HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

メンズの梅春プロパーは強化できるか。

2012-08-27 17:38:47 | Weblog
 いろいろと物議を醸した三越伊勢丹主導、ルミネ追随による夏のセールの後ろ倒し。8月も終わりに近づき、各社からは実績数字が発表されている。その内容を見ると、後ろ倒しでプロパー商品の売上げが順調に伸びたところは、概ね「荒利益を確保できた」で一致している。
 1シーズンだけの仮説で、あまりに戦略を決めるのもどうかと思うが、売上げが低迷する小売業にとっては、少しでも収益が取れるに越したことはないようだ。これで味を占めたところは、「冬のセールも1月中旬」から行うと表明しているので、新しい流れができるかもしれない。

 もっとも、冬物では価格を下げても売れない商品はあるわけで、セールを後ろ倒しにするなら正月明けにすぐに着られる「梅春物のプロパー商品」を充実させなければならない。
 ユニクロが下半期に売上げが伸びなかった要因に、「天候不順、気温低下で春物の動きが鈍かった」をあげるが、梅春ものを企画すればならこうした言い訳も通用しなくなる。
 梅春物を充実させるというのは、年明けにダークで肉厚な冬物は着たくないという顧客マインドを前提に、日に日に明るさを増す日差しを意識したカラリングと、気温が低ければ防寒機能も持ち合わせるというちょっと難しいMDを構築しなければならない。

 かつては伊勢丹がコンサバOL向けに企画した「ピンクや白、オフホワイトなど淡いトーンで、ウールのコート」、専門店向けでは「パステルトーンの綿・毛混紡のアンサンブルやセーター」、ヤングのセレクトショップ向けにはショート丈のトレンチコートなどがあった。
 ただ、レディスでは色、素材とも比較的調達しやすいことから、商品企画はさほど難しくないと思われる。あとは実際の気候に合わせどう展開して行くかだが、レイヤードスタイルが当たり前の今日、アイテムさえ充実することができれば西日本なら3月いっぱい、東日本でも4月中はいけるだろう。
 寒ければ着込めばいいわけだし、温かくなれば脱げばいい。ペールトーンならシーズンイメージにも十分フィットするからだ。

 問題はメンズだ。もともと、秋冬のメンズカラーは黒、紺、茶などが主体で、赤やワイン、オレンジは指し色に過ぎない。素材もウールが主体で、あとはレザーくらいとバリエーションが少ないのである。
 だから、セレクトショップでSPA化しているところは、こうした冬物の色、素材でオリジナル企画の在庫を積んでおき、冬のセールでは50%オフといった価格を訴求。セールでも荒利を稼ぐという手法に味を占めている。
 こうした状況下で、どこまで梅春物の企画できるかが懸念材料だ。もし、本格的に行うなら、カラーはレディスまでとは言わないまでも、生成りやサンドベージュ、ペールトーンのブルーやグリーン、ピンクくらいは欲しい。素材はスプリングレザー、コットンギャバやジャーマンクロス、帆布にもなる肉厚の綿麻、梳毛のウールコットン、ミドルゲージのコットンなどが理想だ。

 アイテムはスプリングレザーのライザーズジャケット、 立ち襟のショートコート、ニット1枚で十分着られるハーフコートやロングジャケット、起毛コットンのパンツなどであれば、レイヤードも着回しも聞く。
 年明けには淡い色のコートを着た女性とダークなダウンジャケット姿の男性のカップリングが少なくない。不釣り合いだし、どこかあか抜けない。特に中高年なるとなおさらだ。こう思うのは筆者だけではないだろう。
 百貨店や百貨店系アパレルが声高に冬のセールの後ろだしとプロパー販売を打ち出すなら、メンズでも梅春物をきちんと強化すべきである。セールが終わるといきなりチノパンとトレーナー、コットンのシャツが並ぶ程度では、お客が商品を買うはずはない。
 来年の年明け、メンズにおける梅春物のプロパー強化には「かの企業」を反面教師に、計算しつくしたMD構築が必要になるのは言うまでもない。

 
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ドット柄に流行はないから、期中提案もいけるか。

2012-08-22 18:59:57 | Weblog
 ドット柄にほとんど流行はない。ピンやポルカなど大きさやピッチの違いで洗練度が決まる程度。だから生地さえ手に入れば、企画はしやすい。秋物第一弾でドレスやパンツにしてみたが、卸メーカーの話しによると顧客を中心に好調ということだ。
 このコラムでも以前に書いたが、トップスはドット柄でもさほど気にならないが、パンツになるとこれが穿きこなすにはかなりの勇気がいる。だから、マスで売れるアイテムではない反面、街中をスタイリッシュに闊歩できることになる。

 では、シャツはどうだろう。そんなことを考えていたら、知り合いのメーカーから「期中のバリエーションが欲しいので、手持ちのドットプリントで何かやりませんか」との企画提案のオファーが舞い込んだ。
 生地は日本製で、反つぶしの残りだから用尺に限りがある。まあ、期中企画だから売り切れご免でも構わないようである。「じゃ、生地のサンプルを送って」と、届いたのが上質なコットンポプリンだ。
 ポプリンとは米国でいうブロードクロス。最近、欧州メーカーのスペックではこの呼び名が使用されているため、日本でもポピュラーになり始めている。一般には40番手くらいの単糸で織った生地を指すが、サンプルは60番手の双糸を使っているようだ。だから、ブロードと呼んだほうが正確かもしれない。
 
 そこでどんなシャツにするか。素材はオールシーズンいけるブロードだから、昨今の気候なら10月下旬までジャケット無しても通用する。つまり、アウターとしての存在感があるデザインがいいだろう。 
 ならばドットというプリント柄をグラフィカル&マルチに活用してみようと、デザインした一つがコレ。まあ、そんなに付けるバイヤーはいないと思うが、営業さんには「指し色的にフェイスの並べてはどうでしょう」ってセールストークでお願いしたい。

 身頃と袖、衿の柄を代えるデザインは、某デザイナーブランドがかなり前にやっていたデザインモチーフだ。通常は用尺の問題や生地合わせの手間からコストが掛かり、NBアパレルはやらなかった。しかし、シャツの柄なんて無地か、ストライプか、チェックかしかないので、目新しい企画やデザインで遊ぶには柄を違えてはぐくらいしか手は残っていない。
 もともと、シャツは縫うのが結構難しいが、海外でのスキルも上がり、比較的ローコストで生産できるようになった。こうした背景からこの秋は、身頃と袖、衿の柄を代えるアシメトリーなストライプシャツがSPA型セレクトにも登場している。雑誌メディアの秋号でもプレス自ら着用してアピールしている。

 もはや大手セレクトショップがオリジナル比率が80割程度まで高まっている中、専門店系アパレルでは上質な素材を背景にした遊びのデザインがもっと必要かもしれない。ストライプのアシメトリーシャツは、マス狙いで登場しているので、これをドットで試みたわけだ。
 欧米のコレクショントレンドを見ると、感覚はあまりに斬新しぎてもいけないってことがわかってくる。ただ、マーケットの反応は誰もが着ている服なら、高い金を払ってまで着たくないである。そこにファストファッションの台頭があるわけだ。
 それゆえ、専門店系マンションアパレルにとっては、一歩先くらいの感覚で、相対的に高価格だが付加価値があるもの。これをデザインでしかける小刻みな企画提案しかないと思う。
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投資はショーの原資で終わってはならない。

2012-08-15 15:15:59 | Weblog
 パルコが昨年スタートした若手デザイナー支援のためのファンド、「ファイト・ファッション・ファンド」の第1号として、2名のデザイナーが支援を受けることになった。
 マイパンダの中村裕子とジュンオカモトの岡本順だ。両氏は2月に出資者の募集し、3ヵ月で計700万円を集めたという。半年の募集期間内にどこまで出資が募れるかが楽しみである。

 実力があっても資金力に乏しい若手デザイナーにとって、投資家が資金を出してくれるのはブランド発展にとって実にありがたい。一般にこの種の支援は、欧米ではユダヤ人の実業家やアラブの王族がご贔屓筋となって資金を出してくれる。
 だが、日本ではJFW(日本ファッションウィーク)の「新米プロジェクト」ように行政やスポンサーが資金を拠出するものの、出資倒れになるケースが多く責任の明確化がされにくいという難点があった。
 また、福岡のように行政が作成した事業企画書には堂々「人材育成」と書かれていながら、ふたを開けると愚にもつかない三文イベントにほとんどの資金が費やされるというもっと酷いケースも見られる。
 その点で、ファンドならマネジメントをきちんと行わなければならず、投資収益を最大にする努力が求められる点で大賛成である。デザイナー側にとっても、コレクションデビューやブランドプロモーションでは終われない、その先の卸、小売りビジネスまできちんと見据えた「被投資計画」が重要な点で、勉強になるだろう。

 ただ、一つだけ懸念がある。それはファンドのバックにいるパルコの存在だ。パルコがファンド設立に踏み出した背景には、他デベロッパーとの差別化があるはず。そのためにはでき上がったブランドの誘致競争に勝つだけでは限界がある。積極的にブランドをインキュベートして、テナントリーシングの保険にしておこうという狙いもあるだろう。
 言葉は悪いが、将来が有望な若手デザイナーに恩を売っておけば、彼らがインキュベートしサクセスした後、「当然、うちの館に入ってくれるよね」と暗黙のプレッシャーにもなるからである。

 また、とかくお客にテナントの顔ぶれで判断されるファッションビルにあって、パルコは国内事業での生き残りを賭け、イベント事業に力を入れている。
 そのコンテンツには単なる既存テナントではインパクトに欠ける。イベントの冠に「初」や「デビュー」を付けた方が観客を呼び易いし、新人デザイナーにとってもイベントがあるからこそ、作品づくりへのモチベーションが上がるのである。

 しかし、そうしたクリエーターとしての「滾る血」をパルコに利用されるだけでは、投資効果や投資家へのリターンは進まない。やはり、企画デザインから仕様開発、素資材の開発・調達、工場選び、工程&仕上げ管理、物流、卸、小売り展開まで一貫して行うビジネスモデルを作り上げることが、ブランドファッションにおける投資効果になる。
 デベロッパーもせっかくデザイナーがデビューし、店舗をパルコに構えたのなら、 売場の声やお客の反応をチェックすることが不可欠だ。また、そうした情報を整理分析して、ブランド側にフィードバックしマーチャンダイジングに反映させることが望まれる。そこまでが被投資計画なのである。

 デザイナーのセンスでパルコは成長できる。その考えは間違えではない。反面、デザイナーが思い通りに商品を作ったところで、売れるわけがない。それがファッション業界の原理原則でもある。 
 ファイト・ファッション・ファンドが欧米のような「谷町」で終わらないためにも、ファンドマネージャーの役割は重要だ。それ以上に出資を受けたデザイナーにはブランドの孵化とビジネス発展という厳しい条件が突きつけられている。
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リアルイベントは在庫リスクを解消できるか。

2012-08-09 14:34:38 | Weblog
 ZOZOTOWNが一般顧客向けにブランドの予約受注会を兼ねたリアルイベントを9月15日、16日に開催する。その狙いは前澤社長曰く、「「洋服を予約して買う時代」にしたいのです。これまでアパレルのショップは在庫と顧客ニーズのミスマッチに悩まされてきた。顧客のためには多くの商品を取りそろえたいが、在庫が多すぎればいずれセールを行うことになりブランド価値が毀損してしまう」ということだ。

 つまり、ZOZOTOWNもネット販売に従事する中、ようやくメーカーの在庫リスクについて理解するようになったといこと。しかし、リアルな「ショーイベント」を行なって予約販売、いわゆる受注が進むにしても、簡単に在庫リスクを抑えられるとは思えない。
 なぜなら、メーカーにとってショーに商品を出展する時点で、どの商品、どのアイテムに予約が集中するかはわからない。だから、全アイテムである程度まんべんなく在庫を積むことになる。逆に在庫を少なめにすれば、予約の機会ロスを生んでしまうことも考えられる。
 つまり、ミスマッチは永遠になくならないのだ。さらにそれらを恐れ、定番的な売り筋商品ばかりを企画生産して出展すれば、クリエーション提案やイベント性が無くなり、ショーそのものが価値が揺らいでしまう。

 欧米のコレクションやかつてのメーカー展示会のように、ショーを半年前の時期に行うのなら、サンプル品だけを出展して予約、受注を取り、そこから生産という流れも可能だ。これなら、在庫リスクも抑えられるだろう。
 しかし、9月14日、15日というシーズンインのイベントではそれもできず、結局、手持ちのシーズン在庫によるショー=予約会となって、リスクが解消されることにはならない。メーカーにとってはぜいぜい売上げの前倒しと、予約による売れ筋の確認ができる程度だろう。
 大手のセレクトショップはすでにいろんな販売チャンネルがあるため、新たな販路や販促の一手段として捉える程度かもしれない。しかし、中小零細のメーカーではショーのために新たな在庫を増やすことはできず、従来のサイト販売と大きく違うことはないだろう。

 顧客に対しては、シーズントレンドの商品を直に見ることができる点で、新たなサービスと言える。ただ、ショーはインスタレーションや展示会ではないから、顧客は素材感の確認も試着もできない。リアルイベントといっても、モデルがランウエイを闊歩するだけでは、その辺が中途半端になるリスクもはらんでいる。
 またZOZOTOWNのフォーマットは、商品の受け入れからモデルフィティング、撮影、コピーやスペックの作成を行ってサイトにアップ。顧客の注文を受けると、ピッキング、梱包、発送という流れだ。最近ではこのフォーマットがルーチン化しており、 モデルの体型にフィットしていないものやアイテムのみの着用でスタイリング提案が非常に稚拙など、クリエイティブレベルの課題が浮き彫りになっている。
 少なくともショーならトップからボトム、アクセサリーまでオンリーブランドでスタイリングし、音響・照明などの演出まで完璧に仕上げないと意味がない。それにはメーカーのディレクターやデザイナーの強力は不可欠だし、モデルの選定からフィッター、ヘアメイクなど裏方の協力まで、専門ノウハウが必要になる。そこまでやって初めて顧客サービスと言えるだろう。

 リアルイベントによってメーカーの在庫リスクを抑えたいのなら、やはりシーズンはるか前にサンプルを見せるショーが理想的だ。でも、昨今では商品の企画から生産のスケジュールは、メーカーによってまちまちで、シーズン前でもすべてのブランドを同じ日に集めるのは不可能に近い。
 なぜなら、クリエーションに力を入れるマイナーブランドは、企画から生産段階の価値創造に軸足を置くから、商品ができ上がるまでに半年から1年程度の時間をかけている。つまり、商品に対するデザイナーや企画スタッフの「こだわり」が違うわけで、たとえ納期の余裕があっても注文を受けてそこからササッと生産し、納品なんてできないのだ。
 逆にSPA化した大手セレクトなら、ショーで予約を受けてシーズン内のクイックレスポンスも不可能ではない。でも、すでにある程度の在庫を積んでいるから、ショーオンリーの商品の受注・生産なんてちまちましたことは行わないだろうが。

 結局、リアルイベントによって在庫リスクを抑えたいのなら、ショーの時期を早める必要がある。シーズンインでの予約会で、どれほど在庫リスクが抑えられるかは懐疑的だ。また顧客サービスなら、ショーそのものの完成度を高めなければならない。
 それでなくても、リアルクローズを利用した「客寄せ興行」は盛んだから、ポイント付与率以上に顧客に商品を買わせる仕掛けが不可欠だ。ただ、全国各地でショーを行うことは無理だから、集客は限定的。地方に住む顧客にとってはサイトで予約すれば十分だから、わざわざ出かけて見たくなるような価値が必要になる。
 莫大なコストをかけたショーで、どれほどの予約売上げが上がるか。継続して行くには、その辺のバランスをじっくり検証することが非常に重要になる。また、新規ブランドの出店手数料が30%程度まで上がり、メーカーからは「ボリ過ぎ」との不満がでている。それだけにそうした課題を一蹴するほどのイベントに持って行けるかがカギになるだろう。

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表彰台ジャージにイタリアスポーツ界の美意識を見た。

2012-08-08 17:28:59 | Weblog
 ロンドン五輪のフェンシング男子フルーレ団体で、日本チームは銀メダルを獲得した。その表彰式を見ていて感じたのが、日本チームと金メダルを獲得したイタリアチームのジャージの「違い」である。
 日本選手はJOCの公式スポンサーであるミズノの「表彰台ウエア」を着る取り決めのようで、みな上着の衿と袖口、裾に白と赤の三本ラインが入った上下「華紺」のジャージ姿である。
 ミズノは五輪に対し北京からロンドンまでの4年間で30億円(1年間で7億5000万円)を投資。現地で過去最大規模のミズノパフォーマンスセンターを展開し、ブランド発信に力を入れている。
 当然、今回の表彰台ジャージは、一般向けにレプリカが販売される計画になっており、日本人選手のメダルラッシュでメディア露出も増え、問い合わせが殺到していると聞く。やはり五輪効果は絶大で、ミズノのマーケティング戦略は奏功したと言えそうだ。
 
 一方、イタリア人選手は、上着の胸元とボトムの腿にロゴマークが入ったシンプルな「鉄紺」のジャージを着ている。こちらはミラノコレクションの帝王、ジョルジオ・アルマーニのデザインによるエンポリオ・アルマーニ。表彰台ジャージは、「オリンピックキット」として代表選手に支給された50アイテムのうちの一つになる。
 ただ、スポーツウエアでありながら、クラシックなイタリアンエレガンスを打ち出すために、70年代まで用いられた白とミッドナイトブルーのカラリングが全アイテムに採用されている。筆者が呼ぶ鉄紺は、古き良きイタリアのスポーツカラー、ミッドナイトブルーのことである。アルマーニは今回のオリンピックキットで、その伝統との連続性を見事にリクリエイトしたと言える。

 では、両者の違いは何か。まず日本の一スポーツメーカーと、世界的なファッションブランドが上げられる。また、スポーツウエアの延長線で企画した製品と、スポーツアイテムでもファッション性を重視したこともあるだろう。ここまで書くと、日本がダ◯くて、イタリアが◯ッコ良いと言っているように思われがちだが、決してそうではない。
 日本の表彰台ジャージも、1998年の長野冬季五輪くらいからクローズアップされるようになり、五輪を重ねるごとに進化、向上している。式だけの着用なら動きやすさや発汗性などスポーツウエア特有の機能性は必要ない。今回は細身の日本人選手に合わせてパターンも改造されたようで、上背があって手足が長い水泳選手陣はとても似合っていた。

 ただ、根本的な差は、やはり「色」とそれを打ち出す「素材」だろう。写真を見る限り両ウエアとも平編みで裏毛のジャージのようだ。ただ、色は日本が明るい華紺であるのに対し、イタリアはシックな鉄紺。同じ素材や編み立てでも重厚さがまるで違う。
 ミズノの場合、機能性ウエアではないことから、おそらく素材は出来合いのものを使用したと思われる。長野五輪のウエアと色のトーンが大きく変わったとは思えないからだ。
 しかし、アルマーニは今回、伝統色のミッドナイトブルーを再現するために、素材探しには相当こだわったのではないか。同社のカラーチャートに同じ色があれば調達は簡単だっただろうが、もし微妙に違えば、「染め」から行なったはずである。
 まさにミッドナイトブルーのジャージは、CMYKによるデジタル配色では表現できないナチュラルカラーの溶け合いで、スポーツウエアをファッションアイテムに昇華させた。筆者が「鉄紺」と呼ぶ理由はそこにある。

 たかがジャージである。そして、ミズノの戦略も十分に評価される。しかし、日本の華紺とイタリアの鉄紺の微妙な色合いにファッションに対する造詣、それ以上に色や素材に対する飽くなき追求心の違いがあるのも確かだ。
 イタリアでは世界に発信するオリンピックのメダル授賞式=公式の場に着るのは、「されどジャージ」なのである。クリエーターのアルマーニがデザインする所以もそこにある。イタリアスポーツ界の美意識は、日本よりはるか上のところにあるように思えてならない。
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百貨店の最上階に「コムサ」を 展開する意図が分からない。

2012-08-02 11:26:19 | Weblog
 先日、当コラムでキャナルシティ博多のファストファッション構想で、既存テナントが売上げ減の煽りを食ったと書いた。ただ、それ以前から苦戦が続き、ファストF導入景気で一気に撤退を余儀なくされたコムサストア。ここで展開されていたブランドを再編集した「コムサスタイル」が9月14日、天神の福岡三越に登場する。
 場所はギャラリー&催事場がある9階。ベビー・子供服の売場の一部を改装した550m2ほどのスペースに、キャナルシティ博多にもあったファミリー向けの「コムサイズム」と雑貨の「モノコムサ」、 50代のミセスに向けた「コムサマチュア」、ファミリー向けジーニングカジュアルの「パープル&イエロー」が加わる。さらに既存の飲食業態も「コムサカフェ」に転換するというから、さながらコムサフロアといった様相だ。

 三越伊勢丹グループでは、伊勢丹系の「岩田屋」との棲み分けを明確にする必要があり、ターミナル型百貨店の福岡三越は、乳幼児をもつファミリーや中高年のミセスを廉価な商品で再攻略する狙いのようだ。岩田屋がキャリアOLを主体にしたMDを組んでいることを考えると、この戦略は理解できなくはない。ことファッションに関して、伊勢丹主導で行なわれていることを考えれば、なおさらだ。
 また9階というフロアがこれまでイベント頼みの集客で、ベビー&子供服のテコ入れが必要だったことも考えられる。三越が開業時から自慢げに標榜して来た「シャワー効果」もすでに形骸化しており、ピンポイントで集客できるブランドが欲しいというのが本音だろう。

 しかし、実際にどれほど期待できるのだろうか。天神、しかも駅ビルという立地、三越という店舗イメージ、コムサスタイルでは中途半端なスペース、キャナルシティ博多での苦戦などを考えると、とても9階を活性化できるほどのコンテンツとは言い難い。
 まずコムサイズムは、郊外SCではメンズからキッズまでのフルラインナップだが、三越の売場スペースやMDの補完関係を考えると、ウエアはキッズとベビーがメーンになるのは想像に難くない。仮に雑貨を含めてファミリーを意識したとしても、3階には同じくフルラインナップで順調な売上げを誇るギャップがあるわけだから、どこまでファミリーを捕捉できるかは疑問だ。これはコムサイズムと並んでスタイルを構成するパープル&イエローにも言えることである。

 逆にベビーとキッズを主力にしても、先日、南充浩さんがご自身のコラムで記されていたように、子供服は「出産祝いや誕生日プレゼントであることが多い。その際に贈り主が重視することの一番はステイタス性のあるブランドかどうかである。知り合いの出産祝いとして贈るのにわざわざ低価格品として認知度の高いブランドを選ぶ人は、相当少数派だろう。やはり、高額イメージのあるブランドを選ぶ」のである。
 筆者も実際にこの経験をして来たし、業界関係者からも口々に同じことを聞いてきた。コムサイズムのクオリティや価格、そしてブランド力を見れば、とてもギフト商品足るとは思えない。
 乳幼児をもつ親をお客に設定するにしても、天神、ターミナル百貨店という立地、三越イメージからして、わざわざ買いものに行くとは考えにくい。三越には3階にギャップがあるわけだし、コムサイズムは郊外SCの方がはるかに充実しているから、お客がギャップより階上に上がるとは思えないのである。

 一方、もうひとつのウエアブランド「コムサマチュア」は、文字通り、熟年ターゲット、50代以上の中高年女性に向けたものだ。
 百貨店のお歴々からは、また「コムサイズムを購入するファミリーの親世代に位置づければ、3世代を捕捉できる」なんて安直な戦略が聞こえて来そうだが、このブランドにも疑問がある。
 なぜなら、マチュアはすでに岩田屋のミセスフロアで展開されており、商品はジャケットが16,800円、チュニックドレスが14,700円、 パンツが8,820円程度。グレード、価格帯、感度ともにコムサイズムよりはるか上のモデレートラインに入る。ヤングファミリー向けでポピュラー価格のカジュアルと一緒に展開すれば、必ず浮いて見えるだろう。
 第一、昨今のライフスタイルを考えたとき、乳幼児をもつ家族とその親世代が一緒に買いものするなど、考えにくい。やはり、岩田屋のような単独のハコ展開の方が集客、販売ともやりやり易いと考える方が自然だ。

 岩田屋では8月に入り秋物が展開されているが、猛暑が続く中で、他のブランドと同様に出足は相当鈍いようだ。でも、シーズンを通してみたときに、はたしてどれほどの顧客を引きつけるブランドなのか。
 DCブランド全盛期に一世を風靡した「コムサ・デ・モード」。そのデザインセンスやクオリティを知っている世代が50代に入っているが、コムサマチュアを見れば、「野暮ったいおばさんブランド」と感じるだろう。
 マチュアにコムサ・デ・モード の系譜はなく、かつてのファン客を取り戻せているとは思えない。 調達スタイルはイズム同様に商社丸投げに変わりはないし、企画の狙いは売れ線狙いというか、サイズ感重視と思われる。むしろ新たに開拓したい中高年女性向けで、「ド・コンサバファッション」の域を出ないとうのが率直な印象だ。

 岩田屋の店舗が福岡三越オープン後も継続されるのなら、コムサマチュアは天神2店態勢になる。はたしてそれほど期待されるブランドなのだろうか。筆者にはとてもそうとは思えない。
 岩田屋のマチュアはハコ展開だから、壁面什器をいじくる程度で容易に移転できる。もしかしたら、9月に福岡三越に一本化されるかもしれない。同じ百貨店グループなのだから、棲み分けや効率性を考えれば、そちらがいいはずである。
 もっとも、コムサマチュアが福岡三越に導入されたところで、ローカルメディアが好きな「九州初」「福岡初」ではないわけで、顧客にとっては新鮮さを欠く。以上のことから、コムサスタイルが福岡三越の最上階を活性化するようなコンテンツになるとは、とても思えないのである。
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