HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

持つ至福、持たない悦楽。 

2021-02-24 06:54:00 | Weblog
 コロナ禍の影響もあり、ここ1年ほど訪れる機会がなかった百貨店。正しく言えば、夏場の暑さを凌ぐために1階からデパ地下に降りて地下街に抜けることはあったが、フロアに立ち寄ったり、買い物するには至らなかった。ところが、先日、チラ見でもいいから覗いてみたいニュース記事が飛び込んできた。(https://news.yahoo.co.jp/articles/da4d561adb5ca39b61824f9535a5797b55a1367e?fbclid=IwAR2t3fG139SezgZVnEDPxIba5COlkiVH39qR6J3rjamZsWJ930ZHxFqm6vE)

 「岩田屋本店がバンクシーやカウズを扱うギャラリーを開設


 地元百貨店の岩田屋が「コンテンポラリー(現代)アート」を扱うというのだ。同店が過去にギャラリーを持っていたかは記憶してないが、日本橋三越本店にはギャラリーがあり、ニューヨークのメトロポリタン美術館と提携して記念グッズまで扱っていた。

 元来、富裕層を対象とした百貨店だから、高額な絵画や美術品は重要な商材でもある。最上階にギャラリーを設けて集客し、帰りしなに階下のフロアで買い物をしてもらうシャワー効果は薄れたと言え、その遺伝子は伊勢丹との合併後も受け継がれていると感じる。

 西武百貨店も池袋店には1970年代から西武美術館を設け、コンテンポラリーアートの展覧会をプロデュースしていた。当時、「カンディンスキー」なんかは、公立の美術館では実現しにくく、西武の展覧会によって多くが知り、所有欲に火をつけたと言ってもいいだろう。

 西武美術館は単なる作品展示に留まらず、それらがお客にもたらす想像力まで販売しているように感じた。そこには堤清二社長の文化に対する造詣の深さがあり、西武の社風として生まれた柔軟な発想がそうさせたと思う。




 話を岩田屋に戻すと、2月10日、同店はインターナショナルブティックと銘打つ本店2階に「ギャラリーコンテナ」を開設。早速、出かけてみると、20坪ほどのスペースには両目がXXになったキャラクターで一躍有名となった「カウズ」、平面的で黒の線で描くフォルムが特徴の「ジュリアン・オピー」、正体不明の芸術家「バンクシー」の作品が展示されていた。フィギュアには20万円代、アートには1000万円代の価格が付いていて、購入も可能だ。

 百貨店は日常の買い物では郊外SCやDS、ドラッグストアにお客を奪われ、輸入食材やワイン、コーヒー豆にしても、値ごろで揃えが充実する専門店には敵わない。優位に立てるとすれば、輸入時計やジュエリーと並んでアートや美術品くらいしかない。今回、岩田屋が高額なアートを扱うのも本来の立ち位置に帰り、業績回復の一助にしたいとの思惑からだろう。

 また、アートには趣味や蒐集の要素もあるので、富裕層には推奨しやすい。購買単価が高く、収益の伸びが期待できるし、作品の価値や真贋の保証で百貨店のアイデンティティを示せる。では、全国的な所得水準がCランクの福岡で、1000万円クラスのアートを購入する人がどれくらいいるのかである。


高額なアートは投資の対象なのか

 ニュース記事には、「20年秋冬の(百貨店の)特選商況を語る上で欠かせないのが“新世代富裕層”と呼ばれる人たちだ」「歴史的な株高を背景に、“新世代富裕層”にとってはコロナ禍なんてどこ吹く風だ」「何人かのバイヤーから『“新世代富裕層”にはコレが売れている』という声があがったのが現代アートだ」と、記されている。


 これが福岡の岩田屋にも当てはまるとはどこにも書いてないが、今の投資ビジネスはネットを使えばどこに居ても可能だから、福岡に金満投資家が在住していても不思議ではない。ならば、その中に現代アートを購入する人がいるかもしれない。岩田屋も「現代アートの催事を何度か行っており、好評だったことで常設化を決めたのだという」から、新世代富裕層の中から現代アートを購入するお客を掘り起こす狙いと見られる。

 一方、投資で生計を立てている人は、1000万円クラスの作品を単なる観賞用だけでなく、将来的な値上がりや骨董価値を考え、投資のつもりで購入するケースもあると思う。サザビーのオークションなんかを見てもそうだし、新世代富裕層が現代アートを購入するのも、その一面があると考えられる。岩田屋もそれだけ期待しているわけだ。

 ギャラリーコンテナは、海外ブランド売場の一角にあり、展覧というよりは販売イベントの様相が強い。アート展は観客一人ひとりの心をどう揺さぶったかが大事なのだが、そこは経営状況が厳しい百貨店だから情緒論だけで語ることはできない。願わくば、バンクシーは偽物も出回っているので、真贋の判定はより念入りにした上で販売してほしいし、防犯体制ついても徹底する必要がある。

 かつては百貨店の高級時計販売会で、夜間に根こそぎ盗まれたケースがある。銀座の高級宝飾店では万全な防犯体制を敷いていたにも関わらず、中国の爆窃団はじめ欧米の窃盗グループの被害に遭っている。岩田屋の防犯がどの程度のものかはわからないが、夜間に侵入して盗み出すことは無理にしても、2階フロアに展示されていることを考えると、窃盗団が白昼堂々犯行に及ぶのは不可能ではないと思う。

 岩田屋は天神きらめき通りに面し、天神西通りと警固神社に抜ける通りに囲まれ、正面エントランス向かい側のソラリアプラザ裏手には交番がある。筆者は同じエリアで仕事をしているので、周辺の人通りや交通量は時間帯別で把握しているが、プロの窃盗グループならそれも折り込み済みのはずだ。現に2017年には、天神のみずほ銀行から下ろしたばかりの現金約3億8000万円が強奪されたが、福岡県警中央署は渋滞する渡辺通りでも、犯人を追跡できず見失っている。


デジタルアートをサブスクで楽しむ

 話はズレたが、筆者もアートは大好きだ。高校時代に市販のポスターをアレンジしたのが始まりで、大学時代にはリキテックスで平面構成をしたり、雑誌グラビアのコラージュに絵の具を吹きかけたりして、オリジナルアートを制作したことがある。

 業界に入ってからは仕事で制作するばかりになったが、ニューヨークを訪れるたびにメトロポリタンからMoMA、ホイットニーまでに通い、アンディ・オーホール、デイヴィット・ホックニー、キース・ヘリング、新進アーチストや写真家の作品に触れた。また、ニューヨークのアートギャラリーは2001年の同時多発テロ以降、チェルシーやブルックリンにも増えたようだが、筆者がいた90年代半ばはソーホーに集中していた。



 その境界線に当たるハウストンstから1ブロック北のブリーカーst沿いにあったギャラリーで購入したのが、Razziaの「PASTA」。タイトルの通り、フォークにパスタを絡めた様子をやや誇張して描いた作品で、地元福岡に戻ってから天神の画材店で額装してもらい、事務所に飾ると、しばらく悦楽な気分に浸れた。打ち合わせに訪れるイラストレーターやデザイナーとのアート談義を生むきっかけにもなり、いちばんのお気に入りとなった。



 その後は、ネット通販の発達で海外注文も可能になり、ギャラリー側が額装までして送ってくれるので、お気に入りが見つかる度に購入してきた。英国の写真家、「ビル・ブラント」のヌードアートはモノクロプリントだったため、赤のルミナカラー紙でマウントすると、すごく写真映えした。マイデザインで出力せずにPhotoshopデータのままのものも含めると、かなりのコレクション数になっている。

 最近では、ディスプレイパネルが極薄で高精細になったため、「ミュラールキャンバス」なるものが開発され、サブスクサービスも始まった。額縁パネルにLANケーブルを繋ぎ、サービス業者と契約すれば、デジタルアートが定期的かつ日替わりで配信されイーゼルに飾ったり、壁にかけたりできる。都会暮らしの筆者には額装したアートは場所を取るのでありがたい。

 新世代富裕層の所有や投資向けにしたい百貨店。純粋に鑑賞を楽しむファンに向けたデジタル&サブスク。いよいよアートも二極化していきそうだ。もっとも、重要なのはアーチストが生み出すコンテンツそのもの。ファンとして応援する気持ちは大事だが、バンクシーなど気鋭のアーチストは、ずっと「ファイン」な気持ちで作品を作り続けてほしいものである。
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成熟に抗う売り方。

2021-02-17 06:53:26 | Weblog
 驚いたというより、やはりなという印象だ。先々週の週末に発表された、セレクトショップ「VIA BUS STOP(ヴィア・バス・ストップ)」全店閉店のニュースである。すでに東京ミッドタウンや大阪梅田、渋谷パルコなど5店舗とオンライン販売の営業を終了し、2月20日には博多リバレインモールや代官山など4店舗をクローズする。

 ヴィア・バス・ストップのようなコレクションブランドをバイヤーがチョイスして編集する業態は、アパレル業界の構造的な不振に関係なく、難しいビジネスになったというのが筆者の見方だ。以下でその理由を挙げてみる。

 1.主導権がブランド側に

 まず構造的な問題として、ブランド側は仕入れのミニマムロットを高めに設定してくるので、それらを売りたいのであれば予算額より多い仕入れを余儀なくされる。だが、仕入れた商品が売れ残れば、在庫として抱えることになり、資金繰りが圧迫されてしまう。また、1ブランドのロットが大きくなると、他ブランドの仕入れが制限される。商社やインポーターを経由すればロットは下がるが、逆に卸価格が上がって荒利益が減るというジレンマに陥る。

 2.荒利確保の難しさ

 コレクションブランドは、総じて掛け率が高く完全買取りであるため、プロパー消化率が70%ほどなければ利益を確保できない。セントラルバイイング制でブランドをエクスクルーシブ(独占販売)調達すれば、商品を売れている店舗に振り分けたり、フレキシブルに売価を変更して売り切る仕組みを作れる。だが、それは米国のノードストロムのような大規模な専門百貨店だからできること。ヴィア・バス・ストップのような規模、店舗数では厳しい。

 3.ターゲットの少なさ

 もともと海外のコレクションブランドをプロパーで購入できる客数は限られる。ただ、そんなブランドを求めるお客も一定数はいる。しかし、リーマンショック以降のグローバルな水平分業(GAFAによる搾取支配)で中産階級が没落し、客数が増える状況ではない。売上げを下支えしてきた中国人旅行者もコロナ禍による入国制限でゼロになる一方、旅行の目的がコト消費に移り始め、ブランド衣料の購入意欲は減退している。

 4.固定費が高い構造

 ブランドのセレクトショップは、都市部の一等地に展開することで、店の格が維持される。家賃はざっくり言って月坪7万円程度から最高15万円くらいだろう。スタッフの給与も高級品を販売する能力が必須だから、一般の販売員より高くなる。つまり、元来、固定費が嵩む高コスト構造なのだ。家賃負担が売上げの4割程度に収まる地方展開ならまだしも、東京のように売上げが減少して固定費の負担に耐えられなくなれば、撤退はやむなしとなる。

 その他、バイヤーが展示会で売れると判断したアイテムがVOIDになる仕入れの不安定さもある。これらはヴィア・バス・ストップのオープン時から懸念されてきた問題なので、あえて閉店の理由に加えさせてもらった。さらに時代が変化する中で、お客が変化したり、ビジネスの潮目を読み違えたこともある。以下がそれだ。

 5.中間層の没落

 90年代初めのバブル崩壊で空前の好景気から一転、厳しい不況に陥り、2000年代もリーマンショックとGAFAによる搾取支配で、中産階級の没落は著しい。3の理由とも関係するが、日本の人口動態で大多数を占めた中間層の実質所得が下がっているのだから、嗜好品の域を出ない高額なブランド衣料にカネをかける余裕はない。景気が良ければ、気分が高揚して多少の背伸びはできるが、コロナ禍で外出が減り生活防衛に追われているとそれもあり得ない。

 6.SPA業態から撤退



 一時は「+A VIA BUS」というオリジナルで構成するディフュージョン業態を展開していた。ここでファン客を獲得し、ヴィア・バス・ストップにアップスライドしてもらう狙いもあったと思うが、数年で撤退した。ヴィア・バス・ストップへの影響を心配したのか、独立した業態として収益が伸びなかったからか。その後、他社がSPAバイイング型を展開してもうまく棲み分け、収益力をつけたことを考えると、全く皮肉な結果である。

 7.お客の成熟

 お客がコレクションブランドを全く求めないかと言うと、そんなことはない。オークションやユーズド販売では、ブランド人気が健在だ。もともと価格が高く上質なことから、まだまだ着られる中古品が流通し、市場を形成するようになっている。一方で、グローバルSPAのデザイナーズコラボには早朝から長蛇の列ができ、転売が横行している。それだけお客が成熟して価格対価値を見分けるようになり、ファースト&プロパーの販売は厳しい状況と言える。


ローコストのデジタル&リアル業態の開発

 筆者がヴィア・バス・ストップを知ったのは、ニューヨークから地元福岡に戻った1990年代後半。記憶では、98年に事務所近くにメンズ業態、99年に博多リバイレインのスーパーブランドシティ(現在の博多リバレインモール)、2000年初めに福岡三越、13年に天神ヴィオロ(CASA VIA BUS STOP)に次々と店舗がオープン。その後、メンズは博多リバレインの店舗の統合され、福岡三越店が閉店するなど、次第に勢いを失っていった。



 地元セレクトショップ「BASEMENT」が福岡の全店舗をFCで運営していた。博多リバイレインの店舗は時々覗いていたが、この10年ほどは中国人観光客の買い物コースとなったためにご無沙汰だった。それでも、雑誌で見た「ヴィクター&ロルフ」のジャケットが気に入ったので、街で会ったスタッフのMさんと訊ねると、「完売しました」との返答。残念だった反面、他の人も同じような嗜好なんだと実感した。

 ヴィア・バス・ストップで言えるのは、ブランドの寄せ集めでMDに奥行きがないこと。お客の大半がSPAのMDに飼い慣らされてしまったこと。商品を点でしか展開しないブランドセレクトではお客が色、型、サイズでジャストフィットを選べないから、購入に結びつくのは容易ではない。ヴィクター&ロルフのジャケットが売り切れたのは、日本人の感覚をよく知るバイヤーの勝利で、雑誌メディアの後押しもあったと思う。

 「コレください」という顧客が維持される間は持ち堪えられても、先に挙げた理由からそれが難しくなり、全店閉店という寂しい結末に至った。オンワード樫山の力を借りてオリジナルによるSPA型セレクト=+A VIA BUSを継続させていれば、生き残れたかもしれない。ただ、ユナイテッド・アローズやアーバン・リサーチを見れば、SPA型セレクトは売れ筋追求で感度面が鈍くなり、コアなブランド好きからすれば物足りない。

 東京では再開発が続き、家賃の高止まり傾向は今後も続くと見られる。しかし、コレクションブランドのセレクトショップが都心展開で売上げを上回る家賃を支払うのなら、ビジネスにならない。一方で、ブランドを購入したいお客は多くはないが、一定数は存在する。そうした客層をターゲットにするにも、高コスト構造の実店舗では難しい。ならば、どうするか。

 デジタルを駆使したバーチャルセレクトショップでコレクションブランドの情報を発信し、まずはお客の購買意欲を換気する。そして、専用サイトに誘導して注文を受けた商品を仕入れて(VOIDの場合はキャンセル)販売する手法がギリギリの妥協点だろうか。もちろん、高額なブランドを試着なしで購入することには、二の足を踏むお客もいる。通常のサイトとは違ったデジタルフィッティングやサイズ計測サービスなどの重装備が不可欠だ。

 デジタルによる受注・仕入れ・販売だけでは限界があるので、バイヤーの能力を信頼して現物を見せるトランクショーを並行する。シーズンごとに百貨店や都市部のレンタルスペースで開催してはどうか。もしくはローコストの倉庫街に巨大なデポを常設で作るという方法もある。東京だと城南島とか、有明とかだろうか。そこで、商品の着荷、展示・陳列、接客販売、ネット注文の発送を行えばいい。

 ここなら空間演出も自由にできるし、在庫する現物を確かめ試着もできるから、多少交通が不便でもブランドが欲しいお客はやってくる。やはり、商品の魅力をお客に伝えるには、リアルな売り方が一番であることに変わりない。高コストな販売スタイルから脱却すれば、業態として存続できなくはない。お客の成熟に抗う売り方が次の一手になる。

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手段が目的化した事業。

2021-02-10 07:09:24 | Weblog
 このコラムで、過去に何度か取り上げた「福岡アジアファッション拠点推進会議」。麻生渡前福岡県知事の肝いりで、福岡商工会議所が中心となり、2008年3月に発足した。複数の関係者によると、同事務局は会員に対し3月に開催する総会で、「推進会議の解散」を決議する旨を通知したという。大々的な名称とは裏腹に、当初に打ち出した目的の達成度は検証されないまま、発足から13年で幕を閉じることになる。

 ある会員にネットで送付された「総会の開催について」には、「新型コロナウイルス感染拡大防止のために参加人数を制限する場合がある」との但し書きがあり、出席通知状とともに「総会委任状」が添付されていたそうだ。開催日時は3月26日金曜日、午前11時〜11時30分。コロナ禍の非常事態でなくても、平日の昼間にどれほどの会員が参加するのか。また、すべての会員が正式に委任状を提出するか。総会を待つまでもなく、大体想像はつく。

 おそらく、議長は粛々と「推進会議の解散について」の議事を進め、参加者は会員の委任状をもとに「異議なし」と答え、すんなり議決されるだろう。あとは「解散後の清算手続きについて」の説明があるだけ。会員の委任がある無しに関わらず、参加者が議題に異論を挟むこともない。総会の開催時間がわずか30分しかないのを見ても、解散は既定路線であり、総会はシャンシャンで終わると思われる。

 ただ、こういう結果は、推進会議が13年の間に実施した事業内容を見れば、なるべくしてなったものと言える。ここでそれを振り返ってみよう。発足時に発表された事業の目的、具体的な事業内容は以下(写真)になる。推進会議が初年度に負担する事業費の上限額は、2700万円。実際に事業を遂行する事業委託先は、「企画コンぺ」で選ばれることになった。



 2008年5月16日の説明会に集まった業者は広告代理店、イベント会社など総数42社にも及んだ。一次審査は企画書で行われ、二次のプレゼンテーションに進めたのは、わずか4社だった。同年6月13日に行われたプレゼンには、推進会議の役員が審査員として臨んだ。後日、審査会が開催されて、事業の全てを遂行する委託先=「トータルプロデューサー」には地元テレビ局の「RKB毎日放送」が選定された。


神戸コレクションを下敷きにしただけ

 ファッション業界からすれば、「何でローカル放送局が」「アパレル業界をわかっているのか」「コレクションなんてやったことがあるの」が率直なところだ。しかし、これには布石があった。推進会議の設立総会は、委託先が決定する3ヶ月前の3月27日、ホテルグランドハイアット福岡で開催された。来賓として麻生前福岡県知事、吉田宏前福岡市長をはじめ、福岡商工会議所元会頭の河部浩幸推進会議会長が顔を揃え、挨拶を行った。

 司会進行はRKB毎日放送(以下、RKB)の女子アナが担い、アトラクションでは同社の番宣とも言えるショーが披露された。併せて基調講演も行われ、リアルクローズを着たタレントがランウエイを歩く「神戸コレクション」の生みの親、(株)アイグリッツの高田恵太郎代表が登壇。神戸コレクションを企画・制作する「MBS毎日放送」(RKBも同系列)の担当プロデューサーも、わざわざ来福していた。

 設立総会の時点で、ここまでの段取りがついている以上、RKBが推進会議の一連の事業を仕切るのは既定路線だったとも言える。コンペは所詮、出来レースで、一般競争入札にしたというアリバイ作りに過ぎなかったのだ。2008年4月以降、事業がスタートすると、ローカルテレビ局主導の企画がより鮮明になっていった。

 08年7月、推進会議が「福岡のファッションを考える」というテーマで主宰したシンポジウムも、内容はRKBが東京からタレントの「押切もえ」やスタイリストの亀恭子らを呼んだトークショーだった。さらに押切もえが出演した自社制作の番組を放送されたが、福岡のファッション産業など知らないタレントのコメントなど台本の通りで、これが地元ファッション産業の振興につながるかには?が残った。

 一方、メーン事業のコレクションは、2009年3月に「福岡アジアコレクション」として開催が決定。押切もえの起用は、FACo出演のバーターではと受け取られてもしょうがない。実際、押切もえはFACoに数年連続で出演している。

 もちろん、RKBにファッションイベントの一切を単独でプロデュースするノウハウがあるはずもない。前出のアイグリッツやMBS毎日放送が神戸コレクションのフォーマットにそって、タレントのブッキングからNBを中心とした衣装の手配、会場・ステージの構成、音響・照明、演出までで支援協力した。RKBにできたのは行政に対する予算支援の折衝、地元のスポンサー営業、イベントスタッフの弁当手配くらいだ。

 2011年には東日本大震災で日本中が自粛ムードになる中、反対論を味方につけて第3回目のFACoを強行開催。「会場では寄付を募る」との理由もつけたが、要は中止すると準備経費が全て無駄になり、タレントのキャンセル料なども響いて大赤字になるからだ。では、どれほどの寄付が集まったのかと言えば、RKBがFACo公式HPで発表した額は80数万円。一人100円として入場者数8000人でほぼ同額になるが、あまりに出来過ぎの数字である。



 「福岡を拠点とするデザイナー、アパレルメーカー等を中心とした」のコレクション開催の但書も、初回こそ地場の量産アパレルが参加し、イベントの半年以上前から福岡で活動するデザイナーやアパレルに出展を呼びかけてはいるものの、出展料が15万円と高額なため(タレントコラボではPR費50万円と生産数に応じて20%のロイヤリティを要求)に参加できるブランドは限られた。RKBには公金を使わせておきながら、地場のアパレル関係者には有償で参加を呼びかけ、しかも地場アパレルからは搾取しようというのは全くおかしなことである。
 
 しかも、イベント終了後にメーカーを交えた総括会議が開かれることはなく、「福岡ブランド」を売る際に、ネット販売が優先されなおかつネットやオフィシャルショップの売上げ情報がメーカー側に示されない=楽天に販売を丸投げした弊害か。FACo開催の大義に地元ファッション産業の振興を掲げながら、メーカーの意見を無視するという大きな矛盾を露呈した。

 もっとも、参加ブランドの数はわずか数社で、イベントの尺を埋めるほどの頭数は揃わないため、どうしても中国生産のSPA系NBをメーンにせざるを得ない。RKBのプロデューサーは周囲に「(FACoは)NBでやりたい」と語っていたことで、地元のファッション業界から失笑を買った。というか、地元なんかに目を向けていないのは明らかだった。


高島市政誕生で福岡市が全面支援

 FACo以外の事業では、業界関係者による講演会(福岡ファッションフォーラム)や地元デザイナーの活動支援など小規模なものが行われたが、推進会議の単独事業ではない。ほとんどが福岡県や福岡市、他の団体の活動に便乗したもの、あるいは広報的意味合いのもの、ファッション産業を振興する目的としては具体性を欠いた。さらに企画運営委員会の利害関係者が私物化しようなものもあった。

 関係者によると、FACoに対し福岡県や福岡商工会議所が予算の面で全面的に支援するのは、3年間(初回から3回まで)との条件=「継続開催したいのなら自社(RKB)で事業化しろ」だったという。だが、自治体の全面支援がなくなれば、事業予算の確保は難しくなる。RKBは自社事業のFACoで収益を上げたいがために、他の事業に予算を回すことなど端から考えてはいなかったと言える。トータルプロデューサーとは名ばかりだった。

 もっとも、2010年にKBC九州朝日放送でアナウンサーを務めた高島宗一郎氏が福岡市長に就任すると、福岡市が「経済観光文化局」の予算を割いて全面支援するようになった。FACoは東京ガールズコレクション(TGC)を模倣し海外(台北やバンコク)でも開催された。それにしても、先に海外公演を行っているTGCの公演先と被らない開催地にしただけで、海外版の客寄せ興行であることは変わらず、福岡のファッション産業に貢献するには程遠かった。



 FACoはローカル放送局の収益事業としてペイさせるために、あらゆる業種のスポンサーをするようになっていった。とどのつまりが2013年の「ボートレース振興会」である。タレント見たさに「未成年」が多数来場するのにである。ここまでくれば、公共性もあったものではない。

 また、福岡市の主導でFACoの前、2週間から1ヶ月程度で「ファッションウィーク福岡」「ファッションマンス福岡アジア」がスタート。推進会議はこの企画も代理店に丸投げしたため、内容や参加対象が毎年のようにコロコロ変わった。福岡市の中心部で開催と謳いながら、大手流通業がスポンサーに付くと郊外SCの参加をアピールし、中小事業者には参加告知(パンフレットへの店名掲載)を有償するなど著しく公平性を欠いた。参加事業者が減ると、飲食事業者にまで範囲を広げ、数字を盛る始末だった。

 そもそもこの季間イベントは、「春にも多くの人に福岡の中心部に買い物に来てもらう」との高島福岡市長の発案からだった。そのためには来福者を増やすこと=タレントで釣ればいい参加事業者や来福者数が目標を達成すれば、福岡市の担当者も文句はないはず。事業を委託された代理店が考えることはそんなものだから、コンセプトが固まらないも当然だ。これでは巨額な税金を投入しても「何かやっている」感じでしかなく、福岡のファッション業界は何ら恩恵を受けることはない。

 結局、昨年度はFACo自体が福岡市の大枠予算での割り振りが少なかったのか、それまでの福岡国際センターからファッションマンスが開催される天神での市中開催と、大幅な縮小を余儀なくされた(新型コロナウイルスの感染拡大で全てのイベントが中止)。推進会議の事業もスタートから年を追うごとに内容、規模とも縮小、衰退していったのだから、行き着く先が「解散」となるのも納得がいく。

 福岡商工会議所が推進会議の事業に注力したのは、福岡のファッションを振興させる大義があるが、そこから若手事業者が台頭して会議所の会員になってもらう思惑もあったと思う。しかし、事業委託を受けたローカル放送局や代理店は、事業費を得れば自社の収益しか眼中にないため、手段は目的にされてしまう。福岡のファッション産業は利害関係者と出入り業者のために利用されたと言っても過言ではない。

 推進会議の発足から事業の経過、そして解散に至る理由を考えてみた。コラムの文字数に達したので、今回はここまでに留めておく。次の機会には、RKBや代理店とは別の利害関係者についても触れてみたい。
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羽化せよ日本ブランド。

2021-02-03 06:50:15 | Weblog
 1月17日、東京銀座のGINZA SIXで、「テナント14店舗が一斉撤退」とのニュースが駆け巡った。これより前の20年12月末には2店舗、1月10日にも2店舗が閉店している。以下がその顔ぶれである。「アニヤ・ハインドマーチ」「モスキーノ」「3.1 フィリップ リム」「アディアム」「シュウ ウエムラ」「SHISEIDO」「キールズ」等など。

 GINZA SIXは2017年4月、森ビルや大丸松坂屋百貨店、住友商事、Lキャタルトンリアルエステートが共同出資するGINZA SIX リテールマネジメントが運営主体となって、銀座松坂屋跡地に開業した。

 国内外の高級ブランドを一堂に集め、銀座の再開発とインバウンド需要を当て込んだが、開業3年目にして予想だにしなかったコロナ禍に見舞われた。緊急事態宣言の発令により国内はステイホームの巣ごもり消費に移り、訪日外国人の買い物は入国制限でほぼゼロになった。売上げの大幅な減少により採算割れに陥って、撤退するテナントが出てくるのは当然だ。

 しかし、GINZA SIXの凄いところは、撤退するテナントの代替えがちゃんとあること。この春にはアパレルやコスメ、雑貨やグルメなど40以上のショップが新規出店し、リニューアルオープンする。改装中には空き店舗も出るわけだが、「後継店で確実に埋める」ことで、何とか銀座の“格”は維持できそうである。

 ただ、中長期的には決して楽観視できない。なぜなら、コロナ禍の終息は一向に見通せないし、東京五輪が開催されても無観客となる公算が高い。インバウンド需要には期待できないのだ。もちろん、国内消費もコロナ不況で減退は否めない。GINZA SIXが以前の状況に回復し、再び成長軌道に乗ることができるかは、全く不透明と言える。


海外ブランドだからと飛びつかない

 以前からこのコラムでも書いてきたが、銀座をはじめ、表参道や六本木といった一等地に高級ブランドの旗艦店を出店したところで、どれほど集客、販促に繋がり、売上げを積めているのか。筆者は以前からずっと懸念してきた。端から「広告塔として、メディアハウスだと、割り切っている」と言えばそれまでだが、それらが売上げ効果を発揮できなければ、後ろ盾のファンドや投資家は黙っていないはずである。

 売れている高級ブランドもあるとは言っても、インバウンドが下支えしていたに過ぎない。ブランドのアパレルやコスメ、アクセサリーなどの国内需要は、中間層の没落で格差社会に移行、加えてコロナ禍による失業率の増加で激減している。東京に揃う世界の高級ブランドに対する欲求は、雇用が維持されている層でも年を追うごとに成熟しているのではないか。富裕層をはじめ、多くの消費者が求めているかと言えば、もはやそうではないだろう。

 ブランド側からすれば、日本市場の開拓を狙ったところで、お客がすんなり受け入れる時代ではないのだから、全く的外れだ。逆にユニクロのような価格に対して価値が高いものが登場し、日本人のブランドに対する目利きはより鋭くなっている。ブランドの世界観はもちろんだが、より具体的な素材、色柄、デザイン、価格を総合して判断して購入するかしないかを決める。売れていないのは、成熟した消費者の購入対象になっていないからだ。

 一方、インバウンド需要もコロナ禍を契機に一気に成熟していくかもしれない。と言うのは、かつての先進国がそうであったからだ。日本の旅行者はバブル期までは団体でパリやミラノに出かけ、高級店に列をなしてブランド品を買い漁っていた。また、外国人旅行者も家電量販店で「キャノン」だの「ニコン」だのと、高価なメイドインジャパンを物色していた。洋の東西を問わず旅先でのブランド購入は、共通していたのである。

 ところが、90年代半ば以降、格安のエアチケットを購入した個人旅行が主力になり、目的地が大都市以外に広がると、旅の目的も現地の今を知る体験型に変わっていった。おそらく、中国ほかアジアからの旅行者も、自ら体験した旅を楽しみ方をSNSで発信するのがトレンドになるのではないか。そこまで行けば、「日本まで行って海外ブランドを買うなんて、ダセえ成金旅行者だぜ」と、ネットに書き込まれるのがオチだろう。

 もちろん、インバウンド需要は高級ブランドだけではないから、観光地は新たな商品を開発することで、誘客することはできる。だが、銀座や表参道などアパレルやバッグ、コスメを主力とした商業地、そこに店舗を構える事業者にとっては、ブランドニーズが減退していけば店舗を維持することは難しくなる。デベロッパーやビルオーナーは、コロナ禍による高級ブランド店の退店がその前兆だと認識し、対策を打ち出さなければならないのだ。


世界に冠たる日本の食や飲を高級ブランドに

 では、東京の一等地で、海外の高級ブランドに代わる業態とは何か。筆者が考えるのは、各自治体が東京のアンテナショップで扱う地域の「食」や「飲」を上級・高級ブランドで仕掛け、独立した専門店またはセレクトショップで展開する手法だ。訪日外国人にも日本の文化として受け入れて貰えば、結果としてインバウンド需要にも貢献する。カテゴリーは「菓子」「漬物」「乾物」「調味料(醤油や酢含む)」「日本酒」「だし」などである。

 筆者が東京出張時に購入しているのは、田丸屋の金印山葵漬け(1350円/http://www.tamaruya.co.jp/item.html)、紀ノ国屋のアーモンドフロランタン(1500円/https://www.super-kinokuniya.jp/eshop/items/07-4960466202331/index.php)、成城石井のプレミアムチーズケーキ(1本790円/https://www.seijoishii.com/d/52342)等だ。どれもお土産用ではないから価格は高いが、自分が食べて美味しかったし、家族もそれらの味を知ると空港売店で買えるようなものでは満足しなくなっている。



 新たに気に入ったのは、高知の芋屋金次郎(https://www.imokin.jp)が鹿児島産のコガネセンガンで作る季節限定の「チョコがけけんぴ」。ミルク、ビター、ホワイト、抹茶、いちごの「あまおう」があり、カリッとした食感と上品な甘さが絶妙だ。材料と製法でここまで美味しくできる。ロゴやパッケージにはデザイナーが関わり、東京の「COREDO室町」への出店で、上級・高級ブランドで仕掛けようという意図も窺える。

 人間は食や飲が必須で、必ず購入する。食材の需要は巣ごもりで急増した。カルディコーヒーファームでは、高級輸入食品が並ぶ冷蔵庫が昨年暮れには空になっていた。このような状況なのだから、日本産の食や飲への高級品ニーズを喚起すれば、市場を掘り起こせるのだ。それにはマーケティングリサーチを行い、知恵に知恵を絞って上質な商品を開発すること。また、デザインやプロモーションに注力して、ブランドとして仕掛けていくことである。

 筆者が仕事を通じて知り得たその過程事例を挙げよう。ある老舗菓子舗の二代目店主は生前、「博多には美味しいお菓子はあっても、謝罪の時に持っていける格式のある茶菓子がない」と語っていた。目下、大手広告代理店出身の三代目がそうした商品の開発とブランド力の向上に心血を注いでいる。

 東大を卒業後に実家の造り酒屋を継いだ経営者は、自ら手がけた純米大吟醸が英国ロンドンで開催されるIWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)の最優秀賞を獲得するも、「東京で売れない酒は、ニューヨークでも売れない」と、現状に満足することなく世界戦略の酒造りに邁進する。

 ドレッシングのブランド化で成功したピエトロの故・村田邦彦社長はかつて、「海外出張の時こそ、美味いもの、良いものを食え。でないと上級のメニューは作れない。カネは俺が出す」と、社内規定に縛られ萎縮する社員に対し商品開発に必要な姿勢を教え込んでいた。

 三社に共通するのは、上質な商品を開発し続ける姿勢。美味しい商品がデビューすれば、それを超える商品を開発する競争意識。格を維持するには決して低価格に向かわないこと。むしろ、物作りにコストと時間をかけるため、売価が上がるのは承知の上だ。それでも売っているのだから、商品に魅せられ求めるお客がいる。それが上級・高級ブランドのビジネスなのだ。

 デベロッパーは高級ブランドが撤退すれば、他の高級ブランドに入れ替えればいいという発想だろう。しかし、それを繰り返していれば、いつかは行き詰まる。日本にも優れた商品はいくらもある。デベロッパーはそれらにも目を向ける必要があるのだ。店舗の常設が難しいなら、定借を利用し期間限定で入れ替え、内装を工夫すれば、スケルトンにする必要もない。

 お客の価値観は確実に変化している。コロナ禍後にはさらに先鋭化していくだろう。お客が求める高級ブランドとは何か。それをもう一度見つめ直す時期。埋もれた日本ブランドが羽化するチャンスでもある。

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