取所」などと連動しなければ、顧客サービスとしても片手落ちである。というか、大人のお客ほど試着購入を望んでいるのではないだろうか。

 出店するブランドは、まだまだ店舗販売との親和性が強いものが少なくないだけに、モールに出店しただけで売上げが伸ばせるかは懐疑的である。三陽商会はお試し拠点&受取所に参加を表明しているので、ストライプデパートメントでは実験データをもとに検証していくと思う。この結果が他社に与える影響は少なくないはずである。

 また、アパレルメーカーはゾゾタウンや楽天では独り占めされている顧客の商品購入データをストライプデパートメントではしっかり入手してマーケティングなり、商品開発なり、顧客サービスなりに生かさなければ意味はない。

 百貨店系アパレルが凋落したのは、紛れもなく商品の劣化であり、ブランドとしての陳腐化である。ネットで購入する顧客が商品に対しどういう不満を思っているか、それを真摯に受け止め、分析してその先に活用しなければならないのである。

 大人のお客がブランドに期待することは、単に商品が買えれば良いというゾゾタウン利用のヤングとは違う。素資材やカラーのレベル、企画やデザインのクリエイティビティや完成度、シーズンMDの構成力など、要望のレベルは非常に高いと思う。だから、お客の声を知ることは重要なのである。

 インターネット販売が実店舗より優れている点の一つに時空を超えたインタラクティブなコミュ二ケーションがある。そこから得られるお客の要望をどう拾い上げ、どう商品づくりに生かすか。「ストライプデパートメントに出店して、商品が良くなったね」。そう言われるようになってこそ、アパレルの勢力図は変わるのである。

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