HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

公園整備のあだ花。

2018-10-10 06:38:54 | Weblog
 先月9月20日、筆者の事務所からほど近い福岡城趾内の舞鶴公園に、バーベキューやカフェを楽しめるアウトドアパーク「グリーンマジック舞鶴」(面積2500㎡)がオープンした。運営は飲食サービスや公園施設のコンサルティングを手がける「パーレイ」(東京)で、空間プロデュースやプロダクトはビームスのライセンス事業ブランド「ビームスデザイン」が監修している。(http://green-magic-maizuru.jp/)

 今月20日にはシャワーやロッカーがあるランニングステーション「マジックランステーション」、子ども向けの書籍や雑誌を置く図書館「グリーンライブラリー」がオープンする。飲食業態は話題性もあってオープン直後には行列ができるが、半年後も人気をつなぎ止められるのはごくわずかだ。そこで、ここの立地や環境を誰よりも良く知る人間として、先行出店している業態の状況を挙げながら、問題点を考えてみたい。

 筆者は博多生まれの博多育ちで、福岡城趾と舞鶴公園、隣の大濠公園は子どもの頃から春はお花見、夏はナイター観戦、秋は紅葉見物やボート漕ぎ、冬はマラソン大会と、四季を通して親しんで来た。その後、福岡を離れていた時期もあったが、ニューヨークから戻り事務所を中心部天神の隣町「大名」に構えたのは、子どもの頃から知る環境がトレーニングには絶好のロケーションと思ったからだ。

 ニューヨーク時代にはセントラルパークでのランニングやフィットネスを楽しんだが、福岡城趾は事務所から軽いジョギングですぐだし、適度な起伏があるのでクロスカントリー風のコースにもなる。その先の大濠公園は、言わずと知れた市民ランナーの聖地で、時間を見つけては走っている。この界隈での生活も20数年になるが、おかげでいたって健康的な生活をおくれている。ニューヨーク・マンハッタンと同様に生活コストがかかっても、都心でのウェルネスなライフスタイルには代え難いのだ。



 福岡県や福岡市は5年ほど前に「福岡セントラルパーク構想」を決定しており、舞鶴公園と大濠公園との一体的な活用を図り、県民・市民の憩いの場、また歴史や芸術文化、観光の発信拠点として、公園自体が広大なミュージアム空間となるよう整備を進めている。グリーンマジック舞鶴も、この先駆的事業として都市型ライフスタイルの創出、交流の場づくり、防災拠点としての機能整備の三つのテーマで誘致されたようである。

 先駆的とは言っても、民間事業者への委託はこれが初めてではない。2014年、舞鶴公園西広場の南側にあった福岡市立舞鶴中学校が移転したため、福岡市はその校舎の一部(面積約330㎡)を活用して観光情報の発信拠点「三の丸スクエア」を整備。併せて観光客向けにお土産の販売、喫茶や軽い食事が提供できるようにテナントを公募した。

 市の要請に対して応募したのは、県内外の19社。企画コンペの結果、博多の老舗菓子舖J社の「甘味処」(土産コーナー含め面積約165㎡)に決定した。J社は既存店の一部でもお茶とお菓子、うどんやそば、カレーライス(各500円)といった軽食を提供しており、その点が決め手になったようだ。高島宗一郎福岡市長はJ社のM社長に対し、「企画内容が良かったからです」と煽てたそうだが、同年11月にオープンすると、平均日販は1万円程度。毎月100万円もの赤字が続き、半年で初期投資とは別に500万円以上も費やすはめになったという。
 
 M社長によると、コンペに際して担当の中園政直副市長は、「駐車場を整備して、観光客をどんどん連れて来る」と、息巻いたという。確かに2015年8月には駐車場が整備されている。ただ、駐車料金は普通車が最大24時間で500円と天神の民間駐車場に比べ格安なため、主に県内外からの買い物客が利用し、福岡城趾までは回遊しないのだ。また、観光バスも待機場所として利用するだけで、肝心の外国人観光客は天神でのショッピングの序でに福岡城趾や大濠公園を散策する程度。これではとても集客というレベルではない。



 M社長は「当初の(市の)約束とは全く違ったからね。行政訴訟でも起こそうかと考えたよ」と、冗談まじりに話すが、もちろん赤字を埋めるべく腐心している。お茶とお菓子は既存店で提供済みなので新たなコストはかからない。軽食も端から原価を100円程度に設定していた。他に削れるのは水光費と人件費で、あとは市との家賃交渉しかなかった。そこで営業時間(10時〜17時)のうち、喫茶を10時から16時、軽食を11時から14時にして短縮して経費を削減。家賃も再契約して、毎月の赤字幅を50万円カットしたという。それでも依然として苦戦していることに変わりない。


福岡城趾に人の手は馴染まない

 県や市が規制緩和に乗じて福岡城趾の環境とインフラを利用し、観光需要やライフスタイルの創出を図るのは理解できないでもない。それでなくても、福岡市は支店経済に支えられているわけで、新たな産業を創り出し、稼げる街にしていくのは当然だ。それにしても、相変わらず自治体が考える収益事業は見通しが甘い。だが、民間事業者の苦戦は福岡城趾のポテンシャル、さらにロケーションも関係する。
 



 福岡城趾は北側の明治通り、南側の国体道路に挟まれ、城内道路(福岡国際マラソンのテレビ中継でスタート直後とゴール直前の坂道)で、東西に分断されている。天神寄りの東側には裁判所跡地(地方、高等、家庭、簡易の各所は六本松に移転)、平和台陸上競技場、テニスコートなどがあり、他は鴻臚館跡(西鉄、太平洋クラブ、クラウンライターライオンズ、福岡ダイエーホークスの本拠地、旧平和台球場跡地)、各御門、天守台、南丸、櫓など史跡、石碑くらいだ。観光のシンボルにもなる「大天守」が現存するわけではなく、お堀と石垣、植栽に囲まれる散策、憩いの場に過ぎない。

 西側で史跡と呼べるのは大河ドラマにも登場した黒田如水の隠居地、名島門、潮見櫓くらいで、あとは三の丸スクエア、舞鶴公園西広場、城内の住宅地、三の丸駐車場になる。東側から大濠公園に向かう観光客は、平和台陸上競技場前の横断歩道を西側に渡り、名島門をくぐって真っすぐ歩く。三の丸スクエアはこのメーン動線から死角になっており、わかりづらいのだ。むしろ城の構造や歴史的な造作物がこうした環境を創り出しており、現代人の手を入れて新たに整備・開発することには馴染まないのである。

 「のぼりを立てて、何とか観光客に気づいてもらえるように努力している。でも、 1年を通して集客が多いのは、桜まつりの時だけで、他の月はかなり厳しい。店舗責任者は『今日の日販は昨年対比200%でした』と報告して来るが、それは1万円が2万円にアップした程度」と、M社長は苦笑する。

 毎年3月に開催される「福岡城桜まつり」では、露天商の出店や指定業者によるバーベキューがあるが、花見客は酒や弁当を持参する。祭りは桜の開花に左右されてスケジュールが流動的で、イベントとしては不安定だ。また、大濠公園には指定管理者になっている「ボートハウス」、「スターバックスコーヒー」が出店するだけ。市民の利用は平和台陸上競技場での練習や大会、テニス、ランニングやウォーキング、花見や散策になる。

 外国人旅行客、特に若者のバックパッカーの間では、天神の商業施設や大名のファッションエリアを見て回った後、福岡城趾や大濠公園を観光するいくつかのコースが定着している。一つは天神西通りを抜けて、大名から大正通りを渡り、西友系スーパーのサニーとハローワークの間を通り、裁判所の裏手にある緩やかな坂道を上がるコース。もう一つは天神西通りを南下して右折し、国体道路、けやき通りを歩いて警固中学校の横や護国神社前前、美術館前から、福岡城趾に向かうコースである。

 メーン道路の途中にはコンビニがいくつもあるし、夜になれば中心部まで戻って今泉や警固、大名のレストランや居酒屋を利用するケースが圧倒的に多い。つまり、福岡城趾一帯は恒常的にカネが落ちるようなロケーションではないのである。

 ましてJ社の甘味所が売上げ不振であることを考えれば、民間事業者が出店しても採算ベースに乗せるのは容易ではないことがわかる。そこでこうした反省を踏まえ、また公園内という制約から、福岡市は大がかりな設備投資を必要とせず、常設ではないグリーンマジック舞鶴の誘致に行きついたとも考えられる。運営会社のパーレイとの契約は3年で、施設の開設は毎年3月から10月までの期間限定という。

 バーベキュー施設は、テーブルとソファの両タイプで合計31サイト(定員234人)、カフェは30人定員のソファ席。見るからに仮設のような設備で、カフェの厨房を兼ねるのも移動が自由なキッチンカー。これならJ社の甘味処よりもローコストで運営できるはずだ。問題は利用率で、8カ月間に予約客を中心にどれほど集客できるかである。

 利用料はバーベキューが場所・機材貸しのみ(4名利用)で、テーブルサイト:1人2,000円、ソファサイト:1人3,000円(共に小学生以下無料、税別)、食材提供ではアメリカンバーベキュー食材:1人2,000円(税別)、ドリンク飲み放題:1人2,000円(税別)で、場所代は別途人数分必要になる。手ぶらで行けば、最低でも1人あたり6,000円かかる計算になる。


 もっとも、郊外にはバーベキューを楽しめる環境はいくらもあるのだから、メーンの利用客は周辺の会社員や若者のグループ、スポーツ愛好家などだろうか。都心部の施設のため、平日の利用は限定的だろうし、野外だから梅雨や台風の影響も受けやすい。8カ月間の開設でも週末、天候の影響が少ない時季などを条件とすれば、稼働するのは賞味半分程度だろうか。それでもすべてのサイト、座席がすべて埋まるのは厳しいのではないか。来場者数の年間目標2万人が皮算用で終わらなければいいが。



 出店場所は舞鶴公園西広場の南側の芝生が広がる一帯だ。従来は家族連れが散歩に訪れたり、市民が軽いスポーツやダンスなどで汗を流すエリアだった。もちろん、花見のシーズンには場所取りの争奪戦が繰り広げられるスポットでもある。そこが民間事業者に開放される分、市民が散歩や余暇を楽しめるスペースが減ってしまうことになる。花見客から市に対し、クレームが来ないとも限らない。


市民にビームスDの価値がわかるか

 一方、ランニングステーションは、 ロッカー30個とシャワールーム3室を備える予定という。ただ、2010年5月、神奈川のビーチタウンとJTBが共同でプロデュースした「way大濠アウトドアフィットネスクラブ」が大濠公園のすぐそばにオープンした。こちらはインドア施設でランナーズシャワー7基、ロッカー88個、シューズロッカー48個の他にフィットネス&ヨガスタジオ、ラウンジまで備えたものの、2年後にはビーチタウンがコンサルティング契約を解除し、JTBも手を引いている。

 現在は「単独で運営されているかも」との話だが、市民ランナーからの評判は聞こえてこない。というか、福岡にはランニングステーションを利用する文化はないとも言える。舞鶴&大濠公園をスポーツ利用する市民や学生のほとんどがウエアに着替えてやってくる。もちろん、筆者もそうだ。トレーニングが終われば、そのまま自宅や学校に戻るので、ランニングで施設を利用する意味はあまりない。

 東京の大手町や竹橋周辺で働くビジネスマンに見られるようにウエアやシューズを持って通勤したり、会社にキープして退社後に都心部でランニングやフィットネスをして、シャワーを浴びて帰宅するような習慣は、福岡の都心部ではあり得ない。これは郊外や他県にある自宅と東京都心部のオフィスが離れている首都圏特有のスタイルではないかと思う。もちろん、鹿屋アスリート食堂の利用も然りである。

 福岡城趾の裏手にある中央体育館には公共のスポーツジムがあり、こちらにはロッカーやシャワー室が完備されている。利用料金は2時間で大人は260円、65歳以上の高齢者は半額だ。都心部にあってアクセスが良く、駐車場も完備するが、近隣住民が仕事が休みの日に利用するケースが圧倒的に多い。筆者もよく利用している。だから、ランニングステーションの利用も、限定的ではないかと思う。

 子ども向けの図書館にしても、中央体育館隣の中央市民センターに図書館があり、児童書も豊富だ。畳敷きのコーナーがあって子どもたちは寝転がって本を読むことができる。もちろん、屋内だから季節や気候に関係なく読書を楽しめる。

 さらに災害時の防災拠点にしても、福岡城趾は北にある舞鶴地区や大手門地区、東側の大名地区はオフィス街で、職住隣接の利点を生かし、タワーマンションなども増えている。南側は赤坂地区、警固地区、六本松地区で古くからの住宅やマンションが林立する。そのため、いざ災害が発生すると、わずか約300人の3日間分の食料備蓄では瞬時に底をついてしまう。そもそも、石垣づくりの城趾が防災拠点になるのかどうか。熊本城の例を見れば、火を見るより明らかである。



 今回、ビームスデザインが監修にあたっており、グリーンマジックオリジナルの防災リュック、Tシャツ、パーカ、コップなどを販売するほか、施設スタッフのユニフォームを制作している。純粋にブランドデザインとして考えれば、そちらの方がニーズはあるかもしれない。ただ、これもビームスを知るファンや業界人が注目するだけで、バーベキューやスポーツの利用客がどこまで認知しているかはわからない。一般市民、特にスポーツ愛好家にはほとんどリンクしないと思う。

 アウトドアビジネスは、とにかく自然災害や天候に左右される。先々週末の台風24号は日本列島を縦断し、先週末には25号が山陰から北陸沖の日本海を北寄りに進んだ。福岡市では大きな被害は出ていないが、人手にはかなりの影響があったようである。グリーンマジック舞鶴はオープン直後の書き入れ時に売上げを失うことになったわけだ。筆者は先週の東京出張ではそれほど天候の影響は受けず、仕事のスケジュールをこなすことができ、帰りの飛行機も無事に飛んでくれた。しかし、屋外でのビジネスはそう簡単にはいかない。常に天候や災害のリスクと向き合わないといけないのである。

 福岡城趾は都心にありながら四季折々の草木に囲まれる市民公園である。そこでは今の環境を大事にし、市民が散策やスポーツを楽しむことが優先されるべきだ。規制緩和で無理に人の手を加えビジネスの孵化機にするのは、あまり意味をなさないと思う。まして、珍しくもないバーベキューが都市型ライフスタイルの創出になることはあり得ない。外食事業者の単純な発想やファッションブランドによる仕掛けもどうかと思うが、相も変わらずそんな事業を選定した福岡市の愚策ぶりには閉口する。公園整備のあだ花と言われないとも限らない。
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