HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

一に商品、ニがEC。

2020-04-22 04:32:11 | Weblog
 新型コロナウイルスの猛威は終息の兆しすら見えない。不要不急の外出や買い物の自粛は、逆に感染拡大の前から病んでいたアパレル企業を弱体化させている。4月に入り、大手の百貨店系アパレルが立て続けに発表した店舗閉鎖も、弱り果てた企業体を象徴するものだ。しかし、そうした状況に追い込まれたのは、トップ交替や小手先の改革にあぐらをかき、抜本的な対策に決め手を欠く中で、コロナ禍によるダブルパンチを受けた結果と言える。

 4月13日、オンワードホールディングス(HD)の決算会見で、保元道宣社長は「21年2月期に国内外で約700店舗を閉店する」と、明らかにした。主な出店先である百貨店が低迷しているからだが、前年同期にもほぼ同数の店舗を閉めている。昨年10月に発表した構造改革以前の店舗数約3000店からほぼ半減。同社はこれを契機にデジタルシフトを一層加速する。今年2月期の時点では、売上げの約62%が百貨店販路だったが、ECを拡大することで百貨店の比率を50%以下に縮小するという。

 三陽商会は5月に就任する大江信治新社長のもと、経営再建に向けた再生計画を断行して、2022年2月期に営業黒字を目指すという。こちらは百貨店のインショップを中心に150店を閉鎖。仕入れでもブランド事業部単位で行ってきたものを一元管理する。これにより、21年2月期は対前期で110億円削減し、期末在庫も30億円程度少なくする。今年2月期まで4期連続で赤字を出しており、一層の店舗閉鎖、仕入れの大幅な抑制は不可避だったと見られる。


不振の原因は商品原価率の圧縮

 オンワード樫山や三陽商会といった百貨店系アパレルがなぜ、ここまで凋落したのか。両社に共通するのは、以下のことが考えられる。ひと言で言えば、バブルの崩壊で消費者の所得が低下し中間層が没落して、高額な商品が売れなくなったことだ。

 もう少し厳密に分析すると、商品価値の低下による顧客離れだ。1980年代からバブル崩壊の91年くらいまで、こうしたNBアパレルの商品原価率は30%以上あった。ライセンスブランドではそれ以上だ。そのため、商品のクオリティは高く、非常に魅力的だったのである。

 ところが、取引先の百貨店側は高額な商品が売れなくなったのに、自店の荒利益は確保したいがため、オンワードや三陽商会などのアパレルに対し、納入掛け率の引下げを求めた。アパレル側は派遣販売員の人件費や返品経費、セールでの値下げロス分などを考えると、「原価率を下げて掛け率の引下げ分を吸収」するしかなかったのだ。

 アパレルはNBでもコストの安い中国生産にシフトし、生地から縫製加工までの質を下げ、原価率を22〜23%くらいまで落とした。当然、ブランド名は同じでも、1割近くも原価が下がれば、以前ほどのクオリティを維持できるはずもない。「生地代が5%では、おもちゃのような品質の商品になっている」と、吐き捨てた大手アパレルOBもいる。当然、敏感なお客は商品価値の低下を察知し、急速に百貨店離れを起こしていったのである。



 あれから約20年、低迷から脱却するため、オンワードHDは百貨店では複数のブランドを集約した大型の売場を増やし、EC(サイト名は「オンワードクローゼット」)と連携したオムニチャネル戦略に舵を切る。店舗閉鎖で浮いた人員はカスタマイズ(オーダースーツのカシヤマ・ザ スマートテーラーなど)、ライフスタイル(レディスシューズやバッグなど)といった成長分野へ配置転換するという。

 オムニチャンネル戦略では、「EC専用商品の開発」と「新規顧客の開拓」を柱とする。約300万人が登録するオンワードメンバーズには、ECで買い物したことがないお客も多数いることから、店舗とECの両方で買い物をするオムニチャネル会員を増やしていくという。

 そのためには、残す実店舗とECをうまくシンクロさせて顧客をつなぎ止め、利便性に惹かれる新規客をいかに開拓するかにかかる。オンワードHDのEC売上高は2020年2月期で、前期比30.6%増の333億円。これを21年2月期に500億円、中期的には1000億円と設定する。たが、目標達成には、国内ではECに抵抗がある中高年を捉えなければならないし、海外市場を開拓するには越境ECの整備が必要になる。

 一方、三陽商会は2013年に希望退職を実施し276人が応募した。バーバリーとのライセンス契約が終了して以降も、2016年には249人が希望退職、18年にも247人が早期退職した。百貨店を主販路とするブランドが売れていないため、まずは一般職などを減らしたが、バーバリー事業の終了で専門スタッフまで含めた人員削減に手をつけた。それでも4期連続の赤字を計上し、売上げの減少に歯止めがかからないのだから、ついに仕入れ在庫にまでメスを入れざるを得なくなったわけだ。

 こちらは売上げ回復は相当に難しいのではないか。 ブランドの顔ぶれを見ると、現状で主力になるのはレディスでは「EPOCA」「マッキントッシュフィロソフィー」、メンズでは「ポールスチュアート」くらいだ。実店舗でも売れそうなブランドや企画が少ないのは致命的と言うしかない。EC売上げにしても、2019年度でわずか13%弱に止まる。バーバリーなど百貨店向けで中高年を対象にしてきただけに、いきなりEC拡大を進めても顧客の方が付いて来れない。バーバリーを失った後に投入した「マッキントッシュ・ロンドン」も苦戦が続いており、ECに注力したところで売れる保証はない。



 逆にECでの購入に抵抗がない若年層を狙うにも、ヤング向けブランドがLOVELESSやCASTくらいとコマ不足は否めない。なおさらブランドによってはSKU(最小在庫管理単位)を最大30%減らすという。その他の赤字事業についても、今期中に継続か撤退かを見極めると、売上げ回復のために戦う武器や弾すらなくなっていく。オーダースーツにしても競合が多いだけに、どこまで競争力を持てるかは不透明だ。大江信治新社長の船出は非常に多難と言わざるを得ない。


ネットで注文し、店で受け取る仕組み

 多くのアパレルが自社ECに舵を切る中で、ECの成否はお客がネットで注文した商品を店舗で受け取る仕組み、C&Cクリックアンドコレクト)がカギを握る。つまり、百貨店系のアパレルにとっても主要百貨店で残す店舗がその役割を担わなければならないのだ。オンワードHDが複数のブランドを集約した大型の売場を増やすのも、ECで注文したいろんなブランドを店舗で受け取れることを想定したものと考えられる。また、地方百貨店でもブランド単体の店舗を残すのなら、受け取りサービスが必要になるだろう。

 EC利用客は送料負担を嫌うので、店舗受取を求めてくる。在庫効率を考えると、店舗在庫の引き当てが必要になるので、オンワードHDは実店舗として残す約1600店の配置や在庫バランスも考えなければならない。もちろん、EC専用商品などはDC(倉庫+配送センター)から直接発送するはずだ。その場合、会員が一定額以上を購入する場合、送料を無料にするのなら新たな物流コストにも向き合うことになる。ECシフトしたからと言って、効率的で収益が上がるとはいかないのだ。

 お客からすれば店舗で商品を確認してから、ECで注文したいという心理も働く。そのため、大型の売場にはショールミングの機能も求められる。ニューヨークの百貨店「ノードストロム」が行っているようにECで注文しても商品が気に入らないと、店舗で返品できるような仕組みまで整えられるか。百貨店側は売上げにならないから嫌うだろうが、ならば独自で試着やお直し、受け取りまでを行う拠点も視野に入れなければならない。果たして、そこまで踏み込めるかである。

 ECがすっかり浸透し、すでに成熟の域に入っていく中では、顧客利便性=ECで注文したお客が商品を気兼ねなく店舗で「受け取り」、「試着」「返品」までできる環境づくりが不可欠になる。でないと、ECに抵抗がある中高年はとても開拓できないし、他社とは差別化できず、オンワードHDが掲げる1000億円の目標の達成もほど遠いと思う。

 三陽商会に言えるのは、売れなくなった原因が原価率を下げたことと気づいているかだ。一時的にヒットしたバーバリーの「セカンドライン」。同社はこの成功体験が仇となって「マッキントッシュ・フィロソフィー」「クレストブリッジ」など、「原価率は下げたままでもブランドで仕掛ければ、割高でも売れる」とはき違えているように見える。



 ECサイトで販売する他ブランドを見ても、相対的に価格に対する価値が低く、とても購入する気にはなれない。 ZOZOの利用客ならなおさら、そう感じているのではないか。前年度で13%弱というECの売上げ比率がそれを如実に表している。さらに言うなら、マッキントッシュは個店のセレクトショップが10数万円もする「本家コート」で顧客化済みだ。にも関わらず、三陽商会は価格の安いライセンス(マッキントッシュ・ロンドン)ならもっと客層が広がり、バーバリーの穴を埋められると勘違いした。バーバリーもマッキントッシュも、お客が成熟し目が肥えている状況では、ライセンスなんか見向きもされないのを悟るべきなのだ。


ECシフトは抜本的な解決にならない

 オンワードにも三陽商会にも共通するのは、まず価値を低下させた商品づくりを見直さない限り、抜本的な解決策などあり得ないと考える。実店舗の閉鎖で百貨店との取引をセーブしていくのなら納入掛け率の引下げも必要なく、百貨店以外の展開では原価率を元の水準に戻した商品を作ることはできなくない。もちろん、中間層が没落しているのだから、全てのブランドの原価率を1991年以前の水準に戻すことは難しいだろう。

 しかし、顧客離れが商品にあるのも間違いない。低価格の商品ばかりなら、必要とされるわけがないのだ。価値が下がった商品は、企画から(何なら独立した企画会社の設立も必要かも)、素資材の開発や調達、デザイン、パターン、縫製、加工までをすべて見直し、売価を上げてでも価値の高いブランドを提案することも、改革の一つに加えなければならない。

 それらは現物を見て購入してもらうべきで、そのためには主要百貨店などでの旗艦店展開が必要になる。遠隔地に住んで都市部の百貨店まで買い物に行けないお客にはC&Cを活用してもらい、最寄りの別店でも受け取りや試着を可能する。ここまで行ってはじめてオムニチャンネル戦略が活きるのだ。要は企画に力を入れ、コストをかけて作るブランド(これにはオーダースーツも含まれるし、カスタマイズな商品もあり得る)、価格を抑えたままでEC専用にするブランド、ライフスタイル向けのアイテムなど、選択と集中が決め手になる。

 オムニチャンネルやEC、Webサービスはあくまで手段に過ぎない。百貨店との関係は店舗削減で一旦リセットされ、ブランドのリニューアルや新規開発でも、催事やテナント出店など限られていく。とにかく「当社が持てる力を結集して企画し、自信をもって作っている商品なので、どうか現物を見て試着をして、生地の質感や着心地をじっくり確かめてください」という反省と気概を見せない限り、信頼の回復も顧客の回帰もままならないのは確かである。

 むしろ、NBアパレルから離れていった客層は、それを待ち望んでいるはずだ。店舗閉鎖で当面の炎症は抑えられるが、まん延した低価格病という慢性疾患を治癒できるのか。店を閉めるのは対症療法でしかない。だから、健康な企業体に回復させる抜本的なオペレーションは待ったなしだ。大手アパレルの経営者にはそこまで踏み込むことが求められるし、メーカーとしてもの作りの原点に回帰する姿を見せるべきだと考える。
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