HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

elasthanneってどんな繊維?

2014-09-24 12:03:01 | Weblog
 H&MやZARAなどユーロ系のグルーバルSPAの海外進出によって、PCやスマホ向けのサイトでは本国表記による繊維の名称やブランド名が、そのまま日本語表記されるケースが多々見られる。典型的なのが「elasthanne」だ。

 これはヨーロッパ発のブランドでは最近、素材表記で頻繁に見かけるようになった繊維の名称。日本語読みにすると「エラスタン」。日本人には聞き慣れない繊維名だが、米国では「スパンデックス」と呼ばれている。

 日本では東レが「オペロン」、東洋紡が「エスパ」、旭化成が「ロイカ」、日清紡は「モビロン」と、繊維メーカーによってもいろんなブランド名がある。ただ、繊維名としては、エラスタンもスパンデックスもみな同じ「ポリウレタン」だ。

 繊維は綿や毛、麻などの天然素材、ポリエステルやナイロンなどの合成繊維の糸を100%または混紡にし、さらにいろんな織り方によって何十万通りもの組織が再現できる。そのため、テキスタイルメーカーでは自社の繊維をより有名にするためにブランド名を付けることが慣例になっている。

 かつてスーツやジャケットの裏地を「ベンベルグ」と呼んでいたことがある。これは旭化成が開発したコットン系の再生セルロース繊維で、同社の登録商標、いわゆるブランド名であった。

 他社でも同じ繊維を開発・販売しているため、最近では商品表示では一般繊維名の「キュプラ」で統一されている。旭化成は表示がベンベルグからキュプラに変わるときは、わざわざテレビCMで自社ブランドをアピールしたくらいだ。

 一方、エラスタン、いわゆるポリウレタンは、ゴムのように500%以上もの伸縮性があり弾性繊維である。でも、ゴムのように老化せず、はるかに細い糸にすることができ、さらに染色も自由になる特長をもつ。

 コットンなどに数%混紡すれば、「ストレッチ性」が出せて「染色可能」なため、ファッション服地に用いられるようになった。伸縮性があるから、最近のトレンドであるスキニーをはじめとした細みのボトムには、もってこいというわけである。

 欧州のブランドでは、ドレスやジャケットにも使われており、ZARAでもサイトの素材表示には昨年まで「2%elasthanne」とかと表記され、日本語版にもカタカナで「2%エラスタン」とそのまま日本語読みに訳されていた。

 ただ、欧州では一般的な繊維名だと言っても日本ではなじみは薄い。だからサイトの表記を見ただけでは、消費者はどんな素材なのかわからなかったはずである。グローバルSPAという立場からすれば、あまりに不親切と言わざるを得ない。



 そう思いながら、この秋のサイトを見ると、 ちゃんと日本表記の「ポリウレタン」に修正されていた。 本国表記をそのまま日本語読みにするのではなく、日本で使用される繊維名に変える。この辺もグローバルSPAにとっては不可欠な対応策だ。

 尤も、ZARAは世界中に出店しているため、品質表示タグは展開国の言語分だけ束のように付けられている。それには欧州向けは「elasthanne」、北米向けは「spandex」、日本向けは「ポリウレタン」と表記。ネット向けの対応が遅れていただけかもしれない。

 まあ、日本語で「綿」といっても、「cotton」(英米)「coton」(仏)「baumwolle」(独)「bomull」(スウェーデン)「algodon」(スペイン語)と繊維の呼び名は異なる。それをZARAはご丁寧にすべて表記している。



 英語に統一すれば良いという考えもあるだろう。ちなみにユニクロはフランスのサイトでも商品説明は英語表記で、 elasthanne ではなくspandex。もちろん、日本ではポリウレタンである。一概にどちらがどうのではなく、これは企業文化の違いだと思う。

 かつてギャップが世界展開をはじめた時、ジーンズの丈は短め、普通、長めと3種類揃えていた。「世界中のスタッフがみなミシンがけを簡単にマスターでき、お直しに対応できるわけがない」「その技術を一様に教育し習得させるとなると、莫大な時間とコストがかかる」

 規模の拡大を重視するなら、3レングス用意した方がローコストで済むという発想だ。ユニクロも一時はギャップに倣い、3サイズを用意していた時期もあるが、今は1レングスだ。

 日本では1レングスで丈上げを行うのが一般的だ。器用な国民性もあるが、3サイズも揃えるとかえって型数が増えて、在庫を抱えるからという理由もあるだろう。こちらは日本的な発想と言える。

 素材の表記は商品タグを増やすか。英語表記に統一するか。世界中のみなが英語を理解できるわけでもない。発展途上国になれば、なおさらだ。つまり、どちらがコストダウンになり、顧客満足につながるかは、簡単に答えは出せないようである。
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実情を知らないか、見栄張りの道楽か。

2014-09-17 11:03:26 | Weblog
 福岡大名1丁目の一角、コムデギャルソン福岡店が移転して1年が経とうとしている。このブランドは顧客中心で成り立っているので、2002年のオープンから11年も大名のストリートで営業を続けられたのは、何となく理解できる。

 ここ数年はアジアからの観光客が開店を待つ光景も見られたが、もともと一見客がフラッと立ち寄るようなショップではない。ファン客が来なくなると、ストリートを歩くお客の絶対数まで減った感じがするから不思議な思いだ。

 「天神西通りから大名にかけては福岡のファッション発信地」なんぞと、平気で宣うノー天気な専門学校生はさておき、マーケットの現実を見ればもう、ファッションビジネスがペイしないエリアになりつつあると思う。

 その顕著な例が天神西通りの近いエリアで起こっている。ここは立地的には旧コムデギャルソン福岡店よりはるかに有利なのだが、ショップの出退店が後を絶たない。

 数年前、地場アパレル系デベロッパーが築40年ほどのビルをテナントビルに改装した。店子には同社がFCで展開するショップ他、かなりの店舗が誘致されたが、1階はABCマートを除き、ほぼ入れ替わっている。
 
 向いのビルもその前に同じデベロッパーが開発したが、テナントの出退店が相次ぎ、空き店舗もある。立地条件が良いこのエリアですら、店舗経営は中小零細ではそう簡単ではないようだ。かといって大手資本でも、黒字店舗はほとんどないだろう。

 斜向いにあるビームス福岡店は、11月に開業するパルコ新館に移転する。ユナイテッドアローズのB&Yやジャーナルスタンダードは、当にソラリアプラザやパルコに移転した。知名度のある店舗ほど、路面にこだわる必要はない。そんな空気が大名にはまん延する。

 天下のビームスですらビルインと路面の違い、天神とわずか数百メートルの差が集客に大きく影響するという判断を下さざるを得なかったのだ。

 終日、人通りで賑わう天神西通りから少し入っただけで、この有り様である。まして一見客を相手にするしかない新参のウエア業態では、経営が成り立つはずはない。

 この夏オープンしたオムレツ店は、炎天下でも若い女性を行列させている。食はトレンドをはっきり提案できるからだろうか。とすれば、そこらのヤングファッションを持ってきたところで、大名地区を活性化させるほどの起爆剤になるとは考えにくい。




 コムデギャルソン福岡店が移転すると、空きビルは管理会社によってテナント募集がなされた。1階ドア脇にどデカイPOPを貼り出されたので、通行人は嫌でも目にする。

 管理会社やオーナーは、すぐにファッションやサロン系のテナントが入居すると思っていたようで、家賃や敷金など詳細は表示されていなかった。

 ところが、テナントは遅々として集まらず、コムデギャルソン時代のホワイトウォールはタギングのキャンバスと化している(9月17日には消去されてきれいになったが、いたちごっこになる可能性は高い)。店頭のコンクリートは剥がれているので、風雨にさらされ、車の往来でガラスは埃まみれになる。



 管理会社もこれは誤算だったようで、通行人向けにも家賃や敷金、管理費などを告知した。それによると、用途は店舗で、広さは1階が21坪、家賃は坪21,500円で451,500円、共益費は坪1,000円で21,000円。敷金は8ヵ月だ。

 2階は19.69坪、家賃は坪14,000円で275,660円。3階は18.88坪、同坪10,000円で188,800円。4階は18.40坪、同坪9,000円で165,600円。上層階も共益費、敷金はとも同じ条件である。

 大名エリアはファッションストリート全盛期には、新築物件の家賃は1階で坪50,000円は下らないと言われていた。だから、半額以下になったことになる。ある商店街なんて、未だに坪50,000円で敷金20ヵ月というから、雲泥の差だ。

 旧コムデギャルソンはフロアごとにレディス、メンズ、コレクションなどと分かれていたため、店内階段の他に2.3階はビル脇の袖階段からも直接上がれる設計。だから、テナント側からすれば、1棟まるごと借りなければならないような印象を受ける。

 管理会社もその辺を感じ取ったのか。賃貸概要ではフロア切りで賃貸する点をはっきり明示している。コムデギャルソンのように1棟借りしなくていいが、1フロアのみを借りると階段がデッドスペースになり、条件は良くない。

 新規出店する場合は改装費まで含めると、初期投資でフロア当たり1,000万円は必要だろう。若者が独立して店を持てるコスト環境ではないし、仮に谷町が出してくれるにしても、店舗経営が簡単に黒字化できるとは思えない。

 仕入れが中心の小売り店を新規出店するなら、1フロアの家賃に月50万円も支払ってたんでは、最低400万円は売上げないと利益は出ない。1年もテナントが集まらないのは、少々のビジネスではペイしないことを地元経営者の多くがわかっていると思う。

 九州各地から集客する天神の隣町とは言え、天神西通りから離れていることを考えると、立地条件はかなり落ちると言わざるを得ない。 おそらく賃貸条件を変えない限り、借り手は見つからないと思う。



 オーナー側もここに来て行動に出ている。旧コムデギャルソンの2軒隣に立つ元ディズニーライクなカラオケビルがそうだ。スケルトンの壁が落書きの的になっていたが、先日、アルミパネルで覆われたスタリッシュな外観に作り替えられた。

 これでテナントの出店を待つのだろうが、ウインドウはなく、内部はカラオケボックスの間取りだと思う。10年近くも空きビルだったわけで、店舗構造のハンディを超えるだけのビジネスモデルなどありそうにない。なおさら1棟貸しでは難しいのかもしれない。

 こんな状況の大名から参加者を募る三文イベントがあるが、それを「福岡のファッションのポテンシャル」なんぞと語るのは、まさに幻想だ。何か企画をやって行政から予算を引き出せばいいと、考える凡庸な脳みそに店舗経営の実態などがわかるはずもない。

 尤も、東京の新規ビルにしても、入居するのはカフェやスウィーツ、レストランが主体。ファッションテナントも既存業態のスピンオフか、雑貨をシンクロさせたものだ。

 東京でも新規開発のビルで、こうした業態を出店したところで、採算があうのだろうか。全国向けのプレス効果や広告宣伝という考えは成り立つが。

 そう考えると、ほんの数百メートルで極端に集客力が落ちる大名エリアで、新規のファッション業態が成り立つ公算は低い。もはやそんなエリアに新規出店するのは、実情をよくリサーチしていない大資本か、見栄で出店する道楽者でしかないような気がする。
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今の市場に対応する暫定型。

2014-09-10 13:01:27 | Weblog
 先日、11月13日にグランドオープンを迎える福岡パルコ新館の概要が発表された。ストアコンセプトは、「20代~30代の働く女性、高い消費マインドをもつアダルト、ファミリーと幅広い層をターゲットに、福岡天神の新たなスタンダードプレイス、環境を提供する場として、毎日通いたくなる場を提供していく」という。

 ちょうど2月頃、当コラムで「10代後半から20代前半」のヤングは、嗜好の変化が激しいが、20代半ば以降のヤングアダルトはトレンドに左右されなくなる。だから、都市部のファッションビルがこうしたヤングファッションをリーシングしても、2年、3年と売上げを維持するのは難しいということを書いた。

 真偽のほどは定かではないが、地元専門店からは「パルコからセレクトでヤング業態の開発が打診された」という話が漏れ伝わってきた。しかし、前出のような理由から多くのバイヤーが開発に二の足を踏んだようで、キメキメのヤング業態が勢揃いというまでにはいかなかったようである。

 パルコ側もターゲットエージを上下に広げるというより、売上げが安定するヤングアダルト以上、あるいはコスメや雑貨をシンクロさせた「ライフスタイル提案」を軸に、コアになる女性客に照準を当てながら、売り逃さないマインド編集にならざるを得なかったというのが、筆者の見方である。

 テナントは45店中、24店が「九州初」、15店が「西日本初」という。でも、こうした冠も先日、熊本で計画が進む再開発ビルのケースを取り上げたが、テイストが既存業態と被ればライフスタイル提案と同様に、陳腐化した言葉にしか映らない。

 現に初上陸とは言っても、フリークスストアや雑貨まで揃えるアダム エ ロペ マガサンには、特に目新しさは感じない。強いて言えば、当面の集客の核はケイトスペードのディフュージョンライン「ケイトスペード サタデー」が握るくらいだろうか。

 ただ、このブランドのファーストライン「ケイトスペード 」は、もともとサンエーインターナショナルが米国のケイトスペード LLCと独占輸入販売契約を結び、2009年に同社との合弁によりケイトスペード ジャパンを設立して、事業を展開してきたものだ。

 サンエーインターナショナルは、11年に東京スタイルと共同株式移転により、TSIホールディングスという持ち株会社が設立されたため、その子会社となった。その後、TSI HDは、ケイトスペード ジャパン社の株式を米国ケイトスペード LLCに譲渡している。

 つまり、それまでは商品企画を日本の市場に合わせる意向が通ったかもしれないが、 現在ではバーバリー同様に完全に米国本社によってコントロールされるのである。これはサタデーも然りだ。

 商品を見る限り、バッグはそのカラリングやデザイン、価格からある程度の人気はあるようだが、NYウーマンを対象としたプレーンなウエアが、どこまで福岡のお客を捉えきれるかは懐疑的である。

 また、スマホケースなどのグッズを含めた販売手法は、すでに他のブランドも採用するビジネスモデルだ。現に福岡パルコはポール・スミスで、似たような業態をすでにリーシングしている。

 他にもコスメや雑貨を含め、テイストや販売スタイルの被りを見るにつけても、メーカー側が完全に業態開発で袋小路に入っている証拠だし、デベロッパー側もテナントリーシングに対する手詰まり感は、否めないように映る。

 ショップでは、ある意味ビームスも注目される。天神の隣、大名に構える4フロアの旗艦店を閉店し、移転する新館では2フロア展開。路地裏だった大名を表のファッションストリートに仕立てた主人公がここ数年の苦戦で、ついに「天神リロケート」を決断したということだ。

 ビームス福岡より天神西通り近くに店を構えていたにも関わらず、ユナイテッドアローズのB&Yは、当にソラリアプラザに移転している。ビームスのパルコ移転は天神と数百メートルの差は集客に大きく、JR博多シティ店の状況も加味した上での判断だったのだと思う。

 話は変わるが、ビームス福岡と同じ通りで、逆に西に離れた新築マンションの1階にこのほど、カレッジスポーツブランドの「チャンピオン福岡店」がオープンした。

 プレス発表には、「大学生から20-30代の若いエンドユーザーが多く訪れるが、飲食店も多く、女性客も少なくない」「同店が出店したのは天神西通りから少し入った、セレクトショップやアウトドアショップが立ち並ぶ先、静かで落ち着いたエリア」とある。

 ショップの話によると、日本製を主体に展開し、徐々にUS企画の商品も導入されるそうだ。ただ、ビームス福岡のケースを見ると、集客はもちろん、採算はどうだろうか。中央メディアは大名の本当の状況を知らないのだから、仕方ない面はある。

 早急な結論は出せないと思うが、運営するゴールドウィンが「パルコ新館の方が良かった」と、弱音を吐かないことを祈りたい。



 パルコに話を戻すが、新館にはカフェが計6店もリーシングされている。これも先日のコラム通り、今のマーケットの牽引役であることを如実に表す。言い換えれば、パルコが主要ターゲットをウエアだけで集客するのは、厳しいと認めたようなものだ。

 渋谷パルコにリーシングされたふなっしーの「FUNAcafe」が集客力をもち、他のウエア系のテナントがイベントを仕掛けても苦戦する状況を見ると、ファッションビルにおけるカフェ依存は、全国的な傾向のようである。

 ただ、こうしたカフェのリーシング、それによるコンフォータブルストア、癒しの空間がファミリーまで捕捉できるとは思わない。現にファミリー層が天神にいちばん求めるニーズは、乳幼児を預けたり、遊ばせる機能だからだ。

 「ベビーカーを押して、家族でゆっくりお茶する」なんてことは、幻想に過ぎない。少なくとも岩田屋のように乳幼児に対するハード&ソフトを充実しない限り、パルコがファミリー層を集客するのは難しいだろう。

 それにしても、飲食業態は物販に比べると歩率家賃は低いから、パルコ側がカフェや雑貨依存で収益を上げるには限界がある。また、飲食は一過性の流行に左右され易く、物販のように顧客化できないという課題も残ったままだ。

 まさかカフェくらいで、博多シティにある「くうてん」のように好調を維持できると思ったわけでもないだろう。そう考えると、パルコ側がいう「さらに進化する。パルコの次の業態を示す場としたい」は、「暫定型」というのが適当かもしれない。

 渋谷パルコのようにヨウジヤマモトがエドウィンと共同開発した「Yohji JEANS(ヨウジ ジーンズ)」は、リーシングされていないようだから、まだまだ地方店の域は脱していない。

 当面は天神を「そうつく」階層にアプローチする市場対応型の館というところだろう。そして、状況を見ながらテナントの入れ替えやコムデギャルソン「GANRYU」なんかのリーシングが検討されるのではないか。

 筆者なら、Yohji JEANSはY-3以外の選択肢が増えるので購入すると思う。でも、今回もまたパルコ新館のターゲットからは、外れたようである。
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まやかし事業が狙う先。

2014-09-04 06:38:26 | Weblog
 だいぶ前になるが、ちょうどお盆休み中の8月14日、福岡アジアファッション拠点推進会議のサイトで、8月6日に開催された「福岡アジアファッション拠点推進フォーラム」の事業報告がなされた。

 この事業ついては当コラムで問題視してきたが、報告内容では「すばらしいファーラムだった」を装う美辞麗句とその根拠が羅列されている。もちろん、こうした報告になるのは、こちらも想定していたから願ったりだ。

 なおかつ、推進会議がすばらしいファーラムだったと言え言うほど、矛盾点が出てくる。だから、当方としても新たなコラムテーマとなり、非常に好都合である。

 では、それをあげてみよう。報告では「従来のファッションだけではなく、コンテンツや食・観光などと合わせ『クールジャパン・フクオカ』プロモーションを行い、福岡の魅力をアピールし、集客やビジネスにつながるように情報発信を行うことを発表」とある。

 こう書けば、いかにも事業が従来のファッションから広がりを見せると受け取れる。しかし、そもそも福岡アジアファッション拠点推進会議の設立主旨では、「地場ファッション産業の振興」が目的だったはず。まず、ここで矛盾が生じてしまう。

 地場ファッション産業の振興と言っても、メーンはRKB毎日放送の事業と化したファッションイベント重視で、目的は当初から形骸化している。テレビ局の事業やタレント事務所の収入アップに貢献し、地場ファッション業界は不在なのだから、主旨自体が何の意味もなしていない。

 また、報告にあるクールジャパン・フクオカをテーマに、ファッションだけではなく、「食やコンテンツ制作と連携して、福岡の知名度向上、福岡への集客促進及び海外販路開拓を図る」は、ファッション拠点推進会議が立ち入ること自体が大間違いだろう。

 「食」ということを語る時点で福岡県なり、福岡市が「別の事業」でやればいいだけの話だ。ファッション事業の予算を引っ張り出すのに、別の「産物」まで無理矢理こじつけるのは、あまりに筋違いのことである。

 一概に福岡の食といっても、博多ラーメンから玄界灘の魚介類、苺あまおうなどの農産物と多岐に渡る。そこまでくれば、もうファッション事業の範疇ではない。報告にあるタレントグループLinQは、あまおうのキャンペーンに参画しているが、これはJA全農ふくれんの事業。ファッション事業が口出しする次元ではない。

 また、唐突に「コンテンツ」「コンテンツ制作」が出てくるのも不可解である。これはサイトを立ち上げて、食などの物販環境を整えようということなのか。それにしても、行政や推進会議は課金のプログラムまで立ちいることはできない。

 Webコンテンツは過去にも制作している。 2010年に福岡県は国の緊急雇用基金2,700万円を利用して「福岡ファッションビジネス情報発信システム」を制作した。

 この事業は企画コンペで募集されたが、なぜかRKB毎日放送の子会社が事業推進者に選定された。だが、実際にでき上がったサイトは、地場ファッション情報を発信するほどの機能は果たさず、2年前から全く更新されずに今年閉鎖された。

 まさにコンテンツの制作能力を欠いたのである。県と一緒にこの業者選定に当たったのは推進会議だ。しかも、なぜかコンテンツ制作の一部を吉原企画運営委員長の学校が請け負っている。緊急雇用基金なのに全く不公正な実態が浮かび上がるのだ。

 それゆえ、推進会議が「コンテンツ」と声高に叫ぶほど、胡散臭いものはない。見方を変えれば、コンテンツは情報発信の名を語った「イベント」を遠回しに指しているとも考えられる。いろんなタレントを使いアピールすることが事業になるからだ。

 福岡市の「カワイイ区」同様に利害関係者とっては、右から左でマージンが取れるわけだから、あからさまに言えないのは想像がつく。そういう意味からも、「コンテンツ制作」は何とでも解釈でき、予算がゲットできる打ち出の小槌のような言葉である。

 そこで肝心なのが、今後の事業予算の出所だ。推進会議の発足当初、福岡県と福岡商工会議所が年間で3,000万円の資金を拠出した。この利用条件は福岡アジアコレクションの実施、情報発信サイトの制作、新人デザイナーの発掘、その他ファッション事業と4つあった。

 しかし、事業推進者に選ばれたRKB毎日放送は、2年目以降、福岡アジアコレクションに事業資金のほとんどを費やし、残りの3つに全く触れていない。それは事業開始から6年を経過して、ますます顕著になっている。

 県などからの資金拠出は3年で終了したが、最終年に高島宗一郎福岡市長が誕生したことで、今度は福岡市が「ファッション関連事業予算」を年間3,000万円拠出するようになった。それがそのまま推進会議に横滑りしているのである。

 穿った言い方をすれば、RKB毎日放送にとってはKBC九州朝日という競合局アナが、今度はカネづるになったのだ。ところが、ここに来て高島市長には、自治体の長にあるまじき行為ががぞろ出て来ている。

 人工島へのこども病院の移転問題、議会中の高級フィットネスクラブ利用、出張時のファーストクラスの利用、出張を利用した東京での私用滞在、思いつきで始まったPR事業「カワイイ区」などへの公費投入等々。どれも市政軽視が甚だしいものばかりだ。

 極めつけは福岡市中央保育園の移転。この事業をめぐっては不必要な土地取得を行ったとして、背任容疑で刑事告発されている。数日前には出張した韓国釜山で、「一般女性と一夜を共にした」ことが報道された。

 さらに、私的に上京した折りに公費のタクシーチケットを利用するなど、不祥事が次々と明るみに出ている。まさに福岡市政を私物化しているとしかいいようがない。市長選出馬どころか、即刻辞任に値することである。

 ところが、先日、高島市長が11月の市長選挙に出馬すると報道された。市議会の自民会派の支援、麻生副総理兼財務大臣の後ろ楯もあって、本人は現職として選挙戦を優位に戦えると思っているようだ。これが事実なら、どこまで面の皮が厚いのだろうか。

 尤も、世論はともかく推進会議はすでに高島落選、福岡市の事業見直しを想定しているようだ。それは報告書の「特別顧問である小川福岡県知事らの挨拶の後、吉原企画運営委員長より昨年度の事業及び今年度の取組みについて報告」を見てもよくわかる。

 ここ数年、一連の事業で福岡県の存在は薄かった。メーンの資金拠出が福岡市に変わっていたのだから当然である。「特別顧問である小川福岡県知事」などを強調するところは、推進会議が不祥事続きの高島市長を避け、県に寝返ったと見えなくもない。

 ただ、今度は単に「ファッション事業」というだけで、小川県知事もすんなり予算を出すわけにはいかない。そこで「クールジャパン・フクオカ」をテーマに…食やコンテンツ制作と連携して」という口実で、予算獲得の折り合いをつけたとみることができる。

 しかし、これもどこまで実現可能かは未知数だ。現に福岡県はこれまで中国・大連で大々的な展示会や見本市を行っているが、閑古鳥がなくほど集客力はほとんどなく、出店企業へのリターンはほとんど見られないからだ。

 だから、今回の「福岡の知名度向上、福岡への集客促進及び海外販路開拓を図る」は、所詮、予算獲得のための謳い文句に過ぎない。だいたい、海外マーケットがそんな簡単に反応するわけがないのは、多くの地元企業が認識していることだ。

 それを本当に信じて疑わないのなら、よほどのノー無しだし、事業自体の見通しの甘さを露呈する。だから、本音のところは予算がほしい利害関係者が勝手に身内、手前味噌で言っているというのは想像がつく。

 「クールジャパン・フクオカ」なんて言葉自体も、すでに陳腐化している。「福岡への集客促進及び海外販路開拓」にしても、これまでの事業の達成度合いを見れば、絵に描いた餅に過ぎないのは一目瞭然だ。

 RKB毎日放送、代理店、制作会社、一専門学校、タレント事務所と事業に関わる利害関係者にとっては、手段はファッションでなくてもいいはずだ。目的はコンテンツという名のイベントや制作物で収益を上げること。その事業が継続できれば、大義なんて関係ないのである。そこに地場ファッション業界振興の意図は欠片もない。

 RKB毎日放送が福岡アジアコレクション(FACo)の仕込みを丸投げしている大阪のアイグリッツは、このほどファッションイベント「東京ランウェイ」を来年2月にニューヨークに進出させると発表した。

 とすれば、「服岡」なんぞと平気でヌカしている企画運営委員長の御仁が、「クールフクオカ イン ニューヨーク」なんて言い出さないとも限らない。

 まあ、吉田前市長も天神の「朝カフェ事業」で、堂々とメディアを前に「朝、カフェで新聞を読むなら、ル・モンドだよね」なんて語るなど、ノー無しぶりを見せたのだから、もしかするかもしれない。

 ちなみに「ル・モンド」は夕刊紙だ。元新聞記者の元市長がこの低レベルで、また市長選に出るというのだから、いやはやである。ただ、こうした政策レスで無能な人間が為政者についた方が推進会議、利害関係者にとっては願ったりなのだろうが。
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店を鍛えるには何が必要か。

2014-09-03 11:52:09 | Weblog
 ユナイテッドアローズの栗野宏文上級顧問がJFWインターナショナル・ファッション・フェア(JFW-IFF)で講演した。

 同社はビームスの育ての親である重松理氏が、アパレルメーカーのワールドとのジョイントベンチャーで設立。90年7月、1号店は産声を上げた。そのコンセプトは「21世紀の老舗」だった。

 重松氏は当時、「世界に通用する良い店とは、品揃え、売場環境、販売スタッフ、顧客……のどれもが、望み得る最高のレベルでそれを達成し、実現すること」と語っている。

 もちろん、栗野氏は重松氏の片腕としてUAの創業に尽力した。しかし、講演内容をみる限りでは、創業当時とは大きく様変わりしたことがよくわかる。そして、なぜそうなったというもどかしさも伝わってきた。

 UAは多店舗する中で、セレクトショップとして知名度、ブランド力は向上したが、売上げを取る商品は単品のカジュアル、利益を取るのはOEMのオリジナルといったMD戦略にシフトしていった面は否めない。

 それでも、ビジネスだから、数を売らないと収益は上がらないし、当然と言えば当然のことだ。それを否定するつもりはない。さらにUAは株式の上場によって、投資家に「増収増益」で応えなければならなくなった。

 GLRやアナザーエディションなどの業態を増やし、収益はどんどん伸びていった。ジャーナルスタンダードやナノユニバースといった競合店が出現しても、UAのポジションは揺らいではいない。ある意味、それは店が鍛えられた結果ではないかと思う。

 一方、UAにとって創業当時のような舶来品=インポート(コストダウンの海外製品ではない)は、もはや主力ではなくなっているのではないか。国産メーカーの商品もあるにはあるが、業態によっては完全にSPA化してしまっている。

 UAの顧客が成熟し、UAの商品なら産地はこだわらない。特に最近のヤング、ヤングアダルトは顕著だ。当然、多店舗、多業態の戦略がそうで、売上げにつながれば、バイヤーはリスクを踏まず、OEMやSPAでも構わないと思うようになっていく。

 ユニクロのように「売れ筋追求」ではないにしても、売り上げ効率を追求する点では共通する。業態、ブランドを増やしたのは、それぞれ店の個性を出すためなのだが、陰では効率優先の調達体制になって、商品の個性はなくなっている。

 結果、UAの商品に「これのデザイン、洒落ている」「こんな良い素材は中々ない」「柄使いが秀逸だね」と感じられる商品は、それほど見られなくなった。特に某有名ファッション通販サイトにアップされている商品を他店のものと見比べても、ショップ名が違うだけでテイストはほとんど被っている。

 店単独ならまだ差別化できるかもしれないが、ファッションビルでは、ショップの個性は完全に埋没化している。栗野氏がJFW-IFFの講演で語った「ファッションに夢がなくなったとすれば、我々の責任」は、ある意味、こういう状況を憂いているのだと思う。

 さらに栗野氏は講演で「ファッションにとって一番大事なのはカルチャー」「ピカソの絵を見た時にしか感じられないインパクトとか」「ファッションカルチャーを支えているのはクオリティー、クリエーティビティー、エシカル」とも語っている。

 ただ、「メード・イン・ジャパンはもの作りのインフラを守る意味だけでなく、日本のファッションのカルチャーや付加価値をなくさないためにも必要です」との意見については、単なるスローガンの域を脱していないと思う。

 現実問題として日本製に携わるインフラは、ほとんど壊滅状態だ。素材産地はコスト競争に苛まれ、縫製業者は元請けのメーカー、OEM業者による値下げ圧力で疲弊しきっている。

 つまりメード・イン・ジャパンはメーカーや卸による原価率の圧縮というかたちで、空洞化した。それには栗野氏が冒頭で語った「もっと安くしないと売れない」「安くすることがサービス」という小売り側の都合による面も否定できない。

 尤も、メード・イン・ジャパンは産地、技術、人間、伝承で成り立つわけで、それがカルチャーや付加価値を醸成するのである。文化とはアウトラインではなく、根っこの部分があって表にじみ出る。

 その土壌が海外生産シフトでズタズタにされた中、スローガンだけで解決する問題ではない。言うなれば、バイヤーが産地、業者の中に入って膝を突き合わせ、ウィンウィン関係になるようなもの作りをしないと、メード・イン・ジャパン回帰などありえない。

 リスクを踏んでそれが本当にできるのだろうか。今のUAというか、上場企業として硬直化した組織において、そこまでに踏み出そうというスピリットを打ち出すには、相当のエネルギーと覚悟が必要だと思う。

 12年から社長執行役員に就任した竹田光広氏は商社の出身だ。前任の岩城哲哉氏社長が半ば更迭されただけに、竹田社長が海外生産やネットワークに精通し、コスト管理にも長けたことが就任理由とすれば、日本回帰に舵を切る勇気をどこまで持てるだろうか。

 竹田社長は今春、栗野氏が参画しながらこけた「ダージリンデイズ」を焼き直し、百貨店のメンズフロアを販売チャンネルにした「ボウ&アローズ」を開発している。

 中高年向けでサイズ対応にも気をつけたブランドで、前回の反省に立ち商品のプラットフォームを整備して、百貨店向け掛け率にも対応したようだ。この辺はさすが商社出身の社長である。

 この業態が栗野氏が言う「他とはっきり違うものを『これが自分たちです」って語れることが大事です」という店に鍛え上げられるかどうか。多店舗化はしづらいと思われるので、単体で実現していかなければならないことになる。

 ファッションの世界で店を鍛えるには、その条件としての「モノ」「人」「器」について、それぞれのレベルを上げてこそ、可能になるのは言うまでもない。

 モノは、ファッションとしての完成度。それに必要なのはクオリティと技術力だ。商社を間に咬ましても、それは量産や利益追求のためでなく、小ロットでもハイクオリティの商品を生み出すためでなければならない。それで利益を出すのは容易ではない。

 だからといって、SPA化で量産しネット通販によって売り減らしていくような商品であって良いはずはない。Eコマースでは世界マーケットで商品の良さをわかる人を一人でも捉えることに意味がある。またそうした商品を売り出さないと、店の格はあがらない。

 人については現状でもUAの接客レベルは高いと思う。これをさらに鍛え上げていくことになるだろう。一時期、百貨店の経営者が口々に叫んだ「商品で差別化できないなら、接客サービスを勝負する」程度では、あまりに次元が低すぎる。

 もの作り、仕入れについても、商品開発やバイイングに当たる人間が、ものに対する見方を再度研ぎすますことができるかである。もちろん、利益は大事であるが、最初にあるのはあくまで商品であるという考えの人間を育てなくてはならない。

 「器」は店だけではないと思う。テナント出店するビル側の意識もある。手っ取り早く人気ブランドをリーシングして歩率家賃を稼ぐ発想を、小売り側は転換させなければならない。なぜなら、それは鍛えられた店ではないし、器としても修練されていないからだ。

 21世紀の老舗を目指しながら、ファッションマーケットの成熟で、再度、立ち位置を模索するUA。創業の原点に立ち返り、小売業としてその戦略を確立するには、ある意味、栗野氏の理想論と竹田社長の現実論をシンクロさせられるかにかかっていると思う。
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