HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

共同配送を阻む壁。

2020-07-29 06:35:27 | Weblog
 今回はアパレルではなく、コンビニ業界について考える。先日、セブンイレブン・ジャパン、ファミリーマート、ローソンの3社がチェーン横断的な「共同物流」の実証実験を行うと、発表したことについてだ。https://news.yahoo.co.jp/articles/a6000e0b63ffb3260d2499fee1b4870de1639fa3

 実験概要は以下の通り。東京都内の湾岸エリアにある近接した店舗(セブン‐イレブン13店舗、ファミリーマート13店舗、ローソン14店舗の合計40店舗)に対し、同じトラックで商品の納入を実施するもの。予定期間は8月1日から7日の1週間。江東区にある物流倉庫に共同の物流センターを設置し、各社の「常温配送商品(飲料・菓子・日用雑貨等)」をそれぞれのセンターから移送。FCチェーンを横断し、効率化したルートで配送する。

 また、一部の商品は共同物流センターで保管し店舗別にピッキングするなど、共同在庫の可能性も探る。しかし、店舗に配送される商品は他にもある。各社オリジナルの麺類や弁当、惣菜、日配品などの「チルド配送商品(5〜10度)」、アイスクリームや氷菓、冷凍食品といった「冷凍配送商品(−18度以下)」がそれだ。また、今回の実験対象かどうかはわからないが、「パン」も常温か、定温(常時20度)のどちらかで配送されている。

 コンビニで日々大量に売れて収益の柱になっているのは食品で、主力はチルド配送商品に他ならない。今の時期なら「冷やし中華」や「ざるそば」「冷やしうどん」などだ。実験とは言え、これらの商品を共同物流センターに移送するとなると、各社の商品情報や開発ノウハウが漏れる恐れがある。それはコンビニ本部として避けたいだろう。

 現状、各物流センターから店舗に配送される物量は、各チェーンともチルド配送商品の方が圧倒的に多い。それに踏み込まずして、ほとんどがNBで商品も共通する常温商品を共同配送して、どれほど効率化が図られるのかは甚だ疑問だ。チェーン横断でコンビニ物流の課題に取り組むと言いながら、実質は腰砕けではないかと思ってしまう。

 つまり、鍵を握るのは、「食品物流」全体の改革ではないだろうか。効率的なシステムを確立するには、コンビニ本部だけでなく、食品の製造工場やベンダー(納入業者)、運送会社などのマネジメント手法や利害も大きく関わってくる。コンビニ3社は実証実験から得られたデータをもとにコンビニ物流を改革し、CO2排出の削減などSDGsの実現を目指すというが、果たして本当にうまくいくのだろうか。

 
物流にはベンダー、運送会社も関わる

 では、物流の仕組みを見てみよう。筆者がコンビニ業界誌の仕事で知り得た「チルド商品」に限って言えば、大体以下のようになる。まず、コンビニ本部は定期的に麺類やご飯ものを企画開発し、ベンダーに商品製造を依頼する。ベンダーは各地の工場に製造を委託し、注文を受けた商品をコンビニの各店にデリバリーするために、物流会社に商品の集荷から保管、ピッキング、仕分け・出荷、配送までを任せるのだ。

 物流会社がもつ物流センターはコンビニ専用で保冷設備をもち、各地域1箇所。ドライバーは物流担当のユニフォームを着用し、トラックもコンビニ専用の保冷車が使われる。店舗は年中無休・24時間営業であるため、麺飯や惣菜などはそれぞれ売れる時期・時間に合わせて製造されセンターに集荷。惣菜や加工食品、日配品もメーカーや卸業者から届けられる。



 タイムスケジュールと仕分け作業は以下だ。午前は朝の8時頃までに工場などから商品が運び込まれ、仕分けは業界独特の「摘み取り」と「種まき」で行われる。摘み取りとは、その日の総発注分が入ったカゴ(1つに商品6〜10くらい入る)を予め棚に入れておき、6名から8名のパートスタッフ(ピッカー)が店毎の発注数に応じてピッキングし、カゴに入れていくもの。カゴはローラーコンベアを流れて店別のラベルが掲示され、台車に積み上げられていく。

 一方、種まきは段ボールなどに入った総発注分を配送エリア別のラインに並べ、スタッフが商品のバーコードをスキャンして店毎の発注数をピッキングし、店別のカゴに入れていく。摘み取りは麺類や弁当、種まきは加工食品や惣菜、日配品。両者の違いはかごから出すか(摘み取り)、かごに入れるか(種まき)くらいだろうか。だが、共に自動化、ロボット化されているわけではなく、ソフト面は全て人海戦術に頼っているのが現状だ。

 台車に積み上げられたカゴは、配送エリア別の搬出口に並べられ、当日勤務のドライバーがトラックに積み込み、午後2時くらいにセンターを出発。夕方のピークに合わせ各店に届けられる。これらが1日3回のローテーションで行われ、時間帯によって商品や物量は変わる。

 ベンダーは店舗からの受注、工場への発注、店舗納品の管理を行う。物流センターではパートスタッフのピッキングミスはないか、作業中に商品が破損していないか等々もチェック。ミスが判明すれば出発までに探し出し、破損分は可能なら工場に再度発注して取り寄せ、不可能であれば発注量の多い店舗から融通する。この辺はまだまだアナログだ。

 一口にコンビニ物流と言っても、配送以外にもいろんな業務がある。物流会社にとっては、長時間勤務の辛さや交通事故の発生がドライバー不足を生み、物流センターとて深夜勤務では時給1500円以上を払ってもスタッフが定着しない。こうした構造的な問題がコンビニ本部に突きつけられたかたちなのだが、その解決は決して容易ではないと思う。


福岡天神の共同配送は未達
 
 業界は違うが筆者が生活する福岡市でも、1994年に特積みトラック業者36社と地元金融機関4社の共同出資で「天神地区共同輸送」が設立された。これによって物流改革を進め、慢性的な交通渋滞に見舞われていた天神地区の渋滞緩和やCO2の排出を軽減する思惑だったが、こちらもうまくはいっていない。



 共同配送を手掛ける専用のトラックは「イエローバード」と呼ばれ、特積み各社は全国から集まる天神向けの荷物を共同輸送の物流センターに持ち込み、そこで方面別に仕分けられた後、イエローバードに積み込まれ、各店に配達。また、店舗から出される荷物は空になったイエローバードが集荷し、特積み各社に引き渡して全国各地に発送される。集配料は荷物一個につき160円。当時の市場価格に比べると、高めの設定だった。

 しかし、取扱個数及び参加事業者数は、1996年度の140万個、35社をピークに個数は減少傾向、事業者は横ばいにある。要因はクール便、時間指定、荷物追跡等の宅配サービスの高度化に伴い、参加各社の追跡システムとリンクしておらず、また共配の物流センターを経由することでリードタイムが伸びるために、大手宅配事業者の離脱が進んだのだ。

 さらに天神は1999年に西鉄福岡駅ビルが再開発され、タテ持ち物流業者がビル内配送を一括管理することが多い。これに伴い、イエローバードが取り扱っていた荷物については、ビル館内物流事業者に直接引き渡したり、ビルへの一括運搬を行ったりして、取り扱いが減少。さらにイエローバードが館内物流業者として入ろうとしても、契約はデベロッパーと大手物流会社の本社同士で行われているため、参入は容易ではないのである。

 イエローバードと同様にコンビニ3社の共同物流に対しても、そもそも各社のセンターから共同の物流センターに運び入れることが本当に効率的なのかってことだ。つまり、コンビニ物流をチェーン横断で一本化するには、ベンダー、物流会社、ドライバー、センタースタッフと、チェーン毎に異なるマネジメント手法にも踏み込んで調整しなければならない。これは簡単なことでないだろう。また一本化されることで人手不足が解消されると考えられるが、どこかの企業やスタッフが仕事を奪われる可能性も出てくる。

 それでなくても、コンビニの24時間営業の見直しは、1日3便という配送シフトが崩れることを意味し、ドライバーの間では雇用不安が広がったとの話も聞く。コンビニ各社の経営陣は、そこまでの問題が生じることを念頭において実証実験を行うのか、である。

 アパレル業界でも商品の大量生産、大量消費は大量廃棄を生み出すとして槍玉に挙げられているが、縫製工場にとっては一定量のオーダーがなければやっていけない。ベンダーや物流会社とて同じではないか。コンビニにとって、安定的に商品を供給する物流網の維持・構築が重要なのは確かだが、そのインフラを担っている人々の生活もあるのだ。



 2018年1月9日付の日本経済新聞に掲載された物流システム企業「トーヨーカネツ」のカラー全面広告では、創業75周年記念のゆるキャラ「ブツリューくん」(https://www.tksl.co.jp/ja/information/2018/20180828.html)が登場し、ローラーコンベア上を流れる箱に乗って「取りに行かないピッキング」を提案している。

 これはセンタースタッフが人海戦術でピッキングする「摘み取り」より、ローラーコンベアによる「種まき」での振り分けを自動化した方が処理能力は高いという意味だ。これがコンビニ物流に活用されることはあるのだろうか。少なくとも物流を改革するにはトラック輸送だけでなく、センターにおけるハード整備も関わってくるのは間違いない。果たして、実証実験の結果、コンビニ本部は物流改革にどんな道筋をつけるのだろうか。
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スローアパレルを考える。

2020-07-22 06:27:45 | Weblog
 7月13日付けの「繊研PLUS」が取り上げた「デザイナーブランドのファッションサイクルは変わるのか」。(https://senken.co.jp/posts/designer-brand-innovation)一般メディアが有名ブランドの破綻やコロナ禍で起きた店舗閉鎖ばかりを取り上げる中、現場の思いや業界のリセットにまで切り込んで、背景にあるものを探ろうとする。業界紙ならではのスタンスだと思う。

 きっかけとなったのは、BFC(英国ファッション協会)とCFDA(アメリカファッションデザイナー評議会)が共同で発したメッセージだ。「年2回のコレクション以上にシーズンを増やさないことを含むガイドライン」を示すもの。繊研の記者は「サンローラン」や「グッチ」がファッションウィークへの参加を見送ったことで、これ以上脱落するメゾンやブランドが出ないように予防線を張ったと、分析する。

 また、多くのブランドにとって春夏、秋冬のコレクションは単なるショーと化し、プレコレクションが商品の売る場としての比率は高いとも。世界最大のファッション市場、米国ではプレコレクションは1年を4スパンに分けて商品が投入される。3カ月ごとに売場を変えてシーズン商品を売り、売れ残りはマークダウンして捌く。こうした商慣習に合わせて、プレコレクションが「既製服を販売する」ビジネスの標準となってしまったという見方だ。

 すぐに慣習を変えて、年2回のコレクションのみに転換することは難しいが、回数を減らす分、別の工夫で対応できることもあるようだ。

 以下はニューヨーク、ロンドンの各通信員が考える提案である。

○プレスプリングと春夏、プレフォールと秋冬をそれぞれ1シーズンにまとめる。
○必要に応じて、生産量を限定した協業やカプセルコレクションを差し込む。
○卸売りを減らし、消費者に直接売る。
○お客が必要とする時期に合わせて作り、直接売る。
○生産のアジア依存度を減らし、近場で作る。
○ショーではなく展示会で対応するべき。
○今後も一丸となってクリエイティビティーを絶やさないように改革を進めよう。


 通信員はデザイナーを取材しているから、現状の仕組みでは少なからず立ち行かなくなっていることも感じている。筆者もニューヨークでプレコレクションを見た経験があるが、確かにそのシステムは3カ月で商品を売り切り、計画した利益を出すことを前提にしたも。だから、価格設定(マークアップ)は売れ残りロス分まで載せる分、他国の水準よりも高いと感じた。世界的に景気が不安定な今、割高な価格では短期で在庫を消化できるはずもなく、トレンドを外せば大量の売れ残りを出す。あとはマークダウンして売り、少しでも現金化するしかない。

 とにかく投資コストを早く回収したい米国型ビジネスに合わせ、急ピッチでクリエーションとプロダクトをこなしていくことに、デザイナーらが疑念を持つようになったのは当然。それでなくても、アパレル業界は大量の商品を廃棄している。サスティナブル、持続可能な社会の実現からしても、なるべく無駄な物を生み出さないスローアパレルが模索されているのだ。

 また、バイヤーやプレスがコレクションとプレコレクションの両方に出向くには、相当の移動時間を要し、かかる経費もバカにならない。コレクション会場に招待されることは名誉であり、ステイタスを感じられるが、ショーを見るだけならオフィスでも可能になった。PC画面でも高精細な4K動画が見られるわけだから、現地に行かなければデザイナーの作風や特徴がわからないってことはない。もちろん、生地の質感を確かめるにはスワッチを入手しておけばいいわけで、コレクション見物より現物の仕入れに時間と経費をかける方が重要との考え方もできる。

 むしろ、ブランド側こそ、もっとインターネットを活用すべきではないか。わずか10分程度のショーだけでなく、生地選びから創作風景、服作りまでの動画を制作し、ショーやバックステージの模様と一緒に発信した方がデザイナーがそのシーズンにかける思いがバイヤーや消費者には伝わりやすい。また、展示会やカプセルコレクションなどに経費をかけ、スワッチ配布などバイヤー目線で「売り」につなげる。メディアが取材をしたいのであれば、改めてアポを取りリモートで行うこともできる。ビジネスのやり方をいろいろ変えてみる時期が来ているのは確かだ。


現地に行かずに商品買い付け


 さらにコロナ禍により、リモートビジネスが一気に浸透し、商品のバイイングまで変わろうとしている。シーズンは年2回のコレクションに止めるメッセージを出したBFC主催のロンドンファッションウィークでは、今年6月の2021年春夏コレクションを世界で初めてオンラインで実施した。しかも、そこで出展された商品をオンラインで買い付けることを可能した。コレクションを見せる場と同時にビジネスの場にもした。メッセージの布石とも受け取れる。

 こうした仕組みは、世界最大の衣料品ホールセールサイトを運営する「ジョア」が手がけるもので、バイヤーは動画を見ながら、仕入れたい商品の数量やサイズなどを入力すればオーダーは可能。まさにウィズコロナ時代におけるリモートバイイングというわけだ。数年前のファッションウィーク福岡でもお披露目された「着こなしを360度で確認できるシステム」も、ジョアは導入。バイヤーは服のフォルムを正面や斜だけでなく、真横や真後ろまでの見ることができる。

 ジョアには伊藤忠商事も出資しており、世界中のコレクションとも連携を進める。10月に日本で開催予定の楽天ファッションウィークでも、参加ブランドをサポートするという。さらにリアルなショーや展示会をオンラインで行うサービスも登場した。見本市サイトをPCで見ながらオンライン上でオーダーシートの作成までできるものだ。特別定額給付金の申請のように成り済ましやシステムダウンが起こるわけではないだろうから、バイヤーにとっては安心できる。

 ただ、どうなのだろう。ネット上で商品を見て、仕入れることが可能になると、消費者のネットショッピングと同様に「ポチッ」てしまうケースが多くなりはしないか。バイヤーの悪癖である感覚や見た目だけによる衝動的な仕入れに陥ってしまう懸念だ。バイヤーの仕事の基本はデジタル時代でも変わらない。月ごとの品揃え計画の中で売り筋を決め、その商品を販売する仕掛けを考えて、売場のゾーニングから商品の編集、演出、販促までを行うことである。

 筆者が知る有能なバイヤーさんは、以下のようなことを徹底していた。必ず仕入れのチェックリストを持ち、アイテムのウエイトバランスを崩さず、自店の販売計画に即した納期確認で発注し、1型あたりの発注量をオーバーせず、追加発注枠を残し、売上げ100%=仕入れ100%ではないこと等々。今でもバイイングの基本ではないだろうか。

 ネット画像だけを見て思いつきで仕入れてしまうと、シーズンの中で何を軸に品揃えしていくかが不明確になっていく恐れもある。現物(生地を含め)を見てないと、熟考できない面もあるからだ。仕入れには自分、外部、社内、社外という4つの情報ルートを持った上で、品揃えのバランスを考えることが重要であり、それはデジタル時代でも決して疎かにしてはならないのである。


中間業者を無くせば価格は下がるのか?

 もっとも、こうしたシステムが進んでいくと、アパレルブランドが直接消費者に販売する=D2C(Direct to Consumer)が浸透するのも時間の問題だろう。そうなると、卸を担う商社やインポーター、さらに小売店すら必要でなくなってしまうのだろうか。数々の海外ブランドを日本に定着させた伊藤忠商事がホールセールサイトのジョアに投資したのは、そうした危機感の表れかもしれない。果たして卸や小売りは必要でなくなるのか。

 アパレルが消費者に直接販売するD2Cは、需要と供給のギャップがなく、中抜きでコストが抑えられ、商品の廃棄もないからサスティナブルにも貢献する。でも、本当にそうなのだろうか。D2Cであっても、アパレル側は在庫を抱えなくてはならない。それをお客に購入してもらえなければ、どうしてもロスは出る。廃棄が完全になくなるわけではない。

 在庫を抱えず受給ギャップをなくすには、完全受注生産にせざるを得ない。しかし、お客さんが欲しい時に商品がなければ、売り逃すこともある。しかも、オーダースーツなんかで行われるC2M(Customer to Manufactory)は、既存のパターンを利用するもので、デザインまでお客の自由になるというものではない。完全オリジナルではないことを商品を購入する側のお客がどこまで理解しているかである。

 また、アパレルブランドから直接消費者に販売すれば、理論上は間に卸や小売りが介在しないから中間コストが抑えられて、販売価格が安くなる。しかし、米国ですでに行われているD2Cでは、中間業者がいないにも関わらず、そのメリットをお客が受けることはできてない。結局、ベンチャービジネスであるため、投資家から資金が流れるマネーゲームの対象になっている過ぎず、まだまだ消費者還元には程遠いのだ。結局はラグジュアリーブランドと同じく、作る側にいるものが儲けたいことには変わりないようである。

 いろんな意味で、コロナ禍はアパレルビジネスの弱点を突き、ある企業は破綻に追い込まれ、ある企業は変革を余儀なくされた。要は変わるべき部分と残していく部分のバランスを取りながら、いかに時代の変化に即応するか。まずはデザイナー側が口火を切ったことは、ビジネス側も頭を切り替えるべきだと言うことに他ならない。永遠に成長が続くことはないのだから。

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浸水リスクを再考。

2020-07-15 06:29:11 | Weblog
 7月4日から6日にかけての九州豪雨は、各地に多大な被害をもたらした。犠牲者は13日現在、熊本県が死者64名。福岡県が死者2名、大分県、長崎県が同それぞれ1名。他に行方不明が鹿児島県など3県で15名となっている。大半は65歳以上の高齢者だ。豪雨災害は3年前の北部九州、2年前の西日本、昨年の千葉県と、毎年のように発生している。被害を免れたにしても、今度はいつ地震に見舞われるとも限らない。つくづく日本は災害列島と言うしかない。

 では、都市機能が整備された都会なら安全かと言えば、決してそうではない。住みたい街の全国トップに輝いた福岡市も1999年6月の豪雨では、博多駅コンコースや地下鉄構内、周辺道路、筑紫口(筑豊口ではない)の商業フロア「デイトス」などが浸水。駅南のビル地下にあった喫茶店には雨水が流れ込んで、オーナーが溺死している。天神地区でも、地下街の一部が雨漏りして浸水した。



 その日は、忘れもしない。JR九州の子会社がコンビニ「ampm」のエリアFCとして、駅の博多口に新店舗をオープンする日だった。仕事で撮影に行くことになっていたが、床上浸水で入荷商品はずぶ濡れ、しかも停電で冷蔵庫が機能せず、チルド商品やアイスクリームは破棄となった。もちろん、開店の賑わいや店長の仕事ぶりをカメラに収めるはずがずべてキャンセル。後片付けに精を出されるスタッフの姿を見て、お見舞いの言葉をかけるのが精一杯だった。

 この時思ったのが、日本中どこに居ても水害のリスクがあるということ。現にその後も毎年のように集中豪雨が発生している。福岡市は水害に備えて市民向けのハザードマップを公開している。だが、それだけでは自分が住む街の災害対応には十分と言えない。

 筆者が生活する福岡市中央区は、東側に那珂川、西側に樋井川が流れる。市の中心部で集中豪雨が発生すると、これらの川の水が溢れて街が浸水するというより、下水道が排水処理能力を超えて氾濫(内水氾濫)が起こる確率の方が高いと考えられる。過去には何度か水害に見舞われ対策がなされてはいるが、年ごとに降雨量が増していることを考えると、完全に対処することは不可能だ。


福岡市の下水道は60ミリ/時の大雨で氾濫

 こうした課題をファッション業界に置き換えると、ビルインなら水害を免れられても、路面店はそうはいかない。天神界隈の下水道から雨水が氾濫すれば、大名、今泉、警固などの店舗1階はほとんど浸水するだろう。ただ、自分自身もそうだが、店のオーナーがハザードマップを見ても、実際に水害が起こった時にどう行動していいかは、わからないと思う。やはり、本当の意味で役立てるガイドブックが必要ではないだろうか。筆者なりにそのフローを考えてみたい。

 1.天神、大名、今泉、警固と地域ごとにショップオーナーで防災コミュニティを組織
 2.各自治会を中心に地区の公民館などで防災についての啓蒙と意識を統一

 3.区を通じて知見を持つ地域防災の専門家(大学の研究チームなど)に防災対策調査を依頼
 4.住民やショップオーナーが専門家に水害などで不安に感じていることを伝える
 
 5.調査結果をもとに各自が水害発生時の危険度と避難行動を考えておく
 6.自店の水害対策(商品移動など)にも生かす


 ざっとこの程度のことには取り組んでおかなければならないと思う。さらにこれらをマニュアル化したガイドブックやサイトがあれば、防災対策に役立つし、できれば定期的な訓練なども必要と思う。これには地震についても、応用できる部分があるのではないか。

 福岡市は下水道について従来、5年に1回程度発生する降雨(52.2ミリ/時間)に対処する能力を現在、10年に1回程度発生する降雨の59.1ミリ/時間まで引き上げていく整備を進めている。(https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/34929/1/fukuokashi-gesuidou-R01-2.pdf?20191001142601)

 だが、この数値にどれほどの対応能力があるのだろうか。最近の雨は10年の1回程度の降雨どころか、1年分に当たる数百ミリが1日の間に局地的に降ることがある。今回の豪雨でも、7月4日午前3時半までの1時間に熊本県の芦北町付近で120ミリ以上、八代市坂本町付近と同県の球磨村付近や津奈木町付近で、いすれもおよそ110ミリの猛烈な雨を記録し、甚大な被害をもたらした。もはや想定を超える水害が恒常的に発生していると言ってもいい。

 都市部ということでは、東京も昨年には台風の影響で世田谷の住宅地が浸水した。多摩川が氾濫したからだけでなく、内水氾濫対策が十分にできていないこともあると思う。ある大学の先生は、「治水用の地下ダムも建設されてはいるが、都心部で1時間に100ミリ以上の大雨が降れば、とても持たない」と話す。小池都政2期目も行政課題と言えるだろう。



 福岡は2005年3月に福岡西方沖地震を経験したが、地勢的には台風が襲来したり、線状降水帯が発生するケースが多いので、水害による被害の方が甚大だと考えられる。下水道の排水処理能力には限界があり、天神地下街や駐車場が地下ダムの肩代わりをするにしてもキャパはたかが知れている。博多駅地区でも1999年の水害を教訓に2006年に駅南の山王公園地下に雨水調整池が整備されたが、今回のような豪雨が中心部に降った時に対応できるかは不安だ。

 つまり、行政や企業の防災対策だけに頼れないわけで、地域住民と店舗オーナーなどが防災対する知見を深め、自ら判断してスタッフの身や自店を守る意識をもつことが必要と考える。


イオン小郡は水没SCの汚名

 一方、郊外はどうだろうか。特にショッピングセンター(SC)のケースだ。過去の浸水被害では、「イオン小郡」がある。2017年の北部九州豪雨では被害を受けなかったが、18年の西日本豪雨では施設全体が浸水し、臨時休業を余儀なくされた。施設は13年4月に大規模小売店舗立地法に基づく新設の届け出を行ったかと思うと、その年の11月には開業。だからではないだろうが、宝満川西側のクリークに囲まれた元農地といった立地環境からすれば、洪水発生などの調査を十分に行ったのかどうか。




 昨年の大雨でも浸水し、休業している。今回の九州豪雨でも浸水を心配してか。ネットには「イオン小郡3度沈む」との書き込みや画像がたくさんアップされた。自治体も域内の大型商業施設が過去2回の水害にあったため、今回は福岡県警に要請して施設前の道路を封鎖するなど最善の対策をとった模様だ。イオン側もハード面で駐車場と施設の入口の両方に止水壁を設置しているが、1時間あたりに100ミリを超える大雨が降る場合にどこまでの有効なのか。ここまで浸水が続くのは、やはり土地自体が低く、嵩上げが必要だったのかもしれない。

 同じ筑後地区でも、「ゆめタウン久留米」は久留米市の中心部、西鉄久留米駅から車で10分程度の筑後川河畔の合川地区に立地する。この一帯はもともと農地だったが、低地で水捌けが悪くたびたび水害を起こしていた。だが、開業後は一度も水害には見舞われていない。イオン小郡との差は歴然だ。

 郊外型SCは端から初期投資の建設コストを抑える目的で、2層構造(3層以上は駐車場の場合も)になっているところがほとんど。想定外の降雨による水害リスクを考えると、止水版程度では心許ない。防災訓練を行なって人命は救われても、1階部分の店舗が水没すれば、経済的な被害は甚大となる。それがテナントの経営に与える影響は少なくないはずだ。

 もっとも、店舗やオフィスが2階以上にあれば問題ないかと言えば、そう言うわけでもない。神奈川・武蔵小杉のタワーマンションが大雨による停電で水道やトイレまでが、長期にわたり機能不全に陥ったのは昨年のこと。マンション建設では分譲戸数を減らさないために、重量がある設備は1階や地下に配置される。つまり、商業施設をもつ高層ビルでも、ここが浸水すると電力を供給できなくなり、排水だけでなく、給水ポンプやエレベーターまで動かなくなるリスクがある。

 郊外にしても都市部にしても、いろんな開発を進めるならば、並行して災害リスクにも向き合っていかなければならないことが現実味を帯びている。しかし、想定外を超える災害が発生しているのを考えると、人間の英知で使ってできる対策など、もはや無力に近いのかもしれない。今回の豪雨で被災した高齢者施設は地価が安い地域に建設されるため、土砂、浸水の被害を受けやすい。災害の度に法改正がなされて砂防工事などが行われるところもあるが、自然の猛威にはとても追いついていかないというのが正直なところだ。

 行政やデベロッパー任せにはできない。むしろ、ショップ経営者などが自らの街やコミュニティ、店舗や資産を守るために行動することが重要ではないか。それぞれの地域に即した防災対策を考えること。10年に一度ではなく、過去20年に災害を受けたところは、自治体発行のハザードマップに記載されている。それを確認しながら、豪雨災害は過去を超えたものが発生することを前提に、防災意識を持ちながら日々の仕事をこなすことが不可欠だと感じる。

 末尾ながら、今回の豪雨でお亡くなりになられた方には心からお悔やみ申しげるとともに、避難生活を余儀なくされている方々が1日も早く通常の暮らしを取り戻せるよう願って止まない。
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東京初にシンクロ。

2020-07-08 06:35:46 | Weblog
 消費はウイズコロナの段階に入った。政府の緊急事態宣言が5月25日に解除され、6月に入ると営業を全面再開した百貨店の売上げが回復。反動でECは伸び率が鈍化したが、感染リスクとは付き合いは今後も続く。そう考えると、利用に二の足を踏んでいた中高年層にも、デジタル消費は確実に浸透していくと思われる。

 一方で、巣ごもり消費ではEC詐欺などの犯罪を誘発している。特にオンラインのショッピングモールやフリマサイトでは、出品者が架空の連絡先を届け出て、偽ブランドを販売する例が急増した。そのため、売場を提供する「運営者」には、出品者の本人確認やトラブルが発生した時の責任を明示するように法改正がなされることになった。

 ただ、消費者にダイレクトに販売するアパレルでは、注文した商品が粗悪だったとのトラブルも発生している。おそらく海外で生産したのだろうか、裾の始末がいい加減だったり、ウエストのつなぎ目に段差があったり、店舗販売では考えられない「紛い物」が送られてきている。さらに注文した商品が届かないとか、画像とは明らかに違う商品だったとか。連絡しようにも事業者には電話もメールもつながらないと言うから、どうしようもない。

 被害に遭うのは、購入者だけでなく、出品者もだ。海外発送を許諾した事業者が偽造クレジットカードで、日本製商品を大量に騙し取られたり、返品期限を1ヶ月としたケースではさんざん着用した末に返されたりとか。顔を見ない相手と取引すれば、当然起こりうることだろう。ただ、このような事例がECには付き物だから、気が進まなければ買わなければいいと言うのでは、業界の信用なんて醸成されるはずもない。

 どんな取引でも、双方が自己防衛するのが原則。また、ECが生活に不可欠であることも周知の事実だ。ただ、ウィズコロナでは、多くの消費者がECの利便性を享受できるのに、並行して犯罪が増えると、せっかくのデジタルシフトにブレーキがかかる。現物を見ないことが犯罪を誘発するのであれば、それを補うサービスの充実も必要ではないか。店舗受け取りや試着サービスなどがそれに当たるが、実店舗の対応が見直される面もあるだろう。

 行き着く先の消費者心理は、EC購入でも「現物を確かめられるところで買いたい」ではないか。つまり、外出自粛中にいろんなショップが取り組んだSNSによるスタイリング提案やインタラクティブな接客は、デジタルシフトの中でリアルさと信頼性を感じさせる。そうした取り組みを行うところがウィズコロナでは一歩抜け出していくのではないか。お客をつなぎ止めるには、もう店舗だけでも、ネットだけでもだめなのである。


「初」がついても興味をそそらない

 そこで思うのは、やはり「ブランド」や「商品」そのものだ。地方に住んでいると、実感するのだが、新しい商業施設がオープンする時に必ず報道される「九州初上陸」とか「福岡初出店」とかの冠。しかし、最近ではそれが付いたところで、すでにあるテイストばかりで、期待外れがほとんど。ECでのグローバルな買い物に慣れた消費者ほど、新店がオープンしても、「名ばかりの初もの」には、それほど新鮮味を感じなくなっている。

 これは仕方ないことだが、アパレルに限らず海外から新参物は、まず「東京」に上陸する。国内ブランドの新店も東京がスタートだ。だが、ニュース報道は全国一律なので、新しいブランドや商品が並べば、やはり現物を見たくなる。ファッションはローカルなものと言っても、どこでもマスプロのブランドはあるのだから、東京初に惹かれるのは当然だろう。昨年秋にオープンした渋谷パルコとリーシングされた新業態は、何よりそうではないか。ECの時代であっても、皆が行って見たくなるわけだから、入場制限されるほど賑わいなのだ。




 かたや「ウイズ原宿」にオープンしたユニクロは、音楽や映画、アートなどと協業するUTで、世界最大級の売場を設けた。でも、所詮、既存Tシャツの販売に過ぎない。マロニエゲートの新店にしても、横浜のユニクロパーク(生花はロスが出るから、SKIPの二の舞いにならないとも)にしても同じ考え方に映る。デベロッパーからリーシングされるテナントが他にないため、自らが器を大きくして今ある商品を並べ直し、見せ替えたに過ぎない。

 エアリズムマスクも行列ができたが、雑貨の域を出ないわけだし、衛生商品としての効能は未知数だ。ファーストリテイリング社として、世界的にユニクロ事業が好調だから、大々的に新商品を開発しなくても、売り方を新しくすればいいとの算段なのだろう。若者を中心に集客できる原宿という立地で、ウィズコロナでも観光客を含めて呼び込み、中国事業における新業態展開の試金石にする狙いではないのか。




 6月19日からは、セオリー事業とユニクロが協業した商品が店舗と公式サイトで販売されている。これについてもセオリーのコンサバテイストをユニクロ価格で焼き直したもので、従来のデザイナーコラボの域を出ていない。ワンピースでは赤のノースリーブを見てみたが、生地は違うものの、トーンは4年前に協業した「アンド・ルメール」に近いレベルだ。

 その時は、このコラムでも取り上げた(https://blog.goo.ne.jp/souhaits225/e/a9640c4ac389b8388267bc051d8ccb89)。今回もアンド・ルメールと同じようなコメントになりそうなので、書くのを控える。

 因みに、ユニクロ公式サイトで購入者のレビューを見ると、「生地の薄っぺらさと丈感がモデルの着ている感じと違う」「生地もペラペラで安っぽいです「多分実店舗でちゃんと手に取って見れたら買いませんでした」「通販のみじゃなく、実店舗に商品を置ける様にしてください」等々。筆者と同じ印象を受けた人が少なくない。売価(5000円以下)対コストの面からすれば、アンド・ルメール時と比べても、進化はしづらいようである。

 まあ、セオリーはファストリ傘下だから、コラボによってお客を「やはりセオリーの方がいい」と思わせたら儲けものくらいの感覚だろうか。消費者がユニクロ以外に期待しても、それに応える姿勢が見えない。企業戦略の常道からすれば、ユニクロで稼いだ資金を他ブランドへのテコ入れに活用すべきなのだが、そちらの方はなかなか進んでいない。プラステ事業やプリンセスタムタム事業、コントワー・デ・コトニエ事業と、経営効率の追求の陰で燻るブランドばかり。ウィズコロナ下のビジネス展望はあるのだろうか。


初物はECフォローを必須に

 話題を地元に移すと、JR九州がこの秋に「アミュプラザみやざき」、来春に「アミュプラザくまもと」の両駅ビルを開業する。九州では、久々の大型商業施設だ。しかし、熊本ではアパレルの大型業態は「ユニクロ」と「ジーユー」が出店する。他のテナントについては発表されていないが、これならわざわざ買い物に行く必要もないと感じる消費者も多いのではないか。デベロッパーと化したJR九州と言えど、テナントリーシングが頭打ちのようだ。前出と同じく、スペースを埋め切れるテナントが他にないのだ。(https://www.jrkyushu.co.jp/news/__icsFiles/afieldfile/2020/06/30/200630kumamotoamyutenanto.pdf#search=%27アミュプラザくまもと%27)



 そう考えると、ウィズコロナ下では東京初の新ブランド、東京スタートの新業態についても、実店舗とシンクロさせてEC整備が求められると思う。全国どこからでも購入できることで顧客化できれば、上京時など実店舗への誘客もできるわけだ。また、ランニングコストや売り上げ効率を考えても、+αの販路をもつ方がオープン後の起爆剤になる。それが難しいのなら、以前に書いた「モバイルブティック」(移動販売)もありか。キャラバンで全国を訪れるとローリングビルボード効果も上がり、ブランドバリュのアップにもつながると思う。

 コロナ禍の只中、H&Mは第2四半期(2020年3月1日〜5月31日)のオンライン売上げが前年同期比で32%増と好調だったことで、年内に世界全体で170店を閉店する。また、ZARAを展開するインディテックス社も、20年2~4月期の決算で、売上高は前年同期比で44%減となる33億300万ユーロ(約4,000億円)まで減収。4月末時点の約7,400店舗のうち、1,000店舗以上を閉店する。同社もEC部門をさらに強化し、22年にはEC売上げ比率を全体の4分の1程度にまで引き上げるという。

 グローバルアパレルがデジタル化を推進するのはわからないでもないが、日本ではあの価格のファストファッションを「高い送料」をかけてまで購入するお客がどれほど増えるだろうか。むしろ、ウィズコロナ下では、「安い商品はお店でできるだけ安く買う」「高くても欲しいブランドは、現物を確かめてから」「高度な接客サービスがお客の背中を押す」が、趨勢になっていくように思う。これこそ、ローカルの特性と思うのだが。

 実店舗とECとサービスをどうシンクロさせ、ウィズコロナ下のアパレルビジネスが進化するか。不振の中での一筋の光明を見出していきたい。

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アパレルにも三つ星。

2020-07-01 06:32:18 | Weblog
 セレクトショップの「URBAN RESEARCH/アーバンリサーチ」が「7月の商品仕入れを一旦すべて止める」という旨を一部の取引先に通知していた問題。(https://news.yahoo.co.jp/articles/135fd36efc76faeb5f529b0629eb218f79d8861c)

 業界関係者からすれば、今に始まったことではないため、一時的な怒りや憤りはあるにしても、取引の停止を恐れて要求を呑むはずと、白けムードが漂う。しかも、今回は新型コロナウイルス禍という異例の事態でのこと。仕方ないのではとの雰囲気もある。

 ただ、メーカー側としては製造した以上、換金できなければ、それは回収できない売掛金として経営に重くのしかかる。来シーズンまで持ち越してもらえる可能性はあるにせよ、その判断は小売側の一存に左右される。いきなりトレンドが変わると、「やっぱり、仕入れない」と言われることも、無きにしもあらずだ。



 どうしてこんな問題が発生するのか。本来なら取引条件についてきちんと契約を結んでおくべきなのだが、業界の長年の商慣習(営業とバイヤーとのなあなあの関係)により、形骸化しているのである。というか、URBAN RESEARCHのような大手小売業はまとまった数量を発注してくれるし、受注するメーカー側も売上げを取るには、そちらの仕事を受けた方が効率がいい。結果的に発注側が「主」で、受注側は「従」という関係になっていく。

 しかし、そんな取引慣行を続けると、上部だけの付き合いで信頼は生まれず、いつかは関係が破綻する。メーカーが孫請けに発注していれば、そちらにまでしわ寄せがいく。まして商品が売れずに余剰在庫が溢れると、持続可能な社会の実現は不可能だ。今回のように信用調査系のメディアが取り上げたところで、一過性の問題で終わってしまう。共存共栄、ウィンウィンの関係なんて、とうの昔に終わっているのだ。しかし、それでいいわけがない。

 メーカーが従の立場である以上、最終的には法律(民法や下請法に抵触)に頼るしかない。しかし、その前にアパレル事業者が疲弊して調達先が限られてしまえば、小売り側にとっても好ましいことではないだろう。SPAに舵を切ったことで、そもそもの発注量が莫大になり、企画製造への取っ掛かりは1年以上前になっている。それにより売れないケースが出てきて在庫を残すハメになり、次の仕入れにも影響が出る。決してコロナ禍だけが理由ではないのだ。


D2CやC2Mでは解決できない

 すでに小規模なアパレルは、ECの力を借りて小売りを介在させず、直接消費者に商品を届ける「D2C(Direct to Consumer)」に活路を見出そうとしているところもある。ただ、D2Cと言っても、完全受注生産ではないのだから、在庫リスクはメーカー側が持たなければならない。やはり「卸先なしの小売知らず」では、資金繰りに窮するところが出てくる可能性もある。

 それを解決する手法として、インターネットやショールームで、商品サンプルの受注してからデジタル生産や3Dプリンタで素早く生産し、お客に届けるC2M(Customer to Manufactory)も注目されている。だが、ここではこれらのシステム論に救いを求めることへの言及は控えたい。

 むしろ、筆者が提起したいのは、卸と小売り、メーカーと中間業者や工場などの関係を維持したまま、悪しき慣習を変えるにはどうすればいいか、である。だいぶ前から言われている「CSR(企業の社会的責任)」。これを現場サイドでもう少し具体化し、監査体制を強化できるような仕組みに進化させられないものか。

 日本アパレル・ファッション産業協会は、昨年の9月に開催したセミナーで、経営トップがCSRを企業戦略の一環として位置付ける姿勢を示した。また、協会はCSR委員会や工場監査ワーキンググループを立ち上げている。特に外国人技能実習生を雇用する工場について、発注者であるアパレルの対応が問題となっており、「発注者責任」として受注企業(工場等)の労務管理や労働環境、給与など国内法律に準拠しているか、協会は発注者にも管理するように促している。

 欧米のスポーツアパレルの多くが第三者機関による「工場監査」を行っている。ブランドライセンスを取得している日本のアパレルも工場を監査しているが、「監査要求事項」の事項は機関によって様々なのが現状だ。協会では会員企業が統一フォーマットで監査を行えるようCSR工場監査要求事項を作成し、英訳や中訳にも取り組んでいる。

 ただ、肝心な日本国内における大手対下請けの構図は、どうなのか。これについて協会に質問すると、「当団体ではこちら(大手による下請けへの不当な要求)も発注者責任と考えておりますが、CSR工場監査におけるサプライチェーン上の管理監査項目ではなく、下請法に抵触する案件と考えております」と回答した。国内問題ついては社会的責任の追及により、法的解決を向かわざるを得ないという立場のようだ。

 ただ、下請法の対象となるのは、発注元の親事業者が資本金1000万円を超え(3億円以下)、下請けは資本金1000万円以下という規定があり、今回のケースは含まれない(URBAN RESEARCHは資本金1000万円)。後は民法の契約不履行に訴えるしかなく、法的解決も中々容易ではない。だから、メーカーに製造を委託する小売側の発注者責任についても監査というか、業界全体がチェックを厳密にする空気を作り、不公正な取引を要求するところには、企業名を公表するくらいの踏み込んだ措置が必要ではないのかと思う。

 日本アパレル・ファッション産業協会にはどこまでの強制力があるか。また、会員企業である大手セレクトショップなどにしても自社はもちろん、業界の社会的責任について、本当に多面的に考えているのだろうか。結局、寄り合い所帯、仲良しクラブの域を出ないのでは、メーカーと小売り、元請け対下請け、孫請けとの歪な関係を正しい方向に導くことはできず、産業発展や持続可能な社会なんて実現するはずはないのではないか。


アパレルを格付けできないか



 個人的には、アパレル業界でも元請け企業や発注元の「格付け」を行ってもいいのではないかと思っている。ここで言うのは、金融界でいう「投資家の判断材料」という意味ではなく、消費者から下請け業者、取引関係者までの皆に対して公開する、元請け企業や発注元の経営の安全性や信用力を分析、評価した指標のことである。そのランキングというか、「⭐️印」を見れば、取引上優越的な地位にある「アパレルブランド」や「ショップ」、卸し、小売りが本当に真っ当なビジネスを行っているかを誰もが知ることができるというものだ。

 もちろん、欧米アパレルのように格付けが単に証券市場からの資金調達の道具になってはいけないのだが。それが結果的に信頼に値して、安心して取引=購入につながるというバロメーターで、多くのステークホルダーにとって有益となるものにしたい。

 例えば、ユニクロなどを展開するファーストリテイリングは上場企業で、四半期ごとに決算報告をする。しかし、それだけでは企業の真の姿はわからない。ユニクロの国内事業では、2018年8月期で店舗に約3割、国内倉庫に約4割、海外の生産地倉庫に約3割の「在庫」を抱えるとのデータがある。点頭在庫だけを見ても「本当に売り切れるのか」と思ってしまうが、それだけでなく倉庫にも膨大な在庫を積んでいるのだ。

 それらはシーズンをすぎると、余剰在庫として翌シーズンに持ち越されるか、トレンドが変わって売れなければ処分されることになる。SDGsの流れからすれば、やはり逆行することだ。つまり、決算報告やバランスシートだけで企業の有り体をすべて把握し、分析するのは容易ではないということ。ならば、別の角度で企業の真の姿を判断できる材料があってもいいのではないか。

 言い換えれば、いくら売れているブランドでも、いくら知名度をもつショップでも、力関係を背景にして取引先に対し、不当な要求をするのであれば、企業の格なんてダダ下がりで、社会的責任を問われて然るべき。法的解決にまで行かず、玉虫色でフェードアウトする事案があまりに多いのは、健全なビジネス環境とはいえず、業界が衰退する要因にもなる。ならば、格付けがあることにより、多くの利害関係者が真っ当な企業活動を行っているかどうかの判断材料になる。

 格付けが三つ星クラスは健全なビジネスを行なっている。一つ星クラスは経営の面で注意が必要。星なしクラスに下がると、不当な要求があったり、支払いが滞ったりとその企業には何らかの問題があるということ。もちろん、経営を立て直し、是正すれば上がることもある。これは水面下での暴露合戦ではない。企業の安全性や信用度に対し消費者から下請け、孫請けの企業、取引業者までが注目することで、売上げやブランド力に影響を及ぼすのなら、企業は襟を正し、公正な活動に邁進するのではないか。つまり、旧来の慣行を脱して、近代化するのだ。

 それをどこの誰が行うか。金融界の格付けは、複数の専門家が評価する。アパレル版では日本アパレル・ファッション産業協会が任意で選んだ大学教授や信用調査会社、フリーのファッションジャーナリスト、業界OBなどの識者だろうか。特定の企業に対する利害がなく、恣意的な評価にならない面々を選任し、現場から聞き取り調査し裏付けをとる。調査項目も細かく詰める必要があるし、下請けなど弱い立場の企業が専門家に問題を告発できる環境整備も必要になる。

 日本アパレル・ファッション産業協会は、業界の理想ばかりを追求する団体ではないはずだ。アパレルビジネスの陰で、うやむやにされがちな問題にも目を向けて、それを解決に導いていくことも重要である。産業発展も持続可能な社会も、業界に身を置く末端までの事業者の安定無しではなし得ない。もちろん、本当に愛されるブランドやショップとは、健全な企業活動と公正な取引のもとで、醸成されるということを、問う時期に来ているのではないかと思う。
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