コロナ禍の影響もあり、ここ1年ほど訪れる機会がなかった百貨店。正しく言えば、夏場の暑さを凌ぐために1階からデパ地下に降りて地下街に抜けることはあったが、フロアに立ち寄ったり、買い物するには至らなかった。ところが、先日、チラ見でもいいから覗いてみたいニュース記事が飛び込んできた。(https://news.yahoo.co.jp/articles/da4d561adb5ca39b61824f9535a5797b55a1367e?fbclid=IwAR2t3fG139SezgZVnEDPxIba5COlkiVH39qR6J3rjamZsWJ930ZHxFqm6vE)
地元百貨店の岩田屋が「コンテンポラリー(現代)アート」を扱うというのだ。同店が過去にギャラリーを持っていたかは記憶してないが、日本橋三越本店にはギャラリーがあり、ニューヨークのメトロポリタン美術館と提携して記念グッズまで扱っていた。
元来、富裕層を対象とした百貨店だから、高額な絵画や美術品は重要な商材でもある。最上階にギャラリーを設けて集客し、帰りしなに階下のフロアで買い物をしてもらうシャワー効果は薄れたと言え、その遺伝子は伊勢丹との合併後も受け継がれていると感じる。
西武百貨店も池袋店には1970年代から西武美術館を設け、コンテンポラリーアートの展覧会をプロデュースしていた。当時、「カンディンスキー」なんかは、公立の美術館では実現しにくく、西武の展覧会によって多くが知り、所有欲に火をつけたと言ってもいいだろう。
西武美術館は単なる作品展示に留まらず、それらがお客にもたらす想像力まで販売しているように感じた。そこには堤清二社長の文化に対する造詣の深さがあり、西武の社風として生まれた柔軟な発想がそうさせたと思う。
話を岩田屋に戻すと、2月10日、同店はインターナショナルブティックと銘打つ本店2階に「ギャラリーコンテナ」を開設。早速、出かけてみると、20坪ほどのスペースには両目がXXになったキャラクターで一躍有名となった「カウズ」、平面的で黒の線で描くフォルムが特徴の「ジュリアン・オピー」、正体不明の芸術家「バンクシー」の作品が展示されていた。フィギュアには20万円代、アートには1000万円代の価格が付いていて、購入も可能だ。
百貨店は日常の買い物では郊外SCやDS、ドラッグストアにお客を奪われ、輸入食材やワイン、コーヒー豆にしても、値ごろで揃えが充実する専門店には敵わない。優位に立てるとすれば、輸入時計やジュエリーと並んでアートや美術品くらいしかない。今回、岩田屋が高額なアートを扱うのも本来の立ち位置に帰り、業績回復の一助にしたいとの思惑からだろう。
また、アートには趣味や蒐集の要素もあるので、富裕層には推奨しやすい。購買単価が高く、収益の伸びが期待できるし、作品の価値や真贋の保証で百貨店のアイデンティティを示せる。では、全国的な所得水準がCランクの福岡で、1000万円クラスのアートを購入する人がどれくらいいるのかである。
高額なアートは投資の対象なのか
ニュース記事には、「20年秋冬の(百貨店の)特選商況を語る上で欠かせないのが“新世代富裕層”と呼ばれる人たちだ」「歴史的な株高を背景に、“新世代富裕層”にとってはコロナ禍なんてどこ吹く風だ」「何人かのバイヤーから『“新世代富裕層”にはコレが売れている』という声があがったのが現代アートだ」と、記されている。
これが福岡の岩田屋にも当てはまるとはどこにも書いてないが、今の投資ビジネスはネットを使えばどこに居ても可能だから、福岡に金満投資家が在住していても不思議ではない。ならば、その中に現代アートを購入する人がいるかもしれない。岩田屋も「現代アートの催事を何度か行っており、好評だったことで常設化を決めたのだという」から、新世代富裕層の中から現代アートを購入するお客を掘り起こす狙いと見られる。
一方、投資で生計を立てている人は、1000万円クラスの作品を単なる観賞用だけでなく、将来的な値上がりや骨董価値を考え、投資のつもりで購入するケースもあると思う。サザビーのオークションなんかを見てもそうだし、新世代富裕層が現代アートを購入するのも、その一面があると考えられる。岩田屋もそれだけ期待しているわけだ。
ギャラリーコンテナは、海外ブランド売場の一角にあり、展覧というよりは販売イベントの様相が強い。アート展は観客一人ひとりの心をどう揺さぶったかが大事なのだが、そこは経営状況が厳しい百貨店だから情緒論だけで語ることはできない。願わくば、バンクシーは偽物も出回っているので、真贋の判定はより念入りにした上で販売してほしいし、防犯体制ついても徹底する必要がある。
かつては百貨店の高級時計販売会で、夜間に根こそぎ盗まれたケースがある。銀座の高級宝飾店では万全な防犯体制を敷いていたにも関わらず、中国の爆窃団はじめ欧米の窃盗グループの被害に遭っている。岩田屋の防犯がどの程度のものかはわからないが、夜間に侵入して盗み出すことは無理にしても、2階フロアに展示されていることを考えると、窃盗団が白昼堂々犯行に及ぶのは不可能ではないと思う。
岩田屋は天神きらめき通りに面し、天神西通りと警固神社に抜ける通りに囲まれ、正面エントランス向かい側のソラリアプラザ裏手には交番がある。筆者は同じエリアで仕事をしているので、周辺の人通りや交通量は時間帯別で把握しているが、プロの窃盗グループならそれも折り込み済みのはずだ。現に2017年には、天神のみずほ銀行から下ろしたばかりの現金約3億8000万円が強奪されたが、福岡県警中央署は渋滞する渡辺通りでも、犯人を追跡できず見失っている。
デジタルアートをサブスクで楽しむ
話はズレたが、筆者もアートは大好きだ。高校時代に市販のポスターをアレンジしたのが始まりで、大学時代にはリキテックスで平面構成をしたり、雑誌グラビアのコラージュに絵の具を吹きかけたりして、オリジナルアートを制作したことがある。
業界に入ってからは仕事で制作するばかりになったが、ニューヨークを訪れるたびにメトロポリタンからMoMA、ホイットニーまでに通い、アンディ・オーホール、デイヴィット・ホックニー、キース・ヘリング、新進アーチストや写真家の作品に触れた。また、ニューヨークのアートギャラリーは2001年の同時多発テロ以降、チェルシーやブルックリンにも増えたようだが、筆者がいた90年代半ばはソーホーに集中していた。
その境界線に当たるハウストンstから1ブロック北のブリーカーst沿いにあったギャラリーで購入したのが、Razziaの「PASTA」。タイトルの通り、フォークにパスタを絡めた様子をやや誇張して描いた作品で、地元福岡に戻ってから天神の画材店で額装してもらい、事務所に飾ると、しばらく悦楽な気分に浸れた。打ち合わせに訪れるイラストレーターやデザイナーとのアート談義を生むきっかけにもなり、いちばんのお気に入りとなった。
その後は、ネット通販の発達で海外注文も可能になり、ギャラリー側が額装までして送ってくれるので、お気に入りが見つかる度に購入してきた。英国の写真家、「ビル・ブラント」のヌードアートはモノクロプリントだったため、赤のルミナカラー紙でマウントすると、すごく写真映えした。マイデザインで出力せずにPhotoshopデータのままのものも含めると、かなりのコレクション数になっている。
最近では、ディスプレイパネルが極薄で高精細になったため、「ミュラールキャンバス」なるものが開発され、サブスクサービスも始まった。額縁パネルにLANケーブルを繋ぎ、サービス業者と契約すれば、デジタルアートが定期的かつ日替わりで配信されイーゼルに飾ったり、壁にかけたりできる。都会暮らしの筆者には額装したアートは場所を取るのでありがたい。
新世代富裕層の所有や投資向けにしたい百貨店。純粋に鑑賞を楽しむファンに向けたデジタル&サブスク。いよいよアートも二極化していきそうだ。もっとも、重要なのはアーチストが生み出すコンテンツそのもの。ファンとして応援する気持ちは大事だが、バンクシーなど気鋭のアーチストは、ずっと「ファイン」な気持ちで作品を作り続けてほしいものである。
「岩田屋本店がバンクシーやカウズを扱うギャラリーを開設」
地元百貨店の岩田屋が「コンテンポラリー(現代)アート」を扱うというのだ。同店が過去にギャラリーを持っていたかは記憶してないが、日本橋三越本店にはギャラリーがあり、ニューヨークのメトロポリタン美術館と提携して記念グッズまで扱っていた。
元来、富裕層を対象とした百貨店だから、高額な絵画や美術品は重要な商材でもある。最上階にギャラリーを設けて集客し、帰りしなに階下のフロアで買い物をしてもらうシャワー効果は薄れたと言え、その遺伝子は伊勢丹との合併後も受け継がれていると感じる。
西武百貨店も池袋店には1970年代から西武美術館を設け、コンテンポラリーアートの展覧会をプロデュースしていた。当時、「カンディンスキー」なんかは、公立の美術館では実現しにくく、西武の展覧会によって多くが知り、所有欲に火をつけたと言ってもいいだろう。
西武美術館は単なる作品展示に留まらず、それらがお客にもたらす想像力まで販売しているように感じた。そこには堤清二社長の文化に対する造詣の深さがあり、西武の社風として生まれた柔軟な発想がそうさせたと思う。
話を岩田屋に戻すと、2月10日、同店はインターナショナルブティックと銘打つ本店2階に「ギャラリーコンテナ」を開設。早速、出かけてみると、20坪ほどのスペースには両目がXXになったキャラクターで一躍有名となった「カウズ」、平面的で黒の線で描くフォルムが特徴の「ジュリアン・オピー」、正体不明の芸術家「バンクシー」の作品が展示されていた。フィギュアには20万円代、アートには1000万円代の価格が付いていて、購入も可能だ。
百貨店は日常の買い物では郊外SCやDS、ドラッグストアにお客を奪われ、輸入食材やワイン、コーヒー豆にしても、値ごろで揃えが充実する専門店には敵わない。優位に立てるとすれば、輸入時計やジュエリーと並んでアートや美術品くらいしかない。今回、岩田屋が高額なアートを扱うのも本来の立ち位置に帰り、業績回復の一助にしたいとの思惑からだろう。
また、アートには趣味や蒐集の要素もあるので、富裕層には推奨しやすい。購買単価が高く、収益の伸びが期待できるし、作品の価値や真贋の保証で百貨店のアイデンティティを示せる。では、全国的な所得水準がCランクの福岡で、1000万円クラスのアートを購入する人がどれくらいいるのかである。
高額なアートは投資の対象なのか
ニュース記事には、「20年秋冬の(百貨店の)特選商況を語る上で欠かせないのが“新世代富裕層”と呼ばれる人たちだ」「歴史的な株高を背景に、“新世代富裕層”にとってはコロナ禍なんてどこ吹く風だ」「何人かのバイヤーから『“新世代富裕層”にはコレが売れている』という声があがったのが現代アートだ」と、記されている。
これが福岡の岩田屋にも当てはまるとはどこにも書いてないが、今の投資ビジネスはネットを使えばどこに居ても可能だから、福岡に金満投資家が在住していても不思議ではない。ならば、その中に現代アートを購入する人がいるかもしれない。岩田屋も「現代アートの催事を何度か行っており、好評だったことで常設化を決めたのだという」から、新世代富裕層の中から現代アートを購入するお客を掘り起こす狙いと見られる。
一方、投資で生計を立てている人は、1000万円クラスの作品を単なる観賞用だけでなく、将来的な値上がりや骨董価値を考え、投資のつもりで購入するケースもあると思う。サザビーのオークションなんかを見てもそうだし、新世代富裕層が現代アートを購入するのも、その一面があると考えられる。岩田屋もそれだけ期待しているわけだ。
ギャラリーコンテナは、海外ブランド売場の一角にあり、展覧というよりは販売イベントの様相が強い。アート展は観客一人ひとりの心をどう揺さぶったかが大事なのだが、そこは経営状況が厳しい百貨店だから情緒論だけで語ることはできない。願わくば、バンクシーは偽物も出回っているので、真贋の判定はより念入りにした上で販売してほしいし、防犯体制ついても徹底する必要がある。
かつては百貨店の高級時計販売会で、夜間に根こそぎ盗まれたケースがある。銀座の高級宝飾店では万全な防犯体制を敷いていたにも関わらず、中国の爆窃団はじめ欧米の窃盗グループの被害に遭っている。岩田屋の防犯がどの程度のものかはわからないが、夜間に侵入して盗み出すことは無理にしても、2階フロアに展示されていることを考えると、窃盗団が白昼堂々犯行に及ぶのは不可能ではないと思う。
岩田屋は天神きらめき通りに面し、天神西通りと警固神社に抜ける通りに囲まれ、正面エントランス向かい側のソラリアプラザ裏手には交番がある。筆者は同じエリアで仕事をしているので、周辺の人通りや交通量は時間帯別で把握しているが、プロの窃盗グループならそれも折り込み済みのはずだ。現に2017年には、天神のみずほ銀行から下ろしたばかりの現金約3億8000万円が強奪されたが、福岡県警中央署は渋滞する渡辺通りでも、犯人を追跡できず見失っている。
デジタルアートをサブスクで楽しむ
話はズレたが、筆者もアートは大好きだ。高校時代に市販のポスターをアレンジしたのが始まりで、大学時代にはリキテックスで平面構成をしたり、雑誌グラビアのコラージュに絵の具を吹きかけたりして、オリジナルアートを制作したことがある。
業界に入ってからは仕事で制作するばかりになったが、ニューヨークを訪れるたびにメトロポリタンからMoMA、ホイットニーまでに通い、アンディ・オーホール、デイヴィット・ホックニー、キース・ヘリング、新進アーチストや写真家の作品に触れた。また、ニューヨークのアートギャラリーは2001年の同時多発テロ以降、チェルシーやブルックリンにも増えたようだが、筆者がいた90年代半ばはソーホーに集中していた。
その境界線に当たるハウストンstから1ブロック北のブリーカーst沿いにあったギャラリーで購入したのが、Razziaの「PASTA」。タイトルの通り、フォークにパスタを絡めた様子をやや誇張して描いた作品で、地元福岡に戻ってから天神の画材店で額装してもらい、事務所に飾ると、しばらく悦楽な気分に浸れた。打ち合わせに訪れるイラストレーターやデザイナーとのアート談義を生むきっかけにもなり、いちばんのお気に入りとなった。
その後は、ネット通販の発達で海外注文も可能になり、ギャラリー側が額装までして送ってくれるので、お気に入りが見つかる度に購入してきた。英国の写真家、「ビル・ブラント」のヌードアートはモノクロプリントだったため、赤のルミナカラー紙でマウントすると、すごく写真映えした。マイデザインで出力せずにPhotoshopデータのままのものも含めると、かなりのコレクション数になっている。
最近では、ディスプレイパネルが極薄で高精細になったため、「ミュラールキャンバス」なるものが開発され、サブスクサービスも始まった。額縁パネルにLANケーブルを繋ぎ、サービス業者と契約すれば、デジタルアートが定期的かつ日替わりで配信されイーゼルに飾ったり、壁にかけたりできる。都会暮らしの筆者には額装したアートは場所を取るのでありがたい。
新世代富裕層の所有や投資向けにしたい百貨店。純粋に鑑賞を楽しむファンに向けたデジタル&サブスク。いよいよアートも二極化していきそうだ。もっとも、重要なのはアーチストが生み出すコンテンツそのもの。ファンとして応援する気持ちは大事だが、バンクシーなど気鋭のアーチストは、ずっと「ファイン」な気持ちで作品を作り続けてほしいものである。