HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

サルトリアの域へ。

2017-11-29 06:58:18 | Weblog
 通販サイトのゾゾタウンを運営するスタートトゥデイが、自社PBの発売を前に採寸用ボディスーツ「ゾゾスーツ」の無料配布するとのニュースが業界を飛び越え、ビジネス界まで駆け巡っている。

 同社の前澤友作社長はその目的について、「圧倒的な速度で世界中に配りまくり、体重計や体温計のように一家に一台の存在にする。世界中のお客様の体型を最も知り尽くした企業となり、データを元にひとりひとりにピッタリの服を提供する」と、語っている。

 ゾゾスーツは、ニュージーランドのソフトセンサー開発企業と共同開発されたもので、スーツの上下に内蔵された伸縮センサーをスマートフォンと通信接続すると、体のあらゆる箇所の寸法を瞬時に計測できるもの。寸法データはゾゾタウンのアプリに保存され、自身のサイズを確認できるほか、ゾゾタウンで買い物する際にはサイズに合った商品が紹介されるようになる。

 これが試着をせずに商品を購入するネット通販において光明となるのか、また、お客のサイズデータは果たして商品を企画デザインするアパレル側にとって、どんな意味をもつのか、今回は考えてみたい。

 ソゾタウンはこれまでも販売する商品のサイズ(着丈、身幅、袖丈など)をきちんと表示し、お客が商品を購入しやすいように配慮してきた。お客にとっては現物の商品を試着できなくても、サイズがわかるので購入の決め手になったのは確かだ。それがゾゾタンが急成長した要因の一つでもあると思う。

 ただ、お客が自身のヌードサイズを正確に把握していたかといえば、それはほとんどないだろう。男性はSか、Mか、Lかくらいで、そこでは胸囲、胴囲、ヒップ周りで「だいたいこれくらいからこれくらいまで」の許容値を知っているくらいだ。表示許容値の範囲内なら、たぶん着れるだろうという感覚だ。

 女性の方がスカートやブラジャーを購入するから、男性よりはヒップやバストのサイズを正確に知っているとは思うが、肩幅、上腕や太腿、膝の周り、股下のサイズについては、男女ともいたってアバウトな認識でしかなかったのではないかと思う。

 これを正確に知り得ることで、商品のサイズと自分の数値を照らし合わせて、タイト、ジャスト、ルーズと商品選択時のサイズ感を従来よりははっきりイメージできるのは確かだ。

 まあ、お客が自分のヌードサイズを知るのは、ゾゾタウンが販売する商品を売りにつなげる条件にはなるのだが。お客個々でサイズに対する感覚は違うだろうし、実際に姿見に映したときにタイト、ジャスト、ルーズと着こなしはいろいろあるから、どんなフィット感が購入動機になるかは、十人十色だと思う。

 それでゾゾタウンにおける販売が促進されるかどうかはわからないが、これまでよりはECによる商品販売が進化していくのは間違いないと思う。

 もっとも、ゾゾタウンにとっては、ゾゾスーツがもつ意味はサイト掲載の商品の販促もさることながら、自社が発売するPBで「購入者ひとりひとりのサイズに合わせた商品を展開する」ことにあるようだ。

 PBにカテゴリーを絞り込むことで、豊富なサイズ展開をして、新たな顧客を開拓する狙いがあるのだろう。ファッショントレンドを追いかけるブランドやクリエーターがデザインしたアイテムは、ゾゾタウンでも豊富に展開されているから、あえてそれらと競合するPBにする必要はない。

 前澤社長が「超ベーシックアイテム」と語っている点を見ても、お客の体型でフィットするアイテムにすることが狙いのようである。ジャストフィットな着こなしを提案することで、ネットから新たな着こなし提案のトレンドを発信していく考えかもしれない。

 それとて既成服の次元なら、無尽蔵に在庫をもつわけにはいかない。ユニクロもオーダーライクなジャケット&パンツを販売している。サイズ表には着丈、胸囲、胴囲、袖丈などが1cm刻みで示されている。自分のサイズを入力すると、フィットする商品が選択されるというシステムではなかったかと思う。

 試しに店舗スタッフに「このサイズ表をそのまま受け止めるなら、身幅は50cmで、着丈を80cmにしたジャケットは在庫があるのか」と訊ねると、「それはない。おそらくエラーが出る」との答えだった。

 つまり、あくまでサイズ表示はお客の側の寸法の目安で、それに合わせた服が作ってもらえる(在庫している)わけではない。それは当たり前なことなのだが、だったら1cm刻みによるきめ細かなサイズ表示に何の意味があるのだろうとも感じた。

 その意味で、ゾゾスーツはお客のアバウトなサイズ把握から、正確なサイズ認識を実現した点では、アパレル側に対しても従来の工業規格的なサイズから、少しでもお客のリアルなフィット感に踏み込ませるかもしれない点では、画期的なことだと思う。

 一方、商品を企画するアパレル側にとっては、どうだろうか。あくまで既成服だから、企画したデザインをもとに基本サイズに落とし込んでパターンをおこし、縫製していく。カジュアルアイテムは量産を前提にしなければならないので、3サイズ〜5サイズ展開が限界である。お客のサイズにいちいち合わせるのはどだい無理なので、基本路線は今後も変わらないと思う。

 将来的にみると、デジタル計測のノウハウは、服づくりやパターン制作、マーチャンダイジングへのビッグデータとして活用できるのは間違いない。日本人のサイズがどう変化し、それが統計数値化されていけば、工業規格的な既存サイズではなく、より今の市場にあった既成服の量産体制が確立できるかもしれないからだ。

 米国のようにただ規格サイズを大量生産するわけでもなく、陳腐化した日本のクイックレスポンスとも違うお客のサイズにより合致した商品企画や投入に期待がもてるのではないか。当然、サイズ面では在庫負担の解消への道筋をつけることもできるかもしれない。確実に既成服の作り方を変えていくのは間違いないだろうし、他のアパレルがやらないイノベーションを起こすところは、さすがスタートトゥデイだ。

 トレンドファッションは、メンズでタイトなシルエットが数年来続いたことで、この冬は一気にルーズに揺り戻している。一方、レディスでもトップスのルーズシルエットは、ボトムをスリム化させるという方向性を生み、流行に関係なくアイテムが市場に出回ってきた。

 一見して、ルーズな着こなしでは、サイズはあまり関係ない様に思いがちだが、ヒップや渡りのサイズはボトムをカッコ良く穿きこなす上では重要である。また、肩や身幅はコーディネート志向ではボトムとのバランスで決まることもある。それが自分のヌードサイズを知ることにより、ネット通販のサイズ表示においても微妙な差がより明確にわかる(イメージできる)ことになる。

 トレンドを追いかけるアパレルやクリエーター、そしてパタンナー、販売スタッフにとっても、お客が自分のサイズを正確に把握していることは、クリエーションやデザインという従来の仕事観の他に新たな要素が加わることになる。仕事のやり方も変わっていかざるを得ないのだ。

 ゾゾスーツのデジタル計測技術は、オーダースーツに関わるテーラーやサルトリアにも影響すると語る方もいらっしゃる。福岡のセレクトショップ「ダイス&ダイス」でバイヤーを担った後、英国のセントマーチン美術学校を経て、デザイナーデビュー。タケオキクチのクリエイティブディレクターを務めた他、今ではテーラーメイドのスーツづくりを追求していらっしゃる信國大志さん。ご自身が先日、SNSでゾゾスーツについて以下のように語ってあった。

 「さてここからはこれからは全てがオートクチュール>既製服という時代の変遷が驚くべきUカーブを描き全てがこれからオーダー服、それも実店舗や採寸をともなわないものになると最所さんは結論ずけているが熟慮するとそう単純ではない点もあると個人的な考察です」

 
 「それには2点あり、1、個々のデータをベースにした截断は自動截断機でも安価な量産服にはコスト高になる。2、よくオーダーについて誤解されるが衣服とは体のサイズそのものなら良いというわけではなくゆとりとボリュームが関与する」

 「ゆとりには2種あり1つは機能的ゆとりでたとえばお腹回りは4から10cm余裕あると着やすいといったもの。これは数値化してプラスすればよいので自動化できる。その2は美的ユトリでこれは個々が着たときに有機的に生まれるものでこればかりは羽織ってどう感じるかは各々またデザイナーの美意識によるので数値化できない」

 「しかしこれもオーダーではなく既製服をネット注文する上では袖丈などを合わせれば全体のプロポーションは好みのデザイナーの分量感を信頼してネット注文できるともいえる。とまあこの事件について一晩考えぬきました」


 「これは職業上の危機感によるものですがはっきり言えるのはこと身体そのものを正確に計測する上では老テーラーがずり落ちる老眼鏡をかけ直しつつ長年の経験で云々という神話は昨日で終わったということ」


 「しかしその数値にどのような美意識=分量感を差し引きするかこそがそのようなテーラーのアーティスティックなスキルである。つまり技術者としてのテーラーは退場を促されそこには表現が求められるということ」

 
 「さておき僕は自動截断もさらに効率化され最所さんがおっしゃるように全ての衣服が昔のように全てオーダーになったらよいとも思っている。そうしたら注文服への敷居が低くなるどころか撤去されるからだ」


 「以上個人的に職業意識をともなう考察だが昨日の事件はそれぐらい皆さん考えたほうがいいと思う。それくらいの大きな変換点に私達は生きている」と。

 英国で服づくりを勉強し、今もセヴィルロウの職人さんたちと親交がある信國さんだからこそ、デジタルによるサイズ計測は時代の流れと認めつつも、ゆとりやゆるみという美意識は個々の人間がなせる技だと、いうことか。その両方をゾゾスーツが引寄せかもしれないのである。

 ファッションだからこそ、デザインする人間それぞれで個性が違ってくる。それを体型が違うお客が着るからこそ、また味が出る部分もあるのだ。0.5ミリの差でアイテムのサイズ感が変わり、着こなし穿きこなす上でしっくり来るか来ないかの差が出る。それはカジュアルアイテムの代名詞ジーンズにしても然りと、ファッションライターの南充浩さんは過去に語っていた。 他のアイテムでもそう感じる人はまだまだ少なくないはずだ。

 サイズさえジャストなら売れるというのであれば、テーラーメイドの次元になるわけで、それならなおさら仮縫いは必須になる。よくよく考えると、既成服にどこまでジャストサイズを求めるのか。愚問でしかないのか、それとも…

 効率化はビジネスの肝であるのは確かだし、新しいマーケットを掘り起こすには挑戦やイノベーションも欠かせない。ゾゾスーツはその両方に一石を投じることは間違いない。どう転ぶかはやってみないとわからないわけで、死に体状態のアパレル業界にとって、そこから抜け出る何らかのきっかけになってほしいと切に願う。

コメント
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