HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

秋物がもう値引き?

2016-09-28 07:21:07 | Weblog
 9月もそろそろ終わりが近づき、秋物を違和感なく着こなせるようになった。ただ、トレンドを追っかけるにしても「コレだ!」と思える商品はなかなかない。もともと、婦人服が専門の人間だけについついレディスの方に目が行き、着ることができないけど買ってみたい商品はチラホラある。そうした感覚が衰えない限り、メンズにも応用できるはずだけど、如何せん買いたいものがほとんど見つからない。

 特別にブランド贔屓ではないから素材、デザイン、価格という条件が合致すれば、購入に踏み切れる。しかし、これがなかなか噛み合わない。素材が上質だとデザインが気に入らず、デザインが好みだと素材の質が落ちる。お金をかけてもいいのだが、今度は生地とパターンが決まってくる、と言った具合だ。わがままなのだから、仕方ないんだけど、あれこれ考えているうちにシーズンが終わってしまいそうだ。

 まあ、街中のビルインからストリートまで片っ端から探せば、お気に入りが一つくらい見つかるかもしれないが、それは時間的に無理に近い。だから、「お見分け」候補はネットに頼りっぱなしになる。あちこち回らなくてもいいし、お気に入りにしておけば、ショップで現物を確かめられる。購入するしないは別にして、ショッピングの効率は格段に良くなっている。

 しかし、実際に現物を観て見ると、ずいぶん違っているケースが少なくない。デジタル画像では拡大できたにしても、微妙な組織まではわからない。 ニットの編み地はともかく、布帛は質感が全く想像つかない。 特にダーク系の色は柄物でも無地に見えてしまう。もちろん、肌触りやフィット感になると、着てみないとわからない。

 ブランド側は次々にトレンドを仕掛けるから、結構、新しい素材のアイテムがラインナップされる。個人的な印象ではここ数年、ウール100%とか、綿100%といった天然素材がずいぶん減って来た感じだ。代わってポリエステルやアクリル、ポリウレタンなどの合成繊維を半分以上から100%にしたものか、合繊と合繊の混紡のみがかなりの割合で増えているように思う。

 理由は何なのだろうか。知り合いのメーカーさんは軽くするためと言っていた。他にはグローバルSPAが台頭し、素材調達でも主導権を握ってきたからか。原料高や円安で天然繊維ではコストが合わず、原価率を下げるための合繊シフトか。テキスタイルメーカー自体が合繊ブレンドをトレンドとして仕掛けているからか。いろいろ考えられるとは思うけど、実際のところはよくわからない。それらがどんどん企画され商品化されていくところを見ると、若者を中心にあまり素材を意識しなくなったということだろう。

 「触ってごらん、ウールだよ」なんてキャンペーンのコピーがあった。上質な100%ウールは、もはやオーダースーツの生地見本くらいでしか、出くわさないのかもしれない。厚手のコットンギャバなんかにしても、SPAやセレクト系の商品ではほとんどお目にかかれなくなった。すでに合繊混紡のリサイクル技術が確立されている。合繊はエタノールと化学繊維に分離した後、さらにナイロン、ポリエステルなど別々に分けられることで、繊維原料として再生できるからだろうか。余計なことまで考えてしまう。

 だからと言って、当方はなかなか素材、特に生地の質感では妥協できないので、時間を見つけてはネットにキーワード入力を繰り替えしてヒットするのを待っている。このままではこの秋も、昨年同様に何も買わないで、過ぎ去っていくかもしれない。

 ところで、先日、大手ファッション通販サイトを見ていて思ったことだが、「アイテム名」のみを入力すると、ブランド、色柄が取り混ぜてアップされる。しかも、プロパーとセール用、さらにクーポン対象商品、タイムセール品が混然一体と出現する。「えっ、秋物がもう値引き?」。では、なかった。検索性を重視するシステムだからしょうがないのだが、問題はセール品が春夏ものなのか秋物なのかよくわからないことだ。

 おそらく9月いっぱいは春夏のセール在庫を売り減らしていくはずだし、春物だと秋口に着られなくもないからだろう。ただ、商品名に麻や薄手のカットソーなど明らかに春夏の素材名が付されているといいのだが、写真を見て商品説明を読むだけではわからないアイテムも多々見受けられる。

 消費者はセール品や値引き商品にはどうしても惹き付けられる。 プロパーを探していても、価格に釣られて安い方を買うことは無きにしもあらずだ。そうした心理をつき、検索機会と滞留時間をアップさせることを狙った巧みな商法とも言える。

 ECの場合は、あらゆるケースで検索者の目に触れさせ、クリック数を確実に増やして購買に結びつけ、消化率もアップさせるというビジネス論理なのだろう。欧米の通販サイトではシーズン持ち越し商品を別枠で括り、アウトレットコーナーを儲けているところもあるが、日本のサイトではほとんど見かけない。もともと価格が安いし、クリアランスセールで売れないと、課税の関係から処分されていくのだろうか。

 ただ、ヤフーや楽天になると、検索キーワードだけで「中古品」まで一緒にアップされてしまう。お目当ての商品が何ページかスクロールして見当たらなければ、通常価格で再度検索し直せばいいのだが、これが面倒だし煩わしい。事業者にすれば、ごった煮になるのが商店街でいいのかもしれないが、プロパーで勝負する店舗側は一緒に並べられてどう思うのだろうか。お客だって端からプロパーを探している場合には見たくもないはずだ。リアルな商店街なら素通りもできるが、サイトではそうもいかない。

 IT識者はアップデートだの、コンテンツだの、またEC礼賛の諸兄はマーケティングだの、ターゲティングだのと言っておきながら、肝心なWEBサイトではアクセスばかりを重視しているように感じる。楽天なんかは画面レイアウトが整然としなくなったことがイメージ低下、客離れを招いた要因の一つではないかと思う。アマゾンが集客力を増しているところを見ても、一理あるはずだ。

 ところで、今年の秋物を見ていて、もう一つ感じたことがある。昨年よりもさらに価格が上がっているような気がするのだ。昨年も1〜2割アップしているとの声を各方面から聞いた。でも、今年のアイテムは昨年より増して「高いなあ」と感じる。

 例えば、某有名セレクトショップがハイクラス業態名を付けて販売するパンツは、27,000円。素材は綿100%だが、原産国は中国製となっている。為替が一時の円安から円高に揺り戻した影響は、それほどないと思う。商社やOEM業者との関係やネットワークを維持すれば、この価格設定になったのかもしれない。それにしても、アパレル事業者が原産国は関係ないとの理屈に立ったところで、消費者には中国製と27,000円という価格とブランドイメージは、釣り合わないのではないか。

 他にも日本製パンツが2万円台になるなど、このショップのプライスゾーンは全体に高めにシフトしている。まだ立ち上がったばかりなので、タイムセールの対象にはなっていない。セレクトショップだから、「うちはこの価格帯でプライスリーダーを通して来た」と言ってしまえばそこまでである。しかし、ハイクラス業態名を謳いながら中国製が散見されるようでは、やはり価格の高さは拭えない。店舗まで出かけて行って、価格に見合うクオリティかどうか確かめれば良いのだが、ネットではそれも無理だ。どうしても二の足を踏んでしまう。

 一方、別のセレクトショップは、日本製のブランドアイテムが1〜2万円台もあるし、イタリア製のブランドが2万円台。一時、原産国の不当表示で公取の排除命令を受けたルーマニア製品も、今では堂々と表示され販売されている。中にはイタリア製より高い3万円台もあり、「ユーロ圏ではないのにそれは高いんじゃない」と、言いたくなる。やはり今年の価格高騰は、セレクト系全体に言えるようだ。

 価格とは価値のバランスで、納得できることもあれば、できないこともある。それを前提にすると、セレクトのハイクラスブランドなら27,000円の中国製より、3万円のイタリア製の方が売りやすいのではないか。3000円という価格差は、高くても安くても重要だ。それもわかる。バイヤーサイドでも議論はあったとは思うが、結果的にこうなったという点が残念でならない。特に日本製への回帰、中間業者をセーブして原価率のアップとコストダウンを両立させ、ネット通販の良さを活用して売上げを伸ばす業者も出始めている。こうした業界変化を考えると、有名セレクトとて決して安泰ではないはずだ。

 逆に有名店になればなるほど、ブランド維持のためにリアル店舗も必要になる。ただ、日本企業はどうしても販売員をコストとみなすので、売上げが伴わないと利益率が下がる点に目が行く。そのため、コストがセーブできそうなECも重要な販売手段と考えるようになってきた。「コスト高のリアル店とコストセーブのECをバランスよく組み合わせて、利益の最大化をはかる」という経営政策はわからないでもないが、双方に新たな課題が持ち上がっているのも事実だろう。

 ECでリアル店の商圏に入らない客層までマーケットを広げ、購買に誘う。 それにしても、これだけ小売りにWEBサイトが浸透した中で、結局、「割引」でしか「デザイアー」や「シミュレート」させられないのは、何とも寂しい限りだ。その前提としてと途上国生産で原価率を下げる。ネットだからどうせ質感の詳細はわからない。プロパー価格を高めにして、粗利益を確保できるようにする等々。背景にはそんな意図があるように思えてならない。

 WEBサイトにプロパーとセール品が混在してアップされる現状を見るにつけ、ECのシステムや運用面をどうのこうの言う次元でいいのだろうか。もっと流通から販売におけるロス、製造コストが増える問題点に切り込むべきではないのか。仕組みそのものを考え直さないと、プロパーではますます売りづらくなると思う。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする