HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

提携が意味するものとは。

2016-02-03 05:39:34 | Weblog
 1月28日付けのネット版、繊研PLUSに以下のような記事が掲載された。

 「TGCと神戸コレクションが企画提携。神戸コレクションを主催する毎日放送と、東京ガールズコレクション(TGC)の商標権をもつディー・エル・イー、及び東京ガールズコレクション実行委員会は、両イベントの企画提携を発表した。…」

 この記事でポイントを挙げるとすれば、以下の点だろうか。

 「神戸コレクションは、関東では『東京ランウェイ』という同様のイベントを企画してきたが、同様のファッションイベントが同じ地域でいくつもあることに、非効率を感じるようになり、互いの力を結集させれば、ビジネス含め、更に新しい展開ができるのでは考えた」(神戸コレクション)。

 同様のファッションイベントが同じ地域にいくつもあり…非効率。確かにそうかもしれない。いや、全くそうである。

 この手のガールズコレクションは、この2都市だけに止まらない。関西、名古屋、札幌、そして福岡アジアコレクションと地方でも開催されている。「違う」のは開催される「地域」であって、同様のイベントは枚挙に暇がないのだ。

 もっとも、「◯◯コレクション」と言っても、我々ファッション業界で仕事をしてきた人間からすれば、クリエーションを発信する純然たる「コレクション」ではない。

 業界で言われるコレクションとは、欧米のメゾンや老舗ブランドが、毎年、オンシーズンの半年前くらいに発表するモード作品=最新のクリエーションを世界中のバイヤーやファッション系メディアなどにお披露目するショーを指す。

 モード作品だから、バイヤーやメディアの反応を見て、市販できるように修正する場合もあるし、メゾンやブランドによってはビジネスを意識し、「売るための商品」をコレクションの前にバイヤーに見せる「プレコレクション」を開催するところもある。

 最近はパリコレでさえ、ビジネスを意識して堂々と「着られる服」「売れる服」を登場させるメゾンやデザイナーもあるほどだ。だからと言って、コレクションがクリエーションの発信の場という位置づけであることに変わりはない。

 一方、神戸コレクション、東京ガールズコレクションは、「コレクション」とは似て非なるものだ。お披露目されるのはモードな作品ではなく、リアルクローズ= 普通に着られる服や、他のものと組み合わせ自在の服である。

 街中のショップや商業施設で堂々と販売されているシーズン少し前、またはシーズンインの商品なのだ。

 それらは、生地や付属品から上質なものを使用し、メゾンお抱えの職人や専用工場が仕立てるなどコストをかけているわけではないから、グレード感は少しも無い。ほとんどがアジア諸国の工場で量産されたチープなブランドやSPAの商品である。

 それを纏うのは、コレクションに出演できるほどのレベルではないモデル崩れや、旬のお笑い芸人など。そうしたタレントを身近で見たい一般の観客から、チケット代金をとって見せる「客寄せ興行」なのである。

 つまり、招待を受けたバイヤーやメディアが「あのデザイナーは今シーズンどんなクリエーションを発表するのか」。そうした期待を持って見るものではない。

 だから、そこにはブランドにとってのマーケティングも、デザイナーによるクリエーション発信も、バイヤーが期待するシーズントレンドも必要ない。

 リアルクローズといういかにもの業界用語を使い、コレクションという名称に格上げしただけのファッションイベントに過ぎないのだ。

 制作するのがデザイナーやアパレルブランドではなく、「テレビ局」や「イベント会社」というところを見ても、「事業」「営業項目」として、「収益が上がればいい」ということがわかる。

 似たようなガールズコレクションは、全国各地で開催され、一部はアジアの主要都市でも催されている。

 ショーのプログラムは、チケット代に見合うように終日をかけた設定だ。しかし、内容はただ単にタレントモデルたちがチープな服を着て、ランウェイを歩くだけなのだから、見ようによっては飽きがくる。

 出演するタレント数はギャラの問題から限界がある。コスチュームやメイクをチェンジする時間も必要なので、アトラクションとしてお笑い芸人にパフォーマンスをさせたり、提供スポンサーの告知をしたりして時間を稼ぐしかないのである。

 限られたタレントや市販の服ではショー自体の間延びは否めず、イベントの尺を埋める内容には自ずと限界が生じているのだ。

 当然、観客を惹き付けるために企画を変え、イベントそのものを大掛かりにするには、莫大な制作費がかかる。しかし、チケット代金やスポンサー料をつり上げると、興行自体の存続に関わってしまう。

 東京ガールズコレクションは、もともと携帯ファッションサイトを運営していたゼイヴェル(後のブランディング)が運営していたが、F1メディアという企業に事業そのものが引き継がれた。

 2012年には週刊文春が同社は「朝鮮総連系の企業に乗っ取られた」とセンセーショナルに報じた。

 その真偽のほどは別にして、今回の繊研PLUSの記事には、「東京ガールズコレクション(TGC)の商標権をもつディー・エル・イー」とある。

 ディー・エル・イーは、キャラクタービジネスを展開する企業で、ドリームインキュベータ傘下のファンドが保有するTGCの商標権を8億円で取得。昨年7月1日には(株)TOKYO GIRLS COLLECTIONを設立している。

 つまり、簡単に買収できるくらいの「商標権」なのだから、タレントのキャスティングからステージ設営、演出、音響照明などといったイベントコンテンツの仕掛けそのものは、他社でもできるということだ。

 言い換えれば、同地域で同じようなものが簡単に開催できるわけだから、企画のマンネリ化が否めず、イベントはプレステージ性を欠き始めているのである。

 おまけに神戸コレクションは、神戸市や神戸商工会議所から「税金」や「公金」による支援があり、東京ガールズコレクションも上海などの海外公演では、外務省から資金が拠出されたほどだ。

 行政側はこの手の客寄せ興行を「ファッション」「コンテンツ」「クリエイティブ」といろんな事業に位置づけるが、 公金が拠出され執行されるからには、事業の目的に「公共性」があることが前提になる。

 でも、似たようなイベントが全国で開催されるようになり、事業の背景にある「産業支援」とか「情報発信」とか、イベント開催の「大義」も行き詰まっていると見て間違いないだろう。

 神戸コレクションを主催するMBS毎日放送という「テレビ局」、制作に携わる下請けの「イベント会社」にとっては、公金の支援を受け続けるためにも、企画の練り直しに入らざるを得ないのは当然のことだ。

 ここで気になるのが、同様のファッションイベント「福岡アジアコレクション」、FACoである。

 福岡アジアコレクションの実質の事業者、「RKB毎日放送」 は、ファッションイベントを制作できるようなノウハウもビジネスモデルも持っていない。だから、神戸コレクションを主催するがMBS毎日放送から指南されたのは言うまでもない。

 そのため、イベントのタイトル、出展される一部のブランドが違うが程度で、福岡アジアコレクションの企画内容、プログラムは、神戸コレクションとそれほど変わらない。劣化コピーのイベントと言っても、決して言い過ぎではないと思う。

 その神戸コレクションが「TGCを同じような企画内容」というのだから、この3つのイベントはほぼ同じだということになる。

 RKB毎日放送からすれば、「地域が違うため、現時点では提携する理由は無い」と言い逃れもできるだろう。

 ただ、神戸コレクションとTGCが企画提携すれば、規模は拡大されるから全国展開されていく可能性は高い。とすれば、提携後に福岡で開催されることは無きにしもあらずだ。

 この場合、現在の福岡アジアコレクションは毎年度末の3月に開催されているから、神戸コレ&TGCは秋に開催しようということで、裏取引がされないとも限らない。それぞれの利害関係者が自社イベントを存続させるためには、なりふり構わないはずである。

 さらにTGCはこれまで上海や北京といった海外の主要都市でも開催されている。当然、神戸コレ&TGCが海外展開されることは想像に難くない。

 もし、北京や上海、ソウルといった主要都市で開催され、福岡アジアコレクションがそれ以外のプサン、タイペイ、バンコクで行われるのであれば、「アジア」がもつ意味はいったい何なのかである。

 神戸コレ&TGCが秋に開催されようとされまいと、またアジア各都市を分けて興行が行われることになれば、それぞれの利権を守るための事業者同士の「談合」ではないかと言われてもしかたない。

 そんなもの対し、行政が「コンテンツ」だの、「クリエイティブ」だの、「アジアへの情報発信」だのと言って、多額の税金を拠出して支援すること自体が全く無意味なことになる。

 イベントの内容がさほど変わらないのだから、巨額の税金を投下することは、それこそ「非効率」とされてもおかしくないはずである。

 福岡アジアコレクションは当初、「福岡県」と「福岡商工会議所」が中心となって始動した福岡アジアファッション拠点推進会議の事業として、スタートした。

 その事業には地場ファッション産業の振興、人材育成、情報発信という目的があり、サイトの運営、コンテストの実施、その他の事業、そして福岡アジアコレクションの実施と、コレクションは4事業の一つでしかなかった。

 ところが、事業がスタートするといつの間にか、目的は形骸化し、福岡アジアコレクションはメーン事業と位置づけられて、予算の大半が費やされるようになっている。

 一方、福岡市も福岡アジアコレクションをコンテンツ事業として年間で3000万円以上の税金を投入している。そのうち福岡アジアコレクションには2000万円くらいが費やされているのではないだろうか。

 神戸コレクションとて、神戸市や神戸商工会議所が支援しているため、税金の流れは同じ構図のはずだ。

 つまり、こうした客寄せ興行のガールズコレクションは、自治体間の「タテ割」行政を利用して、県や市からいろんな予算をうまく引き出しているのがよくわかる。

 「福岡アジア」という冠も 所詮、行政から予算を引き出す「口実」でしかないのだ。

 神戸コレクションとTGCの企画提携の背景では、事業者のいろんな思惑が蠢いている。そのため、ファッション業界では近い将来の福岡アジアコレクションを「福岡版K(神戸)&T(TGC)コレクション」と揶揄する声すらある。

 神戸コレクションを手本にする福岡アジアコレクションがこれからどう動くか。ファッション業界人として、今後も注意深く監視しなければならないと思う。 
コメント
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