HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

利権を得る公職。

2021-03-24 06:50:50 | Weblog
 以前に複数の関係者から聞いた話として、「福岡アジアファッション拠点推進会議」がこの3月26日の総会をもって解散すると書いた。事業費の大半を拠出した福岡市、予算支援した福岡県や福岡商工会議所は、推進会議が掲げた「福岡のファッション産業の振興」「人材の育成」を実現すべき事業が委託先によって形骸化された事実を知らないはずはない。

 解散の背景には、いったい何があるのか。予算支援してきた自治体側が13年間に拠出した「費用(公金)」に対し、「効果(事業目的の達成)」が低ければ、無尽蔵に拠出できないと判断しても的外れではない。それとも、推進会議が「事業の目的はほぼ達成したから」と、任意団体の特有の常套句を発して、解散という幕引きに至らしめたのか。

 どちらにしても、結果的に見れば、推進会議が目指した福岡のファッション産業の振興や人材の育成が利害関係者の思惑通りにうまく利用されたことは間違いない。その一人が推進会議の事業を行う「企画運営委員会」の名簿案のトップに掲載され、そのまま「企画運営委員長」のポストを得た人物である。

 この御仁、所属先は「大村ファッション専門学校」、職位は「学校長」(後にファッション部長)とある。設立総会では登壇し、パワーポイントを使って推進会議の設立の経緯から事業趣旨、目的、福岡の可能性などを説明した。他の企画運営委員は所属や肩書きからして、東京五輪組織委員会の理事と同様に名誉職と見られる。

 だが、この御仁は企画委員長として事業スタート以降、事業のオリエンテーション、プレゼン審査や講演会など事あるごとに取り仕切ってきた。そこまでは職責上、良しとしよう。しかし、次第に委員長の特権を生かし、公益財団法人のトップの如く事業を差配し、さまざまな案件の最終決定権に口を出して、「自校」を優先して事業に参加できるようにしていった。




 例えば、推進会議が募集したイオン九州の「ROUTE(ルート)80」(正確にはイオン本社が手がけたSPA「トップバリュコレクション」のヤングブランド名)とFACoのコラボ企画募集でも、自校の学生が商品企画に任に当たったのはたまたまではないだろう。その他にも、国の緊急人材育成支援事業では、自校に社会人対象カリキュラムを開講して奨励金を得ている。これら推進会議関連の事業を自校に誘導した点では、私物化が非常に懸念される。




 また、2014年のファッションウィーク福岡で開催された「ファッションマート」では、出店条件に「バザーではありません。洋服・雑貨・アクセサリーなどのファッション発信の場となります」と規定されたにも関わらず、自校のブースでは堂々と「着」を販売するなどルール無視も甚だしく、誰も意見できなかったのかと思わせたほどだ。しかし、やることは所詮専門学校の学芸会レベルで、自校満足の域を出ずビジネス振興には遠く及ばないものだった。

 それもそのはずである。この御仁のプロフィールを見ると、大分の片田舎出身で学生時代は長崎で過ごし、業界経験は小売業しかない。日本のアパレル業界、特に福岡特有のファッション土壌についての知見など知れたものだ。ファッション専門学校のトップとしては地元のアパレルメーカーにインターンシップを要請したり、業界誌に自校のロールプレイングコンテストを報道させたりと、各方面に取り入る術には長けていたようだ。

 商工会議所や自治体にも近づいて企画運営委員長のポストを得ると、その立場を最大限に活用した。福岡のファッション専門学校では格下と評価される自校のために、事業を学校PRの道具として精一杯利用したと言ってもいい。もっとも、地元SPAの社長は、同校出身の社員から「あの人の言うことは、あまり聞かない方がいい」と、クギを刺されたと明かす。卒業生の冷静な評価は、そのまま企画運営委員長としての手腕にも当てはまる。


RKB子会社制作のサイトは4年で閉鎖

 推進会議が事業企画で提示した項目には、「その他のファッション産業振興に効果的な企画・運営実施」があった。しかし、委託先のRKB毎日放送は福岡アジアコレクション(FACo)に費用のほとんどを費やしたため、他の事業では東京などから講師を呼んでの講演会やセミナーを催すくらいだった。それも近年は予算不足から、休止に追い込まれていた。

 RKB本体のサイトに組み込まれたFACoの公式サイトでは、商品を購入することはできた。だが、それは別会社が運営するNB主体の通販サイトにリンクするだけで、肝心な地元ファッションのビジネスに結びつけるまでには踏み込んでいなかった。その時点で、問題にならないのもおかしな話だが、情報発信サイト制作には別の予算が下りることになった。

 推進会議の旗振り役でもあった麻生元福岡県知事は2010年、プログラム言語「Ruby」を使用した「福岡県ファッションビジネス情報発信システム」の基本計画を発案。事業費として国の「緊急雇用創出事業臨時特例基金23,931,000円が用意され、地元ファッションビジネスの情報発信はこのシステムが肩代わりすることになった。



 福岡県の事業で商工部の中小企業振興課が所管し、委託先は「企画書」のみで選定されることになった。推進会議の情報発信システムも兼ねることから、審査には県の商工部だけでなく、推進会議の役員を務める福岡商工会議所の職員も当たった。これについてはFACoを仕切るRKBも承知していたはずだ。委託先は、「(株)ティーアンドエス」というWeb制作会社に決まった。

 緊急雇用創出事業であるため、サイト制作に従事するスタッフは新規雇用が条件だった。商工部が示した雇用人員の内訳は、プログラマー10人(雇用期間60日)、翻訳対応者4人(同60日)、掲載勧誘従事者3名(同40日)、Webデザイン・制作者3人(同40日)。Web制作会社が県に提出した業務報告書によると、上記のほぼ条件通りの雇用契約や給与明細などが記されていた。



 一方で、雇用予定には、「注意:ホームページ作成の行程に合わせ順次募集する予定です」との条件にもかかわらず、ハローワークでの求人募集は1ヶ月程度で取り下げられるなど不可解な点もあった。ところが、運用が開始されたポータルサイト「Fashion Site Fukuoka」は、目も疑うような代物だった。(写真)

 トップページには、FACoのステージを引きで撮った写真を掲載。肖像権の絡みから出演タレントが映る写真が使えないのは制作者なら誰でもわかる。だが、トップページのど真ん中に「染み抜き」や「靴磨き」のバナー広告を堂々とレイアウト。ファッションビジネスのサイトにしてはあまりに稚拙で駄作なデザインで、業界の人間からすれば見るのも恥ずかしかった。

 下にスクロールすると、いかにも専門学校生がリサーチしたような「天神白書」なるデータが掲載されている。これには前出の企画運営委員長の学校や学生が絡んだのではないかと思わせる。もちろん、こんなポータルサイトを内外のファッション関係者が利用する気になるはずもない。

 肝心な情報については多言語対応にしたと言っても、スタート時のコンテンツがあまりに手薄で全く発信能力を欠いた。時間をかけてページを増やすにしても、実際には2年、3年経ってもほとんど更新されず、2014年にはサイト自体が閉鎖された。Ruby言語の機能を実証し、国の雇用基金でスタッフを雇用したと言い訳できても、福岡のファッションビジネスにとって何ら利用価値がないのだから、2400万円をドブに捨てたようなものである。

 さらに調べると、このWeb制作会社は「RKBの子会社」であることがわかった。県の商工部だけでなく、推進会議の役員が企画書の審査に当たり、自校の参画を含め企画運営委員長の力が働いたとすれば、是が非でもこの制作会社に事業を委託するためではなかったのかとさえ思えてしまう。推進会議のファッション事業と同じく、これも出来レースだったのか。

 県が情報公開した企画書には「ブランディング」だの「インテグレーション」だのと、いかにもWeb業界が使いそうな麗句が並んでいた。だが、肝心なサイトは福岡ファッションの情報蓄積はおろか、ファッション業界について何ら知見がないことが明らかで、これではブランドもクソもない。


情報開示されないFACo関連のDVDとパンフ



 2011年には、同じく県商工部が「FACoブランド販売力強化事業」を公募し、「RKB映画社」が「紹介パンフレットとDVDの作成」を請け負った。こちらも国の「雇用創出事業」であったため、委託事業者はスタッフとして10名を雇用し、制作期間は15日との条件付きだった。RKB映画社が正当な手続きを踏んでいれば、何ら問題はない。

 ただ、制作物がどう運用されたかは、2012年度の時点でも情報公開されなかった。関係者を通じて商工部に訊ねると、担当課長から「(当該事業は)FACoの海外向けの資料になり、英語、中国語、ハングル、タイ語でのみ制作している。海外からの問い合わせあったときや、海外に行ったときに使用するものなので、HPなどで公表をしていない」と返答があった。

 しかし、推進会議は発足時に「官民が一体となって福岡ファッションのを積極的に世界に発信する」と、公言している。その意味で、FACoは「イベントによって福岡ファッションのプロモーションを行なう」目的なのに、事業資金を拠出している県側がたとえ外国語版でも、「パンフレット及びDVD制作」を積極的に内外に公開しない意図がわからない。

 「パンフレットやDVDの在庫には限りがあるから、問い合わせや申し込みが殺到すると困る」と言うなら、費用をかけてわざわざ「完パケ」や「プリント物」にする必要はない。2700万円もの費用をかけ多言語対応にしたFashion Site Fukuokaに動画機能を付けたり、ジャンプページは増やせばいいだけの話だ。その方が世界中から気軽にアクセスできるし、保存管理の手間もなくなる。

 結局、福岡県も雇用基金を使わないといけないから、事業を作っただけではないのか。それに業者が群がり、利権にする。ポータルサイトにしても、DVDやパンフレットにしても、それは福岡のファッションの世界に発信する「手段」なのに、事業費を得て制作することが「目的」になっている。しかも、業者は福岡のファッション産業の振興などに与する必要はないのだから、制作された媒体が機能するはずもないのだ。

 福岡アジアファッション拠点推進会議が大々的に発足して13年。推進会議の会長は福岡商工会議所の会頭が名誉職として務め、会頭が替わるたびに会長も交代した。ところが、企画運営委員長は何年も同じ人物が務め、FACoはRKBの自社事業として継続され、サイト制作などの関連事業もRKBの子会社の手に堕ちた。



 ここまで事業が独占されると、推進会議とRKBは完全に癒着していたのではと、言われるのも当然だろう。数年前に事務局を務めた副会頭は県外メディアの取材に対し、「徐々に実績が出始めていると手応えを語る一方、国内外での認知度が課題。福岡から世界に発信できるよう地道に活動していきたい」と、語っている。

 しかし、事業に巨額な資金を投下したところで、行く先はローカル放送局や代理店、その先にある芸能界に流れただけ。認知度の向上だの、情報発信だのと言っても、作られた媒体はほとんど目的を果たさず、メディアと関連業者が利するだけで、地元ファッション業界には何らメリットはなかったのが実態だ。取材に応じた副会頭のコメントとは裏腹に、「解散」という虚しいオチが何よりの証左と言える。

 果たして、利害関係者は次はどんな手練手管で、名ばかりのファッション事業をゾンビの如く復活させるつもりだろうか。

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