HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

実を取る決断の先には。

2016-07-13 06:51:19 | Weblog
 夏のセールも今イチ盛り上がりに欠け、秋物の第一弾を待つばかり。先日はユニクロがクリストフ・ルメールをアーティスティックディレクターに起用した「ユニクロU」を発表した。この新ラインはコラボレーションとは異なり、「あくまでユニクロのテイストで、デザイン、素材選び、縫製など、あらゆる面で既存の商品にない新しさを吹き込んだ」とか。そのため、シャツが2,990円、アウター3,990円〜1万2,900円と、通常の商品より多少高めの価格設定なのだという。

 ユニクロはここ1年ほどは値上げによる売上げダウン、その結果をみての値下げ、6月には業績を回復したものの、秋以降の売上げ動向がどうなるか、予断を許さない。今回発表のユニクロUにしても、デザインは「既存の商品にない新しさ」を謳うわりに、プレス写真を見る限りでは特に変わった感じはない。はたしてテイストはユニクロのままで、新しいデザインになるのか。現物を見てからでないとディテールまではわからないが、ジルサンダーとコラボした+J、滝沢直己をデザインディレクターに起用した2011年春ラインと、それほど差異はないと思う。
 
 もっとも、ユニクロがデザインで冒険すれば、縫製・加工で新たな技術を必要とする。そのため、既存の工場、技術スタッフが対応するには、それらを学習するか、新たにできる工場、スタッフを確保することが必要になる。これまで生産効率を追及して来たユニクロがそこまで深入りすると思えない。第一、ユニクロを求める大多数のお客は、奇を衒ったデザインなんて期待していないし、縫製もあの値段なら十分だと思う。素材はアイテムによってペラペラなものもあるが、レベルを上げたからといって急激に売上げが伸びるとは思えない。

 結果、テイストはユニクロのままだが、どこかに値上げする根拠が必要なことから、ユニクロUという新たなブランド、新たな価値創造ということではないか。陳腐化した既存MDを多少は活性化できるのかもしれないというのが本音だろう。効率優先というユニクロの遺伝子を考えれば、デザイナー入れ替えによる話題性とテコ入れしか、活性化の手だてはないような気がするのだ。

 ファーストリテイリンググループとしては、まだまだ売上げを伸長する目標を掲げている。しかし、ユニクロ業態でこれからどこまで達成できるのかは未知数だ。独立した別会社を作り、新規プロジェクトとして1からブランドを立ち上げる戦略。FR本社からすればできなくはないだろうが、単期で収益を上げないといけない上場企業として、成功が見えない冒険は許されない。結局、社内のデザインチームの人事をいじくり、多少の違いを打ち出すしかない。かといって、「ユニクロのテイスト」を大きく外すことも不可能だ。ディレクターとしては非常に難しいテーマで仕事に向うことになる。


 ただ、業界全体を見渡しても、そうそう思いきって「変化」できる環境にはない。大手企業の新規プロジェクトは、大半がメジャーブランドを活用し他メーカーとのコラボくらいに落ち着いている。スニーカーのダブルネームなんかがそうだろう。既存の「型」「デザイン」を活用して、ブランド名だけ変える程度のものだ。それで価格は上げられるのだから、ブランドバリュとは結構なものである。しかし、非上場企業とは言え、あまりにおざなりな企画ばかりだと、「ブランドって何」「もの作りの意味って」と思ってしまう。

 青山商事がこの秋にスタートするビジカジブランドの「モアレス」にもそんな一面を感じる。これは何といってもビームスのノウハウをもつ「ビームスデザイン」が企画監修にあたることだ。青山商事はこのブランドをSC向け業態の「ネクストブルー」、都市部の「洋服の青山」で販売するという。青山商事としてはスーツでは日本一の売上げを誇るが、少子化や人口減少などで需要が落ち込む中、ビジカジに舵を切り新たなマーケットを掘り起こす狙いのようだ。

 確かにド・カジュルな商品は履いて捨てるほどある。だから、チェーン店自ら新規に開発する意味はあまりないだろう。青山商事は「キャラジャ」という業態を展開しているが、リーバイスやコンバースなどのブランド編集で、他のシーンズショップなどと差別化できていない。店舗数も伸びないままだ。「ド・カジュアルではないが、スーツスタイルほどの型苦しさは必要ない」。マーケットはそんな良い塩梅のオケージョンの商品、テイストの服を求めているのは間違いない。ただ、青山商事が自社でブランド開発するのは難しいことから、若い世代に人気のあるビームスに白羽の矢を立てたということか。

 一方、ビームスは本丸ではないにしても、堂々とブランド名がつく子会社が参画する。自ら小売り業態を出店するわけではないが、相手方店のコーナー展開だろうから在庫や家賃の負担がなく、ビームスは一定のロイヤルティ収入が受け取れる。MDの基本路線はトラッドテイストだろうし、特別な企画・デザインのノウハウは必要とせず、ブランドバリュを背景にリスクを避けられると踏んだのだろう。当然、ファッション雑誌などは特集を組むだろうし、ネットメディアも食いつくはずだ。ただ、現時点では異色の組み合わせだけに、どう転ぶかは見当がつかない。

 従来なら郊外中心のスーツ量販店、特に価格破壊で規模を拡大した洋服の青山と、東京・原宿生まれで、インポート&国産の上質なブランドを仕入れてきたビームスがタッグを組むとは考えられなかった。量販店とセレクトショップは、そもそものコンセプトでも、販売スタイルでも接点はない。しかし、今の若い世代は洋服の青山をマイナスイメージでは捉えておらず、ビームスに対してもそれほどプレステージ性は感じていないのかもしれない。

 突き詰めて考えると、そんな時代になったというよりも、今回の協業は企業同士の思惑が色濃く出た結果だと思う。青山商事にすれば願ったりだっただろうが、ビームスにすればブランドイメージの低下から建前は協業したくないが、若者の服離れで既存業態が頭打ちの状況を考えると、背に腹は代えられない。セレクトショップのプライドもかなぐり捨てざるをえないわけだ。果たしてマーケットの反応はどうなのか。

 洋服の青山とビームスの提携は、戦略としては企業の本音が垣間見えるケースと言える。他にもブランドという体面は維持しながら、本音では売上げ重視を道を進んでいる顕著な例がある。パルコだ。同社が2017年2月期までの中期経営計画で掲げた事業戦略には「主要都市部での深耕」があるが、その戦術としての「都心旗艦店舗と周辺の開発推進」は、まさに売上げ重視を意図するものと言える。

 平たく言えば、店舗が古く情報発信機能が鈍化した渋谷パルコの建替えと、浦和や津田沼などの地方店のテコ入れを進めることと言える。渋谷店は日本で一番の尖った店として今後どんなテナントリーシングで、どんな情報発信機能を有していくのか。ファッション、服離れが深刻な中でいちばんの課題と言えば課題だ。一方、地方店は『ご当地初」などの冠を付けられるテナントが集めやすく、比較的リーシングは容易である。 牧山浩三社長が言う「若い感性を持つ人のスキルや力を活用した」福岡パルコ新館は別にしても、地方店では足下商圏にあったテナントを入れて収益を稼ぎ、それを原資に渋谷店に投資してチャレンジすると考えれば、戦略としてはわかりやすい。

 その証拠に浦和パルコや津田沼パルコのテナントを見ると、グローバルワークあり、ザラあり、カルディコーヒーファームあり、TKあり、ニコアンドありと、収益を稼げるテナントが目白押しだ。駅ビル系セレクト&ヤングブランドを除けば、郊外のリージョナルSCと、テナントは顔ぶれはほぼ共通する。戦略で謳う「主要都市部での深耕」とは、「RSCまでお客を行かせない」とも解釈できるのだ。

 とすれば、2012年にマーケットを賑わせたイオンによる敵対的買収の阻止は何だったのか。パルコは都市型ファッションビルとしてのブランドバリュを維持するために百貨店系のJフロント傘下入りしておきながら、売上げ伸張のためのマスマーケット攻略ではイオンと競合する。まあ、大株主のJフロントは脱百貨店を公言しており、パルコのビジネスモデルを喉から手が出るほど欲しかったわけだ。また、収益アップについてもシビアで、経営陣の交替すら容赦ないからわからないでもない。しかし、8.5%の株を所有するイオンとしては、ずいぶん舐められたものである。

 とどのつまり、ファッション販売に従事する全小売業、全てのデベロッパーがキラーコンテンツとなるブランド不足、混沌としたマーケットの中でパイの奪い合いを先鋭化させていると言える。そこではセレクトショップも量販店もファッションビルも無い。あるのは売れてなんぼ、利益がとれていくらである。ビームス+青山商事しかり、パルコの中のRSC系テナントしかり。仕掛ける側はブランドのロイヤルティ維持より、売上げという実を優先する。果たしてこうした経営判断の先にあるものとは成功なのか、失敗なのか。ここはアパレルがデベロッパーや小売りに振り回されるのではなく、本当に納得がいく商品をしっかり作る。そうした原点をじっくり注視していかなければならないと思う。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする