HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

もう裸にカシミア。

2024-09-25 06:46:51 | Weblog
 気象庁は9月24日、沖縄地方を除く全国各地で9月30日頃から向こう2週間の気温がかなり高くなる可能性があると、早期天候情報を出した。これによると北海道、東北、関東甲信、北陸、東海、近畿、中国、四国、九州と、沖縄奄美を除く全国で9月30日頃からかなりの高温になる予想。熱中症についても9月後半、京都府と沖縄では厳重警戒、関東甲信から九州の広い範囲で警戒だ。各地とも日によっては厳重警戒ランクになる可能性があるから、熱中症対策はまだまだ続けないといけないようだ。

 そこで暑さと衣服の関係はどうか。アパレル業界では8月下旬になると、秋物を少しずつ売場に展開する。こうしたMDスケジュールは、筆者が仕事を始めた1980年代から変わってはいない。背景にはトレンド情報の一つ、マーケット情報を発信する有力雑誌メディア(国内ファッション誌)の存在がある。ファッション誌は実際の月より一月前倒しで発行する。全誌面が秋物一色になるのは10月号で、発行日は8月末だ。読者である消費者の中には、このトレンド情報に触発されて秋物を探し始める。店頭もそれに合わせたMDを組むわけだ。

 かつてデザイナーズブランドの店舗では、スタッフが広告塔の役割を果たすので、9月に入ると秋物を着て接客に当たっていた。当然、顧客は先買いするので、9月の下旬になると多少暑くてもトレンドの服に身を包んでいた。もっとも、肌感覚では今よりはるかに涼しかったし、朝夕もぐんと気温が下がっていたため、我慢できないほどではなかった。特に東京は渋谷をはじめ、銀座や新宿と店頭が秋色一色になっていたので、待ち行く人々も「流行に遅れない」とのテンションになり、我先にと秋物を纏う傾向は強かったように記憶する。



 あれから40年。トレンド情報の発信も、店頭のMDスケジュールもそれほど変わっていない。しかし、気候は激変してしまった。毎年のように暖冬は当たり前で、熱射病は熱中症に名前を変えた。気象協会は厳重警戒という注意報まで加えている。仮にトレンドの秋冬物を先買いをしても、流石に9月下旬から着こなすことは不可能だ。痩せ我慢というレベルをはるかに超え、着れば身体への影響は免れないと言ってもいい。むしろ逆に「秋色清涼」「クールダウン」「コールドテック」などの企画で、機能性衣料を押し出す方がピンと来てしまう。

 その意味では、素材開発も行われていると思うが、3シーズンを通じて通気性・速乾性にすぐれたものが必須になるのではないか。数年前からヒットしているファン付きウェア(空調服)の冬版が開発される日も遠くないのかもしれない。ほぼ一年中、防寒素材を必要としない気候なのだから、たまたまその日が低音なら「温風ファン」を使えば良いわけだ。まあ、熱源をどうするか、火傷や出火への対応などの課題は置いといても、夢グループなんかが開発してテレビ通販で売り出せば、ヒットの可能性はありだろう。

 ある熱中症の調査(熱ゼロ研究レポート)では、屋外環境で作業する人の衣服内気温や相対湿度、快適感などがどのように変化するか。ファン付きウェアを着用し、その効果を検証している。空調服で外から取り入れられた空気は、服と体の間を流れる過程で汗を気化させ、水蒸気を外に放出するので、汗が気化しやすい状態を保ちやすくなる。ならば、温風ファン付きウエアはこの逆になるのではないか。服に取り入れられた暖気は、服と体の間を流れる過程で空気の層を作り、体の体温を保つという原理である。

 屋外作業をする人々は、厚着をすると作業がしにくいと感じるだろう。だから、温風ファンがあれば、軽装で作業できるという発想だ。そうした機能を軽めのアウターに仕込むというのも「シャレ」が効いて面白いのかもしれない。ファッションでは何でもありのニューヨークでは、厳冬ならシャレの延長線上で、ストリートファッションになりそうな気もするが。


Tシャツライクのウールニットがあれば

 多少、空想気味の話になってきたので、現実に立ち返って考えてみよう。夏場にTシャツが着心地が良いのは、天竺やインターロック、フライスなどの織地が薄くて通気性に優れ、なめらかな肌触りであるからだ。厚手のスウェットになると、生地の表面は天竺編みでも裏側がパイル状にしたり、裏毛の編みを毛羽立たせているので保温性が高まる。暑秋、暖冬が続いていることで、これらのアイテムが通年で売れているのも納得がいく。ただ、カジュアル色、ストリートのテイストが強いので、オフィシャルには不釣り合いだ。

 Tシャツのような心地いい肌触りで、秋冬のタウンユースに向くアイテムになると、やはり梳毛ニットになる。ここ数年は、量販SPAを中心に「メリノウール」がカテゴライズ化されているが、女性からは着ると「チクチクする」との意見は少なくない。この原因は以下のようなものがある。繊維が太く固いものが多いため、肌を刺激してしまう。タートルネックのようにフィットするものは、どうしても皮膚が薄い首を刺すような感触になる。女性では肌が乾燥しがちな人も多く、摩擦や刺激によって肌が過敏になってしまう。



 心地良い肌触りで、オフィシャルを兼ねたタウンユースになると、やはりカシミアに勝るものはない。原料となるカシミア山羊の毛は、繊維が細くしなやかなので、肌触りの柔らかさ・刺激のなさを求める人にはもってこいだ。そのため、ブランドメーカーや大手プラットフォーマーが運営する通販サイトでは、一般のニットとは完全に分けて公開するところが増えている。ユニクロも24年秋冬では、暖冬になることを予測して初秋から梅春までシーズンを跨いで着られる服を強化するとの一環で、カシミアを打ち出した。



 カシミアは原料となるカリミア山羊の毛が希少なため、一般の羊毛よりも値段が高く高級品のイメージがある。だが、虫除けなどのケアさえ十分にやっておけば、劣化はしにくく長期にわたって着用できるという利点もある。ユニクロでは、そんなカシミアの価格を改定し、メンズ、レディスともに9990円均一(税込み)にすることで需要喚起を狙うようだ。プロモーション用の写真を見ると、クルーネック、ターツネック、Vネックの長袖しかなかったので、デザイン的には変わり映えしないと思った。

 念の為にサイトをチェックすると、レディスではクレア・ワイト・ケラーが手がけるユニクロCの企画としてクルーネックには、ショートセーターの「ノースリーブ」(6990円)や「ショートカーディガン」(10900円)、「リラックスVネック」(12900円)もラインナップ。つまり、同色のノースリーブとショートカーディガンを重ね着すると、「アンサンブル」として着こなせるわけだ。昨年の企画を確認していないので、すでに登場していたのかもしれないが、ニットでは肌触りが良いカシミアだからこそ、組み合わせがきく。着こなしに変化がつけられる点で、売れる可能性もグンと高まる。その点をユニクロも考えたのだろう。

 レディスではカシミアは1枚ものよりもアンサンブルの方が秋口や春先にも着れるので実用性が高い。暑ければカーディガンを脱げばいいし、肌寒いと袖を通さずに羽織ってもいいからだ。組織、編み地に変化はないが、何より高級素材だから、アンサンブルは過去からずっとコンサバな「小マダム」イメージを作り上げてきた。1980年代にはブランド「ピエール・バルバン」の定番企画で、カーディガンには金メッキのボタンがついたサロンブティックや高級レディス専門店の売れ筋商材となっていた。

 それが40年の時を経て、グローバルSPAのユニクロが企画するようになったわけだ。確かに価格は高く、ユニクロでも1万円前後だが、一度着てみるとずっと着ていたいほどハマってしまう。だが、時代が変わっても、肌触りが良いカシミアには安定したニーズがあるのは間違いない。それがカシミアの魅力でもある。ユニクロ側も長く着られるアイテムを拡充するとの方針を打ち出していることからも、暑秋・暖冬傾向の一押しアイテムに位置付けているのではないかと思う。



 惜しむらくは、メンズ向けの企画として「カシミアのTシャツ」を企画してくれないかと思っている。肌触りが良いから裸で着られ、秋冬から春までの3シーズンをずっと過ごせるような企画だ。ヒートテックにアレルギーを持つ人も少なくないと思うので、機能性肌着以上の革命を起こせるのではないか。かつてジョルジオ・アルマーニが一年を通してきていたTシャツがカシミアだった。ならば、ユニクロでも企画できないことはないと思うのだが。ニットは必要ないが、Tシャツなら買って着てみたいと思う。

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リ・デザインが擽る。

2024-09-18 06:45:07 | Weblog
 9月も半ばを過ぎたが、残暑は収まりそうもない。これでは秋物どころか、冬物の売れ行きに影響を与えるのは確実だ。というか、例年のように9月に入っても高温が続いているのだから、メーカーも小売りも企画の段階から完全に考え直し始めている。色は別にしても素材やデザインを見直し、暑秋、暖冬を前提にした軽めのものにシフトしている。仮に寒くなった時は、インナーに梳毛のニットを着てもらうなどのレイヤードで乗り切る。少しでも着膨れを抑えるスタイルにするしかないだろう。

 暑秋、暖冬への企画の摺り寄せは、傍流では少しずつ始まっている。10年ほど前だったか。端境期に「ジレ」(Gilet、フランス語でベスト)のロングタイプが登場した。トップスとボトムスだけではカジュアル過ぎるが、ジャケットを羽織るには暑い。そこで、合わせるアウターを襟なし袖なしのコート丈にして、街着として着こなせるようにしたのがジレだ。透かし編みやジャカード織などがあったと記憶する。今では夏場のアイテムでも定着し、近年では立ちポーズでニュース原稿を読むテレビキャスターが着ているのを見かける。冷房が効いたスタジオ内ではファッション性だけでなく、体温維持には有効なのだろう。



 また、2015年くらいには、アウターで「コーディガン」が流行した。こちらはコートとカーディガンを組み合わせた造語。英語のカーディガンも前合わせだから、フランスではメーカーによってジレの範疇に入れているところもある。素材はニットやダブルジャージ、ダブルフェイスがあり、スポーティ&スリムなシルエットで着膨れもしない。ボタン無しものは着脱が容易で、軽く羽織れるところが人気に火をつけたようだ。ニットオンニットの着こなしでは保温効果が高まるため、暖冬が続く九州では真冬の1~2月でも着ている人を見かけた。秋冬シーズンを通したアイテムになったのは確かだ。



 メンズではコットンニットの前身頃や肩を中綿仕様(キルティング)に切り替えたジップアップがあった。リンキングの過程で、左右の前身頃と両肩を布帛にしたものだったと思う。冬に入っても高温が続けば、ウールよりもコットンの方が肌触りはいい。ただ、キルティングなら風が冷たくなっても寒さよけにはなる。その後、前身頃を硬めのコットンギャバに切り替えたものも登場した。インナーにロンTや保温肌着を着れば、ジップアップだからジャケット感覚でも着られる。アウターにダウンやレザーを合わせられるから、秋冬を引っ張れるアイテムとして企画されたと思う。黒だけでなくブライトカラーを作れば、シーズンレスになる。
 
 ニットの切り替え仕様では、ウールとレザーのものも登場している。こちらはタートルのニットをベースの前身頃をレザーに切り替えたダブルジップ仕様だった。確かレザーアイテムに強いイタリアのラグジュアリーブランドが「Wool And Leather Cardigan」というアイテム名で企画したものではなかったかと記憶する。素材はピュアヴァージンウールとラムレザーの組み合わせ。デザインとしては特に目新しいものではないが、素材使いという点では確かにラグジュアリーブランドが企画しそうである。

 小規模なレザーメーカーでも、同様の企画をしたところもある。やはり肌触りにこだわってウール部分をカシミヤにし、革の部分は柔らかいラムレザーだった。カシミヤをわざわざ海外まで調達に出かけたという話も聞いた。こちらは端境期向けのアウターというより、カーディガンの延長線にあるようなアイテムかと。また、レザーはどうしてもライダースなどアウター企画が固定化しているので、目先を変える意味でもチャレンジしたのではないか。メンズアイテムは定番のデザインが多いので、遊びのあるデザインを企画すれば、暑秋、暖冬であっても着てみようという気にさせるのではないかと思う。

 デザイナーズブランドは顧客の先買いで持っている。デザインや生地調達の段階からデザイナーが作りたいものを重視するきらいがあるので、暑秋、暖冬をそれほど意識はしていない。ただ、これだけ暑いと、気温に合わせた企画をいかにクリエイティビティに仕上げるかも、デザイナーの腕の見せ所ではないかと思う。気温に合わせた素材の選定や暑さを凌ぐ工夫などが求められるわけだ。日本はその昔、中国から着物が渡来しても、温暖湿潤の気候に合わせて袖口を大きく広げたり、襟足をV字下げたりして暑さ対策を施してきた。デザイナーズブランドにも、異常気象に対する工夫=クリエイティビティも必要ではないかと考える。


ジェケット以上コート未満の企画



 2024年秋冬のレディスものの展示会では、一気に広がりそうなのがジャケットとコートの中間に位置付けられる「ジャコット」。こちらも暖冬傾向が続くと予想される中で、コードほどは重たくなく、ジャケットよりも防寒機能を充実させる企画としては、定番になりそうな予感がする。これまでにもロングジャケットとか、ライトコートと呼ばれていたこともある。暖冬が続くのは間違いなさそうだから、ネーミングの目新しさがメディアで取り上げられると、ヒットアイテムに躍り出ることはありそうだ。

 一例を挙げると、中綿入りのツィードやナイロン、段ボールニットを使って企画したメーカーがある。やはりライトメードでありながら、寒くなっても暖かさは提供できる。メンズの切り替えニットと同じように中綿は防寒になるし、段ボールニットも空気の層ができるので蓄熱性や保温力が増す。素材の限界を超えて仕上げたのがボンデッドのジャコットを作り上げたところもある。肉厚を捨ててライトメードにこだわる上で、ハリ感を出す意味でボンディングにたどり着いたのだろう。アウターなら型崩れしないことも条件になる。

 レディスの重衣料ではメンズと違い、いろんな素材が使われてきた。メーカー各社は暖冬傾向が強まってからは、コートはウール系のオーバーからポリエステル混紡など軽めにしたライトメードにシフト。さらに素材にオイルコーティングを施したり、ライナーをつけて防寒対策にしたりと工夫を凝らしたこともあった。近年はデザイナーズブランド全盛期にも企画されていたダウンコートがリバイバルしている。ただ、どれもマイナーチェンジの域を出ず、デザインとしても目新しさは欠いていた。



 やはり、使える素材は次々と新しいものが開発され、デッドストックを加える無尽蔵にある。また、異素材を貼り合わせる「ボンデッド」や色に変化をつける「グラデーション」処理を施すなどの加工法もあり、ジャコットという名称だけでなく素材のバリエーションで目新しさを出していくのも一つの手だろう。先日のコラムにも書いたが、毛皮やファーはフェイクであっても名称使用の規定はない。見た目は毛足の長くて毛皮っぽいが、ポリエステル素材のシャギーもあり、それを使用したジャコットを企画したメーカーもある。

 海外メーカーでは、ポリエステル素材のシャギーを使用しても、フェイクではなく「Fuzzy Coat」の名称をつけたものがある。動物愛護の観点から毛皮衣料への根づいよい反感が強いこともあるが、かといってフェイクをつけるにも抵抗があることからファジー(曖昧な)をつけたのではないかと見られる。業界でいうファジーは、服飾分類に当てはまらない中間の要素を持つアイテムで使われる。だが、気候変動で暑秋、暖冬という環境を考えると、オーバーシーズン&ゾーニングという意味にも合致するかもしれない。

 9月に入って秋冬物について語ってもあまり意味はないと言われそうだが、売場を見るとそれほど目を引くようなアイテムはない。商品の動きがイマイチなら、やはり来シーズンに向けて検討の余地はある。どうしてもリアルクローズで無難な路線をいきたくなるが、やはりレディスはデザインや素材で変化をつけないと、シーズン鮮度が強調されない。買い手にとっても面白くないのだ。暑さが続けば、スタイリング提案も説得力を欠くので、キーになるアイテムで仕掛けていくことが重要ではないか。

 メンズでも洋服好きは秋冬はヘビーな重衣料をかっこよく着こなしたい。気温に関係なく背筋がピンと伸びるアウターを欲するのも確かだ。そう考えると、暑秋、暖冬ではコットン系の素材がカギになると思う。トレンチコートが時代を超えて愛されているのは、風除けのダブルブレスト、顎を覆って寒さを凌ぐチン・ウォーマー、ガンパッチやエポレットなどミリタリーで求められた実用性が街着でファッショナブルに投影されたからだと思う。おまけに厚手のコットンだからスリーシーズン着用できる。こうした汎用性の高いアイテムをベースにジャコットを考えていくのもありかもしれない。

 レディスでは丈を短くリ・デザインしたトレンチコートが端境期や暖冬のアイテムとしてクローズアップされたこともある。メンズでも暖冬から梅春に向けてのアイテムとして仕掛けても面白いのではないかと思う。ともあれ、暑秋、暖冬を前提にした企画がもはや通年で必要な様相になってきた。異常気象に対する工夫=クリエイティビティ、リ・デザインで洋服好きのおしゃれ心を擽る企画がますます求められている。

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安く買えるなら、新品。

2024-09-11 06:32:40 | Weblog
 少し前の話だが、メルカリが2024年6月期連結決算を発表した。それによると、売上げ収益が前期比9%増の1874億円で、コア営業利益は同12.9%増の188億円、純利益も同3.1%増の134億円と過去最高を更新した。2018年以来初めて2期連続で黒字を確保したが、1進出から10年を経過した米国事業は苦しい状況にある。こちらの同期の営業損益は調整後で1700万ドル(25億円)の赤字。前期が4800万ドル(約70億円)の赤字だったから改善はしたものの、米国における流通総額は9億1300万ドルで前期から10%も減っている。

 メルカリも米国事業の不振に対し、手をこまねいていたわけではない。進出から3年目の2017年には、米Facebookの幹部を招き入れて経営をテコ入れ。新型コロナウィルス感染拡大による巣ごもり需要もあり、21年4~6月四半期には営業黒字を達成した。同年7月にはウーバーと組んで最短即日配送を全米で始めた。さらに23年10月にはロサンゼルスで対面取引を試験導入したが、収益をあげるには至らずむしろ苦戦を強いられている。

 一方、日本での事業は数値にも出ている通り好調だ。消費者は物価高による実質賃金の目減りから、生活防衛に追われている。そのため、趣味のカテゴリーでは、新品ではなくて良いという価値観が醸成され、それがリユース市場を活性化させた。さらに真贋を鑑定するアプリが開発されたことで、ブランドバッグなどを個人でも直接フリマに出品できるなど、マーケットプレイスにおける個人売買の環境が整備された。ただ、内閣府が発表した2024年4~6月期の実質国内総生産は、前期比で2四半期ぶりにプラスになったものの、南海トラフ地震などへの不安から今後は消費が萎縮する可能性は捨てきれない。

 値上がりする食品など生活必需品の節約も限界にきており、セーブするのはやはり趣味のカテゴリーに入るウォンツ商品になる。特に夫婦と子供2人の一般世帯が生活を守るには、衣、食、住のうちではまず先に「衣」がカットされる。男性向けのアイテムや子供服がそうだ。特に「子供はすぐにサイズが合わなくなるし、外で遊ぶと汚れやすいから、中古衣料は助かる」という意見を多く聞く。ただ、親がファッション性を意識して子供の体型にフィットしたものを着せると、成長が早い子がすぐに着れなくなるのは当然のことだ。



 昔は子供の成長を見越して大きめのサイズを着せていたし、兄弟姉妹、親戚、ご近所で衣類を引き継ぐ「お下がり」という慣習もあった。これは子供むけの衣料品の多くが丈夫で、それほどトレンドを意識していなかったのが理由と言えるが、今ではお下がりも学校の制服で一部利用されているに止まる。背景にはライフスタイルや価値観が変わったこと、子供のアイデンティの重視、周囲への気遣いを避けたいという心理がある。中古衣料のリユース市場が形成されたのは、生活防衛だけが理由ではないということだ。

 衣料品でもそうなのだから、それほど必需性のない趣味の用品はなおさら、中古でも良いというのは当たり前だろう。若年層ではメルカリのスマホアプリ(真贋の判定を含め)が使いやすいこともあり、流通総額が増えていったと言える。加えて価格なしの出品機能が提供され、購入希望者側が購入価格を提案して出品者がOKすれば、取引に移れるようになったことも大きい。メルカリは広島でヤクルトの宅配員に家庭の不用品回収を委託する実証実験を始めたが、アプリを使えない高齢者が気軽に出品、販売できる仕組みを確立できれば、さらに取り扱い額は増えていくのは間違いない。


景気が上向くと、新品購入が増える



 では、米国ではなぜメルカリは上手くいかないのか。あくまで私見だが、次のことが考えられる。まず中古品より安い低価格商品が豊富にあること。次に国土の大きさは物流手段やコスト増大に影響すること。そして、景気の下振れ懸念による消費の冷え込みである。

 米国の消費者はよく、5%の富裕層と95%の貧困層(最近では1%の超富裕層と99%の低所得者層とも)に分かれると言われる。だから、貧困層が購入するのは、相対的に低価格品になる。ディスカウントストアのウォルマートの売上げが堅調なのはそうだし、最近では中国の越境EC企業であるSheinやTemuが勢力を拡大しているのも、衣料や日用品が超低価格で購入できるからだ。確かに米国ではZ世代の環境意識が高く、リユースにも関心が高いと言われる。だが、大半の消費者は同様のカテゴリーの商品がメルカリで中古で10ドルだとして、SheinやTemuでは新品が5~6ドルなら、後者を選ぶのではないか。

 先日、シーインはテムが知的財産権の侵害したと提訴したが、当のシーインも他の小売業者から同様の申し立てを受けている。シーインが主張するのは、テムの従業員がシーインの売れ筋商品を特定する企業秘密を盗み、テムはそのコピー商品を販売するよう同社のプラットフォームを利用する販売業者に指示したとか。まさに安売り業者同士が乱立する米国市場で、泥仕合に発展する様相だ。他にも中国の縫製工場で作業員がほぼ毎日12時間働いている疑いや人権弾圧が指摘される中国新疆ウイグル自治区の綿を使った商品を米国に輸出していたなど、超低価格の背景には様々な問題が見え隠れする。

 ファーストリテイリングもシーインのラインドミニショルダーバッグのデザインがユニクロの商品と酷似し、不正競争防止法に違反していると訴えた。これらの提訴について司法の判断が下ったところで、低価格品を求める米国市場では別の業者が出てくると思われるので、イタチごっこになるのではないだろうか。メルカリなど全く蚊帳の外と言える状況だ。



 国土の広さは物流手段に影響するし、運賃にも跳ね返る。ジェトロの調査(2017年)によると、米国の輸送活動量を距離(マイル)と重量(トン)を掛け合わせたトンマイルで比較すると、トラックが42.6%、鉄道が26.5%、トラックと鉄道のマルチモードが14.2%となっている。航空輸送は重量当たりで高額な貨物の輸送に使われることが多い。メルカリに出品される商品の配送もトラック輸送が一番使われるわけで、当然国土が広大な米国では時間がかかる。別表のように東海岸北部のワシントン州からフロリダ半島の南端まではトラック便オンリーなら7日。輸送時間や積み替えの手間はコスト増の要因となり、運賃も嵩むことになる。




 中古品でも高級時計やブランドのバッグやスニーカー、レアなキャラクターグッズなどは、多少の運賃がかかっても手に入れたい。それはe-Bayの人気を見てもわかる。また、中古の書籍はamazonの価格体系があるので、購入しやすい。ただ、メルカリの商品は価格に送料がプラスされるか、着払いになる。買い手がそれを割高だと思えば、安い新品を購入した方が得だとなる。前出のように米国では低価格商品はいくらでもあるからだ。メルカリの送料は買い手がどこに住んでいても一律なのだが、配送コストは距離によって違ってくるわけだから、応分はメルカリが負担しているのではないか。商品価格が割安なのにコスト高ければ損益分岐点が高止まる。全米を一つにした取引構造は、メルカリにとって厳しいのかもしれない。

 景気の下振れ懸念も影響する。米国の景気は、新型コロナウィルス感染拡大で一時的に揺らいだものの、2021年4~6月期にはGDPはコロナ以前に回復した。21年全体を見ても実質GDP成長率は前年比で+5.7%と回復の高さを示している。22年も急速に進んだインフレや金利の上昇に関わらず、GDP成長率は前年比+2.1%と堅調だった。個人消費が順調に伸びたことが経済成長につながったのだ。しかし、米国経済の行方は99%の低所得者層が握っており、そこでは常に不安がつきまとう。雇用者数や失業率の悪化がついて回るからだ。

 個人消費によって小売業が堅調さを維持しても、それは安売りセールが下支えしている部分が大きい。「宿泊先のホテルのグレードを下げる」「パソコンやテレビは低価格品を選ぶ」「高級酒が売れなくなった」。いろんな企業が感じている市場動向の変化は、低価価格志向で共通する。ここ数年、高いインフレが続いたことで、生活コストを賄いきれなくなった低所得者層は、生活の質を一つも二つも下げないと暮らしていけなくなっている。日々の暮らしに余裕がなくなれば、メルカリで売買されるような趣味の商品にはなかなか手が出しにくい。

 メルカリは24年3月末に「買い手が商品到着後3日以内に申請すれば、理由を問わず返品できる」とするテコ入れ策を導入した。ところが、売り手がとても納得できないような返品が相次いだという。中古品のネット画像だけお見て衝動に駆られ、ポチッてしまうECの弊害が出たとも言える。メルカリ側はサービスを向上させれば、取引は増えると算段したのかもしれないが、それ以上に返品が増えたことで思惑が外れた格好だ。

 高級ブランドやレアなグッズならともかく、どこにでもあるような商品の中古では衝動買いしても返品という逃げ道があれば、「気に入らなければ、返せばいい」という前提で購入する消費者は少なくない。何も米国が特別というわけではなく、それが消費者なのだ。メルカリ側もこうした心理は読んでいたと思うが、想定上に返品が多かったところは計算違いだったのではないか。結果的にわずか2ヶ月弱で、理由を問わない返品サービスを取りやめている。さらに6月には米国法人の社員の半数弱をレイオフした。営業損益が4800万ドルの赤字から1700万ドルの赤字に減ったとは言え、投資家からすればまだまだ手ぬるいとの見方だろう。

 8月には米国のメルカリから日本のメルカリで出品されている商品も購入できるようにしたが、それも商品次第になる。ポケモンなど米国でも人気がある日本のキャラクターグッズがどこまで豊富に出品されるか。ただ、売り手側は中古品でも価値があると思えば、メルカリよりもオークション機能があるe-Bayを選ぶだろうから、日本での出品商品が米国内で購入できたところで、抜本的な不振脱却には繋がらないのではないかと思う。

 米国事業の行先はやはり11月の大統領選挙次第になる。共和党のトランプ氏が返り咲いても、民主党のハリス氏が女性初を手にしても、FRBの政策金利の利下げに目を光らせながら、米国経済をいかに底上げし、低所得者層の賃上げまで踏み込む政策を打ち出せるか。トランプ氏が大統領になると、中国の越境ECを締め出すかもしれないという話も聞こえてくる。一方で、米国の景気が上向いて個人消費が旺盛になると、なおさら新品購入が増えていくかもしれない。メルカリにとって非常に難しい舵取りを強いられるということだ。
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DNAは引き継がれる。

2024-09-04 06:30:15 | Weblog
 デザイナーズブランド「ヨシエイナバ」が2024年秋冬シーズンで終了する。創立は1981年だから43年という長い歴史に幕を閉じることになる。

 ヨシエイナバは、1970年7月に誕生したデザイナーズブランド「ビギ」が2年目から破竹の勢いで売れ始める中、創業メンバーの一人で、代表の大楠祐二氏が派生ブランドを次々と増やし独り立ちさせる戦略から生まれた。最初は1973年のメルローズ。ビギのニット部門からの独立だった。次いで77年にアクセサリーのクシュカ、78年にはカジュアル色の強いディーグレースやマドモアゼルノンノなどを傘下にもつBBKK、82年にはピンクハウスを独立させ、次々と別会社が誕生した。ビギグループ躍進の原動力を支えた分社経営とも言える。

 ところが、誕生から5年目の1975年には状況が一変する。ビギの創業以来、デザインに携わってきた菊池武夫氏が妻である稲葉佳枝氏(その後、賀恵に改名)との夫婦生活に終止符を打ち、別居。同年10月、菊池氏はビギを退社し(株)メンズビギを設立した。だが、大楠代表は確信していた。「デザイナーが思い通りに作った服が売れるわけがない。ビギが売れたのは、俺が売場やお客の声を集めてマーチャンダイジングをやり、菊池がデザインを修正したからだ。失敗して必ず戻ってくるさ」。読みはズバリ的中。菊池氏はブランド事業に失敗し、1980年にはビギに復帰。メンズビギはビギグループの傘下となった。



 一方、大楠氏は素早く動いた。菊池氏に去られたその月に、稲葉氏をチーフデザイナーに起用して体制の立て直しを図った。アパレルだけではない。東京・青山にフランス料理のル・ポアソンルージュを開店した。「次はいつ稲葉に去られるかわからない。デザイナーの知名度に頼りきったビジネスほどリスクがあるものはない」。大楠氏には常にそうした危惧があった。だからこそ、ビギの設立から3年目でメルローズを独立させ、菊池氏が去った後も別会社を次々と設立してブランドを増やしていたのだ。

 (株)ビギ傘下には以下のようなブランドが名を連ねた。「ビギ」「モガ」「ジャストビギ」、そしてヨシエイナバである。文字通り、ヨシエイナバにはビギ、モガのデザインに携わった稲葉氏の服づくりのスタンスが細部にわたって浸透した。さらにヨシエイナバは既製服にはない手作りの1点ものに近い技術や品質をもとに最高のウエアを提案することを追求した。1981年といえば、デザイナーズブランドが最盛期に入ろうとした時期。にも関わらず、ヨシエイナバはクリエイティビティよりもクオリティを追求したのである。

 それがどんな意味を持つのか。当時の洋服好きは「お洒落でカッコ良い服が着たい」とデザイナーズブランドを購入していた。しかし、そんな洋服好きも歳を取るごとに成熟し、「いい服を着続けたい」に変わっていく。ヨシエイナバが誕生した時、稲葉氏は42歳。デザイナーとして十分な経験を積み、服づくりでは油が乗っていた時期だ。にも関わらず、手作りの1点ものに近い技術や品質を重視したのは、自身のスタンスである「私はデザイナーではなく洋服屋。モードを意識しても、アブストラクトな服は作らない」からだったと思う。当然、自分の服を愛してくれるファンがやがて成熟することも想定していたのではないか。

 もちろん、稲葉氏は夫だった菊池氏とは違い、ビギという会社に籍を置いて仕事を続けた。もし独立すれば、経営にもタッチしスタッフや取引先のことまで考えなければならない。ならば、ビギにいた方が服づくりだけに邁進することができるわけだ。それを特別に意識した訳ではないだろうが、大楠代表が持論とした「服は作りすぎても少なすぎてもダメ。感覚は新し過ぎてもいけない。一歩先より半歩先だ」というマーチャンダイジング重視の経営方針とシンクロした部分はあったと思う。


加齢を味方につけた服づくり



 稲葉氏は、ヨシエイナバを終了する理由について、「満足のいくパフォーマンスが望めないことも出て参りました」と、語っている。これほど長きにわたって続いてきたブランドだから、社内には後継のデザイナーを立て今後も存続させていいのではとの意見もあったはずだ。だが、稲葉氏は「ヨシエイナバは自分が携わってこそ、ブランドとしての体を成す」との思いが強かったのかもしれない。だから、あっさりと身を引く決断ができたと思う。

 もっとも、体調面では以前にも変化を感じている。「60代の半ば頃から、色が見分けにくくなりました」。会社に染色部屋まで造り、自分で染めて色の出具合を確認していたにもかかわらずにだ。長年の経験からこの色とこの色が合うと組みわせても、違和感ができてきた。自然光に晒したり、照明を変えたりして、ようやく決めるという状態だった。原因はやはり加齢による目の衰えにあった。

 70歳になる直前、知人から白内障治療の専門医を紹介され受診したところ、水晶体の中心部が硬くなる核白内障と水晶体の後ろが濁る後嚢下白内障が併発していた。医者からも「微妙な色の違いがわかりにくかったでしょう」と言われたとか。そのまま放置して症状が進行すれば、デザイナーとしての生命を奪われるかもしれない。幸い、処置が早かったことで、両眼の水晶体を取り除き眼内レンズを移植する手術を受けることができた。術後は色もクリアに見えるようになり、視力も0.8から1.2に回復したという。

 人間は加齢により、目の異状を感じることが少なくない。特にデザイン関連の仕事をしていると、色が見分けにくくなる人も多いようだ。知り合いのグラフィックデザイナーもそうだった。一方、服を着てもらう顧客は、加齢に伴って髪の毛の色や肌の色艶が変化するので、似合う色が変わっていく。ここがブランドビジネスとして、一番悩ましいところだ。マインドエージを頑なに守ってデザインをしていると、コアなファン客は歳を取っているのだから自分に似合う色がないと、ブランド離れを引き起こしてしまうこともある。



 ヨシエイナバが43年もの長期にわたってブランドを維持できたのは、コアな客層に合わせて色やデザインをうまく微調整してきたからだ。これは簡単なようで実に難しい作業になる。そこには稲葉氏が直接デザインに携わり、それを後身のスタッフに委ねても自らディレクションに携わる中で、経験則や売上げデータをもとに決めてきたと思う。80歳を超えてもアトリエ作業の合間には必ず店頭に立って、顧客との会話も惜しまない。だから、身体にそいつつも、さりげなく体型をカバーし、ずっと着られる仕立ての良い服を作ることができる。ほんの一瞬だけでなく、変に目立つこともせず、シックで落ち着いた色合いがヨシエイナバの真骨頂でもあった。

 稲葉氏は、あくまでヨシエイナバを着てくれる人が着ていて心地よくいられることを重視した。それを学んだのは専門学校時代に遡る。原のぶ子アカデミー(現在の青山ファッションカレッジ」での経験からだ。前にも書いたが1960年代前半は既成服はそれほど出回っておらず、少し違ったデザインにするには作るしかなかった。原氏は戦前にパリにわたり、本場のオートクチュール(高級注文服)の技術を学んでいた。学校ではクリスチャン・ディオールの美しい人台を揃えていた。それが稲葉氏が学ぶ理由にもなった。
  
 入学直後の1ヶ月は床に落ちた仮縫用のピンを拾うことのみだった。それによりピンがどういうものかを覚えることができた。糸抜きも重要な学びとなった。ツィードからシフォンまで50cm四方の生地から横糸や縦糸を抜き、再び針で糸を入れる。まっすぐ抜くのも難しいし、よりがかかっている糸もある。そんな地道な学習によって布というものが理解できた。布目がよれたまま裁断したり、生地の特性を分からないまま縫製すると、予期せぬシルエットになってしまう。しかし、生地がどのように畝り、歪むかを知った上でなら、それをデザインに活かすこともできるのだ。そうしたノウハウがビギの服づくりにも表れている。

 一世を風靡したデザイナーズブランドも1990年代に入ると凋落した。ビギもブランド名は残ったものの、往時とは似ても似つかない低価格・量産の産物に堕してしまった。2019年には三井物産がビギホールディングスの株式33.4%を取得し、24年6月には残りの株式66.6%も取得して完全子会社化した。これについて、ファッションライターを自称されたあるお方は「DCブランドブームという名残さえ消えたと感じた話」と論評されていた。俄か景気が萎んでいくのは当たり前だが、ビギから派生したwb(ダブルビー)やDÉPAREILLÉ(デパリエ)は顧客をつかみ、売上げも積んでいる。デザイナーズブランドが消え失せることはないのだ。



 しかも、商社がブランドを買収したところで、彼らはアパレルのプロではない。せいぜい経営者を送り込んで量販体制を整えるか、ODMの会社を噛ませてブランドの体裁を取るのが精一杯だ。商売としてはユニクロを支えているのと同じで、1点あたりのマージンは低くても数が売れれば、儲けものとしか考えていない。商社のアパレルビジネスなんて所詮、そんな程度だ。ビギはブームが去って身売りしたが、その遺伝子を引き継いだDÉPAREILLÉ は、新たなクリエーションとクオリティを創出し、デザイナーズブランドを牽引している。そうした動きのリーダー的存在だったのがヨシエイナバと言っても過言ではないだろう。




 会社は異なるが、beautifulpeople(ビューティフルピープル)やpasdecalais(パドカレ)、marcourt(マーコート)やplainpeople(プレインピープル)は、大人の洋服好きに愛されている派生系デザイナーズブランドだ。これらに共通するのは量販アパレルはもちろん、百貨店系の大手アパレルにも出せない生地の色合いや質感、そして個性的なデザインだ。小物やアクセサリー、テーブルウェアなどを組み合わせたライフスタイル提案も上手い。数を売ろうとしない分、コストがかかって価格は割高になるが、他にはない世界観がファンを惹きつけていく。いい服を着たいお客にとっては、選びたくなるブランドと言える。



 メンズでも、2022年にはアダストリアの子会社で、CURENSOLOGY(カレンソロジー)、CHAOS(カオス)といったレディスブランドを運営するエレメントルールがHUM VENT(ヒューベント)をスタートさせた。ブランドは23年シーズンで一旦終了したものの、(株)ブルーレーンがHUM VENTブランドの商標権を取得。(株)ヒューベントを設立し、24年8月よりブランド事業を再開した。アメカジが主流のメンズに飽きたりない一定のニーズは底堅いと見たのだろう。商品のラインナップを見ると、デザインはもちろん、色や質感と洋服好きの男性に響くものがある。

 ヨシエイナバが43年もの長きにわたって存続したのは、適度なクリエイティビティをキープしながら、クオリティに主眼を置いたからだ。そこにデザイナーズブランド存続のヒントがあるように感じる。ブームは去っても、デザイナーズブランドのDNAは誰かが引き継いでいくのである。

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