今回はアパレルではなく、コンビニ業界について考える。先日、セブンイレブン・ジャパン、ファミリーマート、ローソンの3社がチェーン横断的な「共同物流」の実証実験を行うと、発表したことについてだ。https://news.yahoo.co.jp/articles/a6000e0b63ffb3260d2499fee1b4870de1639fa3
実験概要は以下の通り。東京都内の湾岸エリアにある近接した店舗(セブン‐イレブン13店舗、ファミリーマート13店舗、ローソン14店舗の合計40店舗)に対し、同じトラックで商品の納入を実施するもの。予定期間は8月1日から7日の1週間。江東区にある物流倉庫に共同の物流センターを設置し、各社の「常温配送商品(飲料・菓子・日用雑貨等)」をそれぞれのセンターから移送。FCチェーンを横断し、効率化したルートで配送する。
また、一部の商品は共同物流センターで保管し店舗別にピッキングするなど、共同在庫の可能性も探る。しかし、店舗に配送される商品は他にもある。各社オリジナルの麺類や弁当、惣菜、日配品などの「チルド配送商品(5〜10度)」、アイスクリームや氷菓、冷凍食品といった「冷凍配送商品(−18度以下)」がそれだ。また、今回の実験対象かどうかはわからないが、「パン」も常温か、定温(常時20度)のどちらかで配送されている。
コンビニで日々大量に売れて収益の柱になっているのは食品で、主力はチルド配送商品に他ならない。今の時期なら「冷やし中華」や「ざるそば」「冷やしうどん」などだ。実験とは言え、これらの商品を共同物流センターに移送するとなると、各社の商品情報や開発ノウハウが漏れる恐れがある。それはコンビニ本部として避けたいだろう。
現状、各物流センターから店舗に配送される物量は、各チェーンともチルド配送商品の方が圧倒的に多い。それに踏み込まずして、ほとんどがNBで商品も共通する常温商品を共同配送して、どれほど効率化が図られるのかは甚だ疑問だ。チェーン横断でコンビニ物流の課題に取り組むと言いながら、実質は腰砕けではないかと思ってしまう。
つまり、鍵を握るのは、「食品物流」全体の改革ではないだろうか。効率的なシステムを確立するには、コンビニ本部だけでなく、食品の製造工場やベンダー(納入業者)、運送会社などのマネジメント手法や利害も大きく関わってくる。コンビニ3社は実証実験から得られたデータをもとにコンビニ物流を改革し、CO2排出の削減などSDGsの実現を目指すというが、果たして本当にうまくいくのだろうか。
物流にはベンダー、運送会社も関わる
では、物流の仕組みを見てみよう。筆者がコンビニ業界誌の仕事で知り得た「チルド商品」に限って言えば、大体以下のようになる。まず、コンビニ本部は定期的に麺類やご飯ものを企画開発し、ベンダーに商品製造を依頼する。ベンダーは各地の工場に製造を委託し、注文を受けた商品をコンビニの各店にデリバリーするために、物流会社に商品の集荷から保管、ピッキング、仕分け・出荷、配送までを任せるのだ。
物流会社がもつ物流センターはコンビニ専用で保冷設備をもち、各地域1箇所。ドライバーは物流担当のユニフォームを着用し、トラックもコンビニ専用の保冷車が使われる。店舗は年中無休・24時間営業であるため、麺飯や惣菜などはそれぞれ売れる時期・時間に合わせて製造されセンターに集荷。惣菜や加工食品、日配品もメーカーや卸業者から届けられる。
タイムスケジュールと仕分け作業は以下だ。午前は朝の8時頃までに工場などから商品が運び込まれ、仕分けは業界独特の「摘み取り」と「種まき」で行われる。摘み取りとは、その日の総発注分が入ったカゴ(1つに商品6〜10くらい入る)を予め棚に入れておき、6名から8名のパートスタッフ(ピッカー)が店毎の発注数に応じてピッキングし、カゴに入れていくもの。カゴはローラーコンベアを流れて店別のラベルが掲示され、台車に積み上げられていく。
一方、種まきは段ボールなどに入った総発注分を配送エリア別のラインに並べ、スタッフが商品のバーコードをスキャンして店毎の発注数をピッキングし、店別のカゴに入れていく。摘み取りは麺類や弁当、種まきは加工食品や惣菜、日配品。両者の違いはかごから出すか(摘み取り)、かごに入れるか(種まき)くらいだろうか。だが、共に自動化、ロボット化されているわけではなく、ソフト面は全て人海戦術に頼っているのが現状だ。
台車に積み上げられたカゴは、配送エリア別の搬出口に並べられ、当日勤務のドライバーがトラックに積み込み、午後2時くらいにセンターを出発。夕方のピークに合わせ各店に届けられる。これらが1日3回のローテーションで行われ、時間帯によって商品や物量は変わる。
ベンダーは店舗からの受注、工場への発注、店舗納品の管理を行う。物流センターではパートスタッフのピッキングミスはないか、作業中に商品が破損していないか等々もチェック。ミスが判明すれば出発までに探し出し、破損分は可能なら工場に再度発注して取り寄せ、不可能であれば発注量の多い店舗から融通する。この辺はまだまだアナログだ。
一口にコンビニ物流と言っても、配送以外にもいろんな業務がある。物流会社にとっては、長時間勤務の辛さや交通事故の発生がドライバー不足を生み、物流センターとて深夜勤務では時給1500円以上を払ってもスタッフが定着しない。こうした構造的な問題がコンビニ本部に突きつけられたかたちなのだが、その解決は決して容易ではないと思う。
福岡天神の共同配送は未達
業界は違うが筆者が生活する福岡市でも、1994年に特積みトラック業者36社と地元金融機関4社の共同出資で「天神地区共同輸送」が設立された。これによって物流改革を進め、慢性的な交通渋滞に見舞われていた天神地区の渋滞緩和やCO2の排出を軽減する思惑だったが、こちらもうまくはいっていない。
共同配送を手掛ける専用のトラックは「イエローバード」と呼ばれ、特積み各社は全国から集まる天神向けの荷物を共同輸送の物流センターに持ち込み、そこで方面別に仕分けられた後、イエローバードに積み込まれ、各店に配達。また、店舗から出される荷物は空になったイエローバードが集荷し、特積み各社に引き渡して全国各地に発送される。集配料は荷物一個につき160円。当時の市場価格に比べると、高めの設定だった。
しかし、取扱個数及び参加事業者数は、1996年度の140万個、35社をピークに個数は減少傾向、事業者は横ばいにある。要因はクール便、時間指定、荷物追跡等の宅配サービスの高度化に伴い、参加各社の追跡システムとリンクしておらず、また共配の物流センターを経由することでリードタイムが伸びるために、大手宅配事業者の離脱が進んだのだ。
さらに天神は1999年に西鉄福岡駅ビルが再開発され、タテ持ち物流業者がビル内配送を一括管理することが多い。これに伴い、イエローバードが取り扱っていた荷物については、ビル館内物流事業者に直接引き渡したり、ビルへの一括運搬を行ったりして、取り扱いが減少。さらにイエローバードが館内物流業者として入ろうとしても、契約はデベロッパーと大手物流会社の本社同士で行われているため、参入は容易ではないのである。
イエローバードと同様にコンビニ3社の共同物流に対しても、そもそも各社のセンターから共同の物流センターに運び入れることが本当に効率的なのかってことだ。つまり、コンビニ物流をチェーン横断で一本化するには、ベンダー、物流会社、ドライバー、センタースタッフと、チェーン毎に異なるマネジメント手法にも踏み込んで調整しなければならない。これは簡単なことでないだろう。また一本化されることで人手不足が解消されると考えられるが、どこかの企業やスタッフが仕事を奪われる可能性も出てくる。
それでなくても、コンビニの24時間営業の見直しは、1日3便という配送シフトが崩れることを意味し、ドライバーの間では雇用不安が広がったとの話も聞く。コンビニ各社の経営陣は、そこまでの問題が生じることを念頭において実証実験を行うのか、である。
アパレル業界でも商品の大量生産、大量消費は大量廃棄を生み出すとして槍玉に挙げられているが、縫製工場にとっては一定量のオーダーがなければやっていけない。ベンダーや物流会社とて同じではないか。コンビニにとって、安定的に商品を供給する物流網の維持・構築が重要なのは確かだが、そのインフラを担っている人々の生活もあるのだ。
2018年1月9日付の日本経済新聞に掲載された物流システム企業「トーヨーカネツ」のカラー全面広告では、創業75周年記念のゆるキャラ「ブツリューくん」(https://www.tksl.co.jp/ja/information/2018/20180828.html)が登場し、ローラーコンベア上を流れる箱に乗って「取りに行かないピッキング」を提案している。
これはセンタースタッフが人海戦術でピッキングする「摘み取り」より、ローラーコンベアによる「種まき」での振り分けを自動化した方が処理能力は高いという意味だ。これがコンビニ物流に活用されることはあるのだろうか。少なくとも物流を改革するにはトラック輸送だけでなく、センターにおけるハード整備も関わってくるのは間違いない。果たして、実証実験の結果、コンビニ本部は物流改革にどんな道筋をつけるのだろうか。
実験概要は以下の通り。東京都内の湾岸エリアにある近接した店舗(セブン‐イレブン13店舗、ファミリーマート13店舗、ローソン14店舗の合計40店舗)に対し、同じトラックで商品の納入を実施するもの。予定期間は8月1日から7日の1週間。江東区にある物流倉庫に共同の物流センターを設置し、各社の「常温配送商品(飲料・菓子・日用雑貨等)」をそれぞれのセンターから移送。FCチェーンを横断し、効率化したルートで配送する。
また、一部の商品は共同物流センターで保管し店舗別にピッキングするなど、共同在庫の可能性も探る。しかし、店舗に配送される商品は他にもある。各社オリジナルの麺類や弁当、惣菜、日配品などの「チルド配送商品(5〜10度)」、アイスクリームや氷菓、冷凍食品といった「冷凍配送商品(−18度以下)」がそれだ。また、今回の実験対象かどうかはわからないが、「パン」も常温か、定温(常時20度)のどちらかで配送されている。
コンビニで日々大量に売れて収益の柱になっているのは食品で、主力はチルド配送商品に他ならない。今の時期なら「冷やし中華」や「ざるそば」「冷やしうどん」などだ。実験とは言え、これらの商品を共同物流センターに移送するとなると、各社の商品情報や開発ノウハウが漏れる恐れがある。それはコンビニ本部として避けたいだろう。
現状、各物流センターから店舗に配送される物量は、各チェーンともチルド配送商品の方が圧倒的に多い。それに踏み込まずして、ほとんどがNBで商品も共通する常温商品を共同配送して、どれほど効率化が図られるのかは甚だ疑問だ。チェーン横断でコンビニ物流の課題に取り組むと言いながら、実質は腰砕けではないかと思ってしまう。
つまり、鍵を握るのは、「食品物流」全体の改革ではないだろうか。効率的なシステムを確立するには、コンビニ本部だけでなく、食品の製造工場やベンダー(納入業者)、運送会社などのマネジメント手法や利害も大きく関わってくる。コンビニ3社は実証実験から得られたデータをもとにコンビニ物流を改革し、CO2排出の削減などSDGsの実現を目指すというが、果たして本当にうまくいくのだろうか。
物流にはベンダー、運送会社も関わる
では、物流の仕組みを見てみよう。筆者がコンビニ業界誌の仕事で知り得た「チルド商品」に限って言えば、大体以下のようになる。まず、コンビニ本部は定期的に麺類やご飯ものを企画開発し、ベンダーに商品製造を依頼する。ベンダーは各地の工場に製造を委託し、注文を受けた商品をコンビニの各店にデリバリーするために、物流会社に商品の集荷から保管、ピッキング、仕分け・出荷、配送までを任せるのだ。
物流会社がもつ物流センターはコンビニ専用で保冷設備をもち、各地域1箇所。ドライバーは物流担当のユニフォームを着用し、トラックもコンビニ専用の保冷車が使われる。店舗は年中無休・24時間営業であるため、麺飯や惣菜などはそれぞれ売れる時期・時間に合わせて製造されセンターに集荷。惣菜や加工食品、日配品もメーカーや卸業者から届けられる。
タイムスケジュールと仕分け作業は以下だ。午前は朝の8時頃までに工場などから商品が運び込まれ、仕分けは業界独特の「摘み取り」と「種まき」で行われる。摘み取りとは、その日の総発注分が入ったカゴ(1つに商品6〜10くらい入る)を予め棚に入れておき、6名から8名のパートスタッフ(ピッカー)が店毎の発注数に応じてピッキングし、カゴに入れていくもの。カゴはローラーコンベアを流れて店別のラベルが掲示され、台車に積み上げられていく。
一方、種まきは段ボールなどに入った総発注分を配送エリア別のラインに並べ、スタッフが商品のバーコードをスキャンして店毎の発注数をピッキングし、店別のカゴに入れていく。摘み取りは麺類や弁当、種まきは加工食品や惣菜、日配品。両者の違いはかごから出すか(摘み取り)、かごに入れるか(種まき)くらいだろうか。だが、共に自動化、ロボット化されているわけではなく、ソフト面は全て人海戦術に頼っているのが現状だ。
台車に積み上げられたカゴは、配送エリア別の搬出口に並べられ、当日勤務のドライバーがトラックに積み込み、午後2時くらいにセンターを出発。夕方のピークに合わせ各店に届けられる。これらが1日3回のローテーションで行われ、時間帯によって商品や物量は変わる。
ベンダーは店舗からの受注、工場への発注、店舗納品の管理を行う。物流センターではパートスタッフのピッキングミスはないか、作業中に商品が破損していないか等々もチェック。ミスが判明すれば出発までに探し出し、破損分は可能なら工場に再度発注して取り寄せ、不可能であれば発注量の多い店舗から融通する。この辺はまだまだアナログだ。
一口にコンビニ物流と言っても、配送以外にもいろんな業務がある。物流会社にとっては、長時間勤務の辛さや交通事故の発生がドライバー不足を生み、物流センターとて深夜勤務では時給1500円以上を払ってもスタッフが定着しない。こうした構造的な問題がコンビニ本部に突きつけられたかたちなのだが、その解決は決して容易ではないと思う。
福岡天神の共同配送は未達
業界は違うが筆者が生活する福岡市でも、1994年に特積みトラック業者36社と地元金融機関4社の共同出資で「天神地区共同輸送」が設立された。これによって物流改革を進め、慢性的な交通渋滞に見舞われていた天神地区の渋滞緩和やCO2の排出を軽減する思惑だったが、こちらもうまくはいっていない。
共同配送を手掛ける専用のトラックは「イエローバード」と呼ばれ、特積み各社は全国から集まる天神向けの荷物を共同輸送の物流センターに持ち込み、そこで方面別に仕分けられた後、イエローバードに積み込まれ、各店に配達。また、店舗から出される荷物は空になったイエローバードが集荷し、特積み各社に引き渡して全国各地に発送される。集配料は荷物一個につき160円。当時の市場価格に比べると、高めの設定だった。
しかし、取扱個数及び参加事業者数は、1996年度の140万個、35社をピークに個数は減少傾向、事業者は横ばいにある。要因はクール便、時間指定、荷物追跡等の宅配サービスの高度化に伴い、参加各社の追跡システムとリンクしておらず、また共配の物流センターを経由することでリードタイムが伸びるために、大手宅配事業者の離脱が進んだのだ。
さらに天神は1999年に西鉄福岡駅ビルが再開発され、タテ持ち物流業者がビル内配送を一括管理することが多い。これに伴い、イエローバードが取り扱っていた荷物については、ビル館内物流事業者に直接引き渡したり、ビルへの一括運搬を行ったりして、取り扱いが減少。さらにイエローバードが館内物流業者として入ろうとしても、契約はデベロッパーと大手物流会社の本社同士で行われているため、参入は容易ではないのである。
イエローバードと同様にコンビニ3社の共同物流に対しても、そもそも各社のセンターから共同の物流センターに運び入れることが本当に効率的なのかってことだ。つまり、コンビニ物流をチェーン横断で一本化するには、ベンダー、物流会社、ドライバー、センタースタッフと、チェーン毎に異なるマネジメント手法にも踏み込んで調整しなければならない。これは簡単なことでないだろう。また一本化されることで人手不足が解消されると考えられるが、どこかの企業やスタッフが仕事を奪われる可能性も出てくる。
それでなくても、コンビニの24時間営業の見直しは、1日3便という配送シフトが崩れることを意味し、ドライバーの間では雇用不安が広がったとの話も聞く。コンビニ各社の経営陣は、そこまでの問題が生じることを念頭において実証実験を行うのか、である。
アパレル業界でも商品の大量生産、大量消費は大量廃棄を生み出すとして槍玉に挙げられているが、縫製工場にとっては一定量のオーダーがなければやっていけない。ベンダーや物流会社とて同じではないか。コンビニにとって、安定的に商品を供給する物流網の維持・構築が重要なのは確かだが、そのインフラを担っている人々の生活もあるのだ。
2018年1月9日付の日本経済新聞に掲載された物流システム企業「トーヨーカネツ」のカラー全面広告では、創業75周年記念のゆるキャラ「ブツリューくん」(https://www.tksl.co.jp/ja/information/2018/20180828.html)が登場し、ローラーコンベア上を流れる箱に乗って「取りに行かないピッキング」を提案している。
これはセンタースタッフが人海戦術でピッキングする「摘み取り」より、ローラーコンベアによる「種まき」での振り分けを自動化した方が処理能力は高いという意味だ。これがコンビニ物流に活用されることはあるのだろうか。少なくとも物流を改革するにはトラック輸送だけでなく、センターにおけるハード整備も関わってくるのは間違いない。果たして、実証実験の結果、コンビニ本部は物流改革にどんな道筋をつけるのだろうか。