HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

サプライヤーは蚊帳の外?

2021-06-30 06:42:29 | Weblog
 東京五輪の開幕まで1ヶ月を切った。ワクチン接種は進んでいるが、変異株、さらにはデルタ株への感染拡大から、開催中止を叫ぶ声は少なくない。だが、コロナ禍以前から今回の東京五輪では様々な問題が炙り出され、開催懸念を扇動するような動きがあるのも事実だ。

 振り返ると、招致活動の段階から巨額の資金が動き、その一部がIOC委員へのロビー活動で使われていた。当時の猪瀬東京都知事はコンパクトな大会を叫びながら、誘致が決まった途端に運営費は3兆円にも膨らみ、それに対する異論は封殺された。新国立競技場は建設費が嵩んで設計変更を余儀なくされ、エンブレムも盗作疑惑やデザイナーの事前選定が発覚した。

 挙げ句の果てが森喜朗組織委員長の失言辞任と有名スポーツ選手への中止要請の殺到。そして、都民に対し盛んにボランティアを勧奨してきた反面、ディレクターという職種には1日40万円の日当が付く不可解さ。所詮、五輪なんて商業イベントなのだから、利権に群がる輩がいると言えばそれまで。あまりに多くの国民が振り回され過ぎている。

 一方で、スポーツマーケティングという言葉があるように五輪は多方面でビジネス機会を提供し、市場を創造してくれる。経済効果としてはハード整備、いわゆるハコモノによるものが大きいと言われるが、一時的に国民の気分が高揚し消費アップにつながるため、有形、無形の効果には期待できる。それはそれで市民生活には必要なこと。中止すれば、もっと莫大な損失を被るのだ。

 前置きはこのくらいしにして、アパレルの問題に移ろう。毎回、五輪で話題になるのが、日本選手団が開会式で着用するフォーマルユニフォーム=公式服装(正式名称)だ。業界内外からは「コンペにしてほしい」「若手デザイナーの起用を」との声が上がる一方、今回はスーツ量販店の「AOKI」がオリピック、パラリンピック共通で提供することになった。

 公式服装については、これまでも「ダサい」との声が多かった。しかし、デザイナーを起用したからと言って、必ずしも評価が高かったわけではない。森英恵氏の肩に日の丸やグラデーションカラーのマント、高田賢三氏の花柄然りだ。その後、百貨店の高島屋がサプライヤーになったが、それでも評価が上がることはなかった。

 業界内部には、「デザインがどうのこうのと言うよりも、サプライヤーに百貨店を選ぶ意思決定の仕方に問題がある」という冷静な意見もあった。そして、JOCや組織委員会の上層部が決定する構図は、今回の東京五輪でも変わることはなかった。

 というか、2013年にアルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたIOC総会で、東京五輪招致委員会メンバーが着た制服はAOKIが提供している。JOC側は東京五輪の公式衣装は公募で選んだというが、その時点で「2020東京五輪が実現すれば、サプライヤーはAOKIを選定する」のが既定路線だったのではないかと思われる。



 今回のデザインについては、「『ニッポンを纏う』をコンセプトに東京2020大会の価値の発信、歴史と伝統の継承、国民との一体感を表現し、オリンピック・パラリンピックともに「共生」という共通のテーマで製作した」という。開会式用には日の丸カラーの白と赤のセットアップ、式典用には紺と白の同の2タイプが採用されている。

 両大会は日本が酷暑の時期に開催される。だから、ファッション性よりも暑さ対策の方が優先された面はあるだろう。通気性や吸汗速乾、快適性に配慮したデザインで、生地は主に日本で調達、縫製も国内で仕上げられたとか。リップサービスの分を割り引いても、選手の評判は上々のようだから、それはそれで良かったのではないか。

 問題は表彰式の衣装。ファッションディレクターの山口壮大がデザインしたというが、ネットでは「居酒屋のユニフォームか」から「礼服とは言い難い代物」まで、悪評の方が支配的だ。こちらも暑さ対策を重視したのなら甚平でも良いという理屈になるが、山口氏起用には何らかの利害が絡んだのか。もっとも、海外のメダリストに敬意を表するという意味では、絽や紗、麻などの日本の気候風土に合う素材を用いた礼服=着物にすべきだった。


海外選手団も酷暑対策でライトメイドが主流
 
 海外の選手団はどうだろうか。東京開催が1年延期されたので、主要国では皆、2020年モデルがそのまま流用されている。では、代表的な国を見てみよう。



 まずは米国。前回のリオデジャネイロ五輪と同様に「ラルフ・ローレン」が起用された。今回は東京の暑さを意識してか、お決まりのブレザースタイルから、カジュアルなヨットパーカー風のジャケット、パンツ、ポロシャツに変更されている。

 ジャケット、パンツのカラリングは全て白地で、フードや襟元を紺に切り替え、赤のストリングを施している。ポロシャツは白地と紺地があり、紺には派手なUSAのロゴ入り。ベルトは紺、赤、白のレジメンだ。星条旗カラーをモチーフにアメリカントラディショナルのデザインは不変。ラルフ・ローレンだから出せるテイストと言える。



 毎回、五輪選手団のフォーマルユニフォームを積極的に公開するオーストラリア。1994年から地元ブランドの「スポーツクラフト」が公式サプライヤーになっている。(https://www.sportscraft.com.au/sportscraftolympics.html)

 今回はライトグレーのエンブレム付きブレザー、白のシャツ、緑のショーツ、同色のスカート。男子選手はネクタイ、女子選手はスカーフ。カラーは同国のナショナルカラー(緑と金)にちなんだ緑と黄色。デザインはブリティッシュトラッドのテイストだが、酷暑を意識してライトメイドに仕上げられている。



 フランスは、同国オリンピック委員会が2017から20年まで「ラコステ」と契約。東京大会が1年延期されたが、公式服装はそのまま。こちらは白のジップアップジャケットに紺のパンツ。襟にトリコロールのラインを配置したスポーツウエアのテイストだ。24年のご当地パリ五輪からは「ルコック・スポルティフ」がサプライヤーに決まっている。




 英国は国内でワークウエアなどを手がけるブランド「サイモン・ジャージー」。前大会と同じくライトネイビーのエンブレム付きテーラースーツだ。今回は男子は白のシャツに濃紺のネクタイ。女子は赤のブラウスになっている。素材はわからないが、ウール系のトロピカルでも、東京ではかなり暑いのではないか。リオ五輪の閉会式で選手が履いたフラッシュソールシューズは今回も着用されるようだが、式典の縮小でメディア露出は限られるかもしれない。




 イタリアは2012年のロンドン大会からジョルジオ・アルマーニが公式ジャージをデザイン。今回もミッドナイトブルーのエンポリオ・アルマーニ「EA7」が提供されている。トラックスーツとポロシャツの前面には、ナショナルカラーをトリコロールディスクで大胆に配置。背面には漢字風のフォントでITALIAを縦に配置し、Tの文字は「鳥居」の形になっている。

 トリコロールディスクは日出づる国、鳥居は神聖な神社への入口を表すもので、どちらも日本で開催される大会への明確な敬意が窺える。さすがジョルジオ・アルマーニだ。表現の自由を盾に日本を冒涜するようなエセ芸術家とは違うのだ。



 最後にカナダ。国旗の配色は日本と同じ赤と白。毎回、大胆なデザインが特徴だ。ところが、今回はGジャンが採用され物議を醸している。身頃、袖、背中にはスプレーペイントや落書きが施されたため、メディアからは「オリンピックの舞台にふさわしいものというより、ファストファッションの小売店のセールラックにあるもののように見える」と不評を買った。

 サプライヤーはデパートの「ハドソンベイ」だが、このジャケットは米国のリーバイスと提携したため、なおさら国民感情を逆撫でしたようだ。ただ、カナダでも公式服装については、「ファッション性に舵を切ることは危険で、ドレスコードを厳格にすべき」という意識の方が強い。そこはデザインどうのに議論が集まる日本とは違うところだ。

 ともあれ、今回の東京オリンピック・パラリンピックはコロナ禍の中での開催となり、国内外メディアは中止や強行、感染拡大ばかりをクローズアップしがちだ。そんな中では、各国選手団のフォーマルユニフォームにはスポットが当たりづらい。だが、オリンピックもパラリンピックも選手の活躍なくして成立しない。彼らをあらゆる面でサポートするのがパートナーやスポンサー。アパレル企業もサプライヤーとして素材作りからデザインまでで支援している。

 それらが蚊帳の外になっては、選手のパフォーマンスは語れないし、大会自体が空虚なものになってしまう。まずは東京オリンピック・パラリンピックが万全なコロナ対策のもとで無事に開催されること。そして、各国選手が着用する公式服装がメディアを通して、世界中の人々の目に焼き付くことを願ってやまない。

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ブームから趨勢に。

2021-06-23 06:32:19 | Weblog
 6月2日の本コラムで、「インテグレートな再生。」と題し、ピラーシェルフの部材を再利用したリメイクを取り上げた。すると、19日付けの繊研plusメールマガジン土曜版の繊研センサスが「おうち時間でDIYしてますか?」というアンケート調査を行った。

 業界人の一定層はリモートワークで空いた時間をDIYに利用したり、関心を持つようになったということだろう。アンケートは以下になる。回答項目も列挙されているが、ここでは文字数の関係から割愛する。




 Q1.おうち時間を過ごす上で、DIYをしていますか?
 Q2. Q1で「コロナ流行前からしている」「コロナ流行後から始めた」と回答した方にうかがいます。その理由は何ですか?(複数回答可)
 Q3.Q1で「していない」と答えた方に伺います。DIYをやらない理由は何ですか?(複数回答可)
 Q4.これまでに DIYで作ったことがあるものは次のうちどれですか?(複数回答可)
 Q5.DIYの楽しさはどんなところだと思いますか?(複数回答可)
 Q6.今後挑戦してみたいDIYはどれですか?(複数回答可)
 Q7.DIYをする際に参考するものはどれですか?(複数回答可)
 Q8. その他DIYに関してコメントがあれば、お願いします


DIYをしていない人を引き込む施策はあるか?

 筆者もアンケートには答えたので、個人的なものと業界の人々の回答を想像しながら、DIY浸透の可能性やビジネスへの影響を考えてみたい。

 まず、DIYのような活動は、おうち時間がクローズアップされる以前は、はっきり両極端に別れていたと思う。アンケート項目のQ2Q3にあるように「している」か、「していない」である。業界で企画やデザインに携わる人々は、している派に属する人が多いと思う。仕事でモノづくりばかりやっていると、プライベートではしたくないとの言い訳ができるが、やはり自分の持ち物は自分で作ってみたい願望は強いのではないか。

 小売業でもショップオーナーになると、店づくりから自分で手がける人が少なくない。日々の生活そのものがDIYとシンクロしているわけだ。もちろん、店舗コストの削減などの目的もあるだろうが、自店は自分の城だから内外装から什器、ディスプレイツールまでにオリジナリティを出したいはず。今はそれらをネットでアピールできる環境だから、なおさらDIYに向かうのは自然な流れだと言える。

 筆者が知る大手ファッションチェーン販促部の元チーフは、仕事ではディスプレイツールをデザインされていたこともあり、退職後に始められた雑貨店では「店の備品は昔とった杵柄でDIYで製作しているよ」と仰っていた。「チェーン店時代はタッカーなどの道具は高価だったけど、今は100円ショップで手軽に購入できるから良いね」とも。

 地元セレクトショップのバイヤーは新店舗を開発するにあたり、スタッフと海岸で拾ってきた流木をDIY加工。アクセサリー用の什器に仕上げたところ、お客さんの反応も上々で、店舗を軌道に乗せる手応えを感じたという。回答項目にもあるが、公私問わずDIYする人たちは「市販に欲しいものがないため」とか、「自分の好みのサイズや仕様のものを作るため」というのが多数派だと思う。



 一方、DIYをしていない人は、どうだろう。回答項目には、「忙しくて時間がない」「作り方・やり方が分からない」が挙げられているが、大多数は全く関心がないのではないか。背景には「不器用なので、失敗しそうだから」というか、DIYはある程度の技術を必要とするので営業職や販売職であれば、技術が磨ける環境に身を置いていないことがある。

 こうした人々がおうち時間を過ごす上で、DIYに関心を持った人をいかに引き込むか。そうした施策がビジネスを広げることになる。DIYをしていないという回答項目に、「用品・用具をそろえるのが面倒だから」「家に作業するスペースがない」が挙げられているが、これはホームセンター(HC)が工作室を充実させて、道具を貸し出せば十分に解決できる。アドバイスや技術指導にも注力すれば、未経験者を引き込める。

 また、郊外SCやGMSが頭打ちのテナント誘致対策として、モノからコト消費に舵を切るなら、DIYの業態開発も一つの手だと筆者は考える。それをHCなどに新業態として開発・出店を要請するのか、それともデベロッパーが自ら木材や金属などの加工業者、手芸店などとタイアップし業態開発に打って出るなど、いろいろある。

 工作スペースでは作業用の道具をレンタルするにしても、興味をもった人がその場合でネット購入できるような仕組みまで整えればベターだ。ニトリにしても、カインズにしても次のビジネスチャンスとして開発の検討余地はあるのではないか。ファッション業界も、手芸の延長戦で新たな業態開発に挑んでもいいと思う。布帛のバッグ、アクセサリーや革小物のキットから市場を探るという手もある。


DIYは経験を積むことで学習効果につながる

 筆者の場合、あるデザイン事務所での体験がDIYをより極める契機となった。ここではコンクリート打ちっぱなしの壁面にブロックと板だけによる幅・高さ180cm、5段の簡易シェルフが置かれていた。それをこしらえたというグラフィックデザイナーは、シェルフを指指しながら「リタイアしたら家具大工になるよ」と語っていた。しかし、シェルフは資料の本や雑誌の重みで板が反っていた。




 これを見て、筆者が実感したのが棚の構造。本や雑誌を収納すると、横板が60cm以上になれば重みで反ってしまうので、縦板を咬ませて支えなければならないということ。市販の棚は横幅が60cm程度で横板を上下に動かせるよう「棚タボ」式になっている。だが、横板の長さを広げると「カギ」状で縦板を組まないと、本など重たいものを支えるのは厳しい。

 以来、当事務所はシェルフやローボードはカギを採用したデザインにした。これもDIYだからこそ、なしうることだ。DIYは、Q5の回答項目にあるように「趣味が合う人とつながれる」し、失敗体験が学習効果をもたらしてくれる。筆者の場合は木材加工だけでなく、レザークラフトなども含め、DIY経験は引き出しを増やし、クリエイティブソースにもなっている。



 6月2日のコラムでは、illustratorで制作した設計図面とHCでカットしてもらったところまで公開した。その後、梅雨の晴れ間を利用して自宅の庭でペンキを塗り、組み立てを行ってシェルフは完成した。塗装用のローラーは以前に購入していたし、水性塗料は100円ショップで少量の使い切りタイプを購入。ネジも前のシェルフで使っていたものを再利用した。




 今回のシェルフは幅が60cm程度だが、以前に製作したピラーシェルフのデザインをそのまま流用し、横板にかかる荷重を縦板と棒状の「バンキライデッキ材」で支える構造(テレコ組み)にした。接合部分の見た目を良くするにはタボで止める方法がベストだが、部材に以前のビス穴があり、タボ穴の見当を合わせるには精密な工作機械を必要とする。流石にDIYではそこまでは不可能だから、ビス留めを用いた。

 背板を付ければ、横揺れにも対応できるが、家電品を置くと配線がしにくくなる。そのため、設計段階では半分だけ背板をつけることも考えたが、再利用する部材が足りなくなるので断念した。そこで背板には余っていたベニヤ板を代用した。それでも、しっかり組み上がり揺れにも強くなったので、満足している。

 あれこれ考えて工夫をするDIYは、クリエイティブワークの一つ。最初は決して上手くなくても経験を積むことで引き出しが増え、アイデアソースにもなる。これもDIYの魅力だろう。最近は「ウッドショック」なるニューが経済紙を賑わせている。米国や中国の旺盛な住宅需要に伴う木材相場の高騰だ。木材が値上がりしてもDIY程度にはそれほど影響はないと思うが、木材に限らず天然素材は有限だからリユースまで考えなければならない。

 先日、Facebookで見た動画が印象に残った。https://www.facebook.com/BusinessInsiderJapan/videos/495851194992368
米国のバンクーバーでは、毎日10万本の箸が捨てられ埋立地行きだったという。Chop Value社はそれらを回収して仕分けし水溶性の樹脂に浸した後、圧をかけて集成材タイルにリサイクル。そうした材料を活用して大きなカウンターやテーブルを製造している。ある意味、国家的なプロイジェクトビジネスとも言えるし、こうしたモデルにDIYを組み込めば、タイルのニーズはもっと増えると思う。

 日本ではどうか。小泉進次郎環境大臣は、盛んにプラスチックごみの削減に言及している。しかし、木材が自然に戻せるからと言って、使用後の割り箸を焼却処分しているようではCO2削減には繋がらないし、SDGsの流れにも逆行する。プラスチックゴミを減らすというなら、紙や木の道具を復活させてリサイクルまでの仕組みをきちんと整えるべきではないか。

 DIYの良さは端材や端革、端切れを利用できて、自分で作るから愛着が湧いて使い勝手もいい。リメイクもできるし、長く使える。そこが使い捨てとは違うところだ。SDGsの流れからしても、DIYをコロナ禍の俄景気で終わらせるのではなく、トレンドとして、さらに定着させていく仕掛けが業界にも求められるのではないだろうか。
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違反すれば、服役?

2021-06-16 06:33:57 | Weblog
 神戸市の市議会が異例の「条例」制定に踏み込んだ。「神戸らしいファッション文化を振興する」内容で、6月11日から始まった令和3年第1回定例市会6月議会に全市議議が条例案を提出した。おそらく議会中に全会一致で可決され、成立すると思われる。(https://www.city.kobe.lg.jp/a91127/726644371574.html)

 振り返ると、神戸市は1973年に「ファッション都市宣言」を発表し、アパレルやシューズ、スポーツ、真珠、洋菓子などの産業が発展した。同市はこうしたビジネスを核に街づくりを進めてきたが、近年はそうした都市の基幹産業が大きく揺らいでいる。

 アパレルは海外製品との競合が激しく、地場メーカーは苦しい経営環境にある。神戸を代表するケミカルシューズも、低価格の輸入品に押されている。スポーツは競技主体から健康・大衆スポーツに移って寡占化、真珠はジュエリー市場がバブル期の3兆円から3分の1以下に縮小。洋菓子はトレンドの波に呑まれやすく、安定市場を掴むのは容易ではない。

 地場産業がこうした様々な課題を抱える中、市議会は条例を制定することで、「市、事業者及び市民が共に神戸らしいファッションを振興することにより、これを次世代に引き継いでいくこと」を目指す。

 そのため、事業者には「神戸の真珠加工品、シューズ、アパレル製品を取り入れた装い、地場産品を取り入れたライフスタイルを市民に発信する」役割を課し、地場産品のブランド化や海外を含む販路開拓への取り組みを促す。市民にも「神戸の地場産品の利用を通して、神戸らしいファッション文化に理解を深め、その魅力発信に協力する」ことを求めるとする。

 神戸市は観光客に地場産品の消費促進を行うなどの施策とも連携し、市長がそれらの施策の実施状況を毎年度、議会に報告することも盛り込んだ。地方自治体が条例まで制定し、ここまでの産業振興に踏み込むのは例がない。背景にはどのような思惑や目論みがあるのだろうか。


従来の中長期計画と今回の条例の違いは

 1990年代以降、国は地方分権を進め、自治体には権限や財源の委譲が行われた。今やその機能は大幅に拡大し、責任も重大になっている。つまり、地方自治体はその地域の安寧を維持し、住民の安心・快適な暮らしを実現していくことが不可欠なのだ。

 一方、少子高齢化が進む中、毎年のように大規模な災害が発生している。それに輪をかけるようにコロナ禍に見舞われた。このような厳しい状況の中で、地方自治体には大分県の杵築市のように深刻な財政難に陥るところもある。運営や事務事業についてマネジメント能力を欠くところも少なくないし、中央政府が指示しないと何ら行動できないところもあると指摘される。(それをメディアの前で堂々と首長に指摘して辞任を余儀なくされた大臣もいるが)

 地方自治体が行政課題をどう克服して、住民サービスを向上させ満足度を高めていくのか。そうした行政運営を進めていくには、地域の実情に見合った判断と、実行するための権限と財源が不可欠になる。そのため、地域が置かれた状況を冷静に分析し、課題や特性、住民の意向を捉えながら、目標を設定してそれを実現するための行動計画を立てなければならない。

 では、具体的にどんな計画を立案するか。まずは選挙に立候補する首長のコミットメント、いわゆる公約だ。一時、国政ではマニュフェストという用語が流行したが、首長がどんな街づくりを目指すのか。そのためには強い政治的なリーダーシップが必要になる。選挙で住民に選ばれたことを背景に、議会とも協力して予算や条例を通し、事業を執行して行くことになる。

 言い換えれば、長期政権の首長を新人候補が独自の公約を掲げて選挙で破れば、自治体の運営、長期ビジョン、計画がゴロっと変わることもあり得るのだ。まあ、鹿児島県の三反園訓元知事のケースも見るまでもなく、そう簡単には行かないが。政策を実現するための法的根拠を作るという意味で、条例を制定することもありうるだろう。

 そこで、条例の意味と神戸市のケースだ。条例とは、地方自治体がその自治立法権に基づいて制定する法律のことを指す。条例の制定や改廃は議会の議決によるから、今回のケースでは全市議が提出しているので、制定はほぼ間違いないと言える。

 また、条例は法令(国会が制定する法律)に反しない限り、自治体の事務事業の全てにおいて定めることができる。「神戸らしいファッション文化を振興する」条例が法令に違反するはずもなく、全てのファッション関連事業で取り決めるのは何ら問題はないと言える。


流通業者との連携や市民モデルをアイコンに

 では、なぜ、自治体の都市宣言や計画の次元に留まらず条例だったのか。前出のように自治体の長期ビジョンは首長選挙に出る候補者が公約として掲げるのが一般的だ。神戸市の場合、現職の久元喜造市長は灘高を経て、東大法学部を卒業、自治省(現総務省)に入省したエリート。京都府や札幌市にも出向経験があり、地方の行政運営では豊富な経験を持つ。



 2012年に神戸市の副市長となり、矢田市長の不出馬で後継指名を受け翌13年10月の市長選では、次点候補に5700票余りの僅差で初当選した。1期目には三宮駅前・ウォーターフロントの再開発や行財政改革に取り組んだものの、いかにも官僚出身の首長が行う政策という次元で、市民にとって魅力ある政策とは言えないだろう。

 現在2期目にあり、堅実に地域課題に取り組み、成果を出そうとはしているが、目に見えて景気が良くなり、市民が豊かさを実感できるとまでには行っていない。経済的な問題は国の政策の方が大きく関わるからだ。

 一方、住民からすれば、市議は首長や職員ほど行政を動かしている風には見えない。三権分立だから当然のことなのだが、市議としては選挙を考えれば市民や地場企業を通じた地域の要望を議会に諮り、行政運営に反映させることも重要な仕事になる。

 今回の条例も、市のビジョンや行動計画ではなかなか結果が出にくいことで、市議たちが地場産業の課題を集約する形で議員立法に動いたと考えられる。

 条例にすれば、行政運営や地域づくりの基本となる考え方が明らかにできるし、市民もこれに合意し共有することになるから、市政の基本にしていけるのだ。市長に対し毎年度、施策の実施状況を議会に報告する義務を課したのも、首長の責任を法的に明確化したと言える。

 裏を返せば、条例の制定で議会運営では、ファッション関連の振興事業などが条例に合致してるかを議会として市側に問いただせることもできる。条例を盾に取ると言えば言い過ぎだが、税金を垂れ流すような事業に対し、議会はチェックしやすくなるのは確かだ。むしろ、議員と癒着がありそうな業者への事業発注の方が懸念される。そこは襟を正して、市政運営に取り組んでいただきたいものだ。

 ただ、これで神戸市のファッション産業が浮揚し、活性化に繋がっていくかである。それには市民一人一人の意識も関わってくる。「地元産のお洒落な服を着ないと、条例違反だ」と言われることはないし、まして罰則などを課せるはずもない。条例があっても、あくまでに市民一人一人の意識と考え方、そして行動になる。

 筆者が業界に入った頃、神戸ファッションのセンスの良さは日本でも群を抜いていた。ワールドやジャバグループを筆頭に中小のアパレルが切磋琢磨して、個性的な服を次々と生み出していた。これが神戸経済を牽引していたのも事実だ。



 その後、バブルが崩壊し、阪神淡路大震災を経て、神戸市は復興、再開発の道を歩んできた。だが、もうハード整備を繰り返しても、経済が活性化することはないだろう。ハーバーランドの再開発で、THREEPPYのテナントに100円ショップが入ったニュースなんかを見ると、これがあのお洒落な神戸の姿なのかと目を疑った。政令市であろうと、全国一律売れるものは同じなのだから、しかたない面もあるのだが、あまりに寂しい気持ちがする。

 やはり地元産のファッション消費を先鋭化させるには、流通小売り業者との緊密な連携も欠かせない。セレクトショップの「リステア」はルシェルブルーとして神戸で産声をあげたし、筆者が感度の面で評価する「ル・ゼフィール」も神戸発だ。

 神戸はそんなショップに囲まれて、お洒落な人が数多くいらっしゃる。だから、老弱男女を問わずそうした方々を市民モデルとしてファッションアイコンに仕掛け、ライフスタイル提案からアピールしていくべきだ。SNSの時代なのだから。

 エキゾチックで瀟洒な街、神戸は決して色褪せない。地場にアパレルはじめ、シューズ、真珠、洋菓子と言ったお洒落の起爆剤になり得るものがある。他都市からすれば、実に羨ましい限りだ。神戸がおしゃれタウンの栄光を取り戻せることを期待して止まない。
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観光地パラサイト。

2021-06-09 06:29:05 | Weblog
 6月4日、「ユニクロ浅草」がオープンした。どこの観光地もコロナ禍でインバウンドはもとより、国内旅行者の誘客にも苦戦している。それだけにここはテレビや新聞が全国ニュースで取り上げるなど、報道に力がこもる新店だ。



 立地は浅草寺西側の繁華街に建つ楽天地浅草ビルの1、2階で、吹き抜けを施した開放的な空間にレディス、メンズ、キッズとUTをラインナップ。エントランスを入ると、地元の提灯屋の大島屋恩田が作成したユニクロのロゴ入りの角形提灯が目を引く。

 また、地元台東区は履物工業が盛んなことで、職人や工場が製造する雪駄や革小物がディスプレイされ、店内外のそこかしこに浅草情緒を醸す「千社文字(千社札から取材された籠字が母体のフォント)」のPOPを貼り付け。1階壁面には昭和、2階壁面には令和というテーマで浅草のスナップ写真を掲示し、地元にゆかりのあるイラストレーションも描かれている。

 古き良き日本の文化を全面に押し出す店づくりは、浅草を訪れる観光客を意識したと見られる。そんなユニクロ浅草ついて、業界メディアは「地元に根ざした売場作りと販促に注力」というニュアンスで紹介した。

 地元の全面的な協力を得たのは確かだ。ユニクロは紋切り型のチェーンオペレーションがお客に飽き飽きされており、ご当地色を打ち出した店舗を目指す意図は感じられる。しかし、同店にできるのは装飾やプロモーションまでだ。日本文化を発信すると言っても、商品はほぼ100%がローコストの海外で生産されたもの。メディアもそれを前提にすれば、こうした見出しを付けざるをえなかったわけだ。

 今回、グラフィック素材をプリントできるサービス「UTスタンプ」については、地元の老舗ブランドや浅草にちなんだコラボデザインが限定販売されているが、もちろんベースのTシャツは日本製ではない。

 店舗オープンと浅草振興をシンクロさせ、地元飲食店のスタッフが着用したキャンペーンTシャツも非売品と思われるが、ユニクロの生産ラインで作られたものなら同じだろう。地元で人力車を運行する時代屋・東京力車の法被には、紺地の背中にユニクロ浅草のロゴがプリントされている。これはどこ製なのか。

 時代屋に詳細を確認すると、「当方が着用した半纏は、ユニクロ様から支給していただきましたので、当方では詳細わかり兼ねます。ユニクロ様に直接お問合せいただけますでしょうか」との回答がきた。ファーストリテイリングに問い合わせると、「車夫が着用している『ユニクロ浅草』とロゴの入った法被に関しましては、商品の仕様や生産国に関しましては、開示がされておりませんため、ご回答がいたしかねます」との答えだった。

 SP用に市販されている法被は綿100%で、前たてと背中に「シルク」「転写」「刺繍」の3種の仕様でロゴなどが表示できるものがある。この手法なら国内製造でコストはかかるが、ロットが揃わなくても可能だ。ユニクロが時代屋に提供した数はそれほど多くないと考えられるので、こちらも国内で「染め抜き風」にプリントしたのではないかと思われる。


お土産をご当地産にこだわるのはありか

 そこで考えたいのが、観光地スーベニアの原産国だ。筆者はニューヨークにいたので、現地で数々のお土産を見てきたが、1990年台に入るとI ♡ New YorkのTシャツも、Made in USAから他国製に変わっていった。というか、スーベニアに限らず米国のマスプロ衣料全般がコストの安い海外生産を進めていったし、すでに70年代からクリスマスグッズなどは日本に生産が委託されていた。内職をしていた祖母が見せてくれたので、はっきり憶えている。



 そう考えると、低価格衣料の最たるユニクロがいくら浅草イメージを打ち出す中で、限定アイテムとは言えTシャツなどが日本製になるはずもない。2018年に発売されてフランスでヒットした「北斎ブルー」のTシャツ然りだ。商品企画としては、両方とも日本文化を外国人に伝えるためのものだから、プロダクトが日本製である必要はないという理屈だろうか。

 ましてユニクロは商品をヒットさせて利益を稼ぐのが第一の目的だから、浅草や北斎をモチーフにしたアイテムを、コストが高い日本製にすることなど端から眼中にはないはずだ。それはそれで理解できる。

 ただ、今回のオープンに共同参画した浅草で商売をされている方々は、どうなのだろう。企画を持ちかけたのがユニクロ側とすれば、浅草の方々は「コロナ禍でインバウンドはほぼゼロになっているから、ユニクロが地元に出店するだけでも、多少なりとも集客が増え賑わいが戻れば、いいかも」という程度の心情で、参画を受け入れたのではないか。

 法被や飲食店のTシャツがすべてユニクロ側が支給したものとすれば、浅草エリアとしては何ら予算をかけたわけではないので、特に注文することもなかったと思う。

 ただ、浅草ブランドの価値を訴えるなら、地元店舗が販売する商品も地元で製造したものに限る。それが店側の姿勢だし、地元で作ってこそ浅草の心意気が伝わる。セレクトショップのビームスが展開する「ビームスジャパン」や東急ハンズ地方店のご当地コーナーは、日本各地の商品を厳選しており、同じ思いで販売されているはずである。

 そう考えると、今回のユニクロ浅草では、ご当地がユニクロにうまく利用された感は否めない。ユニクロはコロナ禍が終息して観光客が浅草に戻って来れば、お土産感覚のアイテムも売れるだろうとの算段で、仕掛けたと言える。うまく軌道に乗れば、新たなコンセプトショップとして京都や奈良、金沢、博多バージョンの展開もあり得るかもしれない。

 しかし、浅草という街も文化も、あくまで地元の方々が作り上げたもので、それが観光客を引き寄せてやまないのである。ユニクロはそれに乗っかったに過ぎない。


浅草を知るには現地の職人技に触れること

 話は変わるが、ニューヨークにいた頃、現地で知り合った米国人から、「今度、初めて東京旅行するだんけど、押さえるエリアと日本らしいお土産でお奨めはあるかい」と、聞かれたことがある。その時、瞬時に浮かんだのが「ベタだけど、日本らしさでは浅草かな。お奨めのお土産は『べんがら』の暖簾だよ」と答えた。

 浅草は都心に近いことからよく訪れた。隅田川沿いに蔵前、東日本橋に下るコースは博多にも似ていて、好きなエリアの一つだ。お土産ということでは銀座がステーショナリー、青山がアパレルとすれば、浅草は和物になる。べんがらの暖簾は何度も浅草を訪れているうちに気に入って、紺地に墨文字の丸が染め抜かれたものを購入した。




 ニューヨークから福岡に戻り、マンションの一室に事務所を構えると、玄関の鉄扉を開放するシーズンが多くなった。機密性が高いためクロス貼りの壁に結露でカビが発生したからだ。廊下とリビングの境には内扉があったので、そちらも開けっ放しにすると、玄関から仕事場が丸見えなるので、ここにべんがらの暖簾を飾った。

 タペストリー感覚の和風アートという感じで、これが事務所の内装とうまく調和した。その後、「干支シリーズ」が発売され、毎月1枚ずつ購入しては飾り続けたので12枚のコンプリートになった。どれも厚手の綿地に絵柄や文字が施され、昔ながらの「染め抜き」や「書き上げ」の手法で描かれていた。もちろん、職人技による浅草メイドだ。アートに触れる機会が多いニューヨーカーにもきっと受け入れられるはずだ。




 ユニクロ浅草のTシャツや法被、POPに使われた千社文字は、デジタルフォントで生まれたもの。すでにモリサワの「勘亭流」、写研の「鈴江戸」なんかもデジタル化されている。それゆえ、日本でデザイナーが各アイテムの版下データさえ作成すれば、それを他都市の工場にネットで送るだけでTシャツなどはインクジェットで簡単にプリントできる。紺地の法被や黒のTシャツには白インクでプリントすれば、「染め抜き風」に見えるのだ。

 ただ、本当の浅草の情緒や文化は現地の人々からしか伝わらない。徹底してそこにこだわってほしいし、旅行者にも伝えていくべきと思う。モノからコトに旅行の関心が移っていることを考えるとなおさらだ。その意味で、ユニクロ浅草には「観光地パラサイト」という同社の新たな一面が垣間見える。
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インテグレートな再生。

2021-06-02 06:40:13 | Weblog
 制作データや書籍、資料の増加に伴い、事務所のインテリアもキャパが大きくなっている。当初は家具店で購入したシェルフを使っていたが、強度がイマイチで重たいデザイン関連の書籍には耐えきれず、半年程度で底板が抜けた。



 そこで、HCで「ウォールシェルフ」用の板を購入。高さ90cm、横幅180cmで、縦横各2段のブックシェルフをDIYで制作した。デザインはいたってシンプルにし、縦、横の板を組んでビス留めする構造とした。また、横板が本や資料の重さに耐えられるように、棚たぼ式ではなく、縦横の中板をカギ状に組んで補強した。

 その後、時間の経過とともに本や書籍、資料、保存データのCDやDVDが増えたため、シェルフも縦スペースを利用するものに作り替えた。2005年には福岡西方沖地震が発生し、当事務所も被災。そこで、新たなシェルフは地震の揺れをうまく吸収させて、収納口からものがこぼれ出ないように奥行きの長さを変え、縦板をアーチ型にした。




 家具の街、大川のメーカーに材料を供給する会社で木材を調達。illustratorで描いた図面に添って板をコンピュータカットしてもらい、縦180cm、横90cmの4段で収納口8のものを2つと、縦横180cmで同16つのものを1つを制作した。こちらも強度を優先し縦横の板はカギ状に組んだ。色は埃が目立たないように以前の黒から白に変え、自分でペンキを塗った。

 ただ、この形では、収納口はそれぞれ縦横約42cm程度になる。大型本やA3ファイルは楽に収まるが、小さな本やA4ファイルを入れると、上部がどうしてもデッドスペースになる。そこで上げ底にする台を追加で作り、空きスペースには小物を収納して使っている。



 数年前には、データファイル専用の小型シェルフも作ったが、これ以上書籍や資料を置く余裕はない。そこで読み終えた単行本はブックオフに買い取ってもらい、制作物や写真のデータはブルーレイに焼き直して枚数を減らした。新聞や雑誌の切り抜きは紙のまま残したいものを除き、スキャナーで読んでデジタル化、HDDに保存して項目別にデータベース化した。

 筆者は断捨離という言葉は音感的にあまり好きじゃない。だから、あえて実践しようという意識はないが、この先それほど長く仕事をすることもないので、持ち物はなるべくセーブしておきたい。特に生活スペースが限られる都会暮らしでは、それが鉄則だ。

 小型シェルフが用無しとなったが、いくら自然に還せる木材といっても、回収してもらうとゴミ扱いになる。豪雨災害で浸水した家具類ではないので、回収袋に入らない板切れは粗大ゴミになって有料になる。そこで、こちらも服と同じように再生&リメイクを考えた。事務所にはこれ以上スペースがないので、自宅用の棚に作り替えるものだ。板材を再利用できるように
ボンドを使わず、ビス留めにしていたので 容易にバラせる。

 緊急事態宣言下にある福岡県のコロナ感染者数は九州で突出している。ワクチン接種が完了するまで、なるべく人との接触を避けリモートワーク主体にせざるを得ない。その分、空いた時間をDIYに割けるので、願ったりだ。


サイズが違う板材を有効活用するシェルフデザイン



 小型シェルフはそのまま使えるが、せっかくならリ・デザインして新しいものにしたい。インテリアとしてファッション性を打ち出しながら、機能性と堅牢度も両立させる。もちろん、棚板は全て再利用して、新たなに購入する材料は少なくしないと、再生&リメイクの意味はなくなる。非常に難しいコンセプトだ。



 そこで今回もillustratorで、設計図とカット手順の図面を作成した。形状は以下になる。1.長さを必要とする縦板は無くし、既存の板を全て再利用する。2.同じ幅の横板と短い縦板を積み重ねて、足りない縦板部分は太めの棒を組み合わせる。3.縦板の横幅が足りない部分は2つの板をタッカーで統合して利用する。

 組み立ては、まず縦方向の重みには耐えられるように、横板上に縦板を組む。また、横方向にかかる力や地震の揺れによる歪みを抑えるため、背板にベニアを張って補強することにした。それでも弱いと感じたら、目立たない箇所を端材で補強すればいい。新規に購入したのは、100cmのバンキライデッキ材1本と、ベニヤ板1枚。

 リ・デザインするシェルフは本のサイズと棚の安定性を考えて、収納口は下から高さ40cmを1段、同33cm3段、同30cm1段の計5段とした。これで横板を合わせても、高さ180cm内に収まる。埃除けの台座には端材を敷けばいい。問題は材料のカットをどうするかだった。

 小型シェルフの板材は「シナランバーコア」で、福岡市郊外の大型HCで購入し、カットしてもらったものだ。そこで、リメイクの設計図面に「〇〇購入の板材を再利用したシェルフ」というタイトルを付け、サービスカウンターで「代金は支払いますから、再カットしていただけないでしょうか」と、交渉し快諾を得た。「SNSやinstagramでも情報発信しますから」との条件が効いたようだ。

 詳細な図面を描いたのは、もう一つの理由がある。横板の幅と縦板、棒の高さはそれぞれ同じにしないと直角に組み上がらず歪になってしまう。また、HCのカッターマシンは刃が3mm程度の幅があるため、カット寸法をジャストサイズに設定すると、1.5mm程度短くなってしまう。

 スタッフはその分を計算にいれてカットする人と、指定サイズのままカットする人がいる。同日に作業せず、別々のスタッフにカットしてもらうと、組み立て時に微妙なサイズ違いに気づくこともある。だから、同じサイズは重ねて同時にカットしてもらった方が効率がいいし、寸法も狂わない。あとは微調整とペンキ仕上げをして組み上げるだけ。何とか、捨てずに済んだ。


DIYブームを梃子に家具市場の活性化を

 筆者は過去に何度か家具メーカーやインテリアショップの仕事をした。80年代までは進学や就職、婚礼などが家具需要が盛り上がるのポイントだった。バブル期には高級家具が売れ始め、イタリアのカッシーナや北欧家具が日本上陸を果たした。しかし、家具は一生ものという意味合いもあり、高めの価格帯が売れると買い替えは進まなかった。

 バブル崩壊後は価格破壊の波が訪れ、仕入れ主体の小さな家具店は軒並み倒産した。また、ライフスタイルの変化で売れ筋は一人暮らし用のソファやベッドが主力になり、婚礼は高級家具が売れる契機とは言えなくなった。ここ数年はニトリの台頭と大塚家具の凋落。そして、現在はコロナ禍によるDIYブームの再来だ。

 You-Tubeを見ると、世界中のDIYフリークが手作りの家具やインテリアを紹介している。中には本格的なものも多く、工具を揃えないと作るのが難しいものもある。ただ、大型HCには工作室があって工具が揃っているので、材料さえ購入すれば、利用可能だ。

 せっかくDIYのブームが来ているのだから、HCも一歩進んで手作りインテリアの講習会などを開催してはどうか。さらに図面準備を条件にカーブやカギのカット、溝ほりなどのニーズに対応してくれれば、なおさらいい。もちろん、工具さえ貸し出してくれれば、セルフでも構わないが、初心者向けの指導も必要だ。

 家具の街、福岡・大川も産地の家具が売れないと嘆く前に、手作りインテリアの良さを再発見するような仕掛けを考えてもいいような気がする。一方、ニトリは島忠の買収を達成し、規模ばかりを拡大しているが、HCの質をあげるつもりはあるのだろうか。その一つがDIYニーズの掘り起こしではないかと思う。

 日本は毎年のように災害が発生しているので、もう生涯利用する家具が売れる土壌はないと思う。それが大塚家具の凋落、ニトリの台頭を生んでいる。だからと言って、何もしなければ、市場は活性化しない。ブームをニーズに変えていくところはどこか。シェルフのリメイクをしながら、ふとそんなことも考えた。
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