HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

やり甲斐採用なら一括も通年もない。

2011-12-28 10:25:45 | Weblog
 企業の採用活動が12月1日からスタートした。2010年までは9月下旬開始だったから2~3ヶ月遅れとなったわけだが、
一部の識者や学生の中には、未だ企業の一括採用を批判する声が少なくない。
 勉強する時間を削って、就職活動を行うことに意味があるのか。景気によって職業選択のチャンスが変わるのはおかしい。
たった一度の就職活動で人生が決まるのは、社会の硬直化を招くetc.などがその理由だ。

 こうした方々は新卒一括より通年採用を行なえというお考えのようだが、人材が流動的なファッション業界では、通年採
用がかえって学生の就職意欲を削ぎ、モラトリアムを助長するように思う。それどころが、通年採用になったからと言って、
人気のブランドやショップへの希望者が減るとはとても考えにくい。
 結局、身の丈に合った現実的な就職先が見いだせないままダラダラ就活を行なう学生が増えていく。そして、卒業しても
フリーターを続けたり、無職のままだったりして、時間だけが過ぎ去っていくのだ。
 逆に考えると、とにかく洋服が好き、洋服を作って多くの人に着てほしい。そのために織りや編み、染色や加工、デザイ
ンやパターン、縫製、MDや管理、卸し、仕入れや販売までのいずれかに興味があって、少しでも理屈がわかっている学生
こそ、業界に入っていくべきなのだ。就職と言うより「自己実現」だ。
 それには一括採用も通年採用も何の意味も成さない。働きたい人間でないと仕事ができないからである。
 
 未だに階級社会が残る英国やフランス、また徒弟制度で技術伝承が行なわれるイタリアやドイツなら、学校で学んだこと
で一生食っていけるかもしれない。しかし、グルーバル経済と環境変化に左右される日本で、そこらの学校で身につけた技
術や能力がいつまでも通用するとは思わない。
 まして夢を安売りしてパフォーマンスで終わる専門学校や、浮世離れのマスターベーション的講義を押し付ける大学で、
業界で仕事ができる人間なんか育成できるはずがないのである。
 先頃、京都の繊維加工のプロ集団が大学服装学部の教授や学生90名を受け入れ、グループ所属の各企業で技術研修を行な
った。内容は捺染や絞り、プリーツ、製品プリント、整理など多彩な分野にわたり、国内外の著名デザイナーや有力ブラン
ドの受注をこなすノウハウに触れるものだ。まさに職人的でありながらたえず進化する高度な技術の体験学習こそ、業界で
仕事をする上で不可欠な勉強だと思う。

 企業側も一括だの通年だの画一的なスタイルで学生を選抜するのではなく、志し高く自己実現したい人間を集める方がよ
ほど戦力になると思う。新卒だろうと、既卒者だろうと、フリーターだろうと誰でもいい。こんな服を作りたい、こんな店
で商売したいという人間を集めていくべきだ。
 そして、企業は彼らに「なぜ、そうなのか」と問い質す。彼らは「そのなぜに答える」。そうしたやり取りで双方は考え
る力を育み、仕事の機会を増やしていけるのだ。企業は社員の自己実現を通じて、存在価値を認め、やり甲斐を提供する。
社員も一生懸命仕事をして、自分の立ち位置を見つける。
 大卒で染色工になっていもいいじゃないか。専門学校卒で店舗経営者になれなくはない。環境の変化が激しい業界だから
こそ、挑戦的な人間の方が柔軟に対処できるはずだ。そうした門戸を自ら狭めるようでは、業界の将来にとても光明は見い
だせないと思う。

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マンネリの神戸コレと苦戦するA|Xの参加。

2011-12-22 11:11:37 | Weblog
 来年で10周年を迎える神戸コレクションが3月10日に開催される。この種のショーイベントは、アパレルメーカーが
企画販売するブランドをタレントに着せて、お客に見せる「客寄せ興行」であって、モードファッションのクリエーシ
ョンをお披露目するコレクションではない。
 一方で、イベントプロデュースには、減少するCM収入に変わる事業として「テレビ局」が当たり、むりやり「活性化」
や「産業振興」などの「大義」を掲げて行政から「公金」を引き出し、スポンサーまで付けて収益を確保する新たな「ビ
ジネスモデル」と化している。

 それでも、回を重ねるごとに当の商品が進化していけばいいが、エレガンスの匂いが強い神戸アパレルから「弩・コン
サバ」感が薄れるはずもない。結局、主催者側にとって20回も開催すればマンネリは否めず、お客受けするタレントを芸
能事務所とのバーターでかき集めるくらいしか能がないのだ。
 まあ、渋谷発のガールズアワードでさえ、集客の限界から音楽を融合させる程度の企画力(韓流タレントまで出演させ
る)だから、タレントで釣るしかないファッションイベントが陳腐化するのは無理もないだろう。
 主催者側はコマ不足からいろんなブランドにオファーを出しているようで、今回、「A/X アルマーニ・エクスチェン
ジ」に白羽の矢を立て、初参加に至ったようだ。
 ブランドが参加する理由はプレス&販促の強化には違いないが、背景には販売の苦戦があると見られる。そもそもアル
マーニ・エクスチェンジは、「100ドル以下で買えるアルマーニ」をコンセプトに、カジュアルゾーンで一定の市場規模
をもつ米国でスタート。1号店がニューヨークのソーホーにオープンし、アウトレットも展開されたことで、一気にメジ
ャーとなっていった。

 ブランドデビュー当初は、ジョルジオ・アルマーニ氏も企画に参画し、色のトーンに得意のサンドベージュを取り入れ
たり、ジャケットのショルダーラインであのナチュラル感を打ち出してたりしていた。
 ところが、チープな価格でワールドワイドのボリューム市場の攻略を狙うあまり、2000年以降は次第にストリートテ
イストを強めていった。店舗展開はアジアでは香港や韓国にも出店されたが、日本進出は2007年までずれ込んだ。
 日本上陸当時、A/Xを担当するプレシディオHDのトム・ジャロルド上級副社長は、「3~5年をめどに郊外ショッピ
ングセンターを含む20カ所前後に開設し、年商100億円程度を目指す」と語っていた。しかし、11年12月現在、店舗は
東京・渋谷の旗艦店他、千葉や横浜のララポート、イオンレイクタウンなど首都圏の5店舗に止まっている。
 プレシディオHD社は、A/Xについて低価格から「若者」をターゲットにすると言うが、日本でアルマーニのブランド
価値を認めているのは40代後半以上の富裕層だ。いくら不況で高級ブランド離れが進んでいるとはいえ、大人のアルマ
ーニファンからすればA/Xのグレードやテイストは、「アルマーニじゃない」のではないだろうか。
 逆に今の若者はアルマーニのネームバリューなんてほとんど知らないだろうし、A/Xよりも彼らの感性にフットした
手頃なブランドがいくらでもある。当然、売れなければデベロッパーのリーシングはなく、店舗展開は遅々として進ま
ないというわけだ。

 プレシディオHD社は伊のアルマーニ社とは別法人であるが、アルマーニ社の企業戦略は他のラグジュアリーブランド
とは異なり、上場もせずファンドの力も借りず、すべて自己資金で賄うというもの。それゆえ、世界中の一等地に出店
する店舗はすべて借地だし、収益に見合った店舗展開しかしていない。こうしたDNAが同社にも引き継がれているとす
れば、出店の遅れはむしろ堅実経営の現れと見ることもできる。
 ただ、コストのかかる店舗展開は別として、ブランドのネームバリューをあげるには、やはりプレスやプロモーショ
ンは不可欠だ。昨年4月には、ご多分に漏れず宝島社の付録付きのムックを発売。今年9月にも第2弾が発売され、他
の雑誌でもタイアップ企画を活発化するなど、プレス活動には積極的だ。
 それでも、特別なヒットアイテムに恵まれたわけでもなく、日本におけるヤングマーケットの攻略は容易ではないと
見られる。コレクションでたとえ舞川あいくや安座間美優が着たとしても、ブランドの安っぽさを払拭するまでには至
らないと思われる。
 まあ、タレント価値が下がり気味の蛯原友里や押切もえに着られると、かえって逆効果と考えられなくもないが。
 
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似非アウトレットに明日はない。

2011-12-14 19:04:22 | Weblog
 「駅直結のアウトレットモールという暴挙」「アウトレット用に製造された商品に感じる違和感」のブログ(blog.livedoor.jp/minamimitsu00/)について、筆者もフォローしたい。
 そもそもアウトレット誕生の背景には、ルーツである米国ならではの「大量生産」や「大量仕入れ」がある。
どうしても生地段階でキズがある商品や、レギュラー売場でさばききれない商品が発生するため、こうした商
品を最終処分して「現金化」し、メーカーや小売業の「キャッシュフロー」を押し上げるために、アウトレッ
トは開発された。
 だから、そこには生産から卸し、小売り、さらに在庫処分と、バーチカルな消化システムがあり、安売りは
あくまで「手段」で、「目的」ではない。
 日本に目を向けると、ブランドメーカーはここ数年、売上げが落ち込んでいるため、企画生産する商品を絞
り込み、数量も抑えている。また、売れ筋商品は利益率の高いレギュラー売場で販売したいと考え、正価のう
ちにショップ間を移動させるなど、消化に全力を注いでいる。これが商品をアウトレットに流通させにくくさ
せ、専用品の投入に走らせる一因でもある。

 一方、アウトレットに出店する小売業の中には、「バーゲン比率が下がった」と語るところもある。レギュ
ラー売場で鮮度が維持でき、ブランドイメージを高めることにつながるからだ。
 しかし、それがバイヤーの能力低下を招いたことには意外に気づいていない。バイヤーはつい、「正価で売
れなければアウトレットがある」と考えるから、自店の客層やMDを無視した仕入れに走ってしまう。
 いくら現金化できるといっても、アウトレットに出す商品が増えれば、荒利の低下は避けられない。特に大
手セレクトショップは、インポートなどの高額品が消化できないと、アウトレットに回す傾向がある。 
 ただ、メーカーではないから専用品は作れないし、回す商品もごく限られる。なのに堂々と出店し、しかも
多店舗化できているのは、何らかのカラクリがあると思わざるを得ない。もし、新たに「安売りの商品」を仕
入れているとしたら、それはもはやアウトレットではなく、「オフプライスストア」だ。

 アウトレットには小売業が運営する「リテールアウトレット」がある。ユニクロやギャップのように生産機
能を持たないSPAは、シーズン頭に商品を大量にローコストで調達し、時間をかけて売り減らしていく。その
ため、お客の好みや流行を読み違えれば、大量の在庫をかかえてしまう。 こうした在庫を格安で販売するのが
リテールアウトレットだが、それは正価の荒利が35~50%あるからこそできるのだ。
 アウトレットがメーカーにも、小売業にも合理的なシステムであることは認める。しかし、それが「正価で
売る力」を低下させているのは否めない。
 メーカーはきちんと計画を立てて生産し、小売業は実需にあった仕入れを行い、商品を売り切って適正な利
益を上げることが原理原則である。それがブランドメーカーであり、有名小売業であるはずだ。しかし、そう
したネームバリュウをアウトレットの集客のために利用するのは、販売力はもちろん、企業力が落ちている証
拠ではないか。

  巷には低価格業態があふれている。安さに慣れてしまった日本で、もはや30%~70%オフなんて何のイン
パクトもない。価格メリットでは、アウトレットの優位性は無いに等しいだろう。
 また、アウトレットの魅力の一つ、海外の高級ブランドは、 アウトレット出店のために日本に出店したわけ
ではない。あくまでレギュラー店の拡大が目的で、余った在庫があって始めてアウトレット出店ができるのだ。
 すでにデベロッパー間での激しいブランド争奪戦が繰り広げられているようで、テナント不足による国内ブ
ランド誘致や専用品販売がさらに進んでいる。だから、有力なテナントなしに開業したアウトレットが、じり
貧になるのは火を見るより明らかだ。

 強かな海外ブランドは後から魅力的なモールが開発されれば、商品量を確保するために既存のアウトレット
を閉店し、鞍替えする可能性は十分考えられる。それが東アジア規模で展開されるのも不思議ではない。 
 それゆえ、日本のアウトレットにはこれ以上の魅力的な品揃えは期待できないと思う。消費者ももう少し賢
くなってアウトレットを見ていかないと、デベロッパーやメーカー、小売りの思うつぼである。
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実績をつんでもポストがない業界。

2011-12-09 16:09:09 | Weblog
 ファッション業界で大卒、高卒を問わず、将来がどれほど約束されているかというと、それは極めて不確定である。筆者が業界に入った80年代は数年の経験を積むと、「独立」する人が圧倒的に多かった。
 一つは「メーカーを立ち上げる」だ。業界で数年も働けば生地問屋や工場などにも人脈ができるので、メーカーを興すのはそれほど難しくはない。もう一つは「ショップを経営する」である。洋服を扱っている以上、 自分が思い描く「店」を構え、商品を仕入れて売ってみたくなるのは、自然の流れだった。
 それゆえ、大手企業の場合は同期入社が5名いれば、営業やデザイナーの1名くらいが、そのまま販売部長や企画の責任者などの幹部として残ったのである。

 ところが、90年代以降は右肩上がりの成長が望めなくなり、会社に残りたくても残れなくなった。5名入社しても会社が必要とする幹部は1名程度でいいのだから、必然的に30代後半になると次第にポストや仕事が無くなっていく。小売りやSPAは「店長」が一つの区切りだが、その後に「エリアマネージャー」や「スーパーバイザー」が用意されているところは、それほど多くない。
 メーカーでも、40代で部長職やMDのチーフというポストがあるのは大手のみで、中堅以下は自分より年下が対象の商品で営業やMDをそのまま続けるか、別のメーカーを興して独立するしかないのである。
 学生向けのリクルート資料には将来のポストや職種が明記されているが、今のファッション業界でそこまでを誰が予測できるというのか。来年の売上げ予想すら立てるのが難しくなっている時代にだ。
 だから、水面下で「肩たたき」が頻繁に行なわれていると思う。表向きは自主退職であっても、ポストや仕事がなくなれば会社を去らざるを得なくなる。筆者の知り合いにも何人か該当者がいる。

 大手NBメーカーでデザイナーなどを経験したY氏。有名セレクトショップの開発にも携わった人物だ。このメーカーでは企画職がブランドの責任者などのポストを得ると、その売上げ予算で年収が決まる。
 言い換えれば、ブランドが売れなければ年収は下がり、中止ならポストも仕事もなくなるのである。現在、Y氏はこのメーカーを去り、奥さんの実家の米屋を継いでいる。
 大手チェーンストアでディスプレイやデコレーションに手腕を振るったM氏。30代で販促課長まで上り詰めたが、バブル崩壊後は「10万円の予算で100万円程度の演出を行なえ」と、無理難題を押しつけられて退職。地産地消の食材を扱うレストランに再就職し、その後、青果店を経営していたが、今年になって閉店。現在は警備のアルバイトをやっているという。
 Y氏もM氏も、ともに男性だから専門職でいくら活躍しても、ある程度の年齢になればポストや仕事がなくなるのが業界の現実なのだ。

 逆に女性は将来のポストが約束されない反面、販売職という「雇用」は年齢に関係なく用意されている。友人のHさんは、中堅のチェーンストアで敏腕バイヤー、ブランドショップの店長として活躍した後、数年の充電期間を経てオーダーメイドの会社で催事販売を担当。今は生命保険会社のカウンセラーを務めているが、それは販売職時代の経験と実績を買われてのことだ。
 別の友人のKさんは、専門店の店長からNBのセールスコントローラーを経て、今は東京のメーカーに勤務。レディスは中高年になってもブランド、アイテムともに豊富だから、経験さえあれば就職は引く手あまたなのだろう。昨年、何年かぶりに再開し、往年のカーリーヘアにドン引きしつつも、元気な姿には安堵した。

 かつて業界を目指す男子に対し、「メンズファッションは30歳を過ぎると、メーカーもブランドも少なくなるから、ずっと一つの会社で働くならレディスを選んだ方がいい」とアドバイスしていた。
 しかし、今後は「将来は経営者を目指すか、独立するか、別の業界で働くか。目標を決めて業界に入らないと、先のポストも仕事も見えない」に切り替えなければならないと思う。
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大卒=幹部候補は幻想に過ぎない。

2011-12-04 11:15:49 | Weblog
 先日、とあるブログで紹介されていた「ユニクロが大学1年生から採用する」は、筆者も拝読していた。
恐らく柳井社長の真意は、店長育成=幹部候補の確保=将来の経営者予備軍を見据えてのこと。その前提が
「店長」なるわけだが、幹部育成はそれほど簡単にはいかない。かつて柳井社長には苦い経験があるからだ。

 同社は1998年のフリースの大ブレークにより業績を急拡大したが、ライバル参入によるブーム終焉や商品
構成の陳腐化で、成長は減速。2002年に柳井社長は日本IBMから転職した玉塚元一氏に役職を譲ったが、業
績を立て直したのはわずか1期止まりで、あっさり更迭した。
 玉塚氏と同時期に役員となった澤田貴司、森田正敏両氏は伊藤忠商事の出身。その後に委任型執行役員制
度、事業子会社制度を導入した松下正氏は、弁護士、日本GEの副社長からの転職だ。
 つまりこの頃のユニクロはとにかく経営体制を強固にするために一流大学、一流企業出身のエリート幹部
を揃えようとした。しかし、経営陣が考えるように現場が動くとは限らない。売場スタッフはアルバイト中
心でマニュアル通りの作業しかできない。頭で考えて仕事をすることなど無理だったのである。

 結局、頭でっかちのエリート幹部と、言われたことしかできないアルバイトの乖離は大きく、短期に溝が
埋められるはずもない。それがはっきり業績にも現れたのである。復帰した柳井社長は、2003年に「10年
に売上高1兆円企業に成長する」を標榜し、ブランド企業のM&Aや新規事業の立ち上げなども行なった。
 そうした中で、05年には「経営者は育てられません。創業者募集」。こんなキャッチコピーの求人広告を
全国紙に掲載した。玉塚氏や他の幹部が攻めの経営に出られない歯がゆさが、柳井社長をこうした経営者募
集に駆り立てたと言える。
 だからといって、同氏のようなカリスマ経営者の後任が簡単に見つかるはずもない。未だに自身が社長職
を務めているのが何よりの証拠だ。そのため、幹部候補や将来の経営者は1本釣りだけでなく、現場から育
てていくことにも目を向けざるを得なくなったと思われる。

 ただ、それに大学1年生が適合するかと言えば、甚だ疑問だ。内定をもらったとしても、キャンパスライ
フやクラブ活動を行なううちに心変わりするかもしれない。柳井社長の腹の中には、それくらいの目減り分
は織り込み済みだろうが、4年後にどれほどの人間が入社するかは未知数である。
 大学生になると、人格や人間性は固まり、対人関係でも巧みになっていく。ユニクロのようなチェーンス
トアこそ、店長を店舗経営者として考えるならば、より若いうちから現場で経験を積ませた方が必要な知識、
判断基準、価値観は身に付くはずである。 
 変に理屈をこね回して、言い訳がましい御託を並べる大学生より、すべてに素直で吸収が早い高卒の方が
店長としての適格性は高いように思える。それからさらに幹部、経営者を目標とさせるなら、今度はトップ
マネジメント研修やキャリア教育(MBA取得など)をユニクロ本部が行なえばいいのである。

 前出のようなエリート幹部がなぜ業績を上げられなかったかといえば、現場の経験がほとんどないからで
ある。澤田氏にしても森田氏にしても店舗にいたのはわずか半年程度で、本部に呼び戻されている。それで
売場スタッフの実態が理解できるはずもない。まして、お客さんから信頼されるわけがないのである。
 柳井社長が「店は客のためにあり、店員とともに栄え、店主とともに滅びる」と、店長に経営者としての
志を求める以上、純粋に商売の原理原則を理解させるのが先だろう。3000円のシャツを売って、1500円を
儲けるにはどうすれば良いか。スタッフの傷みがわかるからこそ、スタッフを動かすことができる。そうし
た単純ことはより若いうちから現場で学んだ方がいいし、経営者としての素養にも結びつくはずである。
 いくら店長は経営者と言っても、店舗商売には一種の泥臭ささは拭えない。ベンチャー企業を立ち上げて、
株式公開で創業者利益を得たり、企業再生やM&Aを仕掛けて高額の手数料収入を得るようなスマートビジネ
スと、同次元で見てはいけないと思う。
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