この春、天神の一角に新しいファッションビルがオープンする。福岡パルコだ。岩田屋が破綻して数年、
天神交差点の一角なのに、ずっと空き店舗のまま放置されていた旧本館跡地の再開発としてである。
岩田屋が経営危機を迎えた1999年、本館はとなりの新館などともに第一高校を運営する都筑学園が買収。
その額は200億円と言われ、都筑総長がポケットマネーをポンと出したことで、国税のマルサに目をつけら
れるオマケまで付いたいわくの物件だ。
新館には同グループの専門学校が入居し、1階はスターバックスとしてリニューアルされたが、本館は空
き店舗のまま放置され続けた。一時はロフトが入るというニュースも流れたが、家賃交渉でもめて立ち消え。
今日まできてしまったというのが経緯だ。
阪神淡路大震災以降、建築基準が変わり、福岡でも2003年に福岡西方沖地震が発生したことで、新たに
開業する商業ビルは単なる居抜き物件では済まされなくなった。改装工事では耐震基準をクリアしなければ
ならず、どうしても建設コストが嵩んでしまう。
ファッションビルを運営するデベロッパーの場合、初期投資の建設コストはイニシャルコストに加え、テ
ナント保証金で按分する。運営管理費や販促費は各テナントからの家賃収入で賄えるし、売上げの上がらな
いテナントは入れ替えればいいのだから、デベロッパーは永遠に儲かるという仕組みだ。おそらく、パルコ
の場合もこのビジネスモデルと大差ないなずである。
ところが、耐震構造となると建築コストが嵩み、初期投資は増加する。その分、イニシャルコストがかか
り、保証金はアップ。ただじゃなくても、福岡はオーバースストア気味だ。進出して有り余る売上げが確保
でき、早期に出店の初期投資が回収できるとは、どのテナントも思ってないはずだ。
しかも、来年は新博多駅が開業し、駅ビルのアミュプラザもオープンする。テナントリーシングの綱引き
は熾烈を極めている。すでに1月には入居テナントのスタッフ募集の合同企業説明会が開催されたが、期待
できるほどのブランドやテナントは集まっていなかった。
パルコ側も天神ファッション市場の成熟を予測してか、雑貨や飲食のテナントを強化したと、プレスプレ
ビューで発表。その分、「文化イベント事業」に力を入れ、アジアからの集客を見込むと、苦しい胸の内を
吐露した。
思えば、なぜ、今さらパルコなのか。そもそもパルコは東京・池袋の駅ビルが前身。「ダサイケブクロ」
と揶揄されていた池袋の西武百貨店が若者の心をつかもうと渋谷に進出。公園通りに面した場所に開業する
ことで、伊語で公園を意味する「PARC」から命名した。
その後、拡大の一途をたどった西武セゾングループは、グループ内の広告代理店I&Sと組んでカルチャー
とアートを融合させた戦略を構築。イラストレーターの山口はるみやアートディレクターの石岡瑛子、編集
者の榎本了壱、コピーライターの糸井重里など、当時としては気鋭のクリエーターを起用したクリエイティ
ブ戦略で、渋谷=セゾン文化を作り上げていった。その中核にパルコがあったのは言うまでもない。
「意味がわからない」が印象に残るCMやポスターを作りたい。グラフィックデザイナーやイラストレー
ターを目指す若者が増えたのも、パルコのクリエイティブワークが影響したのは強ち否定できない。
何を隠そうこの私も高校時代にはパルコのCMで衝撃を受け、大学時代から20代前半にかけては渋谷パル
コで買ったDCブランドを着用し、フリーペーパーのゴメスを愛読していた。つまり、パルコやセゾン文化
の影響を色濃く受けたのは、ファッションや広告を中心に仕事をしてきた50代前半世代である。
ところが、パルコはバブル崩壊後、セゾングループの凋落とともに勢いを失った。ラフォーレ原宿を運営
する森ビルグループの森トラストに買収されて以降は、単なる商業デベロッパーの域を出ず、精彩を欠いて
いる。渋谷の街の通行客数に対して、大型商業施設の入館客数が少ないのがパルコ低迷を象徴している。
それだけに今日日の若者がパルコが進出するからといって、飛びつくとは思えない。おまけに入居するフ
ァッションテナントも九州初上陸、福岡初進出などと冠はついているものの、若者間では周知のものばかり。
H&Mやアバクロ、フォーエバー21ならともかくである。おまけにセレブカジュアル「キットソン」は、フ
ァーストリテイリング傘下のミーナ天神に持って行かれている。黙っていてもパルコに有名テナントが入っ
てくれるという時代は終わったのである。おそらくこれには堪えただろう。 天神界隈を歩く若者にとっても
もはやパルコというブランドなんか、たいした価値はないのである。
おそらく、合同企業説明会に集まったのは、就職が厳しい大学生や専門学校生。不況の中、とりあえず就
職したはいいが、転職を希望する第二新卒。まあ天神で働ければラッキーかといったノー天気な連中等々。
パルコの歴史やセゾン文化など全くご存じないか、今のファッションマーケットについて無知な若者たちと
言わざるを得ない。
そんな彼らが競争が激化する天神マーケットで、到底テナントの売上げを積んでいけるとは思えない。そ
れはパルコ側もある程度は織り込み済みのようで、年間の売上げ目標を120億円程度に下げている。だが、
一つ解せないのは、開業キャンペーンと位置づけている「福岡アジアコレクション(FACo)×PARCO」と
銘打ったコラボ企画である。
3月のコレクションイベントとタイアップして、「PARCOシンデレラガールコンテスト」を開催。モデ
ルになりたい女の子を日本と韓国で募集し、コレクションを最終選考会の場としてパルコシンデレラガー
ルを決めると言うのだ。
モデルだろうが、その後にタレントに転向しようが、そんなことに何の興味もないが、問題は福岡アジ
アコレクションがその舞台を提供することである。このコラムでも過去に何度か書いたが、同コレクショ
ンは福岡のファッションの情報発信や人材の育成を目的に行なわれるものだ。
そこには「公的な意味合い」があるために、福岡県が巨額な税金を拠出している。しかし、「パルコ」
はあくまで「一私企業」である。その開業キャンペーンに公金を使う事業が協業できるのだろうか。
県や商工会議所の関係者がこの企画に同意したとすれば、明らかに問題があると言わざるを得ない。そ
して2年目に入ったFACo自体も事業の本質、本来の目的から大きく外れてきている。そこにはコレクショ
ンに関わる放送局やイベント会社、芸能プロダクションなどの思惑が透けて見える。そう感じるのは、決
して私だけではないはずである。
天神交差点の一角なのに、ずっと空き店舗のまま放置されていた旧本館跡地の再開発としてである。
岩田屋が経営危機を迎えた1999年、本館はとなりの新館などともに第一高校を運営する都筑学園が買収。
その額は200億円と言われ、都筑総長がポケットマネーをポンと出したことで、国税のマルサに目をつけら
れるオマケまで付いたいわくの物件だ。
新館には同グループの専門学校が入居し、1階はスターバックスとしてリニューアルされたが、本館は空
き店舗のまま放置され続けた。一時はロフトが入るというニュースも流れたが、家賃交渉でもめて立ち消え。
今日まできてしまったというのが経緯だ。
阪神淡路大震災以降、建築基準が変わり、福岡でも2003年に福岡西方沖地震が発生したことで、新たに
開業する商業ビルは単なる居抜き物件では済まされなくなった。改装工事では耐震基準をクリアしなければ
ならず、どうしても建設コストが嵩んでしまう。
ファッションビルを運営するデベロッパーの場合、初期投資の建設コストはイニシャルコストに加え、テ
ナント保証金で按分する。運営管理費や販促費は各テナントからの家賃収入で賄えるし、売上げの上がらな
いテナントは入れ替えればいいのだから、デベロッパーは永遠に儲かるという仕組みだ。おそらく、パルコ
の場合もこのビジネスモデルと大差ないなずである。
ところが、耐震構造となると建築コストが嵩み、初期投資は増加する。その分、イニシャルコストがかか
り、保証金はアップ。ただじゃなくても、福岡はオーバースストア気味だ。進出して有り余る売上げが確保
でき、早期に出店の初期投資が回収できるとは、どのテナントも思ってないはずだ。
しかも、来年は新博多駅が開業し、駅ビルのアミュプラザもオープンする。テナントリーシングの綱引き
は熾烈を極めている。すでに1月には入居テナントのスタッフ募集の合同企業説明会が開催されたが、期待
できるほどのブランドやテナントは集まっていなかった。
パルコ側も天神ファッション市場の成熟を予測してか、雑貨や飲食のテナントを強化したと、プレスプレ
ビューで発表。その分、「文化イベント事業」に力を入れ、アジアからの集客を見込むと、苦しい胸の内を
吐露した。
思えば、なぜ、今さらパルコなのか。そもそもパルコは東京・池袋の駅ビルが前身。「ダサイケブクロ」
と揶揄されていた池袋の西武百貨店が若者の心をつかもうと渋谷に進出。公園通りに面した場所に開業する
ことで、伊語で公園を意味する「PARC」から命名した。
その後、拡大の一途をたどった西武セゾングループは、グループ内の広告代理店I&Sと組んでカルチャー
とアートを融合させた戦略を構築。イラストレーターの山口はるみやアートディレクターの石岡瑛子、編集
者の榎本了壱、コピーライターの糸井重里など、当時としては気鋭のクリエーターを起用したクリエイティ
ブ戦略で、渋谷=セゾン文化を作り上げていった。その中核にパルコがあったのは言うまでもない。
「意味がわからない」が印象に残るCMやポスターを作りたい。グラフィックデザイナーやイラストレー
ターを目指す若者が増えたのも、パルコのクリエイティブワークが影響したのは強ち否定できない。
何を隠そうこの私も高校時代にはパルコのCMで衝撃を受け、大学時代から20代前半にかけては渋谷パル
コで買ったDCブランドを着用し、フリーペーパーのゴメスを愛読していた。つまり、パルコやセゾン文化
の影響を色濃く受けたのは、ファッションや広告を中心に仕事をしてきた50代前半世代である。
ところが、パルコはバブル崩壊後、セゾングループの凋落とともに勢いを失った。ラフォーレ原宿を運営
する森ビルグループの森トラストに買収されて以降は、単なる商業デベロッパーの域を出ず、精彩を欠いて
いる。渋谷の街の通行客数に対して、大型商業施設の入館客数が少ないのがパルコ低迷を象徴している。
それだけに今日日の若者がパルコが進出するからといって、飛びつくとは思えない。おまけに入居するフ
ァッションテナントも九州初上陸、福岡初進出などと冠はついているものの、若者間では周知のものばかり。
H&Mやアバクロ、フォーエバー21ならともかくである。おまけにセレブカジュアル「キットソン」は、フ
ァーストリテイリング傘下のミーナ天神に持って行かれている。黙っていてもパルコに有名テナントが入っ
てくれるという時代は終わったのである。おそらくこれには堪えただろう。 天神界隈を歩く若者にとっても
もはやパルコというブランドなんか、たいした価値はないのである。
おそらく、合同企業説明会に集まったのは、就職が厳しい大学生や専門学校生。不況の中、とりあえず就
職したはいいが、転職を希望する第二新卒。まあ天神で働ければラッキーかといったノー天気な連中等々。
パルコの歴史やセゾン文化など全くご存じないか、今のファッションマーケットについて無知な若者たちと
言わざるを得ない。
そんな彼らが競争が激化する天神マーケットで、到底テナントの売上げを積んでいけるとは思えない。そ
れはパルコ側もある程度は織り込み済みのようで、年間の売上げ目標を120億円程度に下げている。だが、
一つ解せないのは、開業キャンペーンと位置づけている「福岡アジアコレクション(FACo)×PARCO」と
銘打ったコラボ企画である。
3月のコレクションイベントとタイアップして、「PARCOシンデレラガールコンテスト」を開催。モデ
ルになりたい女の子を日本と韓国で募集し、コレクションを最終選考会の場としてパルコシンデレラガー
ルを決めると言うのだ。
モデルだろうが、その後にタレントに転向しようが、そんなことに何の興味もないが、問題は福岡アジ
アコレクションがその舞台を提供することである。このコラムでも過去に何度か書いたが、同コレクショ
ンは福岡のファッションの情報発信や人材の育成を目的に行なわれるものだ。
そこには「公的な意味合い」があるために、福岡県が巨額な税金を拠出している。しかし、「パルコ」
はあくまで「一私企業」である。その開業キャンペーンに公金を使う事業が協業できるのだろうか。
県や商工会議所の関係者がこの企画に同意したとすれば、明らかに問題があると言わざるを得ない。そ
して2年目に入ったFACo自体も事業の本質、本来の目的から大きく外れてきている。そこにはコレクショ
ンに関わる放送局やイベント会社、芸能プロダクションなどの思惑が透けて見える。そう感じるのは、決
して私だけではないはずである。