HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

市場が決め始めた。

2022-12-14 06:36:33 | Weblog
 2020年2月に閉館した熊本パルコ跡地に23年春、新しい商業施設がお目見えする。運営は同じくパルコで、地下1階から地上2階、わずか3フロアの「HAB@(ハブアット)」。延べ床面積は3424m2に飲食や雑貨、地元企業の新業態が20店入居する。テナントの詳細はこれから発表されるようだが、地下1階に雑貨やサービス店、1階にカフェや食、生活用品、2階に地元や福岡の企業やオーナーが運営するレストランという構成になるという。

 また、2階には福岡市の「ローカルデベロップメントラボ」が九州産の食材を使って焼き上げたパンをメーンに打ち出す地域共生型店も出店する。再開発ビル(仮称:下通GATEプロジェクトビル)自体は11階建てで、3階から最上階には星野リゾートが運営するホテルの入居も決定。低層階にeスポーツや医療機関が出店する話が出てきていないところを見ると、地元市場の現状を鑑みた内容に落ち着いたようだ。

 ところで、各地で進む再開発事業は大都市と地方都市で地域の特性や商圏人口、テナントの出店戦略などが絡み、二極化している。東京のような大都市では膨大な人口集積と集客力を背景に、ラグジュアリーブランドから国内のアパレルや雑貨、プチプラの新業態までが十分に成り立つ市場がある。そのため、大規模な投資をした開発、多面的な商業集積、初物づくしのテナントリーシングが十分可能だ。

 地方都市は高齢化、人口減少でアパレル含め商業の衰退が否めない。地元百貨店と商店街中心の構図では立ち行かないから再開発は必要なのだが、どのような計画がベストかの判断は難しい。熊本の場合も同様だ。活性化の起爆剤として、2017年に都市型SCの「ココサ」、2019年に複合施設の「サクラマチ クマモト」、2021年に駅ビルの「アミュプラザくまもと」が開業した。だが、どれも商業地図を塗り変えるほどの成果を発揮できていない。



 これらの施設ではすでに撤退したテナント、中心商店街から移転した店舗があるなど、広がらない商圏で共食いし、同質化競合も懸念される。一例をあげると、セレクトショップのビームスは、サクラマチ クマモトの開業で「ビーイングライフストアbyビームス」を出店。そして、アミュプラザくまもとへのビームス業態の出店により、中心繁華街で展開していた路面店を閉店した。市場的に同業態の2店舗体制は厳しかったわけだ。これは他社にも共通する。

 一方、商業施設側は集客力を上げるために人気ブランドを1店舗でも多く誘致したい。ビームスに対してアミュプラザくまもとが開業する前に、サクラマチ クマモトから「業態を変えても店を出してほしい」とのオファーがあったとすれば、出店決断の説明もつく。もちろん、アミュプラザもビームスには出店要請したと思う。最後はビームス側が拡大しない市場で食い合いしてもしょうがないこと、加えてランニングコストなどの総合的な判断で「ビルイン」を選択したのではないかと思われる。

 ビームスの路面店跡には今年10月、古着店の「JAM」がオープンした。若者を中心に古着人気が高まっているのは全国的な傾向で、地方都市でも若者が買い物に出かける中心部では求められるテナント像が固まってきたと言える。デベロッパーはこれまで大型商業施設を開発し、「〇〇初出店」「〇〇初上陸」などのテナントを誘致すれば、地方都市でも商圏が広がり大量集客を果たせるとの目論見だったと思う。



 しかし、そうしたビジネスモデルに市場の方がはっきりノーと言い始めたようだ。パルコが熊本でハブアットを開発するのも、地方都市におけるファッション市場の縮小、広がらない商圏の中で最適化した器=ビジネスモデルとは何かを熟考した結果だろう。今後、ハブアットは商業開発のあり方、切り札とは何かを占うことになる。

 もっとも、老弱男女を問わず、お客が中心市街地に出かけた時、「少し贅沢にお茶や食事を楽しもう」「美味しいものを買って帰ろう」との消費意欲は無くなってはいない。人間は新たな服は買わなくても済むが、飲み食い無しでは生きられないからだ。それにプラスしてアパレルを1点でも買ってもらうよう街全体での仕掛けが必要だ。各個店も新しい発想や視点を持ち、個性的なMDや売り方、客対応などでお客さんを呼び込むことが求められる。


福岡の再開発は土地運用とビル開発が主体

 福岡パルコはどうか。先々月、同社は2010年に開業した本館と14年に新築した新館を、26年にも解体し立て替えると発表したが、その計画がより具体性を帯びてきた。11月30日、同社は西日本鉄道、三井住友銀行など5社と共同で、福岡天神地区を再開発すると表明。コンテンツとなるパルコ、新天町商店街商業共同組合、西鉄などが同日、天神ビッグバンの規制緩和を受けるための計画概要を福岡市に提出した。



 福岡パルコ両館と、パルコ本館裏手の西鉄福岡駅ビル(フロアをパルコに賃貸)、新館に隣接する新天町ビル、西側の商店街を一緒に再開発することで、容積率の特典を受けて再開発ビルを高層化するものだ。具体的にはパルコや福岡駅ビルを東街区、新天町の商店街を西街区として敷地を一体化する予定という。敷地面積は東街区が7900m2、西街区が5900m2というから、パルコ本新館と新天町ビルが東街区、からくり時計のある新天町サンドーム西側一帯の新天町商店街が西街区になると見られる。



 福岡市は再開発イメージを公表しているが、実際の規模などは今後詰められる。福岡パルコと対面する新福ビルが19階建てで建設されているのを見れば、おそらく同程度の規模になるのではないか。新ビルや福岡への期待から新ブランドや新業態が進出しても、買い物客の回遊からして商業施設は東街区で地下2階、地上8階(パルコのテナントや新規出店)、西街区で地下2階、地上4階程度(新天町の個店を含む)だろう。残りのフロアはオフィスやホテルで埋め、階上に「渋谷スカイ」や「ガーデンステージ」とのような施設を加えるのが妥当な線だ。

 福岡天神では、旧福ビルと一緒に天神コアや天神ビブレが解体され、天神イムズ、ミーナ天神も閉館している。同時に4つの都市型SCが営業を停止するのは、これまでにはなかった状況だ。営業中のソラリアステージやソラリアプラザ、天神ヴィオロ、天神地下街、さらに百貨店の岩田屋、福岡三越、福岡大丸は目下、解体され閉館した4SCの受け皿になっている。それには福岡パルコも含まれるし、新天町も多少のおこぼれに預かっていると思う。

 今後、パルコや新天町が解体工事で営業を停止すれば、企業グループ全体の売上げや各個店の経営に影響を及ぼす。そのため、パルコや新天町は代替出店の場所を探し、テナントや店舗の営業を継続していくと思う。ただ、新天町の個店がバラバラに移転すれば、固定客にとっては買い回りが難しくなる。まとまって移転するにも、場所の確保や資金面での問題が懸念される。こうした引受先をどうするかについても、早急に考えなければならない。



 福岡パルコに入居する人気テナントは、どのSCも欲しいだろう。解体工事中は同じJフロントリテイリング傘下の福岡大丸にテナントが移転するとの話もある。だが、売場スペースを考えると、別館のエルガーラを加えてもすべてのテナントを受け入れるのは困難だ。さらにテナントによっては百貨店と合わないものがあるし、12月10日にパルコに出店した「デザートスノー」のような「古着店」を福岡大丸が常設で受け入れるとは考えにくい。

 福岡駅ビルは西鉄の所有で福岡パルコにフロアを賃貸しているが、パルコ側が競合するソラリアステージやソラリアプラザにテナントを移転させるだろうか。天神ヴィオロではJR九州が11月から「プロパティマネジメント(オーナーに代わって不動産価値を向上させる管理・運営)」業務を受託している。駅ビルの運営ではパルコのコンサルティングを受けただけに、JR九州は秋波を送っているのか。どちらにしても、これから人気テナントの争奪戦が厳しさを増すのは間違いない。

 一方、お客の間では相次ぐSCの営業停止により、SNSなどでは「買い物をするところがなくなる」との懸念がつぶやかれている。実店舗でのリアルな接客や馴染みのスタッフとの会話に慣れ、現物の商品を見て購入してきた固定客は、オンラインショップだけでは満足いかないようだ。ビジネスは勝つか負けるかの戦い。情緒的なことを言っても仕方ない。だが、買い物ができなくなるというお客の声を無視すれば、それはそれで損失につながる。

 福岡天神は三度の流通戦争を経て店舗数、マーケット、商圏を拡大した。それが天神ビッグバンと大規模再開発による相次ぐSCの閉館で、一時的な残存者利益の奪い合いが起きようとしている。福岡市は人口が160万人を突破し、今なお増え続けている。これは地方都市で他に例を見ない現象だ。商業施設が次々と建て替えられても、アパレル市場はしばらくは拡大を続けるだろうが、商圏拡大については周辺が高齢化しているので限定的と思われる。

 福岡市がより成長していくのは誇らしいが、それが土地運用やビル開発主体で、商業や個店が置き去りにされるようでは、魅力ある街づくりとは言えないのかもれない。

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