HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

芸能人の為のイベント。

2018-03-14 05:25:40 | Weblog
 今年もこのシーズンがやって来た。3月17日(土)〜25日(日)に「ファッションウィーク福岡」(http://fwf.jp/2018/)が開かれる。

 2012年度にスタートし、今年で6回目。主催は福岡商工会議所が主導する福岡アジアファッション拠点推進会議(以下、推進会議)で、福岡市や福岡県、福岡商工会議所が共催している。後援には経済産業省傘下の九州経済産業局、地元アパレルで構成する福岡繊維卸共同組合が名を連ねるが、他は任意の町おこし団体やメディアである。

 スタート当初は福岡が小売りの街であることから、JFW(ジャパンファッションウィーク)とは異なり、「福岡にお客さんを呼んで、商品を買ってもらう」販促キャンペーン的な事業を意図していた。

 ところが、ローカルテレビのRKB毎日放送が行う客寄せ興行の「福岡アジアコレクション(FACo)」に大半の事業予算が注ぎ込まれていることから、ファッションウィークに割り当てられる枠は限られていた。推進会議が福岡市や県の補助金をもとに拠出できる事業予算は、2回目の2013年度で「700万円」程度しかなかった。

 なのに推進会議は、事業をゲットしたい業者に「この金額内で集客イベントを実施し、情報発信ツールまで制作する企画をプレゼンしろ」と要求した。仕事をもらいたい代理店からすれば、「できるわけがない」である。というより、代理店にとって手数料がキックバックされるテレビスポットや新聞広告などの「マス媒体」ならともかく、大がかりのステージイベントやツール制作では、外注費がほとんどで利益が出ず、うま味がないのだ。



 まあ、西日本鉄道が月1で発行する「西鉄ニュース/A4版14P」の表4枠には全面広告が掲載されているが、これをマスと呼べるかどうかである。



 当然、代理店が身入りを増やすには、企業スポンサーを確保せざるを得ない。もちろん、事業を渡す推進会議もそのことは織り込み済みだ。そこで代理店は天神や博多駅などに店舗を構える「百貨店」「ショッピングセンター」等々に営業をかけ、そうした企業スポンサーにとって「集客を望める企画」を立案し、推進会議を納得させることに落ち着いた。てっとり早い企画が、タレントを呼んでトークショーなどを開催するものだ。

 批判に晒され失敗に終わった「かわいい区」の時もそうだが、代理店にとって東京などから呼んだギャラの安いマイナータレントや俄芸能人、売れないミュージシャンを起用しても、「フォロワーが◯◯人超え」「モデルやタレント、美容師など人気のインスタグラマー」と冠をつければタレントとして箔はつく。その上、彼らのギャラからマージンを抜けるので、右から左で利益が転がり込むのだ。




 一方、2月〜3月はデザイナーを目指す学生が卒業制作を披露する。高校や専門学校からすれば自校生、友人や家族しか観客にならない学内イベントではなく、広く一般のお客に見てもらえるステージが欲しい。専門学校は次年度以降の学生募集という営業戦略もかかっている。

 さらにデザイナーとして独立したはいいが、業界で広く認められるクリエイティビティや技術力がなく、自分らの思い通りにデザインをしたところで、ビジネスには結びつかない。そんな輩にショーや展示会を開催する資金力があるはずもなく、公共イベントが「場」を提供するしかないのである。

 一応、ファッションウィークの期間を外すものの、福岡ファッションビル(FBB)がスポンサーとなり、資金力のない地元デザイナーの合同ショーを開催している。2回目の今年は「Revo × Labo Fukuoka Presented by Fukuoka Fashion Building」と銘打って2月11日(日)に開かれた。

 地元デザイナーの4ブランドがショーを行い、約550名の観客が来場したという。ビル会社の代表はメディアで「東京を目指すのではなく、アジア進出という流れも福岡ではあり得る」と強調したが、じゃあ彼らのブランドは地元でどれほど売れているのかである。まず東京で売れないブランドは、福岡でも売れない。ましてアジアでもだ。それはコムデギャルソンのPLAYやSupremeを見ればよくわかる。

 こうした地方でちまちまと活動しているデザイナーは、いわゆる「ファッションショー」を、ビジネス受注の場に位置付ける姿勢が全くない。それどころか、会場の反応でマーチャンダイジングに修正を加えたり、バイヤーとの商談で別注を受けるような態勢がなく、自分たちの好きなデザインをしてショーをやるだけで終わっている。

 メディアには「地元バイヤーも来場した」と言わせるが、実際に有力セレクトショップの評価を一度も聞いたことがない。また、アジア進出というなら、550名もの観客の中にアジアのバイヤーが1人でもいたかである。 その割に「モデル事務所関係者」とか、「地元モデルを起用」とか、いかにも若者が興味をもつネタの発信には躍起になる。

 アジアで売りたいなら、天神や博多駅に押し寄せている観光客の前で披露した方がよほどアピールになる。その恰好の場がファッションウィークであるはずだ。だが、資金を出す企業スポンサーの意向やFBBの3月のスケジュールなどから、4ブランドは3月16日からファッションウィーク期間を挟み、31日まで福岡パルコでポップアップショップ「Revo × Labo Fukuoka」を開くに止まっている。

 アジア進出が自治体や商工会議所の支援を引き出すための謳い文句に過ぎないか、それともアジアのバイヤーやお客まで引きつけるものが本当にあるのか。ここでどこまでアジアからの観光客の目に触れ、実際にバイヤーとの商談の場や購入に結びつき、リピーターにつなげられるか。真の実力が評価されるということである。

 もっとも、繊研新聞などの記事には商品概要やディテールの説明はあるが、彩色や素資材の使い方、ボリュームの取り方や全体のフォルム、そしてそれらが生み出すモードについての批評は全く書かれていない。ファッションジャーナリズムがクリエイティビティや技術レベルに踏み込んで書かなければ、彼らにとって全く勉強にならない。結果、デザイナーとしてのクリエーションが醸成されるはずもないのである。

 つまり、こうしたコレクションまがいのイベントがいかにも若者の憧れを喚起する目的でしかないから、「単なる芸能=ショービジネス」に過ぎないのだ。そこからはクリエイティビティや緻密な技術力をもつ人材が育つわけがない。第一、染めや織りについて機屋と喧々囂々のやりとりをし、自らリスクを抱えてオリジナル生地を作るなんてことはしてないだろう。ショーなんかより、そこに注力しなければ、いい服は生まれない。その点で、まず話にならないのである。有力ショップのバイヤーも同じ意見だと思う。

 デザイナー側はショーを開催するに当たって、メディアへのプレス活動だけは積極的に行っている。昨年は繊研新聞が大々的に記事を書いていた。今年はそれ(https://senken.co.jp/posts/ffb-youngbrand-show-180228)に加え、Fashionsnap.com(https://www.fashionsnap.com/article/2018-02-11/fukuoka-fashion-building/)も報道している。そして、ポップアップショップの開催ではパルコの手も借りたわけだ。

 これらはどれも東京に本拠を置く企業である。福岡だの、アジア進出だのと大見栄切っている割に東京資本のメディアやデベロッパーにすり寄らないと、何もできないのか。言っている事とやっている事の矛盾は、そのまま実力レベルの裏返しととれるのである。


中身のない事業はみな同じ。

 ファッションウィークは福岡アジアファッション拠点推進会議が主催する。しかし、今回のように企画のほとんどがタレント、芸能人によって進行されるようでは、ファッション事業を打ち出してきた推進会議としてなす術がなく、事業費の大半を拠出する企業スポンサーに主導権を握られていると言われてもしょうがない。まあ、代理店に企画を丸投げする時点で、それは想像できることだが。

 推進会議はアリバイづくりのように昨年10月末から「ファッションウィークの参加コミュニティ」を募集している。参加条件は昨年同様に「ファッションアイテムの企画制作・販売を行っている個人・法人・団体・学校」「ファッションショーの企画制作・出演等を行っている法人・団体・学校」「その他、ファッションに伴う活動を行っている個人・団体・学校等」となっている。

 だが、3月14日現在のオフィシャルサイトを見る限り、「香椎高校ファッションデザイン科学生によるファッションショー」は該当すると思うが、「アートを楽しむイベント ARTFULL DAY」「イオンモール × オカダン・グラフィック SPECIAL COLLABORATION」「LIFE with confidence!諫山直矢ライブペインティング&展示」が参加コミュニティに応募して審査の末、参加が認められたものなのか、それとも商業施設単独のイベントを無理矢理ファッションウィークにジョイントさせたのかはわからない。

 推進会議は募集した参加コミュニティについて、実際にどれくらいの応募があり、審査してどれくらいを参加させるのか、具体的な数値を全く公開していない。過去の実績では、福岡市が年度ごとに発表する「決算説明資料」に申し訳なさそうに「参加企業数」の項目で、次年度の目標と並行して書かれているだけである。



 昨年のファッションウィークについても、28年度決算資料説明(http://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/55163/1/281014kkb1.pdf)では、13ページの「クリエイティブ関連産業の振興・にぎわい創出」の項目に、目標/ファッションウィーク福岡参加企業:300社、成果・実績/432社(27年度302社)と記されているに止まる。市の説明では具体的な参加企業の社名は商工会議所が把握しているとのこと。ただ、市側が資料制作において1社1社の社名まで確認したかはわからない。

 推進会議のサイトでも何ら参加企業の明細が公開されていないのだから、ファッションウィークの応募者はすべて参加者とみなしたのではとすら思えて来る。これでは根拠のない見積り数値を目標に掲げ、成果・実績は盛った数値を出していると勘ぐられそうである。

 福岡市は、クリエイティブ産業をこれからの本市経済を牽引する重要な産業と位置づけ、国内外からの企業誘致や海外進出の支援、スタートアップ支援などを進めている。クリエイティブ福岡プロモーション事業には、ファッションウィークの最終日の25日に実施されるFACo (福岡アジアコレクション)も含まれている。

 しかし、所詮、テレビ局の事業=客寄せ興行でしかない。今年はお笑い芸人の「ノンスタイル」がゲスト出演する。(http://www.fukuoka-asia-collection.com/guest.html)相方の井上裕介が2016年の12月に当て逃げ事故を起こし活動を自粛していたが、真相が明らかにならないままフェードアウトしたような感じだ。

 所属事務所のよしもとクリエイティブ・エージェンシーとしては、事故からまだ1年程度しか立っていない。そのため、キー局で井上裕介の大々的に露出させてはスポンサーや視聴者からクレームが付くことをおそれ、ほとぼりが冷めるまでFACoのような地方営業から活動させようとしてもおかしくない。所詮、よしもとの芸人である。仕事がもらえれば、何でもいいのである。

 ファッションウィークともども芸能人、タレントでお客を集めることが、クリエイティブ産業やにぎわい創出なのだろうかと、思ってしまう。そう言えば、FACoを自社事業としてプロデュースしているRKB毎日放送は、2013年にもクリエイティブ・ラボ・フクオカ事業の一環で「The Creators」というイベントを企画、実施している。

 これも東京などからクリエーターまがいのタレントを呼んで、映像パフォーマンスやライブ、エンタメステージ、トークショーなど展開しており、構成内容は今回のファッションウィークとほぼ同じである。そもそも制作を外注に頼るテレビ局がクリエイティブを語れるわけがないし、ファッション音痴の代理店に糸へんが理解できるはずもない。

 代理店やテレビ局などの利害関係者にとっては、業界をダシに使い「ファッション」「クリエイティブ」を公共事業の口述にすることで、公金を手中に収めたい本音が実によくわかる。彼らにとって公共事業は手段ではなくて、事業そのものを得ることが目的なのだ。事業をゲットできれば、あとはタレントのギャラからマージンをハネればいい。まさにファッションやクリエイティブは打ち出の小槌のような言葉で、実に楽なものである。

 それゆえ、ファッションウィークの企画内容を見れば、地元ファッション産業の振興が絵空事だというのがよくわかる。その他の事業も予算の関係というか、FACoに大半を拠出していることから、だんだん尻すぼみになってきている。そのFACoですら、北九州市が「東京ガールズコレクション in 北九州」を開催し始めたことから、福岡県から補助金が回らなくなり、アジアでの海外公演ができなくなっている。

 福岡県は福岡がファッションの街としてポテンシャルがあると、一連の事業を主導し補助金を拠出した。だから、「福岡市」ではFACoを始めいろんなイベントが行われてきたが、本当に産業振興や人材育成につながっているのか。北九州市の北橋市長からすれば「そんなわけがない」である。福岡のファッション産業なんて北九州市と何ら変わらないではないかとの思いだろう。ならば、福岡県に対し、北九州だって可能性があるから、補助金を寄越せ。その論理も成り立つ。東京ガールズコレクションin北九州開催の背景には、両市間の政争もあるわけである。

 人材育成という点では、今回も県立香椎高校でファッションデザインを学ぶ生徒がショーを展開するが、彼らには何の利害もなく真摯に作品づくりに励んできたと思う。それは評価して上げて良いだろう。ただ、某・ファッション専門学校による青田刈りは気になるところ。「うちの学校でもっと勉強してみない」と、高校生に触手を伸ばしていてもおかしくない。

 本当に優秀な生徒かどうかは、プロが作品を見ればわかる。卒業後に福岡なんかでくすぶっているのではなく、直接海外に出た方がよほど勉強になる。人材育成は推進会議の事業の柱の一つである。にも関わらず、それにはほとんど予算を割かずインターンシップでごまかす始末だ。プロの評価を受ける作品を披露した生徒には、事業費から奨学金を出すくらいの施策がないと、優秀な人材は育たない。

 企業スポンサーをつけて三文タレントにはギャラを払いながら、高校生には何のインセンティブもないのは、いかにいびつな事業なのかがよくわかる。未だポストにしがみついているのか、それともそれも形骸化してしまったのか。どっちでもいいが、企画運営委員長はどう思っているのだろうか。それとも自校への入学を勧誘できれば、それでいいのだろうか。


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする